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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効2008800115 | 審決 | 特許 |
不服200627219 | 審決 | 特許 |
不服200417222 | 審決 | 特許 |
不服20056282 | 審決 | 特許 |
不服200422929 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1223273 |
審判番号 | 不服2007-10119 |
総通号数 | 131 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-11-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-04-09 |
確定日 | 2010-09-07 |
事件の表示 | 特願2006-506403「マイクロ流動化された水中油形エマルジョン及びワクチン組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月14日国際公開,WO2004/087204,平成18年 9月28日国内公表,特表2006-522090〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成16年3月22日(パリ条約による優先権主張2003年4月4日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成18年12月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し平成19年4月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願請求項1?15に係る発明は,平成18年11月9日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって,その請求項1は次のとおりである。 「【請求項1】 軽質炭化水素非代謝性油,界面活性剤,及び水性成分を含むワクチンアジュバントとして有用なサブミクロン水中油形エマルジョンであって,前記油が前記水性成分中に分散され,かつ,1μm未満の平均油滴サイズがマイクロ流動化装置を使用して得られる,前記エマルジョン。」(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 3.引用刊行物及びその記載事項 これに対して,原審で引用された,本願優先権主張日前に頒布されたことが明らかな刊行物A(原審の引用文献1)及び同B(原審の引用文献2)にはそれぞれ次のことが記載されている。 3-1.刊行物A(特開2000-219636号公報) (A-1)【0046】?【0047】 「【実施例】例1.油及びレシチンを含むアジュバントの使用 次の例は,油(「油‐レシチンアジュバント」),通常鉱油(軽流動パラフィン)に溶解された,脱油化されたレシチンを含むアジュバントの家畜用ワクチンへの使用を記載する。油‐レシチンアジュバントを記載するアメリカ特許第5,084,269号を参照のこと。油‐レシチンアジュバントを用いるワクチン調製物は,水中油型エマルジョンである。 本明細書におけるすべての%濃度は,特にことわらない限り,体積/体積で供給される。油‐レシチンアジュバントの%値は,特にことわらない限り,水性キャリヤー(連続相)中レシチン(混合物の10%)及びキャリヤー油(DRAKEOL(TM))(混合物の90%)の混合物の濃度を意味する。たとえば,20%の油‐レシチンアジュバントは,2%(v/v)のレシチン(Central Soya, Fort Wayne, Indiana),18%(v/v)のDRAKEOL(TM)5(Penreco, Karns City, Pennsylvania)及び80%(v/v)の塩溶液(この塩溶液含有率は,他の成分,たとえば界面活性剤が添加される場合,低められる)を含む。」 (A-2)【0055】 「例4.中間濃度での界面活性剤を含むアジュバントの使用 アジュバントとして許可できるほど滑らかで且つ十分に有用であるアジュバントエマルジョンを見出すための試みが行われた。20%の油‐レシチンアジュバントエマルジョンは40%の油‐レシチンアジュバントエマルジョンよりも容易に製造されるので,20%の油‐レシチンアジュバントが,それらの実験に使用された。5%の最終油濃度を製造するために1:4の割合でのワクチンへのその添加は,抗原のための用量体積の75%を残すであろう。予備実験は,滑らかな極微小エマルジョン(ほとんどの液滴は1ミクロン以下の直径を有した;図1を参照のこと)が20%の油並びに16%のTween80及びSpan80界面活性剤により調製され得ることを示した。」 (A-3)【図面の簡単な説明】 「【図1】図1は,本発明に従って調製されたエマルジョンの液滴サイズの分布を示すグラフである。線(a)及び(b)は,液滴の約94%が1μm又はそれ以下の直径を有することを示す。」 (A-4)【図1】 3-2.刊行物B(特開平5-508385号公報) (B-1)請求の範囲(公報第1頁左下欄) 「1.(1)代謝可能な油,及び (2)乳化剤, を含んで成り,該油及び該乳化剤が水中油乳剤の形で存在し,該乳剤の油滴の実質上すべてが直径1ミクロン未満であり,そしてポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロックコポリマーの非存在下に存在するアジュバント組成物。」 (B-2)公報第3頁左上欄第3?9行 「現在,米国でヒトへの使用に対して認可されている唯一のアジュバントはアルミニウム塩(アルム)である。これらのアジュバントはB型肝炎,ジフテリア,ポリオ,狂犬病,インフルエンザを初めとするいくつかのワクチンに対して有用であったが,他のワクチン,特に保護のために細胞性免疫(cell-mediated immunity)の刺激が必要とされる場合のワクチンに対しては有用でない。」 (B-3)公報第3頁左上欄第14行?同頁右上欄第8行 「完全フロインドアジュバント(CFA)は実験段階で多くの抗原について成功裏に使用されてきた強力な免疫刺激剤である。CFAは3つの成分,すなわち,鉱油,アーラセルA(Arlacel A)等の乳化剤及びミコバクテリウム・チュバキュロシス(Mycobacterium tuberculosis)等の死滅ミコバクテアよりなる。抗原水溶液をこれらの成分と混合して油中水エマルジョンを作る。しかしながら,CFAは痛み,膿瘍形成及び発熱をはじめとする重篤な副作用を引き起こし,ヒトまたは獣医用のワクチンに使用できない。…不完全フロインドアジュバント(IFA)は細菌成分を除いたCFAに類似している。米国では使用が認可されていないが,他の国ではIFAはいくつかの型のワクチンに対し有用であった。IFAはヒトにおいてはインフルエンザ及びポリオワクチンについて,及び狂犬病,イヌジステンパー及び口蹄疫をはじめとするいくつかの動物ワクチンについて成功裏に使用された。実験によると,IFAで使用する油及び乳化剤の両方がマウスに腫瘍を起こす場合があることが判明した。このことはヒトへの使用については別のアジュバントを用いる方がよいことを示している。」 (B-4)公報第4頁右上欄第4?9行 「この油はアジュバントを投与する対象の体によって代謝されることができ,対象に対し非毒性である,植物油,魚油,動物油または合成製造した油であることができる。対象は動物,代表的には哺乳類,好ましくはヒトである。鉱油及び同様な有毒な油留出油は本発明から本質的に除外される。」 (B-5)公報第4頁左下欄第2?8行 「本発明ではいずれの代謝性油,特に動物,魚または植物源からの油も用いることができる。油が投与される宿主によって代謝されることは必須である。そうでないと,油成分は膿瘍,肉芽腫または癌すら引き起こしかねず,また(獣医による実行において用いられる場合には),代謝されなかった油が消費者に与える有害な作用により,ワクチン化した烏や動物の肉をヒトの消費に受け入れられないものとする。」 (B-6)公報第7頁右上欄第21行?左下欄第9行 「本発明にいう小滴サイズに到達する経緯は本発明の実施にとって重要でない。サブミクロン油小滴を得ることができる1つの方法は市販の乳化機,例えばミクロフルーイディクス(Microfluidics)社,ニュートン,MAから入手し得るモデルNo.110Yを使用することである。他の市販乳化機はゴウリン(Gaulin)モデル30CD[ゴウリン社,エバーレット(Everett),MA]及びレイニー・ミニラブ(Rainnie Minilab)タイプ8.30H[ミロアトマイザ-フード・アンド・ダイアリイ社(Mino Atomizer Food and Dairy Inc.,ハドソン,WI]を包含する。これらの乳化機は,高圧下で小さな開口を通して流体を強制的に流すことによって生じさせた高剪断力の原理によって働く。モデルll0Yを5,000-30,000psi(約340-約2042気圧)で運転する場合,100-750nmの直径を有する油小滴が得られる。」 (B-7)公報第10頁右下欄第13?24行 「方法3:マイクロフルイダイザー(microfluidizer)法。 Tween 80の有無にかかわらず,0.3-18%のスクアレンおよび0.2-1.0mg/mlのMTP-PEを含む混合物を,5000?30000PSIでマイクロフルイダイザー(モデルNo.ll0Y,ミクロフルイディクス・ニュートン社,マサセッツ州)を通した。一般に,マイクロフルイダイザー中でエマルション50mlは5分間で,同100mlは10分間で混合された。得られたエマルションは,100?750nmの油滴からなり,スクアレン,MTP-PE,ならびに界面活性剤濃度およびマイクロフルイダイザーの作動圧および温度に依存していた。このエマルションをMTP-PE-LO-MFと称する。」 (B-8)公報第15頁左上欄第3行?同頁左下欄末 「実施例3 大型動物で免疫を刺激した際に有効なMTP-PE-LO配合物 実施例2で示したように,MTP-PE-LO配合物は注射器および注射針(?10ミクロン滴下のサイズ)を用いて調製されるが,カークランド乳化機(1?2ミクロンの滴下サイズ)を用いたのでは大型動物およびヒトでワクチンの抗原に対するよい免疫刺激は得られなかった(データは示さない)。マイクロフルイダイザー110Y型を用いて小滴で安定なエマルションを調製した。この装置は,高圧(5000?30000PSI)で水中に沈められるジェットタイプの乳化機である。一連のエマルションは,スクアレン,Tween 80およびMTP-PE,ならびに温度および操作圧といった物理的パラメーターに基づいて,サイズおよび安定性を変えることによって調製される。このマイクロフルイダイザーを使ってつくられた数々のエマルションの例を表8に示す。物理的パラメータおよびエマルション濃度を変えて,1ミクロンから0.2ミクロンまでの油滴サイズを変えることができる。表8に示すように,エマルションの滴サイズを低下させるパラメータは,スクアレンに対する界面活性剤濃度の増加,MTP-PE濃度の増加,操作圧の増大,および操作温度の増大である。これらの小滴サイズのエマルションは,次いで,ヤギおよびヒヒでワクチン抗原のためのアジュバントとして試験にかけられた。 」 (B-9)公報第15頁右下欄第1行?次頁右上欄表の下3行 「1.ヤギで使用したHSVgD2 gD2抗原を用いて使用した最初のマイクロフルイダイザーでは,Tween 80を含まない4%スクアレン,100μg/mlMTP-PEエマルション(MTP-PE-LO-MF#13;MTP-PE-LO-MF配合物の番号づけは任意であって,参照番号として使っただけである)を使用した。この物質は,そのマイクロフルイダイザー中で低圧下で作られたものであって,約0.8ミクロンの油滴サイズを有していた。この配合物中の100μgのgD2を用いて21日間隔で3回筋肉内から免疫した。最初にCFA中に,2回目にIFA中に溶けた100μgのgD2で免疫したヤギは,対照とした。2回目および3回目の免疫化の10日後に,この動物を放血させ,抗gD2抗体の力価をELISAによって測定した。結果を表9に示す。MTP-PE-LO-MFと投与された両動物は,有意な抗gD2力価を示した。これらの力価1661?2966は,2匹のCFA/IFA対照ヤギ(140-24,269)の力価に比べて中間の値であった。MTP-PE-LO-MF動物は,注射器および注射針,またはカークランド乳化機で調製したMTP-PE-LOを投与されたヤギより有意に高い力価を示した(表6参照)。ヤギでの第2の実験では,100μgのgD2をMTP-PE-LO-MF#16とともに21日毎に投与した。この配合物は4%のスクアレン,500μg/mlのMTP-PEおよびOTween 80からなるものである。このエマルションの油滴サイズは0.5?0.6ミクロンであった。表10に見られるように,この配合物は,従来の配合物より高い抗体価をもつようであった。こうして,油滴サイズの減少,および/またはMTP-PEの増加によって,このエマルシヨンのアジュバント性能が改善される。 ^(a):4%スクアレン,100μg/mlMTP-PE,OTween 80,水,約0.8ミクロンの油滴サイズ ^(b):N.T.=試験せず。免疫化とは無関係の原因で死亡した動 物。 (a)MTP-PE-LO-MF#16-4%スクアレン, 500μg/mlMTP-PE,OTween 80,H2O。油滴サ イズ0.5?0.6ミクロン。」 (B-10)公報第16頁右上欄表の下4行?同頁右下欄末 「2.ヤギにおけるHIVenv 2-3及びgp120 HIV抗原env 2-3及びgP120を用いて,マイクロフルイダイザ-(microllutdizer)調製物をアジュバントとしてのCFA/IFA及びMTP-PE-LO-KEと比較した。動物を21日間隔で3回,CFA(1°)/IFA(2°&3°),MTP-PE-LO-MF#14(4%スクアレン,500μg/ml,MTP-PE,OTween,リン酸緩衝液),MTP-PE-LO-KE(4%スクアレン,100ミクロンMTP-PE,0.008%Tween 80,Kirkland乳化剤中に乳化されたリン酸緩衝液)及びMTP-PE-LO-MF#15(4%スクアレン,100μgMTP-PE,0.008%Tween 80,リン酸緩衝液)中gp120抗原100μgにより免疫感作した。動物をまたCFA/IFA中又はMTP-PE-LO-MF#14中100μgのHIV抗原env 2-3により免疫感作した。第2及び第3免疫の20日後に動物の採血を行い,そして抗-env 2-3抗体力価をELISAにより決定した。結果を表11に示す。env 2-3について,MTP-PE-LO-MF#14製剤により免疫感作された動物は2回の免疫後のCFA/IFA動物と同等の力価を示し,そして3回の免疫の後のCFA/rFA動物より高い力価を示した。… 」 4.対比 刊行物Aには,上記(A-2)として摘記したように,「アジュバントとして許可できるほど滑らかで且つ十分に有用であるアジュバントエマルジョンを見出すための試みが行われた。…予備実験は,滑らかな極微小エマルジョン(ほとんどの液滴は1ミクロン以下の直径を有した;図1を参照のこと)が20%の油並びに16%のTween80及びSpan80界面活性剤により調製され得ることを示した。」と記載されていて,ここで「20%の油」とは,該刊行物Aの(A-1)における「油‐レシチンアジュバントの%値は,特にことわらない限り,水性キャリヤー(連続相)中レシチン(混合物の10%)及びキャリヤー油(DRAKEOL(TM))(混合物の90%)の混合物の濃度を意味する。たとえば,20%の油‐レシチンアジュバントは,2%(v/v)のレシチン(Central Soya, Fort Wayne, Indiana),18%(v/v)のDRAKEOL(TM)5(Penreco, Karns City, Pennsylvania)及び80%(v/v)の塩溶液(この塩溶液含有率は,他の成分,たとえば界面活性剤が添加される場合,低められる)を含む。」との記載からみて,レシチン及びDRAKEOL(TM)が連続相である水性キャリアー中に分散された水中油形エマルジョンを意味するものである。したがって,刊行物Aには,以下の発明が記載されているものといえる。 「レシチン2%,DRAKEOL(TM)18%,並びに,16%のTween80及びSpan80界面活性剤を含む極微小エマルジョンであって,ほとんどの液滴が1ミクロン以下の直径を有する,アジュバントとして有用である水中油形エマルジョン。」(以下,「引用発明」という。) ここで,本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明におけるレシチンは,本願明細書に,例えば,「本発明の水中油形エマルジョン内で使用するための好ましい界面活性剤にはレシチン,Tween80及びSPAN-80が含まれる。」(【0046】)と記載されているように,界面活性剤として使用されているものであり,また,引用発明におけるDRAKEOL(TM)は,本願明細書において,例えば,「「鉱油」という語は,蒸留技術を介して石油から得た液体炭化水素の混合物を意味する。…好ましい鉱油は,DRAKEOL(登録商標)という名前で市販されている軽質鉱油である。」(【0041】)と記載されているように,本願発明において,「軽質炭化水素非代謝性油」として使用されるものである。そして,引用発明では,エマルジョンの液滴のサイズについては「ほとんどの液滴は1ミクロン以下の直径を有する」ものである上,その液滴サイズの分布を示す図1,及び,その図面の説明を記載した【図面の簡単な説明】における「液滴の約94%が1μm又はそれ以下の直径を有することを示す。」なる記載を見ても,粒子直径の平均は明らかに1μm未満であって,しかも,本願発明における「サブミクロン」というのは,「液滴が1μm(ミクロン)未満のサイズのもであり,平均油滴サイズが1μm未満であることを意味している。」(本願明細書【0036】)というものであるから,引用発明に係るエマルジョンは,「1μm未満の平均油滴サイズのサブミクロン水中油形エマルジョン」ということができる。 したがって,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致しているといえる。 「軽質炭化水素非代謝性油,界面活性剤,及び水性成分を含むワクチンアジュバントとして有用なサブミクロン水中油形エマルジョンであって,前記油が前記水性成分中に分散され,かつ,1μm未満の平均油滴サイズであるエマルジョン。」 そして,以下の点で相違している。 [相違点] 本願発明が,「マイクロ流動化装置を使用して得られるエマルジョン」と特定しているのに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない点。 5.検討・判断 上記相違点について検討する。 マイクロ流動化技術は,他の技術分野でも利用されているものであるが,ワクチンアジュバントの分野においても,刊行物Bに記載されている((B-6)?(B-9))ほか,例えば,以下の文献にも記載されているように,本願優先権主張の日前,1μm未満の液滴サイズのエマルジョンからなるアジュバントを製造するために汎用されていた技術である。 (1)特開平5-255117号公報(【0014】?【0018】) (2)特開平1-157918号公報(請求項28及び例1?例10の各例における「処方4」;本公報は本願明細書で引用されている米国特許5376369号明細書の対応日本公報) (3)特表平6-509344号公報(実施例6) (4)特表2003-500365号公報(請求項18,19及び実施例15のb)) そして,代謝性油に関する適用例ではあるものの,刊行物Bには,例えば,マイクロ流動化装置(刊行物Bにおいては「マイクロフルイタイザー」と記載している。)を用いないエマルジョンと比較して,「有意に高い力価」を示すこと(B-9)や従来から高い力価を示すアジュバントとして知られていたCFA/IFAと比較してより高い力価を示すこと(B-10)など,マイクロ流動化することによるメリットが数値データを伴って具体的に示されていたものである。したがって,ワクチンアジュバントの分野において汎用の技術であって,しかも,刊行物Bにおいて具体的なメリットが示されていたマイクロ流動化技術を,引用発明における1μm未満の水中油形エマルジョンの製造する際にも適用しようとすることは,当業者が容易になし得るものといえるものである。 なお,刊行物Bは,引用発明に係る非代謝性油を使用するアジュバントではなく,代謝性油を使用するアジュバントに関するものである((B-1),(B-4)及び(B-5))が,そこに記載されたマイクロ流動化によるメリットは,非代謝性油であるか又は代謝性油であるかによっては直接関係しない効果と考えられるものであるのみならず,むしろ非代謝性油と代謝性油に共通するメリットとも考えられものであるから,そのような油の性質の違いにより当業者が適用をためらうものではないといえる。 また,刊行物Bには,「鉱油及び同様な有毒な油留出油は本発明から本質的に除外される。」(B-4)と非代謝性の鉱油の使用を否定する旨の記載がなされているが,これは,該刊行物Bにおける,例えば以下のような記載からみて,人体に対する直接の又は間接的な有毒性の観点から使用を避けるべきであるとしていたと解される。 (a)「現在,米国でヒトへの使用に対して認可されている唯一のアジュバントはアルミニウム塩(アルム)である。」(B-2) (b)「CFAは痛み,膿瘍形成及び発熱をはじめとする重篤な副作用を引き起こし,ヒトまたは獣医用のワクチンに使用できない。…IFAはヒトにおいてはインフルエンザ及びポリオワクチンについて,及び狂犬病,イヌジステンパー及び口蹄疫をはしめとするいくつかの動物ワクチンについて成功裏に使用された。実験によると,IFAで使用する油及び乳化剤の両方がマウスに腫瘍を起こす場合があることが判明した。このことはヒトへの使用については別のアジュバントを用いる方がよいことを示している。」(B-3) (c)「本発明ではいずれの代謝性油,特に動物,魚または植物源からの油も用いることができる。油が投与される宿主によって代謝されることは必須である。そうでないと,油成分は膿瘍,肉芽腫または癌すら引き起こしかねず,また(獣医による実行において用いられる場合には),代謝されなかった油が消費者に与える有害な作用により,ワクチン化した烏や動物の肉をヒトの消費に受け入れられないものとする。」(B-5) これに対して,刊行物A記載のアジュバントAMPHIGEN(登録商標)は市販されていたものであって,仮に獣医ワクチン用であり多少の有毒性が許容されるものであったとしても,人体に対する間接的な有毒性については許容限度以下であったと解される(間接的にせよ人体に対する有毒性があれば,当然に政府規制等がかかるものと考えられる。なお,特開2010-502238号公報の【0032】によれば,「AMPHIGEN(登録商標)」はPfizer社の商標であり,そのような国際的にも信頼性が確立している企業の管理下にある商標を付した商品が人体への有毒性に対する配慮なく流通・販売されることは,極めて考えがたいものでもある。)。 そして,このように人体に対する有毒性については,既に応分の配慮がなされていると考えられる市販品であるAMPHIGEN(登録商標)に対しては,上記した刊行物Bにおいて非代謝性の鉱油を回避した理由である人体への有毒性に対する配慮がそのまま当てはまるものではないから,刊行物Bにおける鉱油を回避する旨の記載は,刊行物Bのみならず既にワクチンアジュバント分野において汎用されていたマイクロ流動化技術を,刊行物Aに係る非代謝性の鉱油含有アジュバントであるAMPHIGEN(登録商標)に対して適用することを制限する方向に作用するものではないと解釈される。(なお,付言すれば,刊行物Bは,本願明細書でAMPHIGEN(登録商標)を結果としてもたらした旨記載されている米国特許第5084269号明細書が公知となる前に出願されたものであるから,刊行物Bの記載は,鉱油を含むアジュバントであるAMPHIGEN(登録商標)のことを念頭において,その使用を除外する旨の記載であると解することもできない。) したがって,引用発明に対して,刊行物Bなどに記載の周知のマイクロ流動化技術を適用することは当業者にとって容易になし得ることである。 また,本願発明による効果も,刊行物A及びBの記載から,当業者が予測しうる程度のものであって,格別顕著なものであるとすることができない。 6.むすび 以上のとおり,本願発明は,上記刊行物A及びBに記載された発明並びに周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,結論のとおり審決する。 以上 |
審理終結日 | 2010-04-05 |
結審通知日 | 2010-04-12 |
審決日 | 2010-04-23 |
出願番号 | 特願2006-506403(P2006-506403) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長部 喜幸 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
上條 のぶよ 川上 美秀 |
発明の名称 | マイクロ流動化された水中油形エマルジョン及びワクチン組成物 |
代理人 | 室伏 良信 |