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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1224340
審判番号 不服2007-11674  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-23 
確定日 2010-09-28 
事件の表示 平成 6年特許願第524410号「化学療法剤をinvivoで評価する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年11月10日国際公開、WO94/25074、平成 8年12月24日国内公表、特表平 8-512292〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成6年4月21日(パリ条約による優先権主張 1993年5月5日 米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成19年1月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年5月23日付けの手続補正書により補正されたものである。

2.本願発明

本願の請求項1?28に係る発明は、平成19年5月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?28に記載されたとおりのものであって、そのうち請求項14に係る発明は以下のとおりのものである。

「請求項14
化学療法剤をin vivoでスクリーニングする方法であって、
(a)ウィルスに感染した一群の標的細胞を含有する少なくとも1種の生体適合性の、管状の、半透過性の、カプセル化装置を哺乳動物に移植し;
(b)前記哺乳動物を少なくとも1種の化学療法剤で処理し;そして、
(c)少なくとも1種の化学療法剤の効果について、前記標的細胞における前記ウィルス感染を評価する
工程を含む、前記方法。」(以下「本願発明」という。)

3.引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された、
「カナダ国特許出願公開第2065662号明細書 」(以下、「引用例1」という。)、「 LI, X.Q. et al, Antiviral Research, 1988, Vol.10, 179-192」(以下、「引用例2」という。)、には、各々、以下の記載がある。

「引用例1」(外国語文献であるので翻訳文で示す)
(1)「請求項1 腫瘍細胞を半透膜の中空ファイバーのセグメント内に密閉し、
前記密閉ファイバーセグメントを哺乳類体内に移植し、
前記哺乳類を癌の治療法で治療し、そして前記中空ファイバーセグメント中の細胞に対する前記癌の治療法の効果を評価することよりなる、癌治療法の効果の測定方法。
(請求項2?4 省略)
請求項5 移植が腹腔内移植である、請求項1記載の方法。
請求項6 移植が皮下移植である、請求項1記載の方法。
請求項7 癌の治療法が化学療法剤の投与である、請求項1記載の方法。
(請求項8 省略)
請求項9 ファイバーがポリスルホンファイバーである、請求項1記載の方法。
(請求項10、11 省略)
請求項12 異なる腫瘍細胞を異なるファイバー中に密閉して哺乳類に移植し、異なる腫瘍細胞に対する治療効果を評価する、請求項1記載の方法。
(請求項13?27 省略)」(特許請求の範囲)
(2)「さらに、哺乳動物が別々のガン細胞(別々の患者由来の)を含む別々のファイバーを有すれば、一匹の哺乳動物において、新しい治療法のためにさまざまな可能性のある使用法を評価することが可能になる。」(P3 25?28行)
(3)「実施例1 腫瘍細胞は、半透膜ファイバ-セグメントに密閉され・・・た(図5)。使用した腫瘍細胞は、ハイクロ-ン産業のMOLT-4(ヒトT-細胞急性リンパ腫白血病 ATCC CRL1582)と呼ばれるもので・・・あった。この半透膜中空ファイバ-膜は内径が1.5mm,30mm長のポリスルホン製限外濾過ファイバーであり・・・から入手した。使用した哺乳類はSprague-Dawleyウイルスフリ-ラットで体重150-175グラムでありマサチュ-セッツ州、ウィルミントンのチャ-ルス リバ- ラボラトリ-から入手した。・・・30マイクロリットルの細胞懸濁液が各々のポリスルホンファイバ-内腔に注入された。ファイバ-の末端は・・・樹脂で密閉された。0日にファイバ-はラットの腹腔内に移植された。1,2,3,4,5日にラットは殺され、各々のラットからのファイバ-が回収された。回収時にファイバ-中の細胞数および生存細胞率が測定された。細胞の生存は、色素取り込みアッセイ-エチジウムブロマイドおよびアクリジンオレンジU.V.蛍光染色を使用して測定した。」(P9 13行?P10 9行)
(4)「実施例2 ラットに上述のMOLT-4細胞系を含む中空ファィバ-セグメントを移植した。2種の化学療法剤がラットの2つの群に投与され、第3の群は対照として使用した。ファイバ-は細胞を装填してから24時間後に移植され、化学療法剤が移植48時間後に投与された。処置を受けた2群のラットは筋肉中に単一薬剤治療を行った:メトトレキセ-ト(MTX)100mg/KgおよびL-アスパラギナ-ゼ(L-ASP)1200unit/Kg。各群のラットから化学療法24時間および48時間後にファイバ-を回収し、培地で洗滌した。細胞数は単一細胞懸濁液から測定した。図6に示す結果は、24時間後と48時間後の細胞毒性を比較した時有意差がなかったことを示す。4日後に対照細胞数の減少が記録され、化学療法効果がより早く与えられたことを示した。」(P10 20行?P11 4行)

「引用例2」(外国語文献であるので翻訳文で示す)
(5)「マイクロカプセル化技術は、ウイルスに感染したヒト、若しくは動物細胞を、半透性膜を有するマイクロカプセルにカプセル化することを可能にする。これらは、マウスの腹腔内に移植され、その後、抗ウイルス薬で処置されうる。移植されたマイクロカプセルは、in vivo処置に続く様々な間隔で回収されうるのであって、薬剤の効果は、マイクロカプセル内のウイルス滴定値をアッセイすることによって評価される。
この文献において、このモデルの実現可能性は、マイクロカプセル化された、単純ヘルペス1型(HSV-1)感染、ヒト若しくは非ヒト細胞を用いてテストされた。マイクロカプセルは、マウスの腹膜腔に移植され、体系的に投与されたアシクロビルのHSV-1複製に関する効果が確認された。我々は、以下の点を見いだした。(a)HSV-1はHSV-1は、感染後、カプセル化されたのち、ヒト(A549とFEMx)と非ヒト(Vero)の両者において複製しうる。(b)HSV-1複製は、ウイルス産生A549細胞がカプセル化されているとき、若しくは単層にあるとき、アシクロビル培地濃度0.005μg/ml?0.08mg/mlで阻害される。(c)アシクロビル(20-80mg/kg)はマウスに1日2回腹腔内、皮下、あるいは静脈内注射され、腹膜腔に移植されたカプセル化Vero細胞におけるHSV-1製造を著しく阻害した。
in vivoモデルにおけるこの主たる有利な点は、ウイルスの複製を阻害する実験動物において抗ウイルス薬を研究するために用いられ得ることである。毒性、薬物動態及び効能データが得られるかもしれない。これは、有効となるためにはin vivoで活性化されることが求められる薬物をテストするためにも用いられ得る。」(P179 サマリー)
(6)「動物モデルは、推定抗ウイルス薬の正しい評価のためには欠かせない。・・・
最近、新しいカプセル化技術を用いて、Gorelikらは、非ヒト腫瘍に対する薬をテストするため、新しいin vivo短期間分析法を開発した。悪性細胞が、半透性膜を有するマイクロカプセルにおいてカプセル化され、マウスの腹膜腔に移植された。ヒト腫瘍細胞は、マイクロカプセル内で増殖した、腹腔内での増殖がin vitroのそれに比べてすぐれていた。マウスに投与された抗腫瘍薬は、これらのマイクロカプセル内に入って、腫瘍細胞の複製を阻害するか、殺すことができた。in vivoで達成可能なレベルにおける薬の感受性が分析された。in vivoで代謝活性化が必要な物質がテストすることができた、そして、そのテストは多くの型のヒト腫瘍細胞に応用できる。
我々は、同様なアプローチが、抗ウイルス薬のin vivo評価に対して用いることができると仮定している。まず、ヒト、若しくは非ヒト細胞が、テストされるべきウイルスによって感染される。それから、それら細胞が薬剤0.8mmマイクロカプセルにカプセル化され、続いて、マウスの腹膜腔に移植される。マイクロカプセルの半透性膜は宿主の免疫機構による破壊から内部の細胞を保護するが、必須の栄養素並びに15万ダルトン以下の物質の自由な透過を許容する。二番目に、抗ウイルス薬は移植された動物に対して、腹腔内、静脈内、及び皮下経路で投与されうるマイクロカプセルは、回復され、ウイルス複製が評価される。」(P180 イントロダクション)
(7)「カプセル化プロセスは、Damon Biotech Inc.,Boston,MA(U.S. Patent Number 4352883)Gorelikらにより記述されたものであるが、によって開発されたEncapcel^(TM)技術に基づいた。細胞カプセル化は以下の3ステップからなる:(a)実行可能なviable細胞をトラップする球状ゲルビーズの形成;(b)ゲルビーズの周囲の半透性膜の形成;そして(c)液化し、最終マイクロカプセルを製造するために内部ゲルを懸濁細胞で除去する。ウイルス感染、若しくは非感染細胞懸濁物がまず1.6%アルギン酸ナトリウムと1:4の割合(v/v)で混合され、最終細胞濃度2×10^(6)細胞/mlとした。この混合物は次にジェットヘッド水滴形成装置を通じてCaCl_(2)等張溶液(1.2%)へ導入された。球状マイクロ水滴物はポリ-1-オルニチン(30-70kDa;・・・)で洗浄されて、その表面に半透性膜を形成したのち、内部ゲルを液化して、アルギン酸ナトリウムをカプセルから拡散させるために、55mMクエン酸ナトリウム(シグマ社)で洗浄された。このようにして、液体懸濁物中に生viable細胞を含有する半透過性薄膜を有するマイクロカプセルが製造された。マイクロカプセルの量は、ピペット又は遠心分離管に占める量によって表現された。」(P181、182 細胞カプセル化)

4.対比・判断

上記(1)に摘記した請求項1、9、及びそれらの具体例である上記(4)に摘記した実施例1、2の記載からみて、引用例1には、「腫瘍細胞を半透膜のポリスルホン製中空ファイバーのセグメント内に密閉し、前記密閉ファイバーセグメントを哺乳類体内に移植し、前記哺乳類を化学療法剤を投与することで治療し、そして前記中空ファイバーセグメント中の細胞に対する前記化学療法剤の効果を評価することよりなる、腫瘍細胞に対する化学療法剤の効果を測定する方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
ここで、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、「(a)細胞を含有させた半透過性物を哺乳動物に移植し、(b)前記哺乳動物を化学療法剤で処理し、そして、(c)前記細胞に対する化学療法剤の効果を評価する工程を含む方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
1)哺乳動物に移植される細胞を含有させるべき半透過性物について、本願発明では、細胞を包含する、少なくとも1種の生体適合性の、管状の、半透過性の、カプセル化装置とされているのに対し、引用発明では、細胞を密閉した、半透膜のポリスルホン製中空ファイバーのセグメントとされている点
2)評価する対象が、本願発明は、ウィルス感染した一群の標的細胞における抗ウィルス感染に対する化学療法剤の効果であるのに対して、引用発明では、腫瘍細胞に対する化学療法剤の効果である点
3)本願発明では、化学療法剤をin vivoでスクリーニングする方法であるとされているのに対し、引用発明では、化学療法剤の効果を評価することよりなる、化学療法剤の効果を測定する方法とされている点

以下、相違点1)?3)について検討する。

相違点1)について
本願明細書には、「それら標的細胞をin vivoで培養するカプセル封入装置を選ばなければならない。このカプセル封入装置は、生体適合性で半透過性の移植可能な如何なる装置であってもよい。好ましい形態のマクロカプセル封入装置には、選択的透過性中空ファイバー又は透析チュービングが含まれる。適する中空ファイバー(HF)には、ポリスルホン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、酢酸セルロース(CA-E)、ケン化セルロースエステル(SCE)又はポリプロピレン(PP)から構成されるものが含まれるがこれらに限定されない。適する透析チュービング(DT)には、再生セルロース(RC)又はセルロースエステル(CE)から構成されるものが含まれるがこれらに限定されない。」(P6 9?15行)と記載されているように、本願発明は、ポリスルホンから構成される中空ファイバーを用いる実施の態様を含むものと認められる。ここで、「カプセル封入装置」なる用語は、標的細胞を含有させるための物を意味する用語であるから、本願発明の「カプセル装置」の同義語として用いられていると理解できる。また、「充填した中空ファイバーを基準間隔を置いてその管に沿って溶封することによりそれらファイバーからPVDF、PS及びCA-Eの個々の移植用サンプルを調製する。」(P9 3?5行)との本願明細書の記載から、本願発明の「カプセル装置」は密閉されているものといえる。
他方、引用発明の「細胞を密閉した、半透膜のポリスルホン製中空ファイバーのセグメント」は、上記摘記事項(4)に記載されるように、半透膜のポリスルホン製中空ファイバーの末端が樹脂で密閉されることにより製造されるものである。そして、ポリスルホンは、上記のとおり本願発明において生体適合性であるとされている材料である。
すなわち、引用発明における「細胞を密閉した、半透膜のポリスルホン製中空ファイバーのセグメント」は、本願発明における「生体適合性の、管状の半透過性の、カプセル化装置」の一態様であるといえるから、上記相違点1)記載の点は実質的な相違点ではない。

相違点2)について
引用例2には、先行開発されていた腫瘍に対する薬の効果をアッセイするin vivoモデルに関する技術が、抗ウィルス薬のin vivo評価に対して適用可能であるとの推定に基づいてなされたものであること(摘記事項(6))、及び、その技術というのは、半透性膜内に細胞を含有するマイクロカプセルをマウスの腹膜腔に移植し、薬剤をマウスに投与し、その後、マイクロカプセル内の細胞をアッセイして薬剤の効果を評価するというものであること(摘記事項(5)?(7))が記載されている。
そうすると、引用発明とは、基本的には、細胞を封入する半透性の膜が、マイクロカプセルであるか、中空ファイバーのセグメントであるか、の点でのみ相違する化学療法剤のin vivo評価法について、抗腫瘍薬で知られていた技術を抗ウィルス薬に対して応用可能であったことが引用例2に示されているのであるから、このような応用例に基づいて、腫瘍細胞に対する化学療法剤に関する引用発明に係る方法を、ウィルス感染した一群の標的細胞におけるウィルス感染に対する化学療法剤に応用することは、当業者が容易になし得るものである。

相違点3)について
医薬の分野において、スクリーニングとは、一般に、ある物質がどのような医薬用途に利用できるかをふるいわけるものである。そして、本願発明にあっては、(a)ウィルスに感染した一群の標的細胞を含有する少なくとも1種の生体適合性の、管状の、半透過性の、カプセル化装置を哺乳動物に移植し;(b)前記哺乳動物を少なくとも1種の化学療法剤で処理し;そして、(c)少なくとも1種の化学療法剤の効果について、前記標的細胞における前記ウィルス感染を評価する工程を含む一連の方法を、「化学療法剤をin vivoでスクリーニングする方法」と表現している。そうすると、本願発明にいう「化学療法剤をin vivoでスクリーニングする方法」とは、「哺乳動物の体内に移植された細胞に対する化学療法剤の医薬用途に対する効果を評価する方法」を意味するものと理解できる。
一方、引用発明は上記認定のとおり「腫瘍細胞を半透膜のポリスチレン製中空ファイバーのセグメント内に密閉し、前記密閉ファイバーセグメントを哺乳類体内に移植し、前記哺乳類を化学療法剤を投与することで治療し、そして前記中空ファイバーセグメント中の細胞に対する前記化学療法剤の効果を評価することよりなる、癌細胞に対する化学療法剤の効果の測定方法。」の発明であり、「哺乳動物の体内に移植された細胞に対する化学療法剤の医薬用途に対する効果を評価する方法」であるといえるから、本願発明が「化学療法剤をin vivoでスクリーニングする方法」としている点は実質的な相違点ではない。

そして、本願明細書に記載される本願発明の効果についても、上記引用例1及び2の記載からみて、当業者にとって格別予想外のものであるとすることができない。

5.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-23 
結審通知日 2010-03-24 
審決日 2010-05-19 
出願番号 特願平6-524410
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 井上 典之
穴吹 智子
発明の名称 化学療法剤をinvivoで評価する方法  
代理人 栗田 忠彦  
代理人 社本 一夫  
代理人 江尻 ひろ子  
代理人 今井 庄亮  
代理人 増井 忠弐  
代理人 小林 泰  

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