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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1223663
審判番号 不服2007-25168  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-13 
確定日 2010-09-16 
事件の表示 特願2001-366346「磁気抵抗効果素子およびその製造方法並びに磁気メモリ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月13日出願公開、特開2003-168834〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年11月30日の出願であって、平成19年5月21日付けで手続補正がなされ、同年8月7日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年10月12日に審判請求がなされるとともに、同年10月12日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年3月10日付けで審尋がなされ、同年5月14日に回答書が提出されたものである。

第2.平成19年10月12日付けの手続補正についての却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年10月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成19年10月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、同年5月21日付けで補正された本件補正前の請求項1?8、0008段落、0010段落、及び0012段落を、本件補正後の請求項1?8、0008段落、0010段落、及び0012段落とするものであって、本件補正前の請求項1?8及び本件補正後の請求項1?8は、以下のとおりである。

(1)本件補正前の請求項1?8
「 【請求項1】 二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とを含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるものであり、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなる
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】 前記ホウ素は、当該ホウ素が属する強磁性体層内に拡散してきた酸素と結合しているものである
ことを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】 前記二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とが順次積層されるとともに、少なくとも前記絶縁体の上面側に成膜される強磁性体層が前記ホウ素を含んで形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】 二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とを含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子の製造方法において、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方を、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるように成膜し、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方を、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料によって成膜する成膜工程を含む
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】 前記成膜工程により前記絶縁体に次いで成膜される強磁性体層の成膜を行う
ことを特徴とする請求項4記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項6】 二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とを含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子を具備し、前記強磁性体層の磁化方向の変化を利用して情報記録を行うように構成された磁気メモリ装置において、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるものであり、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなる
ことを特徴とする磁気メモリ装置。
【請求項7】 前記ホウ素は、当該ホウ素が属する強磁性体層内に拡散してきた酸素と結合しているものである
ことを特徴とする請求項6記載の磁気メモリ装置。
【請求項8】 前記二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とが順次積層されるとともに、少なくとも前記絶縁体の上面側に成膜される強磁性体層が前記ホウ素を含んで形成されている
ことを特徴とする請求項6記載の磁気メモリ装置。」

(2)本件補正後の請求項1?8
(下線部は補正箇所)
「 【請求項1】 反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるものであり、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなり、
前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】 前記ホウ素は、当該ホウ素が属する強磁性体層内に拡散してきた酸素と結合しているものである
ことを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】 前記二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とが順次積層されるとともに、少なくとも前記絶縁体の上面側に成膜される強磁性体層が前記ホウ素を含んで形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】 反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子の製造方法において、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方を、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるように成膜し、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方を、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料によって成膜する成膜工程を含み、
前記二つの強磁性体層のうち一方を、Ruを介在するように形成する
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】 前記成膜工程により前記絶縁体に次いで成膜される強磁性体層の成膜を行う
ことを特徴とする請求項4記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項6】 反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子を具備し、前記強磁性体層の磁化方向の変化を利用して情報記録を行うように構成された磁気メモリ装置において、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるものであり、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなり、
前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している
ことを特徴とする磁気メモリ装置。
【請求項7】 前記ホウ素は、当該ホウ素が属する強磁性体層内に拡散してきた酸素と結合しているものである
ことを特徴とする請求項6記載の磁気メモリ装置。
【請求項8】 前記二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とが順次積層されるとともに、少なくとも前記絶縁体の上面側に成膜される強磁性体層が前記ホウ素を含んで形成されている
ことを特徴とする請求項6記載の磁気メモリ装置。」

2.補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると、以下のとおりとなる。
(1)補正事項1
本件補正前の請求項1の「二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とを含む多層膜構造」を、本件補正後の請求項1の「反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造」と補正すること。

(2)補正事項2
本件補正前の請求項1の「二つの強磁性体層」を、本件補正後の請求項1のように「前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」ものに限定する補正をすること。

(3)補正事項3
補正事項2についての補正に伴い、本件補正前の請求項1の「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなる」を、本件補正後の請求項1の「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなり、」と補正すること。

(4)補正事項4
本件補正前の請求項4の「二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とを含む多層膜構造」を、本件補正後の請求項4の「反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造」と補正すること。

(5)補正事項5
本件補正前の請求項4の「二つの強磁性体層」を、本件補正後の請求項4のように「前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」ものに限定する補正をすること。

(6)補正事項6
補正事項5についての補正に伴い、本件補正前の請求項4の「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方を、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料によって成膜する成膜工程を含む」を、本件補正後の請求項4の「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方を、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料によって成膜する成膜工程を含み、」と補正すること。

(7)補正事項7
本件補正前の請求項6の「二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とを含む多層膜構造」を、本件補正後の請求項6の「反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造」と補正すること。

(8)補正事項8
本件補正前の請求項6の「二つの強磁性体層」を、本件補正後の請求項6のように「前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」ものに限定する補正をすること。

(9)補正事項9
補正事項8についての補正に伴い、本件補正前の請求項6の「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなる」を、本件補正後の請求項6の「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなり、」と補正すること。

(10)補正事項10
請求項1に関する上記補正事項1?3についての補正に伴い、請求項1に対応した本件補正前の0006段落の「二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とを含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるものであり、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなる」を、本件補正後の0006段落の「反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるものであり、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなり、前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」と補正すること。

(11)補正事項11
請求項4に関する上記補正事項4?6についての補正に伴い、請求項4に対応した本件補正前の0010段落の「二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とを含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子の製造方法において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方を、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるように成膜し、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方を、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料によって成膜する成膜工程を含む」を、本件補正後の0010段落の「反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子の製造方法において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方を、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるように成膜し、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方を、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料によって成膜する成膜工程を含み、前記二つの強磁性体層のうち一方を、Ruを介在するように形成する」と補正すること。

(12)補正事項12
請求項6に関する上記補正事項7?9についての補正に伴い、請求項6に対応した本件補正前の0012段落の「二つの強磁性体層とこれらの間に挟まれる絶縁体とを含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子を具備し、前記強磁性体層の磁化方向の変化を利用して情報記録を行うように構成された磁気メモリ装置において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるものであり、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなる」を、本件補正後の0012段落の「反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子を具備し、前記強磁性体層の磁化方向の変化を利用して情報記録を行うように構成された磁気メモリ装置において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるものであり、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなり、前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」と補正すること。

3.補正の目的についての検討
(1)補正事項1,4,7について
特許法第17条の2第4項(平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)の規定によれば、審判の請求に伴ってする補正は、同条項第1号(特許請求の範囲の削除),第2号(特許請求の範囲の限定的減縮),第3号(誤記の訂正),第4号(明りょうでない記載の釈明)を目的とするものに限られるところ、補正事項1,4,7は、請求の範囲の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは,明らかである。
また、特許法第17条の2第4項第2号に規定する上記特許請求の範囲の限定的減縮に適合する要件は、詳しくは、特許・実用新案審査基準第III部第III節4.2に、
「(1)特許請求の範囲の減縮であること。
(2)補正前の請求項に記載された発明(以下「補正前発明」という)の発明特定事項の限定であること。
(3)補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であること。」
と列記されるとおりの要件と解されるところ、補正事項1,4,7は、本件補正前の請求項1,4,7にそれぞれ記載された「多層膜構造」について、二つの強磁性層がその上に形成される層としての「反強磁性層」を新たに追加する内容であり、特許請求の範囲を減縮する上記(1)の要件を満たすものではある。しかしながら、本件補正前の「多層膜構造」は、本件補正後の「反強磁性層」という層についての特定を含む記載であるとは解されず、これら補正事項1,4,7は、補正前の請求項1,4,7にそれぞれ記載されたいずれの発明特定事項の下位概念化にもあたらない、すなわち、上記(2)の要件を満たすものではない。また、審判請求書において審判請求人が、
「本願発明は、「反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造」の磁気抵抗効果素子についてのものであり、「反強磁性層(例えばPtMn)」の上に「強磁性体層」を重ねた構成を備えている。この構成により、本願発明では、「強磁性体層」の磁化方向を一定方向に固定することができるのである。つまり、外部磁界を加えると磁化の向きは変わるが、当該外部磁界を取り去ると元の向きに戻ることになる。」
とも説明しているように、補正事項1,4,7は、「強磁性体層」の磁化方向を一定方向に固定するとの、解決しようとする課題を新たに追加するものであるから、本件補正前の請求項1,4,7に係る発明の解決しようとする課題を概念的に下位にしたものでも、同種のものでもないなど、技術的に密接に関連しているとはいえず、解決しようとする課題を変更するものであって、上記(3)の要件も満たすものではない。そうすると、補正事項1,4,7は、上記(2)及び上記(3)の要件を満たすものではないから、特許請求の範囲の限定的減縮にもあたらない。
したがって、補正事項1,4,7は、特許法第17条の2第4項に規定するいずれの目的にも該当しない。

(2)補正事項2,5,8について
審判の請求に伴ってする補正は、上記「(1)補正事項1,4,7について」で述べたような特許法第17条の2第4項に規定するいずれかを目的とするものに限られるところ、補正事項2,5,8は、請求の範囲の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは,明らかである。
また、補正事項2,5,8は、本件補正前の請求項1,4,7にそれぞれ記載された「二つの強磁性体層」について、その内の「一方は、Ruを介在している」ことを新たに追加する内容であり、特許請求の範囲を減縮する上記3.(1)に摘記をした上記(1)の要件を満たすものではある。しかしながら、本件補正前の「二つの強磁性体層」は、本件補正後の「一方は、Ruを介在している」との特定を含む記載であるとは解されず、これら補正事項2,5,8は、補正前の請求項1,4,7にそれぞれ記載されたいずれの発明特定事項の下位概念化にもあたらない、すなわち、上記3.(1)に摘記をした上記(2)の要件を満たすものではない。また、審判請求書及び回答書において審判請求人が、
「「強磁性体層」を、「Ru」を挟んだ積層構造とすると、その「強磁性体層」を備えて構成された磁気抵抗効果素子では、かなり大きな磁界を印加しないと磁化の向きが変わらなくなり、結果として非常に安定となるのである」
とも説明している解決しようとする課題を新たに追加するものであるから、本件補正前の請求項1,4,7に係る発明の解決しようとする課題を概念的に下位にしたものでも、同種のものでもないなど、技術的に密接に関連しているとはいえず、解決しようとする課題を変更するものであって、上記3.(1)に摘記をした上記(3)の要件を満たすものではない。そうすると、補正事項2,5,8は、上記3.(1)に摘記をした上記(2)及び上記(3)の要件を満たすものではないから、特許請求の範囲の限定的減縮にもあたらない。
したがって、補正事項2,5,8は、特許法第17条の2第4項に規定するいずれの目的にも該当しない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件補正は、補正目的に関し、同法第17条の2第4項の規定に違反している。

4.独立特許要件についての予備的検討
(1)検討の前提
上記3.で検討したとおり、本件補正は特許法第17条の2第4項の規定に違反したものと判断されるが、仮に上記補正事項1,2,4,5,7,8が特許請求の範囲の限定的減縮にあたる、すなわち、特許法第17条の2第4項第2号に規定される補正目的を満たしていたとして、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かを、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)について予備的に検討する。

(2)本件補正による補正後の発明
補正発明は、本件補正による補正後の請求項1に記載されている事項により特定されるものであり、上記1.(2)において本件補正後の請求項1として記載をしたとおりのものである。

(3)引用例に記載された発明
(3-1)本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由に引用された特開2000-101164号公報(以下「引用例1」という。)には、次の記載がある。(下線は当審で付加したもの。以下同じ。)

「【請求項1】 少なくとも自由磁性層/非磁性非導電層/固定磁性層/固定させる層、を基本構成とするトンネル接合素子において、 前記自由磁性層もしくは前記固定磁性層の少なくとも一部に、CoFeB、CoZrMo、CoZrNb、CoZr、CoZrTa、CoHf、CoTa、CoTaHf、CoFeTi、CoNbHf、CoHfPd、CoTaZrNb、CoZrMoNiからなるアモルファス材料を用いることを特徴とする磁気抵抗効果素子。」
「【0016】そして、請求項1に係る発明においては、自由磁性層もしくは固定磁性層の少なくとも一部に、Co、または、NiFe、CoFeB、CoZrMo、CoZrNb、、CoZr、CoZrTa、CoHf、CoTa、CoTaHf、CoFeTi、CoNbHf、CoHfPd、CoTaZrNb、CoZrMoNi合アモルファス磁性材料を用いたことを特徴とする。
【0017】これらの材料は、いずれもアモルファスもしくは結晶粒径の小さい結晶質であるので、成膜されても膜厚が均一であり表面のラフネスが小さい。そのため、これらの磁性層上に形成される非磁性層もラフネスの小さな平坦な膜となり、結果として抵抗変化率が高く、耐電圧特性に優れる磁気抵抗効果素子を得ることができる。」
「【0069】[実施の形態6]本発明に係る磁気抵抗効果素子としては以下の構成のものを用いることが好ましい。
【0070】(1)基体/下地層/フリー磁性層/非磁性非導電層/固定磁性層/固定させる層/保護層
(2)基体/下地層/フリー磁性層/第1MRエンハンス層/非磁性非導電層/固定磁性層/固定させる層/保護層
(3)基体/下地層/フリー磁性層/非磁性非導電層/第2MRエンハンス層/固定磁性層/固定させる層/保護層
(4)基体/下地層/フリー磁性層/第1MRエンハンス層/非磁性非導電層/第2MRエンハンス層/固定磁性層/固定させる層/保護層
(5) 基体/下地層/固定させる層/固定磁性層/非磁性非導電層/フリー磁性層/保護層
(6) 基体/下地層/固定させる層/固定磁性層/第1MRエンハンス層/非磁性非導電層/フリー磁性層/保護層
(7) 基体/下地層/固定させる層/固定磁性層/非磁性非導電層/第2MRエンハンス層/フリー磁性層/保護層
(8) 基体/下地層/固定させる層/固定磁性層/第1MRエンハンス層/非磁性非導電層/第2MRエンハンス層/フリー磁性層/保護層
ここで、金属下地層としては、Zr、もしくはZrに他元素を添加した材料、を用いることが好ましい。添加元素としてはTa、Hf、Zr、W、Cr、Ti、Mo、Pt、Ni、Ir、Cu、Ag、Co、Zn、Ru、Rh、Re、Au、Os、Pd、Nb、V等が適当である。
【0071】フリー磁性層としては、NiFe、CoFe、NiFeCo、FeCo、CoFeB、CoZrMo、CoZrNb、CoZr、CoZrTa、CoHf、CoTa、CoTaHf、CoNbHf、CoZrNb、CoHfPd、CoTaZrNb、CoZrMoNi合金またはアモルファス磁性材料を用いることが好ましい。
【0072】非磁性層としては、金属、酸化物、窒化物、酸化物と窒化物の混合物もしくは金属/酸化物2層膜、金属/窒化物2層膜、金属/(酸化物と窒化物との混合物)2層膜、を用いるのが好ましい。
【0073】この2層膜は、Ti、V、Cr、Co、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、または、Si、Al、Ti、Taのグループからなる酸化物及び窒化物の単体もしくは混合物、またはTa、Hf、Zr、W、Cr、Ti、Mo、Pt、Ni、Ir、Cu、Ag、Co、Zn、Ru、Rh、Re、Au、Os、Pd、Nb、V、Yのグループの少なくとも1つの元素からなる、単体もしくは合金を上記酸化物及び窒化物の単体もしくは混合物と組み合わせた2層膜が好ましく、実際に利用する場合の有力な候補となるであろう。
【0074】第1及び第2MRエンハンス層としてはCo、NiFeCo、FeCo等、またはCoFeB、CoZrMo、CoZrNb、CoZr、CoZrTa、CoHf、CoTa、CoTaHf、CoNbHf、CoZrNb、CoHfPd、CoTaZrNb、CoZrMoNi合金またはアモルファス磁性材料を用いる。
【0075】また、MRエンハンス層を用いない場合は、用いた場合に比べて若干MR比が低下するが、用いない分だけ作製に要する工程数は低減する。
【0076】固定磁性層としては、Co、Ni、Feをベースにするグループからなる単体、合金、または積層膜を用いるのが好ましい。
【0077】固定させる層としては、FeMn、NiMn、IrMn、RhMn、PtPdMn、ReMn、PtMn、PtCrMn、CrMn、CrAl、TbCo、Ni酸化物、Fe酸化物、Ni酸化物とCo酸化物の混合物、Ni酸化物とFe酸化物の混合物、Ni酸化物/Co酸化物2層膜、Ni酸化物/Fe酸化物2層膜、CoCr、CoCrPt、CoCrTa、PtCoなどを用いることが好ましい。特に、PtMnもしくはPtMnにTi、V、Cr、Co、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Si、Al、Ti、Taを添加した材料は実際に装置を製造する際の有力な候補となるであろう。」

(3-2)そして、引用例1に記載された「基体/下地層/固定させる層/固定磁性層/非磁性非導電層/フリー磁性層/保護層」の構成の「磁気抵抗効果素子」は、「固定させる層」と、該「固定させる層」上に形成された「固定磁性層」と「フリー磁性層」と、該「固定磁性層」と「フリー磁性層」とに挟まれる「非磁性非導電層」と、を含む「多層膜構造」の「磁気抵抗効果素子」であることが明らかである。
また、引用例1の請求項1及び0016段落には「固定磁性層」に「CoFeB」を用いること、及び、0077段落には「固定させる層」に「PtMn」を用いることを、それぞれ示唆した記載がある。
なお、引用例1の0071段落には、「フリー磁性層」として好ましい材料に「CoFeB」が挙げられている一方で、0076段落において、「固定磁性層」して「好ましい材料」として挙げられているのは、「Co、Ni、Feをベースにするグループからなる単体、合金、または積層膜」であって、「CoFeB」も、当該「好ましい材料」に概念上包含されるとは考えられるものの、直接そこに「CoFeB」との材料が挙げられてはいない。しかしながら、0016段落に記載された「CoFeB」などの「自由磁性層もしくは固定磁性層」に用いられる材料についての、「これらの材料は、いずれもアモルファスもしくは結晶粒径の小さい結晶質であるので、成膜されても膜厚が均一であり表面のラフネスが小さい。そのため、これらの磁性層上に形成される非磁性層もラフネスの小さな平坦な膜となり、結果として抵抗変化率が高く、耐電圧特性に優れる磁気抵抗効果素子を得ることができる。」との0017段落の説明に照らしてみると、0071段落及び0076段落に記載された「好ましい材料」は、例えば、0070段落に「(1)基体/下地層/フリー磁性層/非磁性非導電層/固定磁性層/固定させる層/保護層」として示される構成のように、フリー磁性層の上にラフネスの小さな平坦な膜としての非磁性非導電層を形成する場合を念頭に、それぞれの層の「好ましい材料」を提示したものと解され、これと同様に考えれば、0070段落に「(5) 基体/下地層/固定させる層/固定磁性層/非磁性非導電層/フリー磁性層/保護層」として示されるような「固定磁性層」上に「非磁性非導電層」が形成される構成では、0076段落に「フリー磁性層」の「好ましい材料」として列記される材料を「固定させる層」に採用することが、ラフネスの小さな平坦な膜としての「非磁性非導電層」を得るために望ましいことは明らかである。そうすると、0076段落において、「固定磁性層」に好ましい材料として直接「CoFeB」が挙げられてはいなくとも、請求項1及び0016段落に示唆されるように、「固定磁性層」に「CoFeB」を用いるのが好ましい場合もあることを、当業者は当然に理解できるはずである。

(3-3)そうすると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「PtMnからなる固定させる層と、該固定させる層上に形成された固定磁性層とフリー磁性層と、該固定磁性層とフリー磁性層とに挟まれる非磁性非導電層と、を含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、
前記固定磁性層はCoFeBからなる
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。」

(3-4)本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由に引用された特開2000-215415号公報(以下「引用例2」という。)には、次の記載がある。

「【0075】強磁性トンネル接合部としては以下の構成のものを用いることができる。
・基板/下地層/フリー層/バリア層5/固定層4/固定させる層3/保護層
・基板/下地層/フリー層/第1MRエンハンス層/バリア層5/固定層4/固定させる層3/保護層
・基板/下地層/フリー層/バリア層5/第2MRエンハンス層/固定層4/固定させる層3/保護層
・基板/下地層/フリー層/第1MRエンハンス層/バリア層5/第2MRエンハンス層/固定層4/固定させる層3/保護層
・基板/下地層/固定させる層3/固定層4/バリア層5/フリー層/保護層
・基板/下地層/固定させる層3/固定層4/第1MRエンハンス層/バリア層5/フリー層/保護層
・基板/下地層/固定させる層3/固定層4/バリア層5/第2MRエンハンス層/フリー層/保護層
・基板/下地層/固定させる層3/固定層4/第1MRエンハンス層/バリア層5/第2MRエンハンス層/フリー層/保護層
下地層としては、金属、酸化物、窒化物からなる単層膜、混合物膜、又は多層膜を用いる。具体的には、Ta、Hf、Zr、W、Cr、Ti、Mo、Pt、Ni、Ir、Cu、Ag、Co、Zn、Ru、Rh、Re、Au、Os、Pd、Nb、Vおよびこれらの材料の酸化物あるいは窒化物、からなる単層膜、混合物膜、又は多層膜を用いる。添加元素として、Ta、Hf、Zr、W、Cr、Ti、Mo、Pt、Ni、Ir、Cu、Ag、Co、Zn、Ru、Rh、Re、Au、Os、Pd、Nb、Vを用いることもできる。下地層は用いない場合もある。
【0076】フリー層としては、NiFe、CoFe、NiFeCo、FeCo、CoFeB、CoZrMo、CoZrNb、CoZr、CoZrTa、CoHf、CoTa、CoTaHf、CoNbHf、CoZrNb、CoHfPd、CoTaZrNb、CoZrMoNi合金又はアモルファス磁性材料を用いることができる。
【0077】バリア層5としては、酸化物、窒化物、酸化物と窒化物の混合物又は金属/酸化物2層膜、金属/窒化物2層膜、金属/(酸化物と窒化物との混合物)2層膜、を用いる。Ti、V、Cr、Co、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Si、Al、Ti、Ta、Pt、Ni、Co、Re、Vの酸化物および窒化物の単体、多層膜、混合物、又はこれらとTi、V、Cr、Co、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Si、Al、Ti、Ta、Pt、Ni、Co、Re、Vの酸化物および窒化物の単体、多層膜、混合物との席層膜が有力な候補となる。
【0078】第1および第2MRエンハンス層としてはCo、NiFeCo、FeCo等、又はCoFeB、CoZrMo、CoZrNb、CoZr、CoZrTa、CoHf、CoTa、CoTaHf、CoNbHf、CoZrNb、CoHfPd、CoTaZrNb、CoZrMoNi合金又はアモルファス磁性材料を用いる。MRエンハンス層を用いない場合は、用いた場合に比べて若干MR比が低下するが、用いない分だけ作製に要する工程数は低減する。
【0079】固定層4としては、Co、Ni、Feをベースにするグループからなる単体、合金、又は積層膜を用いる。Co、Ni、Feをベースにするグループからなる単体、合金、又は積層膜と、Ti、V、Cr、Co、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Si、Al、Ti、Ta、Pt、Ni、Co、Re、Vをベースとするグループからなる単体、合金、又は積層膜とを、組み合わせた積層膜を用いることも可能である。
【0080】Co/Ru/Co、CoFe/Ru/CoFe、CoFeNi/Ru/CoFeNi、Co/Cr/Co、CoFe/Cr/CoFe、CoFeNi/Cr/CoFeNiは有力な候補である。
【0081】固定させる層3としては、FeMn、NiMn、IrMn、RhMn、PtPdMn、ReMn、PtMn、PtCrMn、CrMn、CrAl、TbCo、酸化物の混合物、Ni酸化物/Co酸化物2層膜、Ni酸化物/Fe酸化物2層膜、CoCr、CoCrPt、CoCrTa、PtCoなどを用いることができる。PtMn又はPtMnにTi、V、Cr、Co、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Si、Al、Ti、Taを添加した材料は有力な候補である。」

(3-5)本願の出願前に外国において頒布されたH.Kanai et al.,PdPtMn/CoFeB Synthetic Ferrimagnet Spin-Valve Heads, IEEE Transactions on Magnetics, 1999年9月, Volume 35, Issue 5, Part 1, p.2580-2582 (以下「引用例3」という。)には、次の記載がある。

「I.はじめに
ピン止め層としての磁性層/Ru中間層/磁性層の3層サンドイッチ構造を伴う合成フェリ磁性体スピンバルブGMRヘッドは、一つのピン止め層を備えた通常のスピンバルブヘッドに優る長所をいくつか持つ[1][2]。これらの特徴は、合成フェリ磁性体スピンバルブヘッドが20Gbit/in^(2)を超える高い記録密度を達成するために、特に魅力的である。Co/Ru/Coのサンドイッチ構造は、合成フェリ磁性体として広く使用されている。
この論文で、我々は、PdPtMn反強磁性体とCoFeB/Ru/CoFeBフェリ磁性体3層ピン止め層とを備えたPdPtMn/CoFeB合成フェリ磁性体スピンバルブについて報告する。CoFeB薄膜はRu中間層を介した際に、CO薄膜を使った時と同じくらいの強い交換結合力を有している。CoFeB薄膜は、CO薄膜より良好な一軸異方性を誘導する可能性をも示した。CoFeB薄膜は、さらに、COやCoFe薄膜と比較して、熱的安定性が長所である[3]。それから、我々はPdPtMn/CoFeB合成フェリ磁性体を備えた狭トラックのスピンバルブヘッドを作り上げ、低ノイズのCoCrPtをベースとした四元合金薄膜ディスクの上で、これらの読み取り/書き込み性能を試験した[4]。最後に、我々は、PdPtMn/CoFeBのスピンバルブヘッドを用い、20.4Gbit/in^(2)の面密度を実証する。」(第2580ページ I.「はじめに(INTRODUCTION)」の翻訳文)

(3-6)本願の出願前に日本国内において頒布された特開平09-251621号公報(以下「引用例4」という。)には、図面の簡単な説明に「本発明の磁気抵抗効果素子を示す概略図。」と説明される図1とともに次の記載がある。

「【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、非磁性導電層3を介して積層された第1及び第2の強磁性導電層1,2を含む磁性積層膜6と強磁性導電膜4とがトンネル絶縁膜5を介して積層された構成を基本とする(図1)。なお、各磁性膜、磁性層には弱い一軸磁気異方性が導入されていることが望ましい。磁化の2方向を安定化するためと、急しゅんな磁化反転を起こし易いためである。
【0016】記録層としては磁性積層膜6中の第1の強磁性導電層1を用いることもできるし、磁性積層膜6に積層された強磁性導電膜4を用いることもできる。
まず、強磁性導電膜4を記録層に用いた場合について説明する。
【0017】磁性積層膜6として第1及び第2の強磁性導電層同士が反強磁性的交換結合をしているものを用いる。この磁性積層膜の飽和磁界をHs とする。すなわち無磁場では非磁性層を介して積層された強磁性層の磁化の向きは反平行で安定しているが、Hs 以上の磁界印加で印加磁界方向に磁化の向きがそろうことになる。」
「【0028】磁性積層膜のかわりに磁化が固定された膜を用いても同様の読み出しができる。しかしながら、この様な磁化固定膜は外部磁場により磁化状態が変化してしまうことがあり得るが、反強磁性的交換結合を用いた上述の例は安定性が高い。たとえ外部磁界で一方向に磁化がそろったとしても外部磁化がなくなれば反平行状態にもどる。更に磁気情報を記録する強磁性膜と第2の強磁性層とは交換結合はないが磁化が反平行で安定であり、磁気記録の安定性でも優れている。」
「【0046】本発明の反強磁性結合した2つの磁性膜および第3の磁性膜としては強磁性を示すFe,Co,Niおよびその合金やNiMnSbホイスラー合金などのハーフメタルなどを用いることができるハーフメタルは一方のスピンバンドにエネルギーギャップが存在するので、これを用いることより大きな磁気抵抗効果を得ることができ、結果としてはより大きな再生出力が得られる。また、各磁性膜は膜面内に一軸磁気異方性を有することが望ましい。磁性膜を好ましい膜厚は10A-100Aである。
【0047】反強磁性結合をもたらす非磁性金属としてはCu,Au,Ag,Cr,Ru,Alなど多くの金属を用いることができる。これらの膜厚の好ましい範囲は5A-50Aである。絶縁膜としてはアルミナ、NiO、酸化シリコン、MgOなどのほか、エネルギーギャップをもつ半導体を用いることもできる。これらの膜厚の好ましい範囲は10A-1000Aである。」

(3-7)本願の出願前に日本国内において頒布された特開2001-307308号公報(以下「引用例5」という。)には、図3とともに次の記載がある。

「【0054】以下に、この第1の磁気抵抗効果膜10_1を構成する各層の説明を行う。
【0055】下地層1は、上記第1の磁気抵抗効果膜10_1を構成する各層の下地となる層である。この下地層1は、例えば、上記下部絶縁層23上に形成されたTaからなる厚さ30Åの第1の下地層上と、この第1の下地層上に形成されたNi-Fe-Cr合金からなる厚さ30Åの第2の下地層とからなる。この第2の下地層は、Taからなる第1の下地層上に形成されたことにより、fcc構造を有し、(111)方向に配向している。
【0056】第1の反強磁性層2は、反強磁性材料からなって、上記固定磁性層3に対し、交換結合に起因する交換結合磁界を付与するものである。この第1の反強磁性層は、例えば、Pd-Pt-Mn合金からなり150Åの厚みを有する。ここで、この第1の反強磁性層2は、上記固定磁性層3側の界面で、同図右向きの矢印によって表される同図右向きの、すなわち上記浮上面に垂直な方向を向く磁気モーメントを有するものとする。この磁気モーメントにより固定磁性層3に同図右向きの交換結合磁界が付与される。
【0057】固定磁性層3は、軟磁性材料を含み、上記第1の反強磁性層2から付与された交換結合磁界により方向の固定された磁化を有する層である。この固定磁性層3は、軟磁性を示す第1の軟磁性層3_1および第2の軟磁性層3_3と、これらの軟磁性層に膜厚方向に挟まれてなる、それらの軟磁性層の磁化を互いに逆向きに結合する反平行結合中間層3_2とからなるいわゆる積層フェリ膜となっている。
【0058】第1の軟磁性層3_1は、第1の反強磁性層2と厚み方向に隣接するように形成された層であり、第2の軟磁性層3_3は、第1の非磁性層4と厚み方向に隣接するように形成された軟磁性を示す層である。この第1の軟磁性層3_1は、例えば、Co-Fe-B合金からなる厚さ20Åの層であり、第2の軟磁性層3_3は、例えば、Co-Fe-B合金からなる厚さ25Åの層である。また、反平行結合中間層3_2は、例えば、Ruからなる厚さ8Åの層である。
【0059】固定磁性層3を構成する第1の軟磁性層3_1は、上記第1の反強磁性層2から付与された交換結合磁界によって、同図右向きの矢印で示される方向に磁化が固定される。一方、固定磁性層3を構成する第2の軟磁性層3_3は、磁化が、上記ピン結合層3_2によって、上記第1の軟磁性層3_1の磁化とは逆方向、すなわち同図左向きの矢印で表される方向に向くように固定される。
【0060】一般に、このような積層フェリ膜からなる固定磁性層3は、このように2つの軟磁性層が互いに逆向きの磁化を有するため、固定磁性層3全体の磁化の大きさが小さい。このように磁化の大きさが小さいと、磁化が、外部からの磁界によって影響を受けにくく安定してピン止めされる。また、このように磁化の大きさが小さいと、この磁化の反磁界も小さく抑えられるため、磁気ディスク103からの信号磁界H_(sig)の乱れも減少する。
【0061】第1の非磁性層4は、非磁性の導電性材料からなる層であり、上記固定磁性層3と自由磁性層5とを隔てるスペーサとなっている。この第1の非磁性層4は、例えば、Cuからなり20Åの厚みを有する層である。この第1の非磁性層4は、また、例えば、Cuを含む合金からなる層であってもよい。
【0062】自由磁性層5は、ピン止めされておらず外部磁界に応じて自由に回転する磁化を有する軟磁性材料からなる層である。この自由磁性層5は、例えば、Co-Fe-B合金からなる厚さ10Åの層とNi-Fe合金からなる厚さ40Åの層とからなる2層膜によって構成される。この2層膜を構成する材料の1つであるCo-Fe-B合金は、NiFeと比べてCuと相互拡散しにくいものであるため、自由磁性層5を構成する層のうちの、第1の非磁性層4上に形成される層の材料として好ましい。」

(3-8)本願の出願前に日本国内において頒布された特開2001-68759号公報(以下「引用例6」という。)には、図1とともに次の記載がある。

「【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】まず、本発明を適用した磁気抵抗効果素子として、図1に示すようなトンネル接合型磁気抵抗効果素子(以下、TMR素子と称する。)1について説明する。このTMR素子1は、強磁性トンネル効果を利用した磁気抵抗効果素子(以下、MR素子とする。)である。なお、以下の説明で用いる図面は、各部の特徴をわかりやすく図示するために、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各部材の寸法の比率が実際と同じであるとは限らない。
【0018】TMR素子1は、第1の磁性金属層2と、トンネル障壁層3と、第2の磁性金属層4と、非磁性金属層5と、導電性反強磁性層6とが順次積層された構造を有している。
【0019】第1の磁性金属層2は、磁化固定層であり、磁化方向が固定されている。第1の磁性金属層2は、下地層7と、交換結合層8と、ピン層9とが順次積層されて形成されている。ピン層9が、トンネル障壁層3側に形成される。
【0020】下地層7は、例えば、NiFeによって形成される。交換結合層8は、ピン層9と交換結合をすることで、ピン層9の磁化の方向を固定する。交換結合層8は、反強磁性体によって形成される。使用される反強磁性体の例としては、IrMnが挙げられる。ピン層9は、交換結合層8との交換結合によって磁化の方向が固定されている。ピン層9は、強磁性体によって形成される。使用される強磁性体の例としては、CoFeが挙げられる。
【0021】また、第1の金属磁性膜2としては、下地層7上に、いわゆる積層フェリを積層したものを使用することも可能である。積層フェリとは、特開平7-169026で開示されたものであり、2つの強磁性体でできた層の間に反強磁性的結合膜をはさんだものである。
【0022】反強磁性的結合膜としては、ルテニウムにより形成される膜が使用される。この場合、ルテニウムにより形成される膜の厚さを0.3?1.0nmにすることで、2つの強磁性体の層の磁化の方向が逆方向となる。これにより、第1の金属磁性膜2からの磁気が外部にもれることがなくなる。
【0023】トンネル障壁層3は、非磁性で且つ絶縁性である金属によって作成された極めて薄い層である。例としては、Al_(2)O_(3)が挙げられるが、トンネル電流が流れるものであれば、特に限定されない。トンネル障壁層3は、ピン層9上に形成される。センス電流を膜面に垂直に流すと、このトンネル障壁層3にトンネル電流が流れる。
【0024】第2の磁性金属層4は、磁化自由層であり、磁化方向が自在に動く。第2の磁性金属層4は、トンネル障壁層3側から強磁性層10と、フリー層11とが順次積層されて形成されている。強磁性層10は、フリー層11におけるスピン分極率を上げる。強磁性層10は、例えばCoFeによって形成される。フリー層11は、磁化方向が自在である。フリー層11は、軟磁性体によって形成される。例としては、NiFeが挙げられる。」

(4)補正発明と引用発明との対比
(4-1)両者を対比すると、 引用発明の「PtMnからなる固定させる層」,「固定磁性層」及び「フリー磁性層」のそれぞれ,「非磁性非導電層」,及び「CoFeB」は、補正発明の「反強磁性層」,「強磁性体層」,「絶縁体」,及び「強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料」に相当する。
なお、補正発明の「絶縁体」とは、その用語が一般に意味するところからして、本願明細書に記載される「酸化膜」には限られないものである。

(4-2)以上によれば、補正発明と引用発明とは、
「反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、
前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、強磁性を示す元素とホウ素とを含む材料からなる
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
補正発明では、「強磁性体層のうちの少なくとも一方は、結晶粒および結晶粒界の集合体からなるもの」であるのに対し、引用発明は、そのような構成を有しているか否か不明な点。

(相違点2)
補正発明では、「二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」のに対し、引用発明は、そのような構成を有していない点。

(5)相違点についての当審の判断
(5-1)相違点1について
引用発明の固定磁性層に用いられる「CoFeB」は、本願明細書の0027段落にも「CoFeB膜16では、主に強磁性を示すCoやFeによって結晶粒が形成されるとともに、主にOとの結合性が高いBによって結晶粒界が形成されることになる。」と記載されている「CoFeB膜16」と同じく、「結晶粒および結晶粒界の集合体からなる」材料と考えられるから、上記相違点1は、補正発明と引用発明との実質的な相違点ではない。

(5-2)相違点2について
一般に、磁気抵抗効果素子の固定磁性層を、二つの強磁性体層の間にRuを挟んだ積層フェリ構造で構成することは、当業者において本願の出願前の周知技術である。
例えば、引用例2には「強磁性接合部」の「固定層4」を構成する「積層膜」として、0080段落に「Co/Ru/Co、CoFe/Ru/CoFe、CoFeNi/Ru/CoFeNi」が記載されており、引用例3には「PdPtMn/CoFeB合成フェリ磁性体スピンバルブ」の「ピン止め層」として、「CoFeB/Ru/CoFeBフェリ磁性体3層ピン止め層」が記載されており、引用例4には「磁気抵抗効果素子」の「磁性積層膜6」として、「非磁性導電層3を介して積層された第1及び第2の強磁性導電層1,2」が「非磁性導電層3」として「Ru」を用いることができることととも記載されており、引用例5には、「第1の磁気抵抗効果膜10_1」の「固定磁性層3」として、「軟磁性を示す第1の軟磁性層3_1および第2の軟磁性層3_3と、これらの軟磁性層に膜厚方向に挟まれてなる、それらの軟磁性層の磁化を互いに逆向きに結合する反平行結合中間層3_2とからなるいわゆる積層フェリ膜」が、「この第1の軟磁性層3_1は、例えば、Co-Fe-B合金からなる厚さ20Åの層であり、第2の軟磁性層3_3は、例えば、Co-Fe-B合金からなる厚さ25Åの層である。また、反平行結合中間層3_2は、例えば、Ruからなる厚さ8Åの層である。」こととともに記載されており、また、引用例6には、「TMR素子1」の「磁化固定層」である「第1の磁性金属層2」として、「2つの強磁性体でできた層の間に反強磁性的結合膜をはさんだ」「積層フェリ」が、その「反強磁性的結合膜」として「ルテニウムにより形成される膜が使用される」こととともに記載されており、これらいずれの文献にも、上記周知技術が開示されている。
そうすると、引用発明の「CoFeBからなる」「固定磁性層」を、二つの強磁性体層の間にRuを挟んだ積層フェリ構造で構成すること、すなわち、CoFeB/Ru/CoFeBからなる積層フェリ構造となすことは、上記周知技術を適用することにより、当業者が容易になしえたことである。
なお、審判請求人は、補正発明の効果に関し、審判請求書において、
「本願の補正後の請求項1に係る発明および当該発明を引用する請求項2,3に係る発明、本願の補正後の請求項4に係る発明および当該発明を引用する請求項5に係る発明、並びに、本願の補正後の請求項6に係る発明および当該発明を引用する請求項7,8に係る発明(以下、これらの発明を「本願発明」と総称する。)は、いずれも、以下に述べる点に特徴がある。
本願発明は、「反強磁性層と、該反強磁性層上に形成された二つの強磁性体層と、該強磁性体層の間に挟まれる絶縁体と、を含む多層膜構造」の磁気抵抗効果素子についてのものであり、「反強磁性層(例えばPtMn)」の上に「強磁性体層」を重ねた構成を備えている。この構成により、本願発明では、「強磁性体層」の磁化方向を一定方向に固定することができるのである。つまり、外部磁界を加えると磁化の向きは変わるが、当該外部磁界を取り去ると元の向きに戻ることになる。
また、本願発明は、「二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」構成を備えており、当該一方の「強磁性体層」が「Ru」を挟んだ積層構造となっている。このように、「強磁性体層」を、「Ru」を挟んだ積層構造とすると、その「強磁性体層」を備えて構成された磁気抵抗効果素子では、かなり大きな磁界を印加しないと磁化の向きが変わらなくなり、結果として非常に安定となるのである。」
と説明しているが、例えば引用例4の0028段落にも「反強磁性的交換結合を用いた上述の例は安定性が高い。たとえ外部磁界で一方向に磁化がそろったとしても外部磁化がなくなれば反平行状態にもどる。」と記載されるように、審判請求人が審判請求書で説明する上記効果も、当業者において本願の出願前に周知なものにすぎず、顕著な効果であるとは認められない。
以上から、引用発明において相違点2に係る構成とすることは、上記周知技術を適用することにより当業者が容易に想到し得たことである。

(5-3)相違点についての判断のまとめ
以上のとおり、補正発明の上記相違点1に係る構成は、補正発明と引用発明との実質的な相違点であるとはいえず、かつ、補正発明の上記相違点2に係る構成は、引用発明において、例えば引用例2?6にみられるような周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものである。
したがって、補正発明は、引用例1に記載された発明(引用発明)及び例えば引用例2?6にみられるような周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(6)小括
本件補正は、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項をいう。以下同じ。)の規定に適合しない。

5.補正の却下の決定のむすび
上記3.で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 また、本件補正が、仮に特許法第17条の2第4項の規定に違反していなかったとしても、上記4.で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである

第3.本願発明について
平成19年10月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成19年5月21日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
そして、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2.1.(1)において本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。
一方、本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由に引用された引用例(特開2000-101164号公報)には、上記第2.4.(3)で認定したとおりの事項、及び発明(引用発明)が記載されているものと認められる。
そして、補正発明は本願発明に対して技術的限定を付加した発明であって、かつ、上記第2.4.(4-2)における補正発明の相違点2に係る構成は、当該技術的限定に相当しているから、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、上記第2.4.(4-2)の相違点1でのみ一応相違をしており、その余の点において一致をしている。そして、上記第2.4.(5-1)の判断と同様、上記相違点1は本願発明と引用発明との実質的な相違点ではないと考えられるから、本願発明と引用発明との比較において、両者に実質的な構成上の差異はない。
したがって、本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-16 
結審通知日 2010-07-20 
審決日 2010-08-04 
出願番号 特願2001-366346(P2001-366346)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 57- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 近藤 幸浩
市川 篤
発明の名称 磁気抵抗効果素子およびその製造方法並びに磁気メモリ装置  
代理人 山本 孝久  
代理人 森 幸一  
代理人 吉井 正明  

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