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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03B
管理番号 1224163
審判番号 不服2008-22782  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-04 
確定日 2010-09-24 
事件の表示 特願2004-554940「透過型スクリーンおよび投写型表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月10日国際公開、WO2004/049059〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年(2002年)11月26日を国際出願日とする出願であって、平成20年5月12日付けで拒絶理由が通知され、同年6月27日付けで手続補正がなされ、同年7月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年9月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年9月25日に手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成21年5月1日付けで審尋を行い、同年6月29日付けで回答書が提出されている。

第2 平成20年9月25日付け手続補正
平成20年9月25日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書の段落【0006】を補正するものである。
そして、その特許請求の範囲についてする補正は、補正前(平成20年6月27日付けの手続補正書を参照)の請求項1を削除し、補正前の請求項2?10を、それぞれ請求項1?9に繰り上げたものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる、請求項の削除を目的とする適法な補正である。
また、明細書の段落【0006】についてする補正は、願書に最初に添付した明細書の第3頁下から10行目?第4頁2行目に記載された内容を付加する補正であるから、願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
よって、本件補正は適法になされたものである。

第3 本願発明
上記のとおり本件補正は適法であるので、本願の請求項1?9に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
投写光が入射する鋸歯状の入射面と、投写光が出射する平坦な出射面とを有するフレネルレンズ状の屈折全反射構造体が、ほぼ平板状の第1の透明基板上に配置されている屈折全反射板と、
前記屈折全反射板から出射した光を結像して投写画像を得る結像表示板とを備え、
前記屈折全反射板の入射面には、投写光を屈折して前記出射面のほぼ法線方向に向けて進行させる複数の屈折斜面と、投写光を透過する複数の透過斜面と、前記透過斜面を透過した光を反射して前記出射面のほぼ法線方向に向けて進行させる全反射斜面とが、同心円上に形成されており、
前記屈折全反射板は散乱粒子を含まない透明材料から形成されており、
屈折全反射板の平坦な出射面上に、前記屈折全反射板とは別個の材料から形成される第1のレンチキュラーレンズ部が設けられ、前記第1のレンチキュラーレンズ部では、水平方向に延びる複数のシリンドリカルレンズが上下方向に沿って並べられている透過型スクリーン。」

第4 刊行物
1 引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭59-119340号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(後述の「2 引用発明1の認定」で、特に参照した箇所に下線を付した。)
(1a)「フレネルレンズ面を入射面として用いるフレネルレンズであつて、レンズを構成するプリズムのうちの一部を、そのレンズ面に入射した光線の一部が非レンズ面で全反射したのち出射面へ出射するように形成していることを特徴とするフレネルレンズ。」(特許請求の範囲)

(1b)「本発明は、背面投影スクリーン等として用いられるフレネルレンズに関するものである。
背面投影スクリーンは、ビデオプロジエクタやマイクロフイルムリーダ等のスクリーンとして使用されているが、集光効果をもたせるためしばしばフレネルレンズが用いられる。ところでこのようなフレネルレンズは、例えば第1図に示すような透過特性を備えている。すなわちこのようなフレネルレンズは、断面3角形状のプリズム(1)が多数配列するように構成されており、このプリズム(1)はレンズ面(11)と非レンズ面(12)とからなつている。いまこのフレネルレンズのフレネルレンズ面を入射面(A)にして用いると、入射光は図のように出射面(B)に出射する。このときレンズ面(11)に入射する光(L)は、有効な光として出射面(B)側に出射するが、非レンズ面(12)に入射した光(L')は集光効果に寄与しないこととなる。この傾向は、光源から離れた箇所あるいは同一箇所でも光源がスクリーンに近接したときほど激しくなるが、このような場合はプリズム(1)の非レンズ面(12)に入射する光量が増大するためである。またこのような場合プリズム(1)に入射する光線の入射角が大きくなるので、表面反射による透過光量の減少も発生し益々有効な光量が期待できなくなる。」(第1頁左下欄第13行?右下欄第17行)

(1c)「第2図は本発明のフレネルレンズの中心で半截したものの断面を示している。この例では同心円状のフレネルレンズを示しているが、本発明では直線平行状のフレネルレンズにも適用できる。図中(2)が本発明で特徴とするプリズムを示しており、(1)が従来のプリズムを示している。本発明ではこのように中心から一定の距離までを従来のプリズム(1)群で構成し、これより周辺の部分を新規なプリズム(2)で構成している。第3図はこのプリズム(2)における透過特性を示している。すなわちこのプリズム(2)は、レンズ面(21)と非レンズ面(22)とから構成されているがレンズ面(21)に入射した光の一部が非レンズ面(22)で全反射して出射するようになつている。いま(L'_(1))として入射した光は、非レンズ面(22)に到達せずに直進してしまうが、このようなプリズム(2)の場合は、レンズ面(21)に入射する光のうち、(L')に相当する部分の光のロスが第1図の場合と比較して少なく、有効な光(L)の光量が多いこととなる。このレンズ面(21)および非レンズ面(22)は、フレネルレンズの焦点距離に応じて調節されるが、(L'_(1))の如き光線を考慮すると、フレネルレンズ平面に対して垂直であることが望ましい。勿論、非レンズ面(22)で全反射させるためには、非レンズ面(22)に入射する入射角が臨界角以上でなければならない。本発明では、第3図に示す如きプリズム(2)を一部に用いているため、レンズ面(21)に入射する光の入射角が大きくなるほど、非レンズ面(22)で全反射する確率が高くなり、また光源がスクリーンに近づけば近づくほど、あるいはスクリーンの寸法が大きくなればなるほど(L'_(1))の如き光線が少なくなる。したがつて、第2図の如き構成のフレネルレンズにすることにより、透過光量を有効に活用できることとなる。」(第2頁右上欄第14行?右下欄第8行)

(1d)「本発明を第4図および第5図に基づいてさらに詳細に説明する。
第4図は一般のフレネルレンズにおけるプリズム(1)を示し、第5図は非レンズ面で全反射するプリズムを示している。このようなフレネルレンズの光量損失について考えるに、このようなフレネルレンズは、光源からフレネルレンズまでの距離に比べ、フレネルレンズのプリズムのピツチはきわめて小さいので、プリズム1山に入射する光線は、平行光として近似する。このような前提で、第4図のフレネルレンズの光量損失を求めるが、図中(e_(1))が有効光線であり、(e_(2)+e_(3))が光量損失となる。またレンズ面(11)の傾き角を(φ)とし、非レンズ面(12)は、板平面に垂直であるとする。さらにレンズ面(11)の入射角を(i_(1))、屈折角を(r_(1))とし、また光源からの光線の板平面への入射角を(θ)とする。」(第2頁右下欄第9行?第3頁左上欄第5行)

(1e)「以上の式により求めた一例を例示するが、ここでは光源からスクリーンまでの距離を1,100mm、フレネルレンズの焦点距離をf=1,000mmとする。なお材質は屈折率1.49のアクリル樹脂としている。この結果、スクリーンの中心からの距離と有効光線率との関係は第6図のようになつた。すなわち第4図のプリズム(1)では中心から遠くなるにしたがつて光量ロスが大きくなり、600mm以上でほぼ透過量は0となる。また本発明のフレネルレンズでは、中心から遠くなるに従つてロスが小さくなる。この2つの曲線の交点が500mm付近であるから、中心部では第4図の如き従来のプリズムを配置し、中心より500mm以上の部分に第5図の如きプリズムを配置すればよいことが分る。
このように2つのプリズム(1),(2)の変換部では、プリズム面が全く変わるため、画像を観察した場合、変換部を境界としてスクリーン上の明るさが変化し、しかも光源が2つ以上である程度離れた位置にある場合等では、この変換部が目立つ現象が生じる。これを緩和するため、この変換部では、第4図のプリズム(1)と第5図のプリズム(2)とを交互に配置する等すると有効である。」(第3頁左下欄第6行?右下欄第9行)

(1f)「なお、本発明のフレネルレンズは、そのフレネルレンズ面を光源側すなわち入射面として用いるものであれば、反対側の出射面は平坦であつても、適宜なレンズ面を形成してもよい。特に本発明のフレネルレンズを背面投影スクリーンとして用いるときは、出射面にレンチキユラーレンズ面を形成するとよい。」(第3頁右下欄第17行?第4頁左上欄第3行)

(1g)上記記載事項(1b)(1d)及び第1図、第4図から、プリズム(1)のレンズ面(11)が、入射する光を屈折角(r_(1))で屈折させて出射させていることが見て取れる。

2 引用発明1の認定
上記記載事項(1a)?(1g)から、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「同心円状のフレネルレンズ面を入射面として用いるフレネルレンズであって、
フレネルレンズの中心から一定の距離までをレンズ面(11)と非レンズ面(12)とからなるプリズム(1)群で構成し、これより周辺の部分をレンズ面(21)と非レンズ面(22)とからなるプリズム(2)で構成し、前記レンズ面(11)は入射する光を屈折させて出射させるものであり、前記プリズム(2)は、レンズ面(21)に入射した光の一部が非レンズ面(22)で全反射して出射するようになっており、
出射面にレンチキュラーレンズ面を形成した、背面投影スクリーンとして用いるフレネルレンズ。」

3 刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭63-167301号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(2a)「本発明の硬質透明基板と紫外線硬化樹脂層からなる透過型スクリーンとしては、(1)硬質透明基板とフレネルレンズ硬化層との積層物、(2)硬質透明基板とレンチキュラーレンズ硬化層との積層物、(3)硬質透明基板の両面の一方がフレネルレンズ、他方がレンチキュラーレンズの硬化層である積層物、の3種が挙げられる。
本発明における硬質透明基板とは、透明な無機ガラス又は透明な熱可塑性樹脂からなる基板を意味する。透明な熱可塑性樹脂としては、・・・(中略)・・・
これらの樹脂は使用目的に応じて樹脂に光拡散剤を分散させたり、また積層面と反対側の面をマット加工したりすることができる。」(当審注:前記(1)?(3)は、公報では○の中に数字)(第3頁左上欄第11行?右上欄第11行)

(2b)「本発明の透過型スクリーンは、例えば、フレネルレンズ又はレンチキュラーレンズの形状を有するスタンパー上に、該紫外線硬化樹脂組成物の層を設け、その層の上に硬質透明基板を当接し、次いでその当接を保持したまま該硬質透明基板側から高圧水銀灯などにより、紫外線を照射して該樹脂組成物を硬化させた後、該スタンパーから剥離する。」(第4頁左下欄第10?17行)


4 引用発明2の認定
硬質透明基板の形状については、透過型スクリーンの基板であること及び第3図から、当業者の技術常識に照らせば、当該硬質透明基板が「ほぼ平板状」であることは明らかである。
よって、上記記載事項(2a)?(2b)及び当業者の技術常識から、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「透明な無機ガラス又は透明な熱可塑性樹脂からなる硬質透明基板と、紫外線硬化樹脂層とからなる透過型スクリーンであって、ほぼ平板状の硬質透明基板の両面の一方にフレネルレンズの紫外線硬化樹脂層、他方にレンチキュラーレンズの紫外線硬化樹脂層を設けた積層物である透過型スクリーン。」

5 刊行物3
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭59-111137号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(3a)「本発明の透過型スクリーンについて、以下に図面にもとづいて説明すると第1のレンズシートAの入射側にはサーキユラーフレネルレンズ形状11が設けられており、反対側の出射側にはレンチキユラーレンズ形状12が設けられている。サーキユラーフレネルレンズ11により入射光は集光され、この集光作用により入射光が無用の拡散によつて散逸し、利用効率が低下するのを防ぐ。レンチキユラーレンズ12は第1のレンズシートAよりの出射光をレンズシートAの材料の屈折率及びレンチキユラーレンズ形状12の曲率によつて決まる屈折特性により一定角度に出射させる作用を有する。拡散角θ_(1)は一概には言えないが、通常5?20°程度である。
第2のレンズシートBの入射側にはレンチキユラーレンズ形状13が設けられており、出射側にはレンチキユラーレンズ13の非集光部には遮光層14が設けられており、更にレンチキユラーレンズ13の集光部にはレンチキユラーレンズ15がレンチキユラーレンズ13に平行に設けられている。」(第2頁右上欄第15行?左下欄第15行)

(3b)「以上の第1のレンズシートAと第2のレンズシートBとはレンチキユラーレンズ形状12とレンチキユラーレンズ形状13とが互いに直交するように配置する。第1のレンズシートAは第2図で示すように配置しても裏返して使用してもよい。このように組み合わせることにより、入射光はサーキユラーフレネルレンズ11で集光され、レンチキユラーレンズ12で垂直拡散角が決定され、レンチキユラーレンズ13及び15により水平方向の拡散角が決定され、かつ遮光層14によりレンズシート内の迷光や外光の無用な反射が防止される。」(第2頁右下欄第11行?第3頁左上欄第1行)

(3c)上記記載事項(3b)及び第2図から、垂直拡散角を決定するレンチキユラーレンズ12は、水平方向に延びる複数のシリンドリカルレンズが上下方向に沿って並べられたものであることが見て取れる。

6 刊行物4
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平2-18540号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(4a)「本実施例の透過式背面スクリーンは、2枚構成であり、第1図に示すように視聴者側の第1枚目のスクリーン板1の視聴者側の片面には縦すじ状のレンチキュラーレンズ面5が、第2枚目のスクリーン板2の第1枚目と隣合う片面には横すじ状のレンチキュラーレンズ面6が、さらに、第2枚目のスクリーン板2の拡大投写レンズ3の側には、フレネルレンズ面7が配されている。」(第2頁左下欄下から3行目?右下欄第5行)

7 刊行物5
本願の出願前に頒布された刊行物である特開平1-210942号公報(以下、「引用例5」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(5a)「〔発明の技術分野〕
本発明は、スクリーンの背面から投写管の像を投写してスクリーンの前面から投写像を視認するようにしたいわゆる背面投写型プロジェクションテレビに係わり、そのスクリーンに関する。」(第1頁右下欄第10?14行)

(5b)「しかしながら、第6図に示したように本発明のスクリーンによれば、前記フレネルシート1の入射面Qにはレンチキュラー1aが形成されるため、投射光lはレンチキュラー1aの屈折作用によって拡散されるとともに、フレネルレンズ1bの出射面Pからの反射光lrはさらにレンチキュラー1aの曲面による反射作用によって拡散され、ゴーストが低減される。」(第5頁左上欄第2?9行)

8 刊行物6
本願の出願前に頒布された刊行物である特開平5-257114号公報(以下、「引用例6」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(6a)「【0080】第12の実施例を図13に示す。
【0081】同図において1は光源、2,19は液体レンズ、3は液晶パネル、4はフレネルレンズ、5は投写用レンズ、6はスクリーンである。44,45は各々液晶パネル3の入出射面に配置されたレンチキュラーレンズである。・・・(後略)・・・」

(6b)「【0085】尚、第11,12の実施例においては、フレネルレンズ4のゴースト妨害の問題が残存している。これを軽減するための方策を次に示す。
【0086】第13実施例として図14(a)に示す。同図の特徴はフレネルレンズ4の入射面にレンチキュラーレンズ4を配置したことである。同図(b)にその原理が示される。入射光9は本来の出射光10に加えて点線で示す妨害光を発生する。しかし該妨害光は点11において、レンチキュラーレンズ4によって散乱される。従ってその出射方向が47,48,49で示される通りバラバラに分かれる。その結果、ゴースト妨害として検知されにくくなる。既述図28(a)の説明と対比して上記のことが理解される。該散乱の媒質内散乱角は、レンチキュラーレンズの曲がり角aの2倍となる。これを図14(c)に示す。同図の50,51は入射妨害光であり、52,53は媒質内散乱光である。該散乱角2aはフレネルレンズ4の出射面から出射される際、スネルの法則に基いて約n(届折率)倍に散乱される。これをレンチキュラーレンズの届折力による発散角(n-1)aと比べると2n/n-1倍、即ち約6倍と大きい。従って、本来光に対するわずかの届折発散角の付与によって約6倍の大反射散乱角をゴースト妨害光に付与できる。従って、ゴースト妨害の軽減に有効である。・・・(後略)・・・」


第5 対比
1 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1) フレネルレンズ面が鋸歯形状をしていることは自明な事項である。
また、引用発明1のフレネルレンズ面が、入射光を屈折させる部分(レンズ面(11))と全反射させる部分(非レンズ面(22))とを有していること、及び、本願の平成20年9月25日付け手続補正によって補正された明細書の段落(以下、「本願明細書の段落」という。)【0002】に、「投写光を屈折する部分と全反射する部分とを有する屈折全反射板(フレネルレンズ)」と記載されていることから、引用発明1の「フレネルレンズ」は、本願発明の「屈折全反射板」に相当する。
よって、引用発明1の「フレネルレンズ面を入射面として用いるフレネルレンズ」と、本願発明の「投写光が入射する鋸歯状の入射面と、投写光が出射する平坦な出射面とを有するフレネルレンズ状の屈折全反射構造体が、ほぼ平板状の第1の透明基板上に配置されている屈折全反射板」とは、「投写光が入射する鋸歯状の入射面と、投写光が出射する出射面とを有する屈折全反射板」である点で、一致する。

(2) 引用発明1のプリズム(1)の「レンズ面(11)」は、入射する光を屈折させて出射させるものであるから、本願発明の「屈折斜面」に相当する。
また、引用発明1において、「プリズム(2)は、レンズ面(21)に入射した光の一部が非レンズ面(22)で全反射して出射する」のであるから、レンズ面(21)に入射した光の、少なくとも一部が透過し、その透過光を非レンズ面(22)で全反射しているといえ、してみれば、引用発明1の「レンズ面(21)」及び「非レンズ面(22)」は、それぞれ本願発明の「透過斜面」及び「全反射斜面」に相当する。
よって、引用発明1の「フレネルレンズの中心から一定の距離までをレンズ面(11)と非レンズ面(12)とからなるプリズム(1)群で構成し、これより周辺の部分をレンズ面(21)と非レンズ面(22)とからなるプリズム(2)で構成し、前記レンズ面(11)は入射する光を屈折させて出射させるものであり、前記プリズム(2)は、レンズ面(21)に入射した光の一部が非レンズ面(22)で全反射して出射するようになって」いる、「入射面として用いる」「同心円状のフレネルレンズ面」と、本願発明の「投写光を屈折して前記出射面のほぼ法線方向に向けて進行させる複数の屈折斜面と、投写光を透過する複数の透過斜面と、前記透過斜面を透過した光を反射して前記出射面のほぼ法線方向に向けて進行させる全反射斜面とが、同心円上に形成されて」いる「屈折全反射板の入射面」とは、「投写光を屈折して前記出射面に向けて進行させる複数の屈折斜面と、投写光を透過する複数の透過斜面と、前記透過斜面を透過した光を反射して前記出射面に向けて進行させる全反射斜面とが、同心円上に形成され」ている「屈折全反射板の入射面」である点で、一致する。

(3) レンチキュラーレンズが、複数のシリンドリカルレンズを並べたものであることは、当業者に自明な事項であるから、引用発明1の「出射面にレンチキュラーレンズ面を形成した」点と、本願発明の「屈折全反射板の平坦な出射面上に、前記屈折全反射板とは別個の材料から形成される第1のレンチキュラーレンズ部が設けられ、前記第1のレンチキュラーレンズ部では、水平方向に延びる複数のシリンドリカルレンズが上下方向に沿って並べられている」点とは、「屈折全反射板の出射面上に第1のレンチキュラーレンズ部が設けられ、前記第1のレンチキュラーレンズ部では、複数のシリンドリカルレンズが並べられている」点で一致する。

(4)引用発明1の「背面投影スクリーンとして用いるフレネルレンズ」は、本願発明の「透過型スクリーン」に相当する。

2 一致点
以上のとおりであるから、本願発明と引用発明1とは、以下の発明である点で一致する。
「投写光が入射する鋸歯状の入射面と、投写光が出射する出射面とを有する屈折全反射板を備え、前記屈折全反射板の入射面には、投写光を屈折して前記出射面に向けて進行させる複数の屈折斜面と、投写光を透過する複数の透過斜面と、前記透過斜面を透過した光を反射して前記出射面に向けて進行させる全反射斜面とが、同心円上に形成されており、
前記屈折全反射板の出射面上に第1のレンチキュラーレンズ部が設けられ、前記第1のレンチキュラーレンズ部では、複数のシリンドリカルレンズが並べられている透過型スクリーン。」

3 相違点
よって、本願発明と引用発明1とは、以下の点で相違する。
[相違点1]
屈折全反射板が、本願発明では、「投写光が出射する平坦な出射面」を有するフレネルレンズ状の「屈折全反射構造体」が、「ほぼ平板状の第1の透明基板上に配置」された構造であるのに対し、引用発明1は、このような発明特定事項を有していない点。
[相違点2]
本願発明が、「前記屈折全反射板から出射した光を結像して投写画像を得る結像表示板」を備えているのに対し、引用発明1は、このような発明特定事項を有していない点。
[相違点3]
屈折斜面と全反射斜面による投写光の進行方向が、本願発明では「出射面のほぼ法線方向」であるのに対し、引用発明1は、このような発明特定事項を有していない点。
[相違点4]
本願発明が、「屈折全反射板は散乱粒子を含まない透明材料から形成され」ているのに対し、引用発明1は、このような発明特定事項を有していない点。
[相違点5]
第1のレンチキュラーレンズ部が、本願発明では、屈折全反射板の「平坦な」出射面上に、「前記屈折全反射板とは別個の材料から形成され」たものであり、かつ、その複数のシリンドリカルレンズが「水平方向に延び」「上下方向に沿って並べられ」たものであるのに対し、引用発明1は、出射面上にレンチキュラーレンズを形成することが開示されているのみであって、その細部について、本願発明の前記発明特定事項は有していない点。


第6 当審の判断
1 上記の相違点1?5について検討する。
(1)相違点1、5について
相違点1、5について、まとめて検討する。
引用発明2のフレネルレンズは、ほぼ平板状の硬質透明基板の両面の一方に設けているのであるから、ほぼ平板状の硬質透明基板上に配置されているといえる。
さらに、引用発明2のレンチキュラーレンズは、ほぼ平板状の硬質透明基板の両面の他方に設けており、透過型スクリーンの技術分野において、レンチキュラーレンズなどの光学部材を形成する前の基板表面が「平坦」であることは当業者に自明な事項であるから、引用発明2のレンチキュラーレンズは「平坦な」面上に設けられているといえる。しかも、引用発明2のレンチキュラーレンズは紫外線硬化樹脂で形成されているから、透明な無機ガラス又は透明な熱可塑性樹脂からなる硬質透明基板とは「別個の材料」から形成されていることは明らかである。
そして、引用発明1における、入射面にフレネルレンズ面及び出射面にレンチキュラーレンズ面を形成したフレネルレンズも、背面投影スクリーン(「透過型スクリーン」に相当する)として用いるものであるから、ここに引用発明2の透過型スクリーンの技術を適用することは、当業者が容易になし得たことである。
その際に、レンチキュラーレンズを形成する複数のシリンドリカルレンズをどのように配列するかは、当業者が適宜選択し得る事項にすぎず、入射面にフレネルレンズ面及び出射面にレンチキュラーレンズ面を形成した透過型スクリーンにおいて、当該レンチキュラーレンズ面として、水平方向に延びる複数のシリンドリカルレンズを上下方向に沿って並べたもの自体は、引用例3、4にも記載されている周知の事項であるから(上記記載事項(3a)?(4a)を参照)、引用発明1のレンチキュラーレンズ面にこのような周知の配列を採用することは、当業者にとって困難性を要することではない。
してみれば、上記当業者に周知の事項に照らせば、引用発明1に引用発明2を適用して、上記相違点1、5に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
透過型スクリーンの技術分野において、入射面にフレネルレンズ面及び出射面にレンチキュラーレンズ面を形成した光学部材の出射面側に、レンチキュラーレンズ板を配置したものを透過型スクリーンとする技術は、当業者に周知の事項であり(上記記載事項(3a)?(4a)を参照)、その中の前記レンチキュラーレンズ板が、前記光学部材から出射した光を結像して投写画像を得る結像表示板として作用する部材であることは、当業者に自明な事項である。
よって、引用発明1に当該周知の事項を適用して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点3について
透過型スクリーンにおいて、フレネルレンズ面の集光効果をどの方向にもたせるかは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る設計的事項である。
よって、引用発明1から、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(4)相違点4について
引用発明1の、入射光を屈折、透過及び全反射させるフレネルレンズが「透明な材料」で形成されていることは当業者に自明な事項であり、そして、引用例1には、拡散粒子についての記載はない。
ここで、上記記載事項(2a)に、透過型スクリーンを構成する透明な樹脂に関して、「これらの樹脂は使用目的に応じて樹脂に光拡散剤を分散させたり、また積層面と反対側の面をマット加工したりすることができる。」と記載されているように、透過型スクリーンにおいて、拡散粒子は必要に応じて適宜分散できるものではあるものの、必須の構成要素であるとは認められない。
よって、拡散粒子について何ら規定されていない引用発明1において、フレネルレンズに「散乱粒子を含まない」透明な材料を選択することは、当業者が容易になし得たことである。
すなわち、引用発明1から、上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。


2 本願発明の奏する作用効果について
(1) 引用例1には、ゴースト光または二重像光といった妨害光の低減という課題は記載されていない。

(2) しかしながら、本願明細書の段落【0044】に、
「さらに、屈折全反射板1の出射面上に第1のレンチキュラーレンズ部15が設けられ、第1のレンチキュラーレンズ部15では、水平方向に延びる複数のシリンドリカルレンズが上下方向に沿って並べられている。従って、屈折全反射板1の面で反射する光束に対して回転対称性を崩し、下方向ゴースト光が透過型スクリーン100の下端または内側部分の近傍に集中するのを抑制できる。また、第1のレンチキュラーレンズ部15により屈折全反射板1の出射面での望ましくない高速を拡散させることで、二重像光および上方向ゴースト光を目立ちにくくすることができる。」
と記載されているように、本願発明の妨害光の低減という作用効果は、屈折全反射板(フレネルレンズ)の出射面にレンチキュラーレンズ面(複数のシリンドリカルレンズ)を形成することにより奏されるものである。
また、引用例5?6(上記記載事項(5a)?(6b)を参照)に記載されているように、一方の面にフレネルレンズを、他方の面にレンチキュラーレンズを形成した光学部材において、レンチキュラーレンズがその拡散・散乱作用により、妨害光を低減する作用効果を奏する部材であることは、投写型スクリーンの技術分野における当業者に周知の作用効果であると認められる。

(3) してみれば、引用発明1のフレネルレンズも、入射面及び出射面に、それぞれフレネルレンズ面及びレンチキュラーレンズ面を有しているのであるから、本願発明と同様の作用効果を奏するものである。

(4)請求人は、平成20年9月25日付けの手続補正(審判請求書の請求の理由の補正)及び平成21年6月29日付けの回答書の、それぞれ「5.対比判断」において、
「引用文献1には、入射面がフレネルレンズ面であるフレネルレンズが開示されていますが、本願の請求項1に係る発明における『屈折全反射板』に相当する屈折全反射板は開示されていません。」
「屈折全反射板は、本願の図5に示されているように、画面の位置でレンズの形状が変わるものであります。」
「このゴースト光は、屈折全反射板で発生する」
と主張するとともに、前記回答書においては、加えて、
「このように、引用文献1,10,11では、本願の請求項1に係る発明における『屈折全反射板』のように、一度出光して、平面ミラーで反射され、屈折全反射板に再入射するゴースト光についての示唆はありません。」
と主張している。
しかしながら、本願の請求項1には、屈折全反射面について、入射面に、屈折斜面、透過斜面、及び全反射斜面が同心円上に形成されていることが記載されているのみであって、画面の位置でレンズの形状が変わるものであるとの限定は付されていないから、上記主張は請求項1の記載に基づかないものである。
なお、引用例1に記載のフレネルレンズも、画面の位置でレンズの形状が変わるものであることを指摘しておく。(上記記載事項(1e)及び第2図を参照)


3 まとめ
よって、本願発明は、引用発明1に引用発明2及び周知の事項を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 むすび
以上より、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-23 
結審通知日 2010-07-27 
審決日 2010-08-09 
出願番号 特願2004-554940(P2004-554940)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 吉喜  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 神 悦彦
今関 雅子
発明の名称 透過型スクリーンおよび投写型表示装置  
代理人 濱田 初音  
代理人 田澤 英昭  

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