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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F21M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F21M
管理番号 1223815
審判番号 不服2009-5781  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-17 
確定日 2010-09-14 
事件の表示 特願2003- 42362号「自動的に表示機能を果たす光学部品を備える表示灯」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 3日出願公開、特開2003-281907号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成15年2月20日(パリ条約による優先権主張2002年2月21日、フランス国)を出願日とする出願であって、平成20年12月10日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、平成21年3月17日に本件審判が請求されるとともに、同年4月9日に手続補正(前置補正)がなされたものである。

第2 平成21年4月9日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年4月9日の手続補正を却下する。
[理由]
1. 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
後部から前部に方向付けられた中心光軸(A-A)と、前記光軸(A-A)上に配置された1点上にある光源(14)と、前記光軸(A-A)の周囲を囲む立体光学部品(12)とを含む自動車の表示灯(10)であって、
前記光学部品(12)の屈折率が空気の屈折率よりも大きい透明材料から製造されていて、円錐台形後面(56)と円錐台形前面(58)から成る主本体22から構成されていて、前記光源(14)の前面に配置されていて、前記光軸(A-A)と平行な母線を有する入射面(50、126)を備えている光学部品(12)を含む自動車の表示灯(10)において、
I:前記円錐台形後面(56)が、半径方向、外側に向かって段を付けてあって、軸方向に重畳するとともに、半径方向および環状表面(72、74、76、78)により互いに接続されていて、その母線が前部に向かって傾斜している一連の同軸円錐台形の後部反射面(62、64、66、68、70、128)を形成していること、
II:前記円錐台形前面(58)が、半径方向に外側に向かって、および軸方向に前部に向かって、段が付いていて、一連の円錐台形の前部出射面(82、84,86,88,90,92,94,96,132)を形成していること、
III:前部出射面(82)(84)(86)(88)(90)(92)(94)(96)(132)が、前記入射面(50、126)と後部反射面(62、64、66、68、70、128)の両方に向いていること、
それにより、前記光源(14)から放射されて、前記入射面(50、126)から前記光学部品(12)に入射する光束が、全反射の原理により、前記後部反射面(62、64、66、68、70、128)に反射し、かつ前記前部出射面(82、84、86、88、90、92、94、96、132)に向かって、前記光軸(A-A)と平行な方向に戻って、特定の表示機能を実現するようになっている表示灯(10)において、
前記前部出射面(82、84、86、88、90、92、94、96、132)が一連の基本的な分散光屈折素子(100)から形成され、各分散光屈折素子(100)が、後部に向かって凹状の輪郭を有する湾曲したファセットを形成し、表示灯(10)の前方に配設されたスクリーン上に、表示機能に対応した基本的な光ビームの像を形成する表示灯(10)。」と補正された。
上記補正は、
(a)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「後部から前部に方向付けられた中心光軸(A-A)と、前記光軸(A-A)上に配置されたほぼ1点上にある光源(14)と、前記光軸(A-A)の周囲を少なくとも部分的に囲む立体光学部品(12)とを含むタイプの自動車用の表示灯」の「少なくとも部分的に囲む」を、「囲む」と限定し、
(b)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「立体光学部品」に関して「円錐台形後面(56)と円錐台形前面(58)から成る主本体22から構成されていて」、「前記光軸(A-A)と平行な母線を有する入射面(50、126)を備えている」と限定し、
(c)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「I:母線が、前記光軸(A-A)と実質的に平行な方向に存在する入射面(50)(126)と、
II:母線が、前部に向かって実質的に傾斜する方向に存在する後部反射面(62)(64)(66)(68)(70)(128)と、
III:前部出射面(82)(84)(86)(88)(90)(92)(94)(96)(132)とを含み、
それにより、前記光源(14)から放射されて、前記入射面(50)(126)から前記光学部品(12)に入射する光束が、全反射の原理により、前記後部反射面(62)(64)(66)(68)(70)(128)に反射し、かつ前記前部出射面(82)(84)(86)(88)(90)(92)(94)(96)(132)に向かって、前記光軸(A-A)とほぼ平行な方向に戻って、特定の表示機能を実現するようになっている表示灯」に関して「I:前記円錐台形後面(56)が、半径方向、外側に向かって段を付けてあって、軸方向に重畳するとともに、半径方向および環状表面(72、74、76、78)により互いに接続されていて、その母線が前部に向かって傾斜している一連の同軸円錐台形の後部反射面(62、64、66、68、70、128)を形成していること、
II:前記円錐台形前面(58)が、半径方向に外側に向かって、および軸方向に前部に向かって、段が付いていて、一連の円錐台形の前部出射面(82、84,86,88,90,92,94,96,132)を形成していること、
III:前部出射面(82)(84)(86)(88)(90)(92)(94)(96)(132)が、前記入射面(50、126)と後部反射面(62、64、66、68、70、128)の両方に向いていること、
それにより、前記光源(14)から放射されて、前記入射面(50、126)から前記光学部品(12)に入射する光束が、全反射の原理により、前記後部反射面(62、64、66、68、70、128)に反射し、かつ前記前部出射面(82、84、86、88、90、92、94、96、132)に向かって、前記光軸(A-A)と平行な方向に戻って、特定の表示機能を実現するようになっている表示灯」と限定し、
(d)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「出射面(82)(84)(86)(88)(90)(92)(94)(96)(132)が、一連の基本的な分散光屈折素子(100)から形成され、各光屈折素子(100)が、表示灯(10)の前方に形成される基本的な光ビームの像が、実現される表示機能に対応するように基本的な光ビームを形成するように設計されている表示灯」に関して「前部出射面(82、84、86、88、90、92、94、96、132)が一連の基本的な分散光屈折素子(100)から形成され、各分散光屈折素子(100)が、後部に向かって凹状の輪郭を有する湾曲したファセットを形成し、表示灯(10)の前方に配設されたスクリーン上に、表示機能に対応した基本的な光ビームの像を形成する表示灯」と限定するもの、
であって当該補正箇所は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2. 引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特表平11-504124号公報(以下「刊行物1」という。)には、集束の第2レンズおよび波長選択フィルタとともに、全内面反射(TIR(Total Internal Reflection))を使用してそれの要素を有する透明レンズ手段を使用する装置および方法に関して、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「放射エネルギー処理は、多重面を使用して系に平行出力ビームあるいは集束出力ビームのいずれか生じるために内面シャドウイングおよびTIR面傾斜の制約内に、例えば直線光源あるいは点光源からの光線の再指向におけるように平たい小面を刻まれた面システムに関して改良された。・・・
製造の品質制御が容易であるために、曲げられファセット面は、レンズの回転対称軸上に中心を有する球体を形成することができる。軸対称レンズは剛性材料を成形することによって作られた場合、これらの面の曲率を制限するアンダカットされた内部面は妨害される。この制約はエラストマーレンズ材料に適用できない。
TIRレンズのファセット設計は、4つの自由度、すなわち、入口面の角度と、TIR面の角度と、出口面の角度と、および内側に隣接するファセットの位置とを有する。」(第8頁第13行?第27行)
(イ)「発光ダイオードのためのコリメータのようなファセット曲率の重要な用途は、2、3のファセットだけを有する小さいTIRレンズにおける使用である。・・・曲がったファセット面によって、比較的大きなファセットは、小さいファセットと同様に正確に実施できる。発光ダイオードのためのレンズは、自動車の後部の赤ランプにとって興味があることである。実際、TIRレンズは、従来のLEDの透明カバーの中に組み込むことができ、その発光効率を大いに改良する。」(第9頁第28行?第10頁第6行)
(ウ)「図16?図18は、種々の曲がったレンズ面配置を示す。
図19a?19cは、図示されるように角度形成を変えるための光線を発生する断面図である。
図20は、ファセット設計の一般原則を示す3つの曲がった面を有するファセットの断面図である。
図21は、発光ダイオードと併用するための更なる修正放射エネルギー集中手段を示す断面図である。
・・・
図34、図35a、図35bおよび図35cは、光線追跡図である。
図36および図37は、幾何学的図である。」(第15頁第11行?第16頁第12行)
(エ)「図16は、図4aあるいは図4bに一般に対応し、すなわち、入口面601を有するレンズ本体600と、TIR面602と、本体600上の出口面603とを示すために考察することができる。このような面601および603は、図1、図3、図7、図8、図9、図10、図13に示された様式のように小面を刻まれてもよい。全てのこのような面は平たいよりもむしろ、面601は、図示された本体600から離れて凸面のように曲げられるのに対して、面602および603は前述のように平たい。発散する進入光線、605bで反射するために605aで屈折し、605cで面603の方へ進行する。この光線は出口面603を通過し、一般に図示されるように、605dで外部に進行ために屈折される。出口面603が凸面のように曲げられるならば、光線605dは発散することができる。入口面601の曲率は、発散を除去し、いかなる光線もTIR面602に当てそこなわないようにする。」(第25頁第6行?第17行)
(オ)「図19a、図19bおよび図19cにおいて、本体650、660および670は、図21に図示された本体740とよく類似している。環状のファセットの角度形成はわずかに変えられるので、本体660は、平行な光線664を生じ、本体650は654で集束光線を生じ、本体670は発散光線674を生じる。各々の場合、光源は680に示されている。各々の場合、レンズの上部面659、669、および679は図示された断面で円形に曲げられるか環状レンズのために球形に曲げられる。」(第26頁第18行?第24行)
(カ)「図20において、レンズ本体700は、図19gのレンズ650と同様に集束TIRレンズの役割を果たす。その性能は、より効果的な集束およびより高いプロフィールを示し、光源のより小さい角度拡大およびより小さい焦点をもたらすその完全フラッシングのために優れている。・・・
要約すると、ファセットの4つの角度形成(その面に対して3つのおよびレンズプロフィールに対して1つ)の独特な決定は4つの条件、すなわち(1)全湾曲角、(2)TIR面に当たる上部光線、(3)内側に隣接する面のノッチを通過する下部光線、および(4)内部に隣接するファセットの出口面の外部エッジを通過する下部光線を必要とする。ファセットの3つの光学的に活性な面の曲率は個別に決定される。
1)入口面曲率は、内側に隣接したファセットの先端が持ち上がることができると同時により高い上部光線がTIR面をはずれないようにすることによってレンズプロフィール線の傾斜を最大にすることに役立つ(これは、光源の上でその高さを増すことによってレンズの内部ファセットの出力光の発散を減少する)。
2)TIR曲率も、内部に隣接するファセットのノッチが持ち上がることができることによってレンズ傾斜を最大にすることに役立つ。さらに、TIR面曲率は、出口面が完全にフラッシュされることを可能にし、いくつかの照明応用に対して重要な特性を可能にする。
3)出口面曲率は集束TIRレンズのフォーカルスポットのサイズを最小にし、平行TIRレンズのビーム発散を最少にする。
これらの曲がった面の非円形プロフィールはファセットによって均一照明を与えるために選択できる。」(第26頁第25行?第28頁第21行)
(キ)「図21では、環状の放射エネルギー伝達本体740の軸は751に表示されている。本体は、一般に同心的に配置されているが、軸751に垂直な面750に段々により接近している先端742d?746dを有する。ファセット742の面742aは面742bの方へ凸面であり、面742bは図示された断面の面742aの方へ凹面である。この関係を図示された他のファセットために得る。
発光ダイオード(LED)758は、平面750と軸751との交差点に置かれ、本体740の方へ光線を放射する。光線753は、面742gを通過し、TIR面742bの方へ屈折され、上部平面748の方へ反射され、上部平面748を通過する。面743aを通過し、TIR面743bで反射し、上部面748aを通過し、図示されたように角度形成される光線752も参照。面748および748aを越えて上方に通過する全ての光線は平行にされる。本体740の横方向幅は、例えば、0.12?1インチであってもよく、透明本体740は成形プラスティック材からなってもよい。ファセットなしの屈折部は719に表示されている。より小さいレンズ直径対LEDサイズ比は、より高いレンズプロフィールを有するために最も外側のファセットを大きくし、連続して内側のファセットをより小さくでき、より十分な平行に曲がったファセットが必要である。」(第28頁第27行?第29頁第14行)
(ク)「図22において、放射エネルギー伝達本体760は、図20および図21に示されたように同じ一般的な構造を有することができる。・・・図示されたように、小面を刻まれていない中央部770は光線を屈折することに注目。・・・最上部出口面759は、図示された断面で円形に曲げられるが、レンズは外部階段の小面を有してもよい。保護透明外被769はアークから離れて外気を保持する。」(第29頁第15行?第27行)
(ケ)「図36は、一般的なTIRファセットの形式を示している。・・・
円形レンズの色収差を減少させるように開発された設計方法はスキュー光線収差を減少させるために線形レンズに適用することができる。この方法は、均一性が主要な基準である場合、照明用途に対しては特に重要であるが、バック照明に対してはあまり重要でない。照明の場合、製造の容易さ、光効率および照明パターンの制御は主要な基準である。
・・・角度Pは光線を(図34におけるような)所望のパターンを再指向するように選択されるのに対して、角度Rは、TIR面が全照明されるように十分大きく保持されるが、さもなければ、それ以上効率は、レンズの上面の外側に再指向される代わりにTIR面の上に進む光によって弱められない。
均一基準は2つの面、空間および角度の面を有する。レンズの上面に、照明の空間パターンがある。ファセットが小さくなればなるほど、散光器に関するいかなるパターンを除去することも益々容易になる。特定の方向からある距離を見た場合、角度の均一性はレンズの外観に帰する。すなわち、全てのレンズは、発生源の画像で照明することができない。例えば、図34は、ほとんど完全に光が一杯詰まったレンズを示すその上面に垂直なレンズを見ることを示している。しかしながら、図35a?図35cは、その長さに対して45°でレンズを見ると、いくつかの暗いゾーンが見えることを示している。同様に、オフアクシス角からレンズを見ると(図34の右側あるいは左側)入口面が暗く見える。散乱器による横方向の輝度移動によって、このようなパターンは除去する。」(第36頁第2行?第37頁第7行)
(コ)ファセット設計の一般原則を示す3つの曲がった面を有するファセットの断面図である図20には、レンズ本体700の出口面707が、凸面、かつ、階段状に記載されている。
(サ)図21には、発光ダイオードと併用する放射エネルギー集中手段として、
軸751と、軸751上に配置された1点上にある発光ダイオード758と、軸751の周囲を囲む放射エネルギー伝達本体740とを含む装置が記載されており、
(a)その放射エネルギー伝達本体740は、
下部面と上部面から成る放射エネルギー伝達本体740から構成されていて、発光ダイオード758の上側に配置されていて、光線が入射する面742a,743a,・・・を備えている。
(b)その放射エネルギー伝達本体740の下部面は、
ファセット742の光線が入射する面742a,光線が反射する面742b、及び、他のファセット743?746の同様の面からなる面を形成しており、
各ファセットの先端742d?746dが、軸751から左右方向、外側に向かうにしたがって下方に位置するように段々に位置され、
各ファセットの光線が入射する面は、軸751に比較的平行であり、光線が反射する面は、上方に行くにしたがって軸751から離れる向きに傾斜している。
(c)その放射エネルギー伝達本体740の上部面は光線が出射する面であって、光線が入射する面および光線が反射する面に面しており、その左右方向外側はは上方に行くにしたがって軸751に近づく向きに傾斜している。
(d)その発光ダイオード758から放射されて、光線が入射する面から放射エネルギー伝達本体740に入射する光束が、光線が反射する面に反射し、上部面に向かって、前記軸751と平行な方向に向かうものである。

ここで、主に上記記載事項及び図面から次のことが明らかである。
・レンズ、その他の光学部品が、屈折率が空気の屈折率よりも大きい透明材料で製造されることが技術常識であるので、放射エネルギー伝達本体740は、屈折率が空気の屈折率よりも大きい透明材料から製造されているといえる。
・図21の発光ダイオードと併用する放射エネルギー集中手段は、一断面が記載されたものであるが、指摘事項(キ)で「環状の放射エネルギー伝達本体740の軸は751に表示されている。本体は、一般に同心的に配置されている」とされたものであるので、全体として軸751を軸とする回転体といえる。

すると、図21記載のものに着目して上記の事項を総合すると刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。
「軸751と、軸751上に配置された1点上にある発光ダイオード758と、軸751の周囲を囲む放射エネルギー伝達本体740とを含む装置であって、
放射エネルギー伝達本体740の屈折率が空気の屈折率よりも大きい透明材料から製造されていて、下部面と上部面から成る放射エネルギー伝達本体740から構成されていて、発光ダイオード758の上側に配置されていて、光線が入射する面742a,743a,・・・を備えている本体740を含む装置において、
I:放射エネルギー伝達本体740の下部面が、
ファセット742の光線が入射する面742a,光線が反射する面742b、及び、他のファセット743?746の同様の面からなる面を形成しており、
各ファセットの先端742d?746dが、軸751から左右方向、外側に向かうにしたがって下方に位置するように段々に位置され、
各ファセットの光線が入射する面は、軸751に比較的平行であり、光線が反射する面は、上方に行くにしたがって軸751から離れる向きに傾斜していること、
II:前記上部面が、光線が出射する面であって、その左右方向外側は上方に行くにしたがって軸751に近づく向きに傾斜していること、
III:上部面が、光線が入射する面および光線が反射する面に面していること、
それにより、前記発光ダイオード758から放射されて、光線が入射する面から放射エネルギー伝達本体740に入射する光束が、光線が反射する面に反射し、かつ前記上部面に向かって、前記軸751と平行な方向に出射させる装置」

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である米国特許第2254961号明細書(以下「刊行物2」という。)には、レンズに関して、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(シ)Fig14,16,17には、入射面が光軸と平行な母線を有するレンズが記載されている。
また、Fig15,18,20,21には、入射面が光軸と平行でない母線を有するレンズが記載されている。

(3)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-180516号公報(以下「刊行物3」という。)には、見栄えを向上させることができる車両用灯具に関して、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ス)「【0013】・・・前記インナーレンズ31の外面には垂直軸の凸円柱面の一部からなり前記同心円プリズム素子群37から入射した光を水平方向に拡散させて出射させるプリズム素子群(所謂縦かまぼこ形プリズム)38が設けられており、前記アウターレンズ32の内面には水平軸の凸円柱面の一部からなり前記インナーレンズ31からの光を垂直方向に拡散させて外部に照射するプリズム素子群(所謂横かまぼこ形プリズム)39が設けられている。」

(4)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-150803号公報(以下「刊行物4」という。)には、円形拡散レンズに関して、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(セ)「(C,従来技術)[第7図、第8図]
灯具、例えば、自動車用信号灯等において、比較的広い範囲からレンズ面が円形に均一に光るように見せる場合、拡散レンズ素子をレンズに形成することが行なわれる。
そのような円形拡散レンズの一つに半円柱状の拡散レンズ素子を放射状に形成したものがある。
第7図及び第8図はそのような円形拡散レンズの一例aを示すものである。」

3. 本願補正発明と引用発明との対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明の「軸751」は、本願補正発明の「後部から前部に方向付けられた中心光軸」に相当し、以下同様に、「発光ダイオード758」は、「光源」に、「放射エネルギー伝達本体740」は、「立体光学部品」及び「主本体」に相当する。
(b)引用発明の「下部面」は、軸751を軸とする回転体であって、放射エネルギー伝達本体740の下部面が、「各ファセットの先端742d?746dが、軸751から左右方向、外側に向かうにしたがって下方に位置するように段々に位置」されたものであるので、本願補正発明の「円錐台形後面」に相当する。
(c)引用発明の「上部面」は、軸751を軸とする回転体であって、「その左右方向外側は上方に行くにしたがって軸751に近づく向きに傾斜している」ものであるので、本願補正発明の「円錐台形前面」に相当する。
(d)引用発明の「光線が反射する面は、上方に行くにしたがって軸751から離れる向きに傾斜している」ことは、本願補正発明の後部反射面の「母線が前部に向かって傾斜している」ことに相当するものであり、さらに、引用発明の「光線が反射する面」は、複数存在し、それぞれが軸751を軸とする回転体であるので、本願補正発明の「一連の同軸円錐台形の後部反射面」に相当するものである。
また、引用発明の各ファセットの光線が入射する面は、その先端である「各ファセットの先端742d?746d」が、「軸751から左右方向、外側に向かうにしたがって下方に位置するように段々に位置され」るものであり、さらに、刊行物1の図21の光線が反射する面周囲の構成と、本願明細書で「図8?図11は、本発明により製造される表示灯10の第2実施態様を示す。」としている本願明細書に添付された図面の図10?11の後部反射面(128)周囲の構成とを比較しても同様の形態で記載されたものであるので、引用発明の光線が反射する面は、本願補正発明の「半径方向、外側に向かって段を付けてあって、軸方向に重畳するとともに、半径方向および環状表面により互いに接続」されている「一連の同軸円錐台形の後部反射面」(特に「後部反射面(128)」)に相当する。
そうすると、引用発明の「放射エネルギー伝達本体740の下部面が、
ファセット742の光線が入射する面742a,光線が反射する面742b、及び、他のファセット743?746の同様の面からなる面を形成しており、
各ファセットの先端742d?746dが、軸751から左右方向、外側に向かうにしたがって下方に位置するように段々に位置され、
各ファセットの光線が入射する面は、軸751に比較的平行であり、光線が反射する面は、上方に行くにしたがって軸751から離れる向きに傾斜している。」は、本願補正発明の「半径方向、外側に向かって段を付けてあって、軸方向に重畳するとともに、半径方向および環状表面により互いに接続されていて、その母線が前部に向かって傾斜している一連の同軸円錐台形の後部反射面を形成している」に相当する。
(e)引用発明の「上部面が、光線が入射する面および光線が反射する面に面していること」は、本願補正発明の「前部出射面が、前記入射面と後部反射面の両方に向いていること」に相当する。
(f)引用発明の「発光ダイオード758から放射されて、光線が入射する面から放射エネルギー伝達本体740に入射する光束が、光線が反射する面に反射し、かつ前記上部面に向かって、前記軸751と平行な方向に出射させる、」は、本願補正発明の「光源から放射されて、前記入射面から前記光学部品に入射する光束が、全反射の原理により、前記後部反射面に反射し、かつ前記前部出射面に向かって、前記光軸と平行な方向に戻って、特定の表示機能を実現するようになっている」に相当する。
(g)引用発明の「装置」と、本願補正発明の「自動車の表示灯」とは、前者の装置が光束を出射させる装置であって、いわゆる灯具といえるものであるので、「灯具」である点において共通するものである。
(h)引用発明の「光線が入射する面742a,743a,・・・」と、本願補正発明の「前記光軸(A-A)と平行な母線を有する入射面」(特に、「入射面(126)」)とは、入射面である点において共通するものである。
(i)引用発明の上部面の「左右方向外側はは上方に行くにしたがって軸751に近づく向きに傾斜している」構成と、本願補正発明の「円錐台形前面が、半径方向に外側に向かって、および軸方向に前部に向かって、段が付いていて、一連の円錐台形の前部出射面を形成している」構成(特に、「前部出射面(132)」)とは、「円錐台形前面が、半径方向に外側に向かって、および軸方向に前部に向かって円錐台形の前部出射面を形成している」点において共通するものである。

(2)両発明の一致点
「後部から前部に方向付けられた中心光軸と、前記光軸上に配置された1点上にある光源と、前記光軸の周囲を囲む立体光学部品とを含む灯具であって、
前記光学部品の屈折率が空気の屈折率よりも大きい透明材料から製造されていて、円錐台形後面と円錐台形前面から成る主本体から構成されていて、前記光源の前面に配置されていて、入射面を備えている光学部品を含む灯具装置において、
I:前記円錐台形後面が、半径方向、外側に向かって段を付けてあって、軸方向に重畳するとともに、半径方向および環状表面により互いに接続されていて、その母線が前部に向かって傾斜している一連の同軸円錐台形の後部反射面を形成していること、
II:前記円錐台形前面が、半径方向に外側に向かって、および軸方向に前部に向かって、円錐台形の前部出射面を形成していること、
III:前部出射面が、前記入射面と後部反射面の両方に向いていること、
それにより、前記光源から放射されて、前記入射面から前記光学部品に入射する光束が、全反射の原理により、前記後部反射面に反射し、かつ前記前部出射面に向かって、前記光軸と平行な方向に戻って、特定の表示機能を実現するようになっている灯具」

(3)両発明の相違点
(ア)本願補正発明は、灯具が「自動車の表示灯」であるのに対して、引用発明はそのように特定されていない点。
(イ)本願補正発明は、入射面が「光軸と平行な母線を有する」ものであるのに対して、引用発明はそうではない点。
(ウ)本願補正発明は、出射面が「半径方向に外側に向かって、および軸方向に前部に向かって、段が付いていて、一連の円錐台形の前部出射面」であるのに対して、引用発明は連続した曲面であり、「段が付いていて、一連の円錐台形」ではない点。
(エ)本願補正発明は、「前部出射面が一連の基本的な分散光屈折素子から形成され、各分散光屈折素子が、後部に向かって凹状の輪郭を有する湾曲したファセットを形成し、表示灯の前方に配設されたスクリーン上に、表示機能に対応した基本的な光ビームの像を形成する表示灯」であるのに対して、引用発明は(a)「一連の基本的な分散光屈折素子」が存在せず、かつ、(b)「光ビームの像を形成する」との記載がない点。

4. 容易推考性の検討
(1)相違点(ア)に関して
刊行物1の指摘事項(イ)には、「発光ダイオードのためのレンズは、自動車の後部の赤ランプにとって興味があることである。実際、TIRレンズは、従来のLEDの透明カバーの中に組み込むことができ、その発光効率を大いに改良する。」旨記載されており、自動車の後部の赤ランプが、テールランプやストップランプ等の自動車の表示灯を示唆することが技術常識であることを考慮すると、刊行物1には、引用発明の放射エネルギー伝達本体を自動車の表示灯に用いることが示唆されているといえる。
そうすると、引用発明の放射エネルギー伝達本体を自動車の表示灯に用いるものとして、相違点(ア)に係る構成とすることは、当業者にとって容易想到の範囲というべきである。

(2)相違点(イ)に関して
(a)まず、刊行物1の指摘事項(ア)には、「TIRレンズのファセット設計は、4つの自由度、すなわち、入口面の角度と、TIR面の角度と、出口面の角度と、および内側に隣接するファセットの位置とを有する」旨記載されており、入射面の角度設定は設計上の可変要素と認識された要素である。
(b)一方、刊行物2には、複数の光学部品の形態が列挙されており、その中のFig14,16,17には、光軸と平行な母線を有する態様の入射面が、Fig15,18,20,21記載の光軸と平行でない母線を有する態様の入射面と共に記載されている。
(c)そして、引用発明の入射面が、上記(a)記載の様に設計上の可変要素と認識されたものであり、さらに、上記(b)記載の様に光軸と平行な母線を有する態様の入射面も公知のものである以上、引用発明の入射面として、刊行物2記載の光軸と平行な母線を有する態様のものを用いて、相違点(イ)に係る構成とすることは、当業者にとって容易想到の範囲というべきである。

(3)相違点(ウ)に関して
刊行物1のファセット設計の一般原則を示す断面図として示された図20や、一般的なTIRファセットの形式を示している図36を初め、図1,3,5,6,7,8,9,10,13には、レンズ出口面を階段状としたものが記載されており、かつ、指摘事項(ク)には、図22の説明ではあるが「最上部出口面759は、図示された断面で円形に曲げられるが、レンズは外部階段の小面を有してもよい」と、指摘事項(エ)には、図16の出口面603に関して「面601および603は、図1、図3、図7、図8、図9、図10、図13に示された様式のように小面を刻まれてもよい」と、レンズ出口面の形状として、円形に曲げられた形状と、階段状とが、相互に置換可能なものであることが示唆されている。
そうすると、引用発明のレンズ出口面である上部面の形状を該階段状として、相違点(ウ)に係る構成とすることは、当業者にとって容易想到の範囲というべきである。

(4)相違点(エ)に関して
(a)まず、刊行物1の指摘事項(カ)には、ファセット設計の一般原則として「ファセットの3つの光学的に活性な面の曲率は個別に決定される。」旨記載されており、出口面707の曲面形状が設計ファクターであることが記載されていいる。
一方、刊行物3,4に記載されているように、出射面に光屈折素子を配することは、照明装置において周知慣用手段である。
さらに、出射面に配する光屈折素子として、凹状も凸状と共に周知のもの(例えば、特公平4-36590号公報、特開昭50-55282号公報には、凹状素子を配した出射面と凸状素子を配した出射面とが並記されている。)であり、所望により適宜選択されているものである。
そうすると、引用発明の上部面を前記(3)で階段状とすることに伴い、各段の表面に該周知の凹状の光屈折素子を構成することは、当業者にとって容易想到の範囲というべきである。
(b)また、光学的な意図をもって設計された灯具から発せられる光が、その前方の平面上に所望の像を形成することは、技術常識であるので、レンズ表面を前記(a)の表面形状とされた灯具は、「前方に配設されたスクリーン上に、表示機能に対応した基本的な光ビームの像を形成する」ものといえる。
(c)そうすると、引用発明の上部面を前記(3)で階段状とすることに伴い、各段の表面に該周知の凹状の光屈折素子を構成して、相違点(エ)に係る構成とすることも、当業者にとって容易想到の範囲というべきである。

(5)総合判断
そして、本願補正発明の作用効果は、引用発明、刊行物2?4に記載された事項及び周知技術から、当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2?4に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5. むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1. 本願発明
平成21年4月9日の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?13に係る発明は、平成20年11月19日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりである。
「【請求項1】 後部から前部に方向付けられた中心光軸(A-A)と、前記光軸(A-A)上に配置されたほぼ1点上にある光源(14)と、前記光軸(A-A)の周囲を少なくとも部分的に囲む立体光学部品(12)とを含むタイプの自動車用の表示灯(10)であって、前記光学部品(12)が、屈折率が空気の屈折率よりも大きい透明材料から製造されて、前記光源の前面に配置され、
かつ少なくとも、
I:母線が、前記光軸(A-A)と実質的に平行な方向に存在する入射面(50)(126)と、
II:母線が、前部に向かって実質的に傾斜する方向に存在する後部反射面(62)(64)(66)(68)(70)(128)と、
III:前部出射面(82)(84)(86)(88)(90)(92)(94)(96)(132)とを含み、
それにより、前記光源(14)から放射されて、前記入射面(50)(126)から前記光学部品(12)に入射する光束が、全反射の原理により、前記後部反射面(62)(64)(66)(68)(70)(128)に反射し、かつ前記前部出射面(82)(84)(86)(88)(90)(92)(94)(96)(132)に向かって、前記光軸(A-A)とほぼ平行な方向に戻って、特定の表示機能を実現するようになっている表示灯(10)において、
前記出射面(82)(84)(86)(88)(90)(92)(94)(96)(132)が、一連の基本的な分散光屈折素子(100)から形成され、各光屈折素子(100)が、表示灯(10)の前方に形成される基本的な光ビームの像が、実現される表示機能に対応するように基本的な光ビームを形成するように設計されている表示灯(10)。」

2. 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?5とその記載事項は、前記の「第2 2.」に記載したとおりである。

3. 対比・判断
本願発明の構成を全て含むとともに、本願発明の構成に更に限定を付加した本願補正発明(前記「第2 1.」における下線部分が限定を付加した部分)が、前記「第2 3.」以下に記載したとおり、引用発明、刊行物2?4に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を上位概念化した本願発明も本願補正発明と同様の理由により、引用発明、刊行物2?4に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4. むすび
したがって、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-31 
結審通知日 2010-04-06 
審決日 2010-04-19 
出願番号 特願2003-42362(P2003-42362)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F21M)
P 1 8・ 121- Z (F21M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 金丸 治之
中川 真一
発明の名称 自動的に表示機能を果たす光学部品を備える表示灯  
代理人 竹沢 荘一  

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