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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10H
管理番号 1222499
審判番号 不服2008-27171  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-24 
確定日 2010-08-26 
事件の表示 特願2004-336072「自動伴奏装置およびその制御方法を実現するためのプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 8日出願公開、特開2006-145855〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年11月19日の出願であって、平成19年3月15日付けの拒絶理由通知に対し、平成19年5月18日付けで手続補正がなされ、平成20年2月26日付けの拒絶理由通知に対し、平成20年5月12日付けで手続補正がなされ、平成20年6月16日付けの拒絶理由通知に対し、平成20年8月22日付けで手続補正がなされたが、平成20年9月16日付けでこの補正(平成20年8月22日付けの補正)は却下されるとともに、同日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年10月24日に審判請求がなされ、平成20年11月25日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成20年11月25日付けの手続補正について
1.補正の内容
上記手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「音色指定データおよび/または伴奏指定データを含む曲データを再生する再生手段と、
複数の電子楽器がそれぞれ記憶している複数の音色データおよび/または伴奏データの一覧情報を該各電子楽器に対応付けて記憶する記憶手段と、
複数の音色データであって、所定の規則に従って分類されて複数の音色データ群を形成するものおよび/または複数の伴奏データであって、所定の規則に従って分類されて複数の伴奏データ群を形成するものを記憶した外部電子楽器であって、該記憶された複数の音色データおよび/または伴奏データから選択された音色データおよび/または伴奏データに基づいて伴奏情報を生成する外部電子楽器を接続し、該外部電子楽器と情報の送受信を行う接続手段と、
該接続手段を介して、前記外部電子楽器の機器情報を取得する機器情報取得手段と、
該機器情報取得手段によって取得された機器情報に対応する一覧情報が、前記記憶手段に記憶されていなかった場合に、該一覧情報を、当該外部電子楽器を含む外部から取得する一覧情報取得手段と、
前記機器情報取得手段によって取得された機器情報に対応する一覧情報が前記記憶手段に記憶されている場合には、該一覧情報を前記記憶手段から読み出す一方、当該一覧情報が前記記憶手段に記憶されていなかった場合には、前記一覧情報取得手段によって取得された一覧情報を読み出す読み出し手段と、
該読み出し手段によって読み出された一覧情報内に、前記曲データに含まれる音色指定データおよび/または伴奏指定データにより指定される音色データおよび/または伴奏データが記載されているときには、当該音色データおよび/または伴奏データを自動的に選択する一方、前記一覧情報内に当該音色データおよび/または伴奏データが記載されていないときには、当該音色データおよび/または伴奏データが属する音色データ群および/または伴奏データ群に含まれる他の音色データおよび/または伴奏データを自動的に選択する選択手段と、
該選択手段によって選択された音色データおよび/または伴奏データを前記外部電子楽器に設定させるような制御情報を、前記接続手段を介して、前記外部電子楽器に送信する送信手段と、
前記曲データの伴奏情報を、前記設定された音色データおよび/または伴奏データに基づいて生成するように、前記外部電子楽器を制御する制御手段と
を有し、
前記記憶手段は、不揮発性の記憶手段であって、前記一覧情報取得手段によって取得された一覧情報を記憶することを特徴とする自動伴奏装置。」

2.補正の適否
上記補正後の請求項1は、補正前の(すなわち、平成20年5月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の)請求項1ないし5を削除して、請求項6の「選択手段」における「最も近い音色データおよび/または伴奏データ」を明確にするために、「音色データ」、「伴奏データ」を、それぞれ、「所定の規則に従って分類されて複数の音色データ群を形成するもの」、「所定の規則に従って分類されて複数の伴奏データ群を形成するもの」とし、前記選択手段を「該読み出し手段によって読み出された一覧情報内に、前記曲データに含まれる音色指定データおよび/または伴奏指定データにより指定される音色データおよび/または伴奏データが記載されているときには、当該音色データおよび/または伴奏データを自動的に選択する一方、前記一覧情報内に当該音色データおよび/または伴奏データが記載されていないときには、当該音色データおよび/または伴奏データが属する音色データ群および/または伴奏データ群に含まれる他の音色データおよび/または伴奏データを自動的に選択する選択手段」と補正するものであるから、この補正は、請求項の削除、及び、平成20年6月16日付け拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示した事項についてする明りようでない記載の釈明に該当する。
したがって、本件の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、平成18年改正前特許法という)第17条の2第4項第1号、第3号に規定された請求項の削除、明りようでない記載の釈明を目的とするものであり適法な補正である。

第3.本願発明について
1.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記「第2.1.」に記載した事項により特定されるとおりのものである。

2.刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-20929号公報(以下、「刊行物1」という)には、次のアないしキの事項が記載されている。
ア.「【請求項1】 音楽デバイスを接続する接続手段を有し、所定のアプリケーションを実行することで、前記接続手段により接続された音楽デバイスと連携した処理を実現する電子音楽装置であって、
前記接続手段により接続された音楽デバイスから該音楽デバイスの属性情報を認識する属性情報認識手段と、
前記属性情報認識手段により認識された属性情報に基づいて、前記所定のアプリケーションの機能を変更する機能変更手段とを有することを特徴とする電子音楽装置。」

イ.「【請求項3】 前記接続された音楽デバイスに指示を送信する指示送信手段を有し、前記機能変更手段による前記所定のアプリケーションの機能の変更は、前記指示送信手段により送信されるべき指示を前記接続された音楽デバイスが解釈可能なように生成することでなされることを特徴とする請求項1または2記載の電子音楽装置。」

ウ.「【0002】
【従来の技術】従来、鍵盤楽器やMIDI音源等の音楽デバイスを接続して再生ソフトやシーケンスソフト等のアプリケーションを実行することで、音楽デバイスと連携した楽音再生や楽音データ編集等の各種処理を実現するようにしたパーソナルコンピュータ等の電子音楽装置が知られている。
【0003】この装置は一般に、MIDIインターフェイス等を通じてMIDIデバイス等の音楽デバイスを任意に接続可能であり、音楽用アプリケーションを実行する際、必要な音楽デバイスを接続状態にして、上記アプリケーション上で各種指示を行うことで、音楽デバイスにはMIDIメッセージ等の指示が送られ、所望の処理が実行されるようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、接続可能な音楽デバイスの種類は、メーカ、種別、バージョンの違いを考慮すると多種類存在し、個々に仕様、機能が異なる。また、行おうとする音楽処理に応じて、接続される音楽デバイスを変更することは頻繁に行われ得る。そのため、電子音楽装置で実行されるアプリケーションと利用する音楽デバイスとが適合しない場合が生じてくる。この場合、アプリケーション上では行えるようにみえる処理であっても、音楽デバイスでは実際には適切に行えないというような場合もあり得る。」

エ.「【0006】また、アプリケーションでは可能となっている処理を行わせるために、MIDIメッセージ等の指示を音楽デバイスに送信した場合において、接続されている音楽デバイスのバージョンが古い、あるいは機種が特殊であると、その指示を音楽デバイスが解釈できない。すると、音楽デバイスで適切な処理がなされなかったり、あるいは音楽デバイスが有している機能が有効に利用されなかったりする場合もある。」

オ.「【0013】図1は、本発明の一実施の形態に係る電子音楽装置の全体構成を示すブロック図である。本電子音楽装置1は、例えば、パーソナルコンピュータとして構成され、操作部2、ROM6、RAM7、タイマ8、表示部9、記憶入出力装置10、MIDIインターフェイス(MIDII/F)13、通信インターフェイス(通信I/F)14、音源回路15及び効果回路16が、バス18を介してCPU5にそれぞれ接続されて構成される。
【0014】CPU5は、本装置1全体の制御を司る。ROM6は、CPU5が実行する制御プログラムや各種テーブルデータ等を記憶する。RAM7は、テキストデータ等の各種入力情報、各種フラグや各種レジスタ及び演算結果等を一時的に記憶する。タイマ8はCPU5に接続され、タイマ割り込み処理における割り込み時間や各種時間を計時する。操作部2は、各種情報を入力するための不図示の複数のスイッチを備える。表示部9はLCD等で構成され、アプリケーション実行に関する情報、及び各種設定に関する情報等を表示する。通信インターフェイス14は、インターネット等の通信ネットワーク31を介してサーバコンピュータ32に接続し、データの送受信を可能にする。MIDII/F13は、MIDIデバイス30からのMIDI(Musical Instrument Digital Interface)信号を入力したり、MIDI信号をMIDIデバイス30に出力したりする。
【0015】記憶入出力装置10は、内蔵ハードディスク、フロッピー(登録商標)ディスク、MO等の記憶媒体11をドライブする各種ドライブを備える。記憶媒体11には上記制御プログラムの他、各種プログラムや各種データを記憶することができる。なお、記憶媒体11は外付けのハードディスクであってもよい。記憶媒体11にはまた、音声、画像、映像等の各種メディアデータを再生するための再生ソフトやシーケンスソフト等の各種アプリケーションプログラム(以下、単に「アプリケーション」と称する)、音源ドライバ等のデバイスドライバプログラム、プラグイン、及び内蔵ソフトウェア音源として機能するソフトウェアシンセサイザ等、各種ソフトウェアプログラムが記憶されている。これらはROM6またはRAM7に記憶されていてもよい。音源回路15は、演奏データ等を楽音信号に変換し、効果回路16は、その楽音信号に各種効果を付与し、サウンドシステム17は、効果回路16から入力される楽音信号等を音響に変換する。
【0016】図2は、電子音楽装置1とMIDIデバイス30とがMIDII/F13を介して接続された状態を示す概念図である。MIDIデバイス30は、鍵盤楽器や音源装置等のMIDI規格に準拠した音楽機器(例えばMIDI外部音源)である。電子音楽装置1は、接続されたMIDIデバイス30をMIDI入出力ドライバ43で制御し、アプリケーション40(例えば再生ソフト)を実行することで、MIDIデバイス30と連携した処理(例えば、MIDI外部音源の機能を利用した楽音発生等)を実現することができる。なお、アプリケーション40、MIDIデバイス30の種類は例示したものに限定されない。
【0017】アプリケーション40には、メインスレッド41及びMIDI受信スレッド42が含まれ、MIDI入出力ドライバ43には、MIDI出力ドライバ44、MIDI入力ドライバ45が含まれる。アプリケーション40を実行するにあたって、電子音楽装置1は、MIDIデバイス30の属性情報である機種IDを認識する。すなわち、アプリケーション40のメインスレッド41が、MIDI出力ドライバ44を介してMIDIデバイス30に対して機種IDを要求するリクエスト信号(request)46を送信する。これに応答して、MIDIデバイス30から、機種IDが応答信号(response)47としてMIDI入力ドライバ45を介してMIDI受信スレッド42に返信される。MIDI受信スレッド42は、機種IDの要求に対して応答信号を受信した場合は、その旨を通知信号(notify)48としてメインスレッド41に送信する。これにより、MIDIデバイス30の機種IDが認識される。
【0018】図3は、登録された機種ID対応テーブルの一例を示す図である。この機種ID対応テーブルは、機種IDとそれに対応する画面表示であるUI(ユーザインターフェイス)と、MIDIメッセージであるMS等の機能設定を規定するものであり、例えば記憶媒体11に予め記憶されている。
【0019】機種IDとそれに対応するUIやMS等の機能設定は、各MIDIデバイスの提供元から配布されるCD-ROMから入手することができる。また、提供元のホームページに最新情報ファイルを公開しておき、通信インターフェイス14を介してインターネットでそのホームページにアクセスして入手するようにしてもよいし、他のメディアから入手してもよい。入手した機種ID及び対応機能設定は、アプリケーション40の機能により自動的に、あるいはユーザによる入力操作により、機種ID対応テーブルに新規追加登録及び更新することができる。なお、機能設定はUIやMSに限られるものではない。」

カ.「【0022】図4は、本実施の形態におけるアプリケーション処理のフローチャートを示す図である。本処理は、例えばアプリケーション40の起動時に実行される。
【0023】まず、MIDI入出力ドライバ43を開き(ステップS401)、上述したように(図2)、MIDI出力ドライバ44を介してMIDIデバイス30に対して機種IDのリクエスト信号46を送信し(ステップS402)、応答信号47の受信のため所定時間待機する(ステップS403)。
【0024】そして、応答信号47の受信によりMIDIデバイス30の機種IDが認識されたか否かを判別する(ステップS404)。ここで、上記所定時間内に少なくとも機種IDの「メーカ」の情報が認識されれば、「機種IDが認識された」ことになる。その判別の結果、機種IDが認識されない場合はステップS408に進む一方、機種IDが認識された場合は、その機種IDが機種ID対応テーブル(図3)に登録されているか否かを判別し(ステップS405)、登録されている機種IDでない場合は前記ステップS408に進む一方、登録されている機種IDである場合は、ステップS406に進む。
【0025】ステップS406では、上記認識された機種IDに応じたアプリケーション40の設定を行う。すなわち、図3に示す機種ID対応テーブルに従って、対応するユーザインターフェイスUIとメッセージMSとを特定する。一方、前記ステップS408では、アプリケーション40の標準設定、すなわち、ユーザインターフェイスUIとメッセージMSとについて、デフォルト設定である「UI000」、「MS000」を特定する。これらにより、アプリケーション40の機能がMIDIデバイス30に対応して適切に設定される。なお、前記ステップS408では、ユーザが、MIDIデバイス30自体、あるいはそれに比較的近いデバイスについて知識を有している場合は、ユーザにより、ユーザインターフェイスUIとメッセージMSとを手動で特定するようにしてもよい。
【0026】次に、ステップS407では、上記アプリケーション40の設定に従って、各種処理を実行する。すなわち、前記ステップS406またはS408で特定されたユーザインターフェイスUI及びメッセージMSに従って、受信したメッセージに基づく表示、発音や、メッセージ送信等のMIDI処理を行う。」

キ.「【0028】また、例えば、メッセージ送信処理を例にとると、送信されるべきMIDIメッセージをMIDIデバイス30が解釈可能なものに変更、あるいは種類を限定(制限)する。例えば、「音色を明るくする」という内容の指示をMIDIデバイス30に送りたい場合、まず、その旨を表す全機種共通の抽象的メッセージを生成し、次に、上記特定されたメッセージMSに従って、MIDIデバイス30に合致した具体的なメッセージを生成する。具体的なメッセージは、例えば、フィルタのカットオフ周波数を変更する、あるいはFM音源の場合はパラメータを変更する等である。そして、生成した具体的なメッセージを、MIDII/F13を通じてMIDIデバイス30に対して送信する。これにより、MIDIデバイス30が解釈できないようなメッセージの送信が回避される。」

以上の記載から、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されている。

MIDI外部音源を接続するMIDIインターフェース、インターネットに接続する通信インターフェースを有し、シーケンスソフト等の音楽アプリケーションを実行することで、前記MIDIインターフェースにより接続されたMIDI外部音源の機能を利用した楽音発生を行う電子音楽装置であって、
複数の前記MIDI外部音源の機種IDとそれに対応するMIDIメッセージを規定する機種ID対応テーブルを記憶した記録媒体と、
前記通信インターフェースを介してインターネットにアクセスして、前記機種ID対応テーブルを入手する手段と、
前記MIDIインターフェースを介して、前記MIDI外部音源の機種IDを認識する認識手段と、
前記認識手段により認識された機種IDが前記機種ID対応テーブルに登録されているか否かを判断する判断手段と、
前記判断手段により登録されていると判断された場合は、該機種ID対応テーブルに従って対応するMIDIメッセージを特定し、機種IDに応じた前記音楽アプリケーションの設定を行う設定手段と、
前記設定手段による設定に従って、前記音楽アプリケーションから送信されるMIDIメッセージを、前記MIDI外部音源が解釈できないものから解釈可能なものに変更する変更手段と、
前記接続されたMIDI外部音源にMIDIメッセージを送信する送信手段とを有し、
前記記録媒体は、内蔵ハードディスク等であって、前記入手する手段によって入手された前記機種ID対応テーブルを記憶する電子音楽装置。

3.対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

刊行物1発明は、シーケンスソフト等の音楽アプリケーションを実行することで、MIDIインターフェースにより接続されたMIDI外部音源の機能を利用した楽音発生を行う電子音楽装置であるから、「曲データを再生する再生手段を有する自動演奏装置」といえるものである。また、刊行物1発明のシーケンスソフトにより再生されるMIDIメッセージには、プログラムチェンジなどの音色を指定するデータが含まれることは当業者には明らかである。本願発明の自動伴奏装置は、伴奏音を演奏する自動演奏装置といえるから、両者は「音色指定データを含む曲データを再生する再生手段を有する自動演奏装置」である点で共通する。

刊行物1発明の「記録媒体」(本願発明の「記憶手段」に相当)に記憶された「機種ID対応テーブル」は、複数の「MIDI外部音源」(本願発明の「電子楽器」に相当)の「機種ID」(本願発明の「機器情報」に相当)とそれに対応するMIDIメッセージを規定するものであって、このMIDIメッセージは、機種IDに対応する機種のMIDI外部音源で解釈可能なMIDIメッセージ(上述したように、プログラムチェンジなどの音色を指定するデータが含まれることは当業者には明らか)であり、これは通常複数あると考えられる。また、MIDI外部音源で解釈可能なプログラムチェンジは、そのMIDI外部音源が記憶している音色データと対応していることは明らかであるから、刊行物1発明の機種ID対応テーブルのMIDIメッセージは、「複数の電子楽器がそれぞれ記憶している複数の音色データの一覧情報」ということができる。
したがって、本願発明の「複数の電子楽器がそれぞれ記憶している複数の音色データおよび/または伴奏データの一覧情報を該各電子楽器に対応付けて記憶する記憶手段」と、刊行物1発明の「複数の前記MIDI外部音源の機種IDとそれに対応するMIDIメッセージを規定する機種ID対応テーブルを記憶した記録媒体」とは、何れも、「複数の電子楽器がそれぞれ記憶している複数の音色データの一覧情報を該各電子楽器に対応付けて記憶する記憶手段」といえる点で共通している。

刊行物1発明のMIDI外部音源は、上述したように、プログラムチェンジなどの音色を指定するデータにより制御されるものであるから、複数の音色データを記憶したものであって、該記憶された複数の音色データから選択された音色データに基づいて演奏情報を生成するものである。
したがって、本願発明の「複数の音色データであって、所定の規則に従って分類されて複数の音色データ群を形成するものおよび/または複数の伴奏データであって、所定の規則に従って分類されて複数の伴奏データ群を形成するものを記憶した外部電子楽器であって、該記憶された複数の音色データおよび/または伴奏データから選択された音色データおよび/または伴奏データに基づいて伴奏情報を生成する外部電子楽器を接続し、該外部電子楽器と情報の送受信を行う接続手段」と、刊行物1発明の「MIDI外部音源を接続するMIDIインターフェース」は、「複数の音色データを記憶した外部電子楽器であって、該記憶された複数の音色データから選択された音色データに基づいて演奏情報を生成する外部電子楽器を接続し、該外部電子楽器と情報の送受信を行う接続手段」である点で共通する。

刊行物1発明の「前記MIDIインターフェースを介して、前記MIDI外部音源の機種IDを認識する認識手段」は、本願発明の「該接続手段を介して、前記外部電子楽器の機器情報を取得する機器情報取得手段」に相当する。

本願発明の「該機器情報取得手段によって取得された機器情報に対応する一覧情報が、前記記憶手段に記憶されていなかった場合に、該一覧情報を、当該外部電子楽器を含む外部から取得する一覧情報取得手段」と、刊行物1発明の「前記通信インターフェースを介してインターネットにアクセスして、前記機種ID対応テーブルを入手する手段」とは、本願発明の一覧情報がプログラムチェンジ番号などを含み、刊行物1発明の機種ID対応テーブルもプログラムチェンジなどのMIDIメッセージを含むことから、「前記一覧情報を、外部から取得する一覧情報取得手段」である点で共通する。

刊行物1発明は、記録媒体に記憶された機種ID対応テーブルに従って設定を行うものであるから、このテーブルに記憶されたMIDIメッセージなどの情報を読み出す読み出し手段を有することは明らかである。

刊行物1発明において、機種ID対応テーブルに規定されたMIDIメッセージは、音楽アプリケーションから送信されるMIDIメッセージをMIDI外部音源が解釈できないものから解釈可能なものに変更するために、解釈可能なMIDIメッセージを記載したものといえるから、音楽アプリケーションから送信されるMIDIメッセージが記載されているか否かによりMIDIメッセージを変更するかしないかを選択するものと考えられる。したがって、本願発明と刊行物1発明とは、「該読み出し手段によって読み出された一覧情報内に、前記曲データに含まれる音色指定データにより指定される音色データが記載されているときには、当該音色データを自動的に選択する一方、前記一覧情報内に当該音色データが記載されていないときには、他の音色データを自動的に選択する選択手段」を有する点で共通するものである。

刊行物1発明の送信手段は、解釈可能なものに変更されたMIDIメッセージ(本願発明の「該選択手段によって選択された音色データを前記外部電子楽器に設定させるような制御情報」に相当)をMIDIインターフェースを介してMIDI外部音源に送信するものであるから、本願発明の送信手段とは、「該選択手段によって選択された音色データを前記外部電子楽器に設定させるような制御情報を、前記接続手段を介して、前記外部電子楽器に送信する送信手段」である点で一致する。

刊行物1発明は、シーケンスソフト等の音楽アプリケーションを実行することで、MIDIインターフェースにより接続されたMIDI外部音源の機能を利用した楽音発生を行う電子音楽装置であるから、変更したMIDIメッセージの送信による設定に基づいて前記外部電子楽器の楽音発生を制御する制御手段を有することは明らかである。したがって、本願発明の制御手段と刊行物1発明の上記制御手段とは、「前記曲データの演奏情報を、前記設定された音色データに基づいて生成するように、前記外部電子楽器を制御する制御手段」である点で一致する。

刊行物1発明の「前記記録媒体は、内蔵ハードディスク等であって、前記入手する手段によって入手された前記機種ID対応テーブルを記憶する」ことは、本願発明の「前記記憶手段は、不揮発性の記憶手段であって、前記一覧情報取得手段によって取得された一覧情報を記憶すること」に相当する。

したがって、本願発明と刊行物1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
音色指定データを含む曲データを再生する再生手段と、
複数の電子楽器がそれぞれ記憶している複数の音色データの一覧情報を該各電子楽器に対応付けて記憶する記憶手段と、
複数の音色データを記憶した外部電子楽器であって、該記憶された複数の音色データから選択された音色データに基づいて演奏情報を生成する外部電子楽器を接続し、該外部電子楽器と情報の送受信を行う接続手段と、
該接続手段を介して、前記外部電子楽器の機器情報を取得する機器情報取得手段と、
前記一覧情報を、外部から取得する一覧情報取得手段と、
該一覧情報を前記記憶手段から読み出す読み出し手段と、
該読み出し手段によって読み出された一覧情報内に、前記曲データに含まれる音色指定データにより指定される音色データが記載されているときには、当該音色データを自動的に選択する一方、前記一覧情報内に当該音色データが記載されていないときには、他の音色データを自動的に選択する選択手段と、
該選択手段によって選択された音色データを前記外部電子楽器に設定させるような制御情報を、前記接続手段を介して、前記外部電子楽器に送信する送信手段と、
前記曲データの演奏情報を、前記設定された音色データに基づいて生成するように、前記外部電子楽器を制御する制御手段と
を有し、
前記記憶手段は、不揮発性の記憶手段であって、前記一覧情報取得手段によって取得された一覧情報を記憶する自動演奏装置。

[相違点1]
本願発明では、外部電子楽器が、複数の音色データであって、所定の規則に従って分類されて複数の音色データ群を形成するものおよび/または複数の伴奏データであって、所定の規則に従って分類されて複数の伴奏データ群を形成するものを記憶したものであり、選択手段において、一覧情報内に当該音色データおよび/または伴奏データが記載されていないときには、当該音色データおよび/または伴奏データが属する音色データ群および/または伴奏データ群に含まれる他の音色データおよび/または伴奏データ情報を自動的に選択するのに対し、刊行物1発明では、音色データの記憶形式、他の音色データの選択法については特定されていない点。

[相違点2]
再生手段、記憶手段、接続手段、選択手段、送信手段、制御手段において、本願発明は、音色指定データおよび/または伴奏指定データ、音色データおよび/または伴奏データを処理対象として動作するのに対し、刊行物1発明は、伴奏指定データや伴奏データについては言及されていない点。
[相違点3]
一覧情報取得手段が、本願発明では、機器情報取得手段によって取得された機器情報に対応する一覧情報が、記憶手段に記憶されていなかった場合に、前記一覧情報を、当該外部電子楽器を含む外部から取得するものであるのに対し、刊行物1発明では、一覧情報を外部から取得すること以外は特定されていない点。

[相違点4]
本願発明は、自動伴奏装置であるのに対し、刊行物1発明は、伴奏については特定されていない点。

4.当審の判断
これらの相違点について検討する。
[相違点1、2について]
相違点1、2について、併せて検討する。
電子楽器において、音色データの記憶形式として、複数の音色データであって、所定の規則に従って分類されて複数の音色データ群を形成するものを記憶しておき、自動演奏データから読み出した音色番号データと一致する音色番号データが音色テーブル内に存在しなければ、読み出した音色番号データが属する分類の中で予め決められた音色を音色テーブル内から代替え音色(本願発明の「当該音色データが属する音色データ群に含まれる他の音色データ」に相当)として選択することは電子楽器の技術分野において周知の技術(これを示す周知文献1については後に述べる)である。
また、本願発明は、音色指定データおよび/または伴奏指定データ、音色データおよび/または伴奏データを処理対象として動作するものであるが、音色指定データおよび/または伴奏指定データとは、音色指定データ、伴奏指定データのうちの少なくとも1つという意味と解釈され、音色指定データのみの場合(刊行物1発明の場合)も含むものであるから、実質的にはこの点は相違点ではない(なお、音色指定データのみでなく、スタイルデータ(本願発明の「伴奏指定データ」、あるいは、「伴奏データ」に相当)についても音色指定データと同様の選択制御を行うことについても、上記周知文献1には記載されている。)。
したがって、刊行物1発明において、上記周知技術を適用して、外部電子楽器が、複数の音色データであって、所定の規則に従って分類されて複数の音色データ群を形成するものおよび/または複数の伴奏データであって、所定の規則に従って分類されて複数の伴奏データ群を形成するものを記憶したものとし、選択手段において、一覧情報内に当該音色データおよび/または伴奏データが記載されていないときには、当該音色データおよび/または伴奏データが属する音色データ群および/または伴奏データ群に含まれる他の音色データおよび/または伴奏データ情報を自動的に選択する構成とすることは当業者が容易に想到できることである。

周知文献1について
特開2003-208167号公報の【0058】-【0060】、【0066】には、以下のように記載されている。
「【0058】一方、前記ステップ202の自動演奏データ(図3参照)の再生処理中に、図3に示すような自動演奏データの初期データおよび演奏イベントデータ中の音色データ(音色番号データおよび音色パラメータ)の読出し時には、図10の音色データルーチンが実行される。この音色データルーチンはステップ210にて開始され、CPU31は、ステップ212にて、前記読み出した音色番号データとROM33の音色テーブル内に記憶されている音色番号データとを比較する。
【0059】前記ステップ212の音色番号の比較後、ステップ214にて、前記比較に基づいて、読み出した音色番号データと一致する音色番号データが音色テーブル内に存在するか否かを判定する。一致する音色番号データが存在する場合には、CPU31は、ステップ214にて「Yes」と判定して、ステップ218にて前記読み出した音色番号データおよび音色パラメータを取り込んで、少なくとも同取り込んだ音色パラメータを音源回路41に出力する。音源回路41は、この音色パラメータを記憶して、以降に形成される楽音信号の音色制御に利用する。なお、この場合、読み出した音色パラメータのほかに、他の音色パラメータが必要な場合には前記音色番号データに対応した音色パラメータがROM33内の音色データ領域から読み出されて音源回路41に供給されて、音源回路41にて前記音色制御に利用される。特に、前記読み出した音色データ中に音色パラメータが含まれていなければ、前記ROM33内の音色データ領域から読み出されて音源回路41に供給された音色パラメータが有効に利用される。
【0060】前記読み出した音色番号データと一致する音色番号データが音色テーブル内に存在しなければ、ステップ214にて「No」と判定して、ステップ216の判定処理を実行する。この判定処理は、前記読み出した音色番号データが属する分類と一致する音色分類が音色テーブル内に存在するかを判定するものである。一致する分類が存在する場合には、ステップ216にて「Yes」と判定して、ステップ220に進む。ステップ220においては、前記読み出した音色番号データが属する分類の中で予め決められた音色を音色テーブル内から代替え音色として選択し、この代替え音色に関する音色パラメータをROM33の音色データ領域から読み出して、同読み出した音色パラメータを音源回路41に出力する。音源回路41は、この音色パラメータを記憶して、以降形成される楽音信号の音色制御に利用する。」
「【0066】また、前記例では、自動演奏データ中の音色データに関してのみ説明したが、楽音信号に付与される効果を制御するための制御情報、自動伴奏を制御するための制御情報としてのスタイルデータ(自動伴奏の種類)などの楽音発生態様を制御する楽音制御情報にも適用されるものである。すなわち、効果およびスタイルに関しても、読み出された効果データおよびスタイルデータは前記音色の場合と同様に代替えされるとともに、代替えした効果名およびスタイル名を表示器13に表示させる。ただし、この表示は、効果名およびスタイル名の表示が選択されている場合のみである。また、この場合も、読み出された効果データおよびスタイルデータと同一分類に属する効果データおよびスタイルデータが本電子楽器にて対応可能であれば、この同一分類に属する効果データおよびスタイルデータが代替え効果データおよび代替えスタイルデータとして選択される。」

[相違点3について]
要求により取得したMIDIポートに接続された音源の製品名(本願発明の「機器情報取得手段によって取得された機器情報」に相当)に対応する音色リスト(本願発明の「一覧情報」に相当)が、記憶手段に記憶されていなかった場合に、前記音色リストを、当該音源から取得することは周知の技術(これを示す周知文献2については後に述べる)であるから、刊行物1発明において、一覧情報取得手段を、機器情報取得手段によって取得された機器情報に対応する一覧情報が、記憶手段に記憶されていなかった場合に、前記一覧情報を、当該外部電子楽器を含む外部から取得するものとすることは当業者が容易に想到できることである。また、その場合に、読み出し手段が読み出す情報が取得されたものとなることは明らかである。

周知文献2について
特開平8-234732号公報の【0024】には、以下のように記載されている。
「【0024】尚、上記実施例では、接続された各音源に対し、機械的に製品名と音色リストとの双方を問い合わせ、音色リストのみを使用してMIDIメッセージ出力すべきポートを定めたが、この場合、問い合わせのは音色リストのみであってもよい。あるいは、製品名を要求するメッセージと音色リストを要求するメッセージを別々に用意し、まず製品名を問い合せ、演奏情報制御装置1の中にその製品名の音色リストがすでに記憶されている場合には、それを利用し、記憶されていない場合には、改めて音色リストを要求するようにしてもよい。」

[相違点4について]
本願発明の「自動伴奏装置」は、自動伴奏装置とはいうものの、演奏操作と関連づけて伴奏音を発生させることが発明を特定する事項とされているものではないから、本願発明の自動伴奏装置は、単に、自動演奏装置における自動演奏データの内容をメロディのない伴奏データとしたものであって、伴奏を演奏する自動演奏装置に他ならない。
したがって、自動演奏装置である刊行物1発明の電子音楽装置で伴奏を演奏させて自動伴奏装置とすることは必要に応じて適宜なし得る事項にすぎない。

5.まとめ
以上により、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-22 
結審通知日 2010-06-29 
審決日 2010-07-12 
出願番号 特願2004-336072(P2004-336072)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G10H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 間宮 嘉誉板橋 通孝山下 剛史  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 千葉 輝久
伊藤 隆夫
発明の名称 自動伴奏装置およびその制御方法を実現するためのプログラム  
代理人 別役 重尚  
代理人 村松 聡  

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