• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1222790
審判番号 不服2007-28321  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-17 
確定日 2010-09-01 
事件の表示 特願2002-43002号「取出機の故障診断支援方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年8月26日出願公開、特開2003-236900号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成14年2月20日の出願であって、平成19年9月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年10月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書を補正する手続補正がなされたものである。

II.平成19年10月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年10月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「移動体を移動させることによりチャックを加工機の内外に移動して加工品を取り出す取出機の故障発生までに前記取出機に対して作業者が行った前記移動体の位置の設定変更を含む全ての操作の履歴と、前記故障発生までの前記取出機の状態の履歴とを記憶し、故障発生後に前記の記憶した履歴データを出力することを特徴とする取出機の故障診断支援方法。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、補正前の請求項1(平成19年1月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された発明を特定するために必要な事項である「取出機」について、「移動体を移動させることにより」との限定を付加するとともに、「操作の履歴」について「前記移動体の位置の設定変更を含む」との限定を付加したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に慣用技術の一例として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-133712号公報(以下、「引用例1」という。)には、射出成形機に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「本発明は上記の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、異常発生により停止したマシンの停止原因の究明のために大いに役立ち、且つトラブル対処・保守等のサービスの支援ともなる、機能をもつ射出成形機を提供することにある。」(2ページ左下欄9?13行)
イ.「[課題を解決するための手段]
本発明は上記した目的を達成するため、射出成形機に設けられたマイコンが、設定された各運転条件データと各センサからの計測情報等に基づき成形機の各部を駆動制御する自動運転制御機能と、前記各センサからの計測情報等に基づき少なくとも最新ショットの実測運転データを記憶する実測運転データ記憶機能と、自己異常診断機能とを具備した射出成形機において、前記マイコンは、異常が発生する毎にその発生日時とアラーム内容とをメモリに格納し、該メモリに格納されたアラーム履歴を一覧として出力可能に、構成される。
また、本発明においては好ましくは、前記マイコンには、最新ショットの1サイクル期間内の各駆動制御源の実測ON/OFFタイミングを、項目毎にロジックグラフ化して同一時間軸に沿って併記した形で出力可能とする機能が付加される。
また、本発明においては好ましくは、前記マイコンには、最新ショットの1サイクル期間内の実測運転データを、項目毎にグラフ化して同一時間軸に沿って併記した形で出力可能とする機能が付加される。」(2ページ左下欄14行?右下欄15行)
ウ.「[作 用]
自動成形運転時においては、マイコンは、予め作成された成形プロセス制御プログラムと予め設定された運転条件値とに基づき、マシンの各部に配設された各センサからの計測情報や自身に内蔵された時計手段からの計時情報を参照しつつ、各駆動制御源(例えば、油圧回路中の多数の制御バルブ用のソレノイドや、エアシリンダ系の制御バルブ用のソレノイドや、電磁モータ等)を駆動制御し、一連の成形プロセスをマシンに実行させている。またこの時マイコンは、同時に自己異常診断プログラムによる異常発生の有無の判定処理を実行しており、マシンの各部の運転状態の監視結果を、予めケーススタデイして作成された異常診断情報テーブルを参照して異常であるが否かを判定している。そして、異常の発生を認知すると、マイコンは、異常内容に見合ったアラームメツセージをデイスプレイ装置に表示させると共に、通常は(ごく一部の軽度の異常を除き)マシンを停止させ、同時に、アラーム内容並びにその発生日時をメモリの所定記録エリアに格納する。斯様にして、マイコンは異常が発生する毎にその発生日時とアラーム内容とをメモリに格納している。このメモリに格納されたアラーム履歴は、オペレータ(作業者やサービスマン)による必要に応じた入力操作によって、一覧表の形態で、マイコンに接続されたデイスプレイ装置やプリンタ、もしくは外部コンピュータなどに出力される。
よって、異常が発生してマシンが停止した場合等には、過去のアラーム来歴を直ちに一覧表として確認・参照することが可能となり、異常原因の判定や、マシンの個性に見合った適正なトラブル処理を施すための参考データとして大いに役立ち、メーカー側のサービスマンなどにとっても利便性が高く、サービスの支援ともなる。さらに、定期点検時などにおいても、点検・保守箇所を的確に行う上で大いに役立つこととなる。
また、マイコンは、最新ショットの1サイクル期間内の各駆動制御源の実測ON/OFFタイミングデータや実測運転データをメモリの所定記録エリアに更新記録しており、異常発生によりマシンが停止した時などには、オペレータの所望により、上記最新ショットの1サイクル期間内の各駆動制御源の実測ON/OFFタイミングを、項目毎にロジックグラフ化して同一時間軸に沿って併記した形でデイスプレイやプリンタに出力させたり、上記最新ショットの1サイクル期間内の実測運転データを、項目毎にグラフ化して同一時間軸に沿って併記した形でデイスプレイやプリンタに出力させる。
よって、自動成形運転中にマシンが緊急停止した場合に、上述したlショットサイクルのグラフ出力を参照すれば、どういった経過・タイミングで停止に至ったかを判断するのに大いに役立ち、異常原因の究明が確実・容易になる。また、この1シヨツトサイクルのグラフを利用することにより、1サイクル中の各行程間の無駄な待ち時間等が一目で判明し、成形のサイクルアップを図る上でも有効な判断材料となる。」(2ページ右下欄16行?3ページ左下欄14行)
エ.「上記成形条件設定記憶部31には、キー人力手段50もしくは他の適宜入力手段によって入力された各種成形条件値が、必要に応じ演算処理されて書き替え可能な形で記憶されている。」(4ページ右下欄4?7行)
オ.「前記現運転データ演算処理部33は、前記各センサ20?26及び図示せぬ各センサ群からの計測情報、図示せぬクロック(時計手段)からの計時情報、並びに、前記成形プロセス制御部32からの駆動制御源へのON/OFF指令信号出力等によって、マシン各部の駆動部の位置、速度、圧力、回転数や、各駆動制御源の作動時間、マシン各部の温度、電気制御系の電力等々を、リアルタイムで算出しており、これらの現運転状況データは必要に応じ適宜変換処理されて、必要データが前記成形プロセス制御部32、異常判定部34、駆動制御源ON/OFFタイミング格納部37、実測運転データ格納部38に送出される。」(5ページ左上欄14行?右上欄6行)
カ.「前記アラーム履歴格納部36には、上記のようにして、異常が発生する毎にその発生日時とアラーム内容とが順次格納される。このアラーム履歴格納部36のメモリ容量は、多数のアラーム履歴を格納するのに充分な容量が確保されているが、メモリ容量がオーバーすると、最も旧いデータから順に消去し、最新データを書き込むようにされる。そして、このアラーム履歴格納部36の記憶内容は、オペレータによる前記キー人力手段50等の入力操作により、前記画像・プリンタ出力作成部40を介してアラーム履歴一覧の形で、前記デイスプレイ装置54や、例えばドットプリンタ等のプリンタ55に出力される。」(5ページ右下欄9行?6ページ左上欄1行)
キ.「前記駆動制御源ON/OFFタイミング格納部37には、少なくとも最新ショットの1サイクルにおけるマシン各部の駆動制御源(例えば、油圧回路中の多数の制御バルブ用のソレノイドや、エアシリンダ系の制御バルブ用のソレノイドや、電磁モータ等)の実際のON/OFFタイミングが、書替え可能な形で記憶される。この駆動制御源ON/OFFタイミング格納部37の記憶内容は、オペレータによる前記キー人力手段50等の入力操作により、前記グラフ化処理部39において、最新ショットの1サイクル期間内の各駆動制御源の実測ON/OFFタイミングを、項目毎にロジックグラフ化して同一時間軸に沿って併記した形となるようにグラフ化処理され、これが前記画像・プリンタ出力作成部40から出力されて、前記デイスプレイ装置54で表示、もしくは前記プリンタ55によってプリントアウトされる。
第3図は、駆動制御源ON/OFFタイミング格納部37の記憶内容を上記したロジックグラフにして、前記デイスプレイ装置54の画面に表示させた1例を示しており、同図においては、油圧回路中の各制御バルブ用のソレノイドのON/OFFタイミングが、同一時間軸に沿って併記・グラフ化して表わされている。」(6ページ左上欄7行?右上欄10行)
ク.「前記実測運転データ格納部38には、少なくとも最新ショットの1サイクルにおける、実測射出速度データ、実測チャージ回転数データ、実測型開閉速度データ、実測エジェクト速度データ、実測電力データ等が、書替え可能な形で記憶される。この実測運転データ格納部38の記憶内容も、オペレータによる前記キー人力手段50等の入力操作により、前記グラフ化処理部39において、最新ショットの1サイクル期間内の上記した実測運転データを、項目毎に曲線グラフ化して同一時間軸に沿って併記した形となるようにグラフ化処理され、これが前記画像・プリンタ出力作成部40から出力されて、前記デイスプレイ装置54で表示、もしくは前記プリンタ55によってプリントアウトされる。
第4図は、実測運転データ格納部38の記憶内容を上記したように曲線グラフ化して、前記デイスプレイ装置54の画面に表示した1例を示しており、同図においては、実測射出速度、実測チャージ回転数、実測型開閉速度、実測エジェクト速度、実測電力が、同一時間軸に沿ってグラフ化して表わされている。」(6ページ右上欄11行?左下欄12行)
ケ.「上記した構成をとる本実施例においては、異常が発生してマシンが停止した場合等には、過去のアラーム履歴を直ちに第2図に示した如き一覧表として確認・参照することが可能となり、異常原因の判定や、マシンの個性に見合った適正なトラブル処理を施すための参考データとして大いに役立つこととなる。・・・(中略)・・・また、最新ショットの1サイクル期間内の各駆動制御源の実測ON/OFFタイミングを、項目毎にロジックグラフ化して同一時間軸に沿って併記した形で前記第3図の如く出力させたり、最新ショットの1サイクル期間内の実測運転データを、項目毎にグラフ化して同一時間軸に沿って併記した形で前記第4図の如く出力させたりして、直ちにこれを確認できるので、自動成形運転中にマシンが緊急停止した際に、どういった経過・タイミングで停止に至ったかを判断するのに大いに役立ち、異常原因の究明が確実・容易になる。」(6ページ右下欄2行?7ページ左上欄5行)
コ.「第5図は、前記したロジックグラフによる異常原因の究明手法を示す説明図で、同図に示すように、正常動作時には、サックバック用ソレノイドは、チャージ用ソレノイドがOFFした直後にONし、時間tl後にOFFするが(同図実線で図示)、これが同図で1点鎖線で示すように、サックバック用ソレノイドのON時間がt2のように長くなった場合には、制御バルブ系の不良の可能性が高いと推察され、また、同図で2点鎖線で示すように、サックバック用ソレノイドのONタイミングが△tだけ遅延した場合には、油圧回路の圧抜けの可能性が高いと推察される。」(7ページ左上欄11行?右上欄2行)
サ.上記ア.の「異常発生により停止したマシンの停止原因の究明のために大いに役立ち、且つトラブル対処・保守等のサービスの支援ともなる」との記載、上記ケ.の「異常が発生してマシンが停止した場合等には、過去のアラーム履歴を直ちに第2図に示した如き一覧表として確認・参照することが可能となり、異常原因の判定や、マシンの個性に見合った適正なトラブル処理を施すための参考データとして大いに役立つこととなる。」との記載、及び上記コ.の「制御バルブ系の不良」や「油圧回路の圧抜け」などの記載からみて、マシン停止の原因には故障が含まれることは明らかである。また、引用例1に記載された発明は、マシンの停止原因の究明に役立つものであるから、引用例1には、故障診断のための支援方法、すなわち故障診断支援方法が記載されているものと認められる。
シ.上記ウ.の「自動成形運転時においては、マイコンは、予め作成された成形プロセス制御プログラムと予め設定された運転条件値とに基づき、マシンの各部に配設された各センサからの計測情報や自身に内蔵された時計手段からの計時情報を参照しつつ、各駆動制御源(例えば、油圧回路中の多数の制御バルブ用のソレノイドや、エアシリンダ系の制御バルブ用のソレノイドや、電磁モータ等)を駆動制御し、一連の成形プロセスをマシンに実行させている。」との記載、上記オ.「前記現運転データ演算処理部33は、前記各センサ20?26及び図示せぬ各センサ群からの計測情報、図示せぬクロック(時計手段)からの計時情報、並びに、前記成形プロセス制御部32からの駆動制御源へのON/OFF指令信号出力等によって、マシン各部の駆動部の位置、速度、圧力、回転数や、各駆動制御源の作動時間、マシン各部の温度、電気制御系の電力等々を、リアルタイムで算出しており、これらの現運転状況データは必要に応じ適宜変換処理されて、必要データが前記成形プロセス制御部32、異常判定部34、駆動制御源ON/OFFタイミング格納部37、実測運転データ格納部38に送出される。」との記載、及び上記キ.の「前記駆動制御源ON/OFFタイミング格納部37には、少なくとも最新ショットの1サイクルにおけるマシン各部の駆動制御源(例えば、油圧回路中の多数の制御バルブ用のソレノイドや、エアシリンダ系の制御バルブ用のソレノイドや、電磁モータ等)の実際のON/OFFタイミングが、書替え可能な形で記憶される。」などの記載からみて、ON/OFFタイミングデータは、設定された運転条件データや計測情報などに基づきマイコンから各駆動制御源へ出力されたON/OFF指令信号に対応するものであるから、各駆動制御源を運転操作するためのデータであるということができる。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「異常発生に伴うマシン停止までに射出成形機の各駆動制御源に対して出力されたON/OFFタイミングデータの履歴と、異常発生に伴うマシン停止までの前記射出成形機の実測運転データの履歴とを記憶し、異常発生に伴うマシン停止後に前記の記憶した履歴データを出力する射出成形機の故障診断支援方法。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「異常発生に伴うマシン停止」は、上記サ.の事項からみて、本願補正発明の「故障発生」に相当する。
引用発明の「射出成形機」と本願補正発明の「取出機」は、どちらも「機械」である点で共通する。また、引用発明の「射出成形機の各駆動制御源に対して出力されたON/OFFタイミングデータの履歴」と本願補正発明の「取出機に対して作業者が行った前記移動体の位置の設定変更を含む全ての操作の履歴」とは、作業者が行う操作の履歴かどうかは相違点として検討するとして、「機械に対して行った操作の履歴」である点で共通し、「前記射出成形機の実測運転データの履歴」と「取出機の状態の履歴」とは、どちらも「機械の状態の履歴」である点で共通する。

したがって、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「機械の故障発生までに前記機械に対して行った操作の履歴と、前記故障発生までの前記機械の状態の履歴とを記憶し、故障発生後に前記の記憶した履歴データを出力する機械の故障診断支援方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点]
相違点1:本願補正発明においては、機械が「移動体を移動させることによりチャックを加工機の内外に移動して加工品を取り出す取出機」であり、操作の履歴が「取出機」に対して「作業者が行った」操作の履歴であって「前記移動体の位置の設定変更を含む」操作の履歴であり、状態の履歴が「取出機」の状態の履歴であるのに対して、引用発明においては、機械が射出成形機であり、操作の履歴が射出成形機に対して行った各駆動制御源のON/OFFタイミングデータの履歴であり、状態の履歴が射出成形機の状態の履歴である点。
相違点2:本願補正発明は、「全ての操作の履歴」を記憶するのに対して、引用発明は、全ての操作の履歴かどうか明らかでない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
「移動体を移動させることによりチャックを加工機の内外に移動して加工品を取り出す取出機」は、例えば特開昭57-176142号公報(例えば2ページ左上欄9?11行の「従来、射出成形された成型品を射出成形機から所定の集積場所へ自動的に取出す成型品自動取出装置にあっては」との記載参照)、あるいは特開昭57-167234号公報(例えば1ページ左下欄20行?右下欄2行の「従来、射出成型された成型品を射出成形機から所定の集積場所へ自動的に取出す成型品自動取出装置にあっては」との記載参照)などに見られるように従来周知であり、取出機における検出器などの故障や異常発生などに簡易かつ迅速に対処し得るように取出機に故障診断支援機能を持たせることも、同じく前掲文献(特開昭57-176142号公報の例えば2ページ右上欄10?15行の「本発明の目的は上記した従来の欠点を鑑み、成型品自動取出装置の異常箇所を音声により確認しうるとともに、該異常箇所に対応する修理手段を音声により指示し、正常状態への復帰を極めて短時間に行いうる成型品自動取出装置を提供することにある。」との記載、及び、特開昭57-167234号公報の例えば1ページ右下欄16?20行の「本発明の目的は上記した従来の欠点を解決するため、成型品自動取出装置における自動取出作業の異常、並びに検出器の故障等の異常状態に対応する音声により確認しうる成型品自動取出装置に関するものである。」との記載参照)に示されるように従来周知である。
また、取出機においては、設定データの設定操作や変更操作、あるいは電源投入・遮断の操作は、作業者が行うことは当然であるとしても、移動体の移動等の運転操作、すなわち移動体の位置の設定変更を行う操作についても、作業者が行うのが普通である(例えば特開2001-252954号公報(段落【0026】参照))。
そして、取出機は、チャックを加工機の内外に移動して加工品を取り出す機械であり、射出成形機などの加工機に付設されるものであるから、たとえ射出成形機における技術であっても、取出機に適用し得るものであれば適用してみようと試みることは、当業者であれば普通に考えることである。
そうすると、故障診断支援方法である引用発明を同じく故障診断支援機能を有する従来周知の取出機に適用して、操作の履歴を取出機に対する操作の履歴とし、状態の履歴を取出機の状態の履歴とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。そして、その際、取出機においては、設定データの設定操作や変更操作、電源投入・遮断等の操作、あるいは移動体の位置の設定変更を行う操作は、いずれも作業者によって行われるのが普通であることを考慮すると、操作の履歴を、作業者が行った操作の履歴であって移動体の位置の設定変更を含む操作の履歴とすることは、当業者が当然に採用する事項であり設計的事項にすぎない。
したがって、上記相違点1に係る本願補正発明のように構成することは、当業者が容易に想到できたことである。
(2)相違点2について
一般にどのようなデータをどの範囲まで記録するかは、具体的な装置等に応じて、またメモリの容量や故障の原因分析に対する精度などを考慮して、当業者が適宜決定しうる事項であり、設計的事項にすぎない。
ここで、引用発明においては、例えば上記ウ.の「マイコンは、最新ショットの1サイクル期間内の各駆動制御源の実測ON/OFFタイミングデータや実測運転データをメモリの所定記録エリアに更新記録しており、異常発生によりマシンが停止した時などには、オペレータの所望により、上記最新ショットの1サイクル期間内の各駆動制御源の実測ON/OFFタイミングを、項目毎にロジックグラフ化して同一時間軸に沿って併記した形でデイスプレイやプリンタに出力させたり、上記最新ショットの1サイクル期間内の実測運転データを、項目毎にグラフ化して同一時間軸に沿って併記した形でデイスプレイやプリンタに出力させる。よって、自動成形運転中にマシンが緊急停止した場合に、上述したlショットサイクルのグラフ出力を参照すれば、どういった経過・タイミングで停止に至ったかを判断するのに大いに役立ち、異常原因の究明が確実・容易になる。」との記載などからもわかるように、記憶する操作の履歴は、射出成形機の各駆動制御源を運転操作する上で必要なON/OFFタイミングデータであって、かつ「全て」かどうかはともかく、故障の原因分析を行う上で必要かつ十分なON/OFFタイミングデータであることは、明らかである。
このような引用発明を取出機に適用するに際しては、記憶する操作の履歴を、電源投入・遮断などの操作を含め、「全て」の操作の履歴とするかどうかは、取出機の特性やメモリの容量、故障の原因分析に対する精度などを考慮し、当業者が適宜決定し得る事項というべきである。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「第1に、引用文献1?7はいずれも取出機に関するものではなく、主に射出成形機に関するものです。射出成形機では、取出機のような移動体の位置の設定変更を行うことはありません。」(「[4]本願発明と引用文献との対比」の項参照。)と主張する。しかしながら、上記「(1)相違点1について」でも述べたとおり、取出機は射出成形機などの加工機に付設されるものであるから、当業者であれば、射出成形機における技術を取出機に適用しようと試みることは、当業者が普通に考えることであり、取出機に適用するとすれば、取出機における制御が主に移動体の位置の制御であることから、移動体の位置の設定変更を含む操作の履歴とすることは、むしろ当然というべきである。
また、同じく請求の理由において、「第2に、引用文献1?7のいずれにも、取出機の故障発生までに取出機に対して作業者が行った移動体の位置の設定変更を含む全ての操作の履歴を記憶し出力することは記載されていません。」(同上)と主張する。しかしながら、本願補正発明において「全ての操作の履歴」とは、故障の原因分析に必要な「全て」の操作の履歴を記憶しておけば十分であると解されるところ、どの範囲まで操作の履歴を記憶するかは、メモリの容量や故障の原因分析に対する精度などを考慮して、当業者が適宜決めるべき設計的事項であり、「全ての操作の履歴」を記憶するようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。このことは、上記「(2)相違点2について」でも述べたとおりである。
さらに、同じく請求の理由において、「第3に、引用文献1?7のいずれにも、上記の全ての操作の履歴と、取出機の状態の履歴との、両方を記憶し出力することによって、故障原因の特定と作業者への操作上の注意や取出機の修理、調整などの対策が容易化・迅速化されることは記載されていません。」(同上)と主張する。しかしながら、引用発明においても、操作の履歴と状態の履歴の両方を記憶するとともに、それらを出力できるように構成したものであって、故障や異常原因の特定などを容易に行えるようにしたものであるから、本願発明の効果は当業者が予測し得る範囲内のものである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成19年1月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「チャックを加工機の内外に移動して加工品を取り出す取出機の故障発生までに前記取出機に対して作業者が行った全ての操作の履歴と、前記故障発生までの前記取出機の状態の履歴とを記憶し、故障発生後に前記の記憶した履歴データを出力することを特徴とする取出機の故障診断支援方法。」

2.引用例の記載事項
引用例の記載事項及び引用発明は、前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記II.1.の本願補正発明から、「取出機」についての限定事項である「移動体を移動させることにより」との事項を省くとともに、「操作の履歴」についての限定事項である「前記移動体の位置の設定変更を含む」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3.及び4.に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-18 
結審通知日 2010-06-29 
審決日 2010-07-12 
出願番号 特願2002-43002(P2002-43002)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 祥吾  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 藤村 聖子
山岸 利治
発明の名称 取出機の故障診断支援方法  
代理人 松原 等  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ