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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1222675
審判番号 不服2008-26368  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-14 
確定日 2010-08-25 
事件の表示 特願2000-534848「改良された尿試料容器及びそれを使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月10日国際公開、WO99/45360、平成15年 7月22日国内公表、特表2003-522318〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1998年4月20日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理1998年3月6日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年7月7日付けで、平成20年6月11日付けの手続補正についての補正却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月14日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同日付けで手続補正(以下、「本件補正」がなされたものである。


第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年10月14日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の本願発明
本願補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、平成19年11月9日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり補正するものである。(下線部は補正箇所を示す。)
「 試料採取個所で試料供与者から液体医学試料を採取し、次いで遠隔検査個所で分析するための試料容器において、頂部開口を形成する頂部を有する容器本体と、前記頂部に係止して液密封止により前記頂部開口を閉鎖するため、前記頂部に手動で着脱できる蓋とよりなり、前記蓋は、可撓性の鈍端チップを有するプラスチック製液体サンプル分取具が手動で押されたときに該チップの鈍端により穿孔可能なエラストマー材料製の隔膜を有し、前記隔膜は初めは未破断であり、前記蓋に前記鈍端を挿通することにより前記穿孔が形成されるものであり、前記チップが前記容器内に挿入されたときに液体試料を吸引できるようにし、前記エラストマー材料は、更に前記チップを容器から抜いたときに前記隔膜を通る液体に対して自己再封止状態に復元するように選択され且つ構成されており、 前記隔膜の中央部は、前記チップが手動で押されたときに前記鈍端付きチップにより容易には穿孔できない厚い周辺部から前記チップにより前記周辺部よりも容易に穿孔できる最小厚さの弱い領域へ向けて次第に薄くなる凹入表面とほぼ平坦な底面とを有し、前記容易に穿孔できる部分の幅は前記チップ幅と同等又はわずかに大きい、容器。」(以下、「本願補正発明」という。)

上記補正は、発明特定事項である「液体サンプル分取具」について「可撓性の鈍端チップを有するプラスチック製」であるとの限定を付加し、発明特定事項である「隔膜」について「前記隔膜の中央部は、前記チップが手動で押されたときに前記鈍端付きチップにより容易には穿孔できない厚い周辺部から前記チップにより前記周辺部よりも容易に穿孔できる最小厚さの弱い領域へ向けて次第に薄くなる凹入表面とほぼ平坦な底面とを有し、前記容易に穿孔できる部分の幅は前記チップ幅と同等又はわずかに大きい」とする限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。また、「液体サンプル分取具のチップが手動で押されたとき」を「液体サンプル分取具が手動で押されたとき」とする補正事項は、通常分取具のチップを直接手動で押すことはしないため、誤記の訂正を目的としているといえる。
したがって、本件補正は、全体として、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特表平8-500036号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。
[a]「10.薬物製品用の装置において、
その中に蓋を位置決めする開口を有する前記製品用の容器と、
該容器に対するニードルレス型のアクセスをもたらす先の鈍いストッパ穿刺端を有するカニューレと、
ディスク部分及びプラグ部分を有し、前記容器の中に設けられて該容器の蓋を形成するストッパとを備え、
前記ディスク部分は、前記カニューレの先端を案内して該先端を軸方向に中心決めするようになされた横断溝及び上面を有しており、前記プラグ部分は、前記ディスク部分から前記容器の中へ伸長しており、前記プラグ部分は、前記カニューレを案内するための内側を向いた第1の表面と、前記カニューレのストッパ穿刺端に係合して前記カニューレの外側の濡れを極力少なくするためのカニューレ包囲シールを形成する内側を向いた第2の表面とを有しており、
前記ストッパは更に、中央に位置するダイアフラムを備え、該ダイアフラムは、前記カニューレの先端で前記ストッパを穿刺するために必要な力を制御するための所定の厚みを有しており、前記ダイアフラムは、前記上面のターゲット領域、及び、前記下面の横断溝によって形成されていることを特徴とする薬物製品用の装置。」(特許請求の範囲、第3頁第14行?第4頁第2行)
[b]「 本発明の別の目的は、外部の汚染から安全にシールされると共に、先の鈍い器具と共に使用するに適しており、これにより、そのような器具の挿入、並びに、内容物へのアクセスが可能とする装置を提供することである。」(第9頁第9?11行)
[c]「また、本発明は、必要になるまでは薬剤が容器の中に保有され、必要になった時に、先の鈍いカニューレによる容器へのアクセスが行われる装置を有している。この装置は、製品用の容器を含み、該容器は、本発明のストッパを定置するための開口を有しており、また、この装置は、容器へのニードルレス型のアクセスを行うための先の鈍いストッパ穿刺端を有するカニューレを備えている。」(第9頁第20?25行)
[d]「 更に別の実施例においては、ストッパは、中央に位置する環状の予め分割されたディスクを備えており、該ディスクは、天然ゴムの如き自己封止型の材料から形成されており、上記ディスクは、ダイアフラムの直ぐ上方に位置し、カニューレを挿入あるいは取り除く際の噴き戻しを阻止する。」(第10頁第25?28行)
[e]「 次に、本発明のストッパの基本的な実施例の構造的な細部及び特徴を特に詳細に考えてみると、その詳細が、図4乃至図7に最も良く示されている。本発明のストッパは、プラグ部分27と、ディスク部分29とを備えている。上記ストッパは、ストッパ、特に、医薬産業の高い基準に適合するストッパ、を製造する際に通常使用される、通常のどのような材料からも製造することができることは理解されよう。通常、ストッパは、ゴム組成物から製造される。ストッパは、例えば、ブチルゴム、ハロブチルゴム、ネオプレン、熱硬化性樹脂の特許組成物や種々の熱可塑性化合物から製造される。通常、ストッパの構造材料の選定は、特定の薬剤及び処理プロセスによって決定されるような、特定の使用環境に応じて行われる。
図4乃至図7に示すように、ディスク部分は、上面31及び下面33を有している。下面33は、薬瓶11のネック13の上端面35に対して、容器をシールしている。勿論、本発明は、薬学産業において使用されているあるいは将来使用されるであろう、種々の薬瓶及び容器のどのようなものとも使用することができる。必要なことは、薬瓶及びストッパが、意図する使用に対して望まれる程度のシールをもたらすような寸法を有することだけである。
ストッパのディスク部分29は、中央に位置するダイアフラムすなわち隔膜37を有しており、このダイアフラム37は、ディスク29の上面31に示されるターゲット領域39と、ディスク29の下面33に示される横断溝41とによって形成されている。後に説明するように、ダイアフラム37は、薬瓶11の内容物にアクセスするために、カニューレ23の鈍い先端25によって穿刺されるようになっている。ターゲット領域39及び横断溝33は、上面31及び下面33にそれぞれ位置するのが好ましいが、他の位置も後に示される。」(第13頁第21行?第14頁第15行)
[f]「 図16乃至図24は、本発明の別のストッパの平面図並びに断面図である。これらのストッパは総て、図4乃至図7並びに他の図に示す一般的な形態を有しており、ディスク29の上面31に関して種々の形態を有している。そのような設計は、カニューレを医学分野において実際に使用可能とするために行われている。ダイアフラムは、種々の侵入角度から穿刺できるような形態を有している。
特に注目すべきは、図16乃至図18に示す実施例であり、この実施例においては、横断溝41dは、下面33dにではなく、上面31dに設けられている。図19乃至図21、並びに、図22乃至図24は、他の実施例を示しており、これら実施例においては、図示のように、ターゲット領域39e、39fは、弧状であり、より大きな半径又はより小さな半径を有している。図19乃至図21に示されるリング40は、ストッパを容器に取り付けるためにアルミニウムのキャップを用いた場合に、ゴムの流れを緩和し、ダイアフラム37eの変形を防止するために設けられている。」(第16頁第5?17行)
[g]「 次に図27を参照すると、本発明の追加の特徴が示されている。すなわち、ストッパのディスク29aは、中央に位置して予め分割された環状のゴムディスク59を備えており、該ディスクは、予め分割された部分61を有しており、該予め分割された部分は、ディスク29aの上面31、並びに、内側のターゲット領域39aに位置し、ダイアフラム37の上方において横断溝41に対して直交した状態で位置している。このようにすると、カニューレを挿入あるいは取り除く時の、スプレーバックすなわち噴き戻しが、極力少なくなるかあるいは排除される。予め分割されたディスク59は、天然ゴム又は他の自己封止型のエラストマ材料から形成され、これにより、予め分割された部分61は、機能的に閉止し、カニューレが挿入あるいは取り除かれる時には、迅速に閉止する。噴き戻しは、均一な量の薬剤を確実に投与するために一般的に問題となることであり、また、化学療法用の医薬の如き毒性のある薬剤を投与する時には特に問題となる。この実施例は、噴き戻しを低減あるいは除去するために効果的である。」(第17頁第8?20行)
[h]「 本発明の効果を明らかにするために、一連のストッパを形成して評価を行った。4つの異なるゴム組成物、及び、上に説明した4つの異なる形態に関して、3つの蓋締め圧力において、全部で48の組み合わせの試験を行った結果、1,200のサンプルが、本発明の有効性を示した。
本発明の装置の特に効果的な作用例は、エラストマーからなる一般的なストッパを備えている。。これは、商品番号4455/45でザ・ウエスト・カンパニー(The West Company)によって製造されている、灰色のゴム材料である。このゴムを、図4に示すような形状を有する複数のストッパに形成し、ストッパの各グループを、種々の蓋締め圧力において、カニューレで穿刺する試験を行った。そのようなストッパの幾つかに関して、噴き戻しを測定する試験も行った。そのようなストッパは総て、商業的な品質管理テストに合格し、上に説明したようなカニューレ装置に使用するのに適すると判断された。」(第19頁第8?20行)
[i]【図4】および【図5】には、周辺部よりも薄く、ほぼ平坦な底面を有するターゲット領域が記載されている。
上記[a]?[c]、[e]、[f]、[h]の記載によれば、引用例には、
「外部の汚染から安全にシールされ、必要になるまでは薬剤が容器の中に保有され、必要になった時に、先の鈍いカニューレによる容器へのアクセスが行われる薬物製品用の装置において、その中に蓋を位置決めする開口を有する前記製品用の容器と、該容器に対するニードルレス型のアクセスをもたらす先の鈍いストッパ穿刺端を有するカニューレと、ディスク部分及びプラグ部分を有し、エラストマーからなり、前記容器の中に設けられて該容器の蓋を形成するストッパとを備え、前記ディスク部分は、前記カニューレの先端を案内して該先端を軸方向に中心決めするようになされた横断溝及び上面を有しており、前記プラグ部分は、前記ディスク部分から前記容器の中へ伸長しており、前記プラグ部分は、前記カニューレを案内するための内側を向いた第1の表面と、前記カニューレのストッパ穿刺端に係合して前記カニューレの外側の濡れを極力少なくするためのカニューレ包囲シールを形成する内側を向いた第2の表面とを有しており、前記ストッパのディスク部分は更に、中央に位置するダイアフラムすなわち隔膜を備え、該ダイアフラムは、前記カニューレの先端で前記ストッパを穿刺するために必要な力を制御するための所定の厚みを有しており、前記ダイアフラムは、弧状である前記上面のターゲット領域、及び、前記下面の横断溝によって形成されていることを特徴とする薬物製品用の装置。」の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
本願補正発明と引用例発明とを対比する。
(ア)引用例発明の「その中に蓋を位置決めする開口を有する前記製品用の容器」は、本願補正発明の「頂部開口を形成する頂部を有する容器本体」に相当する。
(イ)引用例発明の装置は「外部の汚染から安全にシールされ」るものであるから、引用例発明の「前記容器の中に設けられて該容器の蓋を形成するストッパ」と本願補正発明の「前記頂部に係止して液密封止により前記頂部開口を閉鎖するため、前記頂部に手動で着脱できる蓋」とは、「前記頂部に係止して封止により前記頂部開口を閉鎖する蓋」である点で共通する。
(ウ)引用例発明のストッパは「エラストマー」からなり、引用例発明のカニューレは「鈍いストッパ穿刺端を有する」ため、引用例発明の「前記ストッパのディスク部分は更に、中央に位置するダイアフラムすなわち隔膜を備え、該ダイアフラムは、前記カニューレの先端で前記ストッパを穿刺するために必要な力を制御するための所定の厚みを有」することと本願補正発明の「前記蓋は、可撓性の鈍端チップを有するプラスチック製液体サンプル分取具が手動で押されたときに該チップの鈍端により穿孔可能なエラストマー材料製の隔膜を有」することとは、「前記蓋は、鈍端を有する分取具が押されたときに該鈍端により穿孔可能なエラストマー材料製の隔膜を有」する点で共通する。
そして、引用例発明の「ダイアフラムすなわち隔膜」はカニューレの先端で穿刺されるものであるから、本願補正発明と同様に「前記隔膜は初めは未破断であり、前記蓋に前記鈍端を挿通することにより前記穿孔が形成されるもの」であるといえる。
(エ)引用例発明の「必要になるまでは薬剤が容器の中に保有され、必要になった時に、先の鈍いカニューレによる容器へのアクセスが行われる」ことと本願補正発明の「前記チップが前記容器内に挿入されたときに液体試料を吸引できるようにし」たこととは、「前記容器内に挿入されたときに吸引できるようにし」た点で共通する。
(オ)引用例発明の「前記ダイアフラムは、弧状である前記上面のターゲット領域、及び、前記下面の横断溝によって形成されていること」と本願補正発明の「前記隔膜の中央部は、前記チップが手動で押されたときに前記鈍端付きチップにより容易には穿孔できない厚い周辺部から前記チップにより前記周辺部よりも容易に穿孔できる最小厚さの弱い領域へ向けて次第に薄くなる凹入表面とほぼ平坦な底面とを有」とは、「前記隔膜の中央部は、前記鈍端により容易には穿孔できない厚い周辺部から前記周辺部よりも容易に穿孔できる最小厚さの弱い領域へ向けて次第に薄くなる凹入表面を有」する点で共通する。
したがって、両者は、
「容器において、頂部開口を形成する頂部を有する容器本体と、前記頂部に係止して封止により前記頂部開口を閉鎖する蓋とよりなり、前記蓋は、鈍端を有する分取具が押されたときに該鈍端により穿孔可能なエラストマー材料製の隔膜を有し、前記隔膜は初めは未破断であり、前記蓋に前記鈍端を挿通することにより前記穿孔が形成されるものであり、前記容器内に挿入されたときに吸引できるようにし、前記隔膜の中央部は、前記鈍端により容易には穿孔できない厚い周辺部から前記周辺部よりも容易に穿孔できる最小厚さの弱い領域へ向けて次第に薄くなる凹入表面を有する容器。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]容器が、本願補正発明では、「試料採取個所で試料供与者から液体医学試料を採取し、次いで遠隔検査個所で分析するための試料容器」であり蓋が「手動で着脱できる」のに対し、引用例発明では、薬剤を保有する容器であり蓋を手動で着脱しない点。
[相違点2]分取具が、本願補正発明は「可撓性の鈍端チップを有するプラスチック製液体サンプル分取具」であり「手動で押され」るものであるのに対し、引用例発明は先の鈍いカニューレであり手動で押されるものであるか不明である点。
[相違点3]エラストマー材料が、本願補正発明では「前記チップを容器から抜いたときに前記隔膜を通る液体に対して自己再封止状態に復元するように選択され且つ構成」されるのに対し、引用例発明では自己再封止状態に復元するように選択且つ構成されていない点。
[相違点4]隔膜が、本願補正発明では、中央部が凹入表面の他に「ほぼ平坦な底面」を有し、容易に穿孔できる部分の幅が「前記チップ幅と同等又はわずかに大きい」のに対し、引用例発明ではほぼ平坦な底面を有さず、容易に穿孔できる部分の幅が特定されていない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
密閉容器を液体医学試料を採取し、次いで遠隔検査箇所で分析するための試料容器として用いることは周知である。例えば、平成8年10月1日に発行された登録実用新案第3029569号公報の段落【0001】には、一般的に検尿用容器が、採尿、保管、郵送、検査等の過程を経ることが記載されている。また、実願平5-51533号(実開平7-20563号)のCD-ROMの段落【0003】にも、容器本体の開口部に嵌合されて開口部を気密に封止し得る栓体とを具備する容器が被検査物の輸送に使用されることも多いことが記載されている。
そして、密閉容器を試料容器として用いる際に、蓋を手動で着脱できるようにするこことも周知である。例えば、上記、登録実用新案第3029569号公報の段落【0008】には、キャップについて「上半部が傾斜部となり縦突条が設けてあることが相俟って、精密性、正確性が極めて高い。従って、螺合の着脱が自然で円滑であり、取扱操作が簡便であるとともに、尿液の漏洩を十分、かつ、確実に防止することができる。」と記載されていることから、キャップを手動で取り扱うことが記載されているといえる。また、上記、実願平5-51533号(実開平7-20563号)のCD-ROMの段落【0004】には、「検査用容器に被検査物を収容した後、種々の目的で栓体を取り除き再び栓体を開口部に嵌めることが、しばしば行われている。しかし、栓体を取り除き再び栓体を開口部に嵌めると、栓体に付着した被検査物の一部が容器の開口部の外周面に付着し、それが検査従事者の手に付着したり周辺に飛散し、例えば、血液感染の恐れなど、環境衛生上好ましくない問題が発生する恐れがあった。」と記載されていることから、栓体を手動で取り除き再び嵌めることが記載されているといえる。
したがって、引用例発明において、容器を液体医学試料を採取し、次いで遠隔検査箇所で分析するための試料容器として用い、蓋を手動で着脱できるように構成することは、当業者が適宜なし得ることである。

[相違点2]について
容器から液体を採取する分取具として、可撓性の鈍端チップを有するプラスチック製の液体サンプル分取具は周知であり、上記分取具を手動で扱うことも周知である。例えば、特開平6-331513号公報の段落【0002】には、従来の技術として、ピストンボタンを押すことにより試料を吸い込み、分注するディスペンサーが記載されており、段落【0010】には、ディスペンサーに取り付けて使用するチップとしてプラスチック製の成型品が記載されている。また、特開平6-7686号公報の段落【0002】には、従来の技術としてプラスチック容器を末端に持つピペットが記載されており、段落【0010】には、ハンドル1をもつピペットが記載されている。そして、引用例発明以外にも、例えば実願平2-127768号(実開平4-85250号)のマイクロフィルムの明細書第9頁第18行?第10頁第11行には、樹脂製であって、鋭利な針先のものと異なる軸と垂直方向にカットした形状の管状部材を用いて栓体を刺通すことが記載されており、鈍端を有する様々な材質からなる部材を用いた分取具により穿孔することが従来より知られている。
したがって、引用例発明において、先の鈍いカニューレの代わりに、同様に先の鈍い分取具であって周知の可撓性の鈍端チップを有するプラスチック製の液体サンプル分取具を用いることは、当業者が適宜なし得ることである。

[相違点3]について
引用例発明の隔膜は、自己再封止状態に復元する機能を有するものではないものの、引用例の[d]および[g]に記載されているように、引用例発明の装置において、挿入あるいは取り除かれる時に自己封止されるようにするという課題が存在することが認識されていたといえる。
一方、エラストマー材料を用いて自己再封止状態に復元されるように隔膜を構成した容器は周知である。例えば、国際公開第95/34381号の特に明細書第7頁第8?25行には、cap 40(蓋)の top portin 46(上部)が flexible elastomeric nature(柔軟なエラストマー性)であり、「When the probe 62 is removed from the tube 52 through the top portion 46, the tear reseals against itself to provide for the sealing of the contents of the sample tube, both from exposure to the external atmosphere as well as reducing the possibility of leaking of the sample from the tube.」(プローブ62がチューブ52の上部46から離れると、裂け目は試料チューブの内容物を密閉し外部雰囲気への暴露およびチューブからの試料の漏れの可能性を減ずるように再び密閉される。)ことが記載されている。また、実願平3-107490号(実開平5-53609号)のCD-ROMの段落【0005】および段落【0006】には、熱可塑性エラストマー樹脂にナフテン系油を配合した樹脂にて形成した密封栓が、穿刺針を抜いた後再びシールしうるシール性を有することが記載されている。そして、例えば、前記実願平2-127768号(実開平4-85250号)のマイクロフィルムの明細書第6頁第6行?第7頁第2行に記載されるように、採血管に設けられた再シール部材により、刺通針および管状部材のいずれの抜去後も刺通部位を再シールできるようになっていることが記載されており、鈍端からなる部材を用いる場合にも抜去した後自己再封止状態に復元されるようにすることは従来より知られていることである。
したがって、引用例発明のエラストマーからなる隔膜において、自己封止するという課題を解決するために、上記周知の自己再封止状態に復元する機能を有する隔膜を採用することは、当業者が容易に想到しうることである。

[相違点4]について
ターゲット領域の形状やサイズをどのように設計するかは、使用する分取具の形状に応じて当業者が適宜最適化しうることである。そして、引用例の[i]には、ターゲット領域の形状が周辺部よりも薄くほぼ平坦な底面を有するものも記載されている。
したがって、穿孔すべき部分を分取具の形状に合わせてほぼ平坦とし、その幅を分取具のサイズに合わせて同等又はわずかに大きくなるように形成することは、当業者が適宜なし得ることである。

そして、本願補正発明の効果は、引用例発明および上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものであって、格別なものであるとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例発明および上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?22に係る発明は、平成19年11月9日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「 試料採取個所で試料供与者から液体医学試料を採取し、次いで遠隔検査個所で分析するための試料容器において、頂部開口を形成する頂部を有する容器本体と、前記頂部に係止して液密封止により前記頂部開口を閉鎖するため、前記頂部に手動で着脱できる蓋とよりなり、前記蓋は、液体サンプル分取具のチップが手動で押されたときに該チップの鈍端により穿孔可能なエラストマー材料製の隔膜を有し、前記隔膜は初めは未破断であり、前記蓋に前記鈍端を挿通することにより前記穿孔が形成されるものであり、前記チップが前記容器内に挿入されたときに液体試料を吸引できるようにし、前記エラストマー材料は、更に前記チップを容器から抜いたときに前記隔膜を通る液体に対して自己再封止状態に復元するように選択され且つ構成されている、試料容器。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例およびその記載事項は、前記「第2 2 引用刊行物記載の発明」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明における限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 4 判断」に記載したとおり、引用例発明および上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例発明および上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-23 
結審通知日 2010-03-30 
審決日 2010-04-13 
出願番号 特願2000-534848(P2000-534848)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順森 竜介尾崎 淳史  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 宮澤 浩
後藤 時男
発明の名称 改良された尿試料容器及びそれを使用する方法  
代理人 倉内 基弘  

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