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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1223448
審判番号 不服2008-22526  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-03 
確定日 2010-09-09 
事件の表示 平成9年特許願第201610号「X線診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年3月17日出願公開,特開平10- 71139〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成9年7月28日を出願日(パリ条約による優先主張:平成8年7月31日 独国)とする特許出願であって,平成20年5月29日付けで拒絶査定がなされ,これに対し同年9月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。さらに,平成21年10月26日付けで審尋がなされ,回答書が平成22年1月28日付けで請求人より提出されたものである。

第2 本願発明
平成20年9月3日付け手続補正書による補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項1および2を削除し,同請求項3の項番を1に繰り上げたものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の特許請求の範囲の削除を目的とするものに該当する。
そうすると,当該補正は認められるから,本願の請求項1に係る発明は,上記手続補正書による補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される,次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】操作者の指紋を検出するための検出器(7)を有し、
該検出器(7)の信号を評価するための評価装置(8)を有し、
該評価装置(8)に後置接続される比較器(9)を有し、
X線診断装置の支承板(3)のブレーキ(12)またはビーム送波器(1)を制御するための制御装置(5)を有する、
X線診断装置において、
前記比較器(9)は、操作者の指紋に基づいて得られた信号を、記憶装置(10)内に記憶されている、X線診断装置の操作を許可された少なくとも1人の操作者の指紋の信号と比較し、
一致した場合には、X線診断装置の支承板(3)のブレーキ(12)またはビーム送波器(1)の操作をトリガするための信号を形成し、
一致しなかった場合には、前記制御装置(5)を支承板(3)のブレーキ(12)またはビーム送波器(1)の操作に対してロックするための信号を形成する
ことを特徴とするX線診断装置。」(以下「本願発明」という)

第3 引用刊行物およびその記載事項
本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願平3-54473号(実開平4-88915号)のマイクロフィルム(以下「引用刊行物」という)には,「医療装置」について,図面とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)
「【請求項1】 ビーム送信器(1)と、このビーム送信器(1)の空間位置を変えるために制御装置(6)に作用する操作要素(7)とを備え、ビーム送信器(1)の中心軸線(4)の空間方位が操作要素(7)の軸線(9)の空間方位と相関関係を有するようにすることを特徴とする医療装置。
・・・・・
【請求項9】 像表示される診察対象物に関連して中心軸線(4)の空間方位および軸線(9)の空間方位を表示するための表示装置(10)を備えることを特徴とする請求項1ないし8の1つに記載の医療装置。」

(1-イ)
「【0003】
例えば放射線治療または衝撃波治療を行うための他の公知の医療装置においては、ビーム(放射線ビームまたは衝撃波ビーム)送信器の中心軸線の空間方位は操作要素によって調整され得る。」

(1-ウ)
「【0007】
操作要素が棒状に形成されかつ中心軸線の空間方位が操作要素の長手軸線の空間方位と相関関係を有するようにすると有利である。ビーム送信器の中心軸線はそれゆえ簡単な方法により、すなわち操作要素の空間方位に例えば診察対象物に関連して調整され得る。」

(1-エ)
「【0011】
ビーム送信器の空間方位、従って中心軸線の空間方位は所定の治療または診察の際に繰り返されるので、中心軸線の少なくとも1つの予め定められた方位を呼び出すための第2の制御装置が設けられると有利である。ビーム送信器の方位はそれゆえ高速かつ簡単な方法で設定され得る。これに関連して、操作要素のために調整手段を設け、この調整手段が第2の制御装置を作動させると操作要素の軸線の空間アライメントを中心軸線の空間方位に応じて生ぜしめるようにすると有利である。」

(1-オ)
「【0014】
図1には、本考案の主要部であるビーム送信器1とビーム受信器2とを備えた医療装置が示されており、これらのビーム送信器1とビーム受信器2とは、調整可能に支持されたC字形湾曲体3の端部に支持され、ビーム送信器1の中心軸線4がビーム受信器2の中心領域に位置するように互いに対向させられている。中心軸線4はビーム送信器1の中心ビームを表している。診察対象物のための寝台5には、操作要素7により操作される第1の制御装置6と第2の制御装置8が保持されている。操作要素7はこの操作要素7が特に棒状に形成されている場合には操作要素7の長手軸線に一致する軸線9を有している。操作要素7の変位は第1の制御装置6に作用し、この第1の制御装置6は他の制御要素と関係して操作要素7の軸線9の空間方位に応じて中心軸線4の空間アライメントを生ぜしめる。操作要素7が例えば図示された垂直方位から破線で示された方位へ動かされると、例えば操作要素7に設けられているスイッチング要素の操作により制御信号が生ぜしめられ、この制御信号によって中心軸線4が一点鎖線で示された位置へ移動させられる。この場合も同様に一点鎖線で示された中心軸線4の空間方位は破線で示された操作要素7の空間方位に一致している。操作要素7がビーム送信器1および場合によってはビーム受信器2によって取られ得る空間方位だけを取り得るようにすると有利である。操作要素7の空間方位が予め設定されると、中心軸線4の空間実際方位に対する操作要素7の軸線9の空間方位の差が大きい場合には高速度でもって調整が行われ、その差が小さい場合には低速度でもって調整が行われるように、中心軸線4の追従が生ぜしめられる 。
【0015】
第2の制御装置8によって例えば中心軸線4の予め定められた方位が呼び出されて設定される。なお、この中心軸線4の予め定められた方位は所定の治療または標準診察の際にしばしば用いられる。第2の制御装置8の制御信号は例えば同様に操作要素7用の調整手段にも作用し、それにより操作要素7の方位が第2の制御装置8のスイッチング手段の操作により選定された中心軸線4の方位に応じて設定される。操作要素7の調整手段としては、例えば第1の制御装置6内に配置されたステップモータを使用することができる。」

そうすると,これらの記載事項(1-ア)?(1-オ)および図1を総合すると,引用刊行物には,次の発明が記載されていると認められる。
「放射線ビーム送信器(1)と、この放射線ビーム送信器(1)の空間位置を変えるために制御装置(6)に作用する操作要素(7)とを備え、放射線ビーム送信器(1)の中心軸線(4)の空間方位が操作要素(7)の軸線(9)の空間方位と相関関係を有するようにするとともに,像表示される診察対象物に関連して中心軸線(4)の空間方位および軸線(9)の空間方位を表示するための表示装置(10)を備える診察用医療装置。」(以下「引用発明」という。)

第4 当審の判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると,X線は放射線の一種であるから,引用発明の「放射線ビーム送信器(1)」は,X線を送信,すなわちX線を送波するものであるから,本願発明の「ビーム送波器(1)」に相当し,また,「診察」には「診断」が含まれることが一般的であるから,引用発明の「診察用医療装置」は,本願発明の「X線診断装置」に相当するといえる。また,その機能・構造からみて,引用発明における「放射線ビーム送信器(1)」および「制御装置(6)」が,それぞれ本願発明の「ビーム送波器(1)」および「制御装置(5)」に相当するといえる。
そうすると,両者は,
(一致点)
「X線診断装置のビーム送波器を制御するための制御装置を有するX線診断装置。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

相違点
本願発明においては「操作者の指紋を検出するための検出器(7)を有し、該検出器(7)の信号を評価するための評価装置(8)を有し、該評価装置(8)に後置接続される比較器(9)を有し、前記比較器(9)は、操作者の指紋に基づいて得られた信号を、記憶装置(10)内に記憶されている、X線診断装置の操作を許可された少なくとも1人の操作者の指紋の信号と比較し、
一致した場合には、X線診断装置のビーム送波器(1)の操作をトリガするための信号を形成し、
一致しなかった場合には、前記制御装置(5)をビーム送波器(1)の操作に対してロックするための信号を形成する」であるのに対して,引用発明においてはそのような構成を備えていない点。

(2)相違点について
そもそも,引用発明の「診察用医療装置」および本願発明の「X線診断装置」については,法律(診療放射線技師法等)により,その操作する者が,医者あるいは放射線技師等の権限を有し,許可された者に限定されており,他の者の操作は禁じられている。また,両者の様な医療装置においては,操作性を損なわない範囲にて可能な限りセキュリティを高めるようにすることも,当業者において周知の技術的課題であるいえる。
一方,許可された者のみ操作できるように,照合あるいは認証手段を備えることは,種々の装置・機器において,本願優先日前周知の技術であるといえる。例えば,実願平2-20242号(実開平3-113436号)のマイクロフィルムには「この考案に係るプラント運転操作装置は、タッチセンサ部に指紋読取装置を設け指紋照合装置を接続し、タッチ入力受付け時に同時に指紋照合を行なつて、運転員以外の運転操作入力を制限するものである。」(明細書3頁20行?同4頁4行)と記載されている。
また,放射線を取り扱う装置において認証手段を備えることも,本願優先日前周知の技術であるといえる。例えば,特開昭62-249040号公報には「・・・・・妥当なI.D.に対して実行ソフトウェアはオペレータに助言する(ブロック302)。このルーチンはオペレータI.D.を妥当なオペレータリストに対して妥当性を判断し、オペレータのI.D.が妥当なオペレータリストにあれば、オペレータのログインを続ける(ブロック304)。オペレータのI.D.が妥当オペレータリストになければ、オペレータはログインを許されない。・・・・・」(31頁右上欄2?9行)と記載されている。
そうすると,引用発明において,許可された者のみ操作できるように,何らかのセキュリティ手段を備えるようすることは,十分動機付けがあるといえる。
また,照合あるいは認証手段として,「操作者の指紋を検出するための検出器」,「該検出器の信号を評価するための評価装置」,「該評価装置に後置接続される比較器」および「記憶装置」とから構成することも,本願優先日前周知の技術である。
例えば,特開昭62-216071号公報には「1は読取りと識別のための対象となる特定個人の指紋、2はイメージセンサー、3は特徴抽出のための回路、4は画像メモリ、5は画像処理プロセッサ、6は登録した指紋の辞書メモリ、7は制御プロセッサ、8は入出力インタフェイス回路を示す。9は様々な自動作動システムを示す。
(略)
入出力インターフェイス8に指紋照合、識別を行なうように指令(a)を与える。指令信号(a)は図に示した例においては自動作動システム9を通じて与える。指令信号(a)を受けて制御プロセッサ7は、画像処理プロセッサ5に、対象となっている指紋が登録されているものと同一のものがどうか識別させる。
識別した結果(同一または非同-)は、判定信号(b)として、入出力インターフェイス8から取出す。この判定信号(b)によって、適格者であることが確認された場合には、自動作業システム9は、必要な作業を開始する。」(2頁左下欄6行?同頁右下欄15行)と記載されており,該「イメージセンサー2」,「特徴抽出のための回路3」,「画像処理プロセッサ5」および「登録した指紋の辞書メモリ6」は,それぞれ,本願発明の「操作者の指紋を検出するための検出器(7)」,該検出器の信号を評価するための評価装置(8)」,「該評価装置に後置接続される比較器(9)」および「記憶装置(10)」に相当し,また,「識別した結果(同一または非同-)は、判定信号(b)として、入出力インターフェイス8から取出す。この判定信号(b)によって、適格者であることが確認された場合には、自動作業システム9は、必要な作業を開始する。」は,本願発明の「一致した場合には、X線診断装置のビーム送波器(1)の操作をトリガするための信号を形成し、一致しなかった場合には、前記制御装置(5)をビーム送波器(1)の操作に対してロックするための信号を形成する」に対応するといえる。

してみると,操作者が許可された者に限定すべきである引用発明において,上記周知の技術を適用して,相違点における本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであるというべきである。

(3)効果について
そして,本願明細書に記載された効果も,引用発明および上記周知技術から,当業者が予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

(4)まとめ
したがって,発明は,本願優先日前に国内において頒布された刊行物2に記載された発明および上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-06 
結審通知日 2010-04-08 
審決日 2010-04-20 
出願番号 特願平9-201610
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右▲高▼ 孝幸松谷 洋平  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 郡山 順
居島 一仁
発明の名称 X線診断装置  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 杉本 博司  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 星 公弘  
代理人 山崎 利臣  
代理人 二宮 浩康  
代理人 久野 琢也  

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