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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1223330
審判番号 不服2008-19041  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-25 
確定日 2010-09-10 
事件の表示 特願2000-158058「ヘリカルアンテナおよびその共振周波数調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月 7日出願公開、特開2001-339227〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年5月29日の出願であって、平成20年6月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月21日付けで審判請求時の手続補正がなされたものである。
なお、平成22年2月8日付けで当審より審尋を発したが、その指定期間内に回答書の提出はなされなかった。


第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年8月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成20年5月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「絶縁体から成る円筒状部材と、該円筒状部材の周りにヘリックス状に巻かれた4本の導線とから構成され、約2.3GHzの周波数の円偏波を受信するためのヘリカルアンテナに於いて、
前記円筒状部材の上端部の内周壁に雌ネジが切られたネジ穴を設け、
該ネジ穴に螺合可能で、前記円筒状部材の比誘電率以上の比誘電率を持つ雄ネジ部材を有することを特徴とするヘリカルアンテナ。」
という発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「絶縁体から成る円筒状部材と、該円筒状部材の周りに巻かれた導体パターン付き絶縁シートであって、絶縁シートに4本の導体パターンを印刷してなる前記導体パターン付き絶縁シートとから構成され、約2.3GHzの周波数の円偏波を受信するためのヘリカルアンテナに於いて、
前記円筒状部材の上端部の内周壁に雌ネジが切られたネジ穴を設け、
該ネジ穴に螺合可能で、前記円筒状部材の比誘電率以上の比誘電率を持つ雄ネジ部材を有することを特徴とするヘリカルアンテナ。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。


2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の「円筒状部材の周りにヘリックス状に巻かれた4本の導線」という構成を、「円筒状部材の周りに巻かれた導体パターン付き絶縁シートであって、絶縁シートに4本の導体パターンを印刷してなる前記導体パターン付き絶縁シート」という構成に限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。


3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明及び周知技術
A.原審の拒絶理由に引用された、特開平11-154820号公報(以下、「引用例」という。)には「小型ヘリカルアンテナ」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【請求項1】金属線を所定の巻き径及びピッチでらせん状に成形したコイルと、このコイルの基端部が接続された給電端子と、前記コイルの外周及び頂部を覆う樹脂製の外装部材とを備えた小型ヘリカルアンテナにおいて、前記コイル内に共振周波数調整部材が設けられていることを特徴とする小型ヘリカルアンテナ。
【請求項2】共振周波数調整部材は、外装部材の頂部からコイル内に挿入されていることを特徴とする請求項1記載の小型ヘリカルアンテナ。
【請求項3】共振周波数調整部材は外装部材と同じ材料で、外装部材と一体に成形されており、その長さ、外径、中空部の長さ及び中空部の内径のうちの少なくとも一つを変えることにより共振周波数の調整が行えるようになっていることを特徴とする請求項2記載の小型ヘリカルアンテナ。
【請求項4】共振周波数調整部材は外装部材と誘電率が異なる材料からなり、上端が外装部材の頂部に結合されていることを特徴とする請求項2記載の小型ヘリカルアンテナ。
【請求項5】コイルはその内側に設けられた円筒状のスペーサによって巻き径及びピッチが一定に保持されており、共振周波数調整部材はこのスペーサの内部に挿入されていることを特徴とする請求項2ないし4記載の小型ヘリカルアンテナ。」(2頁1欄、請求項1?5)

ロ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、携帯電話機などの移動体通信機器に用いられる小型ヘリカルアンテナに関するものである。
【0002】
【従来の技術】携帯電話機などのアンテナは、ホイップアンテナの先端にヘリカルアンテナを備えた構造となっている。この種のアンテナは、携帯電話機に収納されているときはヘリカルアンテナが動作し、携帯電話機から引き出されたときはホイップアンテナ(モノポールアンテナ)が動作するようになっている。
【0003】この種のヘリカルアンテナには、アンテナ本体であるコイルの外周及び頂部を覆うように樹脂製の外装部材が設けられているが、この外装部材は、携帯電話機のメーカーや機種によってデザインが異なるため、材質、形状がまちまちである。外装部材の材質、形状が異なると、内部のコイルの寸法が一定であっても、共振周波数が異なってくる。このため従来は、外装部材を取り付けた状態で目的の共振周波数が得られるようにコイルの寸法を変更していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし外装部材のデザインは頻繁に変更されるため、その都度、それに合わせて寸法の異なるコイルを製造することは非常に生産効率がわるく、コスト高になるという問題があった。
【0005】本発明の目的は、以上のような問題点に鑑み、外装部材の材質、形状が変わってもコイルの寸法を変更せずに対応できる小型ヘリカルアンテナを提供することにある。」(2頁1?2欄、段落1?5)

ハ.「【0019】〔実施形態6〕図6は本発明のさらに他の実施形態を示す。この小型ヘリカルアンテナは、コイル1の内側に、外周面にらせん溝を有する円筒状のスペーサ6を設け、これによってコイル1の巻き径及びピッチを一定に保持するようにしたものである。共振周波数調整部材4は、外装部材3の頂部からスペーサ6の内部に挿入されるように外装部材3と一体に形成されている。なおスペーサ6は給電端子2に固定されている。上記以外の構成は実施形態1と同じであるので、同一部分には同一符号を付してある。
【0020】〔実施形態7〕図7は本発明のさらに他の実施形態を示す。この小型ヘリカルアンテナは、コイル1の内側に実施形態6と同様に円筒状のスペーサ6を設け、このスペーサ6内に外装部材3の頂部から外装部材3とは誘電率が異なる材質の共振周波数調整部材4を挿入したものである。上記以外の構成は実施形態2と同じであるので、同一部分には同一符号を付してある。」(3頁4欄、段落19?20)

上記引用例の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
引用例記載の「小型ヘリカルアンテナ」は、「金属線を所定の巻き径及びピッチでらせん状に成形したコイル」(上記イ.【請求項1】)を有してなり、
上記イ.【請求項5】、ハ.図6,7にあるように、該「コイル」は「その内側に設けられた円筒状のスペーサ」によって該「コイル」の「巻き径及びピッチが一定に保持されて」いるものである。
そして、上記ハ.【0020】にあるように、「このスペーサ6内に外装部材3の頂部から外装部材3とは誘電率が異なる材質の共振周波数調整部材4」が挿入されているものである。
したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「金属線を所定の巻き径及びピッチでらせん状に成形したコイルと、該コイルの内側に設けられ、該コイルの巻き径及びピッチを一定に保持する円筒状のスペーサとから構成されている小型ヘリカルアンテナに於いて、
前記スペーサ内に外装部材の頂部から外装部材とは誘電率が異なる材質の共振周波数調整部材が挿入されている小型ヘリカルアンテナ」


B.例えば特開平11-225015号公報(以下、「周知例1」という。)、又は特開平1-264003号公報(以下、「周知例2」という。)、又は特開平9-284831号公報(以下、「周知例3」という。)、又は特開平10-308624号公報(以下、「周知例4」という。)、
また、特開平7-176945号公報(以下、「周知例5」という。)、又は特開昭61-146008号公報(以下、「周知例6」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

(周知例1)
イ.「【請求項1】 複数の異なる周波数帯域をカバーするヘリカルアンテナであって、
前記周波数帯域の波長に応じて設定された所定の径及び所定長さの誘電体からなる単一の円筒体と、
前記それぞれの周波数帯域の波長に合わせて長さを調整したそれぞれの導線を前記円筒体の外周に所定のピッチ角で交互に配列された複数のアンテナエレメントと、
前記各アンテナエレメントと電気磁気的に結合される複数の結合線路と、
を備えることを特徴とするヘリカルアンテナ。
【請求項2】(・・・中略・・・)
【請求項3】 前記円筒体の外周に誘電体シートが巻き付けられており、前記複数のアンテナエレメントと複数の結合線路は前記誘電体シートに形成されている請求項1または2記載のヘリカルアンテナ。
【請求項4】(・・・中略・・・)
【請求項25】 前記複数のアンテナエレメントと複数の結合線路は、前記誘電体シートの表面に印刷により形成される請求項20記載のヘリカルアンテナの製造方法。」(2頁1欄?3頁3欄、請求項1、3、25)

ロ.「【0026】図1及び図2において、ヘリカルアンテナ40は、第1の周波数F1(1.985?2.015GHz帯)と第2の周波数F2(2.17?2.2GHz帯)の2つの周波数帯域をカバーできるように構成されたアンテナ体50と、このアンテナ体50に共用される給電回路60を備える。
【0027】上記アンテナ体50は、図1及び図2に示すように、第1の周波数F1または第2の周波数F2の波長の約8%の直径及び所定の長さを有するポリカーボネイトやFRP等の誘電体からなる円筒体502と、この円筒体502の外周に巻き付けたポリイミド等からなる平行四辺形の誘電体シート504を備える。
【0028】誘電体シート504の一方の面には、図2に示すように、誘電体シート502の長辺方向に延在するピッチ角が約69度の4本の第1のアンテナエレメント506と該第1のアンテナエレメント506より短い4本の第2のアンテナエレメント508が誘電体シート504の短辺方向に一定の間隔で平行に、かつ交互に配列され、この第1のアンテナエレメント506と第2のアンテナエレメント508の下端側は一線上に揃えられている。」(5頁7欄、段落26?28)

(周知例2)
イ.「(1)回転体形状にらせん状に巻いた少なくとも1本の放射コードから成るらせん型アンテナにおいて、前記らせん型アンテナが前記放射コードに給電する給電回路を有し、この回路を、配電機能と該アンテナの前記放射コードの整合機能の両機能を遂行するストリップ線路型式の伝送線路により構成したことを特徴とする、らせん型アンテナ。
(2)請求項1記載のらせん型アンテナにおいて、前記回転体形状が円筒形状又は円錐形状である、らせん型アンテナ。
(3)請求項1または2記載のらせん型アンテナにおいて、スリーブの側面にらせん状に巻いたストリップの形態の金属化帯域によりそれぞれ形成した4本の放射コードを具備し、前記各ストリップが隣りのストリップから前記スリーブの準線に沿って所定の距離pだけ離間しており、給電回路を構成する前記伝送線路が曲折線路により形成されている、らせん型アンテナ。
(4)(・・・中略・・・)
(6)請求項1ないし5のいずれかに記載のらせん型アンテナにおいて、前記給電回路を構成する前記ストリップ線路が誘電体シートを有し、前記スリーブの側面の側を向く該シートの第1面が基準伝搬面を形成すべく全面的に金属化面となり、前記シートの該第1面とは反対側の第2面が前記金属化された第1面と一緒に前記ストリップ線路を形成する金属ストリップを有している、らせん型アンテナ。
(7)請求項5または6記載のらせん型アンテナにおいて、ストリップ線路により構成された前記給電回路、前記放射コード、及び短絡回路となる前記環状導電帯域が、1枚の同じ誘電体シートにより形成されている、らせん型アンテナ。」(1頁左下欄?2頁左上欄、特許請求の範囲第1?3項、第6?7項)

ロ.「らせん型アンテナは、広範囲に亘り、所望通りの形状の伝送ローブで、高品位の円偏波の電磁波を放射するという利点を有する。」(2頁左下欄19行目?右下欄1行目)

ハ.「第2c図に更に示すように、特に有利な方法では、ストリップ線路20により構成された給電回路2と、放射コード11、12、13、14と、短絡回路の環状導電帯域100とは、同じ1枚の誘電体シート上に形成される。
第2b図は、組立て後、すなわち異なる導電帯域を設けた誘電体シート2000をスリーブ1の外周に巻付けた後、に得られるアンテナの正面図を示す。」(5頁右上欄4?11行目)

ニ.「第3a図?第3d図に示した各工程は、慣用のプリント配線の方法に従って、マスキング、隔離、化学的腐食処理を行うことにより実施できる。もちろん、第3c図に示す工程は、好適には、1つの同じマスクにより同時に行う。」(5頁右下欄12?16行目)

(周知例3)
イ.「【0002】
【従来の技術】近年、中軌道や低軌道の地球を周回する周回衛星を用いた携帯電話の構想が各社から提案されており、それらの周波数帯は、地上の携帯電話から衛星へは1.6GHz帯が、衛星から地上の携帯電話へは2.4GHz帯が割当てられるもの、また1.6GHz帯は地上から衛星、衛星から地上の双方向の通信に用いる周波数帯として割当てられるものがある。」(2頁1欄、段落2)
ロ.「【0009】まず、衛星通信のために円偏波を発生するヘリカルアンテナ14について動作と特性を説明する。ヘリカルアンテナ14としては、例えば2線ヘリカルアテナ(特開平3-274904(日本電信電話株式会社))などが知られており、本実施形態ではこの2線ヘリカルアンテナを用いた。ヘリカルアンテナ14は放射素子となる同軸線9と導線8からなり、給電点7において放射素子となる同軸線の中心導体と導線8とを電気的に結合し、巻終り端6において放射素子となる同軸線9の外部導体と導線8とを電気的に結合する。符号11は誘電体円筒で、同軸線9と導線8が螺旋状に巻き付けられる。」(2頁2欄、段落9)

ハ.「【0013】前述の実施の形態には2線ヘリカルアンテナを用いたが、他の例としては、図3(a)に示す4本の導体線を放射素子にした4線ヘリカルアンテナ15や、図3(b)に示すグランド導体板17と導体線16により構成された1線ヘリカルアンテナ等でも、同様にアンテナ保持部10に連通部5を設けることで、同様の効果がえられる。」(3頁3欄、段落13)

(周知例4)
イ.「【請求項2】 1つの円筒状の誘電体と、前記円筒状の誘電体の外壁に巻き付けられた4本の螺旋状の導体と、前記円筒状の誘電体の内壁に貼り付けられた4本の螺旋状の導体と、前記の誘電体円筒外壁の4本の導体に、π/2[rad]づつ異なる位相で高周波電力給電する給電回路と、前記の誘電体円筒内壁の4本の導体に、π/2[rad]づつ異なる位相で高周波電力給電する給電回路とを有することを特徴とするヘリカルアンテナ。」(2頁1欄、請求項2)

ロ.「【0014】本発明のヘリカルアンテナの一実施例の斜視図を図1に、また、図1の螺旋状導体2a?2d及び螺旋状導体3a?3dを配置した誘電体円筒1の展開斜視図を図2に、図1の誘電体円筒1と図2の展開された誘電体円筒1の関係を示した斜視図を図3に示す。
【0015】図1において、誘電体円筒1は、通常、ポリカーボネイトやアクリルのようなプラスチック材料で構成されることが多く、その直径は、一般に使用波長の約0.1波長程度が用いられる。誘電体円筒1の厚さは、約0.01波長またはそれ以下の値が望ましい。
【0016】特に、誘電体円筒1としてマイラーなどのポリエステルフィルムを用いる場合は、その厚さは1mm以下となる。誘電体円筒1の長さは、螺旋状導体の長さに応じて様々であるが、最低0.25波長程度の長さは必要で、長くなる方向は数十波長にも及ぶ場合がある。
【0017】螺旋状導体2a?2dは、前記誘電体円筒1の外側表面に配置される。螺旋状導体2a?2dは、導体より構成され、通常はシールにように貼り付けたり、誘電体円筒1自体がプリント基板になっていて、エッチングして構成することも可能である。」(3頁3?4欄、段落14?17)

(周知例5)
イ.「【実施例】
実施例1
図1は本発明の実施例を示すプリントアンテナの斜視図である。誘電体基板(1)の表面に放射電極(2)を形成し、裏面には接地電極(3)が形成されている。放射電極(2)と接地電極(3)の間に位置する誘電体基板(1)の側面には、上記電極に対して平行に伸びる雌ねじ孔(4)が形成されている。この雌ねじ孔(4)を形成することにより同じ材質で同じ寸法の誘電体基板(1)にくらべて誘電率がさがる。また、誘電体基板(1)にくらべ高誘電率の材料で雄ねじ柱(5)を作成し、該雌ねじ孔(4)に螺合する。この雌ねじ孔(4)に雄ねじ柱(5)が螺合する深さを変更することにより、誘電体基板(1)の誘電率を変更することができる。つまり、誘電体基板(1)の誘電率を上げたいときは雄ねじ柱(5)を深くねじ込み、誘電率を下げたいときは浅くねじ込む。上記高誘電率で雄ねじ柱(5)の材料としては、ポリフェニレンオキサイド樹脂組成物やセラミックなどが用いられる。このように雄ねじ柱(5)を螺合することにより誘電体基板( 1の誘電率を調整することができ、該プリントアンテナの受信周波数を微調整することができる。」(2頁2欄)

(周知例6)
イ.「(1)中心軸に垂直な面の一方を開放とした開放面と他の一方を閉じた底面を有した円筒もしくは角筒状の導体ケースの内部に導線をらせん状に巻いた共振コイルを配置し、上記導線の一端を接地端子とし他端を入出力端子とし、上記接地端子を上記導体ケースの一部に電気的に接続し、上記入出力端子を上記開放面側より取り出し、上記導体ケース内に誘電体を充填したことを特徴とする共振器。
(2)(・・・中略・・・)
(3)(・・・中略・・・)
(4)共振コイルの内部に充填された誘電体の中心に中心軸にそったネジ穴をもうけ、上記ネジ穴に誘電体または金属または磁性体にて構成されたネジをはめ込み上記ネジが中心軸にそって機械的に上下することを可能とした構造を有することを特徴とする特許請求の範囲第1項、第2項または第3項記載の共振器。」(1頁下段、特許請求の範囲第1、4項)

ロ.「第4図は本発明の第3の実施例における共振器の側断面図である。第4図において1,2,3,4,5,6,7,8は第1図,第2図,第3図と同様であり、9はネジ穴、10はネジである。共振コイル2の内部に充填された誘電体3の中心に中心軸にそったネジ穴9をもうけ、このネジ穴9に金属のネジ10をはめ込む。ネジ10を中心軸にそって上下させることにより共振器内部の電磁界分布を変化させることができるために共振周波数を可変できる。なおネジ10は金属に限るものではなく、電磁界分布を変化させることができるものであれば何でもよく例えば誘電体や磁性体でもよい。」(3頁左上欄15行目?右上欄7行目)

例えば上記周知例1?4に開示されているように、「誘電体(即ち、絶縁体)から成る円筒状部材と該円筒状部材の周りに巻かれた導体パターン付き絶縁シートであって、絶縁シートに4本の導体パターンを印刷してなる前記導体パターン付き絶縁シートとから構成されるヘリカルアンテナ」、及び「約2.2?2.4GHzの周波数の円偏波の電波をヘリカルアンテナで送受信すること」は周知である。
また、例えば上記周知例5、6に開示されているように、「誘電体部材内に雌ネジが切られたネジ穴を設け、該ネジ穴に螺合可能な誘電体雄ネジ部材により周波数を調整する周波数調整手段」は周知である。


(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明を対比する。
まず、補正後の発明の「絶縁体から成る円筒状部材」と、引用発明の「円筒状のスペーサ」を対比すると、「スペーサ」は「部材」であるから、いずれも「円筒状部材」である点で一致している。
また、補正後の発明の「該円筒状部材の周りに巻かれた導体パターン付き絶縁シートであって、絶縁シートに4本の導体パターンを印刷してなる前記導体パターン付き絶縁シート」と、引用発明の「金属線を所定の巻き径及びピッチでらせん状に成形したコイル」を対比すると、
引用発明の「コイル」を構成する「金属線」は「導体」であるのは技術常識であり、引用発明の「円筒状のスペーサ」(円筒状部材)は「該コイルの内側に設けられ、該コイルの巻き径及びピッチを一定に保持する」ものであるから、引用発明の「コイル」を構成するらせん状の「金属線」(導体)は形状的には「円筒状部材の周りに巻かれた」ということができるものであって、両者は「該円筒状部材の周りに巻かれた導体」である点で一致している。
また、補正後の発明の「約2.3GHzの周波数の円偏波を受信するためのヘリカルアンテナ」と、引用発明の「小型ヘリカルアンテナ」を対比すると、
補正後の発明の「約2.3GHzの周波数の円偏波」とは電波の一種であり、引用発明の「小型ヘリカルアンテナ」も電波を受信するためのものであるのは自明なことであるから、両者は「所定の電波を受信するためのヘリカルアンテナ」である点で一致している。
また、補正後の発明の「前記円筒状部材の上端部の内周壁に雌ネジが切られたネジ穴を設け、該ネジ穴に螺合可能で、前記円筒状部材の比誘電率以上の比誘電率を持つ雄ネジ部材を有する」構成と、引用発明の「前記スペーサ内に外装部材の頂部から外装部材とは誘電率が異なる材質の共振周波数調整部材が挿入されている」構成を対比すると、
補正後の発明の「雄ネジ部材」も、例えば本願【請求項4】にあるように共振周波数を調整するための部材であって、「共振周波数調整部材」ということができ、「部材」が「誘電率」を有するのは技術常識であり、「円筒状部材の上端部の内周壁に雌ネジが切られたネジ穴」に「螺合」されることによって、「円筒状部材内」に「挿入」されることを認めることができるから、両者は「前記円筒状部材内に所定の誘電率を有する共振周波数調整部材を挿入した」構成である点で一致している。
したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
「円筒状部材と、該円筒状部材の周りに巻かれた導体とから構成され、所定の電波を受信するためのヘリカルアンテナに於いて、
前記円筒状部材内に所定の誘電率を有する共振周波数調整部材を挿入したヘリカルアンテナ。」

(相違点1)「円筒状部材」に関し、補正後の発明は「絶縁体から成る円筒状部材」であるのに対し、引用発明は単に「円筒状のスペーサ」であって、「絶縁体から成る」がどうか不明な点。

(相違点2)「該円筒状部材の周りに巻かれた導体」に関し、補正後の発明は「該円筒状部材の周りに巻かれた導体パターン付き絶縁シートであって、絶縁シートに4本の導体パターンを印刷してなる前記導体パターン付き絶縁シート」であるのに対し、引用発明は「金属線を所定の巻き径及びピッチでらせん状に成形したコイル」であって、「該コイルの内側に設けられ、該コイルの巻き径及びピッチを一定に保持する円筒状のスペーサ」を有する点。

(相違点3)「所定の電波を受信するためのヘリカルアンテナ」に関し、補正後の発明は「約2.3GHzの周波数の円偏波を受信するためのヘリカルアンテナ」であるのに対し、引用発明は単に「小型ヘリカルアンテナ」である点。

(相違点4)「前記円筒状部材内に所定の誘電率を有する共振周波数調整部材を挿入した」構成に関し、補正後の発明は「前記円筒状部材の上端部の内周壁に雌ネジが切られたネジ穴を設け、該ネジ穴に螺合可能で、前記円筒状部材の比誘電率以上の比誘電率を持つ雄ネジ部材を有する」構成であるのに対し、引用発明は「前記スペーサ内に外装部材の頂部から外装部材とは誘電率が異なる材質の共振周波数調整部材が挿入されている」構成である点。

そこで、まず上記相違点1の「円筒状部材」が「絶縁体から成る」点について検討する。
引用発明の「円筒状部材」である「円筒状のスペーサ」が、どの様な材質から構成されるかについて、引用例には明記はないが、そもそも「金属線」(導体)からなる「コイル」に直接接触して保持するのであるから、引用例図11?16にあるようにコイル自体が絶縁被覆を有するものでない限り、金属のような導電体ではあり得ないこと、すなわち「絶縁体から成る」ことは、技術常識から明らかである。
また、引用例の「外装部材」に関しては、引用例のイ.【請求項1】に「樹脂製」との記載があるところ、このような「樹脂」が通常「絶縁体」であるのも技術常識であるが、引用例のイ.【請求項3】には「共振周波数調整部材は外装部材と同じ材料で、外装部材と一体に成形」されることが記載されており、引用例図5?7も参照すれば同様な位置にある引用例の「円筒状のスペーサ」も「絶縁体から成る」ものであろうことは当業者であれば自明なことに過ぎない。
したがって、相違点1は格別のことではない。

つぎに、上記相違点2の「該円筒状部材の周りに巻かれた導体」が「該円筒状部材の周りに巻かれた導体パターン付き絶縁シートであって、絶縁シートに4本の導体パターンを印刷してなる前記導体パターン付き絶縁シート」である点について検討する。
一般に、プラスチックなどの絶縁基板上に導体パターンを印刷してシート状の回路を構成することは、電子技術分野における周知技術であるが、例えば上記周知例1?4に開示されているように、「誘電体(即ち、絶縁体)から成る円筒状部材と該円筒状部材の周りに巻かれた導体パターン付き絶縁シートであって、絶縁シートに4本の導体パターンを印刷してなる前記導体パターン付き絶縁シートとから構成されるヘリカルアンテナ」も周知である。
このような周知技術に基づいて、引用発明の「小型ヘリカルアンテナ」が備える「金属線を所定の巻き径及びピッチでらせん状に成形したコイル」であって、「該コイルの内側に設けられ、該コイルの巻き径及びピッチを一定に保持する円筒状のスペーサ」を有するコイルを、補正後の発明のような「該円筒状部材の周りに巻かれた導体パターン付き絶縁シートであって、絶縁シートに4本の導体パターンを印刷してなる前記導体パターン付き絶縁シート」とする程度のことは当業者であれば適宜になし得ることである。
したがって、相違点2も格別のことではない。

つぎに、上記相違点3の「約2.3GHzの周波数の円偏波を受信するためのヘリカルアンテナ」の点について検討する。
そもそもアンテナが受信する周波数の設定は、当業者が必要に応じなし得る設計的事項であるが、
これも例えば上記周知例1?4に開示されているように、「約2.2?2.4GHzの周波数の円偏波の電波をヘリカルアンテナで送受信すること」も周知である。
したがって、引用発明の「小型ヘリカルアンテナ」を「約2.3GHzの周波数の円偏波を受信するためのヘリカルアンテナ」とする相違点3も格別のものではない。

最後に、上記相違点4の「前記円筒状部材内に所定の誘電率を有する共振周波数調整部材を挿入した」構成について検討する。
一般に、部材相互の位置調整を、一方の部材に雌ネジが切られたネジ穴を設け、該ネジ穴に螺合可能な雄ネジ部材により行うことは、日常周知の慣用手段であるが、
例えば上記周知例5、6に開示されているように「誘電体部材内に雌ネジが切られたネジ穴を設け、該ネジ穴に螺合可能な誘電体雄ネジ部材により周波数を調整する周波数調整手段」も周知であり、当該周知技術を引用発明の周波数調整手段に適用する上での阻害要因は何ら見当たらず、
また前記誘電体雄ネジ部材の誘電率を周囲の誘電体部材に対してどの程度にするか、言い換えれば前記誘電体雄ネジ部材の比誘電率を周囲の誘電体部材の比誘電率以上とするか否かも、周波数調整の方向・程度に関する単なる設計的事項に過ぎないものであるが、上記周知例5に「誘電体基板(1)にくらべ高誘電率の材料で雄ねじ柱(5)を作成し」とあるように示唆のあることでもあるから、
当該周知の技術手段ないしは設計的事項に基づいて、引用発明の「前記スペーサ内に外装部材の頂部から外装部材とは誘電率が異なる材質の共振周波数調整部材が挿入されている」構成における「共振周波数調整部材」を「円筒状部材の比誘電率以上の比誘電率を持つ雄ネジ部材」とするとともに、その固定手段を「円筒状部材の上端部の内周壁に」ネジ結合するように構成することにより、補正後の発明のような「前記円筒状部材の上端部の内周壁に雌ネジが切られたネジ穴を設け、該ネジ穴に螺合可能で、前記円筒状部材の比誘電率以上の比誘電率を持つ雄ネジ部材を有する」構成とする程度のことは当業者であれば容易になし得ることである。

以上のとおりであるから、補正後の発明は、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明及び周知技術」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-06 
結審通知日 2010-07-07 
審決日 2010-07-27 
出願番号 特願2000-158058(P2000-158058)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01Q)
P 1 8・ 575- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 緒方 寿彦  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 高野 洋
新川 圭二
発明の名称 ヘリカルアンテナおよびその共振周波数調整方法  
代理人 佐々木 敬  
代理人 池田 憲保  
代理人 福田 修一  

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