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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J |
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管理番号 | 1222841 |
審判番号 | 不服2008-7357 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-03-26 |
確定日 | 2010-09-02 |
事件の表示 | 特願2002-132353「インクジェット記録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月11日出願公開、特開2003-320659〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成14年5月8日の特許出願であって、平成19年9月28日付けの拒絶理由通知に応答して平成19年11月21日付けで手続補正がされたが、平成20年2月18日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成20年3月26日付けで審判請求がされるとともに、平成20年4月18日付けで明細書についての手続補正がされたものである。 その後、前置報告書の内容を通知する旨の当審による審尋に応答して平成22年3月2日付けで回答書が提出され、当審により、平成22年4月9日付けで、平成20年4月18日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶理由が通知され、該拒絶理由の通知に応答して平成22年6月11日付けで明細書についての手続補正がされるとともに同日付けで意見書が提出されたものである。 第2 本願発明の認定 本願の請求項1に係る発明は、平成22年6月11日付けで補正された本願の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 同一色相の濃インクと淡インクを少なくとも一種用いて記録を行なうインクジェット記録方法において、濃インクと淡インクの含有顔料の割合を、重量比で、淡インク/濃インク=0.2?0.8で、前記淡インクの顔料濃度が、3.0重量%以下であり、 前記同一色相の淡インクが、淡マゼンタインク及び/又は淡シアンインクであり、記録媒体上に画像を形成する場合に、同一色相の淡インクの最大デューティで記録媒体に付着できる顔料濃度に達するまでは淡インクの吐出により行い、同一色相の淡インクの最大デューティで記録媒体に付着できる顔料濃度に達した後には、前記淡インクの吐出量を徐々に少なくし、同時に濃インクの吐出を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。」(以下「本願発明」という。) 第3 引用発明の認定 当審による拒絶理由通知に引用された、本願の出願前に頒布された特開平9-183240号公報(以下「引用例」という。)には、以下の記載ア.?エ.が図と共にある。 ア.「【0006】特に、ハイライト部での高画質化を図る他の手法として、染料濃度が異なる同系色について濃および淡インクを用いることにより、画像ハイライト部を淡インクで記録し粒状感を目立たなくするとともに、濃度の高いダーク部は濃インクで記録するようにして記録速度の低下を抑制する、いわゆる濃淡記録方式が提案されている。 【0007】図1は濃淡記録方式のインクジェット記録装置の一従来例の主要部を示したものである。 【0008】この図において、キャリッジ706には、ブラック,シアン,マゼンタ,イエローの4色のそれぞれについて濃および淡インクがそれぞれ貯留された8個のインクタンクと、各インクタンクに貯留される濃または淡インクをそれぞれ吐出するための8個のマルチヘッド702が搭載されている。図2は、これらのマルチヘッド上に配設される複数のインク吐出口を模式的に示す図である。図2に示すように、各ヘッド702は、濃ブラックKk,淡ブラックKu,濃シアンCk,淡シアンCu、濃マゼンタMk,淡マゼンタMu,濃イエローYk,淡イエローYuのヘッドの順で、キャリッジ706上に配設されている。(以下省略。)」 イ.「【0010】ホームポジションhで待機するキャリッジ706は、記録開始命令があると、キャリッジガイド軸708に沿ってx方向に移動しながら、リニアエンコーダ709の読み取り信号に基づいて得られる所定のタイミングでそれぞれのマルチヘッド702のn個(図2では8個)の吐出口801より記録信号に応じてインクを吐出することにより、記録紙707上に吐出口の配列幅に対応した幅で記録を行う。この記録走査により記録紙707上の各画素には、濃ブラックインク,淡ブラックインク,濃シアンインク,淡シアンインク,濃マゼンタインク,淡マゼンタインク,濃イエローインク,淡イエローインクの順でインクが着弾し、記録データに応じた色および濃度を有したドットが形成される。(以下省略。)」 ウ.「【0011】図3は上述のインクジェット記録装置における画像信号処理回路を示すブロック図である。 【0012】スキャナで読取ることにより、あるいはパーソナルコンピュータの処理等によって得られたR,G,Bの原画像信号は、色変換によってイエロー,マゼンタ,シアンの濃度信号Y1,M1,C1に変換され、これら信号はマスキング回路40で色修正が施される。その後、下色除去(UCR)・黒生成回路41で下色除去処理を行い、イエロー,マゼンタ,シアンおよびブラックの新たな画像信号Y36,M36,C36,K36を生成する。次に、ガンマ(γ)補正回路42では、図4に示すガンマ補正テーブルを用いてガンマ補正を行い、この補正後の画像濃度信号Y37,M37,C37,K37は濃淡振り分け回路43で染料濃度の高い濃ブラックインク,濃シアンインク,濃マゼンタインク,濃イエローインクの画像濃度信号Kk38,Ck38,Mk38,Yk38と、染料濃度の低い淡ブラックインク,淡シアンインク,淡マゼンタインク,淡イエローインクの画像信号Ku38,Cu38,Mu38,Yu38の画像濃度信号に振り分けられる。 【0013】図5は濃淡振り分け方法の一例を説明する図である。 【0014】図に示すように、例えば、入力濃度信号のレベルが“128”のときは、淡インクの濃度信号が“255”、濃インクの濃度信号が“0”のレベルでそれぞれ出力される。また、例えば、入力濃度信号のレベルが“128”と“255”の間にあるときは淡インクおよび濃インクの出力濃度信号が所定の比率のレベルで出力される。(以下省略。)」 エ.【0013】及び【0014】が参照する図5からは、入力画像濃度信号レベルが0から128に増加するにつれて淡インクを増やし濃インクは用いず、入力画像濃度信号レベルが128から255に増加するにつれて淡インクを減らして濃インクを増やすこと、及び淡インクの最大出力画像信号レベルが255であることが看取できる。 上記記載ア.?エ.を含む引用例には、次の発明が記載されていると認めることができる。 「同一色相の濃インクと淡インクを用いて記録を行なうインクジェット記録方法において、前記同一色相の淡インクが、淡ブラックインク、淡シアンインク、淡マゼンタインク、淡イエローインクであり、記録紙上に画像を形成する場合に、同一色相の淡インクの最大出力画像濃度信号レベル255で記録紙に付着できる染料濃度に達するまでは淡インクの吐出により行い、同一色相の淡インクの最大出力画像濃度信号レベル255で記録紙に付着できる染料濃度に達した後には、前記淡インクの吐出量を徐々に少なくし、同時に濃インクの吐出を行うインクジェット記録方法。」(以下「引用発明」という。) 第4 対比 引用発明の「記録紙」は、本願発明の「記録媒体」に相当する。 引用発明の「同一色相の淡インクの最大出力画像濃度信号レベル255」は、本願発明の「同一色相の淡インクの最大デューティ」に相当する。 本願発明の「顔料濃度」と引用発明の「染料濃度」は、「色材濃度」である点で共通している。 してみれば、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「同一色相の濃インクと淡インクを少なくとも一種用いて記録を行なうインクジェット記録方法において、 前記同一色相の淡インクが、淡マゼンタインク及び/又は淡シアンインクであり、記録媒体上に画像を形成する場合に、同一色相の淡インクの最大デューティで記録媒体に付着できる色材濃度に達するまでは淡インクの吐出により行い、同一色相の淡インクの最大デューティで記録媒体に付着できる色材濃度に達した後には、前記淡インクの吐出量を徐々に少なくし、同時に濃インクの吐出を行うするインクジェット記録方法。」 <相違点> 「濃インク」と「淡インク」に関して、本願補正発明は「濃インクと淡インクの含有顔料の割合を、重量比で、淡インク/濃インク=0.2?0.8で、前記淡インクの顔料濃度が、3.0重量%以下であり、」と特定されるのに対して、引用発明は該特定を有しない点。 及び、上記特定に伴い、本願発明は顔料インクを用いるので「色材濃度」が「顔料濃度」であるのに対して、引用発明は染料インクを用いるので「色材濃度」が「染料濃度」である点。 第5 判断 <相違点>について (i)染料インクと顔料インクの選択について インクジェット記録には、顔料インクも染料インクも一般的に用いられており、どちらを使うかは、顔料インクは耐水性があるがインク詰まりを起こしやすく、染料インクは耐水性に劣るがインク詰まりを起こしにくい等の特性を考慮して、当業者が適宜選択し得る設計事項である。 (ii)濃インクと淡インクの顔料比及び淡インク顔料の重量%について 顔料インクとしての「濃マゼンタインクと淡マゼンタインク」及び/又は「濃シアンインクと淡シアンインク」であって、濃インクと淡インクの含有顔料の割合が重量比で淡インク/濃インク=0.2?0.8であり、かつ淡インクの顔料濃度が3.0重量%以下のものをインクジェット記録に用いることは周知である。 例えば、本願の出願前に頒布された特開2000-355667号公報及び特開平10-152635号公報を挙げることができる。 特開2000-355667号公報の【表1】には、マゼンタインク(濃マゼンタインク)の顔料濃度が3.0重量%、L-マゼンタインク(淡マゼンタインク)の顔料濃度が0.75重量%、シアンインク(濃シアンインク)の顔料濃度が2.0重量%、L-シアンインク(淡シアンインク)の顔料濃度が0.5重量%と記載されている。 0.75/3.0=0.25、0.5/2.0=0.25であるから、淡インク/濃インク=0.25でありこれは0.2?0.8である。 0.75重量%と0.5重量%は、3.0重量%以下である。 特開平10-152635号公報において、【0086】にはマゼンタインク1(濃マゼンタインク)の顔料濃度が2.0重量%であること、【0089】には淡色マゼンタインク1(淡マゼンタインク)の顔料濃度が0.5重量%であることが記載されている。 0.5/2=0.25は淡インク/濃インク=0.2?0.8に納まっている。 0.5重量%は3.0重量%以下である。 (iii)数値範囲の臨界的意義の有無について 本願明細書の発明の詳細な説明には、濃インクと淡インクの含有顔料の割合及び重量%について、以下の記載a.及びb.がある。 a.「【0021】本発明のインクジェット記録方法において使用する同一色相の「濃インク」、「淡インク」とは、同一色相のインクのうちで、顔料の含有量が相対的に多い方のインクを「濃インク」とし、顔料の含有量が相対的に少ない方のインクを「淡インク」とするものであり、インク中の顔料の含有量により決まるものではないが、濃インクと淡インクの含有顔料の割合を、重量%比で、淡インク/濃インク=0.2?0.8とすることが好ましく、より好ましくは、淡インク/濃インク=0.3?0.6である。」 b.「【0053】 <マゼンタインク> C.I.ピグメントレッド202 4.0重量% (途中省略。) 【0054】 <シアンインク> C.I.ピグメントブルー15:3 4.0重量% (途中省略。) 【0055】 <ライトマゼンタインク> C.I.ピグメントレッド202 1.5重量% (途中省略。) 【0056】 <ライトシアンインク> C.I.ピグメントブルー15:3 1.5重量% (途中省略。)」 上記a.によれば、顔料の含有量が相対的に多い方のインクを「濃インク」と称し、顔料の含有量が相対的に少ない方のインクを「淡インク」と称するだけのことであり、かつ「重量比で、淡インク/濃インク=0.2?0.8」との限定は単に好ましい程度のことである。 上記b.には、淡インク/濃インクの重量比が1.5/4.0=0.37で淡インクの顔料濃度が1.5重量%の1例が示されているのみである。 また、顔料濃度の重量%をどの値にすると所望の色の濃さが得られるか、及びどの重量%で顔料をインクに含ませられるかは顔料の材質等にも依存する。 以上のことから、本願発明における濃インクと淡インクの含有顔料の割合の上限値と下限値、及び重量%の数値範囲の上限値に臨界的な技術的意義は認められない。 (iv)「色材濃度」について インクとして染料インクでなく顔料インクを用いれば、自ずとそのインクによる「色材濃度」は「顔料濃度」となる。 まとめ 上記(i)?(iv)より、引用発明において、本願発明の相違点に係る構成を備えることは、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。 また、該構成を備えることによる効果は、当業者が予測し得る程度のものである。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第6 むすび 本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-06-29 |
結審通知日 | 2010-07-06 |
審決日 | 2010-07-20 |
出願番号 | 特願2002-132353(P2002-132353) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 桐畑 幸▲廣▼ |
特許庁審判長 |
江成 克己 |
特許庁審判官 |
湯本 照基 星野 浩一 |
発明の名称 | インクジェット記録方法 |
代理人 | 平石 利子 |