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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1222773
審判番号 不服2008-24330  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-22 
確定日 2010-09-03 
事件の表示 特願2003-282202「光学素子用基板及び有機エレクトロルミネッセンス素子並びに有機エレクトロルミネッセンス表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月24日出願公開、特開2005- 50708〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本件発明の認定
本件出願は平成15年7月29日の特許出願であって、平成19年8月20日付けで拒絶理由が通知され、同年11月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成20年2月25日付けで拒絶理由(いわゆる「最後の拒絶理由通知」である。)が通知され、同年6月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月4日付けの手続補正が同年6月20日付けの補正の却下の決定により却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされたため、これを不服として同年9月22日に本件審判請求がなされ、同日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされ、同年10月22日付けで同年9月22日付けの審判請求書の請求の理由について手続補正がなされ、平成21年3月5日付けの前置報告に基づいてなされた同年5月1日付けの審尋に対し、同年8月7日付けで回答書が提出されたものである。
そして、当審においてこれを審理した結果、平成20年9月22日付けの手続補正を平成21年9月16日付けの補正の却下の決定により却下するとともに、同日付けで拒絶理由を通知したところ、平成22年3月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
したがって、本件出願の請求項2に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成22年3月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「陽極、少なくとも発光層からなる有機層及び陰極を具備する有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられ、前記有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し側に配置される光学素子用基板であって、
前記光学素子用基板は、可視光を透過する光透明性基板からなり、前記光透明性基板内の前記発光層側に形成され、可視光を散乱する光散乱性部および可視光を透過する光透過性開口部を具備するものであり、
前記光散乱性部は平面視して格子縞状の構造をなし、
前記光散乱性部と前記光透過性開口部との界面が凹凸を有し、
隣接する前記光散乱性部の間隔のうち最も短い間隔である前記光透過性開口部の幅Wが、100nm以上20μm以下であり、前記光散乱性部の基板厚み方向の長さLが、下記式(1)により求められることを特徴とする光学素子用基板。
W/L ≦ tan(arcsin(n1/n2))・・・(1)
(前記式中、n1は空気の屈折率を表し、n2は光透明性基板の屈折率を表す。)」

第2 当審の判断
1 特許法第29条第2項について
(1)引用刊行物の記載事項
本件出願前に頒布された刊行物である特開平10-189251号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア?クの記載が図とともにある。

ア 「【請求項1】 発光層を含む薄膜層が透明基板に密着固定されるとともに該発光層から出射された光が該透明基板を通じて外部に放射されるディスプレイ装置において、
前記透明基板内に前記発光層から出射された光の出射角度を変換して外部に放射する角度変換手段を設けたことを特徴とするディスプレイ装置。
【請求項2】 前記角度変換手段は前記発光層から出射された光のうち前記透明基板の外部との境界面に対して臨界角よりも大きい角度で出射された光の角度を該臨界角よりも小さい角度に変換するものであることを特徴とする請求項1に記載のディスプレイ装置。
【請求項3】 前記角度変換手段は前記透明基板の外部との境界面に対して臨界角よりも大きい角度をもって前記発光層から出射された光の角度を前記臨界角よりも小さい角度に変換して、変換された光を前記境界面に入射させることを特徴とする請求項1に記載のディスプレイ装置。
【請求項4】 前記角度変換手段は前記発光層から出射された光を反射する反射部材からなることを特徴とする請求項1ないしは請求項3に記載のディスプレイ装置。
【請求項5】 前記発光層は矩形状に形成されるとともにそれぞれ所定の間隙をおいてマトリクス状に配置されており、前記反射部材は断面が楔状に形成されるとともに前記間隙と対向する位置に設置されることを特徴とする請求項4に記載のディスプレイ装置。」

イ 「【請求項8】 前記発光層は有機化合物からなることを特徴とする請求項1ないしは7に記載のディスプレイ装置。」

ウ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子等を用いるディスプレイ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ガラス板、あるいは透明な有機フィルム上に形成した蛍光体に電流を流して発光させる有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と称する)が知られている。有機EL素子としては、図9に示すように、金属電極である陰極6と透明電極である陽極2との間に、有機化合物からなる有機正孔輸送層3、有機化合物からなる有機発光層4、有機化合物からなる有機電子輸送層5、及び陰極6が順に積層された構造に代表される。陽極2と陰極6は外部の電源7に接続され通電される。
【0003】有機正孔輸送層3は陽極2から正孔を輸送する機能と電子をブロックする機能とを有し、有機電子輸送層5は陰極から電子を輸送する機能を有している。これら有機EL素子において、陽極2の外側にはガラス基板91が配されており、陰極6から注入された電子と陽極2から有機発光層4へ注入された正孔との再結合によって励起子が生じ、この励起子が放射失活する過程で光を放ち、この光が陽極2及びガラス基板91を介して外部に放出される。
【0004】陽極2には、インジウム錫酸化物(以下、ITOという)、錫酸化物等の仕事関数が大きく、発光を外部に放出させる透明導電性材料が用いられる。また、陰極6には、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、インジウム(In)、銀(Ag)の単体金属又はこれらのAl-Mg,Ag-Mg等の合金であって仕事関数が小さな材料が用いられる。
【0005】また、有機発光層4には、例えば8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等が用いられ、有機正孔輸送層3には、例えばN′-ジフェニル-N,N′-ビス(3メチルフェニル)-1,1′-ビフェニル-4,4′-ジアミン(TPD)が好ましく用いられている。有機電子輸送層5には、例えば8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等が用いられる。
【0006】図10は上述した有機EL素子を画素対応にマトリクス状に構成した有機EL素子によるディスプレイ装置の部分斜視図である。図10では、図9における有機正孔輸送層3、有機発光層4、有機電子輸送層5を総称して有機層21で示している。他のガラス基板91、陽極2、陰極6は図9と同じ部材で同じ働きをする。以上説明した各電極層、各有機層の厚さは数十?数百ナノメータオーダーと極めて薄いためそれに対し比較的厚いミリオーダーの基板に固定して補強する必要があり、この補強のために一般には透明なガラス基板が用いられる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上述した構造の有機EL素子は有機発光層から発光面に対し0?180度の広範囲の方向にわたって出射された光が有機正孔輸送層、ITOの透明導電膜、ガラス基板を経て大気中に放射される。ところが、光が各層の境界面を通過する際に入射側の物質の屈折率が出射側の物質の屈折率よりも大きい場合、臨界角、すなわち屈折波の出射角が90度となる角度よりも大きい角度で入射する光は境界面で全反射されてしまう。
【0008】異種媒体の境界面での光の屈折率の関係は、スネルの法則により、屈折率n_(1)の媒体から屈折率n_(2) の媒体へ光が進行する場合、n_(1) >n_(2) であればそのときの臨界角θは、
θ=sin^(-1)(n_(2) /n_(1) )
で与えられることでよく知られている。図11に有機EL素子の放射光の原理を示す図である。例えばガラス基板1から大気中に放射される光の場合、図11に示すように通常のガラスの屈折率1.5に対し空気の屈折率は1であるので、この場合の臨界角は、
θ=sin^(-1)(1/1.5)=41.8゜
となり、θがこの臨界角を越える発光部31からの出射光はガラス基板91と空気の境界面で全反射を生じ大気中に放射されなくなってしまう。
【0009】従って、全反射される光はガラス基板91の外部まで到達できないので視覚的に有効な光量が減少し、発光された光の取り出し効率が低下するという問題がある。
【0010】本発明は上記の問題点に鑑みなされたものであって、光の取り出し効率の高いディスプレイ装置を提供することを目的とする。」

エ 「【0011】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の発明は、発光層を含む薄膜層が透明基板に密着固定されるとともに発光部から出射された光が透明基板を通じて外部に放射されるディスプレイ装置において、透明基板内に発光部から出射された光の出射角度を変換して外部に放射する角度変換手段を設けたことを特徴とする。
【0012】請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のディスプレイ装置において、角度変換手段は発光層から出射された光のうち透明基板の外部との境界面に対して臨界角よりも大きい角度で出射された光の角度を臨界角よりも小さい角度に変換するものであることを特徴とする。
【0013】請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のディスプレイ装置において、角度変換手段は透明基板の外部との境界面に対して臨界角よりも大きい角度をもって発光部から出射された光の角度を臨界角よりも小さい角度に変換して、変換された光を境界面に入射させることを特徴とする。
【0014】請求項4に記載の発明は、請求項1ないしは請求項3に記載のディスプレイ装置において、角度変換手段は発光部から出射された光を反射する反射部材からなることを特徴とする。
【0015】請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のディスプレイ装置において、矩形状に形成されるとともにそれぞれ所定の間隙をおいてマトリクス状に配置されており、反射部材は断面が楔状に形成されるとともに間隙と対向する位置に設置されることを特徴とする。」

オ 「【0018】請求項8に記載の発明は、請求項1ないしは7に記載のディスプレイ装置において、発光層は有機化合物からなることを特徴としている。
【0019】
【作用】透明基板内に角度変換手段を設けたことにより、透明基板と外部との境界面で反射されて透明基板外へ放射されなくなる光を少なくすることができるから、従来装置に比べ発光された光の取り出し効率を向上させることができる。 また、角度変換手段の変換特性を適宜選択することにより、透明基板から放射される光の角度変換特性、すなわち視覚特性を選択することができるので、一つの発光層から様々な視覚特性を得ることが可能となる。」

カ 「【0020】
【発明の実施の形態】以下に本発明を図1、図2を参照しつつ説明する。図1及び図2は、本発明による有機EL素子の構造を示す図である。図1は、有機EL素子を構成する各層の形態を示し、図2は各画素に対する有機EL素子のマトリクス構造を示す図である。図1において、ガラス基板1上に図1に示すようなパターンを有するITOの透明導電膜の陽極2が成膜され、その上に陽極端子13からの発光駆動電流を各透明導電膜の陽極2へ供給するメタルバスライン8を形成し、次に陽極2を他の層から絶縁する絶縁膜9、透明導電膜の赤、青、緑のそれぞれに対応した各有機発光膜(R)、(G)、(B)で構成される有機層21、陰極隔壁6aを有する陰極6が順次形成されている。
【0021】次に、R,G,Bの各画素に対する各層は、図2に示すように各陽極の接続線に対し左右対称に同一色の画素を形成する電極が構成され、R,G,Bの各電極は互いにずらして配置され同一平面上に構成されている。一方陰極6は、上記陽極2の接続線に対し直交するように各2列を同一陰極でカバーされるように構成されている。従って陰極6と陽極2の各一つを選択すれば2つの同一色の隣合った電極を指定することが可能である。なお図1、図2に示されるように各画素は所定の間隙を挟んで配置されており、上記したメタルバスライン8、陰極隔壁6aはこの間隙に設置されている。
【0022】次に、角度変換手段の具体例について図3を参照して説明する。図3は本発明における有機EL素子の角度変換手段としての楔状部材の部分斜視図である。図3に示すように、上述の構成の有機EL素子の各画素に対応する発光領域を囲むように角度変換手段として金属製の楔状部材11をガラス基板1に埋め込む。楔状部材11はその断面形状が二等辺三角形をなし、その等辺によって有機発光層からなる発光部31からの放射光の一部を反射することによって、その反射光がガラス基板1を透過し大気中に放射される際に、ガラス基板1と空気の境界面での入射角がガラスと空気の臨界角よりも小さくなるように設定する。図4は図3から楔状部材を取り除いた状態を示す。図2からもわかるように各画素は所定の間隙14を挟んでマトリクス状に配置されているが楔状部材11は間隙14に設置される。よって、楔状部材11はメタルバスライン8、陰極隔壁6aに対向する位置に配置されることとなる。
【0023】次に図5を用いて上述のように構成された楔状部材11の作用について説明する。図5は透過光の臨界角の原理を示す図である。すなわち、楔状部材11は頂角がφの角度を有する二等辺三角形の断面を有し、有機発光層の一画素を囲むように画素間に配置され、有機発光層の一画素に対応する発光部31の発光面の一発光点を通り発光面に垂直な軸とθ_(0) の角度をなすように放射された光は楔状部材11の壁面で反射され、発光部31の発光面に垂直な軸、すなわちガラス基板1に垂直な軸に対しθ_(1) の角度でガラス基板1と空気の境界面へ進行する。これはガラス基板1と空気の境界面への入射角がθ_(1) ということである。このθ_(1)は、図5から明らかなようにθ_(1) +φ/2=θ_(0) -φ/2からθ_(1) =θ_(0) -φの関係を持つ。
【0024】従ってガラス基板1と空気の境界面への入射角θ_(1) は発光部31からの放射角θ_(0) よりもφだけ小さくすることができ、楔状部材11がない場合のガラス基板1と空気の場合の臨界角よりも実質的にφだけ大きな放射角で発光された光まで大気中に放射することが可能となる。
【0025】なお、光量は楔状部材11で反射されることによっても若干損失するため、発光部から臨界角より小さな角度で放射される光は、極力楔状部材11で反射させずに直接境界面に到達させるようにした方が良い。
【0026】楔状部材11の高さ及び底辺の幅は、発光部の面積、形状等様々な条件に応じて適宜変更することで、全体として最も光の取り出し効率の良い条件を選択することができる。
【0027】次に、このような楔状部材を形成する方法について説明する。その一方法は、ガラス基板1をバイトにより削り、所望の溝を形成する。次にエッチングにより溝を整形した後、反射壁となる金属の楔状部材11を蒸着により形成する。また、ガラス基板1の代わりに樹脂による成形溝を有する成形樹脂基板を用い、金属を蒸着して楔状部材11とすることもできる。
【0028】次に、本発明による有機EL素子を用いた場合の大気中への放射光量を、従来の有機EL素子との比としてシミュレーションした結果を図6に示し、その場合の画素及び楔状部材の寸法条件を図7に示す。図6では楔状部材の高さを変化させた場合の全体光量を、従来構造の有機EL素子(楔状部材がない場合)の全体光量に対する比として求めた。
【0029】図6において、記号aで示した曲線は楔状部材11の底面幅を30μmとした場合の楔状部材11の高さと光量比の関係である。また、記号bで示した曲線は楔状部材11の底面幅を20μmとした場合の楔状部材11の高さと光量比の関係である。図6からわかるように、いずれの底辺幅に対しても楔状部材の高さが20μmでは約30%の光量増となり、楔状部材11の高さが30μm?100μmでは幅の狭い20μmの方が30μmの方よりも光量増加が大きく、概ね50%を越える光量増加が見込めることが分かる。
【0030】なお図7に示すように、シミュレーションモデルの寸法は、一画素が75×135(μm)の長方形であり、画素の周囲には楔状部材11を設置するスペースとして幅30(μm)の間隙が設けられている。
【0031】以上の説明では、楔状部材の形状を二等辺三角形の断面を有するものとして説明したが、この形状に限らず、断面形状が台形の反射部材や、反射面が曲面、球面の反射部材等、本発明の主旨を逸脱しない範囲で様々な形状が選択できることはいうまでもない。なお、楔状部材の反射壁の形状を変更するとディスプレイの視覚特性も変化するので、楔状部材11の形状を適宜選択することにより、所望の視覚特性を得ることが可能である。」

キ 「【0035】以上、有機EL素子の発光ディスプレイ装置において角度変換手段を用いた場合について説明したが、無機EL素子を用いたディスプレイ装置等、発光部が透明基板に密着固定され発光部から出射された光を透明基板を通じて外部に放射する形態のディスプレイ装置であれば本発明が利用可能であることはもちろんであり、また、楔状部材も金属以外の材質でも構成でき、形状も前述したように楔状以外でも利用可能である。
【0036】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、透明基板内に角度変換手段を設けたことにより、透明基板と外部との境界面で反射されて透明基板外へ放射されなくなる光を少なくすることができるから、従来装置に比べ発光された光の取り出し効率を向上させることができる。」

ク 段落【0023】及び図5から、ガラス基板1の有機発光層の一画素に対応する発光部31が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に所定の高さにわたって楔状部材11が形成されていると認めることができる。

(2)引用例記載の発明の認定
引用例の上記記載事項ア?クから、引用例には次の発明が記載されていると認めることができる。

「陰極と陽極との間に有機発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子が透明基板上に形成されるとともに、該有機発光層から出射された光が該透明基板を通じて外部に放射されるディスプレイ装置において、
前記透明基板内に前記有機発光層から出射された光のうち前記透明基板の空気との境界面に対して全反射の臨界角よりも大きい角度で出射された光の角度を該臨界角よりも小さい角度に変換して、変換された光を前記境界面に入射させる角度変換手段を設け、
前記角度変換手段は前記有機発光層から出射された光を反射する反射部材からなり、
各画素に前記有機発光層が矩形状に形成され、各画素はそれぞれ所定の間隙をおいてマトリクス状に配置されており、前記反射部材は断面が楔状に形成されるとともに各画素に対応する発光領域を囲むように前記間隙と対向する位置に設置され、
前記透明基板の前記有機発光層の一画素に対応する発光部が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に所定の高さにわたって前記角度変換手段が形成されている、
光の取り出し効率を向上させた有機EL素子を用いるディスプレイ装置。」(以下「引用発明」という。)

(3)本件発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「陽極」、「有機発光層」、「陰極」は、それぞれ、本件発明の「陽極」、「少なくとも発光層からなる有機層」、「陰極」に相当し、引用発明の「陰極と陽極との間に有機発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子」は、本件発明の「陽極、少なくとも発光層からなる有機層及び陰極を具備する有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。
また、引用発明の「該有機発光層から出射された光が該透明基板を通じて外部に放射される」ように「有機エレクトロルミネッセンス素子が」「形成される」「透明基板」は、本件発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し側に配置される光学素子用基板」に相当する。

イ 引用発明では「有機エレクトロルミネッセンス素子が透明基板上に形成されるとともに、該有機発光層から出射された光が該透明基板を通じて外部に放射され」、引用発明の「有機発光層から出射された光」は「ディスプレイ装置」として利用されるから、引用発明の「透明基板」は「有機発光層から出射された光」を透過するものであること、及び、引用発明の「有機発光層から出射された光」が可視光であることは明らかである。
すると、引用発明の「透明基板」が「有機発光層から出射された光」を透過するものであることは、本件発明の「光学素子用基板は、可視光を透過する光透明性基板からな」ることに相当する。

ウ 引用発明の「角度変換手段」は「前記有機発光層から出射された光のうち前記透明基板の空気との境界面に対して全反射の臨界角よりも大きい角度で出射された光の角度を該臨界角よりも小さい角度に変換して、変換された光を前記境界面に入射させる」ものである。また、上記イで述べたとおり、引用発明の「有機発光層から出射された光」は可視光である。したがって、引用発明の「前記有機発光層から出射された光のうち前記透明基板の空気との境界面に対して全反射の臨界角よりも大きい角度で出射された光の角度を該臨界角よりも小さい角度に変換して、変換された光を前記境界面に入射させる角度変換手段」と、本件発明の「可視光を散乱する光散乱性部」とは、可視光の進路を変更する手段である点で一致する。
また、引用発明では「各画素に前記有機発光層が矩形状に形成され、各画素はそれぞれ所定の間隙をおいてマトリクス状に配置されており、前記反射部材は」「各画素に対応する発光領域を囲むように前記間隙と対向する位置に設置され」ているから、引用発明の「前記有機発光層から出射された光を反射する反射部材からな」る「角度変換手段」は平面視して格子縞状の構造である。したがって、引用発明の「各画素に前記有機発光層が矩形状に形成され、各画素はそれぞれ所定の間隙をおいてマトリクス状に配置されており、前記反射部材は」「各画素に対応する発光領域を囲むように前記間隙と対向する位置に設置され」ていることと、本件発明の「光散乱性部は平面視して格子縞状の構造をな」すこととは、可視光の進路を変更する手段は「平面視して格子縞状の構造をな」す点で一致する。
さらに、引用発明の「前記透明基板の前記有機発光層の一画素に対応する発光部が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に所定の高さにわたって前記角度変換手段が形成されている」ことと、本件発明の「光学素子用基板は」「前記光透明性基板内の前記発光層側に形成され、可視光を散乱する光散乱性部」「を具備する」こととは、「光学素子用基板は」「前記光透明性基板内の前記発光層側に形成され、」可視光の進路を変更する手段「を具備する」点で一致する。

エ 上記イで述べたとおり、引用発明の「透明基板」は「有機発光層から出射された光」を透過するものであるから、引用発明の「透明基板」のうち「角度変換手段」が形成されていない部分は、「有機発光層から出射された光」を透過させることは明らかである。また、上記イで述べたとおり、引用発明の「有機発光層から出射された光」は可視光である。さらに、上記ウで述べたとおり、引用発明の「前記有機発光層から出射された光を反射する反射部材からな」る「角度変換手段」は平面視して格子縞状の構造である。
したがって、引用発明の「透明基板」のうち「前記有機発光層の一画素に対応する発光部が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に所定の高さにわたって」平面視して格子縞状の構造である「角度変換手段」が形成されていない部分は、本件発明の「可視光を透過する光透過性開口部」に相当し、引用発明の「透明基板」は「前記有機発光層の一画素に対応する発光部が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に所定の高さにわたって」「角度変換手段」が形成されていない部分を備えることは、本件発明の「光学素子用基板は」「前記光透明性基板内の前記発光層側に形成され、」「可視光を透過する光透過性開口部を具備する」ことに相当する。

オ 以上から、本件発明と引用発明とは、

「陽極、少なくとも発光層からなる有機層及び陰極を具備する有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられ、前記有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し側に配置される光学素子用基板であって、
前記光学素子用基板は、可視光を透過する光透明性基板からなり、前記光透明性基板内の前記発光層側に形成され、可視光の進路を変更する手段および可視光を透過する光透過性開口部を具備するものであり、
前記可視光の進路を変更する手段は平面視して格子縞状の構造をなす光学素子用基板。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点1-1〉
可視光の進路を変更する手段が、本件発明では「光散乱性部」であるのに対し、引用発明の「角度変換手段」は「光を反射する反射部材からな」る点。

〈相違点1-2〉
本件発明では「前記光散乱性部と前記光透過性開口部との界面が凹凸を有」するのに対し、引用発明の「角度変換手段」と「透明基板」のうち「角度変換手段」が形成されていない部分との界面の態様についてこのような限定がない点。

〈相違点1-3〉
本件発明では「前記光散乱性部の基板厚み方向の長さLが、下記式(1)により求められる」、「W/L ≦ tan(arcsin(n1/n2))・・・(1)」、「(前記式中、n1は空気の屈折率を表し、n2は光透明性基板の屈折率を表す。)」のに対し、引用発明の「角度変換手段」についてこのような限定がない点。

〈相違点1-4〉
本件発明では「隣接する前記光散乱性部の間隔のうち最も短い間隔である前記光透過性開口部の幅Wが、100nm以上20μm以下であ」るのに対し、引用発明の隣接する「角度変換手段」の間隔についてこのような限定がない点。

(4)相違点についての判断
ア 相違点1-1について
引用発明の「角度変換手段」は、「光の取り出し効率を向上させ」るために、「前記有機発光層から出射された光のうち前記透明基板の空気との境界面に対して全反射の臨界角よりも大きい角度で出射された光の角度を該臨界角よりも小さい角度に変換して、変換された光を前記境界面に入射させる」ものであり、上記(3)ウで述べたとおり、「有機発光層から出射された光」の進路を変更する手段である。
そして、エレクトロルミネッセンス(EL)発光層を支持する透明基板側から光を取り出すEL素子の技術分野において、EL素子の光の取り出し効率を向上させるために、前記EL発光層から出射された光の進路を変更する手段として、光散乱性反射部材を採用することは、本件出願時において当業者に周知の技術的事項である(一例として、特開平10-189237号公報(特に、段落【0072】、図1)を参照。)。
すると、引用発明に上記周知技術を適用して、引用発明の「角度変換手段」を構成する「反射部材」を光散乱性反射部材とすることは、当業者にとって容易に想到し得る。
したがって、上記相違点1-1に係る本件発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

イ 相違点1-2について
本件発明では「前記光散乱性部と前記光透過性開口部との界面が凹凸を有」することについて、本件出願の明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0025】には、「また、図9に示すように光散乱性部と光透明性基板との界面は必ずしも平滑な平面である必要もなく、凹凸を有していてもよい。この場合、その凹凸が、散乱に寄与するように形成されていてもよい。」と記載されているから、本件発明の「前記光散乱性部と前記光透過性開口部との界面」の「凹凸」には、散乱に寄与しないように形成された「凹凸」が含まれるということができる。また、請求人は、平成21年8月7日付けの回答書において、「本願請求項1?3の発明では、『光散乱性部』を有しており、この光散乱性部が光散乱の機能を担っている。この『光散乱性部』とそれ以外の部分との界面が『凹凸』を有するというだけであって、この『凹凸』自体は光散乱の機能を有していなくても構わない。このことは、本願明細書の段落[0025]に『図9に示すように光散乱性部と光透明性基板との界面は必ずしも平滑な平面である必要もなく、凹凸を有していてもよい。この場合、その凹凸が、散乱に寄与するように形成されていてもよい』と記載している通りであって、凹凸は散乱に寄与しようが、しまいが問題ではない。」と主張していることからも、本件発明の「前記光散乱性部と前記光透過性開口部との界面」の「凹凸」には、散乱に寄与しないように形成された「凹凸」が含まれるということができる。
すると、本件発明のように「前記光散乱性部と前記光透過性開口部の界面が凹凸を有」することによって新たな効果が生じないから、引用発明の「角度変換手段」と「透明基板」のうち「角度変換手段」が形成されていない部分との界面が凹凸を有するようにすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
したがって、上記相違点1-2に係る本件発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

ウ 相違点1-3について
(ア)本件発明が解決しようとする課題について、本件明細書には、「本発明は、このように、空気/ガラス界面で全反射される臨界角以上の発光光を如何に効率よく散乱させ臨界角より小さい角度で出射させるかに着目して成されたものである。」、「本発明の目的は、有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し効率を向上させた光学素子基板(発光素子基板)を提供することにある。」(段落【0008】を参照。)と記載されている。
そして、以上の本件明細書の記載を受けて、本件発明には、「前記光散乱性部の基板厚み方向の長さLが、下記式(1)により求められること」、「W/L ≦ tan(arcsin(n1/n2))・・・(1)」、「(前記式中、n1は空気の屈折率を表し、n2は光透明性基板の屈折率を表す。)」という技術的事項が記載されている。
ここで、本件明細書の段落【0026】等に照らして上記技術的事項の意味を検討すると、上記式(1)は、光透明性基板上に陽極、発光層、陰極からなる有機エレクトロルミネッセンス素子を形成して前記有機エレクトロルミネッセンス素子から発する光を前記光透明性基板側から取り出すようにした場合に、前記光透明性基板の前記発光層側の基板表面から基板厚み方向に長さLにわたって光散乱性部を形成することによって、前記光散乱性部が形成されない場合に前記光透明性基板の前記発光層側とは反対側の基板表面で前記有機エレクトロルミネッセンス素子から発光される光が全反射されて前記光透明性基板の外部に取り出すことができなかった光を全て、前記光散乱性部で散乱させて、前記有機エレクトロルミネッセンス素子からの光の取り出し効率を向上させることを意味すると認めることができる。

(イ)引用例の上記記載事項ウの段落【0008】には、「異種媒体の境界面での光の屈折率の関係は、スネルの法則により、屈折率n_(1)の媒体から屈折率n_(2) の媒体へ光が進行する場合、n_(1) >n_(2) であればそのときの臨界角θは、」「θ=sin^(-1)(n_(2) /n_(1) )」「で与えられることでよく知られている。図11に有機EL素子の放射光の原理を示す図である。例えばガラス基板1から大気中に放射される光の場合、図11に示すように通常のガラスの屈折率1.5に対し空気の屈折率は1であるので、この場合の臨界角は、」「θ=sin^(-1)(1/1.5)=41.8゜」「となり、θがこの臨界角を越える発光部31からの出射光はガラス基板91と空気の境界面で全反射を生じ大気中に放射されなくなってしまう。」と記載されているから、引用発明の「前記有機発光層から出射された光のうち前記透明基板の空気との境界面に対して全反射の臨界角よりも大きい角度で出射された光」は、θ≧sin^(-1)(n_(2)/n_(1))(n_(1)は透明基板の屈折率、n_(2)は空気の屈折率)以上の出射角で「前記有機発光層から」「前記透明基板内に」出射された光であることは明らかである。
そして、引用発明の「角度変換手段」により「光の取り出し効率を向上させ」ることができる(引用例の上記記載事項オの段落【0019】及び上記記載事項キの段落【0036】を参照。)。また、引用例の上記記載事項カの段落【0026】には、「楔状部材11の高さ及び底辺の幅は、発光部の面積、形状等様々な条件に応じて適宜変更することで、全体として最も光の取り出し効率の良い条件を選択することができる。」と記載されている。
すると、引用発明において、できるだけ光の取り出し効率を向上させるべく、引用発明の「前記有機発光層から出射された光のうち前記透明基板の空気との境界面に対して全反射の臨界角よりも大きい角度で出射された光」を全て「角度変換手段」により進路変更し「該臨界角よりも小さい角度に変換して、変換された光を前記境界面に入射させる」ようにするために、引用発明の「角度変換手段」の「高さ」及び「透明基板」のうち「角度変換手段」が形成されていない部分の幅を、本件発明の式(1)のように設定することは、当業者にとって容易に想到し得る。
以上のとおりであるから、上記相違点1-3に係る本件補正後の請求項1に係る発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

エ 相違点1-4について
(ア)請求人は、平成22年3月24日付けの意見書において、「本件明細書の段落0022及び段落0024には、『光透過性開口部の幅は、100nm以上20μm以下、好ましくは100nm以上10μm以下であることが望ましい』と記載されて」おり、「光透過性開口部の幅をこの範囲に限定して、(1)式を満たす基板厚み方向の長さLを備えるように光散乱性部を形成することにより、段落0014に記載されている『基板正面方向の輝度が向上し、視認性の優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる』効果を得ることができ」る旨主張している。
しかし、本件発明の「隣接する前記光散乱性部の間隔のうち最も短い間隔である前記光透過性開口部の幅Wが、100nm以上20μm以下であ」ることについて、本件明細書には、「前記光透過性開口部の幅Wが、100nm以上20μm以下であることが好ましく」(段落【0012】)、「また、光透過性開口部の幅は、100nm以上、20μm以下、好ましくは、110nm以上、10μm以下であることが望ましい。」(段落【0022】)、「この光透過性開口部の幅は、100nm以上20μm以下、好ましくは100nm以上10μm以下であることが望ましい。」(段落【0024】)と記載されているに過ぎず、前記「幅W」を「100nm以上20μm以下」とすることが、本件発明が解決しようとする課題を解決するうえで望ましいことを裏付ける実験結果等の記載は、本件明細書には存在しない。そして、本件明細書の段落【0024】には、「また、光散乱性部の間隔や、光散乱性部と光透過性開口部の比は任意に設定することができる。」と記載されている。以上の本件明細書の記載に照らすと、本件発明が解決しようとする課題を解決するためには、(1)式を満たす基板厚み方向の長さLを備えるように光散乱性部を光学素子用基板に形成すれば足り、前記「幅W」を「100nm以上20μm以下」とすることは、本件発明が解決しようとする課題を解決するために必要な技術的事項であると認めることはできない。したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(イ)そして、引用発明では、「各画素に前記有機発光層が矩形状に形成され、各画素はそれぞれ所定の間隙をおいてマトリクス状に配置されており、前記反射部材は」「各画素に対応する発光領域を囲むように前記間隙と対向する位置に設置され」るから、引用発明の隣接する「角度変換手段」の間隔は「画素」の幅に等しいということができる。また、引用例の段落【0030】には、「一画素が75×135(μm)の長方形であ」ることが記載されているが、同段落には前記一画素の寸法が「シミュレーションモデルの寸法」であることが記載されているから、引用例の前記記載は、引用発明の隣接する「角度変換手段」の間隔、すなわち「画素」の幅を75μmに限定する趣旨の記載ではなく、「一画素が75×135(μm)の長方形であ」ることが引用発明の「角度変換手段」の間隔、すなわち「画素」の幅の一例であることを示す記載に過ぎないということができる。
すると、引用発明には、隣接する「角度変換手段」の間隔、すなわち「画素」の幅が75μm以外の場合も含まれているということができ、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の技術分野において、画素の幅が100nm以上20μm以下であるものは、本件出願時において当業者に周知の技術的事項であるから(例えば、特開2001-313166号公報(特に、段落【0012】)、特開2002-260856号公報(特に、段落【0025】)を参照。)、本件出願時の周知技術に照らし、引用発明の隣接する「角度変換手段」の間隔、すなわち「画素」の幅には100nm以上20μm以下のものも含まれるということができる。したがって、上記相違点1-4は実質的な相違点ではない。
また、仮に、引用発明に、隣接する「角度変換手段」の間隔、すなわち「画素」の幅が75μm以外の場合も含まれているとまではいえないとしても、既に述べたとおり、「一画素が75×135(μm)の長方形であ」ることは、引用発明の「角度変換手段」の間隔、すなわち「画素」の幅の一例に過ぎないから、引用発明に上記周知技術を適用して、引用例の隣接する「角度変換手段」の間隔、すなわち「画素」の幅を、100nm以上20μm以下とすることは、当業者にとって容易に想到し得る。したがって、上記相違点1-4に係る本件補正後の請求項1に係る発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(5)特許法第29条第2項についての結論
以上のとおり、引用発明に上記相違点1-1?1-4に係る本件発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。
また、本件発明の効果も、引用例に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。
したがって、本件発明は引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 特許法第29条の2について
(1)先願明細書の記載事項
本件出願の出願日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願2002-106999号(特開2003-303677号参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書」という。)には、以下のサ?チの記載が図面とともにある。

サ 「【請求項1】 少なくとも一方が透明または半透明である一対の陽極および陰極からなる電極間に少なくとも発光層を有し、その出光側が、透明基板により支持された自発光素子において、上記透明基板と外部との界面に対して前記発光層から臨界角よりも大きな角度で出射した光を拡散反射させる隔壁を前記透明基板内に設けたことを特徴とする自発光素子。
【請求項2】 前記隔壁が、白色系である請求項1に記載の自発光素子。
【請求項3】 前記隔壁が、絶縁体である請求項1に記載の自発光素子。
【請求項4】 エレクトロルミネッセンス素子である請求項1に記載の自発光素子。」

シ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光取出し効率(出光率)が高く、視認性を向上させたエレクトロルミネッセンス(EL)素子やプラズマディスプレイ(PDP)素子などの自発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、EL素子やPDP素子などの自発光型の素子において、その発光層から発生する光は指向性があまりなく、それを支持する透明基板内に等方的に均一に放出される。放出された光のうち、光取出し面(出光面)に対して臨界角以上の光は、図6の符号11に示すように、全反射を起こし、透明基板20内から外部に光を取り出すことができない。スネルの屈折の法則により屈折率nから空気中に出射される際の全反射の臨界角は次式で表すことができる。
nsinθ_(c)=1 (1)
【0003】図6の基板20の屈折率が一般のガラスや透明樹脂の場合の光取出し効率ηは、凡そ20%でしかなく、外部発光効率(出光率)を制限している最大の要因となっている。・・・(以下略)・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、EL素子やPDP素子などの自発光型の素子の発光層から放出され、光取り出し面に対して臨界角以上の光を、透明基板内で拡散反射させることによって、出光率が高く、視認性を向上させたEL素子やPDP素子などの自発光素子の提供を目的とする。」

ス 「【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくとも一方が透明または半透明である一対の陽極および陰極からなる電極間に少なくとも発光層を有し、その出光側が、透明基板により支持された自発光素子において、上記透明基板と外部との界面に対して前記発光層から臨界角よりも大きな角度で出射した光を拡散反射させる隔壁を前記透明基板内に設けたことを特徴とする自発光素子を提供する。
【0006】
【発明の実施の形態】次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。図1は、本発明の1実施例を示す素子の概略断面図である。本発明の自発光素子は、図1に示すように、透明陽極21および不透明または光反射性陰極23からなる電極間に少なくとも発光層22を有し、その出光側が、透明基板20により支持された自発光素子において、上記透明基板20と外部との界面に対して前記発光層22から臨界角よりも大きな角度で出射した光を拡散反射させる隔壁30を前記透明基板20内に設けたことを特徴としている。なお、上記において陽極と陰極とが逆であって、陰極が透明で、陽極が不透明または光反射性であってもよい。
【0007】上記自発光素子を駆動させると、図2に示すように透明陽極21から出射した光のうちで、臨界角以上の角度成分の光11は隔壁に30によって反射され、透明基板20と空気との界面において臨界角未満の角度の光12として透明基板20から出光する。このように光12を隔壁で反射させるために、隔壁表面に光散乱性を持たせておくことが好ましい。
【0008】隔壁30の高さhは、画素(隔壁)のピッチをdとしたとき次式(2)のようにすることにより、出射光の臨界角以上の角度成分の光11を隔壁に入射させ、角度変換を行うことができる。

例えば(2)式より、屈折率1.5の透明基板20においてピッチ(d)を76μmとすると、隔壁の高さ(h)は85μm以上が望ましい。hが高くなることにより、出射光の正面方向への指向性を向上させることができる。・・・(以下略)・・・
【0009】上記本発明の自発光素子における隔壁30は、白色系であることが好ましい。これより液晶ディスプレイ用カラーフィルターの遮光膜に関する特開平11-271755号公報に開示されているように、上記自発光素子を白基調の背景色のときに使用すると、隔壁30の色により表示画像の視認性を劣化させることがない。上記隔壁30の材料として、白色で反射率の高い硫化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの金属酸化物や金属化合物などの粉末を押し固めたものや、これらの粉末を樹脂に分散させたものなどが使用できる。」

セ 「【0011】図4は、図3のA-A矢視図であり、隔壁30は平行したストライプ状に設けられていることを説明している。このように隔壁30と発光層22とが透明基板20の面方向に交互に配列したストライプ状であってもよいし、図5に示すように隔壁30がドットマトリックス状でもよい。隔壁30をドットマトリックス状にして、各画素内にR、G、Bなどの如く発光色の異なる発光層を設けることにより、フルカラー画像の表示が可能である。
【0012】上記本発明の自発光素子に用いる透明基板20の材質としては、ガラスや、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレンなどの透明樹脂が使用できる。図1に示す実施の形態の自発光素子を形成する場合には、透明基板20がガラスである場合には、機械切削、フォトリソグラフィーによるエッチングなどで隔壁となる溝を形成することができる。また、透明基板20が上記の如き透明樹脂のフィルム、シートまたは板などの場合には、上記のガラス板の加工方法に加えて、隔壁30と同一形状の凸部を有するプレス金型を用いて隔壁30となる溝を連続的に形成することができる。加工の容易性および生産性の点からは透明樹脂を用いることが好ましい。
【0013】上記の如く形成した溝中に、白色で反射率の高い硫化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの白色顔料を充填して隔壁30とすることができる。これらの白色顔料は、樹脂を含む溶液中に分散させて、ブレードなどにより溝に充填してもよいし、熱硬化性樹脂、紫外線または電子線硬化性樹脂中に上記白色顔料を分散させたペーストをブレードなどを用いて溝に充填し、樹脂を硬化させて隔壁とすることもできる。さらに、上記充填後に、その面に上記の如き何れかのクリヤー塗料を薄く塗布および硬化させて表面平滑性を上げることも好ましい。
【0014】次に上記透明基板20の図面上下方の面に、陽極21、発光層22および陰極23および支持基板24を積層することにより、図1に示す構造の本発明の自発光素子が得られる。なお、この場合の支持基板24は必須ではないが、素子の耐久性などの点で設けた方が好ましい。該支持基板24は厚みには特に制限がなく、材質はガラス板や樹脂フィルムやシートである。また、予め、支持基板24に陰極23、発光層22および陽極21を積層してなる素子基板に、上記隔壁30を形成した透明基板20を適当な接着剤で積層して本発明の自発光素子とすることもできる。図2に示す自発光素子は、前記のように発光層22から出射された光の透明基板20からの出光率が向上している。」

ソ 「【0017】本発明の自発光素子としては、EL素子やPDP素子が挙げられるが、特にEL素子が有用である。EL素子である1実施例を以下に説明する。図1を参照して説明する。図1は、本発明の1例のEL表示装置の一部拡大断面図を示す。透明基板20としてアクリル基板(住友化学製、スミペックス、屈折率1.49)を用い、この上に、光重合性のアクリルモノマーを所定の厚みだけスリットコートした。本実施例では硬化後の基板全厚みを0.5mmとした。次に隔壁30を設けるために、型押しを可能とする離型処理した金型を上記基板に押し付け、アクリル基板側より紫外線を所定光量だけ照射した。硬化完了後、金型を剥離することで、ストライプ状の溝を有する基板を得ることができた。ここで基板の寸法を以下の通り設計して作製した。
基板総厚=0.5mm
溝の深さ=0.08mm
溝の幅=0.051mm
溝のピッチ=0.076mm
【0018】次に上記溝に、白色顔料粉末(酸化チタン)を封入し、封入を確実にするために、アクリルモノマーを白色顔料を充填した溝内に滴下し、スピンコートによって全表面に薄膜を形成し、後に紫外線により硬化させた。この薄膜層形成には、これ以外にEL層の形成プロセスを容易にする効果も持つ。
【0019】続いて上記基板20に、次のようにしてEL層を形成した。ITO透明電極21をスパッタした。発光層は、発光有機材料Alq_(3)[tris(8-hydroxyquinoline)aluminium]と正孔注入層TPD[N,N'-diphenyl-N,N'-bis(3-methyl-phenyl)-1,1-diphenyl-4,4'-diamine]を積層した。透明陽極21としてはITOを、光反射性陰極23としてMg-Ag合金を用いた。TPDとITOが接する積層順とした。
【0020】ITO21は150nmとし、高真空下で予熱を十分に行った昇華精製装置で精製したTPDをタングステンボードに装荷して抵抗加熱法で50nm成膜した。そして、この上に昇華精製されたAlq_(3)を石英ボードに装荷して抵抗加熱法で30nm成膜した。最後にMg-Ag合金(Mg:Ag=10:1)を厚さ150nmになるように蒸着し、さらにその上に保護層としてAgを200nmの厚みになるように蒸着し、最後に別に用意したガラス板24とUV硬化シール材により封止し、有機EL表示装置のパネル部を得た。このEL表示装置にコントローラーと電源回路を接続して本発明のEL表示装置を完成した。
【0021】続いてこのEL表示装置の電源回路を動作させ、点灯表示させ、輝度の向上を確認するため、輝度測定装置(トプコンBM-7)を用いた。測定の結果、同等で、屈折率層が単一な一般の基板に同等のEL層パターンを形成した表示装置に比較して、EL発光の出光率が約20%向上することが確認できた。これは、基板20内に放射されたEL光は通常の基板ならば、垂直方向から41.8度から臨界角を超えて全反射して取り出せないのに対し、本発明では、隔壁30が形成されているため、放射光はその分、臨界角が寝ることになり、その分の放射光は全反射されずに出光させたためと考える。
【0022】
【発明の効果】上記の如き本発明によれば、EL素子やPDP素子などの自発光型の素子の発光層から放出され、光取り出し面に対して臨界角以上の光を、透明基板内で拡散反射させることによって、出光率が高く、視認性を向上させたEL素子やPDP素子などの自発光素子を提供することができる。」

タ 図1?2から、透明基板20の発光層が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に高さhにわたって隔壁30が形成されていると認めることができる。

チ 図5から、隔壁30は平面視して格子縞状の構造であり、隔壁30により画された各画素がドットマトリックス状に分布していると認めることができる。

(2)先願明細書に記載された発明の認定
先願明細書の上記記載事項サ?チから、先願明細書には次の発明が記載されていると認めることができる。

「少なくとも一方が透明または半透明である一対の陽極および陰極からなる電極間に有機発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子と、前記有機エレクトロルミネッセンス素子の出光側を支持する透明基板を備えた有機エレクトロルミネッセンス表示装置において、
前記透明基板と空気との界面に対して前記有機発光層から全反射の臨界角θ_(c)よりも大きな角度で出射した光を拡散反射させる隔壁を前記透明基板内に設け、
前記隔壁は、ピッチd、前記透明基板の前記有機発光層が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に高さhにわたって形成され、h≧d/tanθ_(c)であり、
前記隔壁は、前記透明基板に形成された溝に酸化チタンからなる白色顔料粉末を封入することによって形成され、
前記隔壁表面は光散乱性を持ち、
前記隔壁は平面視して格子縞状の構造であり、
前記隔壁のピッチは画素のピッチであって、前記隔壁により画された各画素がドットマトリックス状に分布している、
出光率が高い有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」(以下「先願発明」という。)

(3)本件発明と先願発明との対比
ア 先願発明の「陽極」、「有機発光層」、「陰極」は、それぞれ、本件発明の「陽極」、「少なくとも発光層からなる有機層」、「陰極」に相当し、先願発明の「少なくとも一方が透明または半透明である一対の陽極および陰極からなる電極間に有機発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子」は、本件発明の「陽極、少なくとも発光層からなる有機層及び陰極を具備する有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。
また、先願発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子の出光側を支持する透明基板」は、本件発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し側に配置される光学素子用基板」に相当する。

イ 先願発明の「透明基板」は「有機エレクトロルミネッセンス素子の出光側を支持」するとともに、先願発明の「有機発光層から」「出射した光」は「表示装置」として利用されるから、先願発明の「透明基板」は「有機発光層から」「出射した光」を透過するものであること、及び、先願発明の「有機発光層から」「出射した光」が可視光であることは明らかである。
すると、先願発明の「透明基板」が「有機発光層から」「出射した光」を透過するものであることは、本件発明の「光学素子用基板は、可視光を透過する光透明性基板からな」ることに相当する。

ウ 先願発明の「隔壁」は「前記透明基板に形成された溝に酸化チタンからなる白色顔料粉末を封入することによって形成され」、「表面は光散乱性を持ち」、「有機発光層から」「出射した光を拡散反射させる」ものであり、また、上記イで述べたとおり、先願発明の「有機発光層から」「出射した光」は可視光であるから、先願発明の「前記透明基板に形成された溝に酸化チタンからなる白色顔料粉末を封入することによって形成され」、「表面は光散乱性を持ち」、「有機発光層から」「出射した光を拡散反射させる」「隔壁」は、本件発明の「可視光を散乱する光散乱性部」に相当する。
また、先願発明の「隔壁は平面視して格子縞状の構造であ」ることは、本件発明の「光散乱性部は平面視して格子縞状の構造をな」すことに相当する。
さらに、先願発明の「透明基板」は「前記透明基板の前記有機発光層が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に高さhにわたって」「前記透明基板内に設け」られる「隔壁」を備えることは、本件発明の「光学素子用基板は」「前記光透明性基板内の前記発光層側に形成され、可視光を散乱する光散乱性部」「を具備する」ことに相当する。

エ 上記イで述べたとおり、先願発明の「透明基板」は「有機発光層から」「出射した光」を透過するものであるから、先願発明の「透明基板」のうち「隔壁」が形成されていない部分が「有機発光層から」「出射した光」を透過させることは明らかである。また、上記イで述べたとおり、先願発明の「有機発光層から」「出射した光」は可視光である。
したがって、先願発明の「透明基板」のうち「前記有機発光層が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に高さhにわたって」「平面視して格子縞状の構造であ」る「隔壁」が形成されていない部分は、本件発明の「可視光を透過する光透過性開口部」に相当し、先願発明の「透明基板」は「前記有機発光層が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に高さhにわたって」「隔壁」が形成されていない部分を備えることは、本件発明の「光学素子用基板は」「前記光透明性基板内の前記発光層側に形成され」「可視光を透過する光透過性開口部を具備する」ことに相当する。

オ 先願発明の「前記透明基板と空気との界面に対して前記有機発光層から全反射の臨界角θ_(c)よりも大きな角度で出射した光を拡散反射させる隔壁」「は、ピッチd、前記透明基板の前記有機発光層が形成されている側の基板表面から基板厚み方向に高さhにわたって形成され、h≧d/tanθ_(c)であ」ることは、本件発明の「前記光散乱性部の基板厚み方向の長さLが、下記式(1)により求められること」、「W/L ≦ tan(arcsin(n1/n2))・・・(1)」、「(前記式中、n1は空気の屈折率を表し、n2は光透明性基板の屈折率を表す。)」に相当する。

カ 以上から、本件発明と先願発明とは、

「陽極、少なくとも発光層からなる有機層及び陰極を具備する有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられ、前記有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し側に配置される光学素子用基板であって、
前記光学素子用基板は、可視光を透過する光透明性基板からなり、前記光透明性基板内の前記発光層側に形成され、可視光を散乱する光散乱性部および可視光を透過する光透過性開口部を具備するものであり、
前記光散乱性部は平面視して格子縞状の構造をなし、
前記光散乱性部の基板厚み方向の長さLが、下記式(1)により求められることを特徴とする光学素子用基板。
W/L ≦ tan(arcsin(n1/n2))・・・(1)
(前記式中、n1は空気の屈折率を表し、n2は光透明性基板の屈折率を表す。)」

である点で一致し、以下の点で一応相違する。

〈相違点2-1〉
本件発明では「前記光散乱性部と前記光透過性開口部との界面が凹凸を有」するのに対し、先願発明の「隔壁」と「透明基板」のうち「隔壁」が形成されていない部分との界面の態様についてこのような限定がない点。

〈相違点2-2〉
本件発明では「隣接する前記光散乱性部の間隔のうち最も短い間隔である前記光透過性開口部の幅Wが、100nm以上20μm以下であ」るのに対し、先願発明の隣接する「隔壁」の間隔についてこのような限定がないない点。

(4)相違点についての判断
ア 相違点2-1について
本件発明では「前記光散乱性部と前記光透過性開口部との界面が凹凸を有」することについて、本件明細書の段落【0025】には、「また、図9に示すように光散乱性部と光透明性基板との界面は必ずしも平滑な平面である必要もなく、凹凸を有していてもよい。この場合、その凹凸が、散乱に寄与するように形成されていてもよい。」と記載されているから、本件発明の「前記光散乱性部と前記光透過性開口部との界面」の「凹凸」には、散乱に寄与しないように形成された「凹凸」が含まれるということができる。また、請求人は、平成21年8月7日付けの回答書において、「本願請求項1?3の発明では、『光散乱性部』を有しており、この光散乱性部が光散乱の機能を担っている。この『光散乱性部』とそれ以外の部分との界面が『凹凸』を有するというだけであって、この『凹凸』自体は光散乱の機能を有していなくても構わない。このことは、本願明細書の段落[0025]に『図9に示すように光散乱性部と光透明性基板との界面は必ずしも平滑な平面である必要もなく、凹凸を有していてもよい。この場合、その凹凸が、散乱に寄与するように形成されていてもよい』と記載している通りであって、凹凸は散乱に寄与しようが、しまいが問題ではない。」と主張していることからも、本件発明の「前記光散乱性部と前記光透過性開口部との界面」の「凹凸」には、散乱に寄与しないように形成された「凹凸」が含まれるということができる。
すると、本件発明のように「前記光散乱性部と前記光透過性開口部の界面が凹凸を有」することによって新たな効果が生じないから、上記一応の相違点2-1は課題解決のための設計上の微差に過ぎない。

イ 相違点2-2について
(ア)請求人は、平成22年3月24日付けの意見書において、「本件明細書の段落0022及び段落0024には、『光透過性開口部の幅は、100nm以上20μm以下、好ましくは100nm以上10μm以下であることが望ましい』と記載されて」おり、「光透過性開口部の幅をこの範囲に限定して、(1)式を満たす基板厚み方向の長さLを備えるように光散乱性部を形成することにより、段落0014に記載されている『基板正面方向の輝度が向上し、視認性の優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる』効果を得ることができ」る旨主張している。
しかし、本件発明の「隣接する前記光散乱性部の間隔のうち最も短い間隔である前記光透過性開口部の幅Wが、100nm以上20μm以下であ」ることについて、本件明細書には、「前記光透過性開口部の幅Wが、100nm以上20μm以下であることが好ましく」(段落【0012】)、「また、光透過性開口部の幅は、100nm以上、20μm以下、好ましくは、110nm以上、10μm以下であることが望ましい。」(段落【0022】)、「この光透過性開口部の幅は、100nm以上20μm以下、好ましくは100nm以上10μm以下であることが望ましい。」(段落【0024】)と記載されているに過ぎず、前記「幅W」を「100nm以上20μm以下」とすることが、本件発明が解決しようとする課題を解決するうえで望ましいことを裏付ける実験結果等の記載は、本件明細書には存在しない。そして、本件明細書の段落【0024】には、「また、光散乱性部の間隔や、光散乱性部と光透過性開口部の比は任意に設定することができる。」と記載されている。以上の本件明細書の記載に照らすと、本件発明が解決しようとする課題を解決するためには、(1)式を満たす基板厚み方向の長さLを備えるように光散乱性部を光学素子用基板に形成すれば足り、前記「幅W」を「100nm以上20μm以下」とすることは、本件発明が解決しようとする課題を解決するために必要な技術的事項であると認めることはできない。したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(イ)そして、先願明細書の図2に照らし、先願発明の「隔壁のピッチ」すなわち「画素のピッチ」は、「画素」の幅であると認めることができる。また、先願明細書の段落【0008】には、「例えば(2)式より、屈折率1.5の透明基板20においてピッチ(d)を76μmとする」と記載され、先願明細書の段落【0017】には「溝のピッチ=0.076mm」と記載されているが、段落【0008】の前記記載には「例えば」と記載されており、段落【0017】には前記記載の前に「本発明の自発光素子としては、EL素子やPDP素子が挙げられるが、特にEL素子が有用である。EL素子である1実施例を以下に説明する。」と記載されているから、先願明細書の前記記載は、先願発明の「隔壁のピッチ」、すなわち「画素」の幅を「76μm」に限定する趣旨の記載ではなく、「76μm」は先願発明の「隔壁のピッチ」、すなわち「画素」の幅の一例であることを示す記載に過ぎないということができる。
すると、先願発明には、「隔壁のピッチ」、すなわち「画素」の幅が76μm以外の場合も含まれているということができ、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の技術分野において、画素の幅が100nm以上20μm以下であるものは、本件出願時において当業者に周知の技術的事項であるから(例えば、特開2001-313166号公報(特に、段落【0012】)、特開2002-260856号公報(特に、段落【0025】)を参照。)、本件出願時の周知技術に照らし、先願発明の「画素」の幅には100nm以上20μm以下のものも含まれるということができる。したがって、上記一応の相違点2-2は相違点ではない。
また、仮に、先願発明に、「隔壁のピッチ」、すなわち「画素」の幅が76μm以外の場合も含まれているとまではいえないとしても、既に述べたとおり、「76μm」は先願発明の「隔壁のピッチ」、すなわち「画素」の幅の一例に過ぎず、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の技術分野において、画素の幅が100nm以上20μm以下であるものは、本件出願時において当業者に周知の技術的事項であるから(例えば、特開2001-313166号公報(特に、段落【0012】)、特開2002-260856号公報(特に、段落【0025】)を参照。)、上記一応の相違点2-2は課題解決のための設計上の微差に過ぎない。

ウ 以上のとおりであるから、本件発明は先願発明と実質的に同一である。

(5)本件発明と先願発明の発明者及び出願人の関係
本件発明の発明者が先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められない。

(6)特許法第29条の2についての結論
以上述べたとおり、本件発明は先願明細書に記載された発明と実質的に同一であり、かつ、本件発明の発明者が先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないから、本件発明は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、同法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
そして、本件発明が特許を受けることができない以上、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶されるべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-31 
結審通知日 2010-04-06 
審決日 2010-04-19 
出願番号 特願2003-282202(P2003-282202)
審決分類 P 1 8・ 16- WZ (H05B)
P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東松 修太郎小西 隆  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 日夏 貴史
小松 徹三
発明の名称 光学素子用基板及び有機エレクトロルミネッセンス素子並びに有機エレクトロルミネッセンス表示装置  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 佐伯 義文  

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