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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B28B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B28B
管理番号 1224053
審判番号 不服2007-15688  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-06 
確定日 2010-09-21 
事件の表示 平成 8年特許願第235783号「セラミックス成形加工体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月 3日出願公開、特開平10- 58419〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年8月20日の出願であって、平成15年10月6日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成18年5月8日付けで拒絶理由が通知され、同年7月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成19年4月24日付けで拒絶査定された。これに対し、同年6月6日に拒絶査定不服審判請求され、同年6月19日に手続補正がなされたものであり、平成21年10月2日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を利用した審尋がなされたが、その応答期間内に回答がなかったものである。

2.平成19年6月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年6月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】 セラミックス材料粉末を用いてセラミックス材料成形体を成形するセラミックス材料成形工程と、該セラミックス材料成形体を加工しセラミックス材料成形体の加工体を得るセラミックス材料成形体加工工程と、該セラミックス材料成形体の加工体を焼成するセラミックス材料成形加工体焼成工程を有するセラミックス成形加工体の製造方法において、上記セラミックス材料成形工程におけるセラミックス材料成形体の成形を上記セラミックス材料粉末に少なくとも熱可塑性有機バインダー及び該熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独又は2種以上を選んで含有させて行い、上記セラミックス材料成形体加工工程における加工を該セラミックス材料成形体を該熱可塑性有機バインダーの分解・気化温度より低い温度かつ該可塑剤を含有する該熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度以上である50℃?250℃で加熱処理を行った後に行い、該加熱処理を行う際に、可塑剤はその一部又は全部が分解・気化し、可塑剤が少ないあるいは存在しない状態で上記セラミックス材料成形体への加工を行うことで、加工用工具に対する削り粉等の粉体の付着を防止するセラミックス成形加工体の製造方法。」という記載を、

「【請求項1】 セラミックス材料粉末を用いてセラミックス材料成形体を成形するセラミックス材料成形工程と、該セラミックス材料成形体を加工しセラミックス材料成形体の加工体を得るセラミックス材料成形体加工工程と、該セラミックス材料成形体の加工体を焼成するセラミックス材料成形加工体焼成工程を有するセラミックス成形加工体の製造方法において、上記セラミックス材料成形工程におけるセラミックス材料成形体の成形を上記セラミックス材料粉末に少なくとも熱可塑性有機バインダー及び該熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である2種以上を選んで又は該可塑剤としてアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独種を選んで含有させて行い、上記セラミックス材料成形体加工工程における加工を該セラミックス材料成形体を該熱可塑性有機バインダーの分解・気化温度より低い温度かつ該可塑剤を含有する該熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度以上である50℃?250℃で加熱処理を行った後に行い、該加熱処理を行う際に、可塑剤はその一部又は全部が分解・気化し、可塑剤が少ないあるいは存在しない状態で上記セラミックス材料成形体への加工を行うことで、加工用工具に対する削り粉等の粉体の付着を防止するセラミックス成形加工体の製造方法。」とする補正を含むものである。

(2)上記補正は、補正前の請求項1における、「該熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独又は2種以上を選んで」について、「該熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である2種以上を選んで又は該可塑剤としてアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独種を選んで」と補正するものであり、可塑剤として水を単独で用いないものに限定するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものかについて以下に検討する。

(3)独立特許要件について
(3-1)本願補正発明
本願補正発明は、本件補正により補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次の事項を特定事項とするものである。
「【請求項1】 セラミックス材料粉末を用いてセラミックス材料成形体を成形するセラミックス材料成形工程と、該セラミックス材料成形体を加工しセラミックス材料成形体の加工体を得るセラミックス材料成形体加工工程と、該セラミックス材料成形体の加工体を焼成するセラミックス材料成形加工体焼成工程を有するセラミックス成形加工体の製造方法において、上記セラミックス材料成形工程におけるセラミックス材料成形体の成形を上記セラミックス材料粉末に少なくとも熱可塑性有機バインダー及び該熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である2種以上を選んで又は該可塑剤としてアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独種を選んで含有させて行い、上記セラミックス材料成形体加工工程における加工を該セラミックス材料成形体を該熱可塑性有機バインダーの分解・気化温度より低い温度かつ該可塑剤を含有する該熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度以上である50℃?250℃で加熱処理を行った後に行い、該加熱処理を行う際に、可塑剤はその一部又は全部が分解・気化し、可塑剤が少ないあるいは存在しない状態で上記セラミックス材料成形体への加工を行うことで、加工用工具に対する削り粉等の粉体の付着を防止するセラミックス成形加工体の製造方法。」

(3-2)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用例1として引用された、本出願前に頒布された刊行物である特開平6-116007号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】セラミックス原料粉末に焼結助剤と可塑剤と有機バインダ等とを添加した原料混合体を所定形状に成形して一次成形体を形成し、この一次成形体を非酸化性雰囲気または真空中で温度120?480℃の範囲で加熱せしめて可塑剤含有量を低減することにより硬化処理して二次成形体を調製し、得られた二次成形体に対して切削、切断、孔開け等の機械加工を施し、得られた機械加工済の二次成形体を脱脂焼結することを特徴とするセラミックス部品の製造方法。」(【特許請求の範囲】)
(イ)「【請求項3】有機バインダとして熱可塑性樹脂を使用することを特徴とする請求項1または2記載のセラミックス部品の製造方法。」(【特許請求の範囲】)
(ウ)「・・・バインダとして熱可塑性アクリル樹脂やポリビニルブチラール(PVB)等の熱可塑性樹脂を使用することが望ましい。特に熱可塑性アクリル樹脂が望ましい。・・・」(【0022】)
(エ)「・・・可塑剤成分の揮散温度とバインダの熱分解に伴う原料粒子の結合力が低下する温度が接近してくると、後述する一次成形体を加熱処理する際に可塑剤およびバインダの機能が同時に喪失される結果、機械加工性に優れた二次成形体が得られない。したがって可塑剤の揮散温度はバインダの分解温度よりも低いものを選択することが重要である。」(【0024】)
(オ)「本発明に係るセラミックス部品の製法においては、上記一次成形体をさらに加熱硬化処理することによって可塑剤を揮散させ、その含有量を0.5重量%以下に設定し、一次成形体の硬度および靭性値を高めて二次成形体を製造する。上記二次セラミックス成形体の可塑剤含有量(残存量)が0.5重量%を超える過量である場合には、二次セラミックス成形体に粘着性が残っており、切削加工が困難となる。すなわち可塑剤残存量が高い二次セラミックス成形体を、例えばドリル加工すると穿孔部周縁にバリが発生すると共に研摩面や穿孔面が粗くなり、さらにドリルの衝撃により成形体が大きく変形し、いずれにしろ高い寸法精度で複雑な切削加工を実施することが困難となる。
上記加熱硬化処理は、上記一次成形体をN_(2)ガス、H_(2)ガスまたはArガス等の非酸化性雰囲気もしくは真空中において上記一次成形体を温度120?480℃の範囲より好ましくは250?350℃で加熱して実施される。加熱温度が120℃未満と低い場合は、セラミックス成形体から可塑剤の揮散が不充分であり、切削加工に耐える充分な硬度、靭性および構造強度を有する成形体を形成することが困難である。一方、加熱温度が480℃を超え、バインダの分解温度を超える場合には、バインダが分解揮散したり変質劣化してバインダとしての機能が急激に喪失され、成形体の構造強度が低下する。すなわち成形体はセラミックス粉末同士の絡み合いおよび粉末間作用力のみによって、かろうじて保形強度が維持される状態となり、僅かな衝撃力が作用しても崩れてしまう。したがって、この状態で成形体を切削加工しようとしても被加工部が崩壊し易くなり、切削加工は困難となる。
一般に熱処理(脱脂処理)前の成形体中には、残留溶剤、可塑剤およびバインダが存在している。ここで上記温度範囲でも適切な時間加熱することにより、溶剤および可塑剤はほぼ完全に揮散するが、有機バインダは熱分解や炭素化を完全には起こさず、結合剤としての機能を維持する。したがって、適切な温度領域および加熱保持時間を選定して熱処理することにより、可塑性がほとんど消失する一方、セラミックス原料粉末粒子同士は依然として有機バインダを介して相互に固着しているため、二次成形体は所定の強度および靭性を保持して機械加工にも充分耐え得る成形体となる。」
(【0027】?【0029】)
(カ)「一次成形体を上記のように120?480℃の範囲において加熱処理することによって、成形体中の可塑剤含有量は0.5重量%以下となる一方、有機高分子バインダは分解揮散せずにそのバインダ含有量がそのまま保持される。すなわち可塑剤の消失により粘性は喪失しているため、粒子相互の流動は起こらず位置は変わらない。このため機械加工時に衝撃力の作用点において原料粒子間の結合は容易に破壊されるが、加工部の損傷や変形は成形体の他の領域には伝播しない。その結果、高精度の切削加工に充分耐え得る靭性および硬度を有するセラミックス二次成形体が得られる。」(【0031】)
(キ)「・・・一体に組み立てられた複合成形体は、一般に500?700℃の温度でかつその材質に適した雰囲気で加熱されて脱脂され、引き続き焼成工程でセラミックス原料粉末の種類に応じた焼結温度(1600?2050℃)にて所定時間焼結され、一体の焼結体となる。このとき、組み合された成形体の接合界面においてもセラミックス粒子の緻密化焼結が進行して強固な接合面が形成される。特に雄ねじや雌ねじによる締着部のように、焼結前に既に回転せしめることなく分解不能に組み立てられた部位では充分な接合強度が得られる。そして上記複合成形体の焼結体は、各種工業用セラミックス焼結体、電子材料用セラミックス焼結体などの各種セラミックス部品として仕上げられる。」(【0037】)

(3-3)対比・判断
刊行物1には、記載事項(ア)に「セラミックス原料粉末に焼結助剤と可塑剤と有機バインダ等とを添加した原料混合体を所定形状に成形して一次成形体を形成し、この一次成形体を非酸化性雰囲気または真空中で温度120?480℃の範囲で加熱せしめて可塑剤含有量を低減することにより硬化処理して二次成形体を調製し、得られた二次成形体に対して切削、切断、孔開け等の機械加工を施し、得られた機械加工済の二次成形体を脱脂焼結するセラミックス部品の製造方法」が記載されている。
この記載中の「可塑剤」に関し、記載事項(エ)に「可塑剤の揮散温度はバインダの分解温度よりも低いものを選択すること」が記載されている。
また、「有機バインダ」について、記載事項(イ)に「有機バインダとして熱可塑性樹脂を使用すること」が記載されている。
また、「温度120?480℃の範囲で加熱せしめて可塑剤含有量を低減すること」に関し、記載事項(オ)に「加熱硬化処理することによって可塑剤を揮散させ、その含有量を0.5重量%以下に設定し、一次成形体の硬度および靭性値を高めて二次成形体を製造する」こと、「上記温度範囲でも適切な時間加熱することにより、溶剤および可塑剤はほぼ完全に揮散」し、「適切な温度領域および加熱保持時間を選定して熱処理することにより、可塑性がほとんど消失する」ことが記載され、記載事項(カ)に「120?480℃の範囲において加熱処理することによって、成形体中の可塑剤含有量は0.5重量%以下となる一方、有機高分子バインダは分解揮散せずにそのバインダ含有量がそのまま保持される。」と記載されている。
そして、「二次成形体を脱脂焼結するセラミックス部品の製造」における「脱脂焼結する」ことについて、記載事項(キ)に「複合成形体は、一般に500?700℃の温度でかつその材質に適した雰囲気で加熱されて脱脂され、引き続き焼成工程でセラミックス原料粉末の種類に応じた焼結温度(1600?2050℃)にて所定時間焼結され」と記載されることからみて、「セラミックス部品」は、「二次成形体を脱脂して、焼成工程で焼結され」て製造されるものであるといえる。

以上のことから、上記した記載を本願補正発明の記載振りに則して整理すると、刊行物1には、
「セラミックス原料粉末に焼結助剤と熱可塑性樹脂を使用した有機バインダと該有機バインダの分解温度よりも揮散温度が低い可塑剤とを添加した原料混合体を所定形状に成形して一次成形体を形成し、この一次成形体を非酸化性雰囲気または真空中で温度120?480℃の範囲で加熱せしめて可塑剤を揮散させ可塑剤含有量を0.5重量%以下に低減したり、適切な温度領域および加熱保持時間を選定して熱処理せしめて可塑剤をほぼ完全に揮散したり、有機高分子バインダは分解揮散せずにそのバインダ含有量がそのまま保持されるように硬化処理して二次成形体を調製し、得られた二次成形体に対して切削、切断、孔開け等の機械加工を施し、得られた機械加工済の二次成形体を脱脂して、焼成工程で焼結するセラミックス部品の製造方法。」(以下、引用発明1)が記載されているといえる。

そこで、本願補正発明と引用発明1とを比較する。
(a)引用発明1における「セラミックス原料粉末」及び「可塑剤」は、本願補正発明における「セラミックス材料粉末」及び「可塑剤」に相当し、引用発明1の「熱可塑性樹脂を使用した有機バインダ」は、記載事項(ウ)に「ポリビニルブラチラール(PVB)」が例示され、この「ポリビニルブラチラール」は本願明細書でも例示(【0009】)されていることからみても、本願補正発明の「熱可塑性有機バインダー」に相当することは明らかである。
(b)また、引用発明1の「セラミックス原料粉末に・・・有機バインダと・・・可塑剤とを添加した原料混合体を所定形状に成形して一次成形体を形成し、この一次成形体を・・・温度120?480℃の範囲で加熱せしめて可塑剤を揮散させ可塑剤含有量を0.5重量%以下に低減したり、適切な温度領域および加熱保持時間を選定して熱処理せしめて可塑剤をほぼ完全に揮散したり、することにより硬化処理して二次成形体を調製し」は、本願補正発明の「セラミックス材料粉末を用いてセラミックス材料成形体を成形するセラミックス材料成形工程」が「セラミックス材料粉末に少なくとも熱可塑性有機バインダー及び・・・可塑剤として・・・を選んで含有させて行」うものであり、しかも「セラミックス材料成形体加工工程における加工を該セラミックス材料成形体を・・・加熱処理を行った後に行」うことからみて、このセラミックス材料成形工程で「加熱処理を行」っていることは明らかであることから、本願補正発明の「セラミックス材料粉末を用いてセラミックス材料成形体を成形するセラミックス材料成形工程」に相当するものといえる。而して、引用発明1の「一次成形体を・・・温度120?480℃の範囲で加熱せしめ」ることは、本願補正発明の「セラミックス材料成形体を50℃?250℃で加熱処理を行」うことと加熱温度が「120℃?250℃」で重複するものといえ、引用発明1の「可塑剤を揮散させ可塑剤含有量を0.5重量%以下に低減したり、適切な温度領域および加熱保持時間を選定して熱処理せしめて可塑剤をほぼ完全に揮散したり」することは、本願補正発明の「可塑剤はその一部又は全部が分解・気化し、可塑剤が少ないあるいは存在しない状態」にすることに他ならない。
(c)さらに、引用発明1の「得られた二次成形体に対して切削、切断、孔開け等の機械加工を施し」は、本願補正発明の「セラミックス材料成形体加工工程」に、同様に「得られた機械加工済の二次成形体」は「セラミックス成形体の加工体」に相当し、引用発明1の「セラミックス部品」は上記「機械加工済の二次成形体」を「焼成工程にて焼結」されたものであるから、引用発明1の「得られた機械加工済の二次成形体を・・・焼成工程で焼結する」ことは、本願補正発明の「セラミックス材料成形体の加工体を焼成するセラミックス材料成形加工体焼成工程」に、同様に「セラミックス部品」は「セラミックス成形加工体」に相当する。

上記(a)?(c)の検討を踏まえると、
両者は、「セラミックス材料粉末を用いてセラミックス材料成形体を成形するセラミックス材料成形工程と、該セラミックス材料成形体を加工しセラミックス材料成形体の加工体を得るセラミックス材料成形体加工工程と、該セラミックス材料成形体の加工体を焼成するセラミックス材料成形加工体焼成工程を有するセラミックス成形加工体の製造方法において、上記セラミックス材料成形工程におけるセラミックス材料成形体の成形を上記セラミックス材料粉末に少なくとも熱可塑性有機バインダー及び可塑剤を含有させて行い、上記セラミックス材料成形体加工工程における加工を該セラミックス材料成形体を120℃?250℃で加熱処理を行った後に行い、該加熱処理を行う際に、可塑剤はその一部又は全部が分解・気化し、可塑剤が少ないあるいは存在しない状態で上記セラミックス材料成形体への加工を行うセラミックス成形加工体の製造方法」で一致し、次の点で相違する。
相違点1:「可塑剤」について、本願補正発明は、「熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である2種以上を選んで又は該可塑剤としてアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独種を選ん」でいるのに対し、引用発明1は、「有機バインダの分解温度よりも揮散温度が低い可塑剤」である点
相違点2:「加熱処理」について、本願補正発明は、「該熱可塑性有機バインダーの分解・気化温度より低い温度かつ該可塑剤を含有する該熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度以上で・・・加熱処理を行」うのに対し、引用発明1では、「温度120?480℃の範囲で加熱せしめて可塑剤を揮散させ・・・有機高分子バインダは分解揮散せずにそのバインダ含有量がそのまま保持されるように硬化処理」する点
相違点3:セラミックス材料成形体の加工について、本願補正発明は、「加工用工具に対する削り粉等の粉体の付着を防止する」のに対し、引用発明1では、そのことが特定されていない点

上記相違点について順次検討する。
・相違点1について
まず、相違点1おける、本願補正発明が「熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤」であるのに対し、引用発明1が「有機バインダの分解温度よりも揮散温度が低い可塑剤」である点についてみてみると、
本願補正発明の「該熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤」について、本願明細書の【0008】に「『熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤』とは、上記加熱処理を行う際に、可塑剤はその一部又は全部が分解・気化してもよいことを意味し、このように可塑剤が少ないあるいは存在しない状態でこの加熱処理を行ったセラミックス材料成形体の上記した加工を行うと、加工用工具に対する削り粉等の粉体の付着を防止できる。」と、また、「分解・気化温度」について、同【0008】に「有機バインダーが分解した場合のその分解物又はその有機バインダー単体が気化する温度である。・・・その温度より低い温度で上記加熱処理を行うのは、主としてこの熱可塑性有機バインダーのセラミック材料粉末の結合剤としての機能を維持させるために、その分解・気化を起こさせないためである。」と記載されている。
一方、引用発明1の「有機バインダーの分解温度よりも揮散温度が低い可塑剤」について、引用例1には、記載事項(エ)に「可塑剤成分の揮散温度とバインダの熱分解に伴う原料粒子の結合力が低下する温度が接近してくると、一次成形体を加熱処理する際に可塑剤およびバインダの機能が同時に喪失される結果、機械加工性に優れた二次成形体が得られない。したがって可塑剤の揮散温度はバインダの分解温度よりも低いものを選択することが重要である。」と記載されている。
以上の記載によれば、両者の技術的意義は、いずれも「可塑剤はその一部又は全部が分解・気化、揮散してもよいが、熱可塑性有機バインダーのセラミック材料粉末の結合剤としての機能を維持させる」ことにあるとみることができる。
この技術的意義や、「揮散」が「分解したり蒸発したりして揮散する」ことを意味し(例えば、特開昭63-242964号公報第3頁右上欄12?13行)、「気化」が「蒸発」と同義に用いられること(化学大辞典編集委員会編、化学大事典4 縮刷版第32刷、1989年8月15日、共立出版株式会社、814頁)に照らせば、「揮散」及び「気化」はほぼ同じ意味で用いられるといえ、「熱可塑性有機バインダーの結合剤としての機能を維持させる」程度に許容できる範囲があることを勘案すれば、引用発明1の「有機バインダの分解温度よりも揮散温度が低い可塑剤」を「熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤」とすることに格別困難はない。

次に、本願補正発明は、「熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である2種以上を選んで又は該可塑剤としてアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独種を選ん」でいる点について検討すると、
本願補正発明の可塑剤が「蒸発・気化する温度が50℃?250℃である」ことについては、引用発明1の「可塑剤」が、「一次成形体を120?480℃で加熱せしめることで揮散される」ことから、加熱処理を120℃?250℃とすること伴い、その120℃?250℃の温度で揮散するものが選択されることは明らかであるから、引用発明1の「可塑剤」として「120?480℃で加熱せしめることで揮散される」ものの中から、「120℃?250℃」に特定することに格別困難があるとは認められない。
また、本願補正発明の可塑剤が「水及びアルコール類のうちから・・・2種以上を選んで又は該可塑剤としてアルコール類のうちから・・・単独種を選」ぶことについては、引用発明1の可塑剤として用いる物質は、熱可塑性有機バインダーと相溶性のあるものであれば、特に制約がないことは当業者にとって自明であるところ、特開昭62-70257号公報に「可塑剤としては水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等多価アルコール類・・・適宜単独または2種以上併用できる。」(第3頁左下欄5?9行)、特開平3-5361号公報に「可塑剤の例にはプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等、およびこれらの混合物が含まれる。」(第5頁左上欄10?13行)とあるように、「可塑剤」として、水やエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等多価アルコール類は周知であり、また、それらを適宜単独または2種以上併用することも普通のことといえ、さらに、これらの「水やエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等多価アルコール類」の沸点は、エチレングリコールが197℃、ジエチレングリコールが245℃、プロピレングリコールが188.2℃、ジプロピレングリコールが232℃などである。そして、本願補正発明が「水及びアルコール類のうちから・・・2種以上を選んで又は該可塑剤としてアルコール類のうちから・・・単独種を選」ぶことに格別の技術的意義も見出せない。

以上のことに照らせば、引用発明1の「可塑剤」として「熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である2種以上を選んで又は該可塑剤としてアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独種を選ん」で含有させることは当業者が適宜なし得ることといえる。

・相違点2について
引用発明1の「加熱処理」において「有機高分子バインダは分解揮散せずにそのバインダ含有量がそのまま保持される」ことは、本願補正発明の「該熱可塑性有機バインダーの分解・気化温度より低い温度で加熱処理を行」っていることに相当することは明らかである。
そして、本願補正発明の「該可塑剤を含有する該熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度以上で・・・加熱処理を行」う点について検討すると、
セラミックス材料成形体の成形強度を上げるために、熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度以上で加熱処理を行うことは、普通に知られていることである(例えば、特開平5-245812号公報【0015】、【0011】、【0004】、【0016】?【0019】参照)。そして、可塑剤が熱可塑性有機バインダーに添加されると、可塑剤含有熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度が含有されないものに比して低下することも広く知られていることである(特開平3-5361号公報第5頁左上欄4?7行参照)。
してみると、引用発明1では、「温度120?480℃の範囲で加熱せしめて可塑剤を揮散させ・・・有機高分子バインダは分解揮散せずにそのバインダ含有量がそのまま保持されるように硬化処理」において、その「保持」の技術的観点及び「可塑剤」が含有されている点から、「可塑剤を含有する該熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度以上で加熱処理を行」うことは、当業者が容易に想到し得ることといえる。
以上のことから、引用発明1において、本願補正発明の「該熱可塑性有機バインダーの分解・気化温度より低い温度かつ該可塑剤を含有する該熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度以上で・・・加熱処理を行」うことを特定することに格別困難性はない。

・相違点3について;
引用例1には、記載事項(オ)に「二次セラミックス成形体の可塑剤含有量(残存量)が0.5重量%を超える過量である場合には、二次セラミックス成形体に粘着性が残っており、切削加工が困難となる」ことが記載されている。この記載によれば、引用発明1では、可塑剤含有量を0.5重量%以下に低減したり、可塑剤をほぼ完全に揮散したりするものであるから、二次セラミックス成形体に粘着性が残っておらず、切削加工が困難となることが防止されるとみることができる。
また、引用発明1と本願補正発明が「可塑剤が少ないあるいは存在しない状態で上記セラミックス材料成形体の加工を行う」ことについて軌を一にするものであり、この点の効果に差異があるとも認められない。
以上のことから、本願補正発明の「加工用工具に対する削り粉等の粉体の付着を防止する」という特定事項は、引用発明1には明記はないが、引用発明1も当然に有しているものといえ、仮にそうでないとしても、当業者であれば適宜導き出すことができるものといえる。
したがって、相違点3は実質的なものではないか、あるいは引用発明1において、相違点3に係る本願補正発明の構成事項を特定することは当業者が容易に行うことができるものである。

(3-4)むすび
以上のとおりであるから、本願補正発明は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により出願の際に独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年6月19日付の手続補正は、上記のとおり、補正却下の決定がなされたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成18年7月27日付けで補正された明細書および図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】 セラミックス材料粉末を用いてセラミックス材料成形体を成形するセラミックス材料成形工程と、該セラミックス材料成形体を加工しセラミックス材料成形体の加工体を得るセラミックス材料成形体加工工程と、該セラミックス材料成形体の加工体を焼成するセラミックス材料成形加工体焼成工程を有するセラミックス成形加工体の製造方法において、上記セラミックス材料成形工程におけるセラミックス材料成形体の成形を上記セラミックス材料粉末に少なくとも熱可塑性有機バインダー及び該熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独又は2種以上を選んで含有させて行い、上記セラミックス材料成形体加工工程における加工を該セラミックス材料成形体を該熱可塑性有機バインダーの分解・気化温度より低い温度かつ該可塑剤を含有する該熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度以上である50℃?250℃で加熱処理を行った後に行い、該加熱処理を行う際に、可塑剤はその一部又は全部が分解・気化し、可塑剤が少ないあるいは存在しない状態で上記セラミックス材料成形体への加工を行うことで、加工用工具に対する削り粉等の粉体の付着を防止するセラミックス成形加工体の製造方法。」

(2)原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、平成18年5月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由2、すなわち、請求項1に対して本願出願前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

(3)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用例1として引用した刊行物1の記載事項は、上記2.(3-2)の(ア)?(キ)に記載したとおりである。

(4)対比・判断
刊行物1には、上記2.(3-3)で検討したとおり、引用発明1が記載されているといえる。
一方、本願発明は、上記2.(3)で検討した本願補正発明において、「該熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である2種以上を選んで又は該可塑剤としてアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独種を選んで」について、可塑剤として水を単独で用いることを含めて「該熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独又は2種以上を選んで」となる点に違いがあるが、その他の点は本願補正発明と同じである。

そこで、本願発明と引用発明1とを比較すると、両者は、「セラミックス材料粉末を用いてセラミックス材料成形体を成形するセラミックス材料成形工程と、該セラミックス材料成形体を加工しセラミックス材料成形体の加工体を得るセラミックス材料成形体加工工程と、該セラミックス材料成形体の加工体を焼成するセラミックス材料成形加工体焼成工程を有するセラミックス成形加工体の製造方法において、上記セラミックス材料成形工程におけるセラミックス材料成形体の成形を上記セラミックス材料粉末に少なくとも熱可塑性有機バインダー及び可塑剤を含有させて行い、上記セラミックス材料成形体加工工程における加工を該セラミックス材料成形体を120℃?250℃で加熱処理を行った後に行い、該加熱処理を行う際に、可塑剤はその一部又は全部が分解・気化し、可塑剤が少ないあるいは存在しない状態で上記セラミックス材料成形体への加工を行うセラミックス成形加工体の製造方法」で一致し、次の点で相違する。

相違点a:「可塑剤」について、本願補正発明は、「熱可塑性有機バインダーより分解・気化温度の低い可塑剤として水及びアルコール類のうちから蒸発・気化する温度が50℃?250℃である単独種又は2種以上を選ん」でいるのに対し、引用発明1は、「有機バインダの分解温度よりも揮散温度が低い可塑剤」である点
相違点b:「加熱処理」について、本願補正発明は、「該熱可塑性有機バインダーの分解・気化温度より低い温度かつ該可塑剤を含有する該熱可塑性有機バインダーの熱可塑温度以上で・・・加熱処理を行」うのに対し、引用発明1では、「温度120?480℃の範囲で加熱せしめて可塑剤を揮散させ・・・有機高分子バインダは分解揮散せずにそのバインダ含有量がそのまま保持されるように硬化処理」する点
相違点c:セラミックス材料成形体の加工について、本願補正発明は、「加工用工具に対する削り粉等の粉体の付着を防止する」のに対し、引用発明1では、そのことが特定されていない点

上記相違点について検討する。
相違点aは相違点1を含むものであり、相違点bは相違点2、相違点cは相違点3であるから、その検討結果は、上記2.(3-3)で述べたとおりである。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-24 
結審通知日 2010-06-15 
審決日 2010-07-12 
出願番号 特願平8-235783
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B28B)
P 1 8・ 121- Z (B28B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 賢一山田 靖  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 吉川 潤
木村 孔一
発明の名称 セラミックス成形加工体の製造方法  
代理人 佐野 忠  

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