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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1224547 |
審判番号 | 不服2007-24571 |
総通号数 | 131 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-11-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-09-06 |
確定日 | 2010-10-07 |
事件の表示 | 特願2001-358643「磁気抵抗効果素子およびその製造方法並びに磁気メモリ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月30日出願公開、特開2003-158312〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成13年11月26日の出願であって、平成19年2月23日付けで拒絶理由が通知され、同年4月26日付けで手続補正がなされ、同年7月27日付けで拒絶査定がなされ、それに対して同年9月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年9月27日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年3月10日付けで審尋がなされ、それに対して、同年5月14日に回答書が提出されたものである。 第2.補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成19年9月27日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 平成19年9月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?8を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?8と補正するとともに、補正前の明細書の0010段落、0012段落、0014段落、を補正後の明細書の0010段落、0012段落、0014段落と補正するものであって、補正前後の請求項1は、以下のとおりである。 (補正前) 「【請求項1】 二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものであることを特徴とする磁気抵抗効果素子。」 (補正後) 「【請求項1】 反強磁性層上にて二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものであり、前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在していることを特徴とする磁気抵抗効果素子。」 2.補正事項の整理 本件補正のうち、補正後の請求項1に対する補正事項を整理すると、以下のとおりである。 (補正事項1) 補正前の請求項1の「二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造の磁気抵抗効果素子」を、補正後の請求項1の「反強磁性層上にて二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造の磁気抵抗効果素子」と補正すること。 (補正事項2) 補正前の請求項1の「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものである」を、補正後の請求項1の「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものであり、前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」と補正すること。 3.補正の目的の適否、及び新規事項の追加の有無について (1)補正の目的の適否について (1-1)補正事項1について この補正は、補正前の請求項1の「二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造の磁気抵抗効果素子」を「反強磁性層上にて二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造の磁気抵抗効果素子」とするものであり、補正前の請求項1の「多層膜構造」を「反強磁性層上に」設けるという技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項(平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (1-2)補正事項2について この補正は、補正前の請求項1の「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものである」を、補正後の請求項1の「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものであり、前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」と補正するものであり、補正前の請求項1の「強磁性体層のうち一方」を「Ruを介在している」ものと技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)新規事項の追加の有無について また、補正後の請求項1の「多層膜構造」を「反強磁性体層上」に形成すること、及び「強磁性体層の一方」が「Ruを介在している」ことは、本願の願書に最初に添付した明細書の0021?0029段落に記載されているものと認められるから、補正事項1,2は、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。 したがって、補正事項1,2は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項(平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。 (3)以上検討したとおりであるから、本件補正のうち、請求項1についての補正は特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。 そして、本件補正のうち、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当するから、本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、請求項1についての補正を含む本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かにつき、以下において更に検討する。 4.独立特許要件について (1)補正後の発明 本件補正による補正後の請求項1?8に係る発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 反強磁性層上にて二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものであり、前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在していることを特徴とする磁気抵抗効果素子。」 (2)引用刊行物に記載された発明 (2-1)本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開平11-353868号公報(以下「引用例」という。)には、磁性薄膜メモリ素子に関して、図2とともに以下の記載がある(なお、下線は当合議体にて付加したものである。)。 (a) 「【0020】 第1磁性層、第2磁性層は、Ni,Fe,Coの少なくとも一種を主成分として用いられるか、CoFeを主成分とするアモルファス合金として用いられることが望ましい。例えば、NiFe,NiFeCo,Fe,FeCo,Co,CoFeBなどの磁性膜からなる。 【0021】 (第1磁性層の材料) 第1磁性層は、第2磁性膜よりも低い保持力を有する。このため、第1磁性層には、Niを含む軟磁性膜が好ましく、具体的には、特にNiFe、NiFeCoを主成分として用いられてなることが望ましい。またFeCoでFe組成の多い磁性膜、CoFeBなどの保磁力の低いアモルファス磁性膜でも良い。 【0022】 NiFeCoの原子組成比は、NixFeyCozとした場合、xは40以上95以下、yは0以上40以下、zは0以上50以下、好ましくはxは50以上90以下、yは0以上30以下、zは0以上40以下、更に好ましくはxは60以上85以下、yは10以上25以下、zは0以上30以下が良い。 【0023】 また、FeCoの原子組成は、FexCo_(100)-xとした場合、xは50以上100以下、好ましくは、xは60以上90以下が良い。 【0024】 また、CoFeBの原子組成は、(CoxFe_(100-)x)_(100-)yByとした場合、xは80以上96以下、yは5以上30以下が良い。好ましくはxは86以上93以下、yは10以上25以下が良い。例えば、Co84Fe9B7、Co72Fe8B20等のアモルファス磁性膜が挙げられる。」 (b) 「【0031】 (層構成のタイプ) 前述の通り、第1磁性層は、第2磁性層よりも低い保磁力を有しているが、層構成のタイプとして、以下の2種類のタイプがある。 【0032】 第1のタイプは「メモリ層(第1磁性層)/非磁性層/ピン層(第2磁性層)」とする構成である。これは、第1磁性層を磁化情報が保持されるメモリ層、第2磁性層をその磁化方向を磁化情報に依存せず保存時、記録時、再生時、のいずれの状態でも常に一定に保たれているピン層とする場合で、記録電流によって第1磁性層を反転させる。後述するように、再生は、磁性層の磁化反転を行わずに絶対値検出を行う。 【0033】 第2のタイプは、「検出層(第1磁性層)/非磁性層/メモリ層(第2磁性層)」とする構成である。これは第1磁性層を読みだした時に相対検出させるために反転させる検出層、第2磁性層を磁化情報が保持されるメモリ層とする場合で、記録電流によって第2磁性層を反転させる。」 (c) 「【0062】 実施例4 次に上記の磁気抵抗膜のメモリ素子の録再性能が成膜磁界にどのように影響するかを調べた。まず、実施例1及び比較例1に示された磁気抵抗膜を5×5μmに加工して両側に磁気抵抗測定用のCuからなる電極版(パッド)を作成した後、磁気抵抗膜上に0.1μmの厚みの絶縁膜を介して0.5μmの厚みのAlからなる書込み線を設けて図2に示した磁性薄膜メモリ素子を作成した。図で、記号2は書込み線、記号11はNiFe検出層、記号12はCoメモリ層、記号13はCu非磁性層を示す。(a),(b)はそれぞれ平行、反平行の磁化状態を示したものである。 次にその書込み線に電流パルスを印加して磁界を発生させ、その際に現れた磁気抵抗値を微分検出して、メモリ層に保持された磁化記録情報を読みだした。その際に、記録された情報が正しく再生されるかどうか調べたところ、成膜磁界が33(Oe)、86(Oe)、150(Oe)、185(Oe)、296(Oe)の各100個中の磁気抵抗膜で、正しく再生されなかった膜は、それぞれ20個、15個、12個、0個、0個であった。成膜磁界が0の場合は再生信号は小さすぎて測定不可能であった。 【0063】 再生時の誤り率は、メモリ素子として信頼性を得るためには、少なくとも10%未満が必要であり、本発明の成膜方法で作成された磁性薄膜メモリにおいては、十分な信頼性が得られることがわかる。また誤り率が低ければ、より微細化して高集積化することが可能で、例えば、図3に示したように磁気抵抗膜上に複数の書込み線2を設けて、より高い集積度の磁性薄膜メモリを実現することも可能である。 【0064】 なお、上述の実施例においては、NiFe,Coからなる磁性膜の例を示したが、他にもFeCo,CoFeB等の磁性膜を用いた場合でも本発明の効果が得られる。また、上述の実施例では、磁性膜間の非磁性膜はCuからなる良導体を用いたが、他の良導体、もしくは酸化アルミニウムなどの絶縁膜として、スピントンネル型の磁気抵抗膜を用いたメモリ素子としてもよい。 【0065】 実施例5 次に、実施例1記載のスピン散乱型の磁気抵抗膜のNiFe層を膜厚15nmのFeCo層に、非磁性層Cuを膜厚2nmのAl_(2)O_(3)に変え、さらに磁気抵抗膜の膜厚方向の上下にCuからなる電極線を取り付けて、スピントンネル型の磁気抵抗膜を作成した。実施例1と同様に磁性膜の成膜時の印加磁界を変えて、MRカーブを測定したところ、実施例1及び比較例1と同様に180(Oe)以上の磁界を印加することによって、150(Oe)以下の成膜磁界の場合と比較して、2倍以上のMRカーブの傾きが得られるようになり、本発明の磁性薄膜の作成方法は、スピントンネル型のメモリ素子にも適用できることが分かった。」 (d) 「【0069】 実施例9 本発明の磁性薄膜メモリ素子の一例は、スピントンネル型により磁気抵抗効果が生じることを特徴とする。このスピントンネリングによる磁気抵抗効果は、第1磁性層/非磁性層/第2磁性層の構造をなすが、非磁性層には薄い絶縁層を用いる。そして、再生時に電流を膜面に対して垂直に流した際に第1磁性層から第2磁性層へ電子のトンネル現象がおきるようにする。 【0070】 本発明のスピントンネル型の磁性薄膜メモリ素子は、強磁性体金属において伝導電子がスピン偏極を起こしているため、フェルミ面における上向きスピンと下向きスピンの電子状態が異なっており、このような強磁性体金属を用いて、強磁性体と絶縁体と強磁性体からなる強磁性トンネル接合を作ると、伝導電子はそのスピンを保ったままトンネルするため、両磁性層の磁化状態によってトンネル確率が変化し、それがトンネル抵抗の変化となって現れる。これにより、第1磁性層と第2磁性層の磁化が平行の場合は抵抗が小さく第1磁性層と第2磁性層の磁化が反平行の場合は抵抗が大きくなる。上向きスピンと下向きスピンの状態密度の差が大きい方がこの抵抗値は大きくなりより大きな再生信号が得られるので、第1磁性層と第2磁性層はスピン分極率の高い磁性材料を用いることが望ましい。具体的には第1磁性層と第2磁性層は、フェルミ面における上下スピンの偏極量が大きいFeを選定し、Coを第2成分として選定してなる。具体的にはFe,Co,Niを主成分とした材料から選択して用いられてなることが望ましい。好ましくは、Fe,Co,FeCo,NiFe、NiFeCo等が良い。具体的には、Fe,Co、Ni80Fe20、Ni72Fe28,Ni51Fe49、Ni42Fe58、Ni25Fe75,Ni9Fe91等が挙げられる。 【0071】 さらに、第1磁性層は保持力を小さくするために、NiFe、NiFeCo、Fe等がより望ましいまた、第2磁性層は、保持カを大きくするために、Coを主成分とする材料が望ましい。」 (2-2)引用例には、(c)(d)の記載より、非磁性層に薄い絶縁層を用いて、第1磁性層/絶縁層/第2磁性層の構造としたスピントンネル型の磁気薄膜メモリ素子とすること、(b)の記載より、第1磁性層はメモリ層で、第2磁性層はピン層であること、(a)の記載より、第1磁性層は、CoFeBなどの保磁力の低いアモルファス磁性膜であることが記載されていると認められる。 (2-3)よって、引用例には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「CoFeBなどの保磁力の低いアモルファス磁性膜によるメモリ層(第1磁性層)/絶縁層/ピン層(第2磁性層)の構造としたスピントンネル型の磁気薄膜メモリ素子。」 (3)補正発明と引用発明との対比 (3-1)引用発明の「スピントンネル型の磁気薄膜メモリ素子」は、「磁気抵抗効果」を利用しており、補正発明の「磁気抵抗効果素子」に相当する。 (3-2) 引用発明の「メモリ層(第1磁性層)/絶縁層/ピン層(第2磁性層)の構造」において、上記(2-1)(d)によれば、「本発明のスピントンネル型の磁性薄膜メモリ素子は、強磁性体金属において伝導電子がスピン偏極を起こしているため、フェルミ面における上向きスピンと下向きスピンの電子状態が異なっており、このような強磁性体金属を用いて、強磁性体と絶縁体と強磁性体からなる強磁性トンネル接合を作る」ものであり、「メモリ層(第1磁性層)」及び「ピン層(第2磁性層)」がいずれも強磁性体であることは明らかであるから、引用発明の「メモリ層(第1磁性層)/絶縁層/ピン層(第2磁性層)の構造」は、補正発明の「二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造」に相当する。 (3-3)補正発明の「明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有した」「強磁性体層」に関連すると認められる、本願明細書の0011段落の「【0011】上記構成の磁気抵抗効果素子によれば、強磁性体層がシングルグレイン(single grain)構造を有している。ここで、シングルグレイン構造としては、例えば、全体が一つの結晶であるがゆえに明瞭な結晶粒界(grain boundary)のない単結晶(single crystal)構造や、非晶質(non-crystalline)であるがゆえに明瞭な結晶粒界のないアモルファス(amorphous)構造が挙げられる。このようなシングルグレイン構造であれば、各結晶が明瞭な結晶粒界によって区切られる多結晶(polycrystal)構造の場合とは異なり、強磁性体層全体にわたって構造の均一性を確保し得るようになり、その強磁性体層における保持力の低減を図れるようになる。」という記載及び、0022?0023段落の「【0022】ところで、ここで説明するTMR素子1は、記憶層12であるCoFeB膜26の構造に大きな特徴がある。具体的には、一般的な強磁性体であるCoおよびFeといった磁性材料に、これらの磁性材料とは異なる種類の元素であるB(ホウ素)を添加したものからなり、これにより明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものとなっている。【0023】ここで、このシングルグレイン構造について詳しく説明する。ここでいうシングルグレイン構造とは、文字通り単一のグレイン(結晶構造)からなるものをいい、広義には多層膜構造のものが各結晶粒の間に有するような明瞭な結晶粒界が存在しないものを指す。したがって、シングルグレイン構造には、全体が一つの結晶であるがゆえに明瞭な結晶粒界のない単結晶構造や、非晶質であるがゆえに明瞭な結晶粒界のないアモルファス構造等も含まれる。」という記載から、引用発明の「CoFeBなどの保持力の低いアモルファス磁性膜」も「明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有した強磁性体層」であることは明らかであるから、引用発明の「CoFeBなどの保磁力の低いアモルファス磁性膜によるメモリ層(第1磁性層)」は、補正発明の「明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものであ」る「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方」に相当する。 (3-4)以上のことを踏まえると、補正発明と引用発明とは、 「二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものであることを特徴とする磁気抵抗効果素子。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 補正発明は、「二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造」が「反強磁性層上に」形成されているのに対して、引用発明は、そのように構成されていない点。 (相違点2) 補正発明は、「前記二つの強磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」のに対して、引用発明は、そうでない点。 (4)相違点についての当審の判断 (相違点1について) まず、相違点1について検討する。トンネル型の磁気メモリ素子用の磁気抵抗素子において、ピン層の磁化方向が変化すると、記憶情報を正しく読み出すことに支障をきたす。よってその磁化方向の安定化のためにピン層である強磁性体層と反強磁性体層とを積層することがよく行われており、例えば、下記周知例1及び下記周知例2に記載されているように、当業者において周知の技術事項である。 (ア)周知例1:特開2001-222803号公報 周知例1には、図16とともに以下の記載がある。 (a) 「【0092】 [実施例2-1?2-7] 実施例2-1?2-7として、図16に示した積層体60を、表2に示したように強磁性外側層631,強磁性内側層633および第2非磁性層27の厚さならびに高抵抗層28の含有金属および厚さを変えて作製した。まず、実施例1-1?1-12と同様にして、下地層21および反強磁性膜22を順次成膜した。次いで、反強磁性層22の上に、スパッタリング法により、CoFeを用いて表2に示した厚さの強磁性外側層631を形成し、その上に、Ruを用いて厚さ0.8nmの結合層632を形成し、その上に、CoFeを用いて表2に示した厚さの強磁性内側層633を成膜した。続いて、強磁性内側層633の上に、実施例1-1?1-12と同様に、第1軟磁性層25および第2軟磁性層26を順次成膜し、その上に、Cuを用いて表2に示した厚さの第2非磁性層27を成膜し、その上に、表2に示した金属層を酸化することにより表2に示した厚さの高抵抗層28を形成した。そののち、熱処理による反強磁性処理を行った。 【0093】 【表2】 (略) 【0094】 このようにして作製した実施例2-1?2-7の積層体60について、実施例1-1?1-12と同様にして抵抗変化率、抵抗値および抵抗変化量を調べた。それらの結果を表2にそれぞれ示す。なお、本実施例に対する比較例2-1として、高抵抗層28を設けないことを除き、実施例2-1と同一の条件で積層体を作製した。また、比較例2-2として、比較例2-1と強磁性外側層および強磁性内側層の厚さだけが異なる積層体を作製した。これらの比較例についても、本実施例と同様にしてその抵抗変化率、抵抗値および抵抗変化量を調べた。それらの結果も、表2に合わせてそれぞれ示す。 【0095】 表2から分かるように、本実施例によれば、抵抗変化率は12.4%以上および抵抗変化量は2.2Ω以上であり、比較例2-1?2-2よりも大きな値を得ることができた。すなわち、強磁性層63をシンセティックピン構造とした積層体60においても、高抵抗層28を設けることによって抵抗変化率および抵抗変化量を大きくできることが分かった。」 (b) 「【0119】 加えて、本発明の磁気変換素子の構成は、トンネル接合型磁気抵抗効果膜(TMR膜)に適用しても良い。更にまた、本発明の磁気変換素子は、上記実施の形態で説明した薄膜磁気ヘッドのほかに、例えば、磁気信号を検知するセンサ(加速度センサなど)や、磁気信号を記憶するメモリ等に適用することも可能である。」 (イ)周知例2:特開2001-177163号公報 周知例2には、図14とともに以下の記載がある。 (a) 「【0072】 実施例8では、ニッケル含有強磁性層22をFeに対するNiの重量比が4.00のNiFeCrにより形成し、コバルト含有強磁性層23を厚さ2.0nmのCoにより形成し、非磁性層24を厚さ2.7nmのCuにより形成し、第2強磁性層25を(非磁性層24の側から積層した)厚さ2.5nmのCo、厚さ0.8nmのRuおよび厚さ1.8nmのCoFeにより形成し、反強磁性層26を厚さ30nmのPtMnにより形成した。すなわち、実施例8では、図14に示したシンセティックピン構造とした。実施例9では、ニッケル含有強磁性層22をFeに対するNiの重量比が4.00のNiFeRhにより形成し、コバルト含有強磁性層23を厚さ2.0nmのCoにより形成し、非磁性層24を厚さ2.6nmのCuにより形成し、第2強磁性層25を厚さ2.5nmのCoにより形成し、反強磁性層26を厚さ30nmのPtMnにより形成した。」 (b) 「【0080】 また、上記実施の形態では、本発明の磁気変換素子を複合型薄膜磁気ヘッドに用いる場合について説明したが、再生専用の薄膜磁気ヘッドに用いることも可能である。また、記録ヘッド部と再生ヘッド部の積層 順序を逆にしても良い。加えて、本発明の磁気変換素子の構成は、トンネル接合型磁気抵抗効果膜(TMR膜)に適用しても良い。更にまた、本発明の磁気変換素子は、上記実施の形態で説明した薄膜磁気ヘッドのほかに、例えば、磁気信号を検知するセンサ(加速度センサなど)や、磁気信号を記憶するメモリ等に適用することも可能である。」 したがって、引用発明の「磁気抵抗効果素子」において、「ピン層(第2磁性層)」を反強磁性層上に形成すること、すなわち、補正発明のように「反強磁性体層上にて二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造」とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (相違点2について) 相違点2について検討する。ピン層である強磁性層として、Ruを介在させること、すなわち二つの強磁性層の間にRuを挟んだ積層構造とすることは、例えば上記の周知例1?2に記載されているように、当業者において従来周知の技術事項である。 したがって、引用発明の「ピン層(第2磁性層)」を、「Ruを介在させ」たものとして、補正発明のように「前記二つの磁性体層のうち一方は、Ruを介在している」構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 したがって、補正発明は、当業者における周知技術を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (5)独立特許要件についてのまとめ 本件補正は、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項をいう。以下同じ。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。 5.補正の却下の決定についてのむすび 以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 平成19年9月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成19年4月26日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものであることを特徴とする磁気抵抗効果素子。」 第4.引用例に記載された発明 引用例.特開平11-353868号公報 一方、本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開平11-353868号公報(引用例)には、上記第2.4.(2)に記載した事項及び以下の発明(引用発明)が記載されているものと認められる。 「CoFeBなどの保磁力の低いアモルファス磁性膜によるメモリ層(第1磁性層)/絶縁層/ピン層(第2磁性層)の構造としたスピントンネル型の磁気薄膜メモリ素子。」 第5.本願発明と引用発明との対比 引用発明と本願発明とを比較すると、 (1)引用発明の「スピントンネル型の磁気薄膜メモリ素子」は、「磁気抵抗効果」を利用しており、本願発明の「磁気抵抗効果素子」に相当する。 (2) 引用発明の「メモリ層(第1磁性層)/絶縁層/ピン層(第2磁性層)の構造」において、上記(2-1)(d)によれば、「本発明のスピントンネル型の磁性薄膜メモリ素子は、強磁性体金属において伝導電子がスピン偏極を起こしているため、フェルミ面における上向きスピンと下向きスピンの電子状態が異なっており、このような強磁性体金属を用いて、強磁性体と絶縁体と強磁性体からなる強磁性トンネル接合を作る」ものであり、「メモリ層(第1磁性層)」及び「ピン層(第2磁性層)」がいずれも強磁性体であることは明らかであるから、引用発明の「メモリ層(第1磁性層)/絶縁層/ピン層(第2磁性層)の構造」は、本願発明の「二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造」に相当する。 (3)本願発明の「明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有した」「強磁性体層」に関連すると認められる、本願明細書の0011段落の「【0011】上記構成の磁気抵抗効果素子によれば、強磁性体層がシングルグレイン(single grain)構造を有している。ここで、シングルグレイン構造としては、例えば、全体が一つの結晶であるがゆえに明瞭な結晶粒界(grain boundary)のない単結晶(single crystal)構造や、非晶質(non-crystalline)であるがゆえに明瞭な結晶粒界のないアモルファス(amorphous)構造が挙げられる。このようなシングルグレイン構造であれば、各結晶が明瞭な結晶粒界によって区切られる多結晶(polycrystal)構造の場合とは異なり、強磁性体層全体にわたって構造の均一性を確保し得るようになり、その強磁性体層における保持力の低減を図れるようになる。」という記載及び、0022?0023段落の「【0022】ところで、ここで説明するTMR素子1は、記憶層12であるCoFeB膜26の構造に大きな特徴がある。具体的には、一般的な強磁性体であるCoおよびFeといった磁性材料に、これらの磁性材料とは異なる種類の元素であるB(ホウ素)を添加したものからなり、これにより明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものとなっている。【0023】ここで、このシングルグレイン構造について詳しく説明する。ここでいうシングルグレイン構造とは、文字通り単一のグレイン(結晶構造)からなるものをいい、広義には多層膜構造のものが各結晶粒の間に有するような明瞭な結晶粒界が存在しないものを指す。したがって、シングルグレイン構造には、全体が一つの結晶であるがゆえに明瞭な結晶粒界のない単結晶構造や、非晶質であるがゆえに明瞭な結晶粒界のないアモルファス構造等も含まれる。」という記載から、引用発明の「CoFeBなどの保持力の低いアモルファス磁性膜」も「明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有した強磁性体層」であることは明らかであるから、引用発明の「CoFeBなどの保磁力の低いアモルファス磁性膜によるメモリ層(第1磁性層)」は、本願発明の「明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものであ」る「前記強磁性体層のうちの少なくとも一方」に相当する。 以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、 「二つの強磁性体層の間に絶縁体層を挟んだ多層膜構造の磁気抵抗効果素子において、前記強磁性体層のうちの少なくとも一方は、明瞭な結晶粒界のないシングルグレイン構造を有したものであることを特徴とする磁気抵抗効果素子。」 である点で一致し、両者に相違はない。 第6.当審の判断 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明であると認めるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第7.むすび 以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-07-28 |
結審通知日 | 2010-08-03 |
審決日 | 2010-08-23 |
出願番号 | 特願2001-358643(P2001-358643) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L) P 1 8・ 561- Z (H01L) P 1 8・ 575- Z (H01L) P 1 8・ 572- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川村 裕二 |
特許庁審判長 |
北島 健次 |
特許庁審判官 |
西脇 博志 安田 雅彦 |
発明の名称 | 磁気抵抗効果素子およびその製造方法並びに磁気メモリ装置 |
代理人 | 山本 孝久 |
代理人 | 吉井 正明 |
代理人 | 森 幸一 |