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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08C
管理番号 1224553
審判番号 不服2007-34311  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-20 
確定日 2010-10-07 
事件の表示 特願2006-228149「低粘度化天然ゴムの製造方法並びにその天然ゴム及びそれを含むゴム組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年6月14日出願公開、特開2007-146114〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年8月24日(優先権主張 平成17年10月27日)を出願日とする特許出願であって、平成19年4月25日付けで拒絶理由が通知され、同年8月6日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年11月16日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、それに対して、同年12月20日に拒絶査定不服審判が請求され、平成20年1月21日に手続補正書(方式)が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、平成19年8月6日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は以下のとおりである。
【請求項1】 天然ゴムラテックスに水溶性アンモニウム塩を加えて処理することによって金属含有量を低下させ、処理された天然ゴムラテックスを、周波数250?1200Hz及び温度140℃以下の条件のパルス波雰囲気中に、噴霧することによって乾燥して固形ゴムを得ることを特徴とする低粘度化天然ゴムの製造方法。

3.拒絶理由の概要
これに対して、原査定における拒絶の理由は、「この出願に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」との理由(理由2)であり、平成19年4月25日付け拒絶理由通知書及び同年11月16日付け拒絶査定には、以下の事項が記されている。

(1)拒絶理由通知書
理由2
・請求項1?9
・引用文献1、2
備考
引用文献1には、天然ゴムラテックスにヒドロキシルアミン等の恒粘度剤を添加し、パルス燃焼による衝撃波の雰囲気中に噴霧し、乾燥することによって固形ゴムを得る粘度が低い天然ゴムの製造方法が記載されている(特に、特許請求の範囲、【0008】、実施例を参照)。
ここで、本願上記請求項に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、本願上記請求項に係る発明では、天然ゴムラテックスを噴霧乾燥する前の段階で、二価アンモニウム塩を添加し、マグネシウム等の金属含有量を低下させておくことを規定するが、引用文献1には、そのような記載がない点で相違している。
しかしながら、引用文献2には、ラテックスを乾燥して得られる固形ゴム中の加工性を向上させる目的で、天然ゴム等のラテックスにリン酸アンモニウムを添加し、生成するリン酸マグネシウムを除去し、その後固形ゴムを得る製造工程が記載されているので(特に、特許請求の範囲、【0001】、【0002】、【0008】、【0016】、実施例を参照)、引用文献1に記載された発明において、固形ゴムを得る前のラテックス状態において、ラテックス中のマグネシウム含量を低下させ加工性(粘度特性)を向上させる目的でリン酸アンモニウムを配合し、マグネシウム成分を低減することは当業者が容易になし得る事項である。
また、本願発明の効果についても引用文献1、2から予測できない格段に優れたものであるとも認められないので、本願請求項1?9に係る発明は、引用文献1、2から当業者が容易に想到し得るものである。

引用文献等一覧
1.特開2005-194503号公報
2.特開2004-250546号公報

(2)拒絶査定
(請求項1?8について)
出願人は平成19年8月6日付け意見書にて、「しかしながら、引用文献1には予じめ天然ゴムラテックス中の金属分を除去することを当業者に示唆するような記載は全くなく、また引用文献2にはマグネシウムなどの金属をリン酸塩の添加によって除去することの記載はあるものの、その後の天然ゴムラテックスをパルス波乾燥することを教えるような記載は全くなく、単に噴霧乾燥によって固形ゴムを得ることを教えるような記載すら引用文献2には全く認められない。
本願発明では天然ゴムラテックスにアンモニウム塩を添加してMgなどの金属含有量を低下させた後、パルス波乾燥することによって、本願実施例にも示したように低粘度、従って加工性に優れた天然ゴムを高生産性で得ることができるのであって、かかることを当業者に教えるような記載は引用文献1及び2のいずれにも全く認められない。・・・添付した実験成績証明書の結果から明らかなように、天然ゴムラテックスにアンモニウム塩処理を行い、かつパルス衝撃波乾燥により固形化した本願発明に係るゴムは、同様に処理した天然ゴムラテックスを酸凝固させてから熱風乾燥した固形ゴムと比較して、低発熱で耐熱老化性に優れるゴム組成物を与える。
6)以上の通りですから、本願発明が引用文献1及び2に記載されたものでもなければ、それらの記載から当業者が容易になし得たものにもあたらないことも明らかであると確信します。」と主張する。
しかしながら、引用文献1、2共に天然ゴムラテックスからゴムを製造する方法であるので技術分野が共通するものであり、引用文献1、2にもそれぞれの技術の適用を阻害する要因はなく、特に、引用文献1には、従来の引用文献2に記載されるような乾燥法から生産性及び熱効率が大幅に向上できる乾燥方法として、周波数120?1200Hz及び温度140℃以下の条件のパルス燃焼による衝撃波の雰囲気下に噴射する乾燥方法が記載されている。そして、引用文献1には、パルス燃焼による衝撃波の雰囲気下に噴射する乾燥方法によって得られるゴムの「熱劣化・・・が抑制される」ことが記載されているので、当該乾燥方法を採用することにより得られるゴムが、熱履歴が少なく耐熱老化性に優れるものであることは予測されることであり、実験成績証明等で示される本願発明の効果についても予測の範囲内である。
したがって、依然として、本願請求項1?8に係る発明は、引用文献1、2から当業者が容易に想到し得るものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2005-194503号公報
2.特開2004-250546号公報

4.当審の判断
(1)引用文献
引用文献1:特開2005-194503号公報
引用文献2:特開2004-250546号公報

(2)引用文献の記載事項
引用文献1:特開2005-194503号公報(平成17年7月21日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲)
(1-a)「【請求項1】
ゴムラテックスをパルス燃焼による衝撃波の雰囲気下に噴射して乾燥させることを特徴とするラテックスからゴムを製造する方法。
【請求項2】
ゴムラテックスの固形分濃度(乾燥ゴム分)が60重量%以下である請求項1に記載のゴムの製造方法。
【請求項3】
パルス燃焼の周波数が250?1200Hzであり、ラテックスを噴射する乾燥室の温度を140℃以下とした請求項1又は2に記載のゴムの製造方法。
【請求項4】
ゴムラテックスが天然ゴムラテックスである請求項1?3のいずれか1項に記載のゴムの製造方法。
【請求項5】
前記パルス燃焼による衝撃波の雰囲気下の噴射乾燥を天然ゴムラテックスに恒粘度剤を添加して実施する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記恒粘度剤の配合量がラテックス中の固形分100重量部当り0.001重量部以上である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記恒粘度剤がヒドロキシルアミン、セミカルバジト及びジメドンからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載の方法で得られるゴム組成物。」(特許請求の範囲請求項1?8)
(1-b)「従って、本発明は、天然ゴムに限らず、乳化重合で得られる合成ゴムも含んだ広く一般的なゴムラテックスからゴムを製造するにあたり、作業性や熱効率を大幅に改良しかつ得られるゴムが従来の加熱乾燥で生じるおそれがあるゴムの熱劣化やゲル化を抑制して品質のすぐれたゴムを製造する方法を提供することを目的とする。」(段落【0005】)
(1-c)「本発明に従えば、酸等による凝固や自然凝固などの従来のプロセスに代えて、パルス燃焼でゴムラテックスを瞬時に乾燥させるので、生産性及び熱効率の大幅な向上が達成され、さらに従来の加熱乾燥で生じるゴムの熱劣化やゲル化が抑制されることにより、ゴム品質のコントロールがはるかに容易になる。またゲル化が抑制されることにより粘度が低下し、ゴムの素練り工程が従来より簡略化できるなどの利点もある。」(段落【0008】)
(1-d)「実施例1及び比較例1
比較例1として従来から行われている天然ゴム(リブド・スモークド・シート(RSS))の製造方法を示す。天然ゴムラテックスをゴムの木から採取後、異物を除去し、ギ酸を加えて凝固させ、ロールを通して水分を除去(シーティング)し、陰干しした未燻製シートを水洗し、70℃で6?8日間燻煙しながら乾燥し、選別および等級分けを行い、パッキングされて製造されている。
一方、実施例1ではアンモニア添加により安定化させた天然ゴムラテックス(タイ産、固形分濃度約35重量%)5リットルを不純物をろ過した後、周波数1000Hz、温度60℃の条件でパルス衝撃波乾燥機(パルテック社製ハイパルコン)を用いて噴射して乾燥させた。実施例1及び比較例1のラテックスの乾燥時間を表Iに対比した。表Iの結果から明らかなように、本発明に従った実施例1では5リットルのラテックスを処理する乾燥時間が約3時間に短縮された。なお、乾燥時間はパルス衝撃波乾燥機の処理能力であり、実際に水分が除去されるのに要する時間は1秒以下である。乾燥機の規模により、単位時間に乾燥できるラテックスの量が決定される。本発明に従った実施例1で用いた乾燥機の処理能力は約2kg/時である。

実施例2及び比較例2
実施例1で得られた天然ゴムと市販の天然ゴム(RSS#1)とのゴム物性を比較した。即ち、表IIに示す配合において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルのバンバリーミキサーで5分間混練し、140℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄を8インチオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物のムーニー粘度(ML_(1+4) 100℃)をJIS K-6300-1に準拠して測定し、結果を表IIに示した。
次に得られたゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で150℃で30分間加硫して加硫ゴムシートを得、以下に示す試験法でゴム物性を測定した。結果は表IIに示す。
300%モジュラス(MPa):JIS K-6251(JIS3号ダンベル)に準拠して測定
破断強度:JIS K-6251(JIS3号ダンベル)に準拠して測定
破断伸び:JIS K-6251(JIS3号ダンベル)に準拠して測定
表IIの結果から明きらかなように、本発明に従った実施例2では、破断物性は同等で、ムーニー粘度が低下しており、加工性が向上する。

」(段落【0016】?【0023】)
(1-e)「本発明に従ったラテックスからのゴムの製造方法においては、天然ゴムの場合、ラテックスからタッピングして不純物などをろ過した後、酸などによる凝固を行わず、パルス燃焼による衝撃波の雰囲気下で噴射して、水分を除去し瞬間的にゴムラテックスを乾燥させるのでラテックスからのゴムの製造の作業性及び熱効率を改良することができ、しかも得られたゴムの品質も、従来のような熱劣化やゲル化のおそれがなく、すぐれている。また、乳化重合による合成ゴムの場合においても、酸による凝固、クラムとセラムの分離、洗浄、乾燥という工程を経ることなく、パルス燃焼により直接ラテックス中の水分を除去できるため、大幅に生産効率が上がるだけでなく、熱履歴が大幅に減少しゴムの物性も向上できる。またクラムおよびセラムのpHや食塩濃度の調整、管理も不要になるためゴムの品質が安定するほか、酸の回収および再利用の設備、その腐食対策なども不要となる。天然ゴムその他のゴムラテックスからゴムを製造する方法として有用である。」(段落【0035】)

引用文献2:特開2004-250546号公報
(2-a)「【請求項1】
マグネシウム含有率が20ppm以下であり、トルエン不溶分として測定されるゲル含有率が10重量%以下であることを特徴とする生ゴム。
【請求項2】
天然ゴムラテックスから生ゴムを製造するに際し、採取した天然ゴムラテックスにリン酸塩を添加し、生成するリン酸マグネシウムを除去後、得られる天然ゴムラテックスを固形化する工程よりなり、当該工程を天然ゴムラテックス採取後10日以内に終了することを特徴とする生ゴムの製造方法。
【請求項3】
生成するリン酸マグネシウムを除去することにより、天然ゴムラテックス中のゴム分に対するマグネシウム含有率を20ppm以下にすることを特徴とする請求項2に記載の生ゴムの製造方法。
【請求項4】
ゴム中のゲル量をトルエン不溶分として測定するとき、そのゲル含有率が10重量%以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の生ゴムの製造方法。
【請求項5】
天然ゴムラテックスを採取後、固形化するまでの間に脱蛋白処理工程を含むことを特徴とする請求項2?4のいずれかに記載の生ゴムの製造方法。
【請求項6】
前記脱蛋白処理により窒素含有率を0.1重量%以下にすることを特徴とする請求項5に記載の生ゴムの製造方法。
【請求項7】
請求項2?6に記載のいずれかの方法で製造され、マグネシウム含有率が20ppm以下であり、トルエン不溶分として測定されるゲル含有率が10重量%以下であることを特徴とする生ゴム。」(特許請求の範囲請求項1?7)
(2-b)「【従来の技術】
生ゴムは、天然ゴムラテックスから調製される固形の天然ゴム原料であって、加硫により優れた機械特性が発揮されることから、各種ゴム製品の製造に用いられている。この製造上、生ゴムは混練、シーテイング、各種成形工程などの加工性に優れていることが要求される。このような加工性は、生ゴム中のゲルの存在によって大きく影響されることが知られている。
すなわち、天然ゴムはポリイソプレンを本体とするものであるが、合成ポリイソプレンとは異なり、多くのゲル分が含まれている。ここでいうゲル分は、原料ゴムにおける非ゴム成分であって溶剤に対する難溶性部分をさしており、天然ゴムが蛋白質、脂質などの不純物を多く含んでいることに起因するものと考えられている。
天然ゴム中のゲル分は、加工性や反応性などに悪い影響を及ぼすことがわかっているものの、天然状態のゴムラテックスに含まれてくるゲル量を調整することはできていない。ゲル分を含む天然ゴムは見かけの分子量が高くなっており、ゴム製品の製造に当たり、練りロール機や密閉式混合機で素練りし、分子量を下げてからでないと加工性が悪く使用することができない。しかし、このような素練は、ゲルの原因となる分岐部分を切断するというよりも、分子主鎖をランダムに切断してしまうことが多い。従って、天然ゴム本来の特性である、分子量が高く、主鎖骨格の立体構造が均一(ほぼ100%がシスポリイソプレンである)であるという特徴が十分に生かされないことになる。」(段落【0002】?【0003】)
(2-c)「【発明が解決しようとする課題】
上述のように、天然ゴムラテックスに由来するゲル分は、天然ゴムを利用するにあたって何かと障害になることが多く、その除去方法の開発が望まれていたにもかかわらず、これまではアレルギー誘発物質としての蛋白質を除去するときにゲルもある程度低減することが知られていたに過ぎない。天然ゴムの利用分野によっては、蛋白質によるアレルギー誘発が問題とならない分野もあり、脱蛋白処理を必ずしも要することなく、より簡易な方法で生ゴム中のゲル分を減らす手段が要望されている。
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、採取した天然ゴムラテックス中のゲル分の減量化方法を多方面から検討したところ、リン酸塩で処理し生成するリン酸マグネシウムを除去してマグネシウム含有率を減らし、固形化することによりゲル分が著しく少ない生ゴムが得られるとの知見を得た。この処理においてまた、天然ゴムラテックを採取後、固形化するまでの日数ができるだけ少なくすることが、ゴムラテックス貯蔵中のゲル分の増加を抑制するとの知見も得た。さらに、脱蛋白処理を併用すれば、ゲル分をより一層少なくできることも合わせて見出したのである。本発明は、これらの知見に基づいてさらに検討して完成されたものである。」(段落【0007】?【0008】)
(2-d)「本発明において、天然ゴムラテックスにリン酸塩を添加し、当該ラテックス中のマグネシウムをリン酸マグネシウムとして除去する。このリン酸塩としては、可溶性塩であればよいが、実用的にはアンモニウム塩あるいはアルカリ金属塩が適当であり、リン酸アンモニウムがとりわけ好ましく用いられる。
リン酸塩の添加に際し、ゴムラテックス中の固形分濃度は30?60重量%とし、リン酸塩はゴムラテックスの全重量に対して0.05?0.1重量%となるように添加することが好ましい。生成するリン酸マグネシウムの除去方法は特に限定されないが、例えばリン酸塩を添加後、一夜程度、静置してから上澄み(ゴムラテックス)を回収すればよく、沈殿したリン酸マグネシウムを除去する。このようにして、天然ゴムラテックス中のゴム分に対するマグネシウム含有率を20ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは6ppm以下とする。
マグネシウム含有率20ppm以下に調整したゴムラテックスは、次いで固形化することにより生ゴム(天然ゴム)とする。この固形化は、前記した各種生ゴムの製造方法に準ずる凝固工程および乾燥工程を具備し、目的に応じて、圧延、水洗などの工程を含むものである。
例えば、スモークド・シート(RSS)は、リン酸マグネシウムを除去したゴムラテックスを凝固槽に入れ、必要に応じて水を入れて約20%濃度に調整し、凝固薬品として主に酢酸もしくは蟻酸を加える。生成する凝固物を、二本ロールを通しながら、上から水を注いで漿液をしぼる。水洗しながら一定の厚みになったところで、型付ロールにかける。次いで、煙室に吊るして煙で燻しながら乾燥させる。乾燥室内の温度は45?60℃程度とする。ここで、スモーキングすることなく、ADS(Air Dried Sheet)として得てもよい。ペールクレープは、凝固剤を添加する前に腐敗を防止と純白化のために重亜硫酸ナトリウムを加え、乾燥は自然通風あるいは熱風を強制通風するトンネル式乾燥方法とし、クレープ状にロールに押し出して得られる。」(段落【0016】?【0017】)
(2-e)「実施例1
採取した天然ゴムラテックス(固形分30%)に、その総重量の1%となるようにリン酸アンモニウムを添加して一夜静置した後、上澄みを回収し、沈殿したリン酸マグネシウムを除去した。次いで、上澄みとして回収したゴムラテックスをスモークド・シート(RSS)の作製法に準じて固形化し、生ゴムとした。すなわち、ゴムラテックスを固形分濃度約15重量%までイオン交換水で希釈し、これに2?20重量%の蟻酸を添加してゴム分を凝固させた。この凝固したゴムをロールに通しながら漿液を絞り、シート状にした。これを45℃のオーブンで乾燥して固形天然ゴム(生ゴム)を得た。上記の工程において、ゴムラテックス採取後から固形化するまでの日数は2日間とした。」(段落【0029】)

(3)引用文献1に記載された発明
摘示事項(1-a)の請求項1?4、(1-c)及び(1-d)の記載からみて、引用文献1には、「天然ゴムラテックスを、周波数が250?1200Hz及び140℃以下の条件のパルス燃焼による衝撃波の雰囲気下に噴射して乾燥させることを特徴とする天然ゴムラテックスから低粘度化天然ゴムを製造する方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(4)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、「天然ゴムラテックスを、周波数250?1200Hz及び温度140℃以下の条件のパルス波雰囲気中に、噴霧することによって乾燥して固形ゴムを得ることを特徴とする低粘度化天然ゴムの製造方法。」である点で一致し、以下の相違点1で相違するものと認められる。

(相違点1)本願発明1の天然ゴムラテックスは、「天然ゴムラテックスに水溶性アンモニウム塩を加えて処理することによって金属含有量を低下させ、処理された」ものであるのに対し、引用発明の天然ゴムラテックスは、かかる処理は行われていない点。

(5)相違点に対する判断
引用発明は、天然ゴム等のゴムのゲル化を抑制することにより、品質のすぐれたゴムを製造すること(摘示事項(1-b)、(1-e))をその目的の1つとするものである。
これに対し、引用文献2には、「天然ゴムラテックスから生ゴムを製造するに際し、採取した天然ゴムラテックスにリン酸塩を添加し、生成するリン酸マグネシウムを除去後、得られる天然ゴムラテックスを固形化する工程よりなる、生ゴムの製造方法。」(摘示事項(2-a))が記載されており、さらに、「天然ゴム中のゲル分は、反応性や加工性などに悪い影響を及ぼすこと」(摘示事項(2-b))、「リン酸塩で処理し生成するリン酸マグネシウムを除去してマグネシウム含有率を減らし、固形化することによりゲル分が著しく少ない生ゴムが得られる」こと(摘示事項(2-c))、当該リン酸塩としてリン酸アンモニウムが好ましいこと(摘示事項(2-d)及び(2-e))、当該処理は、採取した天然ゴムラテックスにリン酸塩を添加して行い、その後、凝固、乾燥(固形化)すること(摘示事項(2-d)及び(2-e))が記載されている。
なお、リン酸アンモニウムは、水溶性アンモニウム塩といえるものである。
すなわち、引用文献2には、反応性、加工性に影響を及ぼす天然ゴム中のゲル分の減少のために、採取した天然ゴムラテックスをリン酸アンモニウムで処理し、リン酸マグネシウムを除去した後、固形化することが記載されているものと認められる。
そうであるから、引用発明の天然ゴムラテックスに、その更なる品質の改善を目的として、引用発明と同じくゲル化の抑制を目的とする引用文献2に記載されたリン酸アンモニウムによる処理を固形化工程(噴霧、乾燥工程)の前に適用することは、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に試みる事項にすぎない。
そして、引用文献1にはゴムの熱劣化やゲル化の抑制により、破断物性は同等で、ムーニー粘度が低下し、加工性が向上することが記載されている(摘示事項(1-d))のであるから、引用発明に引用文献2のリン酸アンモニウムによる処理を適用することにより、これらの物性のさらなる向上が達成されることは当業者が予測しうる範囲内であり、本願発明1の効果が格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願発明1は、引用文献1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成19年8月6日付け意見書及び平成19年12月20日付け審判請求書(平成20年1月21日付け手続補正書(方式)により補正)において、工学博士 川面哲司氏の「実験成績報告書」を提示して、概ね次のように主張している。

「実験成績報告書では、
実験1(NR-1):NRラテックス → 遠心分離 → パルス乾燥(引用文献1の方法)
実験2(NR-2):NRラテックス → リン酸アンモニウム処理+遠心分離 → パルス乾燥(本願発明の方法)
実験3(NR-3):NRラテックス → リン酸アンモニウム処理+遠心分離 → 凝固 → 乾燥(熱風)(引用文献2の方法)
で実験した結果、以下の表(実験成績報告書から転記)にも示したように、本願発明に係る実験2の方法で得られたNR-2のみが低粘度、高老化物性、低tanδを示し、特に、この60℃におけるtanδの低下(低発熱性)は引用文献1及び2にはその記載がなく、リン酸アンモニウム処理とパルス燃焼乾燥を組み合わせて初めて達成できた予期せぬ効果を示すものであり、本願発明が引用文献1及び2の記載に基づいて当業者が容易になし得たものに当らないことは明白である。」
「天然ゴムラテックスにアンモニウム塩処理を行い、かつパルス衝撃波乾燥により固形化したゴムは、アンモニウム塩処理した天然ゴムラテックスを、従来法に従って酸凝固させてから熱風乾燥した固形ゴムと比較して、低発熱性で耐熱老化性に優れたゴム組成物が製造できる。一方、同じパルス乾燥を用いた場合でもアンモニウム塩処理を行わないと、低発熱性の(tanδが低い)ゴムを得ることができない。
しかしながら、何故、リン酸水素二アンモニウム塩による処理とパルス乾燥とを併用した時にのみ、このような低いtanδが得られるかは明らかでなく、予期し得ない結果であった。」

これについて、検討する。
上記の審判請求人の主張は、概略、本願発明1の低tanδは、水溶性アンモニウム塩による処理とパルス乾燥とを併用することによる、予期し得ない相乗効果であるとの主張と認められる。
しかしながら、従来の加熱乾燥に比して、パルス乾燥ではゴムの熱劣化及びゲル化が抑制されることは、引用文献1にすでに記載されていることであるから、「天然ゴムラテックスにアンモニウム塩処理を行い、かつパルス衝撃波乾燥により固形化したゴムは、アンモニウム塩処理した天然ゴムラテックスを、従来法に従って酸凝固させてから熱風乾燥した固形ゴムと比較して、耐熱老化性に優れたゴム組成物が製造できる。」との効果は予測できる範囲の効果にすぎない。
また、低tanδ(発熱性)については、本願発明1は「低粘度化天然ゴムの製造方法」に係る発明であって、その天然ゴムの用途は特定されていないものであるところ、「低tanδ」との物性は、天然ゴムすべての用途において要求される性質ではない(例えば、免震材、制振材等においては、tanδの高い方が望ましい)ことから、tanδの低下をもって、本願発明1全体の効果とすることはできない。
さらに、付言するに、tanδについて、平成19年8月6日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の実施例1と比較例6とを比較しても格別顕著な差異があるものとは認められない。
これについて、実験成績報告書ではNR-2がNR-3に比して低tanδを示すことが示されているものの、上記したように、本願明細書における同様な例である実施例1と比較例6との対比においては格別顕著な差異は認められない。
また、本願明細書の実施例1と比較例5とを対比すると、実施例1はtanδの低下が認められるものの、実験成績報告書における同様な例であNR-2とNR-1のtanδを比較しても、格別顕著な差異があるものとは認められない。
本願明細書の実施例及び比較例と実験成績報告書のNR-1乃至NR-3とは、上記の様に、そのデータの相互の関係に齟齬があって、一定の傾向を認めることはできないから、本願明細書の記載及び実験成績報告書の結果をもって、直ちに格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、審判請求人の主張する低発熱性、耐熱老化性の向上効果は、通常予想される向上の程度をはるかに超えた優れた効果とは直ちには認められないから、相乗効果を示すものであるとはいえない。
よって、審判請求人の主張は受け入れられない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-05 
結審通知日 2010-08-10 
審決日 2010-08-23 
出願番号 特願2006-228149(P2006-228149)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 純  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
大島 祥吾
発明の名称 低粘度化天然ゴムの製造方法並びにその天然ゴム及びそれを含むゴム組成物  
代理人 古賀 哲次  
代理人 竹内 浩二  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 蛯谷 厚志  

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