• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1224396
審判番号 不服2007-28505  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-18 
確定日 2010-09-09 
事件の表示 平成9年特許願第539739号「植物用発泡肥料」拒絶査定不服審判事件〔平成9年11月13日国際公開、WO97/41732〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、1997年5月6日(優先権主張1996年5月7日、日本国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成19年 5月16日付け 拒絶理由通知書
平成19年 7月30日 意見書・手続補正書
平成19年 9月11日付け 拒絶査定
平成19年10月18日 審判請求書
平成19年11月16日 手続補正書
平成19年12月25日 手続補正書(方式)
平成20年 2月 4日付け 前置報告書
平成22年 3月19日付け 審尋
平成22年 5月21日 回答書

第2 平成19年11月16日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年11月16日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.平成19年11月16日付け手続補正の内容
平成19年11月16日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲である
「【請求項1】
少なくとも炭酸塩および/または炭酸水素塩、および水溶性固体酸、水中での溶解拡散性が悪い酵母菌抽出物および/またはメチオニンを含有する固体状組成物からなる植物用発泡製剤であって、
植物用発泡製剤全重量に対して、炭酸塩および/または炭酸水素塩および水溶性固体酸の合計含有量が5?99.999重量%、酵母菌抽出物の含有量が0.001?80重量%、メチオニンの含有量が0.01?80重量%であって、炭酸塩および/または炭酸水素塩と水溶性固体酸の重量比が1:10?10:1とすることにより、酵母菌抽出物および/またはメチオニンが水中に均一に溶解し拡散するようにしたことを特徴とする植物用発泡製剤。
【請求項2】
農薬活性成分、肥料成分、界面活性剤から選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求の範囲第1項記載の植物用発泡製剤。」

「【請求項1】
少なくとも炭酸塩および/または炭酸水素塩、および水溶性固体酸、水中での溶解拡散性が悪い酵母菌抽出物および/またはメチオニン、および窒素質肥料を含有する固体状組成物からなる植物用発泡肥料であって、
植物用発泡肥料全重量に対して、炭酸塩および/または炭酸水素塩および水溶性固体酸の合計含有量が5?99.999重量%、酵母菌抽出物の含有量が0.001?80重量%、メチオニンの含有量が0.01?80重量%、窒素質肥料の含有量が0.1?90重量%であって、炭酸塩および/または炭酸水素塩と水溶性固体酸の重量比が1:10?10:1とすることにより、酵母菌抽出物および/またはメチオニンが水中に均一に溶解し拡散するようにしたことを特徴とする植物用発泡肥料。
【請求項2】
農薬活性成分、窒素質肥料以外の肥料成分、界面活性剤から選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求の範囲第1項記載の植物用発泡肥料。」
とする補正を含むものである。

2.補正の目的の適否
上記補正は、補正前の請求項1、2に記載された発明である「植物用発泡製剤」を「植物用発泡肥料」に変更するものであるところ、補正後の「植物用発泡肥料」は、補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項である「植物用発泡製剤」を限定するものではない。
また、「植物用発泡製剤」の「植物用発泡肥料」への変更は、「製剤」の発明を「肥料」の発明に変更するものであるが、「製剤」の発明と「肥料」の発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるとはいえない。
したがって、上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、上記補正が、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
よって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願補正発明についての検討
本件補正は、上述したように、却下されるべきものであるが、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。また、本件補正後の明細書を、「本願補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないことについても、以下に示す。

(1)刊行物及び記載事項
この出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記刊行物A?Gには、次の事項が記載されている。

刊行物A:特開平7-10706号公報
(原査定の理由で引用した「引用例1」と同じ。)
刊行物B:特開平7-285817号公報
(原査定の理由で引用した「引用例3」と同じ。)
刊行物C:特開平6-305921号公報
(原査定の理由で引用した「引用例4」と同じ。)
刊行物D:特開平7-285816号公報
(原査定の理由で引用した「引用例5」と同じ。)
刊行物E:特開昭62-70285号公報
刊行物F:特開昭59-155311号公報
刊行物G:特開平3-271201号公報

ア.刊行物A

(A-1)「【請求項1】有害生物防除活性成分または植物生長調節成分である農薬活性成分、炭酸塩および固体酸を含有する発泡性農薬組成物を製造するに際して、予め炭酸塩および/または固体酸を乾燥させる前処理を行うことにより、製造される発泡性農薬組成物中の水分含量が発泡性農薬組成物全量に対して0.2重量%以下となるようにすることを特徴とする農薬組成物の製造法。」(特許請求の範囲)

(A-2)「即ち、本発明は、有害生物防除活性成分または植物生長調節成分である農薬活性成分、炭酸塩および固体酸を含有する発泡性農薬組成物を製造するに際して、予め炭酸塩および/または固体酸を乾燥させる前処理を行うことにより、製造される発泡性農薬組成物中の水分含量が発泡性農薬組成物全量に対して0.2重量%以下となるようにする農薬組成物の製造法を提供するものであって、このようにして得られる農薬組成物は品質が一定しており、施用時における発泡、拡散性がよい。」(段落【0002】)

(A-3)「本発明において、製造される発泡性農薬組成物中の水分含量が発泡性農薬組成物全量に対して0.2重量%以下となるようにするために、炭酸塩、固体酸以外の発泡性農薬組成物の構成要素である農薬活性成分、さらに必要により適宜添加されることのある界面活性剤、製剤用担体等の製剤用補助剤についても必要により予め乾燥処理を行うことができる。」(段落【0003】)

(A-4)「【実施例】次に、本発明を製造例、比較製造例およひ試験例を挙げて説明するが、本発明は以下の例のみに限定されるものではない。尚、以下の例において部は重量部を表す。
製造例
ブロモブチド(除草活性を有する化合物)20部とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:カープレックス=1:1の噴霧乾燥品〔ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液にカープレックスCS-7(塩野義製薬製湿式法シリカの焼成品)を分散後、スプレードライヤーで噴霧乾燥して粉末としたもの〕2部とをケミカルミキサー(国産遠心器製)を用いて良く混合した後、ジェットマイザーで粉砕した。得られた粉砕品、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:カープレックス=1:1の噴霧乾燥品、アビセルPH-101(旭化成工業製微結晶セルロース)、タルク、炭酸ナトリウム、マレイン酸およびカオリンクレーを各々、別のステンレストレー上に広げ、これを110℃に加熱した減圧乾燥器中で2時間乾燥した後、相対湿度約35%の室内で室温まで放冷した。次いで、相対湿度約35%の室内で、上記で乾燥して得たブロモブチド含有粉砕品22部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:カープレックス=1:1の噴霧乾燥品5部、アビセルPH-101 5部、タルク3部、炭酸ナトリウム30部、マレイン酸30部およびカオリンクレー5部をミキサーに入れて混合し、得られた混合物50gを打錠して錠剤を得た。」(段落【0005】)

(A-5)「本発明の農薬組成物の製造法は、保存安定性に優れた発泡性農薬組成物を確実に製造することのできるものである。」(段落【0008】)

イ.刊行物B

(B-1)「【請求項1】 純水もしくは電解質溶液をアノード電解後、酵母菌の抽出液を添加して製造される植物用特殊活性水に、メチオニンを混用することを特徴とする植物用特殊活性水の使用方法。」(特許請求の範囲)

(B-2)「本発明は、植物用特殊活性水の使用方法に関するものであり、さらに詳しくは特定の植物用特殊活性水に、天然のアミノ酸の一種であるメチオニンを混用することによって、植物ホルモンであるエチレン発生を促し、成長の促進と抑制、側枝の伸長促進、側根の発根促進、開花の促進と抑制、呼吸作用の促進、タンパク質合成の促進、耐病性の増大、果実の成熟促進等の向上を促すことができる植物用特殊活性水の使用方法に関するものである。」(段落【0001】)

ウ.刊行物C

(C-1)「【請求項1】 不飽和脂肪酸とそのエステル化合物、およびその重合物、不飽和脂肪酸を含む微生物抽出液または植物抽出液、有機質肥料、有害物質を除いた活性汚泥、ビタミン、ユビキノンからなる群から選択される少なくとも一種と、^(3)O_(2) の一電子還元種であるスーパーオキシド(O_(2)^(-))、励起状態の酸素分子である励起三重項酸素(^(3)O_(2)^(*))、一重項酸素(^(1)O_(2))、ヒドロキシラジカル(・OH)、オゾン(O_(3))、金属オキソ種を含む金属-酸素錯体、過酸化水素(H_(2)O_(2))、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、ペルオキシラジカル(LOO・)、アルコキシラジカル(LO・)、ヒドロペルオキシド(LOOH)から選択される少なくとも一種の活性酸素群との反応で生成した、過酸化物を含む植物生育調節剤。」(特許請求の範囲)

(C-2)「本発明の不飽和脂肪酸を含む微生物抽出液または植物抽出液とは、微生物または植物の酸、アルカリ、アルコールあるいはエーテルなどによる抽出液であり、例えばイーストエキスなどを例示することができる。」(段落【0016】)

(C-3)「本発明の有機質肥料とは、堆肥(わら堆肥、バーク堆肥など)、牛糞尿、鶏糞、緑肥などの通常用いられているものでよく、特に限定されるものではない。」(段落【0017】)

(C-4)「(実施例1)
(…中略…)
ろ液はエバポレーターにて60℃減圧乾固し、その粉末 Yeast extract(成分組成を表2に示す)とした。
(…中略…)
前記の酸性水500mlに上記 Yeast extractを5g加え、超音波破砕機(島津製作所製 USP-300,300W/20KHz )を使用して15分間超音波を与え本発明の植物生育調節剤AR1を作った。
(…中略…)
(実施例3)過酸化水素(H_(2)O_(2))濃度1.0×10^(-4)%の水溶液500mlに、亜塩素酸ナトリウム0.5mg、塩素酸カリウム0.3mg、実施例1で用いた Yeastextract5gを溶解し、紫外線(260nm)を40分間照射し、本発明の植物生育調節剤AR3を作った。」(段落【0027】?【0031】)

エ.刊行物D

(D-1)「【請求項1】 純水または電解質溶液を電気分解して得られる活性酸素種を含む電解水を主成分とすることを特徴とする植物生育調節剤。
【請求項2】 電気分解に3槽式電解槽を使用することを特徴とする請求項1記載の植物生育調節剤。
【請求項3】 電解水に酵母エキスを添加することを特徴とする請求項1記載の植物生育調節剤。」(特許請求の範囲)

(D-2)「(実施例1)
(…中略…)
ろ液はスプレードライし、表2に示す成分組成を有する酵母エキス粉末を得た。
【表2】(略)
○3(審決注:○の中に数字を意味する。以下、同じ。) 上記○1で得られた酸性水500ml に上記○2で得られた酵母エキスを5g加え溶解し、さらに孔径0.20μmのメンブランフィルターにて滅菌濾過し、AR2を作った。」(段落【0016】?【0018】)

オ.刊行物E

(E-1)「○1 次の三成分(イ)、(ロ)及び(ハ)
(イ)窒素、りん酸、又はカリの一種以上を含む固体の肥料
(ロ)重炭酸ソーダ、又は重炭酸カリウム、又は過炭酸ソーダ、又は過ほ う酸ソーダからなる群から選ばれた化合物
(ハ)固体の有機酸、又は固体の無機酸
を必須要素とする配合物を、加圧成型機により圧縮粒状化することを特徴とする、溶解性の改良された粒状肥料の製造方法

○2 (ロ)の合計重量と(ハ)の合計重量とが(ロ):(ハ)=1:0. 5?5.0である特許請求範囲第○1項記載の肥料の製造方法

○3 水溶性糖類及び界面活性剤を追加配合する特許請求範囲第○1項、第 ○2項に記載の肥料の製造方法

○4 配合物の粒子径が20?400μである特許請求範囲第○1項から第 ○3項に記載の肥料の製造方法

○5 配合物中の水分を1%以下にする特許請求範囲第○1項から第○4項 に記載の肥料の製造方法」(特許請求の範囲)

(E-2)「本発明は固体の肥料と重炭酸塩、過炭酸塩、過ほう酸塩等の発泡性物質と発泡化促進剤となる固体酸の三成分より成る粒状肥料の製造方法にあり、その目的とするところは水中で発泡しながら微粉化した肥料成分を泡の表面に付着させ、水と接着する表面積を増大させて、溶解速度及び拡散速度を増すことによって、短時間に完全に、しかも均一に肥料成分を水中に溶解、拡散させて、それを発泡によって目で確認できることを特徴とする肥料の製造方法に関する。」(第1頁左下欄下から2行?右下欄第4行)

(E-3)「また、配合物中の水分含量はできる限り低い方が製品の保存安定性が良く、1重量パーセント以下が好ましい。」(第2頁左上欄第14?15行)

(E-4)「◇実施例1◇
粒径80?200μに調整した粉状化成肥料(N=14%、P_(2)O_(5)=14% K_(2)O=14%)に下記の通りの配合物を均一に混合し、打錠機を用いて加圧成型し、径8mmφ、高さ5mm、一粒重0.40gの錠剤を得た。

化成肥料(14-14-14) 11.0パーセント
重炭酸ソーダ 15.0 〃
シュークロース 53.4 〃
コハク酸 20.0 〃
食添青色1号 0.1 〃
界面活性剤 0.5 〃

この様にして得た溶解性の改良された粒状肥料1粒を200m1のコニカルビーカー内の150m1の水中に投入した。肥料が発泡、崩壊、分散して完全に溶解する迄の時間は1分54秒、その時の溶液のPHは5.3であった。
ビーカー内の溶液を3分間静置した後、ビーカー中央部の水深0.5cmと3.5cmの部位より溶液を採取し、ケルダール法により窒素の含量を求めた結果、両水深部の窒素含量に差はなく、均一に溶解、拡散していることが判明した。

◇実施例2,3,4;比較例1,2◇
配合物及びその配合割合を表-1のごとく変えて、実施例1と同様にして種々の肥料を作り、評価した結果を表-2に示す。

」(第2頁右下欄第1行?第3頁左上欄最下行)

カ.刊行物F

(F-1)「(1)ジクロロイソシアヌル酸のナトリウムまたはカリウム塩と、炭酸水素ナトリウムまたはカリウム、及び固体の有機酸または無機酸より成る三成分を必須成分とする配合物を加圧ロールを用いて圧縮造粒する事を特徴とする発泡性顆粒状物の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)

(F-2)「本発明はジクロロイソシアヌル酸塩と重炭酸塩とその発泡化促進剤よりなる顆粒物にあり、その目的とするところは水中で発泡しながら上下動をくり返して単時間(審決注:「短時間」の誤記と認める。)に完全にしかも均一に有効塩素を溶出分散する特性の付与にある。すなわち、有姿は固形の塩素剤であるが使用に際しては液状の塩素剤と同等の溶解速度及び拡散性を有する塩素剤の商品化である。」(第1頁右欄第2?9行)

(F-3)「また配合物中の水分はできる限り低水分の方が製品の保存安定性が良く、好ましくは配合物中の水分含量は1重量%以下が好ましい。」(第2頁右下欄第14?16行)

(F-4)「実施例1
粒径を50?150μに調製したジクロロイソシアヌル酸ナトリウム35重量%、炭酸水素ナトリウム32.9重量%、酒石酸32重量%、ステアリン酸カルシウム0.1重量%を均一に混合し調製したものを、加圧ロール式造粒機(ターボ工業社製)を用いて薄板状成型物を得、これをブレーカーにより粉砕したる後に、8メッシュ(2400μ)パス、48(300μ)ストツプに分級し、造粒物を得た。
(…中略…)
この様にして得た顆粒物を以下の様にして溶解速度、及び拡散性を評価した。結果を表-1に示す。
(溶解速度の評価法)
500mlのメスシリンダーに、水温25℃の純水を500ml入れ、水面に顆粒0.3gを静かに落とす。顆粒が発泡、分散、溶解して完全に見えなくなる迄の時間を計る。
(拡散性の評価法)
500mlのメスシリンダーに、水温25℃の純水を500ml入れ、水面に顆粒0.3gを静かに落とし、10分間経過後水深10cmの高さの位置からメスピペットにより採水し、水中の有効塩素濃度をヨードメトリー法により滴定し求めた。5回測定し、その最小値と最大値を示す。

実施例2?5及び比較例1?2
配合物、組成を変えた以外は実施例1と同様にして、顆粒物を作り、評価した。結果を表-1に示す。

」(第3頁右下欄第6行?第4頁右上欄最下行)

キ.刊行物G

(G-1)「(1)植物生長調節活性成分、界面活性剤、炭酸塩および水溶性固体酸を含有し、その炭酸塩および水溶性固体酸の合計重量が全重量に対して20?85%であり、かつ、炭酸塩と水溶性固体酸との重量比が1:5?5:1の範囲である水田用植物生長調節剤」(特許請求の範囲)

(G-2)「この方法は水を使用しないので、製造過程で炭酸ガスの発生がなく、顆粒剤を水田に施用した時充分な発泡が見られる。」(第4頁左上欄第3?5行)

(G-3)「本発明植物生長調節剤は湛水下水田に施用される。本発明植物生長調節剤の施用量は各有効成分の種類に依存し、特に制限されるものではないが通常10アール当り約50?2000g、好ましくは約500?1000gの範囲である。
本発明植物生長調節剤は、なんら特殊な器具を使用することなく容易に施用することができる。例えば、施用者が水田に入り、均一にあるいは水田の1ヵ所以上の地点に本発明植物生長調節剤を施用したり、水田に入ることなく畦の辺や水田の水口に施用したり、畦から投入することにより有効成分を水田全体にいきわたせることができる。また、ヘリコプター、飛行機、ラジコンの飛行機等を用いて本発明植物生長調節剤を空中から散布することもできる。
本発明植物生長調節剤は、溢水下水田に施用した時炭酸ガスを発生して移動し、植物生長調節活性成分が水田中、速やかにかつ均一に拡散するので水田の作物に対して充分な植物生長調節効果を発揮し、また薬害も少ない優れた水田用植物生長調節剤である。また、本発明植物生長調節剤は従来の施用量(例えば粒剤の場合、10アール当たり3000?4000g)に比べて施用量を大幅に低減化できるため、製品の製造、輸送、保管および省力散布の面からも利用価値の高いものである。」(第4頁左上欄最下行?左下欄第8行)

(2)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、「有害生物防除活性成分または植物生長調節成分である農薬活性成分、炭酸塩および固体酸を含有する発泡性農薬組成物」が記載されているところ(摘記(A-1))、該組成物として具体的には、組成物全重量100部中に、炭酸塩である炭酸ナトリウムを30部、固体酸であるマレイン酸を30部、すなわち、炭酸塩を30重量%、固体酸を30重量%含有する錠剤が記載されている(摘記(A-4))。
そうすると、刊行物Aには、
「植物生長調節成分である農薬活性成分、炭酸塩30重量%および固体酸30重量%を含有する発泡性農薬組成物からなる錠剤」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)本願補正発明と引用発明の対比
本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「炭酸塩」は、本願補正発明の「炭酸塩および/または炭酸水素塩」に相当する。
また、引用発明の「固体酸」として、マレイン酸が開示されているところ(摘記(A-4))、マレイン酸は、本願補正明細書の段落【0011】に「水溶性固体酸」として例示されていることからも明らかなように、「水溶性固体酸」であるから、引用発明の「固体酸」は、本願補正発明の「水溶性固体酸」に相当する。
そして、引用発明において、炭酸塩と固体酸の合計含有量は、30+30=60重量%であるから、当該含有量は、本願補正発明の「炭酸塩および/または炭酸水素塩および水溶性固体酸の合計含有量が5?99.999重量%」の範囲内である。
また、引用発明において、炭酸塩と固体酸の重量比は、30:30=1:1であるから、当該重量比は、本願補正発明の、「炭酸塩および/または炭酸水素塩と水溶性固体酸の重量比が1:10?10:1」の範囲内である。
さらに、本願補正発明の「酵母菌抽出物および/またはメチオニン」は、本願補正明細書の段落【0002】に、「植物ホルモンのエチレンを効率的に発生させる」、「ファイトアレキシンの発生を促し、稲いもち病の発病を抑える」と記載されていることからみて、「植物生長調節成分」といえるから、本願補正発明と引用発明は、「植物生長調節成分」を含有するものである点で一致する。
さらに、引用発明の組成物は、錠剤、すなわち「固体状」であるから、本願補正発明の「固体状組成物」に相当する。
そして、引用発明の「発泡性農薬組成物」は、有効成分が「植物生長調節成分」であるから「植物用」であり、本願補正発明の「植物用発泡肥料」とは、「植物用発泡組成物」である点で一致する。
以上によれば、本願補正発明と引用発明は、
「少なくとも炭酸塩および/または炭酸水素塩、および水溶性固体酸、植物生長調節成分を含有する固体状組成物からなる植物用発泡組成物であって、
植物用発泡組成物全重量に対して、炭酸塩および/または炭酸水素塩および水溶性固体酸の合計含有量が60重量%、炭酸塩および/または炭酸水素塩と水溶性固体酸の重量比が1:1である植物用発泡組成物」
の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点1」?「相違点4」という。)。

(i)相違点1
植物生長調節成分が、本願補正発明は、「水中での溶解拡散性が悪い酵母菌抽出物および/またはメチオニン」であるのに対し、引用発明はそのようなものではない点

(ii)相違点2
本願補正発明は、さらに、「窒素質肥料」を含有する「植物用発泡肥料」であるのに対して、引用発明は、「窒素質肥料」を含有しない「発泡性農薬組成物からなる錠剤」である点

(iii)相違点3
各成分の配合量が、本願補正発明は、「酵母菌抽出物の含有量が0.001?80重量%、メチオニンの含有量が0.01?80重量%、窒素質肥料の含有量が0.1?90重量%」であるのに対して、引用発明は、そのようなものではない点

(iv)相違点4
本願補正発明は、「酵母菌抽出物および/またはメチオニンが水中に均一に溶解し拡散するようにした」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものではない点

(4)相違点1についての判断
本願補正発明における「酵母菌抽出物および/またはメチオニン」は、「水中での溶解拡散性が悪い」と特定されてはいるものの、本願補正明細書の段落【0003】や【0013】の記載からみて、酵母菌抽出物とは、特別な酵母菌抽出物ではなく、市販の微生物培養用酵母エキスや食品添加物用の酵母エキス、粉末の酵母エキスをいうものと認められる。
同様に、メチオニンも、本願補正明細書の段落【0004】の記載からみて、特別なメチオニンではなく、通常用いられるメチオニンをいうものと認められる。
そうすると、本願補正発明における「水中での溶解拡散性が悪い酵母菌抽出物および/またはメチオニン」とは、通常の「酵母菌抽出物および/またはメチオニン」のことであると認められる。

ところで、刊行物Bには、「酵母菌の抽出液」と「メチオニン」を含有する「植物用特殊活性水」が記載されているところ(摘記(B-1))、「植物用特殊活性水」とは、摘記(B-2)の記載からみて、植物の生長を調節するものであるから、刊行物Bには、酵母菌抽出物とメチオニンが「植物生長調節成分」として有用であることが記載されているといえる。
同様に、刊行物Cには、「微生物抽出液」を含む「植物生育調節剤」が記載され(摘記(C-1))、該「微生物抽出液」として、「粉末 Yeast extract」、すなわち、「酵母菌抽出物」が記載されているから(摘記(C-2)、(C-4))、刊行物Cには、酵母菌抽出物が「植物生長調節成分」として有用であることが記載されているといえる。
さらに、刊行物Dには、「酵母エキス」、すなわち、「酵母菌抽出物」を添加した「植物生育調節剤」が記載されているから(摘記(D-1)、(D-2))、刊行物Dには、酵母菌抽出物が「植物生長調節成分」として有用であることが記載されているといえる。

そうすると、刊行物B?Dには、酵母菌抽出物やメチオニンが、「植物生長調節成分」として有用であることが記載されているところ、引用発明における「植物生長調節成分」について、刊行物Aには、特定の成分に限定される旨の記載がされているものではなく、広く一般のものが使用できるものと解されるから、引用発明における「植物生長調節成分」として、酵母菌抽出物やメチオニン、すなわち、「水中での溶解拡散性が悪い酵母菌抽出物および/またはメチオニン」を配合することは、当業者が容易に行うことである。

(5)相違点2についての判断
刊行物Cには、上記(4)でも述べたとおり、酵母菌抽出物が植物生長調節成分として有用であることが記載されているが、配合成分としては、さらに、「有機質肥料」を含んでいてもよく(摘記(C-1))、該「有機質肥料」は、「通常用いられているものでよく、特に限定されるものではない」(摘記(C-3))と記載されている。
そうすると、刊行物Cには、酵母菌抽出物を植物生長調節成分として使用するにあたり、通常用いられる有機質肥料を併用してもよいことが記載されているといえる。
そして、通常用いられる肥料として、「窒素質肥料」は代表的なものの一つであるから、引用発明において、植物生長調節成分として酵母菌抽出物を配合するにあたり、さらに「窒素質肥料」を配合し「植物用発泡肥料」とすることは、当業者が容易に行うことである。

(6)相違点3についての判断
引用発明において、酵母菌抽出物、メチオニン、窒素質肥料を配合するにあたり、各成分を配合する目的である、植物生長調節効果、肥効を発現するために必要十分な量で配合することは、当業者が通常行うことである。
また、これらの配合量を多くしすぎると、相対的に炭酸塩、固体酸の配合量が減少するから、発泡による効果が低減し好ましくないことも当業者に自明である。
しかも、引用発明の具体例における活性成分の配合量は、20重量%であって(摘記(A-4))、本願補正発明の範囲に含まれるものであるし、さらに、本願補正発明の範囲が相当広いことも考慮すれば、「酵母菌抽出物の含有量が0.001?80重量%、メチオニンの含有量が0.01?80重量%、窒素質肥料の含有量が0.1?90重量%」程度とすることは、当業者が容易に行うことである。

(7)相違点4についての判断
刊行物Aには、引用発明の発泡性農薬組成物は、発泡、拡散性がよいと記載されている(摘記(A-2))。
そして、「炭酸塩および/または炭酸水素塩と固体酸を含む発泡製剤」が、「有効成分を水中に均一に溶解し拡散するようにした」製剤であることは、当業者に広く知られた事項であるから(例えば、刊行物Eには、同発泡製剤が、短時間に完全に、しかも均一に成分を水中に溶解、拡散させると記載され(摘記(E-2))、刊行物Fには、同発泡製剤が、「短時間に完全に、しかも均一に」有効成分を溶出分散すると記載されている(摘記(F-2)))、引用発明の発泡性組成物も「有効成分を水中に均一に溶解し拡散するようにした」製剤であるといえる。
そうすると、引用発明において、有効成分として、「酵母菌抽出物および/またはメチオニン」を配合したものは、「酵母菌抽出物および/またはメチオニンが水中に均一に溶解し拡散するようにした」ものとなるといえる。

(8)効果について
本願補正明細書の段落【0051】には、本願補正発明の効果について、「酵母エキスおよび/またはメチオニンなどを含有する本発明の植物用発泡肥料は、圃場に施用して容易に溶解、拡散でき、水に溶解した場合などに比べて雑菌などの混入により腐敗や変質しにくく保存安定性がよく、しかも取り扱いが便利であり、また、湛水条件下の水田においては直接投込み施用することができ、作業時間の短縮、省力化が可能となる。」と記載され、また、段落【0035】?【0047】記載の実施例等によれば、従来公知の顆粒剤、錠剤よりも、有効成分が短時間で溶解、拡散し、固形物が残らないことが確認されている。

そこでこれらの効果について検討すると、刊行物Aには、引用発明は、発泡、拡散性がよいこと(摘記(A-2))、保存安定性に優れていること(摘記(A-5))が記載されている。
また、上記(7)でも述べたように、「炭酸塩および/または炭酸水素塩と固体酸を含む発泡製剤」は、有効成分を「水中に均一に溶解し拡散するようにした」製剤であって、従来公知の顆粒剤、錠剤よりも有効成分が短時間で溶解、拡散することも当業者の技術常識である(例えば、摘記(E-4)の表-2、摘記(F-4)の表-1参照。)。
さらに、「炭酸塩および/または炭酸水素塩と固体酸を含む発泡製剤」が、湛水条件下の水田においては直接投込み施用することができ、作業時間の短縮、省力化が可能となることも当業者の技術常識である(例えば、摘記(G-1)、(G-3)参照。)。
したがって、本願補正発明の効果は、刊行物A?Dの記載、及び、当業者の技術常識から予測できる程度のものである。

(9)審判請求人の主張
審判請求人は、平成19年12月25日に補正された審判請求書の請求の理由において、以下の主張をしている。

ア.「農作物などの植物の成長や収量アップには、窒素、リン酸、カリなどを含む多くの肥料成分がある中で、窒素質肥料が段違いに施用効果があるので、本発明者はその点に着目して窒素質肥料との混用を行いました。
さらに、本発明者は窒素質肥料と混用した酵母菌抽出物やメチオニンは、施用後、最終的には分解して、無機の窒素となり、肥料成分として作用するので、施用効果がさらに向上することに着目しました。」(請求の理由の(1))

イ.「引用例1(審決注:「刊行物A」に相当。)の実施例では、農薬活性成分としてブロモチド(除草活性を有する化合物)が使用されています。
引用例1には、肥料としての使用については記載が全くなく、それを示唆するものもなく、農薬活性成分などとともに窒素質肥料などの肥料成分を使用することは記載が全くなく、それを示唆するものもありません。
ブロモチドなどを使用して除草効果を得ようとする際に、肥料成分を使用することはないと考えられます。
(…中略…)
引用例3?5(審決注:「刊行物B?D」に相当。)の酵母菌抽出物やメチオニンあるいはそれらを含む植物用特殊活性水や植物生育調節剤は液状で施用されており、固体状で施用したり錠剤で施用することについては記載がなく、それを示唆するものもありません。
(…中略…)
以上のように本願発明と引用例1、3?5とは、発明の目的が異なり、それにより発明の構成が異なるとともに、発明の作用・効果が異なりますので、引用例1、3?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうるものでないと思量します。」(請求の理由の(2-6))

また、審判請求人は、平成22年5月21日の回答書において、以下の主張をしている。

ウ.「本願発明の植物用発泡製剤が、常温の水中に投入するだけで30分という短時間で水に馴染み難く水に溶解し難い酵母抽出物やメチオンニンが溶解、拡散し、固形物が残らない結果が得られる理由は次のように考えられます。
実施例1?4で得られた本願発明の植物用発泡製剤は、水中に投入されると、炭酸ガスを発生しますが、炭酸ガスが発生している間は、水のpHは未だ均一な中性状態ではなく、酸性側に偏った部分や、アルカリ性側に偏った部分が多く発生し混在する状態が形成されます。そして、このような状態になると、pH7の均一な中性状態では水に馴染み難く水に溶解し難い酵母菌抽出物およびメチオニンが水に馴染みやすくなり溶解性が向上し、その結果、30分という短時間で酵母抽出物やメチオンニンが溶解し、拡散したものと考えられます。」(回答書の(3-1))

エ.「引用例1および引用例2に記載の農薬活性成分は、引用例2に(前記した従来の発泡性農薬製剤は、水田に施用した場合、農薬活性成分の水中拡散性が不十分であるため、活性成分が本来有する効果を発揮できなかった・・・)と記載されているように水中拡散が難しいため、引用例1の実施例では、農薬活性成分、炭酸塩および固体酸を含有する他に、分散剤と考えられるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用し、引用例2では炭酸塩、水溶性固体酸の他に農薬活性成分の水中拡散性を向上させるための沸点が150℃以上の高沸点溶剤を必須成分として使用しています。
(…中略…)
引用例1および引用例2には、炭酸塩および/または炭酸水素塩、および水溶性固体酸以外の成分を使用せずに、水中拡散が難しい農薬活性成分を、炭酸塩および/または炭酸水素塩、および水溶性固体酸の作用効果のみで水中に良好に拡散させるという技術思想はなく、そのような記載も、それを示唆するものもありません。」(回答書の(3-7))

オ.「次に、引用例3?5を引用例1および引用例2と組み合わせた場合にどうなるかを考えて見ます。
引用例3?5においては、水に溶解した酵母菌などや、水に溶解したメチオニンを使用します。水に溶解した酵母菌などや、水に溶解したメチオニンを、農薬活性成分、炭酸塩および固体酸に配合し混合すると、ただちに炭酸塩および固体酸が水に溶解して反応してしまい、発泡が開始してしまいます。これでは、製品を製造することはできません。
従って、引用例3?5を引用例1および引用例2と組み合わせてみても、本願発明の植物用発泡製剤を想到できないと思量します。」(回答書の(3-7))

そこで、上記主張について検討する。

ア.審判請求人は、多くの肥料成分の中でも窒素質肥料が段違いに施用効果があること、酵母菌抽出物やメチオニンは、分解して無機の窒素となり、肥料成分として作用することを主張しているが、これらの効果は、本願補正明細書に記載されていない。
本願補正明細書の段落【0035】?【0047】には、窒素質肥料である尿素を含む製剤の例が記載されてはいるものの、その他の肥料成分よりも窒素質肥料が段違いに施用効果があることについては記載されていない。
また、本願補正明細書の段落【0048】?【0050】には、メチオニンと尿素を併用した錠剤Dが水稲の収量を増加させることについて記載されているが、当該効果が、メチオニンが分解して無機の窒素となり肥料成分として作用することに基づくものであることは記載されていない。
むしろ、上記(4)でも述べたように、刊行物B?Dには、酵母菌抽出物やメチオニンが植物生長調節成分として有用であることが記載されているから、植物生長調節成分として作用した結果、水稲の収量が増加することは、当業者が予測し得る効果である。
そして、上記植物生長調節成分としての作用が、施用後分解して、無機の窒素となり肥料成分となることに基づくものであったとしても、植物生長調節成分として有用であることが知られている以上、本願補正発明の効果は、当業者が予測し得る程度のものであるというべきである。

イ.刊行物Aに記載された具体例が除草剤のみであったとしても、上記(4)でも述べたように、刊行物Aには、有効成分が、特定の成分に限定される旨の記載がされているものではなく、広く一般のものが使用できるものと解されるから、引用発明における「植物生長調節成分」として、刊行物B?Dに記載された酵母菌抽出物やメチオニンを配合することは、当業者が容易に行うことである。
そして、その際、さらに「窒素質肥料」を配合することが、当業者の容易に行うことであることは、上記(5)で述べたとおりである。
また、刊行物B?Dに、酵母菌抽出物やメチオニンを固体状や錠剤で施用することについて記載されていなかったとしても、施用にあたり好ましい剤型を検討することは、当業者が通常行うことであり、引用発明の剤型の有効成分として、酵母菌抽出物やメチオニンを用いることを妨げる格別の事情も見出せない。
したがって、上記(4)でも述べたとおり、引用発明における「植物生長調節成分」として、刊行物B?Dに記載された「水中での溶解拡散性が悪い酵母菌抽出物および/またはメチオニン」を配合することは、当業者が容易に行うことである。

ウ.審判請求人は、本願補正発明が、短時間で溶解拡散し、固形物が残らないという効果を奏する理由について、炭酸ガスが発生している間、酸性側やアルカリ性側に偏った部分が混在するため、中性では溶解し難い有効成分の溶解性が向上することによるものと主張するが、上記理由については、本願補正明細書に記載されていないから、本願補正発明の効果について検討するにあたり参酌することができるものではない。
そして、本願補正明細書には、上記理由については記載されていないものの、本願補正発明が短時間で溶解拡散し固形物が残らないという効果を奏することについては記載されているが、当該効果が当業者の予測できる程度のものであることは、上記(8)で述べたとおりである。

エ.審判請求人の主張するように、刊行物A記載の実施例は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用するものであるが(摘記(A-4))、刊行物A記載の発泡性農薬組成物の必須成分は、活性成分、炭酸塩、固体酸のみであり(摘記(A-1))、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、すなわち、界面活性剤は、「必要により適宜添加されることのある」成分にすぎない(摘記(A-3))。
そうすると、刊行物Aには、活性成分、炭酸塩、固体酸のみからなる発泡性農薬組成物が記載されているということができる。

オ.「炭酸塩および/または炭酸水素塩、固体酸を含む発泡製剤」の分野において、水分が存在すると安定性に欠けること、そのため配合物中の水分量を低減させる必要があることは、周知の事項である(摘記(A-2)、(E-1)の特許請求の範囲第5項、(E-3)、(F-3)、(G-2)参照。)。
そうすると、有効成分として酵母菌抽出物やメチオニンを配合するにあたり、水に溶解したものではなく、溶解する前の粉末等の形態で配合することは、当業者であれば当然行うことである。

以上のとおりであるから、審判請求人の主張はいずれも採用することができない。

(10)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

第3 本願発明
平成19年11月16日付け手続補正(本件補正)は上記のとおり却下されたから、この出願の発明は、平成19年7月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「少なくとも炭酸塩および/または炭酸水素塩、および水溶性固体酸、水中での溶解拡散性が悪い酵母菌抽出物および/またはメチオニンを含有する固体状組成物からなる植物用発泡製剤であって、
植物用発泡製剤全重量に対して、炭酸塩および/または炭酸水素塩および水溶性固体酸の合計含有量が5?99.999重量%、酵母菌抽出物の含有量が0.001?80重量%、メチオニンの含有量が0.01?80重量%であって、炭酸塩および/または炭酸水素塩と水溶性固体酸の重量比が1:10?10:1とすることにより、酵母菌抽出物および/またはメチオニンが水中に均一に溶解し拡散するようにしたことを特徴とする植物用発泡製剤。」

第4 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成19年 5月16日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、その「理由」は、「この出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであるところ、「下記の刊行物」とは、次の刊行物を含むものである。

刊行物A:特開平7-10706号公報
(原査定の理由で引用した「引用例1」と同じ。)
刊行物B:特開平7-285817号公報
(原査定の理由で引用した「引用例3」と同じ。)
刊行物C:特開平6-305921号公報
(原査定の理由で引用した「引用例4」と同じ。)
刊行物D:特開平7-285816号公報
(原査定の理由で引用した「引用例5」と同じ。)

第5 当審の判断
本願発明は、原査定の理由のとおり、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である刊行物A?Dに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
その理由は、以下のとおりである。

1.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「発泡性農薬組成物からなる錠剤」は、「発泡性」の「製剤」であり、有効成分が「植物生長調節成分」であるから「植物用」であり、よって、本願発明の「植物用発泡製剤」に相当する。
そして、その他の点については、上記第2 3.(3)と同様のことがいえるから、本願発明と引用発明は、
「少なくとも炭酸塩および/または炭酸水素塩、および水溶性固体酸、植物生長調節成分を含有する固体状組成物からなる植物用発泡製剤であって、
植物用発泡製剤全重量に対して、炭酸塩および/または炭酸水素塩および水溶性固体酸の合計含有量が60重量%、炭酸塩および/または炭酸水素塩と水溶性固体酸の重量比が1:1である植物用発泡製剤」
の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点1’」?「相違点3’」という。)。

(i)相違点1’
植物生長調節成分が、本願発明は、「水中での溶解拡散性が悪い酵母菌抽出物および/またはメチオニン」であるのに対し、引用発明はそのようなものではない点

(ii)相違点2’
各成分の配合量が、本願発明は、「酵母菌抽出物の含有量が0.001?80重量%、メチオニンの含有量が0.01?80重量%」であるのに対して、引用発明は、そのようなものではない点

(iii)相違点3’
本願発明は、「酵母菌抽出物および/またはメチオニンが水中に均一に溶解し拡散するようにした」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものではない点

2.判断
上記相違点1’?3’については、それぞれ相違点1、3、4と同様のことがいえるから、上記第2 3.(4)、(6)?(8)で述べたとおり、いずれも当業者が容易に行うことであり、また、本願発明の効果は、刊行物A?Dの記載及び当業者の技術常識から予測できる程度のものである。

3.まとめ
したがって、本願発明は、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-08 
結審通知日 2010-07-13 
審決日 2010-07-26 
出願番号 特願平9-539739
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A01N)
P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 木村 敏康
井上 千弥子
発明の名称 植物用発泡肥料  
代理人 秋元 輝雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ