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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04D
管理番号 1224494
審判番号 不服2008-11338  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-02 
確定日 2010-09-29 
事件の表示 特願2005- 58935「散熱ファンおよびそのハウジング構造」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 9日出願公開、特開2006- 63968〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年3月3日(パリ条約の例による優先権主張2004年8月27日、台湾)の出願であって、平成20年1月28日付けで拒絶査定がなされ、同年5月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年5月2日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理 由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「拡大部を有するハウジングと、
ハブと前記ハブの周りに設置された複数の回転翼を有し、前記ハブの上端周縁部分に斜面、または弧面を有し、且つ、前記ハブは更に軸向き部分を有し、前記回転翼の上端の内側の縁は、前記斜面、または弧面と前記軸向き部分の界面の位置に接続するインペラーと、
前記ハウジングの中に設置され、前記回転翼の上端縁は、散熱ファンの軸線と垂直な水平線に傾斜夾角を有し、前記回転翼の下端縁は、前記散熱ファンの軸線と垂直な水平線にもう一つの傾斜夾角を有する前記インペラーを支えるベースと、
前記ベースと前記拡大部の間に連接され、エアガイド部材の上端縁側、または下端縁側に位置するその中の一つの端縁と、前記散熱ファンの軸線に垂直な水平線に傾斜夾角を有し、前記傾斜夾角の範囲は、3°?45°の角度であるエアガイド部材とを含み、
前記インペラー、ベース、拡大部及びエアガイド部材は前記ハウジング内に設置され、
風出口の端に位置する前記拡大部を有し、
前記拡大部を有するハウジング、前記ベースと前記エアガイド部材は、一体射出成型で形成されていることを特徴とする散熱ファン。」と補正された。

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「散熱ファン」に関し、「風出口の端に位置する拡大部を有し、前記拡大部を有するハウジング、ベースとエアガイド部材は、一体射出成型で形成されている」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3083969号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、ファンの増圧構造に関するもので、特にファンの基体の厚さはファンの高さによって変えることができると共に、軸流ファンが駆動した気流は風排出口において比較的大きい風圧を有して輸出することができるファンの増圧構造に係るものである。」

・「【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本考案によるファンの増圧構造は、下記のようになるものである。すなわち、
ファンの増圧構造は、基体および底板により構成される。上記基体には通風孔が形成され、通風孔の一端は風進入口で、他端は風排出口に形成される。上記底板には基体の風排出口端に結合されるための複数個の結合部材が設けられ、底板には風排出口が形成され、風排出口にはステータ座と結合するための支持板が設けられ、ステータ座には駆動されて回転することができるファンが枢着され、支持板と底板の間には複数個の増圧片が設けられる。
【0012】
また、本考案のファンの増圧構造は、下記のように構成することもできる。
1.上記底板に設けられた結合部材にはフックが形成され、フックによって基体のリップ辺に鈎付けることができる。
2.上記基体のリップ辺には複数個の凹欠部が凹設され、複数個の凹欠部によって結合部材を収容することができる。
3.上記底板に形成された風排出口の壁はラッパ口の形状に形成される。
4.上記増圧片は片状且つ傾斜になるように設置される。
5.上記増圧片は軸流式で羽根の形状に形成されると共に、増圧片の傾斜方向はファンの羽根の傾斜方向とは反対方向になるように形成される。
6.上記基体と底板には他に相対応するための複数個の組立孔が穿設され、複数個の組立孔は定位部材が貫穿して結合するのに用いられる。
7.上記底板には延伸した脚が複数本延設され、複数本の脚によって放熱フィンを挟持することができると共に、複数本の脚にはそれぞれ組立孔が穿設される。
8.基体、ファンおよび底板により構成される。上記基体には通風孔が形成され、通風孔の一端は風進入口で、他端は風排出口に形成され、通風孔には複数本の桿が設けられ、複数本の桿によって支持板を支持することができ、支持板には軸管が設けられる。上記ファンはステータ座に枢着され、ステータ座に基体の軸管が結合され、ファンには複数個の羽根が形成される。上記底板には基体の風排出口端に結合されるための複数個の結合部材が設けられ、底板には風排出口が形成され、風排出口には中心部が設けられ、中心部と底板の間には複数個の増圧片が設けられる。
9.他に複数個の基体が包含され、さらに底板には複数個の基体の風排出口端に対応するための複数個の風排出口が形成される。
10.上記底板に設けられた結合部材にはフックが形成され、フックによって基体のリップ辺に鈎付くことができる。
11.上記基体のリップ辺には複数個の凹欠部が凹設され、複数個の凹欠部によって結合部材を収容することができる。
12.上記底板に形成された風排出口の壁はラッパ口の形状に形成される。
13.上記基体と底板には他に相対応するための複数個の組立孔が穿設され、複数個の組立孔は定位部材が貫穿して結合するのに用いられる。
14.上記底板には延伸した脚が複数本延設され、複数本の脚によって放熱フィンを挟持することができると共に、複数本の脚にはそれぞれ組立孔が穿設される。
15.上記増圧片は片状且つ傾斜になるように設置される。
16.上記増圧片は軸流式で羽根の形状に形成されると共に、増圧片の傾斜方向はファンの羽根の傾斜方向とは反対方向になるように形成される。」

・「【0016】
底板2は基体1の風排出口端に結合され、最良な実施例として底板2にはフックなどの結合部材21が設けられ、結合部材21によって基体1のリップ辺13に鈎付くことができるため、底板2と基体1を簡単に結合することができる。結合部材21が基体1の外へ突出することがないようにリップ辺13には凹欠部14が凹設され、このように結合部材21が凹欠部14に係止された時、結合部材21は基体1のリップ辺13とは平らになるように形成される。底板2そのものには基体1の通風孔11に対応した風排出口22が形成され、そして風排出口22の壁はラッパ口の形状に形成される。風排出口22には支持板23が設けられる。支持板23と底板2の間には複数個の増圧片24が設けられるため、支持板23は固定することができる。増圧片24は片状且つ傾斜になるように設置したり、または軸流式羽根の形状であったりすることができると共に、増圧片24の傾斜方向はファン3の羽根33の傾斜方向とは反対方向になるように形成される。支持板23には他に軸座25が設けられ、軸座25はファン3のステータ座31が結合するのに用いることができ、底板2には基体1の組立孔12と相対応するための組立孔26が穿設される。」

・「【0018】
図4,5は、本実施例によるファンの増圧構造の組立前の状態の正面の局部断面図と、組立後の状態の正面の断面図であり、ステータ座31を底板2の軸座25に結合して固定させ、さらにファン3の中心軸32をステータ座31に枢着させ、それから底板2を結合部材21によって基体1に係止させる。ファン3とステータ座31は底板2に直接に組立てられているため、組立の作業は比較的便利になる。さらに基体1はファン3の高さの需要に応じて適当な厚さを選択することができ、そして結合部材21によって直接に係止することができる。ファン3が回転する時、羽根33は気体が流動するように駆動することができ、気体を通風孔11の風進入口から吸入させ、そして気体を底板2の風排出口22から排出させることにより、さらに底板2には片状且つ傾斜設置の増圧片24が設けられることにより、通風孔11から吸入された気流は増圧片24によって風排出口22から排出される気流を増圧することができる。」

・図3には、基体1,ファン3、底板2等により散熱ファンを構成する点、及び、羽根33を取り付ける円筒状のハブの上端周縁部分に平らな円形状に図示される水平面及び円筒状に図示される軸向き部分を有している点、及び、羽根33の上端の内側の縁は前記軸向き部分の界面の位置に接続する羽根33が示されている。さらに、図5には、風出口の端に位置する拡大部を有する基体と、底板2及び支持板23でハブ及び羽根33を支持している点、ハブの周りに設置された複数の羽根33を有している点、及び、羽根33の下端縁側に位置する端縁とファン3の軸線に垂直な水平線との間で傾斜夾角を有した増圧片24が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「拡大部を有する基体1及び底板2と、
ハブと前記ハブの周りに設置された複数の羽根33を有し、前記ハブの上端周縁部分に水平面を有し、且つ、前記ハブは更に軸向き部分を有し、前記羽根33の上端の内側の縁は、前記水平面と前記軸向き部分の界面の位置に接続するハブ及び羽根33と、
前記基体1及び底板2の中に設置され、前記ハブ及び羽根33を支える支持板23と、
前記支持板23と前記拡大部の間に形成され、増圧片24の下端縁側に位置する端縁と、散熱ファンの軸線に垂直な水平線に傾斜夾角を有し(た)、増圧片24とを含み、
前記ハブ、羽根33、支持板23、拡大部、及び、増圧片24は前記基体1及び底板2内に設置され、
風出口の端に位置する前記拡大部を有し(た)
散熱ファン。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

本願補正発明において、「インペラー」及び「ハブ」がどのようなものであるのかが不明りょうであるが、平成22年3月16日付けの審判請求人からのFAXの第2頁に「インペラ=ハブ+回転翼」であり、また、「ハブは図7の垂直部分(221c)とこれに連なる傾斜部分と水平部分(斜線で表した部分)です」とあるので、これを前提として、以下の対比を行う。

(ア)後者の「基体1及び底板2」が前者の「ハウジング」に相当する。

(イ)後者の「羽根33」が前者の「回転翼」に相当し、同様に、
「ハブ及び羽根33」が「インペラー」に、それぞれ相当することから、
後者の「ハブと前記ハブの周りに設置された複数の羽根33を有し、前記ハブの上端周縁部分に水平面を有し、且つ、前記ハブは更に軸向き部分を有し、前記羽根33の上端の内側の縁は、前記水平面と前記軸向き部分の界面の位置に接続するハブ及び羽根33」と
前者の「ハブと前記ハブの周りに設置された複数の回転翼を有し、前記ハブの上端周縁部分に斜面、または弧面を有し、且つ、前記ハブは更に軸向き部分を有し、前記回転翼の上端の内側の縁は、前記斜面、または弧面と前記軸向き部分の界面の位置に接続するインペラー」とは、
「ハブと前記ハブの周りに設置された複数の回転翼を有し、前記ハブの上端周縁部分に面を有し、且つ、前記ハブは更に軸向き部分を有し、前記回転翼の上端の内側の縁は、前記面と前記軸向き部分の界面の位置に接続するインペラー」なる概念で共通する。

(ウ)後者の「支持板23」が前者の「ベース」に相当する。
したがって、後者の「基体1及び底板2の中に設置され、ハブ及び羽根33を支える支持板23」と
前者の「ハウジングの中に設置され、回転翼の上端縁は、散熱ファンの軸線と垂直な水平線に傾斜夾角を有し、前記回転翼の下端縁は、前記散熱ファンの軸線と垂直な水平線にもう一つの傾斜夾角を有するインペラーを支えるベース」とは、
「ハウジングの中に設置され、インペラーを支えるベース」なる概念で共通する。

(エ)前者の「エアガイド部材の上端縁側、または下端縁側に位置するその中の一つの端縁」なる択一的な記載は、実質的には「エアガイド部材の下端縁側に位置する端縁」を含むものといえるので、
後者の「形成」が前者の「連接」に相当し、同様に、
「増圧片24の下端縁側に位置する端縁」が「エアガイド部材の上端縁側、または下端縁側に位置するその中の一つの端縁」に、相当し、したがって、
後者の「支持板23と拡大部の間に形成され、増圧片24の下端縁側に位置する端縁と、散熱ファンの軸線に垂直な水平線に傾斜夾角を有し(た)、増圧片24」と
前者の「ベースと拡大部の間に連接され、エアガイド部材の上端縁側、または下端縁側に位置するその中の一つの端縁と、散熱ファンの軸線に垂直な水平線に傾斜夾角を有し、前記傾斜夾角の範囲は、3°?45°の角度であるエアガイド部材」とは、
「ベースと拡大部の間に連接され、エアガイド部材の上端縁側、または下端縁側に位置するその中の一つの端縁と、散熱ファンの軸線に垂直な水平線に傾斜夾角を有し(た)、エアガイド部材」なる概念で共通する。

(オ)後者の「ハブ、羽根33、支持板23、拡大部、及び、増圧片24」が前者の「インペラー、ベース、拡大部及びエアガイド部材」に相当する。

(カ)後者の「風出口の端に位置する拡大部を有し(た)」態様が、
前者の「風出口の端に位置する拡大部を有し」た態様に相当する。

したがって、両者は、
「拡大部を有するハウジングと、
ハブと前記ハブの周りに設置された複数の回転翼を有し、前記ハブの上端周縁部分に面を有し、且つ、前記ハブは更に軸向き部分を有し、前記回転翼の上端の内側の縁は、前記面と前記軸向き部分の界面の位置に接続するインペラーと、
前記ハウジングの中に設置され、前記インペラーを支えるベースと、
前記ベースと前記拡大部の間に連接され、エアガイド部材の上端縁側、または下端縁側に位置するその中の一つの端縁と、散熱ファンの軸線に垂直な水平線に傾斜夾角を有し(た)、エアガイド部材とを含み、
前記インペラー、ベース、拡大部及びエアガイド部材は前記ハウジング内に設置され、
風出口の端に位置する前記拡大部を有し(た)
散熱ファン。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
インペラーが接続される界面の位置に関し、本願補正発明ではハブの上端周縁部分に「斜面、または弧」面を有し、「前記斜面、または弧面と」軸向き部分の界面であるのに対し、引用発明ではそのような特定はなされていない点。

[相違点2]
本願補正発明では「回転翼の上端縁は、散熱ファンの軸線と垂直な水平線に傾斜夾角を有し」ていると共に「前記回転翼の下端縁は、前記散熱ファンの軸線と垂直な水平線にもう一つの傾斜夾角を有する」のに対し、引用発明ではそのような特定はなされていない点。

[相違点3]
エアガイド部材の構成に関し、本願補正発明では「傾斜夾角の範囲は、3°?45°の角度である」のに対し、引用発明ではそのような特定はなされていない点。

[相違点4]
本願補正発明では「拡大部を有するハウジング、ベースとエアガイド部材は、一体射出成型で形成されている」のに対し、引用発明ではそのような特定はなされていない点。

(4)判断
[相違点1、及び、2]について
本願補正発明においてハブの上端周縁部分に斜面、または弧面を有し、斜面、または弧面と軸向き部分の界面の位置に接続するインペラーと、回転翼の上端縁は、散熱ファンの軸線と垂直な水平線に傾斜夾角を有し、回転翼の下端縁は、散熱ファンの軸線と垂直な水平線にもう一つの傾斜夾角を有するインペラーを支えるベースとしたことによる技術的な意義は出願当初の明細書の【0022】の「エアガイド部材23の上端縁と前記水平線Hが傾斜夾角θ1を成すことから、前記インペラーが回転して発生した気流が前記エアガイド部材に届く時間を分散させ、乱気流によって生じる噪音を下げることができる」なる記載によると、騒音を低下することであると解することができる。
例えば、原審の拒絶の理由に引用された特開2000-110772号公報の【0005】には、「本発明の目的は、実用範囲において風量を低下させることなく、騒音を低下させることができる軸流送風機を提供することにある」と記載され、図3には、筒状のブレード取り付け壁部87の軸向き側の界面に弧面を有し、弧面と軸向き部分の界面の位置に接続するインペラーと、回転翼の上端縁及び下端縁は、散熱ファンの軸線と垂直な水平線に互いに異なる傾斜夾角を有している点が開示されているように、送風機において、騒音の低下のために(「騒音を低下させることができる軸流送風機」が対応)、ハブの上端周縁部分に弧面(「弧面」が相当)を有し、斜面、または弧面と軸向き部分の界面の位置に接続するインペラー(「弧面と軸向き部分の界面の位置に接続するインペラー」が相当)と、回転翼の上端縁は、散熱ファンの軸線と垂直な水平線に傾斜夾角を有し、回転翼の下端縁は、散熱ファンの軸線と垂直な水平線にもう一つの傾斜夾角を有するインペラー(「回転翼の上端縁及び下端縁は、散熱ファンの軸線と垂直な水平線に傾斜夾角を有している」が相当)は周知の技術にすぎない。
そうすると、送風機において騒音の低下という一般的な課題を解決するために、引用発明に上記周知の技術を採用することにより相違点1、及び、2に係る本願補正発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点3]について
上記相違点1及び2についての検討を踏まえて、相違点3について検討を行う。
本願補正発明において、傾斜夾角の範囲は、3°?45°の角度であるエアガイド部材とを特定していることによる技術的な意義は、出願当初の明細書の【0005】に「好ましい夾角の範囲は、3°?45°である」とのみ記載されており、そのような限定による新規な課題も、格別顕著な作用効果があるとも記載されていない。
一方、送風機において、騒音の低下のために風のながれる角度の範囲を考慮する必要があることは技術常識にすぎないし、その数値範囲の選定により格別顕著な作用効果を奏するとは解されず、かつ、そのような選定を行うことを妨げるような格段の事情があるものと認められない。
そうすると、引用発明において、上記技術常識を踏まえ、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者にとって単なる数値範囲の最適化又は好適化に相当する設計事項にすぎず、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点4]について
本願補正発明において拡大部を有するハウジング、ベースとエアガイド部材が、一体射出成型で形成されていることによる技術的な意義は出願当初の明細書には記載されていない。
一方、送風機において、部品を一体射出成型する点は常套手段にすぎない(必要があれば、特開平8-14189号公報の【0024】に「実施例の通風機は、第7図に示したように、フランジ4と一体的に、球軸受12を受入れる軸受支持部材99が射出成形され、この軸受支持部材99は、連続作動に際し、1個又は2個のパルスにより作動する無刷子型(ブラシレス)直流電動機と結合されて驚くほどの精度及び温度耐性を発現する。ハウジング、フランジ、アーム及び軸受管は単一の合成樹脂部分を形成する。」と記載されているので参照されたい。)。そして、引用例にも【0005】に「このように生産工場において多種の型を用意して置かなければならず」と記載されているように、引用例には射出成形を示唆している記載があるといえる。
そうすると、引用発明に上記常套手段の一体射出成型で形成する技術を採用することにより相違点4に係る本願補正発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

そして、本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、上記周知の技術、上記技術常識、及び、上記常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

なお、審判請求人は、平成21年11月25日付けのFAXにおいて、本願補正発明の「エアガイド」はファンの一部をなし、気流を整えて風量を増加させるものであるので、引用発明の「増圧片」とは異なると主張している。しかしながら、本願補正発明には、ファンの一部であることは特定されていないし、本願補正発明の実施例に相当するといえる図7及び図8ではファン222とエアガイド23は明らかに別体といえファンの一部であるとはいえず、さらに、「傾斜夾角の範囲は、3°?45°の角度であるエアガイド部材」とのみ記載されており、引用例の【0021】に記載される「増圧片」と相違するとは解されない。従って、上記の審判請求人の主張を採用することができない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、上記周知の技術、上記技術常識、及び、上記常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年10月11日付けの手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲、及び、図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「拡大部を有するハウジングと、
ハブと前記ハブの周りに設置された複数の回転翼を有し、前記ハブの上端周縁部分に斜面、または弧面を有し、且つ、前記ハブは更に軸向き部分を有し、前記回転翼の上端の内側の縁は、前記斜面、または弧面と前記軸向き部分の界面の位置に接続するインペラーと、
前記ハウジングの中に設置され、前記回転翼の上端縁は、散熱ファンの軸線と垂直な水平線に傾斜夾角を有し、前記回転翼の下端縁は、前記散熱ファンの軸線と垂直な水平線にもう一つの傾斜夾角を有する前記インペラーを支えるベースと、
前記ベースと前記拡大部の間に連接され、前記回転翼の上端縁側、または下端縁側に位置するその中の一つの端縁と、前記散熱ファンの軸線に垂直な水平線に傾斜夾角を有し、前記傾斜夾角の範囲は、3°?45°の角度であるエアガイド部材とを含み、
前記インペラー、ベース、拡大部及びエアガイド部材は前記ハウジング内に設置されることを特徴とする散熱ファン。」

(1)引用例
引用例、及び、その記載内容は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・検討
本願発明は、「2.」で検討した本願補正発明から「散熱ファン」に関し、「風出口の端に位置する拡大部を有し、前記拡大部を有するハウジング、ベースとエアガイド部材は、一体射出成型で形成されている」という限定を省いたものに相当する。
したがって、本願発明を構成する事項の全てを含み、更に他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が上記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、上記周知の技術、上記技術常識、及び、上記常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も相違点4についての検討が不要となるほかは、同様の理由により引用発明、上記周知の技術、及び、上記技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-15 
結審通知日 2010-04-20 
審決日 2010-05-19 
出願番号 特願2005-58935(P2005-58935)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04D)
P 1 8・ 575- Z (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀之  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 田良島 潔
冨江 耕太郎
発明の名称 散熱ファンおよびそのハウジング構造  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  

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