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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1224178
審判番号 不服2009-21599  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-06 
確定日 2010-09-24 
事件の表示 特願2000-141979「等速ジョイント」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月22日出願公開、特開2001-323945〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成12年5月15日の出願であって、平成21年8月6日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年11月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成21年11月6日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年11月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明

平成21年11月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
複数のトラック溝が形成された球状内面を有する外輪と、複数のトラック溝が形成された球状外面を有する内輪と、前記内外輪のトラック溝間に配置された複数のボールと、前記外輪の球状内面と前記内輪の球状外面との間に介在し、前記ボールを収容する複数のポケットを有するケージとを具備し、前記外輪の大端面に開口したトラック溝の端部にボールを組み込むためのカット部を設けると共に前記外輪の球状内面の開口部にケージを組み込むための円筒状のカット部を設け、このカット部を焼き入れ後に表面異常層を切削した表面とし、前記切削加工後においても焼き入れ処理時の熱処理硬化層が前記外輪のトラック溝および球状内面に残存するようにしたことを特徴とする等速ジョイント。」
と補正された。(なお、下線は補正箇所を示す。)

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項であるカット部について、「ボールを組み込むための」との事項を付加して限定するとともに、「前記外輪の球状内面の開口部にケージを組み込むための円筒状のカット部を設け」との限定を付加し、同じく切削した表面について、「表面異常層を」との事項を付加して限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に日本国内において頒布された刊行物は、次のとおりである。

刊行物1:特開平11-101256号公報
刊行物2:特開平11-13780号公報
刊行物3:特開平9-76026号公報
刊行物4:特開平6-246546号公報
刊行物5:特開2000-2251号公報

(1)刊行物1(特開平11-101256号公報)の記載事項

刊行物1には、「等速ジョイント」に関し、図面(特に図1、図2)とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数のトラック溝を形成した球状内面を備えた外輪と、複数のトラック溝を形成した球状外面を備えた内輪と、外輪のトラック溝と内輪のトラック溝との間に配置したボールと、外輪の球状内面と内輪の球状外面との間に介在しボールを収容するポケットを備えたケージとを具備してなり、外輪の大端面に開口したトラック溝の端部に、ボール組込みのためのカット部を設けたことを特徴とする等速ジョイント。」

(イ) 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】……このように固定式等速ジョイントは高作動角で回転、トルクを伝達するため、十分な剛性と強度および耐久性が要求される。したがって、固定式等速ジョイント(1)の外輪(2)、内輪(3)、ボール(4)、ケージ(5)は浸炭、高周波等の熱処理により硬化して使用される。……」

(ウ) 「【0017】
【発明の実施の形態】まず、図6?図8を再度参照しながら基本的構成を説明すると、等速ジョイント(1)は外輪(2)、内輪(3)、ボール(4)、ケージ(5)を主要な構成要素としている。
【0018】外輪(2)は、カップ状のマウス部(2a)と、連結すべき2軸のうちの一方と結合するためのアクスル部(2b)とを備えている。マウス部(2a)は内部に球形内面(22)を備え、この球形内面(22)の円周方向等間隔位置に、外輪(2)の軸方向に延びた複数のトラック溝(24)が形成されている。……トラック溝(24)の外端はマウス部(2a)の大端面(26)に開口している。
【0019】内輪(3)は連結すべき2軸のうちの他方すなわちここではシャフト(36)とスプライン結合し、その球形外面(32)に、外輪(2)のトラック溝(24)と同数の、内輪(3)の軸方向に延びたトラック溝(34)が形成されている。……
【0020】外輪(2)のトラック溝(24)と内輪(3)のトラック溝(34)とは対をなし、各対のトラック溝(24,34)間にボール(4)が組み込まれて内・外輪間でトルクを伝達する。……
……
【0022】ケージ(5)は外輪(2)と内輪(3)の間に介在し、すべてのボール(4)を常に上記平面(P)に保持する役割を果たす。ケージ(5)は、外輪(2)の球形内面(22)と球面接触する球形外面(52)と、内輪(3)の球形外面(32)と接する球形内面(54)を備え、ケージ(5)の円周方向等間隔位置にボール(4)を収容するためのポケット(56)が形成されている。……
【0023】以上の構成に関しては従来のものと基本的に変わるところはない。
【0024】次に、図1?図4に、外輪(2)の大端面(26)の位置を後退させることなく、ケージ(5)のボール組入れ角(α)を小さくし(α_(1)>α_(2))、かつ、ボール(4)の組み込みを可能にした本発明の実施の形態を示す。
【0025】図1は、外輪(2)の大端面(26)の位置を従来よりも延長するとともに(A1<A3)、外輪(2)の全周にわたり環状のカット部(28a:図1(A)斜線部)を設けてボール(4)が組み込めるようにした場合を示している。ケージ(5)のボール組入れ角(α)が従来よりも小さいため(α_(1)>α_(2))、ケージ(5)の柱部(58)の幅をそれに対応して増大させることができ、ケージ(5)の強度がアップする。また、外輪(2)の大端面(26)が従来よりも延長されているので、とくに高角時の外輪(2)の強度がアップする。カット部(28a)は外輪(2)を型鍛造により成形する過程に同時に成形することも可能であるが、旋削加工を採用すれば安価に実施をすることができる。
【0026】図2は、各トラック溝(24)毎の入口部トラック底部に、ボール径より若干大きい、ボール組込みのための溝状のカット部(28b)を設けた場合を示している。この場合、上述のように全周にわたって肉を除去するのに比べて、さらに外輪(2)の強度アップが図れる。加工方法としては、ドリル加工により各トラック溝(24)毎に円筒溝状のカット部(28b)を付けるか、あるいは、鍛造により、トラック溝(24)の成形時に円筒溝状のカット部(28b)を同時に成形する。前者のドリル加工はコストが高いが、後者は外輪(2)を型鍛造で加工する過程で同時に成形するため追加のコストがかからず、材料歩留まりもよいという利点がある。」

(エ) 「【0030】外輪(2)は通常中炭素鋼または肌焼鋼を鍛造、機械加工、熱処理(高周波、浸炭)、研削加工、組立工程を経る。外輪(2)のトラック溝(24)は鍛造のみで仕上げるものと鍛造後機械加工で仕上げるものがある。鍛造のみで仕上げる場合、容易に鍛造で仕上げることが可能であり、コストの増加は生じない。もちろん機械加工で加工することも容易である。」

上記記載事項(ア)?(エ)及び図面(特に図1、図2)の記載を総合すると、刊行物1には、
「複数のトラック溝(24)を形成した球状内面(22)を備えた外輪(2)と、複数のトラック溝(34)を形成した球状外面(32)を備えた内輪(3)と、外輪(2)のトラック溝(24)と内輪(3)のトラック溝(34)との間に配置したボール(4)と、外輪(2)の球状内面(22)と内輪(3)の球状外面(32)との間に介在しボール(4)を収容するポケット(56)を備えたケージ(5)とを具備してなり、外輪(2)の大端面(26)に開口したトラック溝(24)の端部に、ボール(4)組込みのためのカット部(28a、28b)を設けた等速ジョイント(1)。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(特開平11-13780号公報)の記載事項

刊行物2には、「等速自在継手」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(オ) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 インナー部材とアウター部材との間に複数個のボールを保持するケージを介在させ、各ボールを前記アウター部材と前記インナー部材の対向面に設けられた、先端側の略半部において軸線方向に略沿って直状の溝底を有すると共に根部側の略半部において内径球面と外径球面とに略沿った溝底を有するボール溝に係合させた等速自在継手において、
前記インナー部材及び前記アウター部材の少なくとも一方におけるボール溝が、熱処理後の研削仕上げにより加工されている等速自在継手。」

上記記載事項(オ)及び図面の記載を総合すると、刊行物2には、
「等速自在継手のボール溝が、熱処理後の研削仕上げにより加工されていること」
という技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

(3)刊行物3(特開平9-76026号公報)の記載事項

刊行物3には、「等速ジョイント部品の製造方法」に関し、図面(特に図8)とともに次の事項が記載されている。

(カ) 「【0002】
【従来の技術】従来の技術としては、例えば図8に示すようなものがある。すなわち、アウターハウジングジョイント部材を、一体素材から温間鍛造又は熱間鍛造と前後処理を含む各種工程により製造する方法であり、アウターハウジングジョイント部材は等速ジョイントの構成部品であって、陥入形状の受け部と、仕様により該受け部の中心に軸部材を突設して成る。
【0003】図8において、従来技術の製造方法の工程を示す。(丸1)丸材から素材を切り出す。(丸2)エッジ除去と(丸3)加熱の前処理を経て、(丸4)温間鍛造を4?5工程加える。続いて(丸5)焼鈍と(丸6)スケール落としの後処理を経て、(丸7)機械加工、(丸8)焼入れ、(丸9)研磨を行って製造するものである。」(審決注:上記「(丸1)」ないし「(丸9)」は、原文では、それぞれ、丸囲み数字の1ないし9である。)

上記記載事項(カ)及び図面の記載を総合すると、刊行物3には、
「等速ジョイントのアウターハウジングジョイント部材を、焼入れ後に研磨を行って製造すること」
という技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

(4)刊行物4(特開平6-246546号公報)の記載事項

刊行物4には、「転がり軸受の軌道輪製造方法」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(キ) 「【0006】
【課題を解決するための手段】この発明の軌道輪製造方法は、転がり軸受の軌道輪となる素形状の素材につき、表面硬化のための熱処理を行った後に、所望の形状に切削する方法である。切削後に、少なくとも転走面を研磨仕上げする。」

上記記載事項(キ)及び図面の記載を総合すると、刊行物4には、
「転がり軸受の軌道輪となる素形状の素材を、表面硬化のための熱処理を行った後に、所望の形状に切削し、その後に、少なくとも転走面を研磨仕上げすること」
という技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

(5)刊行物5(特開2000-2251号公報)の記載事項

刊行物5には、「円すいころ軸受」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(ク) 「【0020】第1旋削工程により上述の如き所定箇所を旋削された内輪用素材は、次いで当該所定箇所を高周波熱処理により焼入れされその後焼戻しされる。
【0021】図4は焼入れされた焼入れパターン12を示している。すなわち、図4のハッチング12で示す層が焼入れされた表面硬化層となる。
【0022】次いで、第2旋削工程に入り、熱処理された内輪用素材は、表面硬化層とされた大つば面と転動面との間の境界部に全周にわたり溝状の逃げ11が旋削により形成される。また、必要に応じて、小つば面と転動面との間の境界部との間にも全周にわたり溝状の逃げが旋削により形成される第2旋削工程において、逃げを形成された内輪用素材は仕上げ研削工程で仕上げ研削されて最終製品となる。」

上記記載事項(ク)及び図面の記載を総合すると、刊行物5には、
「円すいころ軸受の内輪用素材を、高周波熱処理により焼入れしその後焼戻して表面硬化層12を形成し、その後溝状の逃げ11を旋削により形成すること」
という技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

3.発明の対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「複数のトラック溝(24)」は本願補正発明の「複数のトラック溝」に相当し、以下同様に、「を形成した」は「が形成された」に、「球状内面(22)」は「球状内面」に、「を備えた」は「を有する」に、「外輪(2)」は「外輪」に、それぞれ相当するから、引用発明の「複数のトラック溝(24)を形成した球状内面(22)を備えた外輪(2)」は、本願補正発明の「複数のトラック溝が形成された球状内面を有する外輪」に相当する。
また、引用発明の「複数のトラック溝(34)」は本願補正発明の「複数のトラック溝」に相当し、以下同様に、「を形成した」は「が形成された」に、「球状外面(32)」は「球状外面」に、「を備えた」は「を有する」に、「内輪(3)」は「内輪」に、それぞれ相当するから、引用発明の「複数のトラック溝(34)を形成した球状外面(32)を備えた内輪(3)」は、本願補正発明の「複数のトラック溝が形成された球状外面を有する内輪」に相当する。
引用発明の「外輪(2)のトラック溝(24)と内輪(3)のトラック溝(34)との間」は本願補正発明の「前記内外輪のトラック溝間」に相当し、以下同様に、「に配置した」は「に配置された」に、「ボール(4)」は複数あるので「複数のボール」に、それぞれ相当するから、引用発明の「外輪(2)のトラック溝(24)と内輪(3)のトラック溝(34)との間に配置したボール(4)」は、本願補正発明の「前記内外輪のトラック溝間に配置された複数のボール」に相当する。
引用発明の「ポケット(56)」は複数あるから本願補正発明の「複数のポケット」に相当し、以下同様に、「を備えた」は「を有する」に、「ケージ(5)」は「ケージ」に、それぞれ相当するから、引用発明の「外輪(2)の球状内面(22)と内輪(3)の球状外面(32)との間に介在しボール(4)を収容するポケット(56)を備えたケージ(5)」は、本願補正発明の「前記外輪の球状内面と前記内輪の球状外面との間に介在し、前記ボールを収容する複数のポケットを有するケージ」に相当する。
引用発明の「外輪(2)の大端面(26)」は本願補正発明の「外輪の大端面」に相当し、以下同様に、「ボール(4)組込みのための」は「ボールを組み込むための」に、「カット部(28a、28b)」は「カット部」に、それぞれ相当するから、引用発明の「外輪(2)の大端面(26)に開口したトラック溝(24)の端部に、ボール(4)組込みのためのカット部(28a、28b)を設け」は、本願補正発明の「前記外輪の大端面に開口したトラック溝の端部にボールを組み込むためのカット部を設け」に相当する。
引用発明の「等速ジョイント(1)」は、本願補正発明の「等速ジョイント」に相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「複数のトラック溝が形成された球状内面を有する外輪と、複数のトラック溝が形成された球状外面を有する内輪と、前記内外輪のトラック溝間に配置された複数のボールと、前記外輪の球状内面と前記内輪の球状外面との間に介在し、前記ボールを収容する複数のポケットを有するケージとを具備し、前記外輪の大端面に開口したトラック溝の端部にボールを組み込むためのカット部を設けた等速ジョイント。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明では、「前記外輪の球状内面の開口部にケージを組み込むための円筒状のカット部を設け」るのに対して、引用発明では、そのようなカット部を設けていない点。

[相違点2]
本願補正発明では、「このカット部を焼き入れ後に表面異常層を切削した表面とし」ているのに対して、引用発明では、カット部(28a、28b)をそのように形成した表面かどうか明らかでない点。

[相違点3]
本願補正発明では、「前記切削加工後においても焼き入れ処理時の熱処理硬化層が前記外輪のトラック溝および球状内面に残存するようにした」のに対して、引用発明では、その点が明らかでない点。

4.当審の判断

(1)相違点1について

等速ジョイント(「等速自在継手」ともいう。以下同じ。)の技術分野において、外輪の球状内面の開口部にケージ(「保持器」ともいう。)を組み込むための円筒状のカット部を設けることは、本願出願前に当業者にとって周知の技術である(例えば、特開平9-317784号公報の段落【0032】及び図2、特開平10-103365号公報の段落【0027】及び図2を参照)から、当該周知の技術を、引用発明の外輪(2)の球状内面(22)の開口部に適用することによって、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について

上記のとおり刊行物2ないし5には、それぞれ、次の技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

・刊行物2:「等速自在継手のボール溝が、熱処理後の研削仕上げにより加工されていること」
・刊行物3:「等速ジョイントのアウターハウジングジョイント部材を、焼入れ後に研磨を行って製造すること」
・刊行物4:「転がり軸受の軌道輪となる素形状の素材を、表面硬化のための熱処理を行った後に、所望の形状に切削し、その後に、少なくとも転走面を研磨仕上げすること」
・刊行物5:「円すいころ軸受の内輪用素材を、高周波熱処理により焼入れしその後焼戻して表面硬化層12を形成し、その後溝状の逃げ11を旋削により形成すること」

上記刊行物2ないし5の記載にみられるように、等速ジョイント又は転がり軸受の技術分野において、焼き入れ等の熱処理後に切削等の機械加工を行うことは、本願出願前に当業者にとって周知の技術である。
また、等速ジョイントの技術分野において、熱処理により表面異常層が形成され、当該表面異常層を研削により除去することは、本願出願前に当業者にとって周知の技術である(例えば、特開平10-96430号公報の段落【0011】、【0020】?【0022】を参照)。
そして、刊行物1には、外輪(2)を熱処理すること(上記記載事項(イ)、(エ)を参照)、及び、環状のカット部(28a)を旋削加工すること、また、溝状のカット部(28b)をドリル加工すること(上記記載事項(ウ)を参照)が記載されており、当該熱処理と切削等の機械加工との順序について、上記刊行物2ないし5の記載にみられる周知の技術を適用することは、当業者にとって容易なことである。さらに、切削加工は部材の表面から通常行うものであるので、上記特開平10-96430号公報に例示される周知の技術のように、熱処理により表面異常層が形成されていても、当該表面異常層を研削や切削により除去した表面とすることができることは、当業者にとって明らかなことである。
そうすると、引用発明のカット部(28a、28b)の形成に関して、上記各周知の技術を適用することによって、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について

焼き入れ処理をして熱処理硬化層を形成する目的が、当該熱処理硬化層が存在することによって、必要な剛性と強度、耐久性を得るためであることを考慮すれば、切削加工後においても焼き入れ処理時の熱処理硬化層が適量残存するように焼き入れをして、上記相違点3に係る本願補正発明の構成となるようにすることは、当業者であれば通常に行う設計上の事項といえる。

(4)作用効果について

本願補正発明が奏する作用効果は、いずれも刊行物1ないし5に記載された発明及び上記各周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

(5)まとめ

したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし5に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)審判請求人の主張について

審判請求人は、平成21年11月6日付けで提出した審判請求書の請求の理由において、刊行物2ないし5には、「焼き入れによる表面異常層があっても切削加工で除去され、表面の精度、品質が改善されて強度アップが図れ、しかも、その切削加工後においても焼き入れ処理時の熱処理硬化層が外輪のトラック溝および球状内面に残存するようにしたことにより、さらなる強度アップ、高品質化が図れる点」が記載又は示唆されていない旨を主張し、また、当審における審尋に対する平成22年5月7日付けの回答書において、上記周知の技術として例示した特開平10-96430号公報には、「切削加工後においても焼き入れ処理時の熱処理硬化層が外輪のトラック溝および球状内面に残存するという本願発明の構成要件」が記載又は示唆されていない旨を主張をしている。
しかしながら、上記4.(2)で説示したとおり、熱処理により表面異常層が形成されていても、当該表面異常層を研削や切削により除去した表面とすることができることは、当業者にとって明らかなことであるし、また、上記4.(3)で説示したとおり、切削加工後においても焼き入れ処理時の熱処理硬化層が適量残存するように焼き入れをして、上記相違点3に係る本願補正発明の構成となるようにすることは、当業者であれば通常に行う設計上の事項といえる。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成21年11月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成21年6月8日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 複数のトラック溝が形成された球状内面を有する外輪と、複数のトラック溝が形成された球状外面を有する内輪と、前記内外輪のトラック溝間に配置された複数のボールと、前記外輪の球状内面と前記内輪の球状外面との間に介在し、前記ボールを収容する複数のポケットを有するケージとを具備し、前記外輪の大端面に開口したトラック溝の端部にカット部を設け、このカット部を焼き入れ後に切削した表面とし、前記切削加工後においても焼き入れ処理時の熱処理硬化層が前記外輪のトラック溝および球状内面に残存するようにしたことを特徴とする等速ジョイント。」

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし5とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、カット部についての限定事項である「ボールを組み込むための」との事項を省くとともに、「前記外輪の球状内面の開口部にケージを組み込むための円筒状のカット部を設け」との事項を省き、また、切削した表面についての限定事項である「表面異常層を」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定的に減縮した本願補正発明が、上記【2】3.及び【2】4.に記載したとおり、刊行物1ないし5に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1ないし5に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1ないし5に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2010-07-30 
結審通知日 2010-08-02 
審決日 2010-08-13 
出願番号 特願2000-141979(P2000-141979)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 宏和  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 常盤 務
大山 健
発明の名称 等速ジョイント  
代理人 熊野 剛  
代理人 田中 秀佳  
代理人 城村 邦彦  
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