• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1224650
審判番号 不服2008-17441  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-08 
確定日 2010-10-20 
事件の表示 特願2007-151880「無線ICタグおよび無線ICタグの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月18日出願公開、特開2008-305179、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成19年6月7日の出願であって、平成20年2月1日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月23日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年5月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月8日付けで審判請求がなされ、同年8月7日付けで手続補正がなされたところ、同年11月11日付けで審査官により前置報告がなされ、平成21年10月28日付けで上申書が提出され、平成22年4月21日付けで当審より審尋がなされ、同年6月25日付で回答書が提出されたものである。

そして、その請求項1乃至請求項6に係る発明は、平成20年8月7日付けの手続補正書に記載された、以下のとおりのものと認められる。
「 【請求項1】
電気絶縁性の基材と、前記基材の表面に設けられたアンテナ回路と、前記アンテナ回路に接続されたICチップ、および前記アンテナ回路に接続されたジャンパー線を有する無線ICタグであって、
半田付け可能な樹脂を用いてスクリーン印刷によりアンテナ回路と同一のパターンを形成した後、溶融した半田を用いて前記パターン上に前記アンテナ回路が形成されており、
かつ前記ジャンパー線が、半田付け温度以下の温度で、蒸発、分解あるいは融解する樹脂組成物により絶縁被覆されており、
前記ジャンパー線が、前記アンテナ回路上の任意の箇所に接続できるように前記アンテナ回路が設けられた基材面側に配置されており、
さらに、前記ジャンパー線の一端が、前記アンテナ回路の一端に接続され、他端が、前記アンテナ回路上の所望する共振周波数に対応した箇所に接続されていることを特徴とする無線ICタグ。
【請求項2】
前記基材が、紙製であることを特徴とする請求項1に記載の無線ICタグ。
【請求項3】
前記ジャンパー線が、導体上に、ポリウレタン樹脂を主体とした絶縁ワニスを焼き付けることにより、絶縁被覆されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無線ICタグ。
【請求項4】
前記基材に、高透磁率材料からなる層が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の無線ICタグ。
【請求項5】
前記基材が、高透磁率材料からなる基材であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の無線ICタグ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の無線ICタグの製造方法であって、
電気絶縁性の基材上に、半田付け可能な樹脂を用いてスクリーン印刷によりアンテナ回路と同一のパターンを形成した後、溶融した半田を用いて前記パターン上に前記アンテナ回路を形成する工程、
導体の周囲に半田付け温度以下の温度で、蒸発、分解あるいは融解する樹脂組成物により絶縁被覆されているジャンパー線を、前記アンテナ回路が形成された基材面側に配置する工程、
前記ジャンパー線の加熱により、前記ジャンパー線の一端の前記導体を前記アンテナ回路の一端に接続し、他端を前記アンテナ回路上の所望する共振周波数に対応した箇所に接続する工程、
を有することを特徴とする無線ICタグの製造方法。」


2.原査定の理由
原審における拒絶の査定の要旨は、本願の請求項1乃至請求項6に係る発明は、拒絶の理由に引用された特開2006-024087号公報(以下、「引用文献1」という。)、特開平06-328887号公報(以下、「引用文献2」という。)、特開2006-344871号公報(以下、「引用文献3」という。)、特開2003-178629号公報(以下、「引用文献4」という。)、特開2006-185428号公報(以下、「引用文献5」という。)、特開2006-127424号公報(以下、「引用文献6」という。)、及び、特開2005-167813号公報(以下、「引用文献7」という。)にそれぞれ記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


3.引用文献及び当業者の通常の技術知識
(1)引用文献1について
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、参考のため、当審において付したもの。以降に記載する引用文献2?7についても同様である。)。
A.「【0001】
本発明は、アンテナ及び信号処理回路を備え、荷札情報、センサー情報、セキュリティー情報等を扱う無線デバイス、その製造方法及びその検査方法並びに無線装置及びその製造方法に関する。」

B.「【0086】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、前述の第1の実施形態に係る無線デバイスの製造方法である。図5(a)乃至(c)は、本第2実施形態をその工程順に示す断面図であり、図5(d)は本第2実施形態により製造された無線デバイスを示す斜視図である。……(中略)……
【0087】
図5(a)、(b)及び(d)に示すように、絶縁性基板1上の中央部に、薄膜トランジスタ(TFT)形成技術を使用して、矩形の信号処理回路2を形成し、信号処理回路上の一辺に、一辺に沿うように2つの端子26を形成する。絶縁性基板1には、例えばガラス基板を使用し、例えば一般の液晶ディスプレイ用のガラス基板を使用する。次に、図5(c)及び(d)に示すように、絶縁性基板1上に、導電性材料のめっき又は印刷等の技術を使用して、渦巻き状のアンテナ3を形成する。アンテナ3は1本の配線が矩形渦巻き状のパターンとなるよう形成し、アンテナ3の両端は、信号処理回路2上の端子26に接続するように形成する。また、アンテナ3の最外周のパターンが絶縁性基板1の外周に沿うように形成する。」

C.「【0098】
次に、本発明の第2の実施形態の第2の変形例について説明する。図9(a)及び(b)は本第2変形例におけるアンテナの製造方法をその工程順に示す断面図である。前述の第2実施形態においては、図7(a)乃至(c)に示すように、アンテナ3の製造方法として電解めっき法を使用する。これに対して、本第2実施形態の第2変形例においては、図9(a)及び(b)に示すように、印刷法を使用する。図9(a)に示すように、アンテナ3のパターン形状に開口部が設けられたマスク72上に導電性ペースト71を配置する。マスク72は、例えば、微細な繊維が格子状に織られたメッシュ上に所望のパターン形状に開口された乳化材層を備えたスクリーンマスクである。前記乳化材層の開口部においては、導電性ペースト71がメッシュを通過してマスク裏面に押し出されるようになっている。導電性ペースト71は、例えば、溶剤中にはんだ微粒子が分散されたはんだペースト又はAg微粒子が分散されたAgペーストである。抵抗値の点からはAgペーストが好ましく、焼成して溶剤が除去された後の抵抗値は、Ag単体の抵抗値とほぼ同等となる。」

D.第2実施形態により製造された無線デバイスを示す斜視図である図5(d)から、1本の配線を矩形渦巻き状のパターンとなるよう形成したアンテナ3の両端が、信号処理回路2上の端子26に接続されていること、前記1本の配線で形成されたアンテナ3は基板1の表面側に配置されていること、そして、前記両端の配線のうちの一方は前記基板1の表面側において、前記矩形渦巻き状のパターンを跨いでいる配線により、前記信号処理回路2上の端子26からの引き出し部と接続されていることが、それぞれ、見て取れる。

前記Dにおいて、前記矩形渦巻き状のパターンを跨いでいる部分の配線を、一般的にはジャンパー線と呼ぶものである。してみれば、引用文献1において、アンテナを形成するための矩形渦巻き状のパターンの一端は、ジャンパー線により、前記信号処理回路2の端子26からの引き出し部に接続されているものである。

したがって、A?Dの記載によれば、引用文献1には、
「絶縁性基板と、前記絶縁性基板の表面に設けられた1本の配線で形成されたアンテナと、前記アンテナに接続された信号処理回路、および、前記アンテナとなる矩形渦巻き状のパターンの一端と前記信号処理回路の端子からの引き出し部とを接続するジャンパー線を有する無線デバイスであって、
前記アンテナが、導電性ペーストを用いてスクリーン印刷により前記アンテナと同一のパターンを形成することで、形成されており、
前記ジャンパー線が、前記アンテナが設けられた基板表面側に配置されており、
さらに、前記ジャンパー線の一端が、前記信号処理回路の端子からの引き出し部に接続され、他端が前記矩形渦巻き状のパターンの一端に接続されていることを特徴とする無線デバイス」の発明(以下、「引用発明」という。)、
が記載されている。

(2)引用文献2について
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】従来、この種の非接触型ICカードにおいては、電波送受信用環状コイルアンテナを独立的に製作し、同コイルアンテナを適宜な貼着テープ等によりフィルム状絶縁基材に貼着し、且つコイルアンテナの外周側端子及び内周側端子を、被覆導線等により、フィルム状絶縁基材に貼着したIC回路素子の各端子にそれぞれ半田付けにより接続し、且つ絶縁保護膜により、コイルアンテナ、被覆導線及びIC回路素子を介しフィルム状絶縁基材に重合するようにしたものがある。」

引用文献2には、「コイルアンテナの外周側端子及び内周側端子を、被覆導線等により、フィルム状絶縁基材に貼着したIC回路素子の各端子にそれぞれ半田付けにより接続」することが、「従来の技術」として記載されている。

(3)引用文献3について
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
プリント配線板やコイル部品の基台の銅パターンからなるパッドなどの接続部に、コイルの巻き線を接続したり、回路の変更に対して渡り線(ジャンパ線)などの細線を接続することがある。このような時に接続される細線は銅の芯線を絶縁材にて被覆したもので、この絶縁材は予め剥離したり、接続時にヒータチップの熱で昇華させて消失させ、露出した中の芯線をリフロー半田付けするものである。また絶縁材で被覆していない裸細線をリフロー半田付けする場合もある。」

引用文献3には、「プリント配線板やコイル部品の基台の銅パターンからなるパッドなどの接続部」に「渡り線(ジャンパ線)などの細線を接続する」に際して、当該「細線は銅の芯線を絶縁材にて被覆したもの」を用いて、「この絶縁材」は「接続時にヒータチップの熱で昇華させて消失させ、露出した中の芯線をリフロー半田付けする」ことが、「背景技術」として記載されている。

(4)引用文献4について
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来技術】電気コイルを製造するための丸い断面のワニス被覆線は公知である。このような線は銅、アルミニウム、またはその他の金属もしくは合金でできており、電気絶縁をする内側の被覆と、その上に配置された外側の焼付ワニス層とを有している。ポリウレタンまたはポリエステルアミドからなる第1の内側のワニス被覆は、線の電気絶縁をする役目を果たす。線の製造メーカーが焼付ワニスと命名している第2の外側のワニス層は、巻回と巻回層との間を機械的に結合する役目をする。このワニス層は、後でワニス層を軟化させることを可能にするワニスから製造される。ワニス層の軟化は、熱の作用によって行うか、または化学溶剤の作用によって行うことができる。通常、ポリビニルブチラールまたはポリアミドをベースとするワニスが使用される。」

(5)引用文献5について
引用文献5には、以下の事項が記載されている。
「【0011】
また、本発明は、少なくとも樹脂、ガラス、紙、金属のいずれかを含む材料からなる基板上に、少なくとも1個のコンデンサと少なくとも1個のコイルアンテナを含み、電磁誘導により共振するRF共振回路を有するRFタグにおいて、
前記RF共振回路が同一基板上に2組以上配置され、各組が異なる共振周波数を持ち、前記2組以上のRF共振回路のコンデンサとコイルアンテナとが、すべて前記基板の片面に配置されていることを特徴とするRFタグを提供する。」

(6)引用文献6について
引用文献6には、以下の事項が記載されている。
「【0027】
図1には示されていないが、上記基材シート12の表面には、アンテナ14およびICチップ16を保護すると同時に、バーコード、数字、アルファベッド文字等の表示用符号が印刷される有色の保護層18が設けられている。また、上記基材シート12の他面である裏面すなわち対象物側には、MHz帯からGHz帯までの広帯域にわたってたとえば5?20程度の比較的高い複素比誘電率εr およびたとえば50?100程度の比較的高い比透磁率μr を有する高誘電率高磁性層すなわち電磁波吸収体層20と、粘着剤から成る粘着層22と、その表面を覆う剥離テープ24とが順次積層されている。無線タグ10の使用に際しては、その剥離テープ24を取り除いた後、粘着層22の粘着力を利用して無線タグ10が金属部品、金属蒸着材料等に粘着される。」

(7)引用文献7について
引用文献7には、以下の事項が記載されている。
「【0012】
基板フィルム106上には導電性パターンによってアンテナ101が形成されており、アンテナ101にはスリット102が設けられている。無線ICタグチップ103には、第1のバンプ104と第2のバンプ105が設けられており、このバンプ104、105が接続点となって、無線ICタグチップ103とアンテナ101とが接続される。このバンプ104、105間のインピーダンス(無線ICタグチップ103の入力インピーダンス)は、例えば、2.45GHzにおいて60オームに調整されている。なお、基板フィルム106に、高誘電率の基材を用いて、アンテナの長さを短縮するように構成してもよい。」

(8)当業者の通常の技術知識
(8-1)周知技術1
平成20年5月15日付けでなされた拒絶査定において例示された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-036421号公報には、以下の事項が記載されている。
E.「【0011】平面コイル10を作成する方法は、従来の平面コイルを作成する方法と変わるものではない。たとえば、銅板等の金属薄板をプレス抜きして所定のコイル状のパターンを形成する方法、金属薄板を化学的にエッチングして所定のパターンに形成する方法、銅箔付き樹脂基板の銅箔を所定パターンにエッチングして平面コイルを形成するといった方法が利用できる。プレス抜き加工あるいはエッチング加工によれば、任意のコイルパターンに平面コイル10を形成することが容易に可能である。
【0012】図2は平面コイル10に半導体素子16を搭載し、半導体素子16と平面コイル10とを電気的に接続した状態を示す。半導体素子16は、一方の端子部12aに形成した搭載孔14に収納して搭載し、半導体素子16と平面コイル10との電気的接続は、本実施形態では導電性ペーストによる配線18a、18bによっている。従来のICカードでは、半導体素子16と平面コイル10とは半導体素子16の電極16a、16bと端子部12a、12bとを接続するが、本実施形態のICカードでは、半導体素子16と端子部12bとは従来と同様に接続するのに対して、半導体素子16と内周側の導線部分については、調節コイル部11の接続部11aに配置されている導線を選択して接続することが特徴である。
【0013】図2に示す例では、半導体素子16と調節コイル部11とは、調節コイル部11の最内周の導線Aと接続している。調節コイル部11に設けた接続部11aは半導体素子16との接続を選択する部分として設けたものであり、図2に示す例ではA、B、C、Dの導線の一つを選択して半導体素子16に電気的に接続することができる。半導体素子16に作用する平面コイル10のインダクタンスは、半導体素子16の電極16a、16b間に作用するインダクタンス分であるから、半導体素子16に接続する接続部11aの位置を選択することによって、コイルの巻き数を実質的に変えることが可能となり、平面コイル10のインダクタンスを適宜調節することができる。
【0014】半導体素子16と平面コイル10とを電気的に接続する配線18a、18bは、図2に示すように導線を横断するように配置するから、あらかじめ、平面コイル10の表面を電気的絶縁性を有する絶縁層20により被覆した後、導電性ペーストを印刷して半導体素子16と平面コイル10とを電気的に接続する。絶縁層20は、電気的絶縁性を有する樹脂材をコーティングする方法、樹脂フィルムを貼着する方法等によって形成される。
【0015】図3は、平面コイル10に半導体素子16を搭載し、導電性ペーストを印刷して形成した配線18a、18bによって平面コイル10と半導体素子16とが電気的に接続された状態を示す。本実施形態では、平面コイル10の片面に絶縁性の樹脂フィルムを貼着して絶縁層20としている。22、24は絶縁層20に設けたビア孔である。ビア孔22は調節コイル部11の接続部11aに位置合わせして設けたもの、ビア孔24は平面コイル10の外周側の端子部12bに位置合わせして設けたものである。また、半導体素子16の電極16a、16bにも位置合わせして絶縁層20にビア孔26を設ける。ビア孔22、24、26は平面コイル10に樹脂フィルムを貼着した後、レーザ光を照射して設けるか、あらかじめビア孔22、24、26を設けた樹脂フィルムを使用して形成することができる。」
F.【0022】
【発明の効果】本発明に係る非接触型ICカードおよびこれに用いる平面コイルによれば、上述したように、平面コイルに調節コイル部を設け、半導体素子と調節コイル部との接続位置を選択することによって平面コイルのインダクタンスを適宜調節することができるから、異なる半導体素子を搭載するICカード製品について汎用的に使用できる平面コイルとして提供することができ、これによって平面コイルおよびICカードの製造コストを効果的に低減させることが可能になる。また、調節コイル部との接続位置を調節することによって、インダクタンスを適宜調節して所定の共振周波数に合わせることが可能になる等の著効を奏する。」

さらに、平成20年5月15日付けでなされた拒絶査定において例示された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2006-072966号公報には、非接触データキャリアのアンテナとして用いる平面コイルのコイル配線における複数の位置とICチップとを、それぞれ、スイッチを介して接続し、導通させる2つのスイッチの組み合わせを適宜選択して前記平面コイルのインダクタンスを選択制御することで、前記アンテナの共振周波数を選択すること、が記載されている。

以上、例示された各文献の記載から、非接触データキャリアの技術分野において、
前記非接触データキャリアが有するアンテナ上の選択した所望の箇所と、前記非接触データキャリアを制御するICチップの端子からの引き出し部とを接続することで、前記アンテナの所望の共振周波数を得ること、
は本願出願時においては周知技術(以下、「周知技術1」という。)であったと認められる。
そして、特開2003-036421号公報においては、前記所望の箇所と前記引き出し部とを、導電性ペーストを印刷することで形成したジャンパー線で接続している。

(8-2)周知技術2
本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-094653号公報には、以下の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
移動体通信の発展ならびにサービスの多様化により、携帯端末の普及が進み、持ち運びを考慮した筐体の小型化が進んだことにより、内蔵品の小型化、軽量化、低背化が進んできた。また、デザインを考慮し、筐体から突出している伸縮式のロッドアンテナから、筐体内部にアンテナを内蔵した携帯端末も用いられている。このため、筐体内部にアンテナを内蔵する場合、他の内蔵品と同様にアンテナも小型化、軽量化、低背化が望まれている。また、移動体通信のサービスの向上と共に、携帯端末の普及も拡大し、アンテナも部品として安価で安定した品質のものが要求されている。
【0003】
このような状況から、基体に誘電体材料や磁性体材料を使用したミアンダ型やヘリカル型の放射電極のパターンを有した小型アンテナが開発されている。
【0004】
以下に小型アンテナについて説明する。図5(a)はミアンダ型配線パターンを有する小型アンテナ、図5(b)はヘリカル型配線パターンを有する小型アンテナである。図5(a)、(b)共にアンテナの構成は同一であり小型アンテナ10は、誘電体セラミックスからなる基体2に、導電性材料によって放射電極11を形成して構成されている。
【0005】
この放射電極11は、図6に示すように導体層12を形成した後その周りに下地メッキ層13、表面メッキ層14からなるメッキ層15を形成して成る。
【0006】
導体層12は、基体2の表面に銀ペースト等を用いた厚膜印刷により形成した後、所定の温度で焼き付けて得る。また、下地メッキ層13は、Niメッキが使用され、表面メッキ層14はAuメッキ、Snメッキ、半田メッキ等が使用される(特許文献1参照)。これは、通常、小型アンテナ10は接着強度や電気的接続を確保するために、携帯端末に使用される樹脂製の基板に半田付けで固定されるが、導体層12の銀が上記半田中のSnと反応し腐食する(一般に半田食われと呼ばれる)のを防止するために下地メッキ層13は半田と反応しにくいNiメッキが使用され、また、表面メッキ層14は、半田付けで固定する際樹脂製の基板との接着強度や電気的接続を確保するため半田濡れ性の良いAuメッキ、Snメッキ、半田メッキ等が使用されることが知られている。また、上記メッキ層15の厚みは銀の耐腐食性、半田濡れ性が確保できる厚みとしておけば良いとされている。」

上記記載において、「半田メッキ」とは、通常、対象となる部品を半田浴に浸漬して、溶融した半田で下地となるパターンを「メッキ」することを云う。
そして、上記記載が「背景技術」としての記載であることを考慮すれば、
電気絶縁性の基板上にアンテナを形成する方法として、導電ペーストを用いて印刷技術により前記アンテナと同一のパターンを前記電気絶縁性の基板上に形成した後、溶融した半田を用いて前記パターン上に前記アンテナを形成する、
ことは、本願出願時においては周知技術(以下、「周知技術2」という。)であったと認められる。


4.対比・判断
(4-1)請求項1についての対比
引用発明を、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と対比すると、以下の各点で相違し、その余の点で一致している。
(相違点1)
本願発明は「半田付け可能な樹脂を用いてスクリーン印刷によりアンテナ回路と同一のパターンを形成した後、溶融した半田を用いて前記パターン上に前記アンテナ回路が形成されて」いるのに対して、引用発明は「導電性ペーストを用いてスクリーン印刷により前記アンテナと同一のパターンを形成すること」で「アンテナ」が「形成されて」いる点。

(相違点2)
本願発明においては「ジャンパー線が、半田付け温度以下の温度で、蒸発、分解あるいは融解する樹脂組成物により絶縁被覆されて」いるのに対して、引用発明においては、「ジャンパー線」がどのような材料によりどのように形成されているのか、不明である点。

(相違点3)
本願発明においては「ジャンパー線が、前記アンテナ回路上の任意の箇所に接続できるように」「配置されており」、「前記ジャンパー線の一端が、前記アンテナ回路の一端に接続され、他端が、前記アンテナ回路上の所望する共振周波数に対応した箇所に接続されている」のに対して、引用発明においては「前記ジャンパー線の一端が、前記信号処理回路の端子からの引き出し部に接続され、他端が前記矩形渦巻き状のパターンの一端に接続されている」点。

(4-2)請求項1についての判断
電気絶縁性の基板上にアンテナを形成する方法として、「電気絶縁性の基板上にアンテナを形成する方法として、導電ペーストを用いて印刷技術により前記アンテナと同一のパターンを前記電気絶縁性の基板上に形成した後、溶融した半田を用いて前記パターン上に前記アンテナを形成する」ことが周知技術2であるように、相違点1に係る「半田付け可能な樹脂を用いてスクリーン印刷によりアンテナ回路と同一のパターンを形成した後、溶融した半田を用いて前記パターン上に前記アンテナ回路」を「形成」することは、周知である。
また、引用文献3に、「プリント配線板やコイル部品の基台の銅パターンからなるパッドなどの接続部」に「渡り線(ジャンパ線)などの細線を接続する」に際して、当該「細線は銅の芯線を絶縁材にて被覆したもの」を用いて、「この絶縁材」は「接続時にヒータチップの熱で昇華させて消失させ、露出した中の芯線をリフロー半田付けする」ことが、「背景技術」として記載されているように、相違点2に係る、「半田付け温度以下の温度で、蒸発、分解あるいは融解する樹脂組成物により絶縁被覆されて」いる「ジャンパー線」は、周知のものである。
さらに、
非接触データキャリアの技術分野において、当該非接触データキャリアが有するアンテナ上の選択した所望の箇所と、前記非接触データキャリアを制御するICチップの端子からの引き出し部とを接続することで、前記アンテナの所望の共振周波数を得ることは、周知技術1であり、前記所望の箇所と前記引き出し部とを導電性ペーストを印刷することで形成したジャンパー線で接続することは、本願出願時に公知の技術であった。

さて、本願発明、すなわち、「半田付け可能な樹脂を用いてスクリーン印刷によりアンテナ回路と同一のパターンを形成した後、溶融した半田を用いて前記パターン上に前記アンテナ回路が形成され」た「電気絶縁性の基材」を用い、かつ、「前記ジャンパー線が、半田付け温度以下の温度で、蒸発、分解あるいは融解する樹脂組成物により絶縁被覆されており」、さらに、「前記ジャンパー線の一端が、前記アンテナ回路の一端に接続され、他端が、前記アンテナ回路上の所望する共振周波数に対応した箇所に接続されている」無線ICタグについての実施例は、平成20年8月7日付けの手続補正によって補正された本願明細書の段落【0051】?【0054】(本願の願書に最初に添付された明細書の段落【0052】?【0055】)には、「第3の実施の形態」として記載されている。
そして、前記本願明細書の段落【0051】?【0053】には、「ジャンパー線のアンテナ回路との外周接続部が、外周1巻分内側になるよう、手半田付けして、圧着した。その後、フェライトシートを貼付し、動作確認を行った」ところ、「第3の実施の形態においてはフェライトシート貼付後の共振周波数を所望の値に近づけることができた。……(中略)……本実施の形態においては、このようにアンテナ回路をパターン変更して再度最初から作成することなく、容易に共振周波数を調節することができ、通信距離を向上させることができる」と記載されている。また、前記本願明細書の段落【0054】には「ジャンパー線8の一方の先端を切除せずに、半田こてをジャンパー線の外周1巻分内側に押し当てて、新たにジャンパー線8とアンテナ回路3とを接続することによっても、同様の共振周波数の調整結果を得ることができた」と記載されている。
したがって、前記本願明細書の段落【0013】に記載された「ジャンパー線がアンテナ回路が設けられた基材面側に配置されているため、容易に、ジャンパー線をアンテナ回路上の任意の位置で接続することができる。そして、ジャンパー線が樹脂組成物により絶縁被覆されているため、ジャンパー線の中間部において、アンテナ回路を短絡させることがない。この結果、簡易な構造で、アンテナ回路の長さを自由に調整することができ、所望する共振周波数を有するICタグを、容易かつ安価に提供することができる。」という効果、前記本願明細書の段落【0014】に記載された「アンテナ回路が、半田により形成されているため、ジャンパー線の導体との接続を容易に行うことができる。」及び「また、半田は、アルミニウム、銅、銀に比べ安価であるため、安価なICタグを提供することができる。さらに、半田は、融点が低く加工性に優れているため、製造工程における自由度が高く、複雑な製造設備や大型の製造設備を用いる必要がなく、基材の選択自由度も大きく、製造コストの上昇を招くことなく、より安価に、ICタグを提供することができる。」という効果は、いずれも、本願発明が、「半田付け可能な樹脂を用いてスクリーン印刷によりアンテナ回路と同一のパターンを形成した後、溶融した半田を用いて前記パターン上に前記アンテナ回路が形成され」た「電気絶縁性の基材」を用い、かつ、「前記ジャンパー線が、半田付け温度以下の温度で、蒸発、分解あるいは融解する樹脂組成物により絶縁被覆されており」、さらに、「前記ジャンパー線の一端が、前記アンテナ回路の一端に接続され、他端が、前記アンテナ回路上の所望する共振周波数に対応した箇所に接続されている」という発明特定事項をすべて具備することではじめて奏する効果であると認められる。

これに対して、引用文献には、ジャンパー線に該当する配線を絶縁性基板の表面に設けることは図示されているものの、当該ジャンパー線を、「アンテナ」を「形成」する「1本の配線」と一体で形成するのか、別途形成するのか、そして、矩形渦巻き状のパターンを跨ぐ構造をどのように形成するのか、については何ら記載されていない。
したがって、引用文献3に記載の技術及び通常の技術知識において挙げた2つの周知技術を引用発明と組み合わせる動機付けとなる記載が引用文献に存在するとは認められず、技術常識からみて、引用文献3に記載の技術及び前記2つの周知技術のすべてを引用発明と組み合わせることを当業者が容易に想起できたとも認められない。
よって、相違点1?3に係る事項が、個別に、引用文献3に記載され、あるいは、周知技術であるとしても、それらすべてを引用発明と組み合わせること、
すなわち、引用発明において、
引用発明の「絶縁性基板の表面」に「アンテナ」として「1本の配線」を「設け」る方法として、周知技術2のように「導電ペーストを用いて印刷技術により前記アンテナと同一のパターンを前記電気絶縁性の基板上に形成した後、溶融した半田を用いて前記パターン上に前記アンテナを形成する」とともに、
引用発明の「ジャンパー線」を絶縁被覆導線で形成し、かつ、該絶縁被覆導線を引用文献3に記載されて周知な「接続時にヒータチップの熱で昇華させて消失」する「絶縁材」にて「被覆」された「細線」を用い、さらに、
引用発明の「ジャンパー線」を、周知技術1及び前記公知の技術のように、該「ジャンパー線」の「他端」を、「アンテナ」を「形成」する「一本の配線」における「前記矩形渦巻き状のパターンの一端」の所望の箇所に「接続」できるようにし、アンテナの所望する共振周波数に対応した前記所望の箇所を選択して、当該選択した箇所に「接続」する、
ことを、引用文献の記載及び無線ICタグの技術分野における通常の知識に基づいて、当業者が容易に想到し得たとは認められない。

そして、本願発明は、「半田付け可能な樹脂を用いてスクリーン印刷によりアンテナ回路と同一のパターンを形成した後、溶融した半田を用いて前記パターン上に前記アンテナ回路が形成され」た「電気絶縁性の基材」を用い、かつ、「前記ジャンパー線が、半田付け温度以下の温度で、蒸発、分解あるいは融解する樹脂組成物により絶縁被覆されており」、さらに、「前記ジャンパー線の一端が、前記アンテナ回路の一端に接続され、他端が、前記アンテナ回路上の所望する共振周波数に対応した箇所に接続されている」ことで、本願明細書の段落【0051】?【0054】及び段落【0013】?【0014】に記載された前記の効果を奏するものである。
よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4-3)請求項2乃至請求項6について
本願の請求項2乃至請求項6はいずれも本願の請求項1を引用している。
したがって、本願発明が引用発明及び各周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることができない以上、本願の請求項2乃至請求項6に係る発明も、引用発明及び各周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることはできない。


5.まとめ
以上のとおりであるから、本願の請求項1乃至請求項6に係る発明が、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないとした原査定の判断は妥当でない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2010-09-27 
出願番号 特願2007-151880(P2007-151880)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大塚 良平  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 石井 茂和
宮司 卓佳
発明の名称 無線ICタグおよび無線ICタグの製造方法  
代理人 上代 哲司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ