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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F
管理番号 1223594
審判番号 不服2008-1690  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-21 
確定日 2010-09-15 
事件の表示 特願2004-344945「有機電界発光表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月23日出願公開、特開2005-165324〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
平成16年11月29日 特許出願(パリ条約による優先権主張 200 3年11月29日、大韓民国)
平成19年 2月13日 拒絶理由通知
平成19年 5月21日 意見書、手続補正書
平成19年 6月11日 拒絶理由通知(最後)
平成19年 9月19日 意見書、手続補正書
平成19年10月16日 平成19年9月19日付け手続補正書でした補 正の却下の決定、拒絶査定
平成20年 1月21日 本件審判請求
平成20年 2月20日 手続補正書
平成21年 3月17日 審尋
平成21年 6月22日 回答書


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年2月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(平成20年2月20日付けの手続補正は請求項1を補正するものではない。)

「【請求項1】
少なくともソース/ドレイン電極を備える薄膜トランジスタを含む絶縁基板と、
前記絶縁基板上に形成され、前記ソース/ドレイン電極の中の一つを露出させるビアホールを備えた第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜上に形成され、前記ビアホールを介して前記一つの電極に接続される下部電極と、
前記下部電極上に形成された有機薄膜層と、
前記有機薄膜層上に形成された上部電極とを含み、
前記下部電極はエッジ部分で40°以下のテーパ角を有し、
前記有機薄膜層はレーザ熱転写法によって形成された有機発光層を少なくとも含むことを特徴とする有機電界発光表示装置。」(以下、「本願発明」という。)

3.引用する刊行物
刊行物1:特開2001-110575号公報
刊行物2:特開2003-168569号公報

3-1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物1(特開2001-110575号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(A)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エレクトロルミネッセンス素子及び薄膜トランジスタを備えたエレクトロルミネッセンス表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:以下、「EL」と称する。)素子を用いたEL表示装置が、CRTやLCDに代わる表示装置として注目されており、例えば、そのEL素子を駆動させるスイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下、「TFT」と称する。)を備えたEL表示装置の研究開発も進められている。」

(B)「【0011】次に従来のEL表示装置について図6、7を用いて説明する。・・・・・
【0014】図7(b)は図6のB-B線断面図である。基板10上に半導体膜43、ゲート絶縁膜12、ゲート電極41、層間絶縁膜15が順次積層され、層間絶縁膜15上にドレイン信号線52、駆動電源53が配置され、それらを覆って平坦化絶縁膜17が形成されている。平坦化絶縁膜17上に陽極61が配置され、コンタクトC3を介して半導体膜43に接続されている。陽極61上にはには第1ホール輸送層62、第2ホール輸送層63、発光層64、電子輸送層65の積層構造である発光素子層66が配置されている。それらを覆って陰極67が配置される。
・・・・・
【0016】
【発明が解決しようとする課題】ところが、このように有機EL素子を形成する際に、陽極61の上に形成する発光素子層66は、その厚みが約200nmと非常に薄いため、陽極61端部の平坦化絶縁膜17との段差によってカバレッジが悪くなる。そのため、図8に矢印で示す箇所は、陽極61の頂点と陰極67の頂点が向かい合うため、ここに電界集中が生じ、発光層64が早く劣化するという問題が生じる。また、カバレッジが更に悪くなると、図示したように、発光素子層66が切れて、上層に設けた陰極67が陽極61と短絡し、この画素は表示欠陥となってしまう問題があった。
【0017】そこで本発明は、陽極の厚みによる発光層64の局所的な劣化や、短絡を防止し、よってより歩留まりの高い、また、より寿命の長いEL表示装置を提供することを目的とする。」

(C)「【0018】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するためになされ、基板上に第1の電極、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、第2の電極が順に積層されてなるエレクトロルミネッセンス素子を有するエレクトロルミネッセンス表示装置において、第1の電極の端部は斜面となっているエレクトロルミネッセンス表示装置である。
【0019】そして、第1の電極の斜面は10度以上45度以下、さらには、25度以上35度以下の角度である。
【0020】また、第1の電極の厚さは、ホール輸送層、発光層、電子輸送層の膜厚の合計の1/2、さらにはその1/3よりも薄い。」

(D)「【0021】
【発明の実施の形態】本発明の第1の実施形態について以下に以下に説明する。第1の実施形態は、本発明をアクティブマトリクス型有機EL表示装置に適用した例である。図1に第1の実施形態のEL表示装置の1表示画素を示す平面図を示し、図2に図1中のA-A線に沿った断面図を示す。
【0022】各画素の駆動回路は、図9に示す回路と全く同一であって、図6,7の従来例と異なる点は第1の電極である陽極1の断面形状のみである。
【0023】51は図9のゲート信号線Gn、52はドレイン信号線Dm、53は駆動電源150、54は補助容量170の電極172、61は有機EL素子160の陽極161にそれぞれ相当する。行方向にゲート信号線51が配置され、列方向にドレイン信号線52と駆動電源53が配置されている。それらによって区画された領域内に補助容量と発光層が配置される。補助容量は、半導体膜13と電極54によって形成されている。半導体膜13はコンタクトC1を介してドレイン信号線52に接続され、ドレイン13d、ソース13sの間にゲート電極11が配置されている。
【0024】半導体膜43はコンタクトC2を介して駆動電源53に接続され、ドレイン43d、ソース43sの間に半導体膜13に接続されたゲート電極41が配置されている。半導体膜43はコンタクトC3を介して有機EL素子の陽極1に接続されている。
【0025】図2に示すように、有機EL表示装置は、ガラスや合成樹脂などから成る基板又は導電性を有する基板あるいは半導体基板等の基板10上に、TFT及び有機EL素子を順に積層形成して成る。ただし、基板10として導電性を有する基板及び半導体基板を用いる場合には、これらの基板10上にSiO_(2)やSiNなどの絶縁膜を形成した上にTFT及び有機EL表示装置を形成する。
【0026】本実施の形態においては、第1及び第2のTFT30,40ともに、ゲート電極を能動層の上方に設けたいわゆるトップゲート型のTFTであり、能動層として多結晶シリコンよりなる半導体膜を用いた場合を示す。またゲート電極11がダブルゲート構造であるTFTの場合を示す。
【0027】まず、スイッチング用のTFTである第1のTFT30について説明する。
【0028】図2に示すように、石英ガラス、無アルカリガラス等からなる絶縁性基板10上に、半導体膜43、ゲート絶縁膜12を順に形成する。半導体膜43は、第2のTFTの能動層となっており、ソース43s、ドレイン43d、チャネル43cを有する。ゲート絶縁膜12上に、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)などの高融点金属からなるゲート電極41が形成され、これを覆ってSiO_(2)膜、SiN膜及びSiO_(2)膜の順に積層された層間絶縁膜15が形成される。その上にドレイン信号線52、駆動電源53を形成する。
【0029】TFTは、いわゆるLDD(Lightly Doped Drain)構造である。即ち、チャネル13c上のゲート電極41をマスクにしてイオンドーピングし、更にゲート電極41及びその両側のゲート電極41から一定の距離までをレジストにてカバーしイオンドーピングしてゲート電極41の両側に低濃度領域とその外側に高濃度領域のソース43s及びドレイン43dが設けられている。
【0030】更に全面に例えば有機樹脂から成り表面を平坦にする平坦化絶縁膜17を形成する。そして、その平坦化絶縁膜17のソース43sに対応した位置にコンタクトホールを形成し、コンタクトC3を介してソース43sとコンタクトしたITOから成る透明な第1の電極、即ち有機EL素子の陽極1を平坦化絶縁膜17上に形成する。
【0031】発光素子層66は、一般的な構造であり、ITO等の透明電極から成る陽極1、MTDATA(4,4-bis(3-methylphenylphenylamino)biphenyl)から成る第1ホール輸送層62、TPD(4,4,4-tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylanine)からなる第2ホール輸送層63、キナクリドン(Quinacridone)誘導体を含むBebq2(10-ベンゾ〔h〕キノリノール-ベリリウム錯体)から成る発光層64及びBebq2から成る電子輸送層65、マグネシウム・インジウム合金もしくはマグネシウム・銀合金もしくはフッ化リチウム/アルミニウム積層などから成る陰極67がこの順番で積層形成された構造である。
【0032】また有機EL素子は、陽極から注入されたホールと、陰極から注入された電子とが発光層の内部で再結合し、発光層を形成する有機分子を励起して励起子が生じる。この励起子が放射失活する過程で発光層から光が放たれ、この光が透明な陽極から透明絶縁基板を介して外部へ放出されて発光する。
【0033】このように構成された表示画素が基板10上にマトリクス状に配置されることにより、有機EL表示装置が形成される。」

(E)「【0034】さて、本実施形態の陽極1は、図2に示したように、端部が斜面となっている。この斜面によって、発光素子層66は陽極1から平坦化絶縁膜17上になだらかに形成されるので、カバレッジが悪くなって、陽極1と陰極67とが短絡することが防止される。また、斜面であるので、陽極1の端部には陰極67を向いた角がないので、電界集中がおこりにくい。従って、発光層64は全面に均等に発光し、一部分が早く劣化することもない。
【0035】図3に示す陽極1の斜面の角度θは、より小さい方が断線や電界集中の防止には好適である。しかし、角度が浅くなると、陽極1の端部は、極めて薄い膜となってしまい、形状の再現性が低下するという問題が生じる。従って、陽極1の斜面の角度は10゜?45゜、望ましくは30゜程度とする。また、陽極1の上端は、図3(b)に示すように、なだらかな曲線となるようにするとなおよい。
【0036】次に陽極1を斜面とする方法について説明する。・・・本実施形態では、全面に形成したITO膜にポジ型フォトレジストを形成し、Cl2や、HClのような塩素系ガスを用いたドライエッチを行うことによってITO端部を斜面とした。・・・・・。本実施形態では、斜面の角度θは約30゜となった。このように、ITO膜とレジストの選択性が低いエッチングガスを用いて等方性エッチングをすることによって、端部を斜面とする陽極1を形成することができる。」

(F)「【0037】次に陽極1の膜厚について述べる。陽極1の膜厚は、発光素子層66の合計膜厚に比較して薄く形成する。陽極1の膜厚が薄ければ、平坦化絶縁膜17との間に生じる段差も緩和されるので、発光素子層66の断線が防止できる。陽極1の厚みによって、表示の色味が変化するため、必ずしも任意の厚さに設定できるわけではないが、可能であれば、陽極1の膜厚は発光素子層66の合計膜厚の1/2以下、さらには1/3以下とすることが望ましい。ただし、陽極1を薄く形成しすぎると、陽極1の一部が欠ける等、形状の再現性が低下する。本実施形態では、陽極61は厚さ約85nm、発光素子層66は厚さが計約200nm、陰極67は厚さ約200nmである。」

(G)「【0044】
【発明の効果】以上に述べたように、本発明は、第1の電極の端部は斜面となっているので、この上に形成されるエレクトロルミネッセンス素子がなだらかに形成され、第1の電極と第2の電極の短絡が防止され、歩留まりの高いエレクトロルミネッセンス表示装置とすることができる。
【0045】また、第1の電極端部における電界集中が防止されるので、局所的にエレクトロルミネッセンス素子が劣化することを防止でき、寿命の長いエレクトロルミネッセンス表示装置とすることができる。
【0046】そして、第1の電極の斜面は10度以上45度以下、さらには、25度以上35度以下の角度であるので、発光素子層を確実に形成でき、かつ第1の電極の形状の再現性を損なうことがない。
【0047】また、第1の電極の厚さは、発光素子層の膜厚の1/2、さらにはその1/3よりも薄いので、発光素子層を確実に形成することができる。」

(刊行物1に記載された発明)
(イ)記載事項(D)【0028】の「図2に示すように、石英ガラス、無アルカリガラス等からなる絶縁性基板10上に、半導体膜43、ゲート絶縁膜12を順に形成する。半導体膜43は、第2のTFTの能動層となっており、ソース43s、ドレイン43d、チャネル43cを有する。」との記載と図2からみて、絶縁性基板10上に、ソース43s、ドレイン43dを備える薄膜トランジスタ(TFT)が形成されていることが開示されている。
(ロ)記載事項(D)【0030】の「平坦化絶縁膜17のソース43sに対応した位置にコンタクトホールを形成し、コンタクトC3を介してソース43sとコンタクトしたITOから成る透明な第1の電極、即ち有機EL素子の陽極1を平坦化絶縁膜17上に形成する。」との記載から、平坦化絶縁膜17は、絶縁性基板10上に形成され、絶縁性基板10上に備える薄膜トランジスタ(TFT)のソース43sに対応した位置に、コンタクトホールが形成されていることが、また、平坦化絶縁膜17上に形成した陽極1は、コンタクトC3を介してソース43sと接続されていることが開示されている。
(ハ)記載事項(D)【0031】の「発光素子層66は、一般的な構造であり、ITO等の透明電極から成る陽極1、MTDATA(4,4-bis(3-methylphenylphenylamino)biphenyl)から成る第1ホール輸送層62、TPD(4,4,4-tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylanine)からなる第2ホール輸送層63、キナクリドン(Quinacridone)誘導体を含むBebq2(10-ベンゾ〔h〕キノリノール-ベリリウム錯体)から成る発光層64及びBebq2から成る電子輸送層65、マグネシウム・インジウム合金もしくはマグネシウム・銀合金もしくはフッ化リチウム/アルミニウム積層などから成る陰極67がこの順番で積層形成された構造である。」との記載と図2からみて、陽極1上にMTDATAから成る第1ホール輸送層62、TPDからなる第2ホール輸送層63、キナクリドン誘導体を含むBebq2から成る発光層64、Bebq2から成る電子輸送層65、陰極67がこの順番で形成され、陽極1、第1ホール輸送層62、第2ホール輸送層63、発光層64、電子輸送層65、陰極67が発光素子層66を構成していることが開示されている。
(ニ)記載事項(F)【0037】の「次に陽極1の膜厚について述べる。陽極1の膜厚は、発光素子層66の合計膜厚に比較して薄く形成する。陽極1の膜厚が薄ければ、平坦化絶縁膜17との間に生じる段差も緩和されるので、発光素子層66の断線が防止できる。陽極1の厚みによって、表示の色味が変化するため、必ずしも任意の厚さに設定できるわけではないが、可能であれば、陽極1の膜厚は発光素子層66の合計膜厚の1/2以下、さらには1/3以下とすることが望ましい。ただし、陽極1を薄く形成しすぎると、陽極1の一部が欠ける等、形状の再現性が低下する。本実施形態では、陽極61は厚さ約85nm、発光素子層66は厚さが計約200nm、陰極67は厚さ約200nmである。」(当審注:【0037】は陽極1の膜厚について記載した箇所であるから、「陽極61」は「陽極1」の誤記と認められる。)との記載から、実施形態として厚さが約85nmの陽極1が開示されている。
(ホ)記載事項(E)【0035】の「・・・陽極1の斜面の角度は10゜?45゜、望ましくは30゜程度とする。」との記載と図2?図4からみて、陽極1の端部の角度として、10゜?45゜、望ましくは30゜程度の角度が開示されており、【0036】には実施形態として約30゜の角度が開示されている。
(チ)記載事項(D)【0032】の「また有機EL素子は、陽極から注入されたホールと、陰極から注入された電子とが発光層の内部で再結合し、発光層を形成する有機分子を励起して励起子が生じる。この励起子が放射失活する過程で発光層から光が放たれ、この光が透明な陽極から透明絶縁基板を介して外部へ放出されて発光する。」との記載、【0033】の「このように構成された表示画素が基板10上にマトリクス状に配置されることにより、有機EL表示装置が形成される。」との記載から、有機EL表示装置が開示されている。
してみると、刊行物1には、以下の発明が開示されている。
「 ソース43s、ドレイン43dを備える薄膜トランジスタが形成された絶縁性基板10と、
前記絶縁性基板10上に形成され、コンタクトホールを備えた平坦化絶縁膜17と、
前記平坦化絶縁膜17上に形成され、前記コンタクトホールのコンタクトC3を介して前記ソース43sに接続される陽極1と、
前記陽極1上に形成されたMTDATAから成る第1ホール輸送層62、TPDからなる第2ホール輸送層63、キナクリドン誘導体を含むBebq2から成る発光層64、Bebq2から成る電子輸送層65と、
前記電子輸送層65上に形成された陰極67とを含み、
前記陽極1、第1ホール輸送層62、第2ホール輸送層63、発光層64、電子輸送層65、陰極67が有機発光する発光素子層66を構成し、
前記陽極1は約85nmの厚さを有し、その端部が約30゜の斜面である、
有機EL表示装置。」 (以下、「引用発明」という。)

3-2 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物2(特開2003-168569号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(H)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はフルカラー有機電界発光表示素子の構造及び製造方法に係り、さらに具体的にレーザー転写法で有機薄膜層をパターニングする時に絶縁膜と透明電極間の境界で発生する有機薄膜層のエッジ不良を防止できるフルカラー有機電界発光表示素子及びその製造方法に関する発明である。」

(I)「【0002】
【従来の技術】・・・・・
【0013】一方、レーザー転写法を利用したフルカラーOLEDの製造方法は、韓国特許登録番号10-0195175及び韓国特許出願番号2000-49287そしてUS5,998,085に開示されている。レーザー転写法を利用したOLED製造方法は薄膜トランジスタが形成された基板に転写フィルムを密着させた次に光源から出た光で転写フィルムをスキャニングすれば光が転写フィルムの光吸収層に吸収されて熱エネルギーに転換されて、転換された熱エネルギーによって転写フィルムのイメージ形成物質が基板に転写されてR、G、B有機薄膜層のパターンを形成する。
【0014】従来には寄生キャパシタンスを考慮して、絶縁膜を500nmないし1000nm或いはそれ以上に厚く形成した。これによってレーザー熱転写法を利用して有機薄膜層をパターニングする場合、図9に示したように、有機薄膜層のエッジで不良が発生することが分かる。
【0015】すなわち、絶縁膜のエッジ部分でカラーパターンがきちんと転写されないで取れたり、複数のピクセルにかけてカラーパターンが取れたりまたは正常的にカラーパターンが転写された場合にも転写境界がきれいでないなどの不良が発生するようになる。
【0016】このような不良は、有機EL層の下部に形成された下部膜の特性に影響を受けるが、下部膜が均一に形成されていなかったり、絶縁膜のエッジ部分で発光物質が蒸着されないで穴で残っている部分があったり、または下部膜が他の薄膜層との接着力が悪くて下部膜の形成特性が良くないことなどが影響を及ぼすようになる。特に、下部薄膜層との吸着力が良い発光物質の場合にはレーザー転写時に既に蒸着された下部薄膜層と一緒にカラーパターンが取れるようになる。
【0017】一方、透明電極と絶縁層の境界で有機薄膜層の不良を防止するための絶縁層の形成方法と関連した技術が米国特許5,684,365号に提示された。前記特許に提示されたAMタイプの有機電界発光表示素子の断面構造が図1に図示された。
【0018】図1を参照すると、絶縁基板100上にソース/ドレイン領域124、125を備えたポリシリコンからなったアイランド状の半導体層120が形成されて、半導体層120を含んだ基板上にゲート絶縁膜130が形成されて、ゲート絶縁膜130上にゲート135が形成される。前記ゲート135を含んだゲート絶縁膜130上に前記ソース/ドレイン領域124、125を露出させるコンタクトホール144、145を備えた層間絶縁膜140が形成される。
【0019】前記層間絶縁膜140上には、前記コンタクトホール144を通して前記ソース領域124に連結されるソース電極154と、前記コンタクトホール145を通して前記ドレイン領域125に連結される画素電極170が形成される。
【0020】そして、前記画素電極170が露出されるように開口部185を備えた保護膜180が前記層間絶縁膜140に形成されて、開口部185に有機薄膜層190が形成されて、有機薄膜層190を含んだ保護膜180上に陰極195が形成された構造を有する。
【0021】このとき、前記保護膜180は、前記画素電極170を露出させる開口部185のエッジ、すなわち画素電極170上部の保護膜180が10ないし30゜のテーパエッジ(tapered edge)を有するように形成する。このような保護膜180のテーパエッジは後続工程で形成される有機薄膜層190の接着力(adhesion)を向上させて不良発生を防止するためのものである。」

(J)「【0022】レーザー転写法を利用して有機薄膜層を製造する場合には前記のように、テーパ角を有するように絶縁膜を形成しても絶縁膜の厚さが500μm以上(当審注:明細書の他の記載から見て、500μmは500nmの誤記と認められる。)である場合には有機薄膜層のエッジ不良が相変わらず発生する問題点があった。
【0023】
【発明が解決しようとする課題】本発明は前記のような従来技術の問題点を解決するためのものであり、画素電極の開口部のエッジ部部分で発生する有機EL層のパターン不良を防止できるフルカラー有機電界発光表示素子及びその製造方法を提供することにその目的がある。
【0024】本発明の他の目的は画素電極上の絶縁膜を500nm以下の厚さを有するように形成して画素電極の開口部のエッジ部分における有機EL層のパターン不良を防止できるフルカラー有機電界発光表示素子及びその製造方法を提供することにその目的がある。
【0025】・・・・・。
【0026】
【課題を解決するための手段】このような本発明の目的を達成するために本発明は基板上に形成された下部膜と;前記下部膜が露出されるように基板上に形成された絶縁膜と;前記露出された下部膜上に形成された有機薄膜層を含み、前記絶縁膜の厚さは500nm以下であることを特徴とする表示素子を提供する。」

(K)「【0066】図7C及び図7Dは、レーザー転写法を利用して開口部385内の画素電極370上に有機薄膜層390を形成する工程であって、まずPEDOTを3000rpmで50nmの厚さにスピンコーティングして200℃で5分間熱処理して正孔輸送層390aを形成する。続いて、R、G、B発光層のための3枚の転写フィルムを製造するが、本発明の実施例ではR、G、B発光層のための3枚の転写フィルム中1枚の転写フィルム、例えばR発光層のための転写フィルム30に対して説明する。
【0067】光吸収層32が形成されたベースフィルム31上に発光層形成物質であるRカラーを各々1.0wt/V%の濃度のキシレン(xylene)溶液を利用して2000rpmの速度でスピンコーティングして80nmの厚さを有するRカラーのための転写層33を形成して転写フィルム30を製造する。
【0068】転写フィルム30を正孔輸送層390aがコーティングされた基板上に真空で固定した後、赤外線(IR、infrared radiation)レーザー35を利用して所望するパターンで転写してR発光層390bを形成する。これによって、正孔輸送層390aとR発光層390bを備えた有機薄膜層390が形成される。
【0069】前記のような方法でR(当審注:「R」は「G」の誤記と認められる。)、Bカラーのための転写フィルムを製造して転写すればR、G、Bフルカラーのための有機薄膜層390が形成されて、前記有機薄膜層390は前記R、G、B有機発光層と正孔輸送層外に正孔注入層、電子注入層、電子輸送層をさらに含む場合もある。」

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明における「ソース43s、ドレイン43dを備える薄膜トランジスタが形成された絶縁性基板10」は、本願発明における「少なくともソース/ドレイン電極を備える薄膜トランジスタを含む絶縁基板」に相当する。
(イ)引用発明において、「平坦化絶縁膜17」が備える「コンタクトホール」は、その「コンタクトC3」を介して「陽極1」が「ソース43s」に接続されるから、「コンタクトホール」は「ソース43s」を露出させる機能を有しており、本願発明の「ビアホール」に相当する。そして、引用発明において「平坦化絶縁膜17」は、「絶縁性基板10」上に形成されているから、引用発明における「前記絶縁性基板10上に形成され、コンタクトホールを備えた平坦化絶縁膜17」は、本願発明における「前記絶縁基板上に形成され、前記ソース/ドレイン電極の中の一つを露出させるビアホールを備えた第1絶縁膜」に相当する。
(ウ)引用発明における「陽極1」は、「平坦化絶縁膜17」上に形成され、「コンタクトC3」を介して「ソース43s」に接続されていることから、引用発明における「前記平坦化絶縁膜17上に形成され、前記コンタクトホールのコンタクトC3を介して前記ソース43sに接続される陽極1」は、本願発明における「前記第1絶縁膜上に形成され、前記ビアホールを介して前記一つの電極に接続される下部電極」に相当する。
(エ)引用発明における「キナクリドン誘導体を含むBebq2から成る発光層64」は、本願発明の「有機発光層」に相当し、引用発明における「MTDATAから成る第1ホール輸送層62、TPDからなる第2ホール輸送層63、キナクリドン誘導体を含むBebq2から成る発光層64、Bebq2から成る電子輸送層65」は、一体として、本願発明における「有機薄膜層」に相当する。
(オ)引用発明における「電子輸送層65上に形成された陰極67」は、本願発明の「有機薄膜層上に形成された上部電極」に相当する。
(カ)引用発明における「陽極1」の「端部が約30゜の斜面である」ことは、本願発明の「下部電極はエッジ部分で40°以下のテーパ角を有」することに相当する。
(キ)引用発明における「有機EL表示装置」は、本願発明の「有機電界発光表示装置」に相当する。
以上のことから、本願発明と引用発明とは、
「少なくともソース/ドレイン電極を備える薄膜トランジスタを含む絶縁基板と、
前記絶縁基板上に形成され、前記ソース/ドレイン電極の中の一つを露出させるビアホールを備えた第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜上に形成され、前記ビアホールを介して前記一つの電極に接続される下部電極と、
前記下部電極上に形成された有機薄膜層と、
前記有機薄膜層上に形成された上部電極とを含み、
前記下部電極はエッジ部分で40°以下のテーパ角を有し、
前記有機薄膜層は有機発光層を少なくとも含む
有機電界発光表示装置。」
の点で一致するものの、以下の点で相違し、その余に格別の相違点は認められない。

(相違点)本願発明では、「有機発光層」が「レーザ熱転写法によって形成された有機発光層」であるのに対し、引用発明では、「発光層64」の形成方法が不明である点。

以下、上記相違点について検討する。
刊行物2には、有機電界発光表示装置における有機薄膜層390のR発光層390b(G発光層、B発光層も同様である。)を形成する方法として、赤外線レーザ35を利用して転写する方法で形成することが記載されている(特に、上記記載事項(K)、および図7C?図7D参照)。ここで、刊行物2に記載の「有機薄膜層390」、「R発光層390b」は、それぞれ本願発明の「有機薄膜層」、「有機発光層」に相当し、また、刊行物2の上記記載事項(I)の【0013】?【0014】の記載に照らすと、「赤外線レーザ35を利用して転写する方法」は、「レーザ熱転写法」に相当する。そして、刊行物1,2は、何れも有機EL素子の技術分野に属するものであるから、刊行物1に開示された引用発明における「発光層64」の形成方法として刊行物2に記載された形成方法を採用し、上記相違点に係る構成と為すことに格別の困難性は認められない。
また、刊行物2には、レーザ熱転写法を利用して有機薄膜層を形成する場合、有機薄膜層190の下方に位置する厚さ500nm以下の保護膜180が10ないし30°のテーパエッジを有することにより、有機薄膜層190の接着力を向上させて不良発生を防止できることが【0021】(上記記載事項(I)参照)に開示されている。してみると、引用発明においては、エッジ部分で40°以下のテーパ角を有する厚さ約85nmの陽極1上に発光層64を形成するのであるから、刊行物2に記載のレーザ熱転写法を用いて形成した際には、接着力が向上して不良発生を防止できること、すなわち、エッジオープン不良を防ぐという本願発明の作用・効果を奏するであろうことは、当業者が容易に予測しうることである。

審判請求人は、請求の理由の中で、「段落[0021]に続く段落[0022]には『レーザー転写法を利用して有機薄膜層を製造する場合には前記のように、テーパ角を有するように絶縁膜を形成しても絶縁膜の厚さが500μm以上である場合には有機薄膜層のエッジ不良が相変わらず発生する問題点があった』と記載されている。従って、引用文献2に開示する発明は、“テーパ角”の調整ではエッジ不良が相変わらず発生するから、“テーパ角”の調整ではなく、“絶縁膜の段差”を調節することによりエッジ不良を改善しようとするものである。つまり、引用文献2の発明は、“テーパ角”を調整することによりエッジ不良を改良することを諦めた発明である。従って、“テーパ角”の調整を利用してエッジ不良を解消する発明について、引用文献1と引用文献2とを組み合わせには、明らかな“阻害要因”が存在する。」と主張する。
そこで、該主張について検討する。刊行物2に記載のものは、その図2?図6、図7D,図8Dからも見て取れるように、各実施例の何れもが”テーパ角”を有していることから、“テーパ角”有しつつ、”段差”を調整したものと解するのが妥当である。そして、引用発明においては、有機薄膜層の下方に位置する陽極1の厚さが約85nmであって500μmよりも薄いことから、引用発明における有機薄膜層をレーザ熱転写法を用いて形成することに阻害要因はなく、エッジオープン不良を防ぐという作用・効果を奏するであろうことも、刊行物2の記載から当業者が容易に予測しうることである。したがって、組合せに阻害要因がある旨の審判請求人の主張は採用できない。

また、審判請求人は、刊行物1において、陽極(本願発明の「下部電極」)の端部を30°程度の斜面とする構成が開示されているとしても、刊行物1はあくまでも“電界集中を防ぐ”ためのテーパ形状を開示しているに過ぎず、当業者にとってエッジ不良を回避するための構成が開示されているとは言えない旨を主張し、更に、陽極の厚さは薄いので、刊行物1を知っている当業者であっても “エッジ不良を回避するための構成”として容易に気付くことはない旨を主張する。しかしながら、刊行物1には、「【0016】・・・このように有機EL素子を形成する際に、陽極61の上に形成する発光素子層66は、その厚みが約200nmと非常に薄いため、陽極61端部の平坦化絶縁膜17との段差によってカバレッジが悪くなる。・・・カバレッジが更に悪くなると、図示したように、発光素子層66が切れて、上層に設けた陰極67が陽極61と短絡し、この画素は表示欠陥となってしまう問題があった。」(上記記載事項(B)参照)との記載があり、陽極61の段差に起因して発光素子層66が切れるエッジ不良の問題を示唆している。更に、「【0044】・・・第1の電極の端部は斜面となっているので、この上に形成されるエレクトロルミネッセンス素子がなだらかに形成され、第1の電極と第2の電極の短絡が防止され・・・」(上記記載事項(G)参照)との記載から見て、陽極61の端部を斜面にすることで、上記問題を解決しているものである。したがって、審判請求人の上記主張は何れも採用できない。

したがって、本願発明は、刊行物1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。


5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-31 
結審通知日 2010-04-06 
審決日 2010-04-30 
出願番号 特願2004-344945(P2004-344945)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 波多江 進  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 日夏 貴史
北川 清伸
発明の名称 有機電界発光表示装置  
代理人 佐伯 義文  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  

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