• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1224559
審判番号 不服2008-8012  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-03 
確定日 2010-10-07 
事件の表示 平成10年特許願第320412号「共振器型弾性表面波フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月30日出願公開、特開2000-151356〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成10年11月11日の出願であって、平成20年2月29日に拒絶査定がなされ、これに対して同年4月3日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに、同年4月23日に手続補正がなされたものである。

第2 平成20年4月23日付けの手続補正の補正の却下の決定について
[補正却下の決定の結論]
平成20年4月23日付けの手続補正を却下する。
[理由]
平成20年4月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1?2は、
「【請求項1】
圧電基板上に形成されると共に入出力端子間に直列に接続されて直列アームを構成し、固有のインピーダンス特性を示す直列アーム弾性表面波共振子と、
前記圧電基板に形成されると共に前記直列アームに対してはしご型接続されて並列アームを構成し、固有のインピーダンス特性を示す並列アーム弾性表面波共振子とを有し、
前記直列アーム弾性表面波共振子及び並列アーム弾性表面波共振子のバンド幅に基づいた周波数範囲の信号を通過させる共振器型弾性表面波フィルタにおいて、
前記直列アーム弾性表面波共振子に直列に接続されて該直列アーム弾性表面波共振子におけるバンド幅を広げる直列アーム用インダクタと、
前記並列アーム弾性表面波共振子に直列に接続されて該並列アーム弾性表面波共振子におけるバンド幅を広げる並列アーム用インダクタとを有し、
前記並列アーム弾性表面波共振子の一端が直接グラウンドに接続されており前記並列アーム弾性表面波共振子の他端が前記並列アーム用インダクタに接続されていることを特徴とする共振器型弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
前記直列アーム用インダクタ及び前記並列アーム用インダクタは、前記圧電基板に外付けされたインダクタ、該圧電基板上に形成されたスパイラル型インダクタまたは該圧電基板上に形成されたミアンダ型インダクタから選択されたインダクタで構成したことを特徴とする請求項1記載の共振器型弾性表面波フィルタ。」と補正された。
上記補正は、請求項1の「並列アーム弾性表面波共振子」について、「前記並列アーム弾性表面波共振子の一端が直接グラウンドに接続されている」であったものを、「前記並列アーム弾性表面波共振子の一端が直接グラウンドに接続されており前記並列アーム弾性表面波共振子の他端が前記並列アーム用インダクタに接続されている」と限定したものであって、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-183380号公報「弾性表面波フィルタ」(以下、「刊行物1」という。)には、
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 所定の共振周波数(frp)を有する第1の一端子対弾性表面波共振器(21)を並列腕(22)に、該第1の共振器の反共振周波数(fap) に略一致する共振周波数(frp) をもつ第2の一端子対弾性表面波共振器(23)を直列腕(24)に配してなる梯子型の弾性表面波フィルタにおいて、
該第1の弾性表面波共振器(21)に直列にインダクタンス(25)を付加した構成としたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】 所定の共振周波数を有する第1の一端子対弾性表面波共振器を並列腕に、該第1の共振器の反共振周波数に略一致する共振周波数をもつ第2の一端子対弾性表面波共振器を直列腕に接続してなる梯子型の弾性表面波フィルタにおいて、
該第1の弾性表面波共振器(R_(1)A)に直列にインダクタンス(L_(1))を付加し、且つ該第1の弾性表面波共振器の開口長(A_(p) )を、該第2の弾性表面波共振器の開口長(A_(s))より長く定めた構成としたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項3】 所定の共振周波数を有する第1の一端子対弾性表面波共振器を並列腕に、該第1の共振器の反共振周波数に略一致する共振周波数をもつ第2の一端子対弾性表面波共振器を直列腕に接続してなる梯子型の弾性表面波フィルタにおいて、
該第1の弾性表面波共振器(R_(1)B)に直列にインダクタンス(L_(1))を付加し、且つ該第1の弾性表面波共振器(R_(1)B)の対数(N_(P) )を、該第2の弾性表面波共振器(R_(2))の対数(N_(S))より多く定めた構成としたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項4】 所定の共振周波数を有する第1の一端子対弾性表面波共振器を並列腕に、該第1の共振器の反共振周波数に略一致する共振周波数をもつ第2の一端子対弾性表面波共振器を直列に配してなる梯子型の弾性表面波フィルタにおいて、
上記直列腕(61)に、第2の一端子対弾性表面波共振器(R_(2),R_(2) )を複数直列に接続して配し且つこれに直列にインダクタンス(L_(S))を付加してなる構成としたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項5】 所定の共振周波数を有する第1の一端子対弾性表面波共振器を並列腕に、該第1の共振器の反共振周波数に略一致する共振周波数をもつ第2の一端子対弾性表面波共振器を直列腕に配してなる梯子型の弾性表面波フィルタにおいて、
上記並列腕(62,63,64)を複数設けて、各並列腕について該第1の弾性表面波共振器に直列にインダクタンス値の異なるインダクタンス(L_(1),L_(2),L_(3))を付加した構成としたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項6】 所定の共振周波数を有する第1の一端子対弾性表面波共振器を並列腕に、該第1の共振器の反共振周波数に略一致する共振周波数をもつ第2の一端子対弾性表面波共振器を直列腕に配してなる梯子型の弾性表面波フィルタにおいて、
該第1の弾性表面波共振器(R_(1)B)に直列にインダクタンス(L_(1))を付加し、
且つ該第1の弾性表面波共振器を、中央の励振電極(131)とこの両側の反射器(132,133)とよりなり、該反射器を、これと該励振電極との中心間距離をd=(n+β)・λ(ここでnは整数、βは1以下の実数、λは共振周波数に対応した櫛形電極の周期)とするとき、βが実質上0.4となる位置に配した構成としたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項7】 所定の共振周波数を有する第1の一端子対弾性表面波共振器を並列腕に、該第1の共振器の反共振周波数に略一致する共振周波数をもつ第2の一端子対弾性表面波共振器を直列腕に配してなる梯子型の弾性表面波フィルタにおいて、
上記直列腕(61)に、第2の一端子対弾性表面波共振器(R_(2),R_(2))を複数直列に接続して配し且つこれに直列にインダクタンス(L_(1))を付加し、
且つ上記第1の弾性表面波共振器を、中央の励振電極(131)とこの両側の反射器(132,133)とよりなり、該反射器を、これと該励振電極との中心間距離をd=(n+β)・λ(ここでnは整数、βは1以下の実数、λは共振周波数に対応した櫛形電極の周期)とするとき、βが実質上0.4となる位置に配した構成としたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項8】 請求項6又は7の第1の弾性表面波共振器を構成する励振電極及び反射器を、
材料がAl製又は重量比で数%異種金属を混ぜたAl合金製であり、
膜厚が電極周期の0.06?0.09倍である構成としたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項9】 請求項6又は7の第1の弾性表面波共振器を構成する励振電極及び反射器を、
材料がAu製であり、
膜厚が電極周期の0.0086?0.013倍である構成としたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項10】 請求項1のインダクタンスを、ボンディングワイヤ(86_(-3))により構成したことを特徴とる弾性表面波フィルタ。
【請求項11】 請求項1のインダクタンスを、第1及び第2の共振器が形成されたフィルタチップ(82)を収容するセラミックパッケージ(81)上に端子(84_(-3))より延在して形成したマイクロストリップライン(220)により構成したことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項12】 請求項1のインダクタンスを、第1及び第2の共振器が形成されたフィルタチップ(82)上に第1の共振器(R_(1))より延在して形成したマイクロストリップライン(230)により構成したことを特徴とする弾性表面波フィルタ。」(2頁1欄1行?3頁3欄3行)、
イ 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記のフィルタ1において、後述するように等価並列容量C_(OB)を大とすると、矢印7で示すように抑圧度を高めることが出来る。しかし、この容量C_(OB)を増やすと、矢印8で示すように通過帯域幅が狭くなり、且つ矢印9で示すように損失が増え、特性は線10で示す如くになってしまう。
【0009】抑圧度を20dB以上としようとすると、通過帯域幅は比帯域幅にして1%以下となってしまい、上記の自動車携帯電話の仕様を満たすことができなくなってしまう。
【0010】そこで、本発明は、通過帯域幅を広くし、抑圧度を高くし、且つ損失を低くした弾性表面波フィルタを提供することを目的とする。」(5頁7欄46行?8欄12行)、
ウ 「【0043】〔通過帯域幅の改善〕以上の点を解決する一つの手段として、○1[審決注:丸数字1を表記上○1と表した。以下同様に丸数字1、2等を○1、○2等と表す。]直列腕の共振器か若しくは並列腕の共振器かどちらかすくなくとも一方の共振器のfrとfaとの差を広げ、かつ○2そのインピーダンス値若しくはアドミタンス値を大きくするという2つの条件を満たすことが必要である。インピーダンス値やアドミタンス値を大きくする理由は、帯域外減衰量を大きくするためである。これが実現できれば、通過帯域を広げつつ若しくは狭くすることなく、帯域外減衰量を改善できることになる。
【0044】まず、○1の条件である共振器のfr,faの差を広げる方法としては、一端子対弾性表面波共振器に直列にインダクタンスLを付加する方法が有効である。図7(A),(B)に一端子対弾性表面波共振器に直列にLとして8nHを接続した時のインピーダンス及びアドミタンスの周波数変化を示す。計算に用いた弾性表面波共振器の等価回路の各定数は同図に示す。
【0045】図7(A)中、線50は、Lを付加する前のインピーダンス特性を示す。線51は、Lを付加した後のインピーダンス特性を示す。
【0046】図7(B)、線52はLを付加する前のアドミタンス特性を示す。線53は、Lを付加した後のアドミタンス特性を示す。
【0047】図7(A)より、Lを付加することによってfrとfaの間隔は広がっていることが分かる。この場合では約30MHz拡大した。この理由は、同図(A)のインピーダンスの周波数特性から明らかなように、直列にLが加わることにより元の共振器だけのインピーダンスが+側へ、ωL分だけ引上げられる結果、frがfr’へと変化したためである。この時faはほとんど動かない。インピーダンスの逆数であるアドミタンスも同じ理由から同図(A)に示すように変化する。この場合も、frがfr’へと変化していることが明確にわかる。
【0048】次に○2の条件であるが、アドミタンス値は図7(B)からも明らかのようにLを付加することで大きくなっている。しかし、インピーダンス値は図7(A)に示すように帯域外では逆に小さくなっている。従って、直列腕の共振回路にこの方法を適用する場合にはインピーダンス値を大きくする方法が更に必要とする。それには直列に複数個の同じ弾性表面波共振器を接続することにより解決できる。
【0049】図8中、線55は、一つの共振器のインピーダンス特性を示す。線56は、n個の共振器を直列に接続した場合の共振部分のインピーダンス特性を示す。
【0050】図8に示すように、n個の共振器を接続することにより共振器部のインピーダンス値はn倍になる。一方faとfrの差については、Lを繋いだ時の共振周波数の拡がりはfr”と、1個の共振器の場合のfr’よりやや狭くなるものの、Lを繋がない時よりもfaとfrの差は大きくとれる。もし必要であればLの値を増やすことによりfaとfrの差はさらに大きくなる」(7頁11欄21行?12欄23行)、
エ 「【0064】〔実施例1〕図11は、本発明の第1実施例になる弾性表面波フィルタ60を示す。
【0065】現在、国内の自動車・携帯電話の仕様のなかで1つの例をあげると、933.5MHzを中心周波数として、±8.5MHzの範囲が移動機器の送信帯域で、そこから-55MHz離れた878.5MHzを中心周波数として、±8.5MHzの範囲が受信帯域という仕様がある。
【0066】本実施例は、上記の移動機器の送信側フィルタに適するように設計してある。後述する他の実施例も同様である。
【0067】直列腕61に一端子対弾性表面波共振器R_(2)及びR_(4)が配してある。
【0068】並列腕62,63,64に夫々一端子対弾性表面波共振器R_(1),R_(3),R_(5)が配してある。
【0069】L_(1),L_(2),L_(3)はインダクタンスであり、夫々共振器R_(1),R_(3),R_(5)と接続して並列腕62,63,64に配してある。
【0070】共振器R_(1)?R_(5)は、図3(A)に示す櫛形電極構造を有する。
【0071】対数は100、開口長は80μmである。
【0072】材料は、Al-2%Cuであり、膜厚は3,000Åである。
【0073】また、櫛形電極の周期が適宜定めてあり、並列腕62,63,64中の各共振器R_(1),R_(3),R_(5)の共振周波数は、912MHz、反共振周波数は934MHzとしてある。
【0074】直列腕61中の各共振器R_(2),R_(4)の共振周波数は934MHz、反共振周波数は962MHzとしてある。
【0075】インダクタンスL_(1),L_(2),L_(3)は共に4nHである。
【0076】上記構成の弾性表面波フィルタ60は、図12中、線65で示す通過特性を有する。
【0077】インダクタンスLが2nH、6nHの場合、図11のフィルタ60の通過特性は、夫々図12中、線66,67で示す如くになる。
【0078】図12に基づいて、通過帯域幅に対するL依存性を表わすと、図13(A)の線70で示す如くになる。ここで、最小挿入損失から-3dB下がった減衰量のレベルにおける周波数幅を、通過帯域幅とした。
【0079】同様に、図12に基づいて、通常帯域外抑圧度に対するL依存性を表わすと、図13(B)の線71で示す如くになる。
【0080】図12より分かるように、Lをあまり大きくすると、中心周波数から55MHz低周波数側の抑圧領域が充分とれなくなってしまう。そこで、Lは上記のように4nHとしてある。
【0081】なお、Lの値は、フィルタの仕様に応じて適当に選択されるものである。
【0082】図70に示す従来構成のフィルタ1の通過特性は、図12中線68で示す如くになる。
【0083】図12中、本実施例のフィルタ60の通過特性(線65)を従来のフィルタの通過特性(線68)と比較するに、本実施例のフィルタ60は、従来のフィルタに比べて、矢印75で示すように通過帯域幅が広く、矢印76で示すように通過帯域外の抑圧度が高く、しかも矢印77で示すように損失が低いことが分かる。
【0084】図14及び図15は、図11の弾性表面波フィルタ60を実現した弾性表面波フィルタ装置80を示す。
【0085】81はセラミックパッケージ、82はフィルタチップ、83はアースとして機能する蓋である。
【0086】セラミックパッケージ81はアルミナセラミック製であり、サイズは5.5×4mm^(2)の高さが1.5mmと小さい。
【0087】このセラミックパッケージ81にはAu製の電極端子84_(-1)?84_(-6)が形成してある。
【0088】フィルタチップ82は、LiTaO_(3)製であり、サイズは2×1.5mm^(2)の厚さが0.5mmである。
【0089】このフィルタチップ82の表面に、対数が100、開口長が80μm、材料がAl-2%Cu、膜厚が3,000Åの櫛形電極構造を有する共振器R_(1)?R_(5)が、互いに弾性表面波の伝播路を共有しないように、ずらして配置してある。
【0090】またフィルタチップ82の表面には、ボンディング用端子としての、二つの信号線用端子85_(-1),85_(-2)及び三つのアース用端子85_(-3),85_(-4),85_(-5)が形成してある。
【0091】86_(-1)?86_(-5)はボンディングワイヤであり、Al又はAu製であり、径が25μmφであり、夫々端子84_(-1)?84_(-5)と端子85_(-1)?85_(-5)とにボンディングされて接続してある。
【0092】このうち、ワイヤ86_(-1),86_(-2)は夫々図11中の直列腕61の一部61a及び61bを構成する。
【0093】ワイヤ86_(-3)はアース用電極端子84_(-3)と85_(-3)との間に接続してあり、ワイヤ86_(-4)は別のアース用電極端子84_(-4)と85_(-4)との間に接続してあり、ワイヤ86_(-5)は別のアース用電極端子84_(-5)と85_(-5)との間に接続してある。
【0094】このワイヤ86_(-3)?86-_(-5)は長さが共に2.0mmと長い。
【0095】このように、細くて長いワイヤは高周波の理論によれば、インダクタンス分を持つ。
【0096】空中リボンインダクタの理論式(倉石:理工学講座、「例題円周マイクロ波回路」東京電機大学出版局のP199に記載)によれば、上記のワイヤ86_(-3),86_(-4),86_(-5)のインダクタンスは約1nHとなる。
【0097】4nHのインダクタンスを得るためにはこれでは不充分であり、後述する図40及び図41に図示するようなセラミックパッケージとフィルタチップ上のLを利用した。
【0098】このようにして、図11中のインダクタンスL_(1),L_(2),L_(3)を構成する。」(8頁13欄28行?9頁15欄34行)、
オ 「【0127】〔実施例4〕図21は本発明の第4実施例になる弾性表面波フィルタ110を示す。本実施例は、直列腕の共振回路の反共振周波数f_(a)と共振周波数f_(r)との差を拡大することによって通過特性を改善したものである。
【0128】図中、図11に示す構成部分と対応する部分には同一符号を付す。
【0129】直列腕61のうち、並列腕62,63の間の部分に同じ共振器R_(2)が二つ直列に接続され、更にこれに直列に3nHのインダクタンスL_(S)が付加してある。
【0130】同じく、直列腕61のうち、並列腕63,64の間の部分に、同じ共振器R_(4 )が二つ直列に接続され、更に、これに直列に3nHのインダクタンスLS が付加してある。
【0131】並列腕62には、一つの共振器R位置だけが配してある。
【0132】同じく、並列腕63には、一の共振器R_(3)だけが配してある。
【0133】同様に、並列腕64には、一の共振器R_(4)だけが配してある。
【0134】このフィルタ110は、図22中、線111で示す通過特性を有する。
【0135】ここで、インダクタンスL_(S)及び一の共振器R_(3),R_(4)の付加の効果について説明する。
【0136】図21のフィルタ110より、インダクタンスL_(S)と一の共振器R_(3),R_(4)とを削除すると、図42に示す従来のフィルタ1と同じくなる。この状態の通過特性は、線68(図12参照)で示す如くである。
【0137】上記インダクタンスL_(S)を追加すると、矢印112で示すように通過帯域幅が拡大すると共に、矢印113で示すように帯域外抑圧度が増えた。特に通過帯域幅についてみると、特に高周波数側への拡大が大きく、高周波数側に約15MHz帯域幅が拡大した。通過特性は、線114で示すごとくになった。
【0138】この状態では、帯域外抑圧度は十分でない。そこで一の共振器R_(3),R_(4)を追加した。
【0139】この一の共振器R_(3),R_(4)を追加すると、通過帯域幅を狭めることなく、矢印115で示すように、帯域外抑圧度が約5dB改善され、線111で示す通過特性となった。
【0140】線111を線68と比較するに、矢印116で示すように損失も従来に比べて改善されている。
【0141】なお、直列腕61の共振器R_(3),R_(4)は夫々三個以上でもよい。
【0142】また、図21中二点鎖線で示すように、並列腕62?64に、インダクタンスを挿入してもよい。」(10頁17欄11行?18欄7行)、
カ 「【0207】〔実施例9〕本実施例は、図11中のインダクタンスL_(1),L_(2),L_(3)を実現する別の例である。
【0208】図40中、図14に示す構成部分と対応する部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0209】220,221はジグザグ状のマイクロストリップラインであり、夫々端子84_(-3)及び84_(-5)より延出してセラミックパッケージ81上に形成してある。
【0210】各マイクロストリップライン220,221の先端がアースと接続してある。
【0211】各マイクロストリップライン220,221のパターン幅は100μm、マイクロストリップラインとアース間の長さは0.5mmである。
【0212】セラミックパッケージ81の比誘電率を9とすると、リボンインダクタの理論式から、上記のマイクロストリップライン220,221のインダクタンス値は2nHとなる。
【0213】〔実施例10〕本実施例は、図11中のインダクタンスL_(1),L_(2),L_(3)を実現する更に別の例である。
【0214】図41中、図14に示す構成部分と対応する部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0215】230,231はジグザグ状のマイクロストリップラインであり、夫々共振器R_(1),R_(2)より延出して、フィルタチップ82上に形成してある。
【0216】各マイクロストリップライン230,231の先端に、端子85_(-3),85_(-5)が形成してある。
【0217】各マイクロストリップライン230,231は、厚さが3000Å、幅が60μm、全長が約2mmである。
【0218】フィルタチップ(LiTaO_(3))82の比誘電率を44とすると、マイクロストリップライン230,231のインダクタンス値は、理論式より、2.2nHとなる。
【0219】なお、インダクタンスを、ボンディングワイヤ86_(-3)、セラミックパッケージ81上のマイクロストリップライン220,フィルタチップ82上のマイクロストリップライン230を適宜組合わせることによって形成することもできる。」(12頁22欄16行?13頁23欄3行)が記載されている。

これらの記載ア?カ及び図面図1?71によれば、刊行物1には、「所定の共振周波数を有する第1の一端子対弾性表面波共振器を並列腕(62?64)に、該第1の共振器の反共振周波数に略一致する共振周波数をもつ第2の一端子対弾性表面波共振器を直列腕(61)に配してなる梯子型の弾性表面波フィルタにおいて、上記直列腕(61)に、第2の一端子対弾性表面波共振器(R_(2),R_(2) )を複数直列に接続して配し且つこれに直列にインダクタンス(L_(S))を付加してなる構成として、直列腕(61)の共振回路の反共振周波数f_(a)と共振周波数f_(r)との差を拡大することによって通過特性を改善し、また、並列腕(62?64)に、直列にインダクタンスを挿入してなる弾性表面波フィルタ。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「第1の一端子対弾性表面波共振器」、「第2の一端子対弾性表面波共振器」、「並列腕(62?64)」、「直列腕(61)」、「梯子型」、「弾性表面波フィルタ」、「インダクタンス(L_(S))」及び「並列腕(62?64)に挿入されたインダクタンス」は、本願補正発明の「並列アーム弾性表面波共振子」、「直列アーム弾性表面波共振子」、「並列アーム」、「直列アーム」、「はしご型」、「共振器型弾性表面波フィルタ」、「直列アーム用インダクタ]及び「並列アーム用インダクタ」に相当する。
引用発明の「第2の一端子対弾性表面波共振器」は、「第1の一端子対弾性表面波共振器」とともに、「梯子型」の「弾性表面波フィルタ」を構成するものであり、刊行物1に記載されている「梯子型」の「弾性表面波フィルタ」の実施例(例えば、上記「1.引用例」、記載エ段落番号【0084】?【0090】、図14、15)を参酌すると、「第1の一端子対弾性表面波共振器」とともに、同一の「圧電基板上に形成される」ものも実施の態様として含むものといえる。
引用発明の「第2の一端子対弾性表面波共振器」は、「第1の共振器の反共振周波数に略一致する共振周波数を」もち、「直列腕(61)に配」されており、「梯子型の弾性表面波フィルタ」を構成するものであるから、入出力端子間に直列に接続されて直列腕(61)を構成し、固有のインピーダンス特性を示すものといえる。
引用発明の「第1の一端子対弾性表面波共振器」は、「所定の共振周波数を有」し、「並列腕(62?64)に」配されており、「梯子型の弾性表面波フィルタ」を構成するものであるから、直列腕(61)に対して梯子型接続されて並列腕(62?64)を構成し、固有のインピーダンス特性を示すものといえる。
引用発明の「弾性表面波フィルタ」は、「梯子型の弾性表面波フィルタ」であるから、梯子型の弾性表面波フィルタの一般的な特性と同様に、「第2の一端子対弾性表面波共振器」及び「第1の一端子対弾性表面波共振器」のバンド幅に基づいた周波数範囲の信号を通過させるものといえる。
引用発明の「インダクタンス(L_(S))」は、直列腕(61)の共振回路の反共振周波数fa と共振周波数fr との差を拡大することによって通過特性を改善するものであるから、「第2の一端子対弾性表面波共振器」におけるバンド幅を広げるものといえる。

したがって、本願補正発明と引用発明は、
「圧電基板上に形成されると共に入出力端子間に直列に接続されて直列アームを構成し、
固有のインピーダンス特性を示す直列アーム弾性表面波共振子と、
前記圧電基板に形成されると共に前記直列アームに対してはしご型接続されて並列アームを構成し、固有のインピーダンス特性を示す並列アーム弾性表面波共振子とを有し、
前記直列アーム弾性表面波共振子及び並列アーム弾性表面波共振子のバンド幅に基づいた周波数範囲の信号を通過させる共振器型弾性表面波フィルタにおいて、
前記直列アーム弾性表面波共振子に直列に接続されて該直列アーム弾性表面波共振子におけるバンド幅を広げる直列アーム用インダクタと、
前記並列アーム弾性表面波共振子に直列に接続される並列アーム用インダクタとを有し、
前記並列アーム弾性表面波共振子が前記並列アーム用インダクタに接続されている共振器型弾性表面波フィルタ。」
の点で一致し、以下の点1、2で相違する。

相違点1
本願補正発明の「並列アーム用インダクタ」は、並列アーム弾性表面波共振子におけるバンド幅を広げるものであるのに対して、引用発明では、その特定がなされていない点。

相違点2
本願補正発明では、「前記並列アーム弾性表面波共振子の一端が直接グラウンドに接続されており前記並列アーム弾性表面波共振子の他端が前記並列アーム用インダクタに接続されている」のに対して、引用発明では、その特定がなされていない点。

3.判断
以下、相違点1、2について検討する。

相違点1について
引用発明は、並列腕(62?64)に直列に挿入されたインダクタンスを備えている。
刊行物1において、通過帯域幅の改善として、直列腕の共振器か若しくは並列腕の共振器かどちらかすくなくとも一方の共振器のfrとfaとの差を広げること(上記記載ウ【0043】)、共振器のfr,faの差を広げる方法としては、一端子対弾性表面波共振器に直列にインダクタンスLを付加する方法が有効であること(上記記載ウ【0044】)が記載されている。即ち、刊行物1において、通過帯域幅の改善として、直列腕の共振器と並列腕の共振器の両方の共振器のfrとfaとの差を広げることも示唆されているといえる。また、上記一端子対弾性表面波共振器に直列に付加するインダクタンスLの構成について、刊行物1の上記エに記載がされており、該インダクタンスLは、一端子対弾性表面波共振器におけるバンド幅を広げるものといえる。
してみると、引用発明において、上記記載事項を採用し、並列腕(62?64)に直列に挿入されたインダクタンスが第1の一端子対弾性表面波共振器におけるバンド幅を広げるものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

相違点2について
引用発明は、並列腕(62?64)に、直列にインダクタンスを挿入してなるものであり、第1の一端子対弾性表面波共振器とインダクタンスとは直列に接続されていることが、通過帯域幅の改善のための構成とされている。
回路技術分野では、特定の点とアースの点との間に接続された特定の素子Aに直列に別の素子Bを挿入するとした場合、特定の素子Aは、特定の点と特別の素子Bとの間に接続される態様(以下、「前者の態様」いう。)と、別の素子Bとアースの点との間に接続される態様(以下、「後者の態様」という。)とが考えられる。これを「並列腕(62?64)に、直列にインダクタンスを挿入してなる」引用発明に適用すると、「前者の態様」として、「第1の一端子対弾性表面波共振器」は、直列腕の点とインダクタンスとの間に接続されることと、「後者の態様」として、「第1の一端子対弾性表面波共振器」は、インダクタンスとアースの点との間に接続されることとが考えられる。引用発明の実施例は、「前者の態様」といえる。(刊行物1図面図21参照。)
上記引用発明の「後者の態様」について、その効果を考察するに際し、「第1の一端子対弾性表面波共振器」の等価回路(刊行物1図面図3(B)参照。)がLCR回路であるといえることを踏まえると、「前者の態様」と同様、通過帯域幅が改善するものといえる。
また、引用発明の「後者の態様」は、当業者が弾性表面波フィルタを設計する上で、格別な困難で、不自然な構成ともいえない。
ところで、本願明細書の発明の効果(例えば、【0029】、【0032】。)を参酌しても、本願発明における相違点2の構成が奏する効果が、刊行物1に記載された通過帯域幅が改善等と比して格別なものとは認められない。さらに、請求人がいう本願発明における相違点2の構成が奏する格別な効果「並列アームSAW共振子における特性の安定化」については、明細書・図面の開示に基づくものではなく、また、明細書・図面の記載から自明なものとも認められないので、採用の限りではない(請求人は、平成19年10月9日付けでした手続補正が新規事項の追加である旨の平成19年12月18日付け拒絶理由通知に対する、平成20年1月17日付け手続補正書にて、【0029】、【0032】についての内容を補正した点に注意されたい。)。
なお、本願発明の「直接グランドに接続された」は、本願明細書記載の「直接アースボンディングパット46に接続された」と解し、該「グランド」は、「アースボンディングパット46」と同義とした。そして、刊行物1の「アース端子」を、該「グランド」とすることに格別困難性は認められない。
してみると、引用発明おいて、第1の一端子対弾性表面波共振器の一端が直接グラウンドに接続されており第1の一端子対弾性表面波共振器の他端が並列腕(62?64)に直列に挿入されたインダクタンスに接続されているとすることは、当業者が容易に想到できたものと認められる。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成20年4月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年10月9付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
圧電基板上に形成されると共に入出力端子間に直列に接続されて直列アームを構成し、固有のインピーダンス特性を示す直列アーム弾性表面波共振子と、
前記圧電基板に形成されると共に前記直列アームに対してはしご型接続されて並列アームを構成し、固有のインピーダンス特性を示す並列アーム弾性表面波共振子とを有し、
前記直列アーム弾性表面波共振子及び並列アーム弾性表面波共振子のバンド幅に基づいた周波数範囲の信号を通過させる共振器型弾性表面波フィルタにおいて、
前記直列アーム弾性表面波共振子に直列に接続されて該直列アーム弾性表面波共振子におけるバンド幅を広げる直列アーム用インダクタと、
前記並列アーム弾性表面波共振子に直列に接続されて該並列アーム弾性表面波共振子におけるバンド幅を広げる並列アーム用インダクタとを有し、
前記並列アーム弾性表面波共振子の一端が直接グラウンドに接続されていることを特徴とする共振器型弾性表面波フィルタ。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及びその記載事項は、前記「第
2 1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を限定したものに相当する本願補正発明が前記「第2 2.」、「第2 3.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-27 
結審通知日 2010-08-10 
審決日 2010-08-23 
出願番号 特願平10-320412
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 和志藤井 浩  
特許庁審判長 田口 英雄
特許庁審判官 久保 正典
飯田 清司
発明の名称 共振器型弾性表面波フィルタ  
代理人 柿本 恭成  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ