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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1222789
審判番号 不服2007-25373  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-14 
確定日 2010-09-01 
事件の表示 平成10年特許願第 16752号「水質浄化機構」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月 3日出願公開、特開平11-207350〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成10年1月29日の出願であって、同年11月9日に明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成17年7月8日付けで拒絶理由が通知され、同年9月8日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出された。その後、平成19年4月4日付けで拒絶理由が通知され、同年6月7日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、同年7月27日付けで同手続補正書に係る補正の却下及び拒絶査定がなされ、同年9月14日に拒絶査定不服審判請求され、同年10月12日に明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成22年2月1日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋が通知され、同年4月2日に回答書が提出されたものである。

2.平成19年10月12日付け手続補正書による補正についての補正却下の決定

[補正却下の結論]

平成19年10月12日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]

平成19年10月12日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、平成17年9月8日付けで補正された特許請求の範囲である
「 【請求項1】 処理対象液の水質を電気分解により改善する機構であって、中性pH領域における電気分解により陰極電極の電極表面に析出した陽イオンの水酸化物などの付着物を、機械的操作によって脱離させる除去手段を有すると共に、電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にあるようにし、処理対象液に含まれる陽イオンを析出させてこれを除去するようにしたことを特徴とする水質浄化機構。
【請求項2】 前記中性pH領域が約pH6から約pH9の範囲に設定された請求項1記載の水質浄化機構。
【請求項3】 陽極電極と陰極電極との相互間で処理対象液の電気分解を行うと共に前記両電極の間に電気絶縁性と弾力性を有する除去手段を設けこれを駆動して付着物を脱離せしめるようにした請求項1又は2記載の水質浄化機構。」を
「 【請求項1】 風呂やプール、養魚水槽、クーリングタワーの処理対象液の水質を電気分解により改善する機構であって、中性pH領域における電気分解により陰極電極の電極表面に析出した陽イオンの水酸化物などの付着物を、機械的操作によって脱離させる除去手段を有すると共に、電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にして電極表面に析出する付着物が多くなるようにし、処理対象液に含まれる陽イオンを意図的に析出させて除去するようにし、系内の余剰陽イオンを積極的に軽減するようにしたことを特徴とする水質浄化機構。」
と補正するものである。
本件補正は、請求項2及び3を削除し、
請求項1において、「処理対象液」を「風呂やプール、養魚水槽、クーリングタワーの処理対象液」とし、「電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にあるようにし、」を「電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にして電極表面に析出する付着物が多くなるようにし、」とし、「陽イオンを析出させてこれを除去するようにした」を「陽イオンを意図的に析出させて除去するようにし、系内の余剰陽イオンを積極的に軽減するようにした」とするものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び第2号に該当するものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて検討する。
(1)引用例
本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-70584号公報(平成19年4月4日付け拒絶理由で引用文献3として引用されたもの。以下、「引用例1」という。)には次の事項が記載されている。
(1-1)「【請求項1】 極性の異なる電極を有する電解槽と、電解槽の電極間に通電することにより該電極間で電気分解を起こさせて電解槽中の殺菌対象水を浄化する駆動手段と、駆動手段を制御して浄化運転を行う制御手段とを備える電解殺菌装置であって、
・・・・・・電解殺菌装置。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1-2)「【発明の属する技術分野】本発明は、例えば浴槽水などの殺菌対象水を電解作用により浄化する電解殺菌装置に関する。」(【0001】)
(1-3)「上記実施例では、追焚に関する回路や給湯装置を有する強制循環式の風呂ユニットに本発明の電解殺菌装置を組み込んだ形態にしている」(【0029】)
(1-4)「(5) 電解槽6は、図1に示す構造の場合だと、・・・・・・正の電極6b側に発生する有効塩素が一対の電極6b、6c間において拡散する速度にバラツキが発生しやすい。これを考慮して、電解槽6において一対の電極6b、6cの間に、・・・・・・例えば・・・・・・メッシュシート16を配置するようにしてもよい。」(【0033】)
(1-5)「本発明の一実施例の電解殺菌装置を備える風呂ユニットの構成図」とされる第1図を見ると、部材6bと6cの間には何も視認されず、上記(1-4)の記載事項、すなわち、電極6bと6cの間に何も配置しないことを窺うことができる。

本願出願前に頒布された刊行物である実願昭57-180549号(実開昭59-86299号)のマイクロフィルム(平成19年4月4日付け拒絶理由で引用文献1として引用されたもの。以下、「引用例2」という。)には次の事項が記載されている。
(2-1)「地熱井から地熱熱水利用施設に地熱熱水を供給する管路の途中に貯留タンクを設け、このタンク内に直流電源が接続された電極を地熱熱水中に臨むように設けたことを特徴とする地熱熱水のスケール除去装置。」(実用新案登録請求の範囲)
(2-2)「このように構成された地熱熱水のスケール除去装置においては、・・・・・・スケールの原因となる不純物を析出させ、除去することができる。これは両電極6a、6bに・・・・・・直流電圧を印加して・・・・・・この地熱熱水3を電解質溶液として両電極6a、6b付近で化学変化を起こさせる、換言すれば電気分解することができるからである。すなわち、・・・・・・陰極6b側では・・・・・・スケールの原因となる金属イオン例えばカルシウムCa^(2+)、カリウムK^(+)は還元されて陰極6bに析出する。」(4頁12行?5頁5行)
(2-3)「勿論タンク1外部から加振器により陰極6bに断続的に機械的振動を与え、析出物を陰極6bより剥離させタンク1内に沈澱させることも可能である。」(5頁15?18行)

本願出願前に頒布された刊行物である実願平4-69025号(実開平6-21795号)のCD-ROM(平成19年4月4日付け拒絶理由で引用文献5として引用されたもの。以下、「引用例3」という。)には次の事項が記載されている。
(3-1)「この考案は、微生物類に対し殺菌力を有する金属イオン水を短時間内で効率的に製造する装置に関するものである。」(【0001】)
(3-2)「【考案が解決しようとする課題点】
直流電流を通すと,水の電気分解により生成する酸素や水素が金属イオンと化合してできる金属酸化物や金属水酸化物が電極に付着して金属イオンの発生を妨げる。」(【0003】)
(3-3)「【課題を解決するための手段】
・・・・・・水槽3に水8を入れた時、水没するように金属電極1及び金属電極2を取り付け、これらと直流電源4を被覆電線5で結び、送電される直流電気により、金属イオンが発生するようにする。また金属電極表面に付着する金属酸化物などの不純物は、刷毛6によりこすり取られ、金属電極表面は常時清浄に保たれる。」(【0004】)

本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-39072号公報(平成19年7月27日付け拒絶査定の備考欄に記載されたもの。以下、「周知例1」という。)には周知事項として次の事項が記載されている。
(4-1)「【従来の技術】・・・・・・浴槽水を浄化するものが考えられている。
・・・・・・
電解槽を駆動させると、正極性に設定される電極の表面から金属イオンが溶出されるが、負極性に設定される電極の表面には浴槽水中のCa、Mgイオンが付着するようになる・・・・・・」(【0002】?【0004】)
(4-2)「【発明が解決しようとする課題】・・・・・・長期間の使用に伴い、電解槽の一対の電極に付着するCa、Mgイオンなどのスケールが少しずつ堆積することになる。このようなスケールの堆積が多くなると、浄化運転時において電解槽による電解作用が不十分となるなど、浴槽水の浄化能力が著しく低下することになってしまう。
したがって、本発明は、適切な時期に、積極的に電極に付着するスケールを除去させるようにして、電解槽の所期の浄化能力を長期間にわたって維持できるようにすることを課題とする。」(【0005】?【0006】)

本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-299955号公報(以下、「周知例2」という。)には、周知事項として次の事項が記載されている。
(5-1)「近年、・・・・・・プール水、循環浴槽水・・・・・・等の一定量の貯留部がある水の・・・・・・細菌汚染の問題が注目されており、このような水の殺菌に有効な手段として前記三次元電解槽による殺菌方法の適用が期待されている。貯留部のある水の殺菌処理においては、通電した該電解槽に被処理水を循環的に供給し、繰り返し処理する方法が行われる。
この場合、被処理水中のMgイオン、Caイオンが陰極上に析出し、多孔質の電極を閉塞する問題を回避するために電源の極性を反転させることが好ましく行われる。」(【0003】?【0004】)

本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-164390号公報(以下、「周知例3」という。)には、周知事項として次の事項が記載されている。
(6-1)「更に水道水には・・・・・・カルシウムイオンやマグネシウムイオンが含有され水道水の配管の内壁へのこれらのイオンの析出による配管の閉塞は大きな問題となっている・・・・・・。被処理水中の前記カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは、該被処理水を固定床型三次元電極電解槽を使用して電気化学的に処理すると該電解槽の陰極や三次元電極上でそれらの水酸化物として該陰極上等に析出したり・・・・・・。」(【0018】)

本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-16286号公報(以下、「周知例4」という。)には、周知事項として次の事項が記載されている。
(7-1)「多くの場合水道水を水源として使用する浴湯水等にもカルシウムイオンやマグネシウムイオンが含有され、該イオンは配管に付着したりする。被処理水中の前記カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは、該被処理水を固定床型三次元電極電解槽を使用して電気化学的に処理すると該電解槽の陰極や三次元電極上でそれらの水酸化物として該陰極上等に析出し除去される。」(3頁右上欄17行?同頁左下欄4行)

(2)対比・判断
(i)引用例1に記載された発明
引用例1の(1-1)に記載されている「電解殺菌装置」は、「電気分解を起こさせて電解槽中の殺菌対象水を浄化する駆動手段と、駆動手段を制御して浄化運転を行う制御手段とを備える」ものであり、同(1-2)には、この「殺菌対象水」として「浴槽水」が例示されている。
そこで、引用例1の(1-1)?(1-2)の記載事項を補正発明の記載ぶりに則して整理して記載すると、引用例1には、
「電気分解を起こさせて電解槽中の殺菌対象水である浴槽水を浄化する駆動手段と、駆動手段を制御して浄化運転を行う制御手段とを備える電解殺菌装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(ii)引用例2に記載された発明
引用例2の(2-1)に記載されている「スケール除去装置」は、同(2-2)の記載によれば、「地熱熱水の電気分解において、スケールの原因となる金属イオン例えばカルシウムCa^(2+)、カリウムK^(+)は還元されて陰極6bに析出する」ものであって、この析出するものに関し、同(2-3)によれば、「タンク1外部から加振器により陰極6bに断続的に機械的振動を与え、析出物を陰極6bより剥離させ」ている。
すなわち、引用例2には、「地熱熱水を電気分解する電極である陰極に析出したカルシウムCa^(2+)、カリウムK^(+)を還元したものに断続的に機械的振動を与え、陰極から剥離する装置」が記載されているとみることができる。
(iii)引用例3に記載された発明
引用例3の(3-2)の「直流電流を通すと、水の電気分解により」の記載から、「直流電流」は「水を電気分解」するものといえるから、同(3-3)の「送電される直流電気により」電気分解がなされることは明らかである。そして、同(3-3)には「水没」した「金属電極」は、「直流電源」と結ばれており、同(3-2)によれば、その「金属電極表面」に「金属酸化物や金属水酸化物」などの不純物が付着し、この不純物は同(3-3)に記載されているように刷毛でこすり取られているいえる。
そうすると、(3-1)?(3-3)の記載によれば、引用例3には、「直流電源と結ばれた水没した金属電極に水の電気分解によってその表面に付着する金属酸化物・金属水酸化物などの不純物を刷毛によりこすり取る装置」が記載されているといえる。
(iv)周知例1?4に記載された技術
周知例1の(4-1)?(4-2)乃至周知例4の(7-1)には、
「浴槽水、水道水を電気分解すると、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等が電解槽の陰極表面に水酸化物等として析出し、その水酸化物等の析出物が陰極表面から除去されていること」が記載されているといえる。
(v)補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。
(あ)補正発明の「風呂やプール、養魚水槽、クーリングタワーの処理対象液」には、本願明細書の「この実施例では・・・・・・大型の二四時間風呂(処理対象槽)のお湯を浄化している。」(【0026】)との記載をみると、「風呂のお湯」が含まれるといえる。また、引用発明の「浴槽水」は引用例1の(1-3)の記載から「風呂のお湯」を含むといえるから、引用発明の「浴槽水」は、補正発明の「風呂やプール、養魚水槽、クーリングタワーの処理対象液」の「風呂の処理対象液」と一致する。
(い)引用発明は、「電気分解を起こさせて・・・・・・殺菌対象水である浴槽水を浄化する・・・・・・電解殺菌装置」であるから、引用発明の「電解殺菌装置」は、水を浄化する装置、すなわち、「水質浄化装置」とみることができる。
一方、補正発明の「処理対象液の水質を電気分解により改善する」とは、本願明細書の「この実施形態の水質浄化機構は処理対象液1の水質を電気分解により改善する機構であり、陽極電極2と陰極電極3との相互間で処理対象液1の電気分解を行う。陽極電極2と陰極電極3とを有する電解槽4と、この電解槽4での電気分解を制御する制御部とを設けている。・・・・・・処理対象槽から処理対象液1の一部を引き出して浄化し再び処理対象槽に戻すようにしている。」(【0018】?【0019】)との記載からみて、水を「浄化する」ことに他ならないから、補正発明の「処理対象液の水質を電気分解により改善する機構」とは、「水質浄化機構」とみることができる。
そして、補正発明の「機構」とは、「機械の内部の構造」(「広辞苑第五版」株式会社岩波書店 1998年11月11日発行 637頁」であるから、「装置」であることは明らかであるし、本願明細書の「この実施形態の水質浄化機構は・・・・・・電解槽4での電気分解を制御する制御部とを設けている」との記載(【0017】)をみると、補正後発明の「水質浄化機構」は、制御部、すなわち、制御手段や明記はされていないものの電解槽での電気分解を行う駆動手段を有しているとみるのが自然である。
よって、引用発明の「電解殺菌装置」は、補正発明の「水質浄化機構」に相当する。
(う)上記(あ)及び(い)の検討を踏まえると、両者は、
「風呂の処理対象液の水質を電気分解により改善する機構である水質浄化機構」の発明である点で一致し、次の点で相違している。
相違点A:補正発明は「中性pH領域における電気分解により陰極電極の電極表面に析出した陽イオンの水酸化物などの付着物を、機械的操作によって脱離させる除去手段を有すると共に、電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にして電極表面に析出する付着物が多くなるようにし、処理対象液に含まれる陽イオンを意図的に析出させて除去するようにし、系内の余剰陽イオンを積極的に軽減するようにした」ものであるのに対し、引用発明はかかる事項を有していない点
そこで、この相違点Aについて検討する。
(か)まず、補正発明の「電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にして電極表面に析出する付着物が多くなるようにし」という特定事項についてみてみると、本願明細書には「中性pH領域は、約pH6から約pH9の範囲に設定することができる。このように設定すると、電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にあるので、電極表面に析出する付着物の除去効率が高い。」(【0012】)と記載されていることをみれば、かかる特定事項は、約pH6から約pH9の範囲の中性域を実質的に特定していると解される。
(き)ここで、引用発明のpH領域についてみてみると、引用発明の浴槽水は水道水を使用しているから(引用例1の【0006】を参照。)、もともとそのpHは中性領域にあり(水道水は「水道法」の規定によりpHの目標値を7.5程度としている。)、しかも、引用例1の(1-4)及び(1-5)から明らかなように、電気分解を行う一対の電極の間を隔てる隔膜(隔壁)がないから、そのpHは約pH6から約pH9の範囲の中性領域にあることは明らかである。
(く)上記(き)の検討を踏まえると、水道水のpHは中性領域にあるといえ、また、水道水を使う浴槽水のpHも中性領域にあるとみることができる。そこで、pHが上記中性領域にある水の電気分解に関する周知技術についてみておくと、周知例1?4に記載されているように、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等が電解槽の陰極表面に水酸化物等として析出すること、その水酸化物等の析出物を陰極表面から除去することは周知技術といえる。そして、このカルシウムイオンやマグネシウムイオン等が電解槽の陰極表面に水酸化物等として析出することは、特開平5-237478号公報(平成19年4月4日付け拒絶理由で引用文献4として引用されたもの。以下、「引用例4」という。)に「塩酸HClを添加するのは、陰極へのカルシウムCaの付着を防止するため」(【0006】)と記載されており、pHが低い領域ではカルシウムの析出が行われないということからも窺うことができる。
(け)そうすると、引用例1には明記されていないが、引用発明は、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等が電解槽の陰極表面に水酸化物等として析出し、その析出した水酸化物等は陰極表面から除去されるべきものといえ、この除去のための手段として、引用例2に記載されている「機械的振動」及び引用例3に記載されている「刷毛」ような機械的操作によって電極から脱離させるものを設けることは当業者であれば適宜なし得ることである。
(こ)また、補正発明の「処理対象液に含まれる陽イオンを意図的に析出させて除去するようにし、系内の余剰陽イオンを積極的に軽減する」なる特定事項は、電気分解を行い、陰極表面に析出するカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の水酸化物を除去することにより当然に導き出される事項である。
(さ)よって、補正発明は引用例1?4及び周知例1?4に記載の技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許をうけることはできない。

(3)補正却下のむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
上記のとおり平成19年10月12日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は平成17年9月8日付け手続補正書によって補正された請求項1?3に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】 処理対象液の水質を電気分解により改善する機構であって、中性pH領域における電気分解により陰極電極の電極表面に析出した陽イオンの水酸化物などの付着物を、機械的操作によって脱離させる除去手段を有すると共に、電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にあるようにし、処理対象液に含まれる陽イオンを析出させてこれを除去するようにしたことを特徴とする水質浄化機構。」

4.引用発明と周知技術
引用例1?4、周知例1?4には、それぞれ、上記2.に示した引用発明及び周知技術が記載されているといえる。

5.対比・判断
本願発明は、上記2.で述べたように、
補正発明の(a)「風呂やプール、養魚水槽、クーリングタワーの処理対象液」を「処理対象液」に、
(b)「電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にして電極表面に析出する付着物が多くなるようにし、」を「電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にあるようにし、」に、
(c)「陽イオンを意図的に析出させて除去するようにし、系内の余剰陽イオンを積極的に軽減するようにした」を「陽イオンを析出させてこれを除去するようにした」に拡張したものである。
してみると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに上記(a)?(c)に係る特定事項により本願発明をさらに限定したものである補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1?4に記載された発明及び周知例1?4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、補正発明と同様の理由により、引用例1?4に記載された発明及び周知例1?4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

6.回答書における補正案について
審判請求人は、平成22年4月2日付けの回答書において、特許請求の範囲の請求項1を、
「A.処理対象液の水質を電気分解により改善する装置であって、
B.中性pH領域における電気分解により陰極電極の電極表面に析出した陽イオンの水酸化物などの付着物を、
C.機械的操作によって脱離させる除去手段を有すると共に、
D.電気分解時のpH領域が陽イオンの水酸化物の溶解度が低い範囲にあるようにし、
E.処理対象液に含まれる陽イオンを析出させてこれを除去するようにし、
F.電気分解時に除去手段を駆動して陰極電極の電極表面に析出した付着物を機械的操作によって脱離せしめるようにしたことを特徴とする水質浄化装置。」
と補正する補正案を提示している。
そこで、この補正案の請求項1に係る発明(以下、「補正案発明」という。)について検討する。
この補正案発明は、
(i)本願発明に「電気分解時に除去手段を駆動して陰極電極の電極表面に析出した付着物を機械的操作によって脱離せしめるようにしたこと」を特定事項としてさらに付け加え、
(ii)本願発明の「水質浄化機構」を「水質浄化装置」と補正するもの
である。
まず、上記(i)に係る特定事項について検討すると、引用例3の(3-2)には「金属電極表面に付着する金属酸化物などの不純物は、刷毛6によりこすり取られ、金属電極表面は常時清浄に保たれる。」と記載されていることからみて、電気分解時に不純物は刷毛によってこすり取られていることが開示されているから、「電気分解時に除去手段を駆動して陰極電極の電極表面に析出した付着物を機械的操作によって脱離せしめるようにしたこと」は当業者であれば適宜なし得るといえる。
また、上記(ii)に係る補正についてみてみると、2.(2)で述べたように「機構」とは、「装置」であることは明らかであるから、「水質浄化機構」を「水質浄化装置」と補正しても、実質的に特定する内容に変わりはなく、かかる補正をもって補正案発明が特許を受けることはできない。。
よって、この補正案を採用できないから補正の機会を与えることはできない。

7.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1?4に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-05 
結審通知日 2010-07-06 
審決日 2010-07-20 
出願番号 特願平10-16752
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C02F)
P 1 8・ 121- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 新司星野 紹英斉藤 信人田口 昌浩  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 安齋 美佐子
小川 慶子
発明の名称 水質浄化機構  

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