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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G |
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管理番号 | 1223576 |
審判番号 | 不服2007-26733 |
総通号数 | 131 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-11-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-09-28 |
確定日 | 2010-09-17 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第257844号「電解コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月30日出願公開,特開平11- 87194〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成9年9月5日の出願であって,平成19年8月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成19年9月28日に審判請求がなされたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成19年1月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。 「陽極引出し手段を備えた陽極電極箔と,陰極引出し手段を備えた陰極電極箔とを,セパレータを介して巻回して形成したコンデンサ素子に,環状アミジン化合物の四級塩を含む電解液を含浸し,該コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収納するとともに,該外装ケースの開口端部を封口体で封口してなる電解コンデンサにおいて,前記陰極引出し手段の前記封口体との接触部分に,絶縁性合成樹脂層を形成し,陽極引出し手段が,アルミニウムからなる丸棒部と平板状の接続部を含むとともに,酸化アルミニウムからなる絶縁層が少なくとも丸棒部の表面のほぼ全部を覆っていることを特徴とする電解コンデンサ。」 第3 刊行物の記載内容及び引用発明 1 刊行物1:特開平7-201679号公報 (1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物1には,「アルミ電解コンデンサ」(発明の名称)に関して,図1?図7とともに,以下の記載がある。(なお,下線は,引用箇所のうち特に強調する部分に付加した。) 「【0003】図5において17は外部引出し線18をそれぞれ接続した陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子,19は電解液,20はアルミケース,21は座板である。22は四フッ化ポリエチレン23とブチルゴムあるいはエチレン・プロピレンゴム24の複合体からなる封口体であり、外部引出し線18を挿通してアルミケース20の上面部に圧入状態ではめ込まれ、アルミケース20の絞りならびに曲げ加工により封止機能を果たしている。 【0004】図6は同じく従来のアルミ電解コンデンサを示すものであり,上記図5の封口体22をブチルゴムを圧縮成形した封口体25で構成したチップコンデンサであり,85℃で2000時間保証の性能を有するものである。」 「【0006】図7は上記図5,図6で示した従来のアルミ電解コンデンサに使用される外部引出し線18を示したものであり、コンデンサ素子接続部26を設けたアルミ線からなる内部接線リード線27とCP線からなる外部導出リード線28を溶接部29にて接合して形成されている。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来のアルミ電解コンデンサでは電解液19や電解質に高性能なものが開発され,コンデンサ特性は大きく改善されたが,近年になり機器の使用環境が厳しくなるに伴って液洩れ不良が増加している。」 「【0011】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明のアルミ電解コンデンサは,外部引出し線を接続した陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子と,このコンデンサ素子を電解液と共に収納した上面開放のアルミケースと,上記外部引出し線を挿通しアルミケースの上面部にはめ込まれた封口体からなるアルミ電解コンデンサにおいて,上記外部引出し線のうち少なくとも陰極箔に接続された外部引出し線の封口体と接する部分にフェノール樹脂,フッ素樹脂,ポリパラキシリレン,セラミック塗料などからなる耐アルカリ性の絶縁被膜を形成した構成としたものである。」 「【0013】 【実施例】 (実施例1)以下、本発明の第1の実施例について図面を用いて説明する。 【0014】図1は同実施例によるアルミ電解コンデンサの構成を示す断面図であり、同図において1は陽極側の外部引出し線2と陰極側の外部引出し線3をそれぞれ接続した陽極箔(図示せず)と陰極箔(図示せず)をセパレータ(図示せず)を介して巻回したコンデンサ素子、4は電解液、5はアルミケース、6は座板である。 【0015】7は四フッ化ポリエチレン8とブチルゴムあるいはエチレン・プロピレンゴム9の複合体からなる封口体であり、外部引出し線2,3を挿通してアルミケース5の上面部に圧入状態ではめ込まれ、アルミケース5の絞りならびに曲げ加工により封止機能を果たしている。 【0016】10は外部引出し線2,3を挿通して封口体7の上面に密着して配置された封口体変形防止用の補強板、11は陰極側の外部引出し線3の封口体7と接する部分に形成された絶縁被膜である。 【0017】図2は上記図1に示した本発明のアルミ電解コンデンサに使用される陰極側の外部引出し線3を示したものであり、この陰極側の外部引出し線3はコンデンサ素子接続部12aを設けたアルミ線からなる内部接続リード線12とCP線からなる外部導出リード線13を溶接部14にて接合して形成し、さらにこの陰極側の外部引出し線3が封口体7と接する部分に絶縁被膜11を形成した構成としている。 【0018】この絶縁被膜11は電解液4に対して著しい膨潤をしないと共に、アルカリに侵されにくく、ピンホールがないことが必要である。 【0019】また、アルミ線やCP線に形成する絶縁被膜11は、封口体7に高速で外部引出し線2,3を挿入する時のストレスに耐える程度の密着性と強度が必要である。 【0020】また、絶縁被膜11を形成するための材料としては、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ポリパラキシリレン、セラミック塗料等が適している。 【0021】また、外部引出し線3の絶縁被膜11を形成する部分を、予めアルマイト処理することにより、絶縁被膜11の密着性、絶縁性を向上させることができる。 【0022】このように陰極側の外部引出し線3の封口体7と接する部分に耐アルカリ性の絶縁被膜11をピンホールが無い状態で形成することにより、外部引出し線3と電解液4との間で、イオンの移動を含めた電気的、化学的反応を全て抑制し、特にこの反応が顕著な陰極側の外部引出し線3側においても液洩れの発生を防止することができる。」 「【0058】 【発明の効果】以上のように本発明によるアルミ電解コンデンサは、少なくとも陰極側の外部引出し線の封口体と接する部分に耐アルカリ性の絶縁被膜を形成する構成とすることにより、上記耐アルカリ性の絶縁被膜がイオンの移動を含めた電気的、化学的反応を全て抑制し、特にこの反応が顕著な陰極側においても液洩れの無い、高性能なアルミ電解コンデンサを提供することができる。」 (2)以上によれば,刊行物1には,「外部引出し線を接続した陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子と,このコンデンサ素子を電解液と共に収納した上面開放のアルミケースと,上記外部引出し線を挿通しアルミケースの上面部にはめ込まれた封口体からなるアルミ電解コンデンサにおいて,上記外部引出し線のうち少なくとも陰極箔に接続された外部引出し線の封口体と接する部分にフェノール樹脂,フッ素樹脂,ポリパラキシリレン,セラミック塗料などからなる耐アルカリ性の絶縁被膜を形成した構成とした電解コンデンサ。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。 2 刊行物2:特開平7-272979号公報 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物2には,「電解コンデンサ」(発明の名称)に関して,図1?図4とともに,以下の記載がある。 「【0002】 【従来の技術】図4において,一般に,この種の電解コンデンサ10は,アルミニウム箔とセパレータ紙を交互に重ね合わせたコンデンサ素子12を,それぞれのアルミニウム箔に外部接続用端子14,14を接続した上で,外装ケース16内に収納するよう構成されている。なお,外部接続用端子14は,丸棒部18aおよび平坦部18bからなるアルミニウム導体18と,これに接続される外部引出し線20とから形成されている。そして,前記丸棒部18aは,外装ケース16の開口部を封口する弾性材料,例えば弾性ゴム製の封口体22の挿通部22a内に挿通支持されるよう構成されている。また,コンデンサ素子12には,前述したように,4級アンモニウム塩を含有した電解液が含浸されている。 【0003】しかるに,この種の電解コンデンサ10は,一般に外部接続用端子(特に陰極側)14の封口体22に対する接触面,すなわち挿通部22a内に挿通支持される丸棒部18a部分の耐性が劣る。このため,挿通部22a内に介在する電解液の電気化学的作用の結果、液漏れが増大する難点が発生する。なお,このことは,陽極側外部接続用端子14の丸棒部18aには,コンデンサの製造における電圧処理工程(エージング工程)において,例えばその工程時間を適宜延長することにより,電気化学的耐性を有する化成被膜を形成することができる。しかし,陰極側の丸棒部18aにおいては,前記エージング工程における印加電圧が負極側であるため,前記化成被膜が形成されることがない。そこで,この種の電解コンデンサ10においては,通常,前記陰極側の丸棒部18aに対して特別の化成被膜生成工程を設けることにより,前記難点である液漏れを克服することができる。」 3 刊行物3:国際公開第95/15572号 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物2には,「電解液及びそれを用いた電気化学素子」(発明の名称)に関して,第1図とともに,以下の記載がある。 「(57)要約 1-メチルイミダゾール,1-メチルベンゾイミダゾール,1,2-ジメチルイミダゾリン,1,2-ジメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン,1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7,1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5などのN,N,N’-置換アミジン基を有する化合物の4級化物のカルボン酸などの塩を溶質とする電解液;並びに、この電解液を用いた電気化学素子および電解コンデンサである。この電解液を用いた電解コンデンサ,エレクトロクロミック表示素子などの電気化学素子は,電解液の熱安定性が良く,比伝導度が高く,金属や樹脂,ゴムを腐食,劣化しない。」 「この表4から明らかなように,本発明の実施例25?34の構成によるアルミニウム電解コンデンサは,従来例6?7のアルミニウム電解コンデンサと比較して,コンデンサに逆電圧が印加された場合や高湿度条件下で電圧が印加された場合に生じ易い,封口安定性の損傷の抑制に対して有効である。すなわち本発明の電解液とブチルゴムポリマー封口材との組み合わせにより,封口安定性が良く,信頼性の高いアルミニウム電解コンデンサを発明することができた。 また,実施例22?24および従来例5に示した電解液を含浸させて巻取り形電気2重層コンデンサを構成した場合も同様に,実施例22?24の電解液を用いた電気2重層コンデンサで,従来例5の電解液を用いた電気2重層コンデンサと比較して,封口安定性の良いコンデンサを得ることができた。」(第21頁第1?12行) 「以上のように本発明の4級塩は良好な熱特性を示す熱安定性の高いものであり,また,その4級塩を溶質とする電解液は比伝導度が高く,耐久性に優れるとともに樹脂やゴム,金属を劣化,腐食しないものである。」(第21頁第14?17行) 第4 容易想到性についての検討 1 本願発明と引用発明との対比 (1)引用発明の「外部引出し線」,「上面開放のアルミケース」は,それぞれ,本願発明の「引出し手段」,「有底筒状の外装ケース」に相当する。 (2)引用発明の「外部引出し線を接続した陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子」は,本願発明の「陽極引出し手段を備えた陽極電極箔と,陰極引出し手段を備えた陰極電極箔とを,セパレータを介して巻回して形成したコンデンサ素子」に相当する。 (3)引用発明の「外部引出し線のうち少なくとも陰極箔に接続された外部引出し線の封口体と接する部分」は,本願発明の「陰極引出し手段の前記封口体との接触部分」に相当する。 (4)引用発明の「フェノール樹脂,フッ素樹脂,ポリパラキシリレン,セラミック塗料などからなる耐アルカリ性の絶縁被膜」は,本願発明の「絶縁性合成樹脂層」に相当する。 2 一致点及び相違点 以上によれば,本願発明と引用発明は, 「陽極引出し手段を備えた陽極電極箔と,陰極引出し手段を備えた陰極電極箔とを,セパレータを介して巻回して形成したコンデンサ素子に,電解液を含浸し,該コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収納するとともに,該外装ケースの開口端部を封口体で封口してなる電解コンデンサにおいて,前記陰極引出し手段の前記封口体との接触部分に,絶縁性合成樹脂層を形成することを特徴とする電解コンデンサ。」である点で一致し,以下の点で相違する。 [相違点1] 本願発明は,電解液が「環状アミジン化合物の四級塩を含む」のに対し,引用発明は,そのような特定がない点。 [相違点2] 本願発明は,「陽極引出し手段が,アルミニウムからなる丸棒部と平板状の接続部を含むとともに,酸化アルミニウムからなる絶縁層が少なくとも丸棒部の表面のほぼ全部を覆っている」という構成を有するのに対し,引用発明は,この点について教示がない点。 3 相違点についての検討 (1)相違点1について 上に見たように,引用発明においては,電解コンデンサに用いる「電解液」について特定されていない。しかし,刊行物3には,電解コンデンサの「電解液」の溶質として,N,N,N’-置換アミジン基を有する化合物を含む四級塩(これは,本願発明の「環状アミジン化合物の四級塩」に相当する。)を用いると,耐久性に優れるとともに,樹脂やゴム,金属を劣化,腐蝕しないこと,及びこれを電解コンデンサの「電解液」の溶質に用いることにより,封口安定性の良いコンデンサが得られることが開示されている。 そして,引用発明も,封口体の液漏れ防止を課題とするものであるから,引用発明に係る電解コンデンサの「電解液」の溶質として,刊行物3記載の「環状アミジン化合物の四級塩」を採用することは,当業者が直ちに想起し得たことである。 したがって,相違点1は,当業者が容易に想到し得たものである。 (2)相違点2について 刊行物2の段落【0002】,【0003】には,この種の電解コンデンサの従来技術が説明されている。そのうち,段落【0002】には,電解コンデンサ12の外部接続用端子14の形状について,「外部接続用端子14は,丸棒部18aおよび平坦部18bからなるアルミニウム導体18と,これに接続される外部引出し線20とから形成されている。」と説明されている。さらに,段落【0003】には,陽極側外部接続用端子14について,「陽極側外部接続用端子14の丸棒部18aには,コンデンサの製造における電圧処理工程(エージング工程)において,例えばその工程時間を適宜延長することにより,電気化学的耐性を有する化成被膜を形成することができる。」と記載されている。そして,「化成被膜」は,丸棒部の耐性を高めるために形成するのであるから,少なくとも丸棒部の表面のほぼ全面を覆っていることは明らかである。 ここで,刊行物2の電解コンデンサの「外部接続用端子」は,引用発明の電解コンデンサの「外部引出し線」に相当する。 そうすると,引用発明において,陽極の外部引出し線を「アルミニウムからなる丸棒部と平坦部(平板状の接続部)」を含むものとし,「丸棒部の表面のほぼ全面を覆」うように「化成被膜(酸化アルミニウムからなる絶縁層)」を形成することは,当業者が適宜なし得たことといえる。 したがって,相違点2は,当業者が容易に想到し得たものである。 第5 むすび 以上のとおり,本願発明は,刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-07-16 |
結審通知日 | 2010-07-21 |
審決日 | 2010-08-03 |
出願番号 | 特願平9-257844 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岸本 泰広 |
特許庁審判長 |
橋本 武 |
特許庁審判官 |
大澤 孝次 相田 義明 |
発明の名称 | 電解コンデンサ |