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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23Q
管理番号 1222486
審判番号 不服2008-12399  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-15 
確定日 2010-08-26 
事件の表示 平成11年特許願第171385号「光学式倣い研削盤による研削方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月 9日出願公開、特開2001- 1232〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成11年6月17日の特許出願であって、同19年11月20日付けで拒絶の理由が通知され、同20年1月22日に手続補正がなされ、同年4月8日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、同年5月15日に本件審判の請求がなされ、同年6月13日に手続補正がなされ、当審において同21年11月26日付けで拒絶理由が通知され、同22年1月25日に手続補正がなされ、同年2月15日付けで拒絶理由が通知され、同年4月16日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年4月16日に補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。

「投影機上のチャート紙に沿って、投影機に映し出された砥石車の像を移動させて加工物の荒取り加工後の最終形状を教示して研削加工を行う光学式倣い研削盤による研削加工方法において、前記投影機上のチャート紙を見ながら前記投影機に映し出された砥石車の像を移動させ、砥石車の移動経路を教示してティーチングプレイバック方式により前記チャート紙に沿って、前記荒取り加工後の最終形状の加工を行うNCプログラム文を作成した後、前記投影機上において映し出された荒取り加工前の加工物の荒取り加工を行うに当たり、前記荒取り加工前の加工物に沿って砥石車の像を移動させて荒取り加工前の加工物を内部に含むように、前記砥石車の荒取り加工用の研削送り領域と研削を行わない早送り領域との境を示すX軸方向の直線及びY軸方向の直線で示されるラピッドラインの登録を行い、前記砥石車による荒取り加工が、トラバース移動の繰り返しによる加工の場合には、Y軸方向のピッチ間隔を、プランジによる切込み方向加工の場合にはX軸方向のピッチ間隔を入力した後、NC装置が前記形状登録データ、ラピッドラインデータ、切込み方向および切込み位置のピッチ間隔データに基づいて荒取り加工プログラムのNCプログラムを作成し、この荒取り加工プログラムに従って前記加工物の荒取り加工の研削加工を行うことを特徴とする光学式倣い研削盤による研削方法。」

3.刊行物記載の発明
(1)刊行物1
これに対し、本願出願前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由に引用された特開昭63-22261号公報(以下「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.第1ページ右下欄第17行?第2ページ左上欄第8行
「本発明は光倣い研削盤の自動化方法に関わり、更に詳細には、光倣い研削盤によって外面に曲線を含む凹凸を研削するにあたり、所望の形状の変化点位置を実際に、スクリーン上にはりつけた素材の同倍率拡大図形に手動によって砥石車の先端部を位置させるか、或いは素材を研削して位置させ、その位置の座標を制御装置に記憶させ、上記各形状変化点間の加工速度、加工順序、及び直線補間によるか曲線補間によるかをも記憶させ、或いはテープ化しておくことで、爾後の加工を完全に自動化する光倣い研削盤の自動化方法に関するものである。」

イ.第3ページ左上欄第16行?第4ページ右上欄第20行
「第4図は、本発明の方法を説明する図であって、図によってその方法の1例を具体的に説明する。
初めに、投影器のスクリーン43上に、被加工物の拡大率に相応する原図55を貼りつける。第4図は原図55と被加工物の撮像を使用する場合とをいっしょに記載してあって、原図55の加工面に斜線を附した部分だけ大きな撮像を原図とともに被加工物を投影して情報を用意する場合に用いられるが、情報を作る過程は、被加工物が輪郭線の変化する位置で研削されてしまうという点を除けば同じであるからまとめて説明する。まづ、操作盤3を操作し、X軸手動ハンドル27、Y軸手動ハンドル29を手動で回動して、スクリーン上の原図55の正面に離れて砥石車9の先端を位置させる。図には砥石車9の先端だけを拡大して示してあり、砥石車先端アールの曲率中心を十字形で示してある。砥石車の先端部が上記の位置に位置を占めた時AのX軸、Y軸座標値を座標原点として記憶装置に登録する。
次に移動速度として早送りを入力しておいて、手動で砥石車先端アール部が、原図の左方向に大きく直線で延びている部分の砥石車側延長線と接する位置Bまで専らY軸方向にだけ移動し、X軸、Y軸座標値を登録する。この場合砥石車9は手動によって実際にAからBまで移動しているので、B点の座標値は光倣い研削盤1の備えた制御盤45に表示されたX軸、Y軸座標値から、A点(原点)座標値を加減した値が登録される。
次にB点からC点までの研削移動速度を入力する。次いで砥石車先端を手動送りで任意の経路を移動させ、上記直線部が円弧移動に切り換るC点に合わせ、C点のX軸、Y軸座標値を登録する。
・・・。
今上記した研削プログラムを取り出して整理すると、加工指令は次のように記録されている。
1)砥石車先端は、原点Aに位置せよ。
2)砥石車先端は、B点まで早送りで移動せよ。
3)砥石車先端は、C点まで切削送りで移動せよ。
4)砥石車先端は、D点までR1円弧の円弧補間で移動せよ。
5)砥石車先端は、E点まで直線補間にもどって移動せよ。
6)砥石車先端は、F点まで早送りで移動せよ
7)砥石車先端は、G点まで移動せよ。
8)砥石車先端は、H点まで切削送りで移動せよ。
9)砥石車先端は、I点まで曲率半径R2の円弧補間で移動せよ。
10)砥石車先端は、J点まで直線補間にもどって移動せよ。
11)砥石車先端は、K点まで早送りで移動せよ。
12)砥石車先端は、原点Aまで復帰せよ。
ということになる。
このようにして、1サイクルの加工情報はすべて記憶されたのであるから、同じ加工を行うにあたって、プログラム番号で上記加工1サイクルのプログラムを呼び出し、全自動で正確な研削作業が可能となり、実加工中は光倣い機構を使用しないため湿式研削が許される効果が得られたのである。」

ここで、刊行物1記載のものは、手動により1サイクルの加工情報を記憶し、その1サイクルのプログラムにより加工を行うものであるから、「ティーチングプレイバック方式」である。

上記事項を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、上記刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「投影器のスクリーン43上の原図55に沿って、投影器のスクリーン43に映し出された砥石車の像を移動させて加工物の形状を教示して研削加工を行う光倣い研削盤による研削加工方法において、前記投影器のスクリーン43上の原図55を見ながら前記投影器のスクリーン43に映し出された砥石車の像を移動させ、砥石車の1サイクルの加工情報を教示してティーチングプレイバック方式により前記原図55に沿って、前記形状の加工を行う1サイクルのプログラムを作成した後、前記投影器のスクリーン43上において映し出された加工前の加工物の加工を行う光倣い研削盤による研削方法。」

(2)刊行物2
同じく、当審で通知した拒絶理由に引用された特開平7-121221号公報(以下「刊行物2」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0001
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、例えば、大型かつ複雑形状の鍛造用金型や鋳造用金型等をカッタにて切削形成する際に用いるような加工機における工具送り制御方法に関する。」

イ.段落0003?0005
「【0003】このような工具移動時の工具とワークとの干渉を回避する方法としては、例えば、それぞれの工具移動経路(ピックフィード)に対するワークの断面形状を加工図面等から読取り、ワークに干渉しないように、かつ加工効率の良好な高さを手動入力によって設定する方法が考えられるが、この場合には、移動経路が多く、しかも加工図面からの読取りに多大な時間を要するうえ、誤設定の恐れがあるため、工具およびワークの損傷を招き、実用上有効ではない。
【0004】このため、従来においては図5に示すような工具送り制御方法がとられている。すなわち、予め加工図面からワーク51における全加工範囲の最大高さ(干渉を回避し得る最大の高さ)を読取り、この最大高さとしてのセットポイント52から工具を第1加工面53に下降させ所定の工具切削経路(カッタパス)54に沿って、ワーク51の第1加工面53を加工した後に、一旦、上述のセットポイント52と同一高さの位置まで工具を上昇回避させ、次に該工具を第2加工面55と対向する上方位置へ横移動させた後に、この工具を第2加工面55に下降させ所定の工具切削経路(カッタパス)56に沿って、ワーク51の第2加工面55を加工する方法である。
【0005】この従来方法によれば、各加工面間の全てのピックフィード57を最大高さまで上昇回避させるので、工具とワーク51との干渉を回避することができる利点がある反面、工具切削経路54,56間の工具移動経路57(空切削時のピックフィード)の高さが全て工作物干渉回避高さとしてのセットポイント52と同一高さとなる関係上、空切削距離が大幅に増大して、加工時間が長くなる問題点があった。」

ここで、段落0005の「工具移動経路57(空切削時のピックフィード)の高さが全て工作物干渉回避高さとしてのセットポイント52と同一高さとなる関係上、空切削距離が大幅に増大」なる記載から、セットポイント52からワーク51に向けての経路は、切削送りであると認められる。

上記事項を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ整理すると、刊行物2には、以下の事項(以下「刊行物2事項」という。)が記載されていると認める。

「加工図面からワーク51における全加工範囲の干渉を回避し得る最大の高さを読取り、この最大高さとしてのセットポイント52から工具を第1加工面53に切削送りで下降させ所定の工具切削経路54に沿って、ワーク51の第1加工面53を加工した後に、一旦、上述のセットポイント52と同一高さの位置まで工具を上昇回避させ、次に該工具を第2加工面55と対向する上方位置へ横移動させた後に、この工具を第2加工面55に切削送りで下降させ所定の工具切削経路56に沿って、ワーク51の第2加工面55を加工する方法。」

4.対比・判断
刊行物1発明の「投影器のスクリーン43」は本願発明の「投影機」に相当し、同様に、「原図55」は「チャート紙」に、「光倣い研削盤」は「光学式倣い研削盤」に、「1サイクルの加工情報」は「移動経路」に、「1サイクルのプログラム」は「NCプログラム文」に、それぞれ相当する。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致する。
「投影機上のチャート紙に沿って、投影機に映し出された砥石車の像を移動させて加工物の形状を教示して研削加工を行う光学式倣い研削盤による研削加工方法において、前記投影機上のチャート紙を見ながら前記投影機に映し出された砥石車の像を移動させ、砥石車の移動経路を教示してティーチングプレイバック方式により前記チャート紙に沿って、前記加工後の形状の加工を行うNCプログラム文を作成した後、前記投影機上において映し出された加工前の加工物の加工を行う光学式倣い研削盤による研削方法。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:加工について、本願発明は、「荒取り加工」を行うにあたり「最終形状」を教示するものであるが、刊行物1発明は、「加工形状を教示」するものである点。
相違点2:本願発明は、「荒取り加工前の加工物に沿って砥石車の像を移動させて荒取り加工前の加工物を内部に含むように、前記砥石車の荒取り加工用の研削送り領域と研削を行わない早送り領域との境を示すX軸方向の直線及びY軸方向の直線で示されるラピッドラインの登録を行い、前記砥石車による荒取り加工が、トラバース移動の繰り返しによる加工の場合には、Y軸方向のピッチ間隔を、プランジによる切込み方向加工の場合にはX軸方向のピッチ間隔を入力した後、NC装置が前記形状登録データ、ラピッドラインデータ、切込み方向および切込み位置のピッチ間隔データに基づいて荒取り加工プログラムのNCプログラムを作成し、この荒取り加工プログラムに従って前記加工物の荒取り加工の研削加工を行う」ものであるが、刊行物1発明は、そのようなものではない点。

相違点1について検討する。
荒加工と仕上げ加工のように段階的に加工を行うことは、特開平8-90408号公報の段落0002にみられるごとく周知であり、その際に「最終形状」が必要であることは明らかである。
したがって、刊行物1発明を「荒取り加工」に適用することは、設計的事項にすぎず、相違点1は格別なものではない。

相違点2について検討する。
本願発明が「荒取り加工」である点については、相違点1として検討したとおりである。
刊行物1発明同様、工具移動経路の設定に関する技術である刊行物2事項は、上記のとおりであり、「加工図面からワーク51における全加工範囲の干渉を回避し得る最大の高さを読取り、この最大高さとしてのセットポイント52」を定め、このセットポイント52のワーク51側の移動経路を「切削送り」としている。
工具移動経路の設定に関する技術においては、研削加工と切削加工は、同様であるから、刊行物2事項を本願発明に照らし整理すると、刊行物2事項は、同一高さの複数の点を設定しているから、仮想的な直線とみることができ、「加工用の送り領域と加工を行わない早送り領域との境を示す直線で示されるラピッドラインの登録」を行うことに相当する。
ところで、研削加工においては、X軸方向、Y軸方向の移動を含む「トラバース移動の繰り返しによる加工」、「プランジによる切込み方向加工」、いずれも特開平8-90408号公報の段落0002、特開昭60-114454号公報の特許請求の範囲、特開昭63-28569号公報の従来の技術、特開平6-270044号公報の要約にみられるごとく周知であり、加工形状等に応じて適宜選択されている。
その際、切込み方向および切込み位置のピッチ間隔を定めることは、特開平10-138134号公報の図2,図3にみられるごとく当然必要なものである。
刊行物2事項における「セットポイント52の設定」、すなわち「ラピッドラインの登録」は、高さ方向のみであるが、かかる技術思想を刊行物1発明に適用するにあたっては、上記のとおり、刊行物1発明において周知技術を踏まえると、X軸方向、Y軸方向の移動がともにありうることから、刊行物2事項をX軸方向、Y軸方向の両方向に適用することに困難性は認められない。
その結果、刊行物2事項を適用した刊行物1発明は、「形状登録データ、ラピッドラインデータ、切込み方向および切込み位置のピッチ間隔データ」に基づいてNCプログラムを作成し、この加工プログラムに従って加工を行うこととなるから、相違点2は、格別なものではない。
請求人は、意見書で「ラピッドラインの登録が直線で行われる」ことによる意義を主張するが、上記のとおり、刊行物2事項の「最大高さとしてのセットポイント52」は、同一高さの複数の点があるから、「ラピッドラインの登録が直線で行われる」ものと、技術的意義に実質的な差違はない。

また、両相違点を総合勘案しても、格別の技術的意義が生じるとは認められない。

5.むすび
本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-24 
結審通知日 2010-06-29 
審決日 2010-07-12 
出願番号 特願平11-171385
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 健  
特許庁審判長 豊原 邦雄
特許庁審判官 遠藤 秀明
千葉 成就
発明の名称 光学式倣い研削盤による研削方法  
代理人 三好 秀和  

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