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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1223668
審判番号 不服2007-30966  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-15 
確定日 2010-09-16 
事件の表示 特願2002-115348「端末装置、データ送信装置、及びデータ送受信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月31日出願公開、特開2003-308277〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年4月17日の出願であって,平成19年7月9日付けの拒絶理由通知に対して同年9月18日付けで手続補正がなされたが,同年10月10日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年11月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年12月17日付けで手続補正がなされ,さらに平成22年2月3日付けの審尋に対して同年4月12日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成19年12月17日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成19年12月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容について
平成19年12月17日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,補正前の請求項1,8,15をそれぞれ補正後の請求項1,7,12のように補正し,補正前の請求項6,13,14,20,21を削除し,補正前の請求項7を繰り上げて補正後の請求項6とし,補正前の請求項9?12,16?19を繰り上げるとともに引用する請求項の番号を整合させてそれぞれ補正後の請求項8?11,13?16とするものである。
本件補正前の請求項1,8,15,及びこれに対応する本件補正後の請求項1,7,12は以下のとおりである。

<本件補正前の請求項1,8,15>
「【請求項1】 データを送信するデータ送信装置とネットワークを介して接続された端末装置であって,
当該端末装置の能力を示す情報をヘッダーフィールドに含み,上記データ送信装置に所望のデータの送信を要求する送信要求パケットを送信するパケット送信手段と,
上記送信要求パケットを受信したことに応じて上記データ送信装置から送信される上記所望のデータを受信するデータ受信手段と,
上記データ受信手段で受信したデータを復号する復号処理手段と,
上記復号処理手段によって復号された上記データを出力する出力手段とを備えること を特徴とする端末装置。」
「【請求項8】 端末装置とネットワークを介して接続されたデータ送信装置であって,
上記端末装置から送信されるデータの送信を要求する送信要求パケットを受信するパケット受信手段と,
上記パケット受信手段によって受信された送信要求パケットのヘッダーフィールドから,上記送信要求パケットに添附された上記端末装置の能力を示す情報を検出する検出手段と,
上記ネットワークの状況を監視するネットワーク監視装置から送信されるネットワークの状況情報を受信するネットワーク状況情報受信手段と,
上記検出手段によって検出された上記端末装置の能力を示す情報及び上記ネットワーク状況情報受信手段によって受信されたネットワーク状況情報に基づいたデータを,上記ネットワークを介して送信するデータ送信手段とを備えること
を特徴とするデータ送信装置。」
「【請求項15】 端末装置と,上記端末装置とネットワークで接続されたデータ送信装置と,上記ネットワークの状況を監視するネットワーク監視装置とを備えるデータ送受信システムであって,
上記端末装置は,当該端末装置の能力を示す情報をヘッダーフィールドに含み,上記データ送信装置に所望のデータの送信を要求する送信要求パケットを送信するパケット送信手段と,
上記送信要求パケットを受信したことに応じて上記データ送信装置から送信される上記所望のデータを受信するデータ受信手段と,
上記データ受信手段で受信したデータを復号する復号処理手段と,
上記復号処理手段によって復号されたデータを出力する出力手段とを備え,
上記データ送信装置は,上記端末装置から送信される上記端末装置の能力を示す情報を添附した送信要求パケットを受信するパケット受信手段と,
上記パケット受信装置によって受信された送信要求パケットのヘッダーフィールドから,上記端末装置の能力を示す情報を検出する検出手段と,
上記ネットワーク監視装置から送信されるネットワークの状況情報を受信するネットワ
ーク状況情報受信手段と,
上記検出手段によって検出された上記端末装置の能力を示す情報及び上記ネットワーク状況情報受信手段によって受信されたネットワークの状況情報に基づいたデータを,上記ネットワークを介して上記端末装置に送信するデータ送信手段とを備えること
を特徴とするデータ送受信システム。」

<本件補正後の請求項1,7,12>
「【請求項1】 データを送信するデータ送信装置とネットワークを介して接続された端末装置であって,
当該端末装置の能力を示す情報をヘッダーフィールドに含み,上記データ送信装置に所望のデータの送信を要求する送信要求パケットを送信するパケット送信手段と,
上記送信要求パケットを受信したことに応じて上記データ送信装置から送信される上記所望のデータを受信するデータ受信手段と,
上記データ受信手段で受信したデータを復号する復号処理手段と,
上記復号処理手段によって復号された上記データを出力する出力手段とを備え,
上記端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,上記データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを上記パケット送信手段により送信すること
を特徴とする端末装置。」
「【請求項7】 端末装置とネットワークを介して接続されたデータ送信装置であって,
上記端末装置から送信されるデータの送信を要求する送信要求パケットを受信するパケット受信手段と,
上記パケット受信手段によって受信された送信要求パケットのヘッダーフィールドから,上記送信要求パケットに添附された上記端末装置の能力を示す情報を検出する検出手段と,
上記ネットワークの状況を監視するネットワーク監視装置から送信されるネットワークの状況情報を受信するネットワーク状況情報受信手段と,
上記検出手段によって検出された上記端末装置の能力を示す情報及び上記ネットワーク状況情報受信手段によって受信されたネットワーク状況情報に基づいたデータを,上記ネットワークを介して送信するデータ送信手段とを備え,
上記端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持しており,上記パケット受信手段により上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを受信し,上記検出手段は,上記パケット受信手段によって受信された送信要求パケットのヘッダーフィールドから,上記送信要求パケットに添附された上記端末装置の能力を示す情報を検出し,上記テーブルを参照して上記識別子により上記端末装置の能力を特定する
ことを特徴とするデータ送信装置。」
「【請求項12】 端末装置と,上記端末装置とネットワークで接続されたデータ送信装置と,上記ネットワークの状況を監視するネットワーク監視装置とを備えるデータ送受信システムであって,
上記端末装置は,当該端末装置の能力を示す情報をヘッダーフィールドに含み,上記データ送信装置に所望のデータの送信を要求する送信要求パケットを送信するパケット送信手段と,
上記送信要求パケットを受信したことに応じて上記データ送信装置から送信される上記所望のデータを受信するデータ受信手段と,
上記データ受信手段で受信したデータを復号する復号処理手段と,
上記復号処理手段によって復号されたデータを出力する出力手段とを備え,
上記データ送信装置は,上記端末装置から送信される上記端末装置の能力を示す情報を添附した送信要求パケットを受信するパケット受信手段と,
上記パケット受信装置によって受信された送信要求パケットのヘッダーフィールドから,上記端末装置の能力を示す情報を検出する検出手段と,
上記ネットワーク監視装置から送信されるネットワークの状況情報を受信するネットワーク状況情報受信手段と,
上記検出手段によって検出された上記端末装置の能力を示す情報及び上記ネットワーク状況情報受信手段によって受信されたネットワークの状況情報に基づいたデータを,上記ネットワークを介して上記端末装置に送信するデータ送信手段とを備え,
上記端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,上記データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを上記パケット送信手段により送信すること
を特徴とするデータ送受信システム。」

2.補正の目的について
補正前の請求項8に係る本件補正は,補正前の請求項8における「備えること」を「備え,上記端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持しており,上記パケット受信手段により上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを受信し,上記検出手段は,上記パケット受信手段によって受信された送信要求パケットのヘッダーフィールドから,上記送信要求パケットに添附された上記端末装置の能力を示す情報を検出し,上記テーブルを参照して上記識別子により上記端末装置の能力を特定すること」と補正して補正後の請求項7とする補正事項(以下,「補正事項1」という。)を含むものである。
上記補正後の請求項7における「上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持しており」との記載は,データ送信装置が,「上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持して」いることを特定するものであるが,当該「端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブル」は,補正前の請求項8に記載されたいずれの発明特定事項の下位概念とも認められないから,補正事項1は新たな事項を追加する補正であり,補正前の請求項8に記載された発明特定事項を限定的に限縮するものではない。
したがって,補正事項1は平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げられた「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとは認められない。
また,補正事項1が,改正前特許法第17条の2第4項第1号に掲げられた「請求項の削除」を目的とするものにも,同項第3号に掲げられた「誤記の訂正」を目的とするものにも,同項第4号に掲げられた「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
以上のとおり,補正事項1は,改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないので,補正事項1を含む本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件について
補正前の請求項1に係る補正は,補正前の請求項1において,「備えること」を「備え,上記端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,上記データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを上記パケット送信手段により送信すること」と補正して,補正後の請求項1とする補正事項(以下,「補正事項2」という。)を含むものである。

当該補正事項2について以下に検討する。

補正後の請求項1の「上記端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり」との記載は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するための構成である「端末装置の能力を示す情報」との事項を,「端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であ」ると限定するものであるから,限定的減縮を目的とするものである。
また,補正後の請求項1の「上記データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを上記パケット送信手段により送信する」との記載は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するための構成である「送信要求パケットを送信する」との事項を「上記データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを上記パケット送信手段により送信する」と限定するものであるから,限定的減縮を目的とするものである。

したがって,補正事項2は,改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

本件補正発明を再掲すると以下のとおりである。

「【請求項1】 データを送信するデータ送信装置とネットワークを介して接続された端末装置であって,
当該端末装置の能力を示す情報をヘッダーフィールドに含み,上記データ送信装置に所望のデータの送信を要求する送信要求パケットを送信するパケット送信手段と,
上記送信要求パケットを受信したことに応じて上記データ送信装置から送信される上記所望のデータを受信するデータ受信手段と,
上記データ受信手段で受信したデータを復号する復号処理手段と,
上記復号処理手段によって復号された上記データを出力する出力手段とを備え,
上記端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,上記データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを上記パケット送信手段により送信すること
を特徴とする端末装置。」

3-1.引用例

(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願日前である平成13年12月26日に頒布された特開2001-358799号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の(ア)乃至(オ)の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,例えばパーソナルコンピュータから携帯電話に対して,音声データや画像データなどを伝送するデータ伝送システムと,このデータ伝送システムに用いられるデータ送信装置,データ再生装置及びデータ伝送方法に関する。」

(イ)「【0012】図1に示すように,本システムは,映像送信装置1と映像再生装置2が伝送路3を介して接続されている。映像送信装置1は,例えばパソコンであり,映像再生装置2からの要求に従って音声データと画像データを含んだ映像データを提供するデータ送信装置(第1の端末装置)として用いられる。映像再生装置2は,例えば携帯電話であり,映像送信装置1から提供されたデータの再生を行うデータ再生装置(第2の端末装置)として用いられる。伝送路3は,映像送信装置1と映像再生装置2とを接続する無線または有線の通信回線である。」

(ウ)「【0014】また,映像送信装置1には,上記情報供給源からのデータを符号化する符号化部14,この符号化部14を映像再生装置2の属性情報に基づいて制御する属性解析・制御部15,そして,映像再生装置2との間のデータの送受信処理を行う通信インタフェース16が設けられている。
【0015】符号化部14は,画像入力装置11及び音声入力装置12から入力されたデータ,または,映像記録装置13の記録媒体から読み出されたデータを複数の符号化方式の中で選択された1つの符号化方式とその符号化方式に付随する符号化条件に従って符号化する。本実施形態において,この符号化部14はデータ出力のみを行う出力器14aを含め,MPEG1符号化器14b,MPEG2符号化器14c,MPEG4符号化器14d,MotionJPEG符号化器14eといった複数の符号化方式に対応した符号化器を備えており,これらを属性解析・制御部15からの指示に従って選択することにより,送信対象となるデータを符号化して出力する。
【0016】なお,映像記録装置13に存在する符号化済みの映像データが情報供給源である場合,または,符号化無し映像データすなわち原信号である画像データ及び音声データが情報供給源である場合には,符号化部14は出力器14aを選択してデータの出力のみを行う。
【0017】符号化部14は,属性解析・制御部15から複数の符号化方式の中の1つを選択する指示と符号化条件の指定を受ける。属性解析・制御部15は,映像再生装置2から受信した属性情報を解析すると共に,その解析結果に従って符号化部14に複数の符号化方式から1つの符号化方式を選択する指示と符号化条件を与える。
【0018】ここで,映像再生装置2から映像送信装置1に対して送信される属性情報の一例を図2に示す。
【0019】図2に示すように,属性情報は受信側の端末自体の属性を示すものであり,ここでは画像再生属性,画像再生能力,音声再生属性,音声再生能力及び記憶容量からなる。
【0020】画像再生属性は映像再生装置2の表示デバイスとして設けられた画像表示装置26(図3参照)に関する情報であり,水平画素数,垂直画素数及び表示色からなり,これらは符号化部14への符号化条件となる。画像再生能力は映像再生装置2が有する画像再生能力に関する情報であり,符号化方式,フレームレート及びビットレートからなり,符号化方式は符号化部14への符号化方式の選択条件となり,フレームレートは符号化部14への符号化条件となる。ビットレートは後述の式(1)において使用される。」

(エ)「【0029】図3は本システムに用いられる映像再生装置2の構成を示すブロック図である。
【0030】映像再生装置2は,伝送路3を介して映像送信装置1との間で通信を行うことにより,属性情報の送信,映像送信装置1から提供されるデータの受信を行う。図2に示すように,この映像再生装置2は,通信インターフェース21,制御部22,属性生成部23,記憶装置24,音声出力装置25,画像表示装置26から構成される。
【0031】通信インターフェース21は,映像送信装置1との間のデータの送受信処理を行う。制御部22は,この映像再生装置2全体の制御を行うものであり,属性生成部23にて生成される属性情報の送信処理や,映像再生装置2から提供されるデータの受信処理といった一連の処理を実行する。記憶装置24は,受信したデータを記憶しておくためのデバイスである。音声出力装置25は,音声データの出力を行うためのデバイスである。画像表示装置26は,画像データの表示を行うためのデバイスである。
【0032】このような構成の映像再生装置2にあっては,映像送信装置1に対してデータ要求を出すと共に,自身のデータ再生能力や記憶容量を示す属性情報を生成して送信することによって,送信側の映像送信装置1から上記属性情報に基づいて符号化された映像データを受信する。この受信された映像データは映像再生装置2の記憶装置24に保持され,ユーザが好きなときに音声出力装置25及び画像表示装置26を通じて再生される。」

(オ)「【0034】(a)映像送信装置1側の処理
図4は本システムにおける映像送信装置1側の処理を示すフローチャートである。
【0035】映像送信装置1側では,伝送路3を介して映像再生装置2から送られてくるデータ要求を通信インタフェース16により受信すると共に(ステップA11),そのデータ要求に続いて送られて来る属性情報を受信する(ステップA12)。ここでは,要求データを映像データとする。また,上記属性情報は,データ要求を出した映像再生装置2に固有の情報であり,図2で説明したように,画像再生属性,画像再生能力,音声再生属性,音声再生能力及び記憶容量を含むものとする。
【0036】映像送信装置1側では,データ要求を出した映像再生装置2の属性情報を受信すると,属性解析・制御部15により上記属性情報を解析し,その解析結果に従って符号化方式及び符号化条件を決定する(ステップA13)。
【0037】詳しくは,上述したように,上記属性情報に示される符号化方式と符号化条件を満たす映像データが情報供給源に存在し,かつ,該映像データの容量が映像再生装置2の残容量以下である場合に,符号化部14にてデータ出力のみを行うように決定する。そうでない場合には,上記式(1)に従って符号化後の映像データ容量の試算値Sizeを試算し,その試算値Sizeが映像再生装置2の残容量以下であれば,画像再生能力情報のビットレート(VideoRate)と音声再生能力情報のビットレート(AudioRate)を採用して,これらを符号化部14への符号化条件とし,そうでない場合はそれぞれのビットレートの値を徐々に小さくし,または必要に応じて低ビットレートの符号化方式を想定して映像データ容量の試算値Sizeが残容量以下となる値を算出し,算出後のそれぞれのビットレートと符号化方式を採用する。
【0038】ここで,画像再生能力情報の符号化方式あるいは音声再生能力情報の符号化方式で指定された方式が符号化部14に存在しない場合や,上記式(1)を満足するために算出されたビットレートの値が小さくて映像品質が極度に損なわれると予想される場合には,要求データの提供は不可能とする。このように,要求データの提供は不可能であると判断した場合には(ステップA14のNo),属性解析・制御部15は通信インターフェース16を介して要求された映像データの提供不可である旨をデータ要求元の映像再生装置2に通知する(ステップA18)。
【0039】要求データの提供が可能であれば(ステップA14のYes),属性解析・制御部15は上記決定した符号化方式と符号化条件を符号化部14に与える(ステップA15)。符号化部14はこの符号化方式に対応した符号化器を出力器14a,MPEG1符号化器14b,MPEG2符号化器14c,MPEG4符号化器14d,MotionJPEG符号化器14eの中から選択することにより,その選択された符号化器を用いて画像入力装置11及び音声入力装置12または映像記録装置13の情報供給源から供給されるデータを符号化条件に従って符号化する(ステップA16)。
【0040】このようにして,映像再生装置2の属性情報に基づく符号化を行い,その符号化開始直後または符号化完了後に符号化部14から出力される映像データを通信インタフェース16を介してデータ要求元の映像再生装置2に送信する(ステップA17)。この場合,映像送信装置1から送信される映像データの品質は,データ要求元の映像再生装置2の属性に適したものに調整されている。
【0041】(b)映像再生装置2側の処理
図5は本システムにおける映像再生装置2側の処理を示すフローチャートである。
【0042】映像再生装置2側では,像送信装置1に対してデータ要求を送信する(ステップB11)。ここでは,映像データの送信を要求したとする。この要求は通信インターフェース21を介して映像送信装置1に対して送信される。
【0043】ここで,データ要求を出したときに,属性生成部23により,映像再生装置2の属性情報が生成され(ステップB12),その属性情報が通信インターフェース21を介して映像送信装置1に対して送信される(ステップB13)。図2に示すように,属性情報は画像再生属性,画像再生能力,音声再生属性,音声再生能力及び記憶容量からなり,属性生成部23では,映像再生装置2に備えられた画像表示装置26,音声出力装置25,記憶装置24の能力を分析して,上記属性情報の生成を行う。
【0044】このような属性情報の送信により,映像送信装置1側では,映像再生装置2に提供すべき映像データを映像再生装置2の属性に適した符号化方式及び符号化条件に従って符号化して送信する。この場合,その符号化では,データの品質が極度に損なわれると予測されるようなときには,データの提供が不可能である旨を通知する。
【0045】映像再生装置2から要求した映像データが送られてくれば,映像再生装置2側では,その映像データを通信インターフェース21にて受信し(ステップB14のYes),記憶装置24に保持する(ステップB15)。以後は,ユーザが必要に応じて記憶装置24に保持された映像データを読み出し,音声出力装置25及び画像表示装置26を通じて再生を行う。
【0046】このように,映像再生装置2の属性情報に基づいて映像データが提供されるため,利用者は映像再生装置2に適した品質の映像データを受信することができる。この場合,映像再生装置2の属性情報はデータ要求を出したときに自動生成されて映像送信装置1に送信されるため,利用者は意識することなく,自身の持つ映像再生装置2に適した品質にて映像データを受信することが可能となる。」

(a)上記摘記事項(イ)の【0012】段落の記載からみて,引用例1には,「映像データを送信する映像送信装置1と伝送路3を介して接続された映像再生装置2」との事項が記載されていることは明らかである。

(b)上記摘記事項(エ)の【0032】段落の記載,及び上記摘記事項(オ)の【0043】段落の記載からみて,引用例1の映像再生装置2は,「映像送信装置1に対してデータ要求を出すと共に,自身のデータ再生能力や記憶容量を示す属性情報を生成して送信し」ているものであるから,映像再生装置2が,「映像送信装置1に対してデータ要求を出すと共に,自身のデータ再生能力や記憶容量を示す属性情報を生成して送信する手段」を備えていることは明らかである。

(c)上記摘記事項(オ)の【0035】,【0040】段落の記載からみて,引用例1の映像送信装置1は,「伝送路3を介して映像再生装置2から送られてくるデータ要求を通信インタフェース16により受信すると共に(ステップA11),そのデータ要求に続いて送られて来る属性情報を受信」し,「映像再生装置2の属性情報に基づく符号化を行い,その符号化開始直後または符号化完了後に符号化部14から出力される映像データを通信インタフェース16を介してデータ要求元の映像再生装置2に送信」している。
また,上記摘記事項(オ)の【0045】段落の記載からみて,引用例1の映像再生装置2は,「要求した映像データが送られてくれば,その映像データを通信インターフェース21にて受信し」ているものである。
してみれば,映像再生装置2が,「データ要求及び属性情報を受信したことに応じて映像送信装置1から送信される映像データを受信する受信手段」を備えていることは明らかである。

(d)上記摘記事項(オ)の【0045】段落の記載からみて,映像再生装置2が,「受信した映像データを保持する記憶装置24」を備えていることは明らかである。

(e)上記摘記事項(オ)の【0045】段落の記載からみて,映像再生装置2が,「記憶装置24に保持された映像データを読み出し,音声出力装置25及び画像表示装置26を通じて再生を行う手段」を備えていることは明らかである。
また,上記摘記事項(エ)の【0031】段落の記載からみて,音声出力装置25は,音声データの出力を行うためのデバイスであり,画像表示装置26は,画像データの表示を行うためのデバイスである。
してみれば,映像再生装置2は,「記憶装置24に保持された映像データを読み出し,音声データの出力を行うためのデバイスである音声出力装置25,及び画像データの表示を行うためのデバイスである画像表示装置26を通じて再生を行う手段」を備えているということができる。

(f)上記摘記事項(ウ)の【0019】段落の記載からみて,「属性情報は受信側の端末自体の属性を示すものであり,画像再生属性,画像再生能力,等からなる」ものであり,また,上記摘記事項(ウ)の【0020】段落の記載からみて,「画像再生属性は映像再生装置2の表示デバイスとして設けられた画像表示装置26に関する情報であり,水平画素数,垂直画素数及び表示色からなる」ものであり,「画像再生能力は映像再生装置2が有する画像再生能力に関する情報であり,符号化方式,フレームレート及びビットレートからなる」ものである。

以上の点を踏まえ,上記摘記事項(ア)乃至(オ)の記載及び図面の記載を総合すると,引用例1には,次のとおりの発明(以下,「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「映像データを送信する映像送信装置1と伝送路3を介して接続された映像再生装置2であって,
映像送信装置1に対してデータ要求を出すと共に,自身のデータ再生能力や記憶容量を示す属性情報を生成して送信する手段と,
データ要求及び属性情報を受信したことに応じて映像送信装置1から送信される映像データを受信する受信手段と,
受信した映像データを保持する記憶装置24と,
記憶装置24に保持された映像データを読み出し,音声データの出力を行うためのデバイスである音声出力装置25,及び画像データの表示を行うためのデバイスである画像表示装置26を通じて再生を行う手段とを備え,
上記属性情報は受信側の端末自体の属性を示すものであり,画像再生属性,画像再生能力,等からなり,
画像再生属性は映像再生装置2の表示デバイスとして設けられた画像表示装置26に関する情報であり,水平画素数,垂直画素数及び表示色からなり,
画像再生能力は映像再生装置2が有する画像再生能力に関する情報であり,符号化方式,フレームレート及びビットレートからなること
を特徴とする映像再生装置2。」

3-2.対比

本件補正発明と引用例1発明とを対比する。

引用例1発明の「映像データ」「映像送信装置1」「伝送路3」「映像再生装置2」がそれぞれ,本件補正発明の「データ」「データ送信装置」「ネットワーク」「端末装置」に相当する。
したがって,引用例1発明の「映像データを送信する映像送信装置1と伝送路3を介して接続された映像再生装置2」が本件補正発明の「データを送信するデータ送信装置とネットワークを介して接続された端末装置」に相当する。

引用例1発明の「自身のデータ再生能力や記憶容量を示す属性情報」が本件補正発明の「端末装置の能力を示す情報」に相当する。
引用例1発明の「データ要求」は,映像送信装置1に対して所望の映像データの送信を要求するものであるから,本件補正発明の「送信要求パケット」と引用例1発明の「データ要求」とは,ともに「データ送信要求」を行うものである点で共通する。
そうすると,本件補正発明の「端末装置の能力を示す情報をヘッダーフィールドに含み,上記データ送信装置に所望のデータの送信を要求する送信要求パケットを送信するパケット送信手段」と引用例1発明の「映像送信装置1に対してデータ要求を出すと共に,自身のデータ再生能力や記憶容量を示す属性情報を生成して送信する手段」とは,後記する点で相違するものの,ともに「端末装置の能力を示す情報と,上記データ送信装置に所望のデータの送信を要求するデータ送信要求とを送信する送信手段」の点で共通する。

引用例1発明の「映像データ」「受信手段」がそれぞれ本件補正発明の「所望のデータ」「データ受信手段」に相当するから,本件補正発明の「上記送信要求パケットを受信したことに応じて上記データ送信装置から送信される上記所望のデータを受信するデータ受信手段」と引用例1発明の「データ要求及び属性情報を受信したことに応じて映像送信装置1から送信される映像データを受信する受信手段」とは,後記する点で相違するものの,ともに「データ送信要求及び端末装置の能力を示す情報を受信したことに応じて上記データ送信装置から送信される上記所望のデータを受信するデータ受信手段」の点で共通する。

引用例1の映像データは,映像送信装置1側で符号化されて送信されるものであるから,この映像データを再生するために,映像再生装置2が「データ受信手段で受信したデータを復号する復号処理手段」を備えていることは自明のことである。

引用例1発明において,音声出力装置25が出力する「音声データ」,及び画像表示装置26が表示する「画像データ」が,上記復号処理手段によって復号された「データ」であることは自明のことであるので,引用例1発明の「音声データの出力を行うためのデバイスである音声出力装置25及び画像データの表示を行うためのデバイスである画像表示装置26」が本件補正発明の「復号処理手段によって復号された上記データを出力する出力手段」に相当する。

引用例1発明の「属性情報」は,受信側の端末自体の属性を示すものであるから,引用例1発明の「属性情報」が本件補正発明の「端末装置の能力を示す情報」に相当する。
また,引用例1発明の「符号化方式」「フレームレート」「ビットレート」がそれぞれ,本件補正発明の「符号化/復号化方式」「フレームレート」「ビットレート」に相当する。
したがって,本件補正発明の「上記端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,上記データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを上記パケット送信手段により送信すること」と引用例1発明の「上記属性情報は受信側の端末自体の属性を示すものであり,画像再生属性,画像再生能力,等からなり,画像再生属性は映像再生装置2の表示デバイスとして設けられた画像表示装置26に関する情報であり,水平画素数,垂直画素数及び表示色からなり,画像再生能力は映像再生装置2が有する画像再生能力に関する情報であり,符号化方式,フレームレート及びビットレートからなること」とは,後記する点で相違するものの,ともに「上記端末装置の能力を示す情報は,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式であること」で共通する。

そうすると,本件補正発明と引用例1発明とは,

「データを送信するデータ送信装置とネットワークを介して接続された端末装置であって,
端末装置の能力を示す情報と,上記データ送信装置に所望のデータの送信を要求するデータ送信要求とを送信する送信手段と,
データ送信要求及び端末装置の能力を示す情報を受信したことに応じて上記データ送信装置から送信される上記所望のデータを受信するデータ受信手段と,
データ受信手段で受信したデータを復号する復号処理手段と,
復号処理手段によって復号された上記データを出力する出力手段とを備え,
端末装置の能力を示す情報は,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式であること,
を特徴とする端末装置。」

の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本件補正発明では,データ送信装置に所望のデータの送信を要求するデータ送信要求を「送信要求パケット」の形で送信し,当該送信要求パケットのヘッダーフィールドに「端末装置の能力を示す情報」を含ませて送信しているのに対して,引用例1発明では,「データ送信要求」をパケットの形で送信するとの記載は無く,また,パケットのヘッダーフィールドに「端末装置の能力を示す情報」を含ませて送信するとの記載も無い点。

[相違点2]
本件補正発明では,「端末装置の能力を示す情報」に,「階層情報」「処理能力情報」「色の深さ情報」が含まれているのに対して,引用例1発明の属性情報には,そのような情報が含まれるとの記載は無い点。

[相違点3]
本件補正発明では,「データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを上記パケット送信手段により送信する」のに対して,引用例1発明では,そのような構成は記載されていない点。

3-3.当審の判断
上記相違点について検討する。

[相違点1]について
引用例1の【0050】段落の「また,映像送信装置1としてパソコン,映像再生装置2として携帯電話といった例に限らず,サーバ・クライアントシステムを構成する機器の全てに本発明の適用できるものである。」との記載からみて,引用例1において伝送されるデータは,ディジタルデータであると考えることが自然である。
そして,ディジタルデータをパケットの形でネットワークを介して伝送することは例示するまでもなく周知技術であり,また,パケットのヘッダーフィールドに所望の情報を含ませて送信することは,例えば特開2002-108757号公報(特に【0027】段落の記載参照),特開平11-191776号公報(特に【0023】段落,図14,図15の記載参照),特開2001-292167号公報(特に【0066】?【0067】,【0069】段落,図3,図5の記載参照)等に記載されているように周知技術であるものと認められる。
してみれば,引用例1発明に上記周知技術を適用して,データ送信要求を「送信要求パケット」の形で送信し,その際,当該送信要求パケットのヘッダーフィールドに「端末装置の能力を示す情報」を含ませて送信するように構成することに何ら格別の困難性は認められない。

したがって,相違点1に係る本件補正発明の構成は,引用例1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点2]について
例えば特開2001-357008号公報は,コンテンツをネットワークを通じて処理能力の異なる各種の端末に応じて編集して配信するコンテンツ検索配信装置に関するものであるが,その【0037】?【0038】段落には,「例えば,コンテンツが階層化されたデータであり,ベースレイヤとエンハンスメントレイヤから構成されており,端末装置Dがベースレイヤのみをサポートしておりエンハンスメントレイヤをサポートしていない場合には,ベースレイヤのみを抽出する等の処理をしてもよい。(途中省略)コンテンツ配信部14では,以上のようにして出力コンテンツ編集部13において端末装置Dで受信および表示等の出力が可能な形態に変換されたコンテンツを,端末装置Dに配信する(ステップS23)。」と記載されており,当該記載における「レイヤ」が本件補正発明における「階層情報」に相当するから,端末装置の能力を示す情報として,「階層情報」を用いることは周知事項であるものと認められる。
また,特開2001-117809号公報は,WWW(Word Wide Web)のコンテンツサーバのような情報提供型のマルチメディアデータ配信システムにおいて,受信端末装置の処理能力やネットワークの伝送能力に適したメディア種別に変換しながらデータ通信を行うメディア変換方法に関するものであるが,その【0002】段落には,「受信端末装置の処理能力やネットワークの伝送能力に適したメディア種別に変換しながら,マルチメディア通信を行うシステムが種々提案されている。ここで,受信端末装置の処理能力は,CPUの処理能力,表示画面サイズ,表示色等の条件で決まる。」と記載されており,当該記載における「CPU処理能力」が本件補正発明における「処理能力情報」に相当するから,端末装置の能力を示す情報として,「処理能力情報」を用いることは周知事項であるものと認められる。
さらに,特開2001-195335号公報は,端末装置の属性に応じたデータ形式を決定し,単一のコンテンツソースデータから要求元の端末装置に適合したコンテンツデータを自動的に生成することのできるコンテンツ流通方法に関するものであるが,その【0057】段落には,「上述した手順の処理により,本コンテンツデータ提供サーバは,端末装置の画面表示能力に最も適した画像を提供することが可能となる。ここでは端末装置のカラー表示可否に対応した送信すべき画像データの選択の手順を例として説明したが,この他にも例えば,端末装置の画面の大きさや解像度(縦および横の画素数)に対応して異なる画像データを送信するようにしても良い。例えば,パーソナルコンピュータの表示画面と携帯型電話端末の表示画面とでは,画面の物理的なサイズにおいても表示画素数においても大きく異なっており,それぞれに適した画像データを自動的に選択して提供できることのメリットは大きい。またこの他にも,画面で表示可能な色数および階調数や,動画像の表示の可否や,表示の際の画面走査周波数や,インターレース走査などの画面表示方式など,様々な画面表示の特性に対応して要求元の端末装置に適した画像データを送信できるようにすることも可能である。」と記載されており,当該記載における「画面で表示可能な色数」が本件補正発明における「色の深さ情報」に相当するから,端末装置の能力を示す情報として,「色の深さ情報」を用いることは周知事項であるものと認められる。
してみれば,引用例1発明に上記周知事項を適用し,端末装置の能力を示す情報として,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式に加えて,「階層情報」「処理能力情報」「色の深さ情報」を用いるように構成することに何ら格別の困難性は認められない。

したがって,相違点2に係る本件補正発明の構成は,引用例1発明,及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点3]について
例えば特開昭64-17118号公報には,メッセージパターン生成表示方式において,パターン生成表示部2に,パターン番号とメッセージパターンデータを対応させて記憶したパターン記憶部3を接続し,メッセージパターン要求部1からパターン生成表示部2にパターン番号を送信すると,当該パターン番号に対応したメッセージパターンデータをパターン記憶部3から取り出してパターン生成表示部2に表示するように構成することにより,データ転送をパターン番号のみの小容量データ転送にできることが記載されている。
また,特開平7-191817号公報には,「ホスト2で動作する応用プログラム4は,出力しようとするメッセージを一意に識別するメッセージ識別子のみをメッセージ送信手段5,通信回線6を介して端末装置3へと送出する。メッセージ受信手段5で受入されたメッセージ識別子に応じて端末内メッセージ形式格納手段9の情報をもとに端末内メッセージ編集手段8により出力メッセージが編集されメッセージ表示装置10に表示される。」(【要約】),「図5は端末内メッセージ形式格納手段9に予め格納されるメッセージ形式の例である。メッセージ形式格納テーブル20内にはメッセージ識別子21に対応した定形メッセージ内容22が格納される。」(【0021】),「メッセージの形式を指定するメッセージ識別子のみを通信回線に送出することで通信回線の負荷を軽減することができる効果を有している。」(【0026】)と記載されている。
このように,送信先に,所定の情報と当該所定の情報を特定する識別子とを関係づけたテーブルを設けておき,送信元からは識別子のみを送信し,送信先ではテーブルを参照することによって受信した識別子に対応する所定の情報を特定するように構成することは,通信における常套手段であるものと認められる。
してみれば,引用例1発明に上記常套手段を適用し,データ送信装置が,端末装置の能力を示す情報と当該能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持するように構成し,そのようなテーブルを保持している場合には,上記識別子を送信するように構成することに何ら格別の困難性は認められない。
また,上記識別子を送信する際に,さらに上記周知技術を採用して,当該識別子をヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットとして送信するように構成することにも何ら格別の困難性は認められない。

したがって,相違点3に係る本件補正発明の構成は,引用例1発明,常套手段,及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

以上のとおりであるから,本件補正発明は,引用例1発明,周知技術,周知事項,及び常套手段に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

そして,本件補正発明の作用効果も,引用例1,周知技術,周知事項,及び常套手段から当業者が予測できる範囲のものである。

なお,審判請求人は平成22年4月12日付けの回答書において以下のとおり主張している。

「(2) 上記引用文献1には,受信側のデータ再生能力叉は記憶容量に応じて生成された属性情報を取得して,取得した属性情報に基づいて複数の方式の中から選択された符号化方式と,この符号化方式に付随する符号化条件とに従ってデータを適切に符号化して,符号化したデータを送信するデータ伝送システム又はデータ送信装置が記載されているに過ぎず,仮に,上記図2の「表現色」,「符号化方式」,「フレームレート」,「ビットレート」が,本願の「色の深さ」,「符号化/復号化方式」,「フレームレート」,「ビットレート」に対応し,また,上記図2の「0:」,「1:」,「2:」などの数字が,本願の「識別子」に対応するとしても,本願発明の技術的な特徴点,すなわち,端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを送信する点について開示あるいは示唆するものではない。
また,上記引用文献2には,ネットワークにより通信されるデータの流通量を計測する流通量計測手段と,流通量計測手段により計測された計測結果が所定の値よりも大きい場合に,通信するデータの圧縮方法を変更する圧縮手段と,圧縮手段により圧縮されたデータを通信する通信手段とを備えた通信装置が記載されているに過ぎず,本願発明の技術的な特徴点,すなわち,端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを送信する点について開示あるいは示唆するような記載は全く含まれていない。
また,上記引用文献3には,端末装置の特性を考慮し,画像表示の最適化を図るために画像の回転処理機能を備えるようにしたサーバ装置が記載されているに過ぎず,この引用文献3にも本願発明の技術的な特徴点について開示あるいは示唆するような記載は全く含まれていない。
また,引用文献4の段落[0073]には,「読み出したコンテンツのファイルサイズが,例えば端末装置Dが想定する値の上限よりも大きい場合には,出力コンテンツ編集部13は,例えば画像と音声のうちから画像データのみを送信することや,画像の一部分のみを切り取って送信したり,例えば画像データが階層化されていてベースレイヤとエンハンスメントレイヤから構成されている場合にはベースレイヤのみのデータを送信する等,コンテンツの一部分のみを送信してもよい。」記載されているに過ぎず,上記引用文献4の[0073]段落の「レイヤ」が,仮に,本願の「階層情報」に対応するとしても,本願発明の技術的な特徴点,すなわち,端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを送信する点について開示あるいは示唆するような記載は全く含まれていない。
また,引用文献5には,端末装置の能力情報を管理することが記載されているに過ぎず,仮に,段落[0018]段落の「CPU処理能力」が,本願の「処理能力情報」に対応するとしても,本願発明の技術的な特徴点,すなわち,端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを送信する点について開示あるいは示唆するものではない。
(3) 上述の如く,端末装置の能力を示す情報は,階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であり,データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを送信するので,端末装置は,所望のデータの送信を要求する送信要求パケットに当該端末装置の能力を示す情報を添附してデータ送信装置に送信することで,当該端末装置の能力を通知することができ,データ送信装置は,上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持していることにより,上記テーブルを参照して上記識別子により上記端末装置の能力を特定することができ,複雑なプロトコルやネゴシエーションステップを経なくても,端末装置の能力に応じたデータ通信を行うことができるようにした本願発明は,上記引用文献1?5の開示技術を単に組み合わせただけで実現できるものでなく,また,上記引用文献1?5の開示技術に基づいて当業者を以てしても容易に想到し得るものではない。
したがって,本願の請求項1?29に係る本願発明は,上記引用文献1?5によって開示も示唆もされていない本願独自の構成及び作用効果を有するものであって,特許法第29条第2項の規定に該当することなく,特許を受けることができるものであると思料する。
すなわち,審査官殿の判断は妥当でない。
よって,本件審判につき,上記点を考慮の上ご審理を賜りたい。」(第3頁第14行-第5頁末行)

しかしながら,上記主張については,上記「[相違点1]について」?「[相違点3]について」で判断したとおりであるから,審判請求人の回答書における主張は採用することができない。

したがって,本件補正発明は,引用例1発明,周知技術,周知事項,及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-4.むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4.補正却下についてのむすび
上記「2.」で記載したとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また,上記「3.」で記載したとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記の補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成19年12月17日付け手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成19年9月18日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。)

「【請求項1】 データを送信するデータ送信装置とネットワークを介して接続された端末装置であって,
当該端末装置の能力を示す情報をヘッダーフィールドに含み,上記データ送信装置に所望のデータの送信を要求する送信要求パケットを送信するパケット送信手段と,
上記送信要求パケットを受信したことに応じて上記データ送信装置から送信される上記所望のデータを受信するデータ受信手段と,
上記データ受信手段で受信したデータを復号する復号処理手段と,
上記復号処理手段によって復号された上記データを出力する出力手段とを備えること
を特徴とする端末装置。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特開2001-358799号公報)には,上記「第2 [理由]3-1.」に記載したとおりの事項が記載されている。

3.対比・判断
上記「第2 [理由]」で検討した本件補正発明は,本願発明の「端末装置の能力を示す情報」を「階層情報,ビットレート,フレームレート,符号化/復号化方式,処理能力情報,色の深さ情報であ」ると限定し,「送信要求パケットを送信する」との事項を「上記データ送信装置が上記端末装置の能力を示す情報と,上記能力を特定する識別子とが関係づけられたテーブルを保持している場合には,上記識別子を上記ヘッダーフィールドに記述した送信要求パケットを上記パケット送信手段により送信する」と限定したものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに構成を限定した本件補正発明が,上記「第2 [理由]3-3.」に記載したとおり引用例1発明,周知技術,周知事項,及び常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用例1発明,及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして,本願発明の作用効果も,引用例1,及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1発明,及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-15 
結審通知日 2010-07-20 
審決日 2010-08-04 
出願番号 特願2002-115348(P2002-115348)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西出 隆二  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 小林 義晴
須田 勝巳
発明の名称 端末装置、データ送信装置、及びデータ送受信システム  
代理人 小池 晃  
代理人 伊賀 誠司  

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