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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E03B
管理番号 1222508
審判番号 不服2009-2396  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-04 
確定日 2010-08-26 
事件の表示 平成10年特許願第 94791号「貯液施設及びその構築方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月26日出願公開、特開平11-293720〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は,平成10年4月7日の出願であって,平成20年12月16日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成21年2月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,平成21年2月24日受付けで手続補正がなされたものである。
その後,平成21年12月22日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,平成22年3月4日受付けで回答書が提出された。

【2】平成21年2月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年2月24日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
平成21年2月24日受付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1について,補正前(平成19年11月6日受付けの手続補正書参照。)に,

「【請求項1】
貯液空間の全周面を遮水シートで覆った貯液施設において、
貯液空間の底面に前記遮水シートの上下両面に保護マットを積層して設け、
前記遮水シートの上面に積層した保護マットの全面に単粒保護層を設け、
貯液空間の底面に複数の係留体を設け、
前記複数の係留体を遮水シートに接続し、
浮力に対する反力をとることを特徴とする、
貯液施設。

【請求項2】乃至【請求項4】は,記載を省略。

【請求項5】
貯液空間を有する貯液施設の構築方法において、
盛土を行って貯液空間を形成し、
前記貯液空間の全周面を遮水シートで覆うと共に、
貯液空間の底面に前記遮水シートの上下両面に保護マットを積層して設け、
前記遮水シートの上面に積層した保護マットの全面に単粒保護層を設け、
貯液空間の底面に遮水シートの浮き上がり防止用の複数の係留体を設け、
前記各係留体を遮水シートに接続したことを特徴とする、
貯液施設の構築方法。
【請求項6】
貯液空間を有する貯液施設の構築方法において、
地盤を開削して貯液空間を形成し、
前記貯液空間の全周面を遮水シートで覆うと共に、
貯液空間の底面に前記遮水シートの上下両面に保護マットを積層して設け、
前記遮水シートの上面に積層した保護マットの全面に単粒保護層を設け、
貯液空間の底面に遮水シートの浮き上がり防止用の複数の係留体を設け、
前記各係留体を遮水シートに接続したことを特徴とする、
貯液施設の構築方法。」
とあったものを,

「【請求項1】
貯液空間の全周面を遮水シートで覆った貯液施設において、
貯液空間の底面に複数の係留体を設け、
貯液空間の底面に、帯状の遮水シートの縁部を重ね合わせて接着して敷設し、
その際に、遮水シートの上下両端面に保護マットを積層して設け、
前記遮水シートの上面に積層した保護マットの全面に、砂利などよりなる単粒保護層を設け、
前記複数の係留体を、前記の帯状の遮水シートの背面に接続し、
浮力に対する反力をとることを特徴とする、
貯液施設。
【請求項2】
貯液空間を有する貯液施設の構築方法において、
盛土を行って貯液空間を形成し、
次いで貯液空間の底面に遮水シートの浮き上がり防止用の複数の係留体を設け、
次いで前記貯液空間の全周面を帯状の遮水シートの縁部を重ね合わせて接着して覆い、
次いで前記各係留体を、前記の帯状の遮水シートの背面に接続したことを特徴とする、
貯液施設の構築方法。
【請求項3】
貯液空間を有する貯液施設の構築方法において、
地盤を開削して貯液空間を形成し、
次いで貯液空間の底面に遮水シートの浮き上がり防止用の複数の係留体を設け、
次いで前記貯液空間の全周面を帯状の遮水シートの縁部を重ね合わせて接着して覆い、
次いで前記各係留体を、前記の帯状の遮水シートの背面に接続したことを特徴とする、
貯液施設の構築方法。」
(なお,請求項1の「上下両端面」は「上下両面」の誤記と認める。)
と補正しようとするものである。

2.補正に対する当審の判断
2-1.請求項2及び請求項3についての補正
補正後の請求項2,請求項3に係る発明は,それぞれ,補正前の請求項5,請求項6に係る発明を基本としたものであるが,本件補正によって,請求項5及び請求項6において必須の構成であった「保護マット」及び「単粒保護層」についての構成が削除された。
したがって,本件補正は,特許請求の範囲の拡張であり,特許法第17条の2第4項に掲げる何れの事項(請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明)にも該当しない。

以上より,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2-2.請求項1についての補正
(1)補正の目的
補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)は,請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「遮水シート」が「帯状の遮水シートの縁部を重ね合わせて接着して敷設し」たものであることを特定し,さらに,同「単粒保護層」が,「砂利などよりなる」ことを特定し,さらに,同「係留体」が,遮水シートの「背面」に接続することを特定したものであるから,本件補正は,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで,本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。

(2)独立特許要件違反について
(2-1)刊行物及びその記載内容
a.刊行物1
本願の出願前に頒布された,実公昭60-5083号公報(以下,「刊行物1」という。)には,次のことが記載されている。
(a1)「本考案は可撓性材料シートに関するものである。」(1欄9?10行)
(a2)「第1図は貯水池の斜視図(1部省略),第2図は第1図の丸線部分の拡大詳細図であるが,これら第1,2図に於いて1は土,3は土1の素掘りした部分即ち土地に設けた凹所2に敷設即ち展張セツトした本体の可撓性材料シート,4は本体のシート3端末を折り曲げ土中に埋め込んだ部分,5は水を示している。
本考案に於いては本体シート3にスカート6を貼付けこのスカートの下端には鉛化ビニルパイプ等が通せるように袋状にしてこの袋状部7にパイプ8を通し,このスカートを土1中に埋める。なお9は上記スカートの取付位置を示している。
土中に埋めららたスカートにより本体シートは移動しなく風等があつてもシートはアンカーリングされる。この位置については風向,シートの大きさ,斜面の角度,土質等により決定される。
なお上記に於いてスカートは本体可撓性材料シートから線状に又は間隔をあけて出してよく,又パイプは引抜き力に対し抵抗する役割を果すものであるからこれはパイプに限らず上記役割を果すその他の障害物であればよい。」(2欄6行?3欄1行),
(a3)「以上の様な本考案によると下記のような利点がある。
(マル1)例えば貯水池に於いてはシート展張前に予めスカート部を掘つておけばシート展張時スカートに例えばパイプを通し埋立てていけばアンカーリングができる。従つて現場で簡単に埋込むことができる。
(マル2)シート下面側にスカートを付けておくだけである。従って外観(貯水池の水側)には何の構造物、凸起物もない。即ち外観からは何も見えない。」(3欄9?19行)

上記記載事項(a1)?(a3)及び図面の記載からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「素掘り部分2に可撓性材料シート3を敷設した貯水池において,
可撓性材料シート3の下面側に,下端にパイプ8を有する複数のスカート6を貼付け,
この複数のスカート6を土中に埋めることにより,
アンカーリングを行った,
貯水池。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

(2-2)対比・判断
本願補正発明と,刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「素掘り部分2」が本願補正発明の「貯液空間」に相当し,以下同様に,「可撓性材料シート3」が「遮水シート」に,「貯水池」が「貯液施設」に,「下端にパイプ8を有するスカート6」が「係留体」に,「アンカーリングする」ことが「浮力に対する反力をとる」ことに,「スカート6を土中に埋めること」が「貯液空間の底面に係留体を設け」ることにそれぞれ相当している。
そして,刊行物1記載の発明の「スカート6」は,可撓性材料シート3の下面側に貼付けられており,その点は,本願補正発明の「係留体を,帯状の遮水シートの背面に接続」する構成に対応している。
さらに,刊行物1記載の発明の「可撓性材料シート3」が素堀り部分2の全面に敷設されることは明らかである。

したがって,両者は,以下の点で一致している。
「貯液空間の全周面を遮水シートで覆った貯液施設において,
貯液空間の底面には,遮水シートが敷設され,
複数の係留体が遮水シートの背面に接続されているとともに,貯液空間の底面に設けられて,
浮力に対する反力をとる
貯液施設。」

そして,以下の点で相違する。
(相違点1)
貯液空間の底面に遮水シートを敷設するのに,本願補正発明は,「帯状の遮水シートの縁部を重ね合わせて接着して」敷設したのに対し,刊行物1記載の発明1は,このような構成を備えていない点。
(相違点2)
貯液空間の底面に遮水シートを敷設する際に,本願補正発明は,「シートの上下両面に保護マットを積層して設け」たのに対し,刊行物1記載の発明1は,このような構成を備えていない点。
(相違点3)
本願補正発明は,「遮水シートの上面に積層した保護マットの全面に,砂利などよりなる単粒保護層を設け」たのに対し,刊行物1にはこのような構成が記載されていない点。
(相違点4)
本願補正発明は,係留体が貯液空間の底面に設けられ,その後,遮水シートに接続することにより構成されているのに対して,刊行物1記載の発明は,係留体は遮水シートに接続されており,その後,該係留体を貯液空間の底面に設ける(埋める)ことによって構成されている点。

上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
本願補正発明と同一技術分野の属する貯液施設において,帯状の遮水シートの縁部を重ね合わせて接着して敷設する技術は,例えば,実願平1-87012号(実開平3-26531号)のマイクロフィルム(明細書2頁3?6行),実願昭47-92630号(実開昭49-49725号)のマイクロフィルム(実用新案登録の範囲)等に記載されているように周知技術である。
そして,刊行物1記載の発明の遮水シートに対して,「帯状の遮水シートの縁部を重ね合わせて接着して敷設する技術」を適用して,相違点1の本願補正発明に係る構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることである。
(相違点2について)
本願補正発明と同一技術分野の属する貯液施設において,シートの上下両面に保護マットを積層して設ける技術は,例えば,特開平9-327675号公報(段落【0014】),特開平9-262564号公報(段落【0021】)等に記載されているように周知技術である。
そして,刊行物1記載の発明に「シートの上下両面に保護マットを積層して設ける技術」を適用して,相違点2の本願補正発明に係る構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることである。
(相違点3について)
本願補正発明と同一技術分野の属する貯液施設において,遮水シートの上面に,砂利などよりなる単粒保護層を設ける技術は,例えば,特開平1-182422号公報(2頁右上欄18行?左下欄2行),特開平10-77666号公報(段落【0015】【0017】)等に記載されているように周知技術である。
そして,刊行物1記載の発明に,上記相違点2に係る構成の「シートの上下両面に保護マットを積層して設け」る技術を採用するに際して,さらに,「遮水シートの上面に,砂利などよりなる単粒保護層を設ける技術」を適用して,相違点3の本願補正発明に係る構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることである。
(相違点4について)
相違点4は,本願補正発明と刊行物1記載の発明との施工方法の相違に起因する相違点であるが,施工され,完成した施設自体は,格別相違するものではない。
そして,本願補正発明において採用されている「係留体が貯液空間の底面に設けられ,その後,遮水シートに接続する」施工方法は,例えば,特開平8-33880号公報(段落【0020】?【0021】,【0023】),実願昭47-92630号(実開平49-49725号)のマイクロフィルム(明細書3頁7?10行)等に記載されているように,周知である。
さらに,本願補正発明は,上記周知の施工方法を採用するに適した特別な構成を備えているものではなく,また,上記周知の施工方法を採用することにより,当業者が予測できない格別の効果が生じるものでもない。
したがって,刊行物1記載の発明を施工するに際して,上記周知の施工方法を採用して,相違点4の本願補正発明に係る構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることである。

以上のとおりであるから,本願補正発明は,刊行物1記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

以上より,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明
1.本願発明
平成21年2月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成19年11月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「貯液空間を有する貯液施設の構築方法において,
地盤を開削して貯液空間を形成し,
前記貯液空間の全周面を遮水シートで覆うと共に,
貯液空間の底面に前記遮水シートの上下両面に保護マットを積層して設け,
前記遮水シートの上面に積層した保護マットの全面に単粒保護層を設け,
貯液空間の底面に遮水シートの浮き上がり防止用の複数の係留体を設け,
前記各係留体を遮水シートに接続したことを特徴とする,
貯液施設の構築方法。」

2.引用刊行物
刊行物1:実公昭60-5083号公報
(記載事項は,「上記【2】2.2-2.(2)(2-1)参照。)

3.対比・判断
本願発明は,上記「【2】2.2-2.」で検討した本願補正発明から,該発明を特定するために必要な構成である「遮水シート」,「単粒保護層」及び「係留体」について特定した事項を省いたものである。
そうすると,本願発明を特定するために必要な事項をすべて含み,さらに他の事項を特定したものに相当する本願補正発明が,上記「【2】2.2-2.」に記載したとおり,刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことである。

【4】むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができず,本願の他の請求項に係る発明を検
討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-16 
結審通知日 2010-06-22 
審決日 2010-07-08 
出願番号 特願平10-94791
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 袴田 知弘  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
草野 顕子
発明の名称 貯液施設及びその構築方法  
代理人 山口 朔生  

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