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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1224719
審判番号 不服2007-27219  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-04 
確定日 2010-10-08 
事件の表示 特願2000-242603「超純水製造システムの洗浄方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月19日出願公開、特開2002- 52324〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年8月10日の出願であって,平成18年12月15日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年同月20日)、平成19年2月16日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、同年8月29日付けで拒絶査定がなされ(発送日は同年9月5日)、これに対して、同年10月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年11月5日付けで請求の理由に係る手続補正がなされ、同日付で明細書の記載に係る手続補正書が提出され、その後、平成22年3月1日付けで特許法第164条第3項に基づく報告(以下、「前置報告」という。)を引用した審尋が通知され(発送日は同年同月3日)、これに対する回答書が平成22年5月6日に提出されたものである。

2.本願発明について
2-1.平成19年11月5日付けの明細書の記載に係る手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正は、平成19年2月16日付けの明細書の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1を削除し、請求項5を本件補正後の請求項1となし、本件補正前の請求項2?4をそのまま本件補正後の請求項2?4とし、本件補正前の【0008】に、本件補正前の【0018】中の「洗浄液の流速は、1.0m/sec以上」を根拠として「流速1.0m/sec以上の」を付加するものであり、これは請求項の削除とこれに伴う明細書の発明の詳細な説明の記載の補正ということができ、特許法第17条の2第4項第1号に規定される請求項の削除を目的とする補正に該当する。
したがって、本件補正はこれを適法なものと認める。

2-2.本願発明の認定
上記のように本件補正が認められるので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成19年11月5日付けの明細書の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「超純水製造装置、超純水のユースポイント、並びに前記超純水製造装置と前記ユースポイントとを接続する超純水の流路からなる超純水製造システムを洗浄する方法であって、前記流路と前記超純水との接触面に形成されたバイオフィルムを、流速1.0m/sec以上の塩基性溶液と接触させて溶解することを特徴とする超純水製造システムの洗浄方法。」

3.刊行物の記載
3-1.原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、審尋で引用された前置報告でも引用文献1とされた、本願出願日前である昭和62年8月3日に頒布された刊行物である特開昭62-176507号公報 (以下「刊行物1」という。)には以下の事項が記載され、視認される。
(刊1-ア)「pH3以下の熱水もしくはpH10以上の熱水を用いて超濾過膜を洗浄することを特徴とする超濾過膜の回生処理方法。」(特許請求の範囲1)
(刊1-イ)「<従来の技術>
従来から超濾過膜装置は被処理水中の微粒子、コロイダル物質、高分子有機物、発熱性物質等を除去する目的で用いられているが、近年においてLSIや超LSIを生産する電子工業における半導体ウェハーまたはチップ(以下半導体ウェハーという)の洗浄用水としての超純水の製造に用いられることが多い。
かかる半導体ウェハーの洗浄用水は通常、以下のようなフローで製造される。すなわち原水を凝集沈殿装置、砂濾過機、活性炭濾過機、逆浸透膜装置、2床3塔式純水製造装置、温床式ポリシャー、精密フィルターなどの一次側給水装置で処理して純水を得、次いで半導体ウェハーを洗浄する直前で前記-次処理純水を混床式ポリシャー、紫外線照射装置、超濾過膜装置で処理し、-次処理純水中に残留する微粒子、コロイダル物質、生石等を可及的に除去して、いわゆる超純水とするものである。
このような用途に用いられる超濾過膜装置は、その被処理水が一次側給水装置で得られる純水であるにもかかわらず、また直前で紫外線照射を行っているにもかかわらず、長時間の透過処理によって、透過水量が低下したり、あるいは透過水中に生菌が漏洩したりする。
この原因は、当該超濾過膜装置の被処理水である純水中に極微量残留している高分子有機物等が超濾過膜の膜面に付着したり、あるいは紫外線に耐性を有する一般細菌が膜面に繁殖するためと考えられる。
したがって使用する超濾過膜が上述のような汚染を受けた場合、何らかの回生処理をして超濾過膜の性能を回復せしめ、かつ殺菌する必要がある。」(1頁左下欄19行?2頁左上欄11行)
(刊1-ウ)「中性の熱水より酸性あるいはアルカリ性の熱水の方が回生処理効果が向上するのは、おそらく以下の理由によるものと思われる。すなわち一般に微生物の生育はその環境のpHによって影響を受け、それぞれの微生物にはその生育好適のpH帯があり、たとえば一般細菌は中性から弱アルカリ性(pH7?8)に、また酵母や黴は弱酸性(pH6?7)に最適pH帯があると言われている。換言すれば最適pH帯から酸性側あるいはアルカリ性側にずれると微生物の生育は抑制され、追には死滅することとなる。
したがって本来有する熱水の殺菌力と、酸性水あるいはアルカリ性水の有する殺菌力の相乗作用によって膜面に繁殖している一般細菌を効果的に殺菌できるためと考えられ、かつ本来有する熱水の高分子有機物等に対する溶解性および剥離性が、熱水のpHをアルカリ性あるいは酸性にすることにより、より向上するためと考えられる。」(2頁左下欄20行?2頁右下欄17行)
(刊1-エ)「本発明は透過水量が低下したり、あるいは透過水中に生菌が漏洩した際に、pHを3以下に調整した熱水もしくはpHを10以上に調整した熱水を超濾過膜に通水して当該膜面を洗浄するものである・・・当該pHを調整した熱水を、被処理水を透過すると同じ方向で通水したり・・・処理中に得られる洗浄排水(透過水および非透過水)は全量ブローすることが好ましい。なお場合によっては循環処理も実施できる。
本発明におけるpH調整剤としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、蓚酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水等を用いることができる。」(2頁右下欄18行?3頁右上欄5行)
(刊1-オ)「以下に本発明の実施態様を、半導体ウェハーの洗浄用水製造用の超濾過膜装置を例にしたフローを示した図面に基づいて説明する。
図中1は純水槽、2は温床式ポリシャー、3は紫外線照射装置、4は熱交換器、5は超濾過膜装置を示す。凝集沈殿装置、砂濾過機、活性炭濾過機、逆浸透膜装置、2床3塔式純水製造装置、温床式ポリシャー、精密フィルターなどからなる一次側給水装置で得られる一次処理純水を一旦、純水槽1に受け、当該純水を半導体ウェハー洗浄用の超純水とするため以下の処理を行う。
すなわち純水槽1の一次処理純水をポンプ6を用いて混床式ポリシャー2、紫外線照射装置3で処理した後、弁8を閉じ、弁7を開口してバイパス路9により熱交換器4をバイパスし、超濾過膜装置5で処理し、透過水10を得、当該透過水10を半導体ウェハーの洗浄用水として用い、また非透過水11は、純水槽1に循環したり、あるいは-次側給水装置へ循環回収する。このような処理により超濾過膜装置5の透過水量が低下したり、あるいは透過水10中に生菌が漏洩したりした際、本発明の回生処理を行う。
すなわち弁7を閉じ弁8を開口して紫外線照射後の純水を熱交換器4に通水して、90℃前後の熱純水とし、当該熱線水に、薬液槽12中の酸もしくはアルカリ溶液を注入ポンプ13により注入してpH1?3の酸性熱水あるいはpH10?13のアルカリ性熱水とし、これを超濾過膜装置5に通水し、この際に得られる透過水および非透過水は全量系外ヘブローする。」(3頁右上欄9行?同頁左下欄18行)
(刊1-カ)図面(5頁)からは上記(刊1-オ)の記載事項が窺われる。

3-2.審尋で引用された前置報告で引用文献2とされた、本願出願日前である昭和62年10月14日に頒布された刊行物である特開昭62-234507号公報 (以下「周知例1」という。)には図面と共に次の事項が記載されている。
(周1-ア)「第1図は本発明の実施態様の一例を示すフローの説明図であり、第2図と同様に点線は殺菌処理ラインを示している。
まず純水槽2の純水を濾過処理する場合は、従来と同じように純水槽2の純水を混床式ポリシャー3、紫外線照射装置4、超濾過膜装置5で処理し、その透過水をユースポイント配管6を介して純水槽2に循環するとともに非透過水も非透過水循環配管8を用いて純水槽2に戻す。またユースポイント7において必要とされる超純水が採水され、半導体ウェハー等の洗浄用水として用いられる。
次に本発明における熱水による殺菌処理は以下の通りに行われる。
すなわち前記濾過処理中に貯留槽9にあらかじめ超濾過膜装置5の供給水を貯留しておく。
殺菌処理にあたっては、貯留槽9内の供給水を熱交換器10によって間接的に加熱して温度約90℃前後の熱水とし、当該熱水を超濾過膜装置5に濾過処理と同じ方向に供給する。次いでその熱透過水をユースポイント配管6に流し、ユースポイント7を通過させ、その後ブロー管11より糸外にブローする。なお場合によってはユースポイント7を通過させた熱透過水を貯留槽9あるいは純水槽2に回収することもできる。
なお超濾過膜装置5に供給した熱水の一部は非透過熱水としてブローする。」(2頁右下欄9行?3頁左上欄15行)
(周1-イ)「本発明は熱水を超濾過膜に通すので、膜面に付着あるいは繁殖している汚染物あるいは一般細菌を熱水により効果的に剥離、かつ殺菌することができ、さらに熱透過水をユースポイント7を介して、ユースポイント配管6を通すので、たとえユースポイント配管6に一般細菌が繁殖していてもこれを効果的に殺菌することができ、殺菌処理後において、微粒子数および生菌数の極めて少ない透過水を得ることができる。」(3頁右上欄9?17行)
(周1-ウ)第1図(5頁)からは上記(周1-ア)の記載事項が窺われる。

3-3.本願出願日前である平成10年8月4日に頒布された刊行物である特開平10-201465号公報 (以下「周知例2」という。)には次の事項が記載されている。
(周2-ア)「【従来の技術】半導体、製薬、食品製造等の設備に用いられる純水や超純水中の細菌数を測定する方法として、これらの純水や超純水が流れている配管にサンプリングポートを設け、このサンプリングポートから水を分取し、この水(試料水)を濾過材で濾過して細菌を捕集し、その後所定時間培養して細菌数を測定する方法が行なわれている(JIS K 0550)。」(【0002】)
(周2-イ)「【実施例】図2に示した従来法による細菌捕集装置と図1に示した本発明方法の細菌捕集用サンプリングポートを超純水パイロットプラントの同一配管に取り付け、JIS K 0550に従って生菌数測定を繰り返し行った。
試験条件は次の通りである。
1) 試料:超純水(比抵抗>18.2MΩ・cm
TOC<2ppb DO<5ppb)
2) 流量:1.5m^(3) /Hr 配管内圧力:2kgf/cm^(2)
配管径:25mm 配管材質:PVDF ゴム片材質:シリコン
3) サンプリング回数:同時に連続でn=5で実施した。
4) 試料濾過量:10L」(【0020】【0021】)

3-4.本願出願日前である平成2年2月26日に頒布された刊行物である特開平02-056293号公報 (以下「周知例3」という。)には次の事項が記載されている。
(周3-ア)「以下、第3図に従い超純水製造とユースポイントへの超純水供給について説明する。超純水の水質維持の要点は、固形物としてのゴミの除去とバクテリアの除去、及び水に溶は込んでいる各種イオン、シリカ、有機物等を完全に除去することである。第3図において、-次純水が一次純水供給管101を通して循環水槽102に供給される。循環水槽に蓄えられた一次純水は圧送ポンプ103によって加圧され、紫外線殺菌ユニット(以降UV殺菌ユニットと略称)104、カートリッジポリシャー105,106,107及び限外濾過ユニット108,109を通ることにより精製される。122は限外濾過ユニットの排水管である。精製された超純水は、往路管110及び接続路管113,114,115、分岐バルブ116、117、118を経て、それぞれユースポイント119,120,121に供給される。接続路管113,114,115を経由した超純水は復路管112を経て循環水槽102に戻り循環を繰り返す。
第4図は、第3図のうち超純水供給配管装置を強調して示したものである。201は、超純水製造装置を一括して示している。131、132、133は接続路管113、114、115のユースポイントへの分岐点である。分岐バルブ116、117、118はそれぞれ分岐点131、132、133と一体で構成される。」(2頁右上欄16行?2頁右下欄2行)
(周3-イ)「超純水配管装置においては微生物の繁殖防止のために通常最低0.3m/sの流速を維持する必要がある。接続路管304の管内流速が0.3m/sとなる分流流量を最適分流流量と名付けると、その流量は次のように求めることができる。すなわち、0.3m/sの流速から接続路管304で生じる圧力損失が計算できる。これとΔP1の差は接続路管303で生じる圧力損失であるから、接続路管303を流れる流量が算出できる。接続路管303を流れる水量と接続路管304を流れる水量の差が最適分流流量である。
以上のような方法で、配管径のいくつかの組み合わせについて最大分流流量と最適分流流量を求めた結果の例を第1表に示す。第1表には各々の条件における接続路管分岐より上流側及び下流側における流速も併記しである。」(5頁左下欄15行?5頁右下欄11行)
(周3-ウ)「接続路管の管径による分流流量の効果(計算例)」と題される「第1表」(10頁)には、例えば以下の流速を採り得ることが記載されている。
・接続路管径 上流側20mm 下流側20mm
最適分流流量0.86m^(3)/hのとき
上流側接続路管流速1.20m/s 下流側接続路管流速0.3m/s
・接続路管径 上流側20mm 下流側15mm
最適分流流量2.18m^(3)/hのとき
上流側接続路管流速2.10m/s 下流側接続路管流速0.3m/s
・接続路管径 上流側20mm 下流側15mm
最適分流流量0.94m^(3)/hのとき
上流側接続路管流速1.00m/s 下流側接続路管流速0.3m/s
(周3-オ)第3、4図(12頁)からは上記(周3-ア)の記載事項が窺われる。また、第2図(11頁)からは上記(周3-イ)の記載事項が窺われる。

4.対比・検討
4-1.引用発明の認定
刊行物1の記載事項について検討する。
a)上記摘示事項(刊1-ア)には「pH3以下の熱水もしくはpH10以上の熱水を用いて超濾過膜を洗浄することを特徴とする超濾過膜の回生処理方法」と記載されることから、刊行物1には「pH10以上の熱水を用いて超濾過膜を洗浄する超濾過膜の回生処理方法」が記載されているといえる。
b)ここで、「超濾過膜」は、上記(刊1-イ)に「・・・かかる半導体ウェハーの洗浄用水は通常、以下のようなフローで製造される。すなわち原水を凝集沈殿装置、砂濾過機、活性炭濾過機、逆浸透膜装置、2床3塔式純水製造装置、温床式ポリシャー、精密フィルターなどの一次側給水装置で処理して純水を得、次いで半導体ウェハーを洗浄する直前で前記-次処理純水を混床式ポリシャー、紫外線照射装置、超濾過膜装置で処理し、-次処理純水中に残留する微粒子、コロイダル物質、生石等を可及的に除去して、いわゆる超純水とするものである」とあり、同様の(刊1-オ)の記載、また、(刊1-カ)の視認事項から、「一次側給水装置」から給水された純水が、その後に「混床式ポリシャー、紫外線照射装置」を経て「超濾過膜装置」を透過して「超純水」を製造するべく存在するものであることがわかる。
c)また、上記摘示事項(刊1-オ)には「純水槽1の一次処理純水をポンプ6を用いて混床式ポリシャー2、紫外線照射装置3で処理した後、弁8を閉じ、弁7を開口してバイパス路9により熱交換器4をバイパスし、超濾過膜装置5で処理し、透過水10を得、当該透過水10を半導体ウェハーの洗浄用水として用い」とあり、「超濾過膜装置」からの「透過水」は「半導体ウェハーの洗浄用水」として用いられることが分かる。
d)ところで、上記摘示事項(刊1-イ)には「超濾過膜装置は、その被処理水が一次側給水装置で得られる純水であるにもかかわらず、また直前で紫外線照射を行っているにもかかわらず、長時間の透過処理によって、透過水量が低下したり、あるいは透過水中に生菌が漏洩したりする。この原因は、当該超濾過膜装置の被処理水である純水中に極微量残留している高分子有機物等が超濾過膜の膜面に付着したり、あるいは紫外線に耐性を有する一般細菌が膜面に繁殖するためと考えられる。したがって使用する超濾過膜が上述のような汚染を受けた場合、何らかの回生処理をして超濾過膜の性能を回復せしめ、かつ殺菌する必要がある」とあることから、「超濾過膜装置」には「純水中に極微量残留している高分子有機物等が超濾過膜の膜面に付着したり、あるいは紫外線に耐性を有する一般細菌が膜面に繁殖する」ために、「何らかの回生処理をして超濾過膜の性能を回復せしめ、かつ殺菌する必要」があることがわかる。
e)そこで、「回生処理」として上記摘示事項(刊1-オ)に記載され、同(刊1-カ)に視認されるように「弁7を閉じ弁8を開口して紫外線照射後の純水を熱交換器4に通水して、90℃前後の熱純水とし、当該熱線水に、薬液槽12中の酸もしくはアルカリ溶液を注入ポンプ13により注入してpH1?3の酸性熱水あるいはpH10?13のアルカリ性熱水とし、これを超濾過膜装置5に通水し、この際に得られる透過水および非透過水は全量系外ヘブローする」ものであり、「pH10?13のアルカリ性熱水」を「超濾過膜装置」へ通水することで、上記摘示事項(刊1-ウ)に記載されるように「回生処理効果」の生ずることが理解される。
f)上記a)?e)の検討結果から、上記記載事項(刊1-ア)?(刊1-ウ)、(刊1-オ)、(刊1-カ)を本願発明の記載ぶりに則して表現すると、刊行物1には、

「一次側給水装置から給水された純水が、その後に混床式ポリシャー、紫外線照射装置を経て超濾過膜装置からの透過水として製造された超純水を半導体ウェハーの洗浄用水として用いるものにおいて、pH10?13のアルカリ性熱水を用いて超濾過膜を洗浄する超濾過膜の回生処理方法」の発明(以下、「引用発明」という。)

が記載されていると認められる。

4-2.本願発明と引用発明との対比
i)引用発明の「一次側給水装置から給水された純水が、その後に混床式ポリシャー、紫外線照射装置を経て超濾過膜装置」から得られる「透過水」は「超純水」だから、引用発明の「一次側給水装置から給水された純水が、その後に混床式ポリシャー、紫外線照射装置を経」る「超濾過膜装置」は、本願発明の「超純水製造装置」に相当する。
ii)引用発明では、「一次側給水装置から給水された純水が、その後に混床式ポリシャー、紫外線照射装置を経て超濾過膜装置」から得られる「透過水」である「超純水」は、「半導体ウェハーの洗浄用水として用い」られるものであり、「半導体ウェハーの洗浄用水として用い」られる箇所は、「ユースポイント」に他ならない。
iii)そして、引用発明でも、「一次側給水装置から給水された純水が、その後に混床式ポリシャー、紫外線照射装置を経」る「超濾過膜装置」から「半導体ウェハーの洗浄用水として用い」られる箇所までを接続する「洗浄用水」としての「超純水」の流路は当然に存在するものということができる。
iv)引用発明の「pH10?13のアルカリ性熱水」は、「pH10?13のアルカリ性」の水溶液すなわち「塩基性」の溶液だから、本願発明の「塩基性溶液」に相当する。
v)引用発明の「回生処理方法」は、「超濾過膜」を「洗浄」して「回生」し再使用できるようにするものであり、これは「洗浄方法」に他ならないので、本願発明の「洗浄方法」に相当する。

vi)以上から本願発明と引用発明とは
「超純水製造装置、超純水のユースポイント、並びに前記超純水製造装置と前記ユースポイントとを接続する超純水の流路からなる超純水製造システムにおいて、塩基性溶液で洗浄する洗浄方法。」の点(一致点)で一致し、次の点で両者は相違する。

(相違点1)本願発明は「超純水製造システム」の洗浄方法であるのに対して、引用発明は「超濾過膜」の洗浄方法である点
(相違点2)本願発明は「前記流路と前記超純水との接触面に形成されたバイオフィルムを、流速1.0m/sec以上の塩基性溶液と接触させて溶解する」ものであるのに対し、引用発明はそのような特定を有さない点

4-3.相違点の検討
4-3-1.相違点1について
引用発明では、上記摘示事項(刊1-エ)に「当該pHを調整した熱水を、被処理水を透過すると同じ方向で通水したり・・・処理中に得られる洗浄排水(透過水および非透過水)は全量ブローすることが好ましい。なお場合によっては循環処理も実施できる」と記載されるように、「超濾過膜」の「透過水」である「洗浄排水」すなわち「pH10?13のアルカリ性熱水」は、「(回生処理時でなく通常に)被処理水を透過すると同じ方向で」通水されて、「循環処理」され得ることが理解される。
ここで、上記摘示事項(周1-ア)の記載及び同(周1-ウ)の視認事項からは、「超濾過膜装置5」の透過水を「ユースポイント配管6」によって「ユースポイント7」まで移送して「半導体ウエハー等の洗浄用水」として用いた後で「純水槽2」に戻す「超濾過膜の殺菌方法」において、「半導体ウエハー等の洗浄用水」として用いるのと同じ方向で「超濾過膜装置5」に熱水を供給し、その「熱透過水」を「ユースポイント配管6」に流し、「ユースポイント7」を通過させ、「場合によって」は「ユースポイント7」を通過させた「熱透過水」を「純水槽2」に回収することが記載され、また、同(周1-イ)からは、上記「超濾過膜の殺菌方法」によれば、「熱透過水をユースポイント7を介して、ユースポイント配管6を通すので、たとえユースポイント配管6に一般細菌が繁殖していてもこれを効果的に殺菌することができ」ることが記載されており、「超濾過膜」の透過水を「ユースポイント配管」によって「ユースポイント」へ移送し「純水槽2」に戻して回収することは周知技術であり、これは「循環処理」といえるから、引用発明においてもそのような「循環処理」を行って、結果として「超純水製造装置、超純水のユースポイント、並びに前記超純水製造装置と前記ユースポイントとを接続する超純水の流路からなる超純水製造システム」の洗浄を行うようにすることに格別の困難性は見いだせない。

4-3-2.相違点2について
相違点2について更に詳細に見れば、本願発明と引用発明とは、次の点で相違すると言える。
i)本願発明では「超純水製造装置とユースポイントとを接続する超純水の流路」と「超純水」との「接触面」での洗浄であるのに対して、引用発明では「超濾過膜」の膜面における洗浄である点
ii)本願発明では「形成されたバイオフィルム」を「溶解」するものであるのに対して、引用発明では被処理水である純水中に極微量残留している高分子有機物等が超濾過膜の膜面に付着したり、あるいは紫外線に耐性を有する一般細菌が膜面に繁殖するので、これを洗浄するものである点
iii)本願発明では「流速1.0m/sec以上の塩基性溶液」と接触させるのに対して、引用発明では流速に関して特定なく塩基性溶液と接触させる点

i)の点については、上記「4-3-1.相違点1について」で述べたように、以下のように判断することができる。
すなわち、引用発明では、上記摘示事項(刊1-エ)の記載から「超濾過膜」の「透過水」である「洗浄排水」すなわち「pH10?13のアルカリ性熱水」は、「(回生処理時でなく通常に)被処理水を透過すると同じ方向で」通水されて、「循環処理」され得ることが理解される。
ここで、上記摘示事項(周1-ア)の記載及び同(周1-ウ)の視認事項からは、「超濾過膜装置5」の透過水を「ユースポイント配管6」によって「ユースポイント7」まで移送して「半導体ウエハー等の洗浄用水」として用いた後で「純水槽2」に戻す「超濾過膜の殺菌方法」において、「半導体ウエハー等の洗浄用水」として用いるのと同じ方向で「超濾過膜装置5」に熱水を供給し、その「熱透過水」を「ユースポイント配管6」に流し、「ユースポイント7」を通過させ、「場合によって」は「ユースポイント7」を通過させた「熱透過水」を「純水槽2」に回収することが記載され、また、同(周1-イ)からは、上記「超濾過膜の殺菌方法」によれば、「熱透過水をユースポイント7を介して、ユースポイント配管6を通すので、たとえユースポイント配管6に一般細菌が繁殖していてもこれを効果的に殺菌することができ」ることが記載されており、「超濾過膜」の透過水を「ユースポイント配管」によって「ユースポイント」へ移送し「純水槽2」に戻して回収することは周知技術であり、これは「循環処理」といえるから、引用発明においてもそのような「循環処理」を行うことで、「超純水製造装置とユースポイントとを接続する超純水の流路」と「超純水」との「接触面」での洗浄を行うようにすることに格別の困難性は見いだせない。
ii)の点については、まず、本件当初明細書【0003】には「菌体(生菌、死菌の両方を含む)や菌の生産物質から成る付着物(以下、「バイオフィルム」と称する)」と記載されており、また、平成19年2月16日付け意見書2頁には「本願発明はバイオフィルムを溶解するという技術手段で構成されている」(上記意見書2頁)、「付着しているバイオフィルムを短時間で溶解し」(回答書2?3頁)のように、請求人は、本願発明は「バイオフィルムを溶解する」ものであることを主張し、請求項の記載も「バイオフィルムを・・・塩基性溶液と接触させて溶解する」とされている。
ここで、例えば周知例1の上記摘示事項(周1-イ)には「熱水を超濾過膜に通すので、膜面に付着あるいは繁殖している汚染物あるいは一般細菌を熱水により効果的に剥離、かつ殺菌することができ、さらに熱透過水をユースポイント7を介して、ユースポイント配管6を通すので、たとえユースポイント配管6に一般細菌が繁殖していてもこれを効果的に殺菌することができ」と記載され、「熱透過水」によって「付着あるいは繁殖している汚染物あるいは一般細菌を熱水により効果的に剥離、かつ殺菌する」ものであって、「付着あるいは繁殖している汚染物あるいは一般細菌」は、「菌」などからなる「付着物」という点で上記「バイオフィルム」に相当するといえる。
そして、周知例1に記載の技術手段は「半導体ウエハの洗浄用水」に関するものであり、引用発明も同様だから、流通する水質は両者で同様と考えられるので、引用発明における「当該超濾過膜装置の被処理水である純水中に極微量残留している高分子有機物等が超濾過膜の膜面に付着したり、あるいは紫外線に耐性を有する一般細菌が膜面に繁殖する」(上記摘示事項(刊1-イ)参照)ものは「バイオフィルム」に相当するといえる。
そうであれば、引用発明でも「pH10?13のアルカリ性熱水」という本願発明と同じ「塩基性溶液」に接触させるものである以上、引用発明でも「バイオフィルム」は「溶解」するものと推定され、この点で何ら差異は認められない。

iii)の点については、以下のように考えられる。
まず、上記周知例2の摘示事項(周2-ア)(周2-イ)には「半導体、製薬、食品製造等の設備に用いられる純水や超純水中の細菌数を測定する方法」において「純水や超純水が流れている配管」の「流量1.5m^(3) /Hr」、「配管径:25mm」が記載されており、
(流速)=(流量)/(断面積)だから、「純水や超純水が流れている配管」の流速が次のように計算される。
(流速[m/s])=(1.5/3600)/[(25/2)×π×10^(-6)]
=0.849[m/s]
また、上記周知例3の摘示事項(周3-ア)?(周3-オ)には、例えば第4図の開示に沿って説明すれば、
「超純水製造装置201」から「往路管110」を通り上流側「接続路管113-1」を通り「分岐バルブ116」を経て「ユースポイント119」と下流側「接続路管113-2」へ分岐し「復路管112」を経て「超純水製造装置201」へ循環する経路と、
「超純水製造装置201」から「往路管110」を通り上流側「接続路管114-1」を通り「分岐バルブ117」を経て「ユースポイント120」と下流側「接続路管114-2」へ分岐し「復路管112」を経て「超純水製造装置201」へ循環する経路と、
「超純水製造装置201」から「往路管110」を通り上流側「接続路管115-1」を通り「分岐バルブ118」を経て「ユースポイント121」と下流側「接続路管115-2」へ分岐し「復路管112」を経て「超純水製造装置201」へ循環する経路と、
よりなる「超純水供給配管装置」において、
・接続路管径 上流側20mm 下流側20mm
最適分流流量0.86m^(3)/hのとき
上流側接続路管流速1.20m/s 下流側接続路管流速0.3m/s
・接続路管径 上流側20mm 下流側15mm
最適分流流量2.18m^(3)/hのとき
上流側接続路管流速2.10m/s 下流側接続路管流速0.3m/s
・接続路管径 上流側20mm 下流側15mm
最適分流流量0.94m^(3)/hのとき
上流側接続路管流速1.00m/s 下流側接続路管流速0.3m/s
を採り得ることが示されている。
すなわち、通常に「純水や超純水が流れている配管」の「純水や超純水」の流速として0.849[m/s]、「超純水製造装置」から「ユースポイント」へ至る管路での「超純水」の流速として「1.20m/s」「2.10m/s」「1.00m/s」等の値を採り得ることが周知であるということができる。
そして、一般に、管壁の付着物を剥離するのに、流体の流速を上げて流体の流れの勢いで剥離させようとすることはごく普通に考えられる技術常識であり、また、本願発明における「流速1.0m/sec以上」とする点についてその前後の流速での作用効果の差異に言及する記載は本願当初明細書中に見いだせないことから、「流速1.0m/sec以上」とする点に技術的な臨界性があるものとすることはできない。
そうであれば、超純水の流れる配管での流速として1m/s程度の数値が普通に知られている以上、引用発明において、付着物の剥離を要する際に、1m/s以上の流速で「pH10?13のアルカリ性熱水」という「塩基性溶液」を流すことを特定することに格別の困難性は見いだせない。

以上のように各相違点について判断され、また、各相違点に基づく作用効果も刊行物1及び上記周知例1?3に代表される各周知技術から想定される範囲を超えるものでもない。

5.むすび
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明および上記周知例1?3に代表される各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-30 
結審通知日 2010-08-04 
審決日 2010-08-23 
出願番号 特願2000-242603(P2000-242603)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須藤 康洋中村 敬子大島 忠宏  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 斉藤 信人
中澤 登
発明の名称 超純水製造システムの洗浄方法  
代理人 長門 侃二  

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