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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1224677
審判番号 不服2007-16584  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-14 
確定日 2010-10-06 
事件の表示 特願2002-223511「移動通信網およびマイクロセル装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日出願公開、特開2004- 64655〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年7月31日の出願であって、平成19年5月7日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年6月14日に審判請求がされるとともに、同年7月6日付けで手続補正がなされ、その後、当審において平成22年4月19日付けで平成19年7月6日付けの手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに、同日付で拒絶理由が通知され、これに対して同年6月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年6月14日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「移動局が通信可能とされている複数の基地局を備え、インターネット網とゲートウェイを介して相互に接続されている移動通信網において、
前記インターネット網にアクセス可能なローカルエリアネットワークに、前記移動局と通信可能な無線通信手段と、インターネットプロトコルを使用して、パケット化された音声データを送受信することのできる音声データ通信手段とを備えるマイクロセル装置を、前記ローカルエリアネットワーク用のインタフェースを介して接続させることにより、該マイクロセル装置が前記移動通信網におけるサービスエリアを提供するマイクロセル基地局として機能するようになり、該マイクロセル基地局のサービスエリアに在圏する前記移動局は、該マイクロセル基地局-前記ローカルエリアネットワーク-前記インターネット網-前記ゲートウェイの経路を介して接続されることを特徴とする移動通信網。」

3.引用例
(1)当審における拒絶の理由で引用した特開平9-135479号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

A.「【請求項1】 オフィス通信システムに属する装置(1,4,6,8,10,11,12,13)の間で情報を転送するためのローカルエリアネットワーク(LAN)から成るオフィス通信システムにおいて、
前記ローカルエリアネットワーク(LAN)と公衆セルラー無線ネットワークとの間で情報を転送するゲートウェイ装置(1)が前記ローカルエリアネットワークに接続され、
公衆セルラー無線ネットワークで作動する端末装置(5)に無線インターフェースを提供する低出力基地局装置(4)が前記ローカルエリアネットワークに接続されており、その無線インターフェースは、前記公衆セルラー無線ネットワークの普通の基地局(BS)が提供する無線インターフェースと実質的に同一であり、
このゲートウェイ装置(1)、ローカルエリアネットワーク(LAN)及び低出力基地局装置(4)は、前記オフィス通信システムの領域内では前記端末装置(5)と前記公衆セルラー無線ネットワークとの間の接続が前記低出力基地局装置(4)、前記ローカルエリアネットワーク(LAN)及び前記ゲートウェイ装置(1)を介して行われるように構成されていることを特徴とするオフィス通信システム。」

B.「【0020】セルラー無線システムの動作の核心は移動交換センターMSC(mobile switching centre)からなっており、これに、例えば、移動局の位置及び状況に関する情報を記憶し使用するための加入者データベースSDB(subscriber database)及びビジターデータベースVDB(visitor database) などのデータベースが接続されている。1つのMSCの下に数個の基地局コントローラBSC(base station controller)があり、その各々が1つ以上の基地局BS(base station) を制御する。GSMシステムでは、交換センターMSCと基地局コントローラBSCとの間の標準化されたインターフェースはA-インターフェースと呼ばれる。
【0021】セルラー無線システムにおける移動局MS(mobile station) は基地局BSと無線接続し、基地局は、その移動局の位置及び状況に関する情報を、その移動局が当該区域の加入者であるのかそれともその区域のビジターであるのかにより交換センターMSCのデータベース手段SDB又はVDBに伝える。交換センターMSCは、記憶されているデータを使って、個々の移動局へ向けられるページングメッセージを制御する。基地局は、移動局の位置を決定しうる精度を表すロケーションエリア(LA)を構成する。移動局MSが1つのロケーションエリアから他のロケーションエリアへ移動するとき、その位置情報が更新され、交換センターMSCへの接続の処理がハンドオーバー機能で新しいロケーションエリアの基地局BSへ移される。」

C.「【0023】ゲートウェイ・コンピュータ1とローカルエリアネットワークLANとの間のインターフェースは、ローカルエリアネットワークの構成と、ローカルエリアネットワークの通信を維持するために使われるプロトコル及び所謂アプリケーションプログラミングインターフェースAPI(application programming interface)とに依存する。公知のネットワークプロトコルとしては、例えば、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet protocol (送信制御プロトコル/インターネットプロトコル))と、Novell Netware SPX/IPX(Sequenced Packet Exchange/Internetwork Packet Exchange(順次パケット交換/インターネットワークパケット交換))などがあるa 公知のAPIインターフェースとしては例えばNetBIOS (Network Basic Input/Output System(ネットワーク基本入出力システム))がある。
【0024】オフィス内のローカルエリアネットワークLANにいろいろな装置を接続することができる。1ないし数部屋を受け持つ低出力ベースユニット(low-power base unit)4(BU)は、本発明の観点からは非常に重要である。これらは、ナノセルから成る、オフィス全体をカバーする通達範囲(カバレージエリア)を構成する小さな基地局である。各ベースユニット4はネットワークアダプタ部(図示せず)を含んでおり、これは、コンピュータに広く使われている公知のネットワークアダプタカードに似ていて、ベースユニット4とローカルエリアネットワークとの間の通信の実行を処理するものである。このように、ナノセル4aはベースユニット4の通達範囲を指しており、それは普通のセルラーシステムにおける基地局BSの通達範囲を小型化したものである。有利な実施例では、各ベースユニット4は唯一の送信周波数及び唯一の受信周波数で動作し、GSMシステムから知られている、1チャネルを制御チャンネルとして残しておく8チャネル時分割多元接続(TDMA)方式を使用するときには、1ベースユニットは同時に最大で7つの移動局5に対処することができる。システムが既存の移動局に追加の要件を課すことの無いように、送信出力を除いて、ベースユニット4が移動局5に提供する無線インターフェースは普通の基地局BSが提供する無線インターフェースと同一であることがシステムの使用性のためには非常に重要である。
【0025】各ベースユニット4は、公衆セルラー無線システムの無線インターフェースを使用するようになっているためにオフィス環境の外でも当該公衆セルラー無線システムの通達範囲内で使用され得るような全ての移動局5が要求する通信を処理することができる。それらの装置は、例えば、移動電話、携帯可能のファックス機、データアダプタにより形成されるデジタル通信接続を利用するコンピュータなどである。種々の無線インターフェースを提供するベースユニット4は、例えばDCS1800規格に従う移動局を使用するユーザのためのと同じローカルエリアネットワークにも接続され得るものである。」

D.「【0043】本発明のシステムで使われる小型のベースユニット4及び14は、ローカルエリアネットワークLANにおいて電気的に定義されたアドレスを持っている限りは、固定された設備でなくてもよい。例えば、ローカルエリアネットワークLANがTCP/IPプロトコルを使用するイーサネット(登録商標)ネットワークであるならば、ベースユニット4のIPアドレスが唯一無二のアドレスであるように定義されていれば該ベースユニット4を同じネットワーク群の中のどの範囲にも接続することができる。ベースユニット4は、実際、ユーザの個人用基地局と呼んでもよいものであって、これを使ってオフィス通信システムの物理的構成を殆ど任意に変更することができる。」

E.「【0059】本発明の観点からは、端末装置は本発明のオフィス通信システムと公衆セルラー無線ネットワークとの間の管理境界を横切るので、BSS間ハンドオーバー機能と交換機間ハンドオーバー機能とは同一である。この場合、ハンドオーバー機能は移動交換センターMSCにより公知の方法で実行される。本発明のシステムが公衆セルラー無線ネットワークの通達範囲(カバレージエリア)内にあるならば(前述したアンブレラ現象を参照されたい)、端末装置は移動していないけれども干渉状態の故に接続の質が公衆セルラー無線ネットワークを通して伝送を行う方が良好であるという新しい事態が起こり得る。オフィスにより構成されるロケーションエリアがその端末装置のホームロケーションエリアとして使用される本発明の好ましい実施例では、接続の質が満足できる程度である限りは本発明のシステムを通して呼を伝送するのが有利である。また、或る接続に対して公衆セルラー無線ネットワークを介してハンドオーバーが実行されているならば、接続の質が満足できる程度の質になり次第本発明のシステムに呼を復帰させるのが好ましい。」

以上の記載によれば、この引用例1には以下のような発明(以下、「引用例1発明」という。)が開示されていると認められる。

「ローカルエリアネットワーク(LAN)と公衆セルラー無線ネットワークとの間で情報を転送するゲートウェイ装置(1)が前記ローカルエリアネットワークに接続され、公衆セルラー無線ネットワークで作動する端末装置(5)に無線インターフェースを提供する低出力基地局装置(4)が前記ローカルエリアネットワークに接続されており、その無線インターフェースは、前記公衆セルラー無線ネットワークの普通の基地局(BS)が提供する無線インターフェースと実質的に同一であり、オフィス通信システムの領域内では前記端末装置(5)と前記公衆セルラー無線ネットワークとの間の接続が前記低出力基地局装置(4)、前記ローカルエリアネットワーク(LAN)及び前記ゲートウェイ装置(1)を介して行われ、
セルラー無線システムの動作の核心は移動交換センターMSC(mobile switching centre)からなっており、1つのMSCの下に数個の基地局コントローラBSC(base station controller)があり、その各々が1つ以上の基地局BS(base station) を制御し、セルラー無線システムにおける移動局MS(mobile station) は基地局BSと無線接続し、
ローカルエリアネットワークLANがTCP/IPプロトコルを使用するネットワークとし、ベースユニット4のIPアドレスが唯一無二のアドレスであるように定義し、該ベースユニット4を同じネットワーク群の中のどの範囲にも接続することができ、
1ないし数部屋を受け持つ低出力ベースユニット(low-power base unit)4(BU)は、ナノセルから成り、オフィス全体をカバーする通達範囲(カバレージエリア)を構成する小さな基地局であり、各ベースユニット4はネットワークアダプタ部を含んでおり、ベースユニット4とローカルエリアネットワークとの間の通信の実行を処理するものであり、ナノセル4aはベースユニット4の通達範囲を指しており、それは普通のセルラーシステムにおける基地局BSの通達範囲を小型化したものであるオフィス通信システム。」

(2)当審における拒絶の理由で引用した特開2000-151807号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

A.「【請求項1】 設置場所の固定された電話端末間の音声通信を交換接続する電話ネットワークと、移動可能な無線電話端末が地域ごとに分散配置された無線通信中継手段により前記電話ネットワークに接続される移動体通信網と、音声から変換されたデータを含むデータ端末間のデータ通信サービスを行うデータ通信ネットワークとからなるネットワーク相互間の接続サービス方法において、音声情報からデータへ変換する工程と、及びデータから音声情報へ変換する工程(以下音声/データ変換機能という)を設けて、前記無線電話端末を前記データ通信ネットワークに接続し、前記無線電話端末に対して通信サービスを提供することを特徴とするネットワークサービス方法。」

B.「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明のネットワークサービス方法は、音声情報からデータへ、及びデータから音声情報への変換機能(以下音声/データ変換機能という)を設けて、無線電話端末をデータ通信ネットワークに接続し、無線電話端末に対してデータ通信によるサービスを提供しようとするものである。
【0010】この音声/データ変換機能は、電話ネットワーク、またはデータ通信ネットワークのいずれの側に設けてもよく、あるいは無線通信中継手段である各基地局ごとに設けて、電話ネットワークにおいては固定電話端末間の音声通信を含めてデータ通信方式による交換接続を行ってもよい。」

C.「【0014】図1は、移動体通信網の例を示す。無線電話端末aは、無線電話端末bとの通信を行う場合、破線で示すように、無線通信中継手段である基地局Aから音声電話ネットワークを介して無線電話bをかかえる基地局Bを経由して接続する。
【0015】一方、無線電話端末cがデータ通信ネットワークのインターネットサーバC等とデータ通信を行う場合であっても、一点破線で示すように、音声電話ネットワークを介して接続される。
【0016】図2は、電話ネットワーク内に音声/データ変換装置を備える第1の実施例である。この音声/データ変換装置は、それ自身の識別符号として、電話ネットワーク内の固有の電話番号とデータ通信ネットワーク内での固有の識別符号であるIDとを持っている。このIDは、例えば、インターネットであればIPアドレスやホスト名であるが、これに限定されない。この変換装置は、さらに、移動体通信網を含む電話ネットワーク内の各端末から送られるデータ端末への宛先識別符号の変換機能と、データ端末から送られる電話ネットワーク及び移動体通信網内の各端末への宛先電話番号とのそれぞれの変換機能を有する。
【0017】次に、この実施例の動作について説明する。
【0018】無線電話端末からインターネット電話へ発信の場合には、無線電話端末からインターネット電話の番号を入力すると、先ず音声/データ変換装置に接続される。音声/データ変換装置は、インターネットサーバ等の制御により、インターネット電話番号からデータ通信ネットワークでの接続先を指定する。
【0019】一方、データ通信ネットワーク内のデータ端末から無線電話端末への発信の場合には、音声/データ変換装置への接続の後、無線電話端末の番号を指定する。また、無線電話端末からデータ通信ネットワークにあるインターネットサーバ等を接続する場合でも同様であり、無線電話端末からの音声同様に変調されたデータ、及びインターネットサーバからのデータは、音声/データ変換装置において音声に変換される。」

D.「【0022】図4は、第3の実施例で、音声/データ変換装置は、無線通信中継手段の各基地局の近傍に配置され、無線電話端末からの音声通信は、常にデータ通信ネットワークを介して通信、交換が行われる。これにより、データ通信ネットワークを利用するインターネット電話等の全てのデータ端末との接続が可能となり、かつ接続先の音声/データ変換装置を経由して基地局を介することで任意の無線電話端末とも通信を行える。」

以上の記載によれば、この引用例2には以下のような事項が開示されていると認められる。

「移動体通信網に、例えばインターネットであるデータ通信ネットワークを音声/データ変換装置を介して接続し、移動体通信網の無線通信端末とデータ通信ネットワークに接続されたインターネット電話とが通信するネットワークサービス方法。」

(3)当審における拒絶の理由で引用した特開平11-27724号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

A.「【0028】図3は本実施の形態の構成を示すブロック図である。本実施の形態は、図3に示すように、すでに図1を参照して説明した第1の実施の形態に対して、音声コーデック3と中央制御装置4間に、音声データをインターネットプロトコル相当のデータに組立・分解する音声IP組立・分解部10が接続され、電話機103に代えて、インターネット電話機109がインターネット105に接続されている。
【0029】本実施の形態のその他の部分の構成は、すでに説明した第1の実施の形態と同一なので、重複する説明は行なわない。
【0030】本実施の形態は、LAN104への接続機能を備え、インネット電話機109から受信した音声IPデータは、LANインターフェース部8、インターネットプロトコル制御部7、中央制御部4を介して、音声IP組立・分解部10に取込まれ、音声データに分解され、音声コーデック部3に入力される。そして、音声データは、最終的に無線制御部1に入力され、インターネット電話機109からの音声データは、ディジタルコードレス電話機101により音声に再生される。
【0031】また、ディジタルコードレス電話機101からの送信音声は、無線制御部1、音声コーデック部3を介して、音声IP組立・分解部10に入力され、音声IPデータとして組み立てられ、該音声IPデータは、インターネット105を介してインターネット電話機109により音声に再生される。
【0032】本実施り形態のその他の動作は、すでに説明した第1の実施の形態の動作と同一なので、重複する説明は行なわない。
【0033】このように、本実施の形態によると、PSTN/ISDNがない場合でも、インターネット105を介して、子機が移動して使用されるディジタルコードレス電話機101と、インターネット電話機109との間で音声通話を行なうことが可能になる。」

4.対比
本願発明と引用例1発明を対比する。

引用例1発明の「端末装置(5)」は、本願発明の「移動局」に相当する。引用例1発明の「セルラー無線ネットワーク」は、移動交換センタMSCの下に数個の基地局コントローラBSCがあり、その各々が1つ以上の基地局BSを制御し、移動局MSは基地局BSと無線接続するので、引用例1発明の「セルラー無線ネットワーク」と本願発明の「移動通信網」は、移動局が通信可能とされている複数の基地局を備えている点で共通する。

引用例1発明の「低出力基地局装置(4)」、「低出力ベースユニット(low-power base unit)4(BU)」、「ベースユニット4」(以下、これらを「低出力基地局装置(4)」という。)は、移動局と通信可能な無線通信手段を備えていることは明らかである。また、引用例1発明のローカルエリアネットワークは、TCP/IPプロトコルを使用するネットワークであるので、引用例1発明の「低出力基地局装置(4)」は、インターネットプロトコルを使用して、パケット化されたデータを送受信するデータ通信手段を備えているということができる。引用例1発明の「ネットワークアダプタ部」は、本願発明の「ローカルエリアネットワーク用のインタフェース」に相当する。そして、引用例1発明の「低出力基地局装置(4)」は、普通のセルラーシステムにおける基地局BSの通達範囲を小型化したセルを作るので、本願発明の「マイクロセル装置」に相当する。そして、引用例1発明の「低出力基地局装置(4)」は、その無線インターフェースが公衆セルラー無線ネットワークの普通の基地局(BS)が提供する無線インターフェースと実質的に同一であることと、引用例1の摘記事項Eの移動局は公衆セルラー無線ネットワークの普通の基地局(BS)と「低出力基地局装置(4)」との間でハンドオーバも行うことができるという旨の記載から、移動通信網におけるサービスエリアを提供するマイクロセル基地局として機能しているといえる。

引用例1発明の「ゲートウェイ装置(1)」と、本願発明の「ゲートウェイ」とは、異なる網を接続する点で共通し、引用例1発明の「端末装置(5)と前記公衆セルラー無線ネットワークとの間の接続が前記低出力基地局装置(4)、前記ローカルエリアネットワーク(LAN)及び前記ゲートウェイ装置(1)を介して行われ」ることと、本願発明の移動通信網と「該マイクロセル基地局のサービスエリアに在圏する前記移動局は、該マイクロセル基地局-前記ローカルエリアネットワーク-前記インターネット網-前記ゲートウェイの経路を介して接続されること」とは、マイクロセル基地局のサービスエリアに在圏する前記移動局は、該マイクロセル基地局及び前記ローカルエリアネットワーク、ゲートウェイを介して移動通信網と接続される点で共通する。

したがって、両者は、
「移動局が通信可能とされている複数の基地局を備えた移動通信網において、
ローカルエリアネットワークに、前記移動局と通信可能な無線通信手段と、インターネットプロトコルを使用して、パケット化されたデータを送受信することのできるデータ通信手段とを備えるマイクロセル装置を、前記ローカルエリアネットワーク用のインタフェースを介して接続させることにより、該マイクロセル装置が前記移動通信網におけるサービスエリアを提供するマイクロセル基地局として機能するようになり、該マイクロセル基地局のサービスエリアに在圏する前記移動局は、該マイクロセル基地局及び前記ローカルエリアネットワーク、ゲートウェイを介して接続されることを特徴とする移動通信網。」
で一致するものであり、次の点で相違している。

[相違点1]
本願発明では、移動通信網はインターネット網とゲートウェイを介して相互に接続されており、マイクロセル装置はインターネット網にアクセス可能なローカルエリアネットワークに接続され、マイクロセル基地局のサービスエリアに在圏する前記移動局は、該マイクロセル基地局-前記ローカルエリアネットワーク-前記インターネット網-前記ゲートウェイの経路を介して接続されるのに対し、引用例1発明では、セルラー無線ネットワークはゲートウェイ装置(1)でローカルエリアネットワークに接続され、公衆セルラー無線ネットワークで作動する端末装置(5)に無線インターフェースを提供する低出力基地局装置(4)が前記ローカルエリアネットワークに接続されている点。

[相違点2]
本願発明では、マイクロセル装置はパケット化された音声データを送受信することのできる音声データ通信手段とを備えるのに対し、引用例1発明では、低出力基地局装置(4)は、パケット化されたデータを送受信することはできるものの、パケット化された音声データを送受信することのできる音声データ通信手段を備えるのか明らかでない点。

5.当審の判断
[相違点1]について
引用例2には、移動体通信網に、例えばインターネットであるデータ通信ネットワークを音声/データ変換装置を介して接続し、移動体通信網の無線通信端末とデータ通信ネットワークに接続されたインターネット電話とが通信するネットワークサービス方法が記載されており、引用例2の「移動体通信網」、「無線通信端末」、「データ通信ネットワーク」、「音声/データ変換装置」は、本願発明の「移動通信網」、「移動局」、「インターネット網」、「ゲートウェイ」にそれぞれ相当する。インターネットがTCP/IPプロトコルを用いる通信ネットワークであることは技術常識であり、引用例1発明のローカルエリアネットワークと引用例2発明のデータ通信ネットワークは、セルラー無線ネットワークにゲートウェイを介して接続され、TCP/IPプロトコルを用いるデータ通信ネットワークである点で共通している。更に、インターネットに通信機器を接続する場合において、インターネットからローカルエリアネットワークを介して通信機器を接続することは、周知技術(例えば、特開2002-135287号公報の第2欄48行?第3欄5行、特開2001-352289号公報の第6欄33行?36行及び図1のパーソナルコンピュータ23がローカルエリアネットワーク(LAN)24とサーバ22を介してインターネット2に接続されている構成、参照)であるから、引用例1発明において、移動体通信網にインターネットを接続する引用例2に記載の事項及び上記周知技術を適用して、セルラー無線ネットワークと低出力基地局装置(4)が接続されたローカルエリアネットワークとの間をインターネットで接続すること、すなわち、引用例1発明の低出力基地局装置(4)をローカルネットワークとインターネット、ゲートウェイを介してセルラー無線ネットワークと接続し、低出力基地局装置(4)のカバレージエリアに在圏する移動局が低出力基地局装置(4)-ローカルエリアネットワーク-インターネット網-ゲートウェイ装置(1)の経路を介して接続される構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点2]について
移動体通信の技術分野において、基地局で音声信号をパケットデータに変換してインターネットなどのデータ通信ネットワークに送信することは、例えば、引用例2又は3に記載されているように周知技術(引用例2の【0009】、【0010】、【0022】段落には、基地局の近傍に音声/データ変換装置を設け、音声からデータに変換して、例えばデータ通信ネットワークに接続されたインターネット電話と通信することが記載されている。引用例3の【0028】?【0033】段落には、音声データをインターネットプロトコル相当のデータに組立・分解する音声IP組立・分解部10が記載されている。)である。また、引用例1発明では、低出力基地局装置(4)は公衆セルラー無線システムの無線インターフェースを使用して、例えば、公衆セルラー無線システムの移動電話(通常、電話は音声通信を行う)が低出力基地局装置(4)の移動局となる場合も想定していること(摘記事項C【0025】参照)、ローカルエリアネットワークのプロトコルとして、例えば、TCP/IPを使用することとから、そのような場合低出力基地局装置(4)で音声をIPパケット化しなければならないことは明らかである。したがって、引用例1発明において、低出力基地局装置(4)にパケット化された音声データを送受信することのできる音声データ通信手段とを備える構成とすることに格別の困難性はない。

そして、本願発明の作用効果も、引用例1発明及び引用例2に記載された事項、周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

なお、審判請求人は平成22年6月14日付け意見書の2-4-1の(2)から(4)において、移動通信網には、移動局がウェブブラウザを用いてウェブページを閲覧したりするために、従来からインターネット網が接続されており、本願第1発明はマイクロセル装置を設置する際に、移動通信網に接続されている他のネットワークであるインターネット網を利用することにより、マイクロセル装置を新たな回線を設置することなく既設のネットワークを介することにより移動通信網に接続することによって、マイクロセル基地局を安価に設置することができるようになると云う格別の作用効果を奏するが、引用文献1では、サイズの小さいセルを構成するベースユニットを公衆セルラー無線ネットワークに接続する際に、ゲートウェイおよび専用の回線を新たに設置する必要がある点(以下、「相違点1」という)で相違しており、引用文献2,3には、移動通信網のサービスエリアを拡張する手法については何ら開示されていないと共に、インターネット網を利用して移動通信網のサービスエリアを提供するマイクロセル基地局等の基地局を設置することに関しても開示されていないので、引用文献1記載の発明に引用文献2,3記載の発明を適用しても、上記相違点1を当業者が容易に想到し得たとすることは到底できるものではないと主張している。

しかしながら、移動通信網に、移動局がウェブブラウザを用いてウェブページを閲覧したりするために、従来からインターネット網が接続されてることを、本願発明が前提としていることは本願の明細書又は図面に記載されておらず、たとえそうであったとしても本願発明のマイクロセル基地局はローカルエリアネットワークに接続されており、ローカルエリアネットワークを設置しなければならないので、その点で引用例1発明と変わりなく、引用例1発明と比較してマイクロセル基地局を安価に設置することができるようになるという作用効果を奏するという主張は採用できない。さらに、安価に設定するために既存のものを利用しようとすることは当然のことである。また、請求人は、引用文献2、3には、移動通信網のサービスエリアを拡張する手法については何ら開示されていないと主張するが、引用例1には、無線インターフェースが、公衆セルラー無線ネットワークの普通の基地局(BS)が提供する無線インターフェースと実質的に同一である低出力基地局装置(4)をローカルエリアネットワークを介して公衆セルラー無線ネットワークに接続することが記載されており、移動通信網のサービスエリアを拡張する手法は引用例1発明に開示されている。

また、審判請求人は、意見書の2-4-1の(6)において、「「インターネットに通信機器を接続する場合において、インターネットからローカルエリアネットワークを介して通信機器に接続することは、普通に行われていること」に関して、引用文献2には、ローカルエリアネットワークがインターネットに接続されていること、および、インターネットからローカルエリアネットワークを介して通信機器に接続することは開示されていない。さらに、引用文献2には、移動通信網のサービスエリアを拡張する手法について何ら開示されていないと共に、インターネット網を利用して移動通信網のサービスエリアを提供するマイクロセル基地局等の基地局を設置することに関しても一切開示されていない。」「従って、「引用例1発明のセルラー無線ネットワークと低出力基地局装置(4)間を接続する通信ネットワーク」を「引用例2発明のインターネットとする」動機付けは全くないことから、「引用例1発明のセルラー無線ネットワークと低出力基地局装置(4)間を接続する通信ネットワーク」を「引用例2発明のインターネットとする」ことは、当業者が容易に想到し得る範囲を遙かに超えているのである。すなわち、「引用例1発明のセルラー無線ネットワーク」に「引用例2発明のインターネット」を適用しても、セルラー無線ネットワークにインターネットを接続することを想到できることまでが、当業者の容易に想到し得る範囲なのである。」と主張している。

しかしながら、「インターネットに通信機器を接続する場合において、インターネットからローカルエリアネットワークを介して通信機器に接続することは、普通に行われていること」に関しては、例えば、上記周知文献(特開2002-135287号公報、特開2001-352289号公報)に示されるように周知技術である。また、「引用例1発明のセルラー無線ネットワークと低出力基地局装置(4)間を接続する通信ネットワーク」を「引用例2発明のインターネットとする」動機付けに関しては、引用例1発明のローカルエリアネットワークと引用例2発明のデータ通信ネットワークは、セルラー無線ネットワークにゲートウェイを介して接続され、TCP/IPプロトコルを用いるデータ通信ネットワークである点で共通しており、TCP/IPはインターネットで標準に用いられる通信プロトコルでもあり、そして、引用例1発明において、セルラー無線ネットワークと低出力基地局装置(4)が接続されたローカルエリアネットワークとの間をインターネットで接続することは、セルラー無線ネットワークにゲートウェイを介してインターネットを接続することが引用例2に記載され、インターネットからローカルエリアネットワークを介して通信機器に接続することが周知技術(上記周知文献、特開2002-135287号公報、特開2001-352289号公報、参照。)であり、そもそもインターネットがTCP/IPプロトコルを用いる多数のローカルエリアネットワークを相互接続したもので構成されていることからしても、格別の困難性はなく、引用例1発明に、引用例2に記載された事項及び周知技術を適用することは当業者にとって容易に想到し得たものである。

したがって、審判請求人の主張はいずれも採用することができない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1発明、引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-26 
結審通知日 2010-08-03 
審決日 2010-08-16 
出願番号 特願2002-223511(P2002-223511)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 望月 章俊田中 寛人  
特許庁審判長 江嶋 清仁
特許庁審判官 青木 健
近藤 聡
発明の名称 移動通信網およびマイクロセル装置  
代理人 祖父江 栄一  
代理人 武山 吉孝  
代理人 鈴木 隆盛  
代理人 浅見 保男  
代理人 高橋 英生  

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