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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1224263
審判番号 不服2007-28808  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-23 
確定日 2010-10-01 
事件の表示 特願2004-325672「電子取引において収集されたプライバシ・ポリシをディジタル的に検証するための方法、システム、およびコンピュータ・プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月30日出願公開、特開2005-174304〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯

本願は,平成16年11月9日(パリ条約による優先権主張,2003年11月12日,米国)の出願であって,平成19年8月6日付けで拒絶査定がされたところ,同年10月23日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正書が提出され,平成22年1月20日付け当審拒絶理由に対して同年4月5日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明の内容

本願の請求項1にかかる発明(以下「本願発明」という。)は,平成22年4月5日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の参加者の夫々に関連付けられたコンピュータに接続された電子マーケットプレイスにおける前記複数の参加者間での電子商取引において収集されたプライバシ使用情報をディジタル的に検証する方法であって、前記電子マーケットプレイスにおけるコンピュータ・システムに、下記ステップを実行させる方法において、該ステップが、
参加者の夫々に関連付けられたコンピュータによって該コンピュータに関連付けられたディジタルキーを使用してディジタル的に署名され且つ送信されたプライバシ使用情報を得て、前記電子マーケットプレイスにおける前記コンピュータ・システムの記憶装置に記憶するステップと、
前記電子マーケットプレイスにおいて相互にビジネスを行うことに関係するすべての参加者の夫々に関連付けられたコンピュータに、前記ディジタル的に署名され且つ前記電子マーケットプレイスにおける前記コンピュータ・システムの記憶装置に記憶されたプライバシ使用情報を送信するステップと
を含み、それによって前記電子マーケットプレイスにおいてビジネスを行う参加者同士が各参加者についての前記ディジタル的に署名されたプライバシ使用情報を共有することが可能になり、当該共有は、すべての参加者の夫々に関連付けられたコンピュータが、前記ディジタル的に署名され且つ送信された前記プライバシ使用情報の送信元であるコンピュータに関連付けられたディジタルキーを使用して、該プライバシ使用情報が改ざんされていないことを検証することを可能にする、前記方法。」

第3 引用例について

1 引用例の表示

引用例1 国際公開第02/021789号(2002年3月14日国際公開)
引用例2 小松原健,外3名,「個人情報を的確に収集するP3Pの実用化が近づく」,日経インターネットテクノロジー,第30号,日経BP社,p.124-139,1999年12月22日
引用例3 特開2003-91649号公報(平成15年3月28日出願公開)

2 引用例1の記載内容

(1)引用例1には,図面とともに,以下の記載がある。

(ア)「Preferred embodiments of the present invention provide a flexible framework in which parties doing business in an electronic commerce setting can automatically negotiate the terms of privacy protection to be provided, by matching privacy criteria that the parties have defined in advance. This framework is useful particularly in business-to-business (B2B) interactions, and especially in interactions carried out through an intermediary electronic marketplace or portal. More generally, however, the principles of the present invention are applicable to substantially any type of electronic commerce setting, including business-to-consumer (B2C) and mixed B2C/B2B settings.
In some preferred embodiments of the present invention, an electronic marketplace serves as a broker of private information between a buyer and one or more sellers. Upon logging into the marketplace, the buyer is preferably prompted to select a default privacy policy, typically from among a number of alternative policies offered by the marketplace. Alternatively, the buyer may input his or her own privacy preference, preferably based on a standard form or language for recording privacy preferences and choices, such as an extension of the above-mentioned P3P standard.」(第3頁第30行?第4頁第15行)

(イ)「There is therefore provided, in accordance with a preferred embodiment of the present invention, a method for controlling an exchange of information between a first party and a second party, including:
receiving from the first party a set of one or more privacy preference, indicating restrictions to be placed on use of specified items of the information to be disclosed by the first party;
receiving from the second party a description of a privacy policy, indicating undertakings by the second party with regard to restricting the use of the specified items of the information;
assessing compatibility of the privacy preferences with the privacy policy;
if the privacy preferences and the privacy policy are found to be incompatible, brokering a negotiation with at least one of the first and the second parties so as to bring the privacy preferences and the privacy policy into mutual compatibility; and
providing the information from the first party to the second party only when the privacy preferences and the privacy policy are found to be compatible.
Preferably, the restrictions indicated by the set of privacy preferences include restrictions on disclosure of the specified items of the information to third parties.
Alternatively or additionally, the restrictions indicated by the set of privacy preferences include restrictions on analysis of the information and/or a description of a condition subject to which the first party will permit one of the specified items to be used by the second party.」(第5頁第11行?第6頁第4行)

(ウ)「Preferably, the first and second parties exchange the information via a computer network, and receiving the privacy preferences and the privacy policy includes receiving the preferences and the policy via the network. Additionally or alternatively, the second party is one of a plurality of parties eligible to receive the information, and assessing the compatibility of the privacy preferences includes selecting the second party from among the plurality of eligible parties responsive to the compatibility of the privacy preferences with the privacy policy of the second party.」(第6頁第5行?第14行)

(エ)「Further preferably, providing the information includes passing the information through an intermediary, which receives the privacy preferences and the privacy policy and brokers the negotiation if the privacy preferences and the privacy policy are found to be incompatible. Preferably, the intermediary includes an electronic marketplace, which is accessed by the first and second parties via a computer network. Additionally or alternatively, assessing the compatibility of the privacy preferences with the privacy policy includes establishing an intermediary privacy policy, responsive to the privacy preferences, subject to which the first party is to communicate with the intermediary, and assessing the compatibility of the intermediary privacy policy with the privacy policy of the second party. Most preferably, providing the information includes conveying the information via the intermediary, wherein a portion of the information is provided in an encrypted form, in accordance with the privacy preferences, for decryption only by the second party and not by the intermediary.
There is also provided, in accordance with a preferred embodiment of the present invention, a method for electronic commerce, including:
establishing a privacy policy restricting use of information to be revealed by a buyer to an electronic marketplace in connection with a transaction to be carried out by the buyer through the marketplace;
subject to the privacy policy, receiving the information from the buyer, including a description of an item desired to be procured for the buyer;
locating a seller in communication with the marketplace offering the item;
receiving from the seller an undertaking to restrict the use of the information in accordance with the privacy policy; and
providing the information to the seller, subject to the undertaking, responsive to which information the seller conveys the item to the buyer.」(第6頁第26行?第7頁第26行)

引用例1に対応する日本語特許文献である特表2004-508646号公報によれば,上記に対応する日本語訳は,次のとおりである(以下,この日本語訳に基づいて検討する。)。なお,下線は当審で付加したものである。

(あ)「【0007】 本発明の好適な実施例は、電子商取引設定においてビジネスを行う当事者が、彼らが事前に定義したプライバシ基準を突き合わせることにより、提供されるプライバシ保護の条件を自動的に折衝できる、柔軟な枠組みを提供する。この枠組みは、特に企業間(B2B)相互活動において有用であり、とりわけ仲介電子市場またはポータルを通じて実行される相互活動において有用である。しかしながら一般に、本発明の原理は、実質的に任意のタイプの電子商取引設定に適用可能であり、それらには企業消費者間取引(B2C)設定及びB2C/B2B混合設定が含まれる。
【0008】 本発明の一部の好適な実施例では、電子市場が、買い手と1人以上の売り手との間において、プライベート情報のブローカとして作用する。市場にログインする際、買い手は好適には、一般に市場により提供される多数の代替ポリシの中から、デフォルトのプライバシ・ポリシを選択するように促される。或いは、買い手が、例えば上記P3P基準の拡張などの、プライバシ・プリファレンス及び選択項目を記録する標準形式または言語に基づき、自らのプライバシ・プリファレンスを入力してもよい。」

(い)「【0011】【課題を解決するための手段】 従って、本発明の好適な実施例によれば、第1の当事者と第2の当事者との間の情報の交換を制御する方法が提供される。この方法は、
前記第1の当事者から該第1の当事者により開示される指定情報項目の使用に対して課せられる制限を示す、1つ以上のプライバシ・プリファレンスのセットを受信するステップと、
前記第2の当事者から前記指定情報項目の使用の制限に関する、前記第2の当事者による約束を示すプライバシ・ポリシの記述を受信するステップと、前記プライバシ・プリファレンスと前記プライバシ・ポリシとの両立性を評価するステップと、
前記プライバシ・プリファレンスと前記プライバシ・ポリシとが両立しないことが判明すると、前記プライバシ・プリファレンスと前記プライバシ・ポリシとを相互に両立させるために、前記第1及び第2の当事者の少なくとも一方との折衝を仲介するステップと、
前記プライバシ・プリファレンスと前記プライバシ・ポリシとが両立すると判明する場合に限り、前記第1の当事者から前記第2の当事者に情報を提供するステップとを含む。
【0012】 好適には、プライバシ・プリファレンスのセットにより示される制限が、第三者に対する指定情報項目の開示に関する制限を含む。代わりにまたは加えて、プライバシ・プリファレンスのセットにより示される制限が、情報の分析に対する制限、または第1の当事者が第2の当事者による指定情報項目の1つの使用を許可する条件の記述を含んでもよい。」

(う)「【0013】 好適には、第1及び第2の当事者は、コンピュータ・ネットワークを介して情報を交換し、プライバシ・プリファレンス及びプライバシ・ポリシを受信するステップが、ネットワークを介して、プライバシ・プリファレンス及びプライバシ・ポリシを受信するステップを含む。加えてまたは代わりに、第2の当事者が、情報を受信する資格を有する複数の当事者の1人であり、プライバシ・プリファレンスの両立性を評価するステップが、プライバシ・プリファレンスと第2の当事者のプライバシ・ポリシとの両立性に応答して、複数の有資格当事者の中から第2の当事者を選択するステップを含んでもよい。」

(え)「【0015】 更に好適には、情報を提供するステップが、仲介人を介して情報を受け渡すステップを含み、仲介人はプライバシ・プリファレンス及びプライバシ・ポリシを受信し、プライバシ・プリファレンスとプライバシ・ポリシとが両立しないと判明するとき、折衝を仲介する。好適には、仲介人は、第1及び第2の当事者により、コンピュータ・ネットワークを介してアクセスされる電子市場を含む。加えてまたは代わりに、プライバシ・プリファレンスとプライバシ・ポリシとの両立性を評価するステップが、第1の当事者が仲介人と通信する条件となるプライバシ・プリファレンスに応答して、仲介プライバシ・ポリシを確立し、仲介プライバシ・ポリシと第2の当事者のプライバシ・ポリシとの両立性を評価するステップを含んでもよい。最も好適には、情報を提供するステップが、仲介人を介して情報を伝達するステップを含み、情報の一部がプライバシ・プリファレンスに従い、暗号化形式で提供され、第2の当事者によってのみ暗号化解除され、仲介人によっては暗号化解除されない。
【0016】 本発明の好適な実施例によれば、電子商取引のための方法も提供され、この方法は、
電子市場を通じて買い手により行われる取引に関連して、前記買い手により前記電子市場に明かされる情報の使用を制限するプライバシ・ポリシを確立するステップと、
前記プライバシ・ポリシに従い、前記買い手から、前記買い手のために調達されることが望まれる品目の記述を含む情報を受信するステップと、
前記電子市場と通信し、前記品目を提供する売り手を突き止めるステップと、
前記売り手から、前記プライバシ・ポリシに従い情報の使用を制限する約束を受信するステップと、
前記売り手が前記買い手に前記品目を送付するという情報に応答して、前記約束に従い、前記売り手に情報を提供するステップとを含む。」

(2)ここで,上記(あ)に記載された事項によると,引用例1に記載された電子市場は,商取引の当事者である買い手と1人以上の売り手との間において,プライベート情報のブローカとして作用するものであり,上記(う)に記載された事項によると,それら複数の当事者との情報の交換が,コンピュータ・ネットワークを介して行われているから,引用例1における電子市場と複数の当事者とは,コンピュータ・ネットワークを介して接続されているといえる。
そして,引用例1のFIG.1には,買い手及び売り手がコンピュータであることが図示されているから,引用例1にいう「当事者」とは,当事者の夫々に関連付けられたコンピュータであると認められる。

そうすると,引用例1には

「コンピュータ・ネットワークによって接続された複数の当事者の夫々に関連付けられたコンピュータと情報の交換を行う電子市場において,
第1の当事者から,プライバシ・プリファレンスのセットを受信するステップと,
第2の当事者から,プライバシ・ポリシの記述を受信するステップと,
前記プライバシ・プリファレンスと前記プライバシ・ポリシとが両立すると判明する場合に限り,前記第1の当事者から前記第2の当事者に情報を提供するステップとを含む方法。」(以下「引用発明」という。)

が記載されている。

3 引用例2の記載内容

(1)引用例2には,図面とともに,以下の記載がある。なお,下線は当審で付加したものである。

「応答と同時にポリシーのURLを
P3P1.0を利用するとき,典型的なサーバー-クライアント間のやり取りは次の通りである(図1)。
クライアントからサーバーに通常のWebぺージのリクエストと同様,HTTPを用いてコンテンツを要求する(a)。このとき,サーバーがユーザーの個人情報が欲しいならば,サーバーがプライバシ・ポリシー,つまり個人情報の利用目的や利用形態を公開する。このため,サーバーは2つの処理を同時に実行する。1つは要求されたコンテンツをクライアントに返す(b)。もう1つは,XMLで記述されたプライバシ・ポリシーが存在するURL(正確にはURI)を通知する(c)。
クライアントは受け取ったコンテンツを表示するとともに,通知されたURLにアクセスして(d) ,プライバシ・ポリシーを取得する(e)。
クライアントは,2つのいずれかの方法で,ポリシーをユーザーに伝える。1つは,ポリシーをそのままユーザーに表示する(具体的な表現方法はクライアント・ソフトに依存する)。もう1つが,ユーザーのプライバシ公開ルール(プリファレンス)と比較し(f),プライバシ・ポリシーがユーザーのプリファレンスに合致するかどうかをユーザーに表示する。」(第130頁中欄第1行?右欄第11行)

(2)以上によれば,引用例2には

「サーバーが,プライバシ・ポリシーを公開し,クライアントが,サーバーにアクセスすることで,前記プライバシ・ポリシーを取得し,クライアントにおいて,プライバシ・ポリシーがユーザーのプリファレンスに合致するかどうかを比較する。」

という技術的事項が記載されている。

4 引用例3の記載内容

(1)引用例3には,図面とともに,以下の記載がある。なお,下線は当審で付加したものである。

「【0006】ここで、非対称鍵を用いて生成した電子署名を付加した電子文書の通信方法の例を示す。送出元は、まず署名する対象となる電子文書のハッシュデータを生成し、このハッシュデータを署名する人物の秘密鍵を基に暗号化して署名データを生成する。そして、この署名データを電子文書に付加して、取引相手に送出する。一方、送出先は、電子文書を受信すると、まず、署名した人物の証明書を特定して、この証明書に記載されている公開鍵を取得する。そして、受信したデータのうち、署名データ以外の部分すなわち電子文書そのものからハッシュデータを生成するとともに、受信した署名データを公開鍵を基に復号化して、復号化したデータと電子文書から生成したハッシュデータとを比較する。すなわち、これらのデータが一致すれば、しかるべき人物からの電子文書が正しく受信されたことが判明する。」

(2)以上によれば,引用例3には

「電子文書の送信において,送出元は,自己の秘密鍵を基に署名データを生成して,電子文書に付加して送出し,送出先は,署名者に対応する公開鍵に基づいて当該電子文書が正しく受信されたことを判別する。」

という電子文書の送受信における電子署名に関する周知の技術的事項が記載されている。

第4 対比・判断

1 対比

本願発明と,引用発明とを対比すると,

(ア)引用発明の「電子市場」は,コンピュータ・ネットワークによって接続された複数の当事者に対して,電子的にマーケットを提供するコンピュータ・システムであるから,本願発明の「電子マーケットプレイスにおけるコンピュータ・システム」に相当する。
(イ)引用発明の「当事者」は,電子市場に参加して商取引を行う者であるから,本願発明の「参加者」に相当する。
(ウ)引用発明の「プライバシ・ポリシ」は,プライベート情報の使用の制限に関する第2の当事者による約束を示す情報であるから,本願発明の「プライバシ使用情報」に相当する。
(エ)引用発明では,電子市場が,第2の当事者から受信したプライバシ・ポリシを,その後の比較処理に利用しているから,本願発明と同様に,電子市場において,第2の当事者から得たプライバシ・ポリシを「記憶装置に記憶するステップ」が実行されているのは明らかであるといえる。

2 一致点と相違点

以上によれば,本願発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりと認められる。

(ア)一致点

「複数の参加者の夫々に関連付けられたコンピュータに接続された電子マーケットプレイスにおける方法であって,前記マーケットプレイスにおけるコンピュータ・システムに,下記のステップを実行させる方法において,該ステップが,
参加者の夫々に関連付けられたコンピュータによって送信されたプライバシ使用情報を得て,前記電子マーケットプレイスにおける前記コンピュータ・システムの記憶装置に記憶するステップと
を含む,前記方法。」

(イ)相違点

本願発明では,電子マーケットプレイスにおけるコンピュータ・システムの記憶装置に記憶されたプライバシ使用情報を,前記電子マーケットプレイスにおいて相互にビジネスを行うことに関係するすべての参加者の夫々に関連付けられたコンピュータに送信するステップを有し,それによって,電子マーケットプレイスにおいてビジネスを行う参加者同士が各参加者についてのディジタル的に署名されたプライバシ使用情報を共有することが可能になり,
更に,前記プライバシ使用情報が,当該プライバシ使用情報を送信するコンピュータにおいて,当該コンピュータに関連付けられたデジタルキーを使用してデジタル的に署名されるとともに,当該プライバシ使用情報を受信するコンピュータにおいて,当該プライバシ使用情報の送信元であるコンピュータに関連付けられたデジタルキーを使用して,改ざんされていないことの検証がなされるのに対し,
引用発明では,そのような構成を有していない点。

3 判断

前記第3,3,(2)に見るように,引用例2には,「サーバーが,プライバシ・ポリシーを公開し,クライアントが,サーバーにアクセスすることで,前記プライバシ・ポリシーを取得し,クライアントにおいて,プライバシ・ポリシーがユーザーのプリファレンスに合致するかどうかを比較する。」という技術的事項が記載されている。
よって,引用発明において,引用例2に記載されたかかる技術的事項を適用し,電子市場が,第2の当事者によって送信されたプライバシ・ポリシを,電子市場においてビジネスを行うすべての第1の当事者が取得できるように公開することで,第1の当事者のアクセスに応じて,当該プライバシ・ポリシを第1の当事者に関連付けられたコンピュータに送信する構成とするとともに,
さらにその際,前記第3,4,(2)において引用例3にて例示した周知の技術的事項を適用し,電子文書の一種であるプライバシ・ポリシを,その送出元である第2の当事者に関連付けられたコンピュータにおいて,当該第2の当事者の秘密鍵(本願発明の「コンピュータに関連付けられたデジタルキー」に相当。)に基づいて電子的に署名し,その送出先である第1の当事者に関連付けられたコンピュータにおいて,送出元である第2の当事者に対応する公開鍵(本願発明の「プライバシ使用情報の送信元であるコンピュータに関連付けられたデジタルキー」に相当。)に基づいて,当該プライバシ・ポリシが正しく受信されたことを判別するように構成することは,当業者においては容易になし得たことといえる。
そして,そのように構成すると,ビジネスを行う当事者は,マーケットプレイスにおけるコンピュータ・システムにアクセスすることにより,当該コンピュータ・システムの記憶装置に記憶された任意の当事者のプライバシ・ポリシを取得して共有することが可能となるから,電子マーケットプレイスにおいてビジネスを行う参加者同士が各参加者についてのディジタル的に署名されたプライバシ使用情報を共有することが可能となることは,自明である。

4 結論

以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例2に記載された技術的事項及び周知の技術的事項から,当業者が容易に想到し得たものである。そして,本願発明の効果も,引用発明,引用例2に記載された技術的事項及び周知の技術的事項から,当業者が予測できる範囲のものである。

第5 請求人の主張について

1 審判請求人は,平成22年4月5日に提出された意見書において,次の主張を行っている。なお,下線は,意見書において審判請求人が付与したものを援用したものである。

『(2)本願発明と引用文献に記載の発明との対比
1)本願の請求項1に係る発明(以下、本願発明1)について、上記拒絶理由通知書の記欄「第4 対比・判断」において、「(ウ)引用発明の「プライバシ・ポリシ」は,プライベート情報の使用の制限に関する第2の当事者による約束を示す情報であるから,本願発明1の「プライバシ使用情報」に相当する」との指摘がされています。引用発明は、上記拒絶理由通知書の記欄(9頁)において記載されているように、「第2の当事者から,プライバシ・ポリシの記述を受信するステップと、前記プライバシ・プリフェレンスと前記プライバシ・ポリシとが両立すると判明する場合に限り,前記第1の当事者から前記第2の当事者に情報を提供するステップ」を記載しています。すなわち、第2の当事者は受信する立場です。一方、本願発明1では、プライバシ使用情報は、コンピュータ・システムの記憶装置から送信されます。引用発明の「プライバシ・ポリシ」が本願発明1の「プライバシ使用情報」に相当するとして、引用発明1は、第2の当事者からプライバシ・ポリシを、参加者の夫々に関連付けられたコンピュータに送信することを記載も示唆もしていません。この点について、上記拒絶理由通知書の記欄(12頁)において、「引用例2には、「サーバが,プライバシ・ポリシを公開し,クライアントが,サーバにアクセスすることで,前記プライバシ・ポリシを取得し,クライアントにおいて,プライバシ・ポリシがユーザーのプリフェレンスに合致するかどうかを比較する」」という技術的事項が記載されていること、「よって,引用発明において、引用例2に記載されたかかる技術的事項を適用し,電子市場が,第2の当事者によって送信されたプライバシ・ポリシを,電子市場においてビジネスを行うすべての第1の当事者のアクセスに応じて,当該プライバシ・ポリシを第1の当事者に関連付けられたコンピュータに送信する構成とするとともに、(中略)当業者においては容易になし得たことといえる。」(下線付加)との指摘がされています。しかし、引用発明は電子商取引設定においてビジネスを行う当事者が、彼らが事前に定義したプライバシ基準を付き合わせることにより、提供されるプライバシ保護の条件を自動的に折衝できる、柔軟な枠組みを提供するために(段落0007)、第2の当事者がプライバシ・ポリシを受信しており、よって引用例2に記載のクライアントが、サーバにアクセスすることで、プライバシーポリシーを取得することを引用発明の「第2の当事者がプライバシを受信」することに当てはめたとしても、当該「第2の当事者がプライバシを受信」することが第2の当事者がプライバシ・ポリシを送信すること、そして第1の当事者に関連付けられたコンピュータに送信することにはなりません。
また、引用発明及び引用例2のいずれも、本願発明1の「前記電子マーケットプレイスにおいてビジネスを行う参加者同士が各参加者についての前記ディジタル的に署名されたプライバシ使用情報を共有することが可能にな」ることを記載も示唆もしていません。
従って、本願発明1及びその従属請求項2?4に係る発明は、引用発明及び引用例2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないと考えます。』

2 よって,この主張について検討する。

前記第3,2,(2)において示したように,引用発明は,電子市場において,第2の当事者から,プライバシ・ポリシの記述を受信するステップを有するものである。これは,引用発明における電子市場が,第2の当事者から,プライバシ・ポリシを受信すること,すなわち,第2の当事者が,電子市場に対して,プライバシ・ポリシを送信することを示している。とすれば,引用発明において,第2の当事者は,プライバシ・ポリシ(本願発明の「プライバシ使用情報」に相当。)を送信する立場である。
そして,前記第4,3において示したように,かかる引用発明において,引用例2に記載の技術的事項を適用し,第2の当事者から電子市場に送信されたプライバシ・ポリシを,電子市場にアクセスしてきた第1の当事者にさらに送信するようにして,第2の当事者からのプライバシ・ポリシを,参加者の夫々に関連付けられたコンピュータに送信する構成とすることは,当業者においては適宜なし得たことといえる。
また,「前記電子マーケットプレイスにおいてビジネスを行う参加者同士が各参加者についての前記ディジタル的に署名されたプライバシ使用情報を共有することが可能にな」るとの構成については,前記第4,3において述べたとおりである。

3 そうすると,審判請求人の主張は,理由があるとは認められない。

第6 まとめ

以上の次第で,本願発明は,引用発明,引用例2に記載された技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-07 
結審通知日 2010-05-10 
審決日 2010-05-24 
出願番号 特願2004-325672(P2004-325672)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮下 浩次山崎 誠也  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 小林 義晴
須田 勝巳
発明の名称 電子取引において収集されたプライバシ・ポリシをディジタル的に検証するための方法、システム、およびコンピュータ・プログラム  
代理人 市位 嘉宏  
復代理人 松井 光夫  
復代理人 村上 博司  
代理人 坂口 博  
代理人 上野 剛史  

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