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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1222492
審判番号 不服2008-19326  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-30 
確定日 2010-08-26 
事件の表示 特願2003-356866「ろう付け方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月12日出願公開、特開2005-118826〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成15年10月16日の特許出願であって、その請求項1に係る発明は、平成20年7月30日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書、出願当初の図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明は、次のとおりである。(以下「本願発明」という。)
「銅あるいは銅合金から成る熱交換器(100)用の波形のフィン(111)および扁平状のチューブ(112)のうち前記チューブ(112)に、Cu-Sn-Ni-Pから成るペースト状のろう材(10)を予め塗布して、
前記フィン(111)および前記チューブ(112)を交互に積層して、
還元性雰囲気炉内で600?800℃に加熱して、
前記ろう材(10)によって前記フィン(111)および前記チューブ(112)同士をろう付けするろう付け方法であって、
前記ろう材(10)を塗布する際に、
前記チューブ(112)の前記フィン(111)が当接する側の面を対象として、前記当接する側の面の幅方向における両端部を除いて、前記チューブ(112)の長手方向に線状に前記ろう材(10)を複数本塗布し、
前記チューブ(112)の前記フィン(111)が当接する当接部のうち、複数本の前記ろう材(10)の間および前記両端部において、前記チューブ(112)の母材が露出するようにし、
前記還元性雰囲気炉内で加熱する際に、
前記ろう材(10)中の前記Pあるいは前記還元性雰囲気によって、前記母材が露出する部位の酸化皮膜を除去し、
前記当接部の廻りから溶融した前記ろう材(10)を、前記当接部に毛管現象により流し、ろう付けすることを特徴とするろう付け方法。」

2 各引用刊行物記載の発明・事項
これに対して、当審での平成22年2月5日付けの拒絶の理由に引用された、本件出願前である平成15年1月8日に頒布された特開2003-1409号公報(以下「引用例1」という。)、同じく本件出願前である平成10年8月4日に頒布された特開平10-202391号公報(以下「引用例2」という。)、同じく本件出願前である平成6年10月25日に頒布された特開平6-297136号公報(以下「引用例3」という。)には、それぞれ、以下の発明が記載されている。
(1) 引用例1
ア 段落【0001】
「【発明の属する技術分野】この発明は、例えば自動車用、家庭用、業務用のエアコンにおける凝縮器、蒸発器の他、ラジエータ等に好適に使用されるアルミニウム(その合金も含む、以下同じ)製の熱交換器の製造方法、及びその製造方法に採用されるろう箔付き熱交換チューブ、並びにろう箔付き熱交換チューブの製造方法及び製造装置に関する。」
イ 段落【0033】?【0036】
「すなわち、この熱交換器は、平行に配置された垂直方向に沿う左右一対のヘッダー(1)(1)間に、熱交換管路としての多数本の水平方向に沿う多数本の偏平な熱交換チューブ(2)が、各両端を両ヘッダー(1)(1)に連通接続した状態で、上下方向に沿って並列に配置されるとともに、これらの熱交換チューブ(2)の各間及び最外側の熱交換チューブの外側にコルゲートフィン(3)が配置され、更に最外側の熱交換コルゲートフィン(3)の外側にサイドプレート(4)が配置されている。
熱交換チューブ(2)は、アルミニウムの中空押出製品からなり、幅方向に連続して延びる仕切壁(2a)によって内部が複数本(4本)の冷媒流路(2b)に区分けされている。更に熱交換チューブ(2)の上下の平坦面には、ホットメルト接着剤(10)を介して、Al-Si、Al-Si-Zn等の組成のアルミニウム系合金箔からなるろう箔(20)が接着されている。
また、コルゲートフィン(3)は、ろう材がクラッドされていないアルミニウムのベア材により構成されている。
そして上記したように、熱交換チューブ(2)と、コルゲートフィン(3)とが、交互に積層されてコア形態に仮組みされた状態で、炉中にて加熱されて、チューブ(2)とフィン(3)とがろう箔(20)を介して接合一体化されている。」
ウ 段落【0052】
「ろう箔(20)の幅(f)は、ろう付けのみの目的で使用する場合(ろう箔組成がAl-Siのものの場合)には、ろう付け時の毛細管現象によってチューブ(2)とフィン(3)との接触部に効率良くろう材が回り込むため、チューブ(2)と必ずしも同幅に設定することなく、チューブ幅(W)よりも小さく設定してもよい。具体的には、ろう箔(20)の幅(f)は、チューブ幅(W)の1/4以上(25%以上)に設定すれば、十分にろう付け処理を行うことができる。」
エ 段落【0065】
「上記のように得られたろう箔付き熱交換チューブ(2)を、所定の長さに切断し、そのチューブ(2)と、同じ幅及同じ長さのアルミ合金(A3203)ベア材からなる厚さ0.07mmのコルゲートフィンとを交互に積層して熱交換器コアを形成し、そのコアに、ヘッダー、サイドプレートを必要に応じてろう箔を介して組み合わせるとともに、フラックスを塗布した後、窒素雰囲気炉中にて加熱して、ろう付け処理を行い、熱交換器全体を連結一体化して、熱交換器を製作した。」
以上ア乃至エの記載事項から、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「アルミニウムあるいはアルミニウム合金から成る熱交換器用のコルゲートフィン(3)および前記扁平状の熱交換チューブ(2)のうち前記熱交換チューブ(2)に、Al-Si-Znから成るろう箔(20)をホットメルト接着剤(10)を介して接着して、
前記コルゲートフィン(3)および熱交換チューブ(2)を交互に積層して、
フラックスを塗布した後、窒素雰囲気炉中で加熱して、
前記ろう箔(20)によって前記コルゲートフィン(3)および前記熱交換チューブ(2)同士をろう付けするろう付け方法であって、
前記コルゲートフィン(3)はベア材からなるものであり、
前記窒素雰囲気炉中で加熱する際に、
溶融した前記ろう箔(20)を、前記コルゲートフィン(3)および前記熱交換チューブ(2)との接触部による毛細管現象により回り込ませ、ろう付けするろう付け方法。」(以下、「引用発明1」という。)
(2) 引用例2
ア 段落【0001】?【0002】
「【発明の属する技術分野】本発明は、銅または銅合金のろう付け方法に係り、特に、粉末状またはペースト状のろう材を用いた銅または銅合金のろう付け方法に関するものである。
【従来の技術】一般に、銅及び/又は銅合金の接合には、溶接、拡散接合、ろう付け、はんだ付けなどが用いられており、中でもろう付けは、特に、電気機器部品、配管、熱交換器などに幅広く用いられている。」
イ 段落【0004】?【0005】
「ろう付け法には、
丸1(当審注:丸付き数字を以下「丸1」等と表す。以下同じ。) ろう材を加熱して接合部に溶かし込んでいく方法、
丸2 予め、ろう付け接合部にリング状または帯状のろう材を配置しておき、その後、加熱することによってろう材を溶融させ、ろう付け接合部を接合する方法、
丸3 ろう材を積層したブレージングシートを用いる方法、などが挙げられる。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、銅及び/又は銅合金のろう付けにおいて、熱交換器、配管回路などのように極めて接合部の多い機器を接合する際、丸1の方法である“置きろう”を用いる場合、多点同時ろう付けが困難であることから生産効率が良好でないばかりか、ろう付け後の部材の内部に歪みが残留するという問題があった。」
ウ 段落【0009】?【0010】
「そこで本発明は、上記課題を解決し、複雑形状を有する銅または銅合金のろう付けを、容易に、安価に、かつ、低温で行うことのできる銅または銅合金ろう付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために請求項1の発明は、化学組成がCu-(6?15)wt%Sn-(5?7)wt%Ni-(5?8)wt%Pで、かつ、粒度が200メッシュ以下の粉末ろう又はその混練物を、銅または銅合金からなるろう付け接合部に所定量塗布した後、590?800℃の温度で、30分以内の熱処理を施し、その後、冷却することによって上記ろう付け接合部を接合するものである。」
エ 段落【0022】
「本発明の銅または銅合金のろう付け方法は、先ず、化学組成がCu-(6?15)wt%Sn-(5?7)wt%Ni-(5?8)wt%Pとなるように調整した金属合金溶湯を用い、任意の方法で粒度が200メッシュ以下の粉末ろう1を作製する。」
オ 段落【0024】?【0026】
「次に、この粉末ろう1又は粉末ろう1と有機バインダ15の混練物からなる粉末ろう混練物(その混練物)16を、図1(a)および図2(a)に示すように、銅または銅合金からなる銅母材(ろう付け接合部)2,12および銅接合部材(ろう付け接合部)3,13における銅母材2,12の表面に所定量塗布する。
粉末ろう1および粉末ろう混練物16の塗布方法としては特に限定するものではなく、種々の塗装・塗布方法が使用できる。
その後、ろう付け接合を行う部分のみ又は銅母材2,12および銅接合部材3,13の全体に対して590?800℃、30分以内の熱処理を施す。その後、図1(b)および図2(b)に示すように、冷却して粉末ろう1又は粉末ろう混練物16を接合合金相4,14とし、銅母材2,12と銅接合部材3,13を接合するものである。」
カ 段落【0027】
「熱処理雰囲気は、熱処理の際に粉末ろう1の成分であるCu、Sn、Ni、Pを酸化してしまう酸化性雰囲気以外であれば特に限定するものではなく、例えば、還元性雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空などが挙げられる。」
以上ア乃至カの記載事項から、引用例2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「銅あるいは銅合金から成る熱交換器の銅母材表面に、Cu-(6?15)wt%Sn-(5?7)wt%Ni-(5?8)wt%Pから成る粉末ろう混練物を塗布して、その後、還元性雰囲気で、590?800℃に加熱してろう付けするろう付け方法。」(以下、「引用発明2」という。)
(3) 引用例3
ア 段落【0001】
「【産業上の利用分野】この発明は、チューブ間にコルゲート状のフィンを挿入して、チューブとフィンとをろう付けする熱交換器のろう付け構造に関するものである。」
イ 段落【0012】?【0013】
「チューブ4は、A1050のアルミ材を押出し成形して偏平状に形成されているもので、図2及び図3に示されるように、内部に複数の流路10が形成されている。このチューブ4は、それ自体にろう材は塗布されておらず、この実施例では、厚みが約2mm、巾が約18mmに形成されている。
また、フィン5は、A3003のアルミ材をコルゲート状にしたもので、平面部5aと折れ曲がる頂部5bとを順次連ねて成り、平面部5aには、フィン5を成形する際に同時に切り起こされたルーバ11が形成されている。このフィン5も、それ自体にろう材は塗布されておらず、・・・」
ウ 段落【0014】?【0015】
「フィン5の頂部5bには、ろう材12を嵌め込むための嵌合溝13が形成され、この嵌合溝13にろう材12が嵌め込まれている。ここで、ろう材12は、シリコンを含有したアルミ合金である例えばA4045を直径1mmの細紐状に成形したものであっても、厚さ50ミクロン程度の薄膜状に成形したものであってもよい。尚、ろう材12として用いられるA4045の融点は、A3003およびA1050の融点より低い。
先ず、ろう材12が細紐状のものである場合を説明すると、このろう材12に対する嵌合溝13は、ろう材12の径より若干大きい巾を有する凹部で構成してもよい。この凹部は、図4にも示されるように、フィンの頂部を抜き取ることなく凹ませてろう材12と当接する平坦状の当接部13aを有しているもので、ろう材12が嵌め付けられた状態において、ろう材自体が頂部5bよりもわずかに突出するよう頂部5bから当接部13aまでの距離が設定されている。このように、ろう材12を若干頂部5bから突出させるのは、ろう材12を嵌合溝13に完全に収納させてしまうとろう付け不良の恐れがあるので、これを防ぐためである。」
エ 段落【0017】
「上記構成において、熱交換器1を組み付けてろう付けするには、ヘッダタンク間にチューブ4を取り付け、フィン5の嵌合溝13にろう材12を嵌め込み、チューブ間にこのろう材12を付設したフィン5を挿入する。この時点において、ろう材12は嵌合溝13によって位置決めされるので、組み付け工程においてろう材12がずれてしまうことがなく、また、ろう材12がフィン5の頂部5bから若干突出しているので、チューブ4とフィン5とは、この突出したわずかな隙間を残して突き合わされる。そして、組み付けられた熱交換器1をろう材12の融点よりわずかに高い炉中に入れれば、ろう材12が溶融してチューブ4とフィン5の頂部5bとが接触し、溶融ろう15は、その接触部分の周囲およびチューブ4と当接部13aとの間に流れ込み(斜線部で示す)、フィレットを形成する。」
オ ここで、図面の図2を参照すると、3本のろう材12が、チューブ4の長手方向に設けられているのが見て取れる。そして、チューブ4のフィン5が当接する当接部のうち、当該3本のろう材12の間および幅方向の両端部においては、チューブ4の母材が露出していることは明らかである。
以上ア乃至エの記載事項、及びオの認定事項から、引用例3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「熱交換器1のフィン5およびチューブ4をろう付けするろう付け方法であって、
チューブ4のフィン5が当接する側の面を対象として、当接する側の面の幅方向における両端部を除いて、前記チューブ4の長手方向に細紐状のろう材12を3本設けるとともにフィン5の頂部5bには平坦状の当接部13aを設けることによりろう材12を嵌め込むための嵌合溝13を形成し、
前記チューブ4のフィン5が当接する当接部のうち、3本の前記ろう材12の間および前記両端部において、チューブ4の母材が露出するようにし、
組み付けられた熱交換器1を炉中に入れ、ろう材12が溶融してチューブ4とフィン5の頂部5bとが接触し、溶融ろう15がチューブ4と当接部13aの間に流れ込み、フィレットを形成するろう付け方法。」(以下、「引用発明3」という。)

3 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「熱交換器用のコルゲートフィン(3)」、「扁平状の熱交換チューブ(2)」、「ろう箔(10)」、「炉中」は、それぞれ、本願発明の「波形のフィン」、「扁平状のチューブ」、「ろう材」、「炉内」に相当する。
引用発明1の「ろう箔(20)をホットメルト接着剤(10)を介して接着」することは、「ろう材を設ける」ことである限りにおいて、本願発明の「ペースト状のろう材を予め塗布」することと共通する。
ろう付けに用いられるフラックスは、接合面の酸化被膜を除去するものであるから、引用発明1の「フラックスを塗布した後、窒素雰囲気炉中にて加熱」することは、「母材が露出する部位の酸化被膜を除去」することであると言えることは明らかである。
引用発明1の「溶融したろう箔(20)を、コルゲートフィン(3)および熱交換チューブ(2)との接触部による毛細管現象により回り込ませ、ろう付けする」ことは、本願発明の「当接部の廻りから溶融したろう材を、前記当接部に毛管現象により流し、ろう付けする」ことに相当する。
以上の点から、両者は以下の点で一致し、また、以下の点で相違している。
<一致点>
「熱交換器用の波形のフィンおよび扁平状のチューブのうち前記チューブに、ろう材を設け、
前記フィンおよび前記チューブを交互に積層して、
炉内で加熱して、
前記ろう材によって前記フィンおよび前記チューブ同士をろう付けするろう付け方法であって、
前記炉内で加熱する際に、
母材が露出する部位の酸化被膜を除去し、
前記当接部の廻りから溶融したろう材を、前記当接部に毛管現象により流し、ろう付けするろう付け方法。」
<相違点1>
波形のフィン、扁平状のチューブおよびろう材の材料やろう付け温度に関して、本願発明では、波形のフィン及び扁平状のチューブの材料を「銅あるいは銅合金から成る」ものと特定し、ろう材の材料を「Cu-Sn-Ni-Pから成るペースト状のろう材」であると特定し、該ろう材を「予め塗布」することによりチューブに設け、炉内の加熱温度を「600?800℃」と特定しているのに対して、引用発明1では、熱交換器用のコルゲートフィン(3)および扁平状の熱交換チューブ(2)の材料をアルミニウムあるいはアルミニウム合金から成るものとし、ろう材の材料をAl-Si-Znから成るろう箔(20)とし、該ろう箔(20)をホットメルト接着剤(10)を介して接着することにより熱交換チューブ(2)設け、炉内の加熱温度については不明な点。
<相違点2>
ろう材をチューブに設けるに際し、本願発明では、「チューブのフィンが当接する側の面を対象として、前記当接する側の面の幅方向における両端部を除いて、前記チューブの長手方向に線状にろう材を複数本塗布し、前記チューブの前記フィンが当接する当接部のうち、複数本の前記ろう材の間および前記両端部において、前記チューブの母材が露出するようにし」ているのに対して、引用発明1では、熱交換チューブ(2)に、ろう箔(20)をホットメルト接着剤(10)を介して接着するものであって、特に線状にはしていない点。
<相違点3>
母材が露出する部位の酸化被膜の除去に際し、本願発明では、「還元性雰囲気炉」を用い、ろう材中のPあるいは還元性雰囲気により、行っているのに対して、引用発明1では、フラックスを塗布することにより行っている点。

4 当審の判断
上記相違点について検討する。
(1) <相違点1>について
引用発明2は、「銅あるいは銅合金から成る熱交換器の銅母材表面に、Cu-(6?15)wt%Sn-(5?7)wt%Ni-(5?8)wt%Pから成る粉末ろう混練物を塗布して、その後、還元性雰囲気で、590?800℃に加熱してろう付けするろう付け方法。」である。ここで、引用発明2の「粉末ろう混練物」が本願発明の「ペースト状のろう材」に相当するから、引用発明2は、「銅あるいは銅合金から成る熱交換器の銅母材表面に、Cu-Sn-Ni-Pから成るペースト状のろう材を予め塗布して、590?800℃に加熱してろう付けするろう付け方法。」と言い換えることができる。そして、引用発明1も引用発明2も熱交換器のろう付けに関する技術であることからすれば、引用発明1においても、熱交換器を銅あるいは銅合金からなるものとし、その結果、そのろう付けされる母材である熱交換器用のコルゲートフィン(3)および前記扁平状の熱交換チューブ(2)を銅あるいは銅合金からなるものとし、また、ろう材をCu-Sn-Ni-Pから成るペースト状のものとし、該熱交換チューブ(2)にペースト状のろう材を予め塗布し、590?800℃に加熱してろう付けすることは、当業者が容易になし得たものである。
なお、本願発明では、加熱温度を600?800℃と特定している点で、引用発明2に記載された加熱温度である590?800℃とするものと若干異なるが、ろう付け温度はろう材の材質に応じて上下するものであることからすれば、この点は単なる設計上の微差に過ぎない。
(2) <相違点2>について
引用発明3は、「熱交換器のフィンおよびチューブをろう付けするろう付け方法であって、
チューブのフィンが当接する側の面を対象として、当接する側の面の幅方向における両端部を除いて、前記チューブの長手方向にろう材を3本設け、
前記チューブのフィンが当接する当接部のうち、3本の前記ろう材の間および前記両端部において、チューブの母材が露出するようにする」発明である。また、2つの部材をろう付けする際に、ろう材を、一方の面の全面でなく、線状に設けることも、例えば、特開平10-249516号公報(段落【0021】及び図面の図9参照。)、特開平7-213919号公報(段落【0006】及び図面の図20参照。)に記載されているように、従来周知の事項である。さらに、引用例1においても、摘記事項ウに「ろう箔(20)の幅(f)は、チューブ幅(W)の1/4以上(25%以上)に設定すれば、十分にろう付け処理を行うことができる。」と記載されているように、ろう箔(20)をチューブ(2)の幅方向に部分的に設けることについて示唆されている。してみると、引用発明1においても、ろう箔(20)を設ける際に、熱交換チューブ(2)のコルゲートフィン(3)が当接する側の面を対象として、前記当接する側の面の幅方向における両端部を除いて、前記チューブ(3)の長手方向に線状にろう箔(20)を3本等の複数本塗布し、前記チューブ(3)の前記コルゲートフィン(3)が当接する当接部のうち、複数本の前記ろう箔(20)の間および前記両端部において、前記チューブ(2)の母材が露出するようにすることは当業者が容易になし得たものである。
なお、請求人は、平成22年4月9日付け意見書において、「即ち、引用例3(当審注:本審決においても引用例3。)に記載されたろう材の配置は、あくまでもろう材として置きろう材を用いることを前提とするものであり、引用例3の『置きろう式のろう付け』において用いられる置きろう材の配置を、本願発明において用いられるペーストろう材の塗布方法に適用することは不可能であり、引用例1、2(当審注:本審決においても引用例1、2。)に引用例3を組み合わせること自体、無理があり、引用例1?3の組み合わせによって、本願発明が拒絶されることなどあり得ないのです。
従って、引用例1、2の組み合わせからでは、『銅あるいは銅合金から成る熱交換器用の波形のフィンおよび扁平状のチューブのうちチューブに、Cu-Sn-Ni-Pから成るペースト状のろう材を予め塗布して、フィンおよびチューブを交互に積層して、還元性雰囲気炉内で600?800℃に加熱して、ろう材によってフィンおよびチューブ同士をろう付けするろう付け方法において、還元性雰囲気炉内で加熱する際に、ろう材中のPあるいは還元性雰囲気によって、母材が露出する部位の酸化皮膜を除去し、当接部の廻りから溶融したろう材を、当接部に毛管現象により流してろう付けする方法』になるに過ぎず、本願発明のように、『ろう材を塗布する際に、チューブのフィンが当接する側の面を対象として、当接する側の面の幅方向における両端部を除いて、チューブの長手方向に線状にろう材を複数本塗布し、チューブのフィンが当接する当接部のうち、複数本のろう材の間および両端部において、チューブの母材が露出するようにした』という技術的特徴を備える発明を容易に想到することなどできないのであります。」(II.の3.の(3)。)と主張している。
しかしながら、線状にろう材を複数本設けることは、引用例3のほか、特開平10-249516号公報や特開平7-213919号公報にも記載されているように従来周知の事項である上、引用例1にもろう材を部分的に設ける点についての示唆があることは上記したとおりであって、これらのことからすれば、引用発明1においても、線状にろう材を設けることに格別の困難性を有するものではない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(3) <相違点3>について
ろう付けする際に還元性雰囲気で加熱することは、引用発明2を例示するまでもなく従来周知の事項であることからすれば、引用発明1においても、フラックスを塗布した後、窒素雰囲気炉中で加熱することにより母材等の酸化被膜を除去することに代え、還元性雰囲気で加熱することにより行うようにすることは、当業者が容易になし得たものである。
(4)作用・効果について
作用ないし効果についても、引用発明1ないし3から予想し得る範囲のものでしかない。

5 むすび
したがって、本願発明は、引用例1ないし3に記載された各発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-25 
結審通知日 2010-06-29 
審決日 2010-07-12 
出願番号 特願2003-356866(P2003-356866)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野田 達志丹治 和幸  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 遠藤 秀明
菅澤 洋二
発明の名称 ろう付け方法  
代理人 矢作 和行  
代理人 野々部 泰平  

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