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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F22B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F22B
管理番号 1224691
審判番号 不服2008-15611  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-19 
確定日 2010-10-06 
事件の表示 特願2006-84794号「連続的に燃焼量を制御するボイラの台数制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年8月24日出願公開、特開2006-220413号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成12年10月19日に出願した特願2000-318967号(以下「原出願」という。)の一部を平成18年3月27日に新たな特許出願としたものであって、平成20年5月21日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年5月27日)、これに対し、同年6月19日に審判請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年6月19日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年6月19日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前に
「連続的に燃焼量を増減する制御機構を備えた複数台のボイラの台数制御方法において、
台数制御装置から各ボイラへ燃焼量の操作信号を出力して圧力制御を行い、圧力制御操作出力の増減に応じて燃焼させるボイラ台数を変更するに際し、台数増減前後の燃焼缶の合計燃焼量が変化しないよう台数増減直前の台数制御装置の圧力制御操作出力から台数増減後の操作出力値を演算し、蒸気圧力のフィードバック制御による操作出力の修正動作を待たずに強制的に操作出力を演算値に移行させて圧力の行き過ぎを防止し、操作出力が移行するべき目標値になった後は通常の圧力フィードバックによる圧力制御を行い、台数増減時でも安定した圧力制御を行うことを特徴とする連続的に燃焼量を制御するボイラの台数制御方法。」
とあったものを、
「連続的に燃焼量を増減する制御機構を備えた複数台のボイラの同時台数制御方法において、
台数制御装置から各ボイラへ燃焼量の操作信号を出力して圧力制御を行い、圧力制御操作出力の増減に応じて燃焼させるボイラ台数を変更するに際し、台数増減前後の燃焼缶の合計燃焼量が変化しないよう台数増減直前の台数制御装置の圧力制御操作出力から台数増減後の操作出力値を演算し、この操作出力値を各ボイラに送って各ボイラを運転制御し、蒸気圧力のフィードバック制御による操作出力の修正動作を待たずに強制的に操作出力を演算値に移行させて圧力の行き過ぎを防止し、操作出力が移行するべき目標値になった後は通常の圧力フィードバックによる圧力制御を行い、台数増減時でも安定した圧力制御を行うことを特徴とする連続的に燃焼量を制御するボイラの台数制御方法。」と補正しようとするものである。

上記補正は、本件補正前に「台数制御方法」とあったものを「同時台数制御方法」と限定するとともに、操作出力値について、「この操作出力値を各ボイラに送って各ボイラを運転制御し」と限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

(2)刊行物
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-132405号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「【請求項1】 燃焼制御を比例制御で行うボイラを複数台設置した装置において、各ボイラが、設定した最適運転負荷ゾーンの範囲内の均等負荷で運転されるように、全体の運転負荷に対してボイラ台数を適合させ、各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーンを超えたときにはボイラ台数を増加させ、各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーン以下になったときにはボイラ台数を減少させ、ボイラ台数増減後は、再び最適運転負荷ゾーンの範囲内の均等負荷で各ボイラを運転するようにしたことを特徴とする比例制御ボイラの台数制御方法。 」(【特許請求の範囲】。下線は当審にて付与。以下同様。)
b)「【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の比例制御ボイラの台数制御方法は、燃焼制御を比例制御(連続制御)で行うボイラを複数台並列に設置した装置において、各ボイラが、設定した最適運転負荷ゾーンの範囲内の均等負荷で運転されるように、全体の運転負荷に対してボイラ台数を適合させ、各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーンを超えたとき(高負荷運転状態)にはボイラ台数を増加させ、各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーン以下になったとき(低負荷運転状態)にはボイラ台数を減少させ、ボイラ台数増減後は、再び最適運転負荷ゾーンの範囲内の均等負荷で各ボイラを運転するようにしたことを特徴としている(図1参照)。」(段落【0008】)
c)「【発明の実施の形態】図1は、本発明の実施の形態による比例制御ボイラの台数制御装置の概略を示している。本実施の形態は、比例制御ボイラを複数台(図1では、一例として、4台)並列に設置した装置において、運転している各ボイラが均等に負荷を受け持つように、負荷分配盤からの負荷信号により、各ボイラを最適運転負荷域の均等負荷で運転させるものであり、ボイラ台数の増減指令は、台数を増減させる負荷域等が設定された台数制御盤により、設定された高負荷運転状態で増缶させ、設定された低負荷運転状態で減缶させるように行うものである。ボイラの制御方式としては、比例制御(P制御)の他に、比例積分制御(PI制御)や比例積分微分制御(PID制御)を採用することも勿論可能である。また、ボイラとしては、例えば、多管式貫流ボイラが用いられるが、他のボイラを用いることも勿論可能である。
図1において、ボイラ10は複数台並列に設置され、各ボイラ10から発生する蒸気が蒸気管24を通って蒸気溜め12に集められ、蒸気溜め12に接続された圧力検出・調整器14により、蒸気圧力変化が信号に変換されて負荷分配盤18に送られる。全体負荷を検出した負荷分配盤18からは、信号ライン26を介して、台数制御盤16に全体負荷が伝達される。なお、本実施の形態では、蒸気圧力のみで負荷を検出しているが、蒸気圧力と蒸気流量により負荷を検出することも可能である。そして、各ボイラ10が均等負荷で運転されるように、負荷分配盤18からの負荷信号が、信号ライン20を介して、各ボイラ10に直接送信されるとともに、ボイラ台数の増減を指令する台数制御盤16からは、信号ライン22を介して、各ボイラ10の運転・停止指令が送信される。なお、負荷分配盤18からの負荷信号を通信回路等を介してシリーズに各ボイラ10に送信するように構成することも可能であるが、直接送信する場合に比べると、負荷追従が遅れることになる。
つぎに、本実施の形態における比例制御ボイラの台数制御の手法について説明する。台数制御盤16には、ボイラの最適運転負荷ゾーン、台数増大負荷ゾーン、台数減少負荷ゾーン及び台数増減時間が設定されており、台数制御盤16からの指令により、全体の運転負荷に対して、運転させる各ボイラ10が最適運転負荷ゾーンの範囲内で均等に負荷を受け持つようにボイラ台数が定められる。そして、台数制御盤16から運転指令の出ている各ボイラ10は、負荷分配盤18からの負荷信号により、均等負荷で運転される。台数制御盤16では、各ボイラ10の運転負荷が燃料量指令値などで監視されており、運転負荷が台数増大負荷ゾーンになったとき(高負荷運転状態)は、台数制御盤16からの指令により、設定した時間毎にボイラ台数が増やされる。一方、運転負荷が台数減少負荷ゾーンになったとき(低負荷運転状態)は、台数制御盤16からの指令により、設定した時間毎にボイラ台数が減らされる。ボイラ台数増減後は、負荷分配盤18からの負荷信号により、台数増減後の各ボイラ10が均等負荷で運転されることになる。
ここで、本実施の形態で用いる比例制御ボイラとして、送風機をインバータで制御するボイラを用いる場合の各ボイラの構成等について説明する。図2に示すように、ボイラ本体28の上部にはバーナ30が設けられており、バーナ30には、燃料流量制御弁(比例制御弁)32を有する燃料供給管34から燃料が供給される。燃料は油やガス等が用いられる。一方、燃焼用空気が、送風機36から空気供給管38を通してボイラ本体28内に供給され、バーナ30の燃焼に供される。台数制御盤からの運転指令及び負荷分配盤からの負荷信号がボイラ制御盤40に送信されると、ボイラ制御盤40で燃料量指令値及びインバータ指令値が決定され、ボイラ制御盤40に接続された燃料流量制御弁32により燃料供給量が制御されるとともに、ボイラ制御盤40に接続されたインバータ(回転数制御装置)42からの出力値(周波数)が送風機36のモータ44に送られて空気供給量が制御される。ボイラ制御盤40における燃料量指令値等は、台数制御盤で監視されており、ボイラの運転負荷が台数制御盤で把握できるようになっている。46は気水分離器である。なお、図2では、図示を省略しているが、ボイラ制御盤40により給水による圧力外乱の補償制御が行われる場合もある。」(段落【0013】?【0016】)
d)「【発明の効果】本発明は上記のように構成されているので、つぎのような効果を奏する。
(1)各ボイラが、設定した最適運転負荷ゾーンの範囲内の均等負荷で運転されるように、全体の運転負荷に対してボイラ台数を適合させるので、ボイラを最も効率の良い運転負荷域で運転させることができる。
(2)全体の運転負荷変動に対して、最後の1缶のボイラで負荷変動に追従させ、他のボイラは最大蒸発量で固定させるのではなく、運転している各ボイラが均等に負荷を受け持つように、各ボイラの最適運転負荷域でボイラ台数を制御するので、ボイラの発停頻度を減少させることができる。また、ボイラの発停頻度が少なくなる分、起動指令から燃焼までのプレパージ時間、すなわち、停止状態から実際に起動するまでのムダ時間が減るので、負荷追随性が良くなる。
(3)負荷ゾーンを設定してボイラ台数を増減させるので、ボイラ1缶が発停の際にも残りの運転ボイラがバックアップし、負荷追従の無駄が生じないように制御することができる。すなわち、各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーンを超えて1缶増缶する場合でも、そのボイラが起動するまでは、残缶のボイラが高負荷域で全体負荷をカバーするように制御されるので、全く負荷追従の遅れの問題は生じない。
(4)負荷分配盤からの負荷信号を各ボイラに直接送信する場合は、各ボイラの負荷追随性を高めることができる。
(5)運転しているボイラを最大蒸発量で固定することなく、各ボイラを最適運転負荷ゾーンの範囲内の均等負荷で運転させるので、ボイラへ燃焼用空気を供給する送風機の回転数をインバータ(回転数制御装置)で制御する構成の場合は、高騒音レベルの最大蒸発量固定ボイラが含まれることなく、負荷減少時のボイラ騒音の低減効果が大きくなる。」(段落【0019】)
e)上記摘記事項bには、ボイラの制御方式として「比例制御(P制御)」を採用することが記載されているから、刊行物1には、ボイラの制御方式として比例制御によるフィードバック制御を行うことが示されている。
f)上記摘記事項bの記載事項と【図1】の図示内容から、に「蒸気圧力のみで負荷を検出」することが記載されていることから、刊行物1には、負荷のフィードバック制御を行っていることから、蒸気だめ12の検出される蒸気圧力が設定圧力となるように圧力制御を行っているといえる。

上記記載事項aないしf、および図面の記載内容からみて、刊行物1には、次の発明が記載されている。
「燃焼制御を比例制御で行い、複数台並列に設置されたボイラを均等負荷で運転するボイラの台数制御方法において、
台数制御盤16からの各ボイラ10の運転・停止指令および負荷分配盤18からの運転負荷指令が各ボイラのボイラ制御盤40に送信され、ボイラ制御盤40で燃料量指令値が決定され、蒸気だめ12の検出された蒸気圧力が設定圧力となるように圧力制御を行い、
各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーンを超えたときにはボイラ台数を増加させ、各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーン以下になったときにはボイラ台数を減少させ、ボイラ台数増減後は、再び最適運転負荷ゾーンの範囲内の均等負荷で各ボイラを運転し、
各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーンを超えて1缶増缶する場合でも、増缶されるボイラが起動されるまでは、残缶のボイラが高負荷域で全体負荷をカバーするように比例制御であるフィードバック制御による圧力制御がなされ、負荷追従の遅れの問題が生じない
ボイラの台数制御方法。」

(2-2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-155102号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「ところで、並列運転される複数台のボイラの運転台数を制御して、蒸気ヘッダ内の圧力を安定制御する方法として従来から知られているものに、次のようなものがある。
その1つは、たとえば特公昭59-42201号公報などに開示されているように、蒸気ヘツダに設けた圧力調節器により蒸気ヘツダ内の圧力をある制御幅内で変化するように設定し、その設定圧の高低により負荷変動に見合つた台数のボイラを作動させるようにした比例動作制御方式のものである。」(第2頁左上欄第2行?同第12行)
b)「因みに、従来技術の比例動作制御方式のものに相当する制御方法で、コントロール出力信号MVHが第4図のA点に達したとき、つまり、No.1ボイラの出力が100%に達したとき、No.2ボイラを稼動させると、その稼動直後の出力が最低燃焼状態であるから、No.1ボイラの出力が100%のままでは蒸気量が過剰となる。したがつて、一般にはNo.1ボイラの出力を最低燃焼状態での出力分αだけ低下させておき、No.2ボイラの出力が100%に達したのち、No.1ボイラの出力を100%にまで増大させるといつた制御がおこなわれる。ところが、この第4図のような制御方法では、稼動直前のNo.2ボイラの圧力をNo.1ボイラの圧力よりも低く保持させねばならないため、第4図のA点でNo.2ボイラを稼動しても、実際に圧力が上昇し蒸気を出力するまでに若干の時間を要し、したがつて、そのNo.2ボイラが蒸気を出力するまでの間の蒸気量が不足して、蒸気ヘツダ内の圧力が低下することになる。」(第4頁左下欄第13行?同右下欄第12行)

上記記載事項a、bおよび第4図の記載内容からみて、刊行物2には、次の発明が記載されている。
「並列運転される複数台のボイラの運転台数を制御して、蒸気ヘツダ内の圧力を安定制御する方法において、
No.1ボイラの出力が100%に達したとき、No.1ボイラの出力を最低燃焼状態での出力分αだけ低下させておき、No.2ボイラを稼動させ、No.2ボイラの出力が100%に達したのち、No.1ボイラの出力を100%にまで増大させるといった制御を行うことにより、台数増加時に蒸気量が過剰とならないようにした、
蒸気ヘッダ内の圧力を安定制御する方法。」

(3)対比
本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1に記載された発明の「燃焼制御を比例制御で行う、複数台並列に設置されたボイラ」は、ボイラが比例制御であるフィードバック制御により連続的に制御されることから、本件補正発明の「連続的に燃焼量を増減する制御機構を備えた複数台のボイラ」に相当し、以下同様に、
「均等負荷で運転するボイラの台数制御方法」は、各ボイラを均等負荷で同時運転することであるから、「同時台数制御方法」に、
「比例制御であるフィードバック制御による圧力制御がなされ」ることは「通常の圧力フィードバックによる圧力制御を行」うことに、
それぞれ相当する。
そして、刊行物1に記載された発明の「台数制御盤16からの各ボイラ10の運転・停止指令および負荷分配盤18からの運転負荷指令が各ボイラのボイラ制御盤40に送信され、ボイラ制御盤40で燃料量指令値が決定され、検出された蒸気圧力が設定圧力となるように圧力制御を行」うことと本件補正発明の「台数制御装置から各ボイラへ燃焼量の操作信号を出力して圧力制御を行」うこととを比較する。前者の「台数制御盤16」と「負荷分配盤18」とからは、各ボイラ10の運転・停止指令および運転負荷指令とがそれぞれ送信されるものであり、刊行物1に記載された発明は、そもそも燃焼制御を行うものであることから、「運転・停止指令」と「運転負荷指令」は、燃焼制御のための燃焼量についての指令といえる。そして、前者においては、各ボイラのボイラ制御盤40を介して、受信した燃焼量についての指令から、各ボイラの操作信号である燃料指令値が決定され、決定された燃料指令値を用いて各ボイラが運転されるといえる。したがって、刊行物1に記載された発明の「台数制御盤16からの各ボイラ10の運転・停止指令および負荷分配盤18からの運転負荷指令が各ボイラのボイラ制御盤40に送信され、ボイラ制御盤40で燃料量指令値が決定され、蒸気だめ12の検出された蒸気圧力が設定圧力となるように圧力制御を行」うことは、本件補正発明の「台数制御装置から各ボイラへ燃焼量の操作信号を出力して圧力制御を行」うことに相当する。
また、刊行物1に記載された発明の「各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーンを超えたときにはボイラ台数を増加させ、各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーン以下になったときにはボイラ台数を減少させ、ボイラ台数増減後は、再び最適運転負荷ゾーンの範囲内の均等負荷で各ボイラを運転し、各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーンを超えて1缶増缶する場合でも、増缶されるボイラが起動されるまでは、残缶のボイラが高負荷域で全体負荷をカバーするように比例制御であるフィードバック制御による圧力制御がなされ、負荷追従の遅れの問題が生じない」ことと、本件補正発明の「圧力制御操作出力の増減に応じて燃焼させるボイラ台数を変更するに際し、台数増減前後の燃焼缶の合計燃焼量が変化しないよう台数増減直前の台数制御装置の圧力制御操作出力から台数増減後の操作出力値を演算し、この操作出力値を各ボイラに送って各ボイラを運転制御し、蒸気圧力のフィードバック制御による操作出力の修正動作を待たずに強制的に操作出力を演算値に移行させて圧力の行き過ぎを防止し、操作出力が移行するべき目標値になった後は通常の圧力フィードバックによる圧力制御を行い、台数増減時でも安定した圧力制御を行うこと」とは、前者の「運転負荷」が後者の「圧力制御操作出力」に相当することから、両者は、「圧力制御がフィードバック制御によるものにおいて、圧力制御操作出力の増減に応じて燃焼させるボイラ台数を変更する制御」である点で共通する。

したがって、上記両者の一致点および相違点は、次のとおりである。 [一致点]
「連続的に燃焼量を増減する制御機構を備えた複数台のボイラの同時台数制御方法において、
台数制御装置から各ボイラへ燃焼量の操作信号を出力して圧力制御を行い、圧力制御がフィードバック制御によるものにおいて、圧力制御操作出力の増減に応じて燃焼させるボイラ台数を変更するボイラの台数制御方法。」

[相違点]
圧力制御がフィードバック制御によるものにおいて、圧力制御操作出力の増減に応じた燃焼させるボイラ台数を変更する制御が、本件補正発明では、台数増減前後の燃焼缶の合計燃焼量が変化しないよう台数増減直前の台数制御装置の圧力制御操作出力から台数増減後の操作出力値を演算し、この操作出力値を各ボイラに送って各ボイラを運転制御し、蒸気圧力のフィードバック制御による操作出力の修正動作を待たずに強制的に操作出力を演算値に移行させて圧力の行き過ぎを防止し、操作出力が移行するべき目標値になった後は通常の圧力フィードバックによる圧力制御を行い、台数増減時でも安定した圧力制御を行うものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、各ボイラの運転負荷が最適運転負荷ゾーンを超えて1缶増缶する場合でも、増缶されるボイラが起動されるまでは、残缶のボイラが高負荷域で全体負荷をカバーするように比例制御であるフィードバック制御による圧力制御がなされ、負荷追従の遅れの問題が生じない点。

(4)当審の判断
本件補正発明と刊行物2に記載された発明とを対比する。
刊行物2に記載された発明の「並列運転される複数台のボイラの運転台数を制御して、蒸気ヘッダ内の圧力を安定制御する方法」と本件補正発明の「連続的に燃焼量を増減する制御機構を備えた複数台のボイラの同時台数制御方法」とは、前者において、No.2ボイラを稼働させるとき、No.1ボイラの出力をα低下させることを同時に行うことから、両者は、「複数台のボイラの同時台数制御方法」である点で共通する。
次に、刊行物2に記載された発明の「No.1ボイラの出力が100%に達したとき、No.1ボイラの出力を最低燃焼状態での出力分αだけ低下させておき、No.2ボイラを稼動させ」ることと本件補正発明の「台数増減前後の燃焼缶の合計燃焼量が変化しないよう台数増減直前の台数制御装置の圧力制御操作出力から台数増減後の操作出力値を演算し、この操作出力値をボイラに送って各ボイラを運転制御し、蒸気圧力のフィードバック制御による操作出力の修正動作を待たずに強制的に操作出力を演算値に移行させて圧力の行き過ぎを防止し、操作出力が移行するべき目標値になった後は通常の圧力フィードバックによる圧力制御を行」うこととを比較する。前者における「ボイラの出力」が、後者における「操作出力値」に相当し、前者においては、No.1ボイラの出力が100%に達したとき、No.2ボイラをα%の最低燃焼状態で稼働させると同時にNo.1ボイラの出力を演算により強制的に(100-α)%に移行させることにより、No.2ボイラの稼働時の合計燃焼量を100%のままとするものであり、No.2ボイラの稼働前後の100%の合計燃焼量を一定値に維持し、蒸気量が過剰とならないようにするものであることから、両者は、「台数増加前後の燃焼缶の合計燃焼量が変化しないよう台数増加直前の台数制御装置の圧力制御操作出力から台数増加後の操作出力値を演算し、この操作出力値をボイラに送ってボイラを運転制御し、蒸気圧力のフィードバック制御による操作出力の修正動作を待たずに強制的に操作出力を演算値に移行させて圧力の行き過ぎを防止」することで共通する。

したがって、刊行物2に記載された発明は、
「複数台のボイラの同時台数制御方法において、
台数増加前後の燃焼缶の合計燃焼量が変化しないよう台数増加直前の台数制御装置の圧力制御操作出力から台数増加後の操作出力値を演算し、この操作出力値をボイラに送ってボイラを運転制御し、蒸気圧力のフィードバック制御による操作出力の修正動作を待たずに強制的に操作出力を演算値に移行させて圧力の行き過ぎを防止した複数台のボイラの台数制御方法。」
と言い換えることができる。

そして、刊行物1および2に記載された発明は、ともにボイラの同時台数制御方法という共通の技術分野に属する発明であるから、刊行物1に記載された発明の圧力制御がフィードバック制御によるものにおけるボイラ台数増減時の制御を、台数増加時に蒸気量が過剰とならないようにするための刊行物2に記載された発明に倣って、台数増減前後の燃焼缶の合計燃焼量が変化しないように強制的に操作出力を演算値に移行させて、圧力の行き過ぎを防止することは当業者が容易になし得たものである。

また、本件補正発明の奏する効果についてみても、刊行物1および2に記載された発明により奏される効果から当業者が予測できる範囲内のものである。
したがって、本件補正発明は、刊行物1および2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
よって、本件補正発明は、刊行物1および2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成20年6月29日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年3月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、前記「2[理由](1)補正後の本願発明」の補正前の請求項1に記載されたとおりのものである。

(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1、2、刊行物1、2の記載事項および刊行物1、2に記載された発明は、前記「2[理由](2)刊行物」に記載されたとおりである。

(3)対比および判断
本願発明は、前記「2[理由]」で検討した本件補正発明において、「同時台数制御方法」とあったものを「台数制御方法」とその限定を省くとともに、操作出力値について、「この操作出力値を各ボイラに送って各ボイラを運転制御」するとの限定を省くものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「2[理由](3)対比および(4)当審の判断」に記載したとおり、刊行物1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、刊行物1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-25 
結審通知日 2010-07-20 
審決日 2010-08-02 
出願番号 特願2006-84794(P2006-84794)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F22B)
P 1 8・ 121- Z (F22B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 崇昭結城 健太郎大屋 静男  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 長崎 洋一
松下 聡
発明の名称 連続的に燃焼量を制御するボイラの台数制御方法  
代理人 塩出 真一  

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