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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1224586
審判番号 不服2009-11115  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-15 
確定日 2010-10-07 
事件の表示 特願2003- 38040「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月 2日出願公開、特開2004-243721〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年2月17日の特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成21年1月29日に明細書についての手続補正がされ、平成21年3月31日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成21年6月15日に審判請求がされるとともに明細書についての手続補正がされ、前置報告の内容を通知する主旨の当審による平成22年4月2日付けの審尋に対して、平成22年6月3日に回答がされたものである。

第2 平成21年6月15日付けの手続補正について
平成21年6月15日の手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正を含み、該補正は、補正前(平成21年1月29日の手続補正書参照)に
「【請求項1】
その表面上に単一の光ビームを主走査方向に走査することによってライン状の潜像が形成される潜像担持体をN個(ただしN≧2の自然数)設けた画像形成装置において、
単一の光ビームを射出する光源と、
前記光源からの光ビームを偏向して前記主走査方向に走査するとともに、前記走査光ビームを前記主走査方向とは相違する副走査方向に導いて前記N個の潜像担持体のなかで前記走査光ビームが照射される潜像担持体を選択的に切り替える光走査手段と
を備え、
前記光走査手段は、
前記光源からの光ビームを反射する偏向ミラー面を有する内側可動部材と、
前記内側可動部材を第1軸回りに揺動自在に支持する外側可動部材と、
前記外側可動部材を前記第1軸とは異なる第2軸回りに揺動自在に支持する支持部材と、
前記内側可動部材を前記第1軸回りに揺動駆動し、また前記外側可動部材を前記第2軸回りに揺動駆動するミラー駆動部とを備え、
前記ミラー駆動部は、前記第1軸および前記第2軸のうちの一方を主走査偏向軸として前記偏向ミラー面を揺動させて前記光源からの光ビームを前記主走査方向に走査させる一方、他方を切替軸として前記偏向ミラー面を揺動駆動して前記走査光ビームが照射される潜像担持体を選択的に切り替えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記内側可動部材、前記外側可動部材および前記支持部材はシリコン単結晶で構成されている請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記ミラー駆動部は、前記偏向ミラー面を共振モードで前記主走査偏向軸回りに揺動駆動する請求項1または2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記ミラー駆動部は、静電吸着力により前記偏向ミラー面を前記主走査偏向軸回りに揺動駆動する請求項1ないし3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記ミラー駆動部は、前記偏向ミラー面を非共振モードで前記切替軸回りに揺動位置決めする請求項1ないし4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記ミラー駆動部は、電磁気力により前記偏向ミラー面を前記切替軸回りに揺動位置決めする請求項1ないし5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記光源と前記光走査手段との間に配置されて前記光源からの光ビームを前記副走査方向において収束させて前記偏向ミラー面上に線状結像する第1光学系と、
前記N個の潜像担持体の各々について、該潜像担持体と前記光走査手段との間に配置されて前記光走査手段からの走査光ビームを該潜像担持体の表面に結像する第2光学系とをさらに備える請求項1ないし6のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記偏向ミラー面により前記主走査方向に走査される走査光ビームを、前記偏向ミラー面により導光される潜像担持体の表面に結像させる第3光学系をさらに備え、
前記第3光学系は、単玉レンズで構成され、前記偏向ミラー面の固有の揺動特性で偏向された走査光ビームが各潜像担持体の表面上では等速で移動する歪み特性を有し、かつ、各潜像担持体の表面上の任意の位置における光ビームの子午方向の像面湾曲収差を補正するように、子午平面内の両面の形状が相互に異なる形の非円弧状に形成され、さらに、球欠方向の像面湾曲収差を補正するように、前記両面の少なくとも何れか一方の子午平面内での非円弧曲線に沿った位置の球欠方向の曲率が子午方向の曲率とは相関なく変化するように定められてなる請求項1ないし6のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記N個の潜像担持体に対して互いに異なるN色の画像をそれぞれ形成する請求項1ないし8のいずれかに記載の画像形成装置であって、
前記N色の画像を示すN色の画像データを記憶する記憶手段と、
各色について、前記記憶手段に記憶されている当該色の画像データから走査光ビームの一走査に相当する1ライン画像データを読み出して該1ライン画像データに基づき前記走査光ビームを変調して当該色に対応する潜像担持体にライン状の潜像を形成する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記1ライン画像データの読み出し先を前記N色の画像データから選択的に切り替えながら、前記記憶手段から1ライン画像データを1つずつシリアルに読み出し、その読み出された1ライン画像データごとに該データの色成分に対応するように前記光走査手段による走査光ビームの導光先を切り替える画像形成装置。」
とあったものを、
「【請求項1】
その表面に単一の光ビームが主走査方向に走査することによってライン状の潜像が形成される、N個(ただしN≧2の自然数)の潜像担持体と、
単一の光ビームを射出する光源と、
前記光源からの光ビームを偏向して主走査方向に走査するとともに、前記走査光ビームを前記主走査方向とは相違する副走査方向に導いて前記N個の潜像担持体のなかで前記走査光ビームが照射される潜像担持体を選択的に切り替える光走査手段と
を備え、
前記光走査手段は、
前記光源からの光ビームを反射する偏向ミラー面を有する内側可動部材と、
前記内側可動部材を第1軸回りに揺動自在に支持する外側可動部材と、
前記外側可動部材を前記第1軸とは異なる第2軸回りに揺動自在に支持する支持部材と、
前記内側可動部材を前記第1軸回りに揺動駆動し、また前記外側可動部材を前記第2軸回りに揺動駆動するミラー駆動部とを備え、
前記ミラー駆動部は、前記第1軸および前記第2軸のうちの一方を主走査偏向軸として前記偏向ミラー面を共振モードで揺動させて前記光源からの光ビームを前記主走査方向に走査させる一方、他方を切替軸として前記偏向ミラー面を揺動駆動して前記走査光ビームが照射される潜像担持体を選択的に切り替えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記内側可動部材、前記外側可動部材および前記支持部材はシリコン単結晶で構成されている請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記ミラー駆動部は、静電吸着力により前記偏向ミラー面を前記主走査偏向軸回りに揺動駆動する請求項1または2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記ミラー駆動部は、前記偏向ミラー面を非共振モードで前記切替軸回りに揺動位置決めする請求項1ないし3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記ミラー駆動部は、電磁気力により前記偏向ミラー面を前記切替軸回りに揺動位置決めする請求項1ないし4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記光源と前記光走査手段との間に配置されて前記光源からの光ビームを前記副走査方向において収束させて前記偏向ミラー面上に線状結像する第1光学系と、
前記N個の潜像担持体の各々について、該潜像担持体と前記光走査手段との間に配置されて前記光走査手段からの走査光ビームを該潜像担持体の表面に結像する第2光学系とをさらに備える請求項1ないし5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記偏向ミラー面により前記主走査方向に走査される走査光ビームを、前記偏向ミラー面により導光される潜像担持体の表面に結像させる第3光学系をさらに備え、
前記第3光学系は、単玉レンズで構成され、前記偏向ミラー面の固有の揺動特性で偏向された走査光ビームが各潜像担持体の表面上では等速で移動する歪み特性を有し、かつ、各潜像担持体の表面上の任意の位置における光ビームの子午方向の像面湾曲収差を補正するように、子午平面内の両面の形状が相互に異なる形の非円弧状に形成され、さらに、球欠方向の像面湾曲収差を補正するように、前記両面の少なくとも何れか一方の子午平面内での非円弧曲線に沿った位置の球欠方向の曲率が子午方向の曲率とは相関なく変化するように定められてなる請求項1ないし5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記N個の潜像担持体に対して互いに異なるN色の画像をそれぞれ形成する請求項1ないし7のいずれかに記載の画像形成装置であって、
前記N色の画像を示すN色の画像データを記憶する記憶手段と、
各色について、前記記憶手段に記憶されている当該色の画像データから走査光ビームの一走査に相当する1ライン画像データを読み出して該1ライン画像データに基づき前記走査光ビームを変調して当該色に対応する潜像担持体にライン状の潜像を形成する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記1ライン画像データの読み出し先を前記N色の画像データから選択的に切り替えながら、前記記憶手段から1ライン画像データを1つずつシリアルに読み出し、その読み出された1ライン画像データごとに該データの色成分に対応するように前記光走査手段による走査光ビームの導光先を切り替える画像形成装置。」
と補正するものである。

補正前の請求項1における「潜像担持体をN個(ただしN≧2の自然数)設けた画像形成装置において、」が示す画像形成装置の構成と、補正後の請求項1における「N個(ただしN≧2の自然数)の潜像担持体と、・・・を備え、・・・画像形成装置。」が示す画像形成装置の構成には、実質的な違いがない。
補正前の請求項1における「前記偏向ミラー面を揺動させて」を補正後の請求項1において「前記偏向ミラー面を共振モードで揺動させて」とした点は偏向ミラー面の揺動を共振モードによるものに限定しているが、この限定は補正前の請求項3に記載されている。
してみると、補正後の請求項1は、補正前の、請求項1を引用する請求項3に対応する。

補正後の請求項2は、補正前の、請求項2を引用する請求項3に対応する。

補正後の請求項3は、補正前の、(請求項1ないし3を引用するとしていたうちの)請求項3を引用する請求項4に対応する。
補正後の請求項4は、補正前の、(請求項1ないし4を引用するとしていたうちの)、請求項3を引用する請求項5及び請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5に対応する。
補正後の請求項5は、補正前の、(請求項1ないし5を引用するとしていたうちの)、請求項3を引用する請求項6、請求項3を引用する請求項4を引用する請求項6、請求項3を引用する請求項5を引用する請求項6及び請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5を引用する請求項6に対応する。
以下同様に、補正後の請求項6ないし8は、それぞれ、補正前の、先行するすべての請求項を引用する形式で記載された請求項7ないし9を、先行する請求項を引用しない独立形式に書き改めた各請求項のうち、請求項3に記載された、偏向ミラー面の揺動を共振モードによるものとする点を含まない請求項を削除し、該構成を含む請求項を残したものに対応する。

してみると、本件補正による特許請求の範囲の補正は、補正前の請求項3に記載された「偏向ミラー面の揺動を共振モードによるものとする点」を備えた発明に係る請求項以外の請求項を削除したことに相当する。

したがって、本件補正における特許請求の範囲の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的としたものと認められる。
また、本件補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められるから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

第3 本願発明
上記のとおり、本件補正は適法であるので、本願の請求項1に係る発明は、平成21年6月15日に補正された本願の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
その表面に単一の光ビームが主走査方向に走査することによってライン状の潜像が形成される、N個(ただしN≧2の自然数)の潜像担持体と、
単一の光ビームを射出する光源と、
前記光源からの光ビームを偏向して主走査方向に走査するとともに、前記走査光ビームを前記主走査方向とは相違する副走査方向に導いて前記N個の潜像担持体のなかで前記走査光ビームが照射される潜像担持体を選択的に切り替える光走査手段と
を備え、
前記光走査手段は、
前記光源からの光ビームを反射する偏向ミラー面を有する内側可動部材と、
前記内側可動部材を第1軸回りに揺動自在に支持する外側可動部材と、
前記外側可動部材を前記第1軸とは異なる第2軸回りに揺動自在に支持する支持部材と、
前記内側可動部材を前記第1軸回りに揺動駆動し、また前記外側可動部材を前記第2軸回りに揺動駆動するミラー駆動部とを備え、
前記ミラー駆動部は、前記第1軸および前記第2軸のうちの一方を主走査偏向軸として前記偏向ミラー面を共振モードで揺動させて前記光源からの光ビームを前記主走査方向に走査させる一方、他方を切替軸として前記偏向ミラー面を揺動駆動して前記走査光ビームが照射される潜像担持体を選択的に切り替えることを特徴とする画像形成装置。」(以下「本願発明」という。)

第4 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-276712号公報(以下「引用例」という。)には、図と共に次の記載ア.及びイ.がある。
ア.「【請求項1】 画像情報により記録紙に画像を形成するための画像形成装置において、
露光により潜像が形成される感光ドラムと所定色の現像剤を収容してその潜像を現像する現像器をそれぞれ含み、相異なる色の現像された画像を提供する複数の画像形成ユニットと、
前記画像情報により光を投射する露光器と、
前記露光器から投射される光で前記複数の画像形成ユニットのうち選ばれた画像形成ユニットにある感光ドラムを露光するようにその光の光路を制御するための光路制御手段と、
前記複数の画像形成ユニットの感光ドラムから前記記録紙に選ばれた感光ドラムに現像された画像を転写させるための転写手段と、
前記転写手段に/から前記記録紙を供給/排紙するための給排紙手段とが具備されたことを特徴とする画像形成装置。」

イ.「【0016】図2に示した本発明の第1実施例による画像形成装置において、符号10は原稿、20は読み取り器、30は露光器、40a?40dは画像形成ユニット、50は給紙カセット、60は転写ドラムである。
(【0017】は省略。)
【0018】露光器30はその伝送された電気的な画像信号に応じて、例えば細いレ-ザ-ビ-ムを投射する。この露光器30と前述した画像形成ユニット40a?40d間には、その投射されるレ-ザ-ビ-ムの光路を制御するための1個の第1ミラ-部材31と3個の第2ミラ-部材32a?32cが設けられている。第1ミラ-部材31は、例えばガルバノメ-タミラ-として、レ-ザ-ビ-ムをそのまま透過させたりまたは相異なる位置に固定設けられた3個の第2ミラ-部材32a?32cに選択的に反射させるように定められた多様な角度で回転作動される。第2ミラ-部材32a?32cはそれぞれの位置Ha,Hb,Hc,Hdで第1ミラ-部材31から反射されて来るレ-ザ-ビ-ムを前方にあるそれぞれの画像形成ユニット内の各感光ドラムに反射させる。
【0019】画像形成ユニット40a?40dはそれぞれ感光ドラム41、この感光ドラム41を帯電させる帯電ロ-ラ42と現像剤44を収容し、その現像剤44を感光ドラム41に塗布する現像ロ-ラ45を有する現像器43と、感光ドラム41に付いている残余現像剤を取り除くクリ-ナ46より構成される。このような4個の画像形成ユニット40a?40dは相互垂直方向に積層され、例えば、上から黒色,イエロ-,マゼンタ,シアンとなる4色相の現像された画像を提供する。初期に感光ドラム41の表面は帯電ロ-ラ42により均一に帯電されている。その表面には露光器30により露光される部分の電荷が取り除かれることにより目では見えない、いわゆる静電潜像が形成される。現像器43は現像ロ-ラ45を回転させて内部に収容された現像剤44を感光ドラム41に形成された静電潜像部位に吸着させることにより、その静電潜像を現像して始めて可視化された画像を作る。
【0020】給紙カセット50は記録紙51を多数収納し、給紙ロ-ラ52を通じて回転する転写ドラム60に巻かれるように一枚ずつ給紙する。給紙される記録紙51の用紙帯電器53により帯電され、同時に転写ドラム60がドラム帯電器61によって帯電されることにより、その転写ドラム60の周面に吸着される。一側の除電器62と分離爪54および定着ロ-ラ55は画像が記録終了された記録紙51をその転写ドラム60から分離して装置の外に排紙させ、また記録紙に転写された画像を定着させるための排紙手段より構成された。ここで、除電器62は記録紙51がその転写ドラム60から離れるようにその吸着のための帯電状態を取り除く。そして、分離爪54は除電された記録紙51を転写ドラム60から取り除-いて定着ロ-ラ55に案内する。
【0021】転写ドラム60にはまた前記のドラム帯電器61と除電器62以外にも転写用帯電器63がさらに具備されている。転写ドラム60は転写のために選ばれたいずれか画像形成ユニットにある感光ドラム41の高さに移動するように、後述する駆動手段により昇降される。帯電器61,63、除電器62は転写ドラム60と共に昇降される。しかしながら、給紙と排紙および転写時に転写ドラム60は回転されるが、その帯電器61,63、除電器62は回転されない。」

上記イ.には「【0018】露光器30はその伝送された電気的な画像信号に応じて、例えば細いレ-ザ-ビ-ムを投射する。」とあり、上記イ.が参照する図2は、露光器30が第1ミラー部材31に加えて回転多面鏡とレンズを備えることを示唆するものの、レ-ザ-ビ-ムがどのように投射されるかは定かでない。
しかしながら、上記イ.によれば、転写ドラム60が回転し、その周面に吸着された記録紙51に感光ドラム41上の現像された画像が転写されるのであるから、感光ドラム41の長さ方向に走査するようレ-ザ-ビ-ムが投射されること及び露光器30がなんらかの走査手段を備えることは自明である。
通常、この走査方向は主走査方向と呼ばれ、記録紙51の搬送方向であって、感光ドラム41と転写ドラム60の周面の回転方向は副走査方向と呼ばれる。

してみると、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。
「その表面に単一のレーザービームが主走査方向に走査することによってライン状の静電潜像が形成される、4個の感光ドラムと、
単一のレーザービームを射出する光源と、
前記光源からのレーザービームを偏向して主走査方向に走査する走査手段とともに、前記走査レーザービームを前記主走査方向とは相違する方向に導いて前記4個の感光ドラムのなかで前記走査レーザービームが照射される感光ドラムを選択的に切り替える第1ミラー部材と
を備える画像形成装置。」(以下「引用発明」という。)

第5 周知技術
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-43406号公報(以下「周知例1」という。)には図と共に次の記載がある。
「【0074】図3に示すように、偏向器134は、レーザ光を2次元的に走査するマイクロスキャナ220を有している(図4参照)。このマイクロスキャナ20は、近年実用化されたスキャナである。なお、本実施の形態では、レーザ光を1次元的に走査する場合の例である。マイクロスキャナ220は、走査光を反射する偏向ミラー222と、偏向ミラー222をX軸回りに回動可能に保持する梁224Xと、梁224Xが固定された枠部材228と、を備えている。
(【0075】は省略。)
【0076】また、マイクロスキャナ220は、枠部材228をY軸回りに回動可能に保持する梁224Yと、梁224Yが固定された基体230と、を備えている。基体230は、偏向器134を構成する載置台236によって支えられている。(以下省略。) 【0077】マイクロスキャナ220に電力を供給する電気配線は、基体230を貫通して載置台236の中に配設されている。梁224Xを介して偏向ミラー222の周縁部に、梁224Yを介して枠部材228に、それぞれ電流が流れるようになっており、この電流により発生する磁場と、マイクロスキャナ220の周囲に設けられた永久磁石240による磁場との相互作用によりローレンツ力が発生し、偏向ミラー222Xは梁224Xを軸としてX軸回りに、枠部材228は梁224Yを軸としてY軸回りに、それぞれ回動可能である。
【0078】偏向ミラー222をY軸回りに回動させる場合、偏向ミラー222及び枠部材228を合わせたものの共振周波数に対応させて、電流のパルス間隔を決定する。
(途中省略。)
Y軸回りの回動により、カラー感熱記録材料34の上でレーザ光のスポット光が主走査方向Uに走査され、X軸回りの回動により、カラー感熱記録材料34の上でレーザ光が副走査方向Vに移動される。」

してみると、周知例1には、以下の偏向器が記載されていると認められる。
「レーザ光を反射するミラー面を有する偏向ミラー222と、
前記偏向ミラー222をX軸回りに揺動自在に支持する枠部材228と、
前記枠部材228を前記X軸とは異なるY軸回りに揺動自在に支持する基体230と、
前記偏向ミラー222を前記X軸回りに揺動駆動し、また前記枠部材228を前記Y軸回りに揺動駆動する、電流と磁場との相互作用によるローレンツ力による偏向ミラー駆動部とを備え、
前記偏向ミラー駆動部は、前記Y軸を主走査偏向軸として前記ミラー面を共振周波数に対応させて揺動させて前記レーザ光を前記主走査方向に走査させる一方、前記X軸周りの回動により前記ミラー面を揺動駆動して、カラー感熱記録材料34の上で前記レーザ光を副走査方向に移動させる偏向器。」

(2)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平60-107017号公報(以下「周知例2」という。)には、図とともに以下の記載がある。
[発明の背景]の項目中に
「レーザビームプリンタ(LBP)に実用されている。しかし、この場合の回転は一次元であるため、二次元走査を行なわせるには少なくとも二つの回転ミラーを必要とする。」(第1頁右下欄第17行目?第2頁左上欄第1行目)

[発明の目的]の項目中に
「本発明の目的は一つの素子で二次元の偏向走査をなしうるガルバノミラーを提供するにある。」(第2頁左上欄第14?15行目)

[発明の概要]の項目中に
「第1図は本発明の原理構造である。
Si単結晶からなる基板1を写真食刻によりジンバルバネ状に加工する。ジンバルバネ2はX方向軸5及びY方向軸6を中心軸として、それぞれ、独立に回転振動する。ジンバルバネ2で支持された基板1の中央の可動部面上には金属蒸着やメッキ等によりガルバノミラー3と薄膜コイル4が形成されている。薄膜コイル4に一定電流を与え、X方向の磁界7及びY方向の磁界8をそれぞれ独立に変化させれば、素子は電磁力によつて軸5及び6を中心軸としてそれぞれ独立に回転振動する。従つて、素子に形成したガルバノミラー3に一定方向から光ビームを入射しておけば、ミラー3からの反射光を被検出量に応じて二次元的に偏向できる。」(第2頁右上欄第7行目?第2頁左下欄第1行目)

周知例2の第1図からは、ジンバルバネ2が、可動部面をX方向軸5回りに揺動自在に支持するジンバルバネ2内側と、ジンバルバネ2内側をY方向軸6回りに揺動自在に支持するジンバルバネ2外側とからなることが看取できる。
してみると、周知例2には、以下の光偏向素子が記載されていると認められる。
「レーザビームプリンタの2次元走査を行う光偏向素子であって、
光ビームを反射するガルバノミラ-3と、薄膜コイル4とが形成されている、基板1の中央の可動部面と、
前記可動部面をX方向軸回りに揺動自在に支持するジンバルバネ2内側と、
前記ジンバルバネ2内側を前記X方向軸とは異なるY方向軸回りに揺動自在に支持するジンバルバネ2外側と、
前記ジンバルバネ2内側を前記X方向軸回りに揺動駆動し、また前記ジンバルバネ2外側を前記Y方向軸回りに揺動駆動する、X方向磁界とY方向磁界が薄膜コイル4に及ぼす電磁力によるガルバノミラ-駆動手段とを備え、
ガルバノミラ-3からの反射光を2次元に偏向できる光偏向素子。」

(3)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-43368号公報(以下「周知例3」という。)には、図とともに以下の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、物体の探査、把握を行うためのレ-ザレ-ダ用のスキャナとして、またファクシミリやプリンタ-の書き込み用として利用する二次元光スキャナに関するものである。」

「【0011】図2の(a),(b)は、シリコン基板上に形成されたミラ-3の具体的な形状の実施例である。図2において、13はX軸I、14はY軸I、15はX軸II、16はY軸IIである。(a)はレ-ザ光20が、反射する面ミラ-3に入射されると、X軸I13とY軸I14を中心にミラ-3が変位して二次元走査される。(以下省略。)
【0012】図3は、駆動電極5のパタ-ンの一実施例である。図3において、17はX軸駆動電極、18はY軸駆動電極であり、この電極に電圧を印加すると、ミラ-3を二次元に変位させ、レ-ザ光を二次元走査することができる。
【0013】以上のように、本実施例によれば、シリコン基板上に形成したミラ-3を駆動電極5に電圧を制御して加え、静電力により、X軸,Y軸方向に変位させることにより、レ-ザ光20を二次元走査するとともに、二次元走査している光の一部をプリズム7により半導体位置検出素子の検出面に導くことにより、走査位置を検出することができる、超小型で高性能な二次元光スキャナを提供することができる。」

周知例3の図2からは、シリコン基板が、中央のミラー3、ミラー3を囲みX軸Iで該ミラー3と結ばれた枠、該枠を囲みY軸Iで該枠と結ばれた外周部からなることが看取できる。

してみると、周知例3には、以下の二次元光スキャナが記載されていると認められる。
「レ-ザレ-ダ用のスキャナとして、またファクシミリやプリンタ-の書き込み用として利用する二次元光スキャナであって、
レーザ光を反射するミラーと、
前記ミラーをX軸I回りに揺動自在に支持する枠と、
前記枠を前記X軸Iとは異なるY軸I回りに揺動自在に支持するシリコン基板外周部と、
前記ミラーを前記X軸I回りに揺動駆動し、また前記枠を前記Y軸I回りに揺動駆動するミラー駆動部とを備えた、二次元光スキャナ。」

(4)上記(1)?(3)より、本願出願前に以下の2次元偏向手段が周知であったと認めることができる。
「レーザビームプリンタ等に用いる2次元偏向手段であって、
光源からの光ビームを反射する偏向ミラー面を有する内側可動部材と、
前記内側可動部材を第1軸回りに揺動自在に支持する外側可動部材と、
前記外側可動部材を前記第1軸とは異なる第2軸回りに揺動自在に支持する支持部材と、
前記内側可動部材を前記第1軸回りに揺動駆動し、また前記外側可動部材を前記第2軸回りに揺動駆動するミラー駆動部と、
を備えた2次元偏向手段。」(以下「周知技術」という。)

第6 対比
本願発明と引用発明とを比較する。
引用発明の「レーザービーム」、「静電潜像」、「4個」、「感光ドラム」、「単一のレーザービームを射出する光源」は、それぞれ、本願発明の「光ビーム」、「潜像」、「N個(ただしN≧2の自然数)」、「潜像担持体」、「単一の光ビームを射出する光源」に相当する。

引用発明において、「走査手段」と「第1ミラー部材」とにより、レーザービームの主走査方向への偏向と、レーザービームを主走査方向とは相違する方向、すなわち副走査方向ともいえる方向に導く偏向とがなされるのであるから、「走査手段」と「第1ミラー部材」とを合わせて「偏向手段」とみることができる。
引用発明の「偏向手段」は、「光源からの光ビーム(レーザービーム)を偏向して主走査方向に走査するとともに、走査光ビーム(レーザービーム)を前記主走査方向とは相違する副走査方向に導いてN個(4個)の潜像担持体(感光ドラム)のなかで前記走査光ビーム(レーザービーム)が照射される潜像担持体(感光ドラム)を選択的に切り替える」点で、本願発明の「光走査手段」と共通している。

すると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「その表面に単一の光ビームが主走査方向に走査することによってライン状の潜像が形成される、N個(ただしN≧2の自然数)の潜像担持体と、
単一の光ビームを射出する光源と、
前記光源からの光ビームを偏向して主走査方向に走査するとともに、前記走査光ビームを前記主走査方向とは相違する副走査方向に導いて前記N個の潜像担持体のなかで前記走査光ビームが照射される潜像担持体を選択的に切り替える光走査手段とを備える画像形成装置。」

<相違点>
本願発明の「光走査手段」は、「光走査手段は、光源からの光ビームを反射する偏向ミラー面を有する内側可動部材と、前記内側可動部材を第1軸回りに揺動自在に支持する外側可動部材と、前記外側可動部材を前記第1軸とは異なる第2軸回りに揺動自在に支持する支持部材と、前記内側可動部材を前記第1軸回りに揺動駆動し、また前記外側可動部材を前記第2軸回りに揺動駆動するミラー駆動部とを備え、前記ミラー駆動部は、前記第1軸および前記第2軸のうちの一方を主走査偏向軸として前記偏向ミラー面を共振モードで揺動させて前記光源からの光ビームを前記主走査方向に走査させる一方、他方を切替軸として前記偏向ミラー面を揺動駆動して前記走査光ビームが照射される潜像担持体を選択的に切り替える」と特定されるのに対して、引用発明の「光走査手段」(偏向手段)は該特定を有しない点。

第7 判断
<相違点>について
引用発明の「偏向手段」と周知技術の「2次元偏向手段」は、ともにレーザビームプリンタに用いる点で共通しているから、引用発明の「偏向手段」を周知技術の「2次元偏向手段」に置き換え、光ビーム(レーザービーム)の主走査と走査光ビーム(レーザービーム)が照射される潜像担持体(感光ドラム)の選択的な切り替えに用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

一方、ある部材を振動させるときに、その部材の固有振動数と同じ振動数で駆動、つまり共振モードで駆動すれば、エネルギーロスと振動数の変動が少ない効率的で安定した駆動ができることは力学からも導かれる技術常識である。
そして、レーザービームを用いる画像形成装置の主走査は高速つまり高い振動数で行うのであるから、効率的で安定した駆動が望ましい。

よって、引用発明の「偏向手段」を周知技術の「2次元偏向手段」に置き換える際に、主走査のための駆動を共振モードとすることは、当業者が、設計事項の範囲内で実施し得たことである。
周知技術を裏付けるものとして挙げた周知例1に記載された偏向器が、共振周波数に対応させて揺動させてレーザ光を主走査方向に走査させていること(上記「第5 周知技術 (1)」参照。)、及び原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-5124号公報に「【0082】例えば、可動板6を常に共振駆動させたい場合には、このフィードバック回路を構成することにより、周囲温度変化や経時変化などによる僅かな共振点の変化に追従しながら光偏向器10の駆動を行うことができる。これにより、光偏向器10の可動板6の偏向角の安定性が大幅に向上する。」とあることは、このことを裏付ける。

以上のことから、引用発明において、本願発明の相違点に係る構成を備えることは、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
また、該構成を備えることによる効果も、当業者が予測し得る程度のものである。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

回答書において、請求人は、主走査と異なる方向への偏向である点では共通していても、周知例1記載のものにおける副走査のための偏向と、本願発明における照射される潜像担持体を選択的に切り替えるための偏向は相違する旨を主張しているので検討する。

周知例の偏向器の2次元偏向機能をどう使うかは限定されるものではなく、主走査のためにある1方向の偏向機能を使った際に、残るもう1方向の偏向機能をどう使うかは任意である。例えば、周知例3の二次元光スキャナは、ファクシミリやプリンタ-の書き込み用以外にレ-ザレ-ダ用ともされている(上記「第5 周知技術 (3)」参照。)。

また、照射される潜像担持体を選択的に切り替えるための偏向は、引用発明が備える機能であり、引用発明の「偏向手段」を周知技術の「2次元偏向手段」に置き換え、周知技術の2次元偏向機能のうち1次元の偏向機能を光ビーム(レーザービーム)の主走査に用いたならば、残る1次元の偏向機能は自ずと走査光ビーム(レーザービーム)が照射される潜像担持体(感光ドラム)の選択的な切り替えに用いることになる。

以上のことから、請求人の該主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-05 
結審通知日 2010-08-10 
審決日 2010-08-23 
出願番号 特願2003-38040(P2003-38040)
審決分類 P 1 8・ 571- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石原 徹弥藏田 敦之  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 桐畑 幸▲廣▼
星野 浩一
発明の名称 画像形成装置  
代理人 梁瀬 右司  
代理人 振角 正一  

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