• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1222881
審判番号 不服2009-21826  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-10 
確定日 2010-09-02 
事件の表示 特願2000-150767「スロットマシン」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月22日出願公開、特開2001-137432〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯

本件の経緯概要は以下のとおりである。

特許出願 平成12年5月23日(特願平11-320810号(出願日:平成11年11月11日)の分割出願)
審査請求 平成18年11月10日
拒絶理由 平成21年5月12日
手続補正 平成21年7月15日
拒絶査定 平成21年8月5日
審判請求・手続補正 平成21年11月10日
審尋 平成22年4月5日
回答書 平成22年6月2日

第2.平成21年11月10日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成21年11月10日付の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

[本件補正前の特許請求の範囲]
「【請求項1】 複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、
第1確率テーブルと、
当該遊技で投入されたメダル枚数を自動投入して再遊技を行う権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率と再遊技役以外の役の当選確率との合算値以上の値を有し、かつ、傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する遊技状態となる第2確率テーブルとを備え、
通常遊技の一般状態では、前記第1確率テーブルが使用され、
通常遊技の一般状態において所定の条件が満たされると、通常遊技の特殊状態となり、前記第2確率テーブルが使用される
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項2】 複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、
第1確率テーブルと、
当該遊技で投入されたメダル枚数を自動投入して再遊技を行う権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率と再遊技役以外の役の当選確率との合算値以上の値を有し、かつ、傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する遊技状態となる第2確率テーブルとを備え、
前記役抽選手段で特別役が当選するとともに、有効ライン上に停止した図柄の組合せが予め定められた特別役の図柄の組合せと一致することを条件に、通常遊技から特別遊技に移行させる特別遊技移行手段を備え、
特別遊技の終了後の所定回数の通常遊技で継続して前記第2確率テーブルを使用する
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項3】 複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、
第1確率テーブルと、
当該遊技で投入されたメダル枚数を自動投入して再遊技を行う権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率と再遊技役以外の役の当選確率との合算値以上の値を有し、かつ、傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する遊技状態となる第2確率テーブルとを備え、
前記役抽選手段で特別役が当選するとともに、有効ライン上に停止した図柄の組合せが予め定められた特別役の図柄の組合せと一致することを条件に、通常遊技から特別遊技に移行させる特別遊技移行手段を備え、
前記役抽選手段における特別役の当選領域には、特別遊技の終了後の通常遊技において前記第1確率テーブルを使用する当選領域と、特別遊技の終了後の通常遊技において前記第2確率テーブルを使用する当選領域とを有する
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項4】 請求項3に記載のスロットマシンにおいて、
前記第2確率テーブルが使用されたときは、前記役抽選手段で特別役が当選するまで継続して前記第2確率テーブルを使用する
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項5】 請求項3に記載のスロットマシンにおいて、
前記第2確率テーブルが使用されている場合において前記役抽選手段で特別役が当選したときは、特別役が入賞するまでの遊技において使用する確率テーブルを前記第1確率テーブルに切り替える
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項6】 複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、
第1確率テーブルと、
当該遊技で投入されたメダル枚数を自動投入して再遊技を行う権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率と再遊技役以外の役の当選確率との合算値以上の値を有し、かつ、傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する遊技状態となる第2確率テーブルとを備え、
前記第1確率テーブル又は前記第2確率テーブルの一方が使用された遊技回数が規定回数に到達したときは、使用する前記確率テーブルを他方に切り替える
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項7】 請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のスロットマシンにおいて、
特別役及び小役の当選確率は、前記第1確率テーブルと前記第2確率テーブルとで等しく設定されている
ことを特徴とするスロットマシン。」

[本件補正後の特許請求の範囲]
「【請求項1】 複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、
遊技の継続によってメダル所有枚数が減少する遊技状態となる第1確率テーブルと、
当該遊技で投入されたメダル枚数を自動投入して再遊技を行う権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率と再遊技役以外の役の当選確率との合算値以上の値を有し、かつ、傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する遊技状態となる第2確率テーブルとを備え、
通常遊技の一般状態では、前記第1確率テーブルが使用され、
通常遊技の一般状態において所定の条件が満たされると、通常遊技の特殊状態となり、前記第2確率テーブルが使用される
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項2】 複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、
遊技の継続によってメダル所有枚数が減少する遊技状態となる第1確率テーブルと、
当該遊技で投入されたメダル枚数を自動投入して再遊技を行う権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率と再遊技役以外の役の当選確率との合算値以上の値を有し、かつ、傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する遊技状態となる第2確率テーブルとを備え、
前記役抽選手段で特別役が当選するとともに、有効ライン上に停止した図柄の組合せが予め定められた特別役の図柄の組合せと一致することを条件に、通常遊技から特別遊技に移行させる特別遊技移行手段を備え、
特別遊技の終了後の所定回数の通常遊技で継続して前記第2確率テーブルを使用する
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項3】 複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、
遊技の継続によってメダル所有枚数が減少する遊技状態となる第1確率テーブルと、
当該遊技で投入されたメダル枚数を自動投入して再遊技を行う権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率と再遊技役以外の役の当選確率との合算値以上の値を有し、かつ、傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する遊技状態となる第2確率テーブルとを備え、
前記役抽選手段で特別役が当選するとともに、有効ライン上に停止した図柄の組合せが予め定められた特別役の図柄の組合せと一致することを条件に、通常遊技から特別遊技に移行させる特別遊技移行手段を備え、
前記役抽選手段における特別役の当選領域には、特別遊技の終了後の通常遊技において前記第1確率テーブルを使用する当選領域と、特別遊技の終了後の通常遊技において前記第2確率テーブルを使用する当選領域とを有する
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項4】 請求項3に記載のスロットマシンにおいて、
前記第2確率テーブルが使用されたときは、前記役抽選手段で特別役が当選するまで継続して前記第2確率テーブルを使用する
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項5】 請求項3に記載のスロットマシンにおいて、
前記第2確率テーブルが使用されている場合において前記役抽選手段で特別役が当選したときは、特別役が入賞するまでの遊技において使用する確率テーブルを前記第1確率テーブルに切り替える
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項6】 複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、
遊技の継続によってメダル所有枚数が減少する遊技状態となる第1確率テーブルと、
当該遊技で投入されたメダル枚数を自動投入して再遊技を行う権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率と再遊技役以外の役の当選確率との合算値以上の値を有し、かつ、傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する遊技状態となる第2確率テーブルとを備え、
前記第1確率テーブル又は前記第2確率テーブルの一方が使用された遊技回数が規定回数に到達したときは、使用する前記確率テーブルを他方に切り替える
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項7】 請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のスロットマシンにおいて、
特別役及び小役の当選確率は、前記第1確率テーブルと前記第2確率テーブルとで等しく設定されている
ことを特徴とするスロットマシン。」

2.本件補正の検討

補正の適否について検討する。
本件補正後の請求項1,2,3,6と、本件補正前の請求項1,2,3,6とをそれぞれ比較すると、本件補正によって、本件補正前の請求項1,2,3,6における「第1確率テーブル」について、「遊技の継続によってメダル所有枚数が減少する遊技状態となる」点が限定されている。そして、請求項4,5,7は従属項であり、本件補正前後において記載の変化はないが、引用する請求項が限定されているのであるから、特許請求の範囲が減縮されている。
よって、本件補正は特許請求の範囲を限定的に減縮するものと認め、本件補正後の請求項2に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討することとする。

3.引用例

原査定の拒絶の理由において引用された特開平9-164236号公報(以下「引用文献1」という。)には図面と共に以下の技術事項が記載されている。

「一般遊技の入賞確率を記憶した確率テーブルと、一般遊技によるゲーム結果により、遊技者に有利な特別遊技を行わせる特別遊技手段とを備えたスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、低確率テーブルと、前記低確率テーブルより入賞確率が高い高確率テーブルとを備え、
前記低確率テーブルと高確率テーブルとの確率テーブルの切り替えを確率テーブル切替手段により制御するとともに、
前記確率テーブル切替手段は、前記特別遊技手段による特別遊技終了後、一般遊技に移行後、一般遊技において低確率テーブルが使用されていたことを条件に、確率テーブルを低確率テーブルから高確率テーブルに切り替えるようにしたことを特徴とするスロットマシン。」(【請求項1】)
「すなわち、請求項1記載の発明は、一般遊技における勝率に関わらず、いわゆるボーナスゲームの終了後、確率テーブルを高確率テーブルに切り替えることで、次回のボーナスゲームが開始されるまでのメダル保ちが良いようにして、比較的長時間、遊技を楽しむことができるようにしたスロットマシンを提供しようとするものである。」(段落【0005】)
「前記遊技制御手段10は、図1に示すように、次の7個の構成を備えている。第1に、抽選手段50は、スタートスイッチ20からのスタート信号に基づいて、乱数を抽選するものである。第2に、確率テーブル60であり、この確率テーブル60には、抽選された乱数の当たりの領域や、図柄の組み合わせ、払い出すメダル数等が記憶され、具体的にはROM中に記憶されている。なお、確率テーブル60には、抽選された乱数の当たりの領域が少なくとも記憶されていれば良く、図柄の組み合わせ、払い出すメダル数等は別のテーブルに記憶しておいても良い。」(段落【0019】?【0020】)
「上記低確率テーブル61は、図2に示すように、3つのいわゆる小役を有している。小役1は、図示しないが、3個のリールの有効ラインに、例えば「スター」の図柄が3個揃った場合であり、この場合には、15枚のメダルが払い出される。また、小役2は、図示しないが、3個のリールの有効ラインに、例えば「マスター」の図柄が3個揃った場合であり、この場合には、9枚のメダルが払い出される。また、小役3は、図示しないが、3個のリールの有効ラインに、例えば「キャメル」の図柄が3個揃った場合であり、この場合には、4枚のメダルが払い出される。また、高確率テーブル62では、図3に示すように、3つのいわゆる小役の入賞確率を10倍にし、いわゆる小役の入賞確率を高確率としている。…なお、いわゆるビックボーナスやリプレイの入賞確率は、変化がないが、ビックボーナスやリプレイの入賞確率も同時に変動させても良い。」(段落【0022】?【0025】)
「第4は、特別遊技手段90であり、一般遊技によるゲーム結果、例えば3個のリールの有効ラインに、例えば「7」の図柄が3個揃った場合には、遊技者に有利な、いわゆるボーナスゲーム等の特別遊技が開始される。」(段落【0026】)
「なお、特別遊技終了後、打止めとならず、即座に、一般遊技に移行するものでは、特別遊技終了直後に、高確率テーブル62に切り替えても良い。低確率テーブル61への切替条件としては、高確率テーブル62に切り替えた後、予め設定された回数の一般遊技が終了したことを条件に、確率テーブル60を高確率テーブル62から低確率テーブル61に戻すようにしている。」(段落【0030】)
「また、図4は、高確率テーブルの第2実施例を示すものである。本第2実施例の特徴は、図3に示した第1実施例のように、小役1?3の全ての入賞確率を10倍にアップすることなく、その一部、例えば小役1の入賞確率のみを10倍にアップした点である。本第2実施例によれば、図3に示した第1実施例のものと比較して、一層、変化に富んだスロットマシンを提供することができる。」(段落【0033】)

上記において段落【0005】の「ボーナスゲーム」とは、段落【0026】における「ボーナスゲーム等の特別遊技」といった記載も踏まえれば、請求項1における「特別遊技」を指すと認められるから、「特別遊技」という表記に統一する。
段落【0020】によれば、確率テーブル60には、少なくとも抽選された乱数の当たりの領域が記憶されていると判断できる。
そして、引用文献1における記載事項及び図面を総合的に勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「スタートスイッチからのスタート信号に基づいて乱数を抽選する抽選手段と、抽選された乱数の当たりの領域が記憶された確率テーブルとを備えたスロットマシンにおいて、
一般遊技によるゲーム結果、例えば3個のリールの有効ラインに、例えば「7」の図柄が3個揃った場合には、遊技者に有利な特別遊技を行わせる特別遊技手段を備え、
前記確率テーブルは、低確率テーブルと、前記低確率テーブルより入賞確率が高い高確率テーブルとを備え、
前記低確率テーブルと高確率テーブルとの確率テーブルの切り替えを確率テーブル切替手段により制御するとともに、
前記確率テーブル切替手段は、前記特別遊技手段による特別遊技終了直後に、確率テーブルを低確率テーブルから高確率テーブルに切り替えるようにし、高確率テーブルに切り替えた後、予め設定された回数の一般遊技が終了したことを条件に、確率テーブルを高確率テーブルから低確率テーブルに戻すようにし、
確率テーブルを高確率テーブルに切り替えることで、メダル保ちが良いようにして、比較的長時間、遊技を楽しむことができるようにしたスロットマシン。」

4.対比

本願補正発明と引用発明を対比する。
a)引用発明における「確率テーブル」について、引用文献1の【図2】?【図4】等を参照すれば、ビッグボーナス、小役1、小役2、小役3及びリプレイ(本願補正発明における「複数の役」に相当。)について、それぞれの「入賞確率」が規定されているものであることがわかる。ここでは「入賞確率」という用語が用いられているが、引用文献1の段落【0019】?【0020】を参照すれば、確率テーブルとはスタートスイッチの操作に基づいて抽選された乱数の当たりの領域が記憶されたものであって、当該乱数が確率テーブルにおける当たりの領域に該当するか否かによって役の抽選が行われることは技術常識であるから、引用発明における「入賞確率」とはいわゆる内部当選の確率、すなわち本願補正発明の「当選確率」に相当するものであると判断することができる。よって、引用発明も「複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備える」点の構成を具備している。
b)引用発明は一般遊技(本願補正発明の「通常遊技」に相当。)において「高確率テーブル」を使用する場合以外は「低確率テーブル」を使用すると解され、そしてスロットマシンの一般遊技における常識事項を踏まえれば、引用発明における「低確率テーブル」とは「遊技の継続によってメダル所有枚数が減少する」ものであることは当然のことである。よって、引用発明の「低確率テーブル」は本願補正発明の「遊技の継続によってメダル所有枚数が減少する遊技状態となる第1確率テーブル」に相当する。
c)本願補正発明の「傾斜値」について、発明の詳細な説明の段落【0030】?【0031】の記載及び【図2】、【図3】の内容も踏まえた上で検討すれば、引用発明においても「高確率テーブル」の「傾斜値」は「低確率テーブル」よりも高く設定されていることは、引用文献1の【図2】と【図3】(又は【図2】と【図4】)とを比較すれば明らかである。また、本願補正発明の「ほぼ現状維持」とはどの程度を意味するのか不明であるが、引用発明も「確率テーブルを高確率テーブルに切り替えることで、メダル保ちが良いようにして、比較的長時間、遊技を楽しむことができるようにした」ものであって、ここで「メダル保ちが良い」とはゲームの消化に伴って手持ちのメダル枚数が急激に減少しないことを意味すると解されるから、本願補正発明におけるメダル所有枚数が「ほぼ現状維持」又は「増加する」のいずれかに該当すると判断できる。よって、引用発明における「高確率テーブル」は本願補正発明における「傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する」点を満たすものである。よって、引用発明は「傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する状態となる第2確率テーブル」を備える点では本願補正発明と一致している。
d)引用発明は「一般遊技によるゲーム結果、例えば3個のリールの有効ラインに、例えば「7」の図柄が3個揃った場合には、遊技者に有利な特別遊技を行わせる」ものであって、ここで「リールの有効ラインに…「7」の図柄が3個揃った」とは本願補正発明の「有効ライン上に停止した図柄の組合せが予め定められた特別役の図柄の組合せと一致する」点に相当する。また、a)においても既述したように、確率テーブルにおいてはビッグボーナス(本願補正発明の「特別役」に相当。)の入賞確率が規定されており、特別役に内部当選した場合に特別役の図柄組合せが揃うことが可能になることは技術常識であるから、引用発明は本願補正発明の「前記役抽選手段で特別役が当選するとともに、有効ライン上に停止した図柄の組合せが予め定められた特別役の図柄の組合せと一致することを条件に、通常遊技から特別遊技に移行させる特別遊技移行手段」を備えていると云える。
e)引用発明は「前記特別遊技手段による特別遊技終了直後に、確率テーブルを低確率テーブルから高確率テーブルに切り替えるようにし、高確率テーブルに切り替えた後、予め設定された回数の一般遊技が終了したことを条件に、確率テーブルを高確率テーブルから低確率テーブルに戻すようにし」ているものであるから、引用発明が本願補正発明の「特別遊技の終了後の所定回数の通常遊技で継続して前記第2確率テーブルを使用する」点を満たすことは明らかである。

したがって、引用発明と本願補正発明は、
「複数の役がそれぞれ所定の当選確率を有するように定められた確率テーブルを用いて、役の抽選を行う役抽選手段を備えるスロットマシンにおいて、
前記確率テーブルは、
遊技の継続によってメダル所有枚数が減少する遊技状態となる第1確率テーブルと、
傾斜値が前記第1確率テーブルより高く設定されることにより遊技の継続によってメダル所有枚数がほぼ現状維持されるか又は増加する遊技状態となる第2確率テーブルとを備え、
前記役抽選手段で特別役が当選するとともに、有効ライン上に停止した図柄の組合せが予め定められた特別役の図柄の組合せと一致することを条件に、通常遊技から特別遊技に移行させる特別遊技移行手段を備え、
特別遊技の終了後の所定回数の通常遊技で継続して前記第2確率テーブルを使用する
スロットマシン。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明の第2確率テーブルは「当該遊技で投入されたメダル枚数を自動投入して再遊技を行う権利を遊技者に与える再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率と再遊技役以外の役の当選確率との合算値以上の値を有し」ているのに対して、引用発明においては不明である点。

5.相違点の判断

上記相違点について検討する。

[相違点1について]
引用発明における確率テーブルにおいても、引用文献1を参照すれば「リプレイ」の入賞確率が規定されており、また引用発明の「リプレイ」が本願補正発明の「当該遊技で投入されたメダル枚数を自動投入して再遊技を行う権利を遊技者に与える再遊技役」に相当することは常識事項である。引用文献1においては低確率テーブルの例である【図2】や、高確率テーブルの例である【図3】、【図4】のいずれにおいても、リプレイの入賞確率は「1/7.3」となっているが、引用文献1には、高確率テーブル62では小役の入賞確率を高確率としている旨の説明に引き続き、「なお、いわゆるビックボーナスやリプレイの入賞確率は、変化がないが、ビックボーナスやリプレイの入賞確率も同時に変動させても良い。」(段落【0025】)という記載があるから、高確率テーブルにおいてはリプレイの入賞確率についても変動させる点の示唆がある。ただし、引用文献1にはそれ以上の具体的記載はないから、リプレイの入賞確率をどの程度とするかは不明である。
これについて検討するに、スロットマシンの分野において、特開平6-335560号公報に「確率変動状態となったときには、○1(当審注:丸数字は○#(#が数字)のように表記する。以下同様。)ビッグボーナスゲーム発生確率のみ、○2レギュラーボーナスゲーム発生確率のみ、○3各小役発生確率のみ、○4再ゲーム発生確率のみ、を変動制御するようにしてもよい。あるいは、前記○1ないし○4のうち、2つ以上のものを選びだして確率変動制御を行なってもよい。」(段落【0110】)という記載や、特開平11-104294号公報に「ステップS3では、制御部50において、BB(ビッグボーナス)、RB(レギュラーボーナス)、SB(シングルボーナス)、リプレイ(再ゲーム)、及びその他の遊技者にとって比較的小さな利益の賞(小物)について、それぞれ入賞率を1回若しくは2回以上のゲームの間又は入賞するまでの間高くするか否かの抽選を行い、その結果を設定する。各賞毎に入賞率を変えたり、各賞について2種以上の入賞率を設けることもできる。」(段落【0088】)という記載があるように、当選確率の設定においてリプレイを含む各入賞役の確率をそれぞれどの程度とするかは、スロットマシンの分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が適宜決定できることに過ぎない。そして、引用発明の高確率テーブルはそもそも「メダル保ちが良い」ようにすることが目的であって、「メダル保ち」の度合いとは、確率テーブルに基づいて決定される各入賞役の当選確率と各入賞役の払出し枚数との全ての条件を総合することによって決定されるものであり、引用文献1における「リプレイの入賞確率も同時に変動させても良い」という記載に接した当業者であれば、所定の「メダル保ち」とする(なお、どの程度の「メダル保ち」とするかは遊技性に応じて当業者が適宜決定できるものであることは云うまでもない。)という条件下で小役の入賞確率と同様にリプレイの入賞確率についても様々に変動させて確率テーブルの設計を当然試みることができる。
ところで本願補正発明においては「再遊技役の当選確率が、いずれの役にも当選しない非当選確率と再遊技役以外の役の当選確率との合算値以上の値を有し」という構成があるが、ここで「再遊技役の当選確率」、「いずれの役にも当選しない非当選確率」と「再遊技役以外の役の当選確率」とを足せば1となると判断され(発明の詳細な説明を参照しても役同士の重複当選の場合等が想定されているとは判断できない。)るから、上記構成は実質的に、再遊技役(リプレイ)の当選確率を1/2以上とする、という設定を意図しているものと判断できる。そして請求人は、審判請求書や平成22年6月2日付の回答書において、リプレイという役が導入された背景を基にリプレイの当選確率を高くすることは原出願当時の技術思想に反し、リプレイの当選確率を特異的に高く設定するという思想は各引用文献から想定できるものではないと主張している。しかし、原出願日前においても、通常時は1/7.3であるリプレイ確率をボーナスフラグ成立後に約1/2.4とするという岡崎産業の「コア」というパチスロ機が遊技店に導入され、当該機種を紹介する記事が雑誌に掲載されており(例えば、パチスロ攻略マガジン1999年7月号、株式会社双葉社、1999年7月1日発行、3ページや、パチスロ必勝ガイドMAX1999年8月号、株式会社白夜書房、1999年8月1日発行、59?61ページなど)、リプレイ確率を特に高くするような当選確率の設定も周知(以下「周知設定例」という。)であったと云える。とすれば、引用発明において、リプレイの入賞確率も変動させて確率テーブルの設定を試みるにあたって、リプレイ確率を特に高くなるように設定することを特段阻害する要因はなく、具体的なリプレイ確率は所定の「メダル保ち」とするべく小役の確率と併せて当業者が通常の創作能力の発揮によって適宜決定できることである。そして周知設定例も踏まえれば、リプレイの当選確率を1/2以上とすることに、格別の技術的困難性があると判断することはできない。
よって、本願補正発明の相違点1にかかる構成とすることは、引用発明及び周知設定例に基づき当業者にとって容易に想到できたことである。

また、本願補正発明の作用効果についても、引用発明及び周知設定例から当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができないものである。

6.むすび

したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について

1.本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本件補正前の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)について、以下検討する。なお、本件補正前の請求項2は、上記第2.[理由]1.の[本件補正前の特許請求の範囲]において記載したとおりである。

2.引用例

引用文献1及びその記載事項は、上記第2[理由]3.に記載したとおりのものである。

3.対比・判断

上記第2[理由]2.及び5.において検討したように、本願発明に限定的減縮を加えたと認められる本願補正発明が、引用発明及び周知設定例に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。
とすれば、本願補正発明から限定を解除した本願発明も同様に、引用発明及び周知設定例に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび

以上のとおり、本件補正は却下され、そして、本願発明は原査定の拒絶の理由に基づいて特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-25 
結審通知日 2010-06-29 
審決日 2010-07-16 
出願番号 特願2000-150767(P2000-150767)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴田 和雄  
特許庁審判長 小原 博生
特許庁審判官 池谷 香次郎
川島 陵司
発明の名称 スロットマシン  
代理人 中村 正  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ