• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1224722
審判番号 不服2008-14784  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-12 
確定日 2010-10-08 
事件の表示 特願2002- 65045「光印写ヘッド、その作製方法及びそれを用いた画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月16日出願公開、特開2003-260811〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、平成14年3月11日の出願であって、平成19年10月15日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月25日付けで手続補正がなされたが、平成20年5月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月12日に本件審判が請求されるとともに、同年7月9日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成21年12月24日付けで審尋を行ったところ、平成22年1月21日付けで回答書が提出された。

第2 平成20年7月9日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年7月9日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
〔理由〕
1 補正の内容
(1)本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前に、
「【請求項1】 複数の発光部を有する発光素子アレイと、
前記発光素子アレイの光射出側に配置された透明部材と、
前記各発光部に対応した前記透明部材の光射出側の位置に複数配置されたボールレンズとを備え、
前記ボールレンズの間に穴を設けた遮光部材が配置されていることを特徴とする光印写ヘッド。」とあったものを、

「【請求項1】 複数の発光部を有する発光素子アレイと、
前記発光素子アレイの光射出側に配置された透明部材と、
前記各発光部に対応した前記透明部材の光射出側の位置に各々独立して複数配置されたボールレンズとを備え、
前記ボールレンズの間であって、当該ボールレンズの光射出側かつ前記発光素子アレイから所定距離離間された位置に配置されると共に、前記ボールレンズの直径より小さい値の穴径でありかつ前記発光部の配列ピッチと同一ピッチに配置された穴を設けた遮光部材が配置され、
前記遮光部材により前記ボールレンズの位置決めと固定とが共になされていることを特徴とする光印写ヘッド。」に補正するものである。(下線は当審で付した。以下同じ。)

(2)上記(1)の本件補正後の請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1の「ボールレンズ」の配置について、「各々独立して」いるとの限定を付加し、「遮光部材」に設けられた「穴」について、「当該ボールレンズの光射出側かつ前記発光素子アレイから所定距離離間された位置に配置されると共に、前記ボールレンズの直径より小さい値の穴径でありかつ前記発光部の配列ピッチと同一ピッチに配置された」との限定を付加し、「遮光部材」と「ボールレンズ」について、「遮光部材により前記ボールレンズの位置決めと固定とが共になされている」との限定を付加したものである。

2 補正の目的
本件補正後の請求項1に係る補正は、上記1(2)のとおり、本件補正前の請求項1の発明特定事項を限定するものである。
したがって、本件補正後の請求項1に係る補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 刊行物に記載された発明
(1)本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-6467号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学露光方式のプリントヘッドの画像書込みデバイスに係り、特にLEDヘッドを利用した光学露光方式の画像書込みデバイスに関する。」
イ 「【0022】図において、本発明の画像書込みデバイスは、プリント配線基板1,このプリント配線基板1の下面にサブマウント素子として接合された静電気保護用のツェナーダイオード2及びこのツェナーダイオード2の上に導通搭載したLED素子を発光光学系として備えたものである。そして、記録紙Pに対してカラー画像を印字するため、R,G,BのそれぞれのLED素子3,4,5が一つの画素対応として配列され、このR,G,BのLED素子3?5のパターンがプリント配線基板1に複数組設けられる。
【0023】プリント配線基板1はその平面形状をたとえばほぼ正方形状とし、R,G,BのそれぞれのLED素子3,4,5の配列パターンに合わせてテーパ状のスルーホール1aを貫通させたものである。そして、各スルーホール1aの内周面からプリント配線基板1の上下両面にかけて導電パターン(図示せず)にそれぞれ導通する一対の電極膜1b,1cを成膜している。この電極膜1b,1cはたとえばNi,Al等の光反射率の高い素材を用いてスルーホール1aの内周面のほぼ全体を被膜することによって、LED素子3,4,5から側方に出る光を記録紙P方向に反射させる反射面Rとすることができる。
【0024】プリント配線基板1の上には光を透過せず絶縁性のたとえば合成樹脂を素材としたシールドプレート6を光路層として積層し、このシールドプレート6によって各スルーホール1aの中に下端側が入り込む球状の集光レンズ7を保持している。」
ウ 「【0025】図2は青色発光のLED素子5のスルーホール1aへの組込み及び導通構造の詳細を示す要部の縦断面図である。
【0026】ツェナーダイオード2は、n型シリコン基板2aを素材としたもので、図において右側に偏った位置の上面側からp型不純物イオンを注入して拡散させて、p型半導体領域2bを部分的に形成したものである。そして、n型半導体領域に相当する部分にn側電極2c及びp型半導体領域2bに相当する部分にp側電極2dをそれぞれ形成している。
【0027】青色発光のLED素子5はGaN系化合物半導体を用いたフリップチップ型のものであって、サファイアの基板5aにn-GaNのn型層及びp-GaNのp型層を積層するとともに、p型層の表面にp側電極5b及びn型層の表面にn側電極5cを蒸着法によって形成したものである。そして、これらのp側及びn側の電極5b,5cにマイクロバンプ5d,5eを形成し、熱,加重及び超音波振動の付加によってマイクロバンプ5d,5eをツェナーダイオード2のn側電極2c及びp側電極2dに接合する。これにより、ツェナーダイオード2とLED素子5とは逆極性によって接続される。
【0028】このように逆極性の接続によって、LED素子5に印加される逆方向電圧はツェナーダイオード2の順方向電圧付近すなわち0.9Vでバイパスが開く。また、LED素子5に印加される順方向電圧はツェナーダイオード2のツェナー電圧Vzを10V付近に設定することにより、その電圧でバイパスが開くことにより、それぞれ過電流がバイパスされる。したがって、静電気によるLED素子5の破壊を確実に防ぐことができる。
【0029】LED素子5を導通搭載したツェナーダイオード2は、p側電極2d及びn側電極2cにそれぞれマイクロバンプ2e,2fを形成し、これによって電極膜1b、1cに導通接続する。なお、ツェナーダイオード2とLED素子5とをプリント配線基板1に対して確実に固定するために、ツェナーダイオード2の全体を含めて被覆する絶縁性の樹脂によって樹脂封止することが好ましい。
【0030】一方、球体の集光レンズ7はガラスまたは樹脂を素材としたもので、その下端面をLED素子5のサファイア基板5aの上面に近づけた配置とし、その中心がLED素子5の発光軸に位置する状態にアセンブリする。すなわち、スルーホール1aはLED素子5側に向けて先細りするテーパ状であってその内周面に電極膜1bを一様な厚さで成膜されているので、球体の集光レンズ7をスルーホール1aの中に落とし込むと電極膜1bに接触したときに調心し、集光レンズ7の中心はスルーホール1aの軸線上に位置する。したがって、LED素子5の発光軸もこのスルーホール1aの軸線と一致するようにしておけば、LED素子5の発光軸を集光レンズ7に調心させることができる。
【0031】LED素子5に通電されたときには、p-n接合域の活性層からの発光は、透明のサファイア基板5aの上面を主光取出し面として記録紙P側に放出される。そして、LED素子5からの光は、上面側だけではなく側方や下方にも漏れ出る成分があるが、これらはスルーホール1aの内周面に被膜した光反射率の高い電極膜1bによって記録紙P側に反射される。また、ツェナーダイオード2の表面に設けるn側及びp側電極2c,2dも光反射率の高いのものとすることによって、下方に漏れる光を有効に回収することができる。
【0032】R,GのLED素子3,4とツェナーダイオード2との導通構造及び集光レンズ7のスルーホール1aへの配置も全く同様であり、LED素子3,4をいずれもフリップチップ型のものとしておけばよい。
【0033】以上の構成において、画像形成のためのコントローラ(図示せず)によって、デジタル画像は画素単位に分解され、各画素はカラーマップに変化される。そして、カラーマップは画素毎に割り当てられたデジタル信号となり、送られてきたデジタル信号に従い各LED素子3?5が発光し、それぞれの発光面に対峙して配置した集光レンズ7を通して記録紙P上の画素に焦点を結び、その記録紙P上の放射照度により、この記録紙P上のマイクロカプセルを露光して感光させる。これにより、順次フライングスポットで記録紙Pを露光して感光させることで、画像の書込みが行われ、記録紙P上の全ての画素の書込みが行われる。
【0034】ここで、本発明においては、プリント配線基板1のスルーホール1aの中にLED素子3?5を収納するとともに集光レンズ7もその一部をこのスルーホール1aの中に落とし込む配置としているので、集光レンズ7を組み込むアセンブリであっても、プリント配線基板1からシールドプレート6の上面までの厚さを薄くできる。そして、ボンディング用のワイヤとの干渉がないので、集光レンズ7はLED素子3?5の発光面に近接配置できるので、画像書込みデバイスの全体の厚さの薄型化が可能となり、携帯用機器等への組込みが最適化される。
【0035】また、集光レンズ7がLED素子3?5の発光面に近い位置に設置できるので、集光レンズ7の径を放射照度を高くできる程度の大きさに設定でき、記録紙P上での画像形成を高品質化することができる。そして、LED素子3?5から側方に漏れ出る光も、電極膜1bを利用した反射面Rによって集光レンズ7側に回収でき、放射照度を更に上げることで、画像品質を一層向上させることもできる。
【0036】更に、LED素子3?5はいずれもスルーホール1aの中に位置し、集光レンズ7どうしの間は光を透過しないシールドプレート6が介在しているので、各LED素子3?5どうしの間の発光のクロストークの発生もない。したがって、各色の画像形成に干渉が発生することなく、鮮明なカラー印字が可能となる。
【0037】そして更に、先にも述べたように、スルーホール1aはテーパ状の孔であって集光レンズ7はこの中に落とし込むだけで調心配置することができる。そして、集光レンズ7はスルーホール1aのテーパ状の内周面に被膜した電極膜1bによって安定保持されるので、LED素子3?5の発光面に近接配置してもこれと無用に接触したりすることもなく、LED素子3?5の損傷も免れる。」

(2)上記(1)アないしウから、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「プリント配線基板1の下面にサブマウント素子として接合された静電気保護用のツェナーダイオード2及びこのツェナーダイオード2の上に導通搭載したLED素子を発光光学系として備え、
R,G,BのLED素子3?5のパターンがプリント配線基板1に複数組設けられ、
プリント配線基板1はその平面形状をたとえばほぼ正方形状とし、R,G,BのそれぞれのLED素子3,4,5の配列パターンに合わせてテーパ状のスルーホール1aを貫通させたものであって、各スルーホール1aの内周面からプリント配線基板1の上下両面にかけて導電パターンにそれぞれ導通する一対の電極膜1b,1cを成膜しており、
プリント配線基板1の上には光を透過せず絶縁性のたとえば合成樹脂を素材としたシールドプレート6を光路層として積層し、このシールドプレート6によって各スルーホール1aの中に下端側が入り込む球状の集光レンズ7を保持しており、
球体の集光レンズ7はガラスまたは樹脂を素材としたものであり、
各LED素子3?5が発光し、それぞれの発光面に対峙して配置した集光レンズ7を通して記録紙P上の画素に焦点を結び、その記録紙P上の放射照度により、この記録紙P上のマイクロカプセルを露光して感光させ、
LED素子3?5はいずれもスルーホール1aの中に位置し、集光レンズ7どうしの間は光を透過しないシールドプレート6が介在しているので、各LED素子3?5どうしの間の発光のクロストークの発生もなく、
集光レンズ7はスルーホール1aのテーパ状の内周面に被膜した電極膜1bによって安定保持される光学露光方式のプリントヘッド。」

(3)本願の出願前の頒布された刊行物である特開平10-107323号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光ダイオード用パッケージに関し、特にレンズ保持構造の改善された光ダイオード用パッケージに関する。」
イ 「【0005】本発明は、上記欠点、問題点に鑑みてなされたものであり、光ダイオード用レンズ付パッケージの“レンズの固定強度”を、振動や衝撃等の機械的ストレスに対して強くし、レンズ抜けをなくすることのできる光ダイオード用パッケージを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、通信用光ダイオード素子のレンズ付パッケージのレンズが、該パッケージのキャップによるパッケージ外側からの支持と、金属ブロックの開口の縁部によるパッケージ内側からの支持とによる“挟み込み構造”によって実装されている光ダイオード用パッケージによって達成される(請求項1)。」
ウ 「【0008】
【作用】本発明は、レンズの上部をレンズの直径よりも小さなレンズ穴が開いたキャップで直接固定し、これにより上方へのレンズ抜けを防止している。一方、下方へのレンズ抜けを防止するために、レンズ下部を円柱形で中央にレンズの直径よりも小さなくぼみをつけた例えば銅製の金属ブロックにより固定する。さらに、この金属ブロックのくぼみの部分(レンズとの接触部分)には、レンズのクッション材としてゴムやラバー等を張りつけることで、レンズの押さえがしっかりし固定を確実にでき、かつ保持部分の衝撃に対する強度を高めることができる。」
エ 「【0012】本発明の第一の実施形態は、図1,2に示すように、金属で形成されたキャップ4と同じく金属で形成されたステム7上に溶接された例えば銅製の銅ブロック5にて、レンズ1を固定する。なお、銅ブロック5の中央は開口5aがあいており、また、銅ブロック5の反対側は例えば半円形の切り欠き部5bが形成されている。この切り欠き部5bにヒートシンク6を介して光ダイオード素子8が設けられている。
【0013】また、レンズ1と銅ブロック5の間にゴムまたはラバーのような適宜弾力性のあるクッション材3をとりつける。更に、レンズ1の上部側とキャップ4の接触部分の気密をとるため、低融点ガラス2で焼結する。その際の熱の温度は400?500℃が望ましい。なお、図中、9はリード端子である。
【00014】図1のA-A線断面図である図2から判るように、本実施形態においては、レンズ1より小さい直径を有するキャップ4と、円柱状で中央部に開口5aを有した銅ブロック5で完全に固定すると共に、レンズ下側の固定部(固定面)のくぼみ5cにはゴムあるいはラバー等のクッション材3をとりつけ、レンズ1に対する衝撃を吸収できるようになっている。
【00015】次に、本発明における光ダイオード用パッケージの動作について、前掲の図1を参照して説明する。光ダイオード素子8から発光した光は、銅ブロック5の中央部の開口5aを通り、レンズ1を介して、図示しない光ファイバや受光ダイオードに集光される。また、光ダイオード素子8は、動作時に発熱する。しかし、この熱は、ヒートシンク6を介して銅ブロック5に伝達され、更に銅ブロック5から外部へ効果的拡散される。」
オ 図1及び図2より、レンズ1がボールレンズ(球レンズ)であることが看取できる。

(4)上記(3)アないしエから、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「光ダイオード用レンズ付パッケージの“レンズの固定強度”を、振動や衝撃等の機械的ストレスに対して強くし、レンズ抜けをなくするために、
通信用光ダイオード素子のレンズ付パッケージのボールレンズが、該パッケージのキャップによるパッケージ外側からの支持と、金属ブロックの開口の縁部によるパッケージ内側からの支持とによる“挟み込み構造”によって実装されている光ダイオード用パッケージであって、
レンズの上部をレンズの直径よりも小さなレンズ穴が開いたキャップで直接固定し、これにより上方へのレンズ抜けを防止し、一方、下方へのレンズ抜けを防止するために、レンズ下部を円柱形で中央にレンズの直径よりも小さなくぼみをつけた例えば銅製の金属ブロックにより固定し、銅ブロック5の中央は開口5aがあいており、また、銅ブロック5の反対側は例えば半円形の切り欠き部5bが形成されており、この切り欠き部5bにヒートシンク6を介して光ダイオード素子8が設けられ、
ボールレンズ1より小さい直径を有するキャップ4と、円柱状で中央部に開口5aを有した銅ブロック5で完全に固定し、
光ダイオード素子8から発光した光は、銅ブロック5の中央部の開口5aを通り、レンズ1を介して、光ファイバや受光ダイオードに集光される光ダイオード用レンズ付パッケージ。」

4 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「LED素子3?5」及び「光学露光方式のプリントヘッド」は、本願補正発明の「複数の発光部」及び「光印写ヘッド」に相当する。

(2)本願補正発明は、
「複数の発光部を有する発光素子アレイと、
前記発光素子アレイの光射出側に配置された透明部材と、
・・・ボールレンズとを備え、
・・・されていることを特徴とする光印写ヘッド。」とあり、本願補正発明の「発光素子アレイ」が「発光部の配列」自体を意味しているのか、「発光部」と「発光部が配列された基板」とからなるものを意味しているのか、必ずしも明らかではないところ、本願の出願当初の明細書及び図面には、「遮光マスク板7をボールレンズ10の射出側の球面状に配置する構成(段落【0034】、図4等参照。)を有する光印写ヘッドの実施例」としては、「発光部2が配列された基板(例えば、遮光マスク板7を設けていない他の実施例である図5や図6に示された『ガラス基板21』に相当するもの。)」は設けられておらず、前者の解釈に対応した実施例が開示されている。
また、請求人も、平成22年7月29日付け応対記録に添付された平成22年7月28日付け上申書としてファクシミリにより提出された書類において、「平成20年7月9日付け手続補正書で補正した請求項1及び請求項7における『複数の発光部を有する発光素子アレイと前記発光素子アレイの光射出側に配置された透明部材と、』の記載の意味するところは、【図4】に示されるような複数の発光部2のアレイ自体(アレイ状配置)が請求項1及び請求項7における『複数の発光部を有する発光素子アレイ』を意味し、また、『前記発光素子アレイの光射出側に配置された透明部材』は【図4】に示される透明層3を意味するものであります。」と主張している。
以上のことから、本願補正発明においては、「発光素子アレイ」とは、「複数の発光部のアレイ自体」を意味するものとして、以下解釈する。
してみると、引用発明1の「R,G,BのLED素子3?5のパターン」は、本願補正発明の「複数の発光部を有する発光素子アレイ」に相当する。

(3)引用発明1は、「テーパ状のスルーホール1a」が、「LED素子3,4,5の配列パターンに合わせて」、「貫通」されているものであり、「シールドプレート6によって各スルーホール1aの中に下端側が入り込む球状の集光レンズ7を保持し」ていることから、引用発明1の「集光レンズ7」は、「発光部(LED素子3?5)に対応した」位置に、「各々独立して配置」されていることはあきらかである。
したがって、引用発明1の「集光レンズ7」は、本願補正発明の「ボールレンズ」と、「各発光部に対応した位置に各々独立して複数配置されたボールレンズ」として一致する。

(4)引用発明1の「光を透過しないシールドプレート6」は、「集光レンズ7どうしの間」に「介在して」おり、「球状の集光レンズ7を保持して」いることから、「集光レンズ7を保持している空間」を有している。
引用発明1の「『集光レンズ7』を保持している空間」は、「集光レンズ7」の配置されている箇所に設けられており、また、上記(2)のとおり「集光レンズ7」は、「各発光部に対応した位置」に設けられているから、引用発明1の「『集光レンズ7』を保持している空間」は、「各発光部に対応した位置」に設けられている。
してみれば、引用発明1の「『集光レンズ7』を保持している空間」は、本願補正発明の「ボールレンズの光射出側かつ前記発光素子アレイから所定距離離間された位置に配置されると共に、前記ボールレンズの直径より小さい値の穴径でありかつ前記発光部の配列ピッチと同一ピッチに配置された穴」と、「発光部の配列ピッチと同一ピッチに配置された穴」という点で一致する。
また、引用発明1の「集光レンズ7どうしの間」に「介在し」た「光を透過しないシールドプレート6」は、光を透過しない以上「遮光」することはあきらかであるから、本願補正発明の「ボールレンズの間であって、当該ボールレンズの光射出側かつ前記発光素子アレイから所定距離離間された位置に配置されると共に、前記ボールレンズの直径より小さい値の穴径でありかつ前記発光部の配列ピッチと同一ピッチに配置された穴を設けた遮光部材」と、「ボールレンズの間であって、発光部の配列ピッチと同一ピッチに配置された穴を設けた遮光部材」として一致する。

(5)上記(4)で述べた通り、引用発明1の「『シールドプレート6』が有する『集光レンズ7』を保持している空間」は、「各発光部に対応した位置」に設けられている。
してみれば、「集光レンズ7」は、「『シールドプレート6』が有する『集光レンズ7』を保持している空間」により位置決めされているといえるから、引用発明1の「シールドプレート6によって各スルーホール1aの中に下端側が入り込む球状の集光レンズ7を保持して」いることは、本願補正発明の「遮光部材により前記ボールレンズの位置決めと固定とが共になされていること」と、「遮光部材により前記ボールレンズの位置決めがなされていること」として一致する。

(6)上記(1)ないし(5)からみて、本願補正発明と引用発明1とは、

「複数の発光部を有する発光素子アレイと、
前記各発光部に対応した位置に各々独立して複数配置されたボールレンズとを備え、
前記ボールレンズの間であって、前記発光部の配列ピッチと同一ピッチに配置された穴を設けた遮光部材が配置され、
前記遮光部材により前記ボールレンズの位置決めがなされている光印写ヘッド。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明は、「前記発光素子アレイの光射出側に配置された透明部材を備え」と特定されているのに対し、引用発明1は、そのような部材を備えていない点。

<相違点2>
「ボールレンズの配置された位置」について、本願補正発明は、「前記透明部材の光射出側の位置」であると特定されているのに対し、引用発明1は、そのようになっていない点。

<相違点3>
「遮光部材に設けた穴」について、本願補正発明は、「ボールレンズの光射出側かつ前記発光素子アレイから所定距離離間された位置に配置されると共に、前記ボールレンズの直径より小さい値の穴径であり」と特定されているのに対し、引用発明1は、そのようになっているか否か定かでなく、「遮光部材」について、本願補正発明は、「前記遮光部材により前記ボールレンズの位置決めと固定とが共になされている」と特定されているのに対し、引用発明1は「位置決め」はされているが、「固定」されているのか否か定かでない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
平成20年5月2日付け拒絶査定において「特開平2-286358号公報」を例示したように、「複数の発光素子からなる発光素子アレイの光射出側に透明基板を配置し、レンズアレイの光軸に発光位置をあわせて発光素子アレイをレンズアレイとは反対側に位置して形成」することは周知であり(以下「周知技術」という。)、引用発明1に、上記のような周知技術を採用することは、当業者であれば、容易に想到し得るものである。

(2)相違点2について
引用発明1は、「各LED素子3?5が発光し、それぞれの発光面に対峙して配置した集光レンズ7を通して記録紙P上の画素に焦点を結」ぶようにしていることから、「ボールレンズの配置された位置」は、「発光素子アレイの光射出側の位置」である。
してみれば、引用発明1に周知技術を採用して、「複数の発光素子からなる発光素子アレイの光射出側に透明基板を配置」することにより、「ボールレンズの配置された位置」について、「透明基板(透明部材)の光射出側の位置」と成すことは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

(3)相違点3について
引用発明2は、「レンズの上部をレンズの直径よりも小さなレンズ穴が開いたキャップで直接固定し、これにより上方へのレンズ抜けを防止し、一方、下方へのレンズ抜けを防止するために、レンズ下部を円柱形で中央にレンズの直径よりも小さなくぼみをつけた例えば銅製の金属ブロックにより固定し」、「光ダイオード素子8から発光した光は、・・・レンズ1を介して、・・・集光される」ことから、キャップ4により、集光が可能なようにボールレンズ1の位置決めと固定とが共になされていることは明らかである。
また、キャップ4に設けられたレンズ直径よりも小さなレンズ穴は、銅ブロック5により形成される距離以上に光ダイオード素子から離間された位置に配置されているから、「ボールレンズの光射出側かつ光ダイオード素子から銅ブロック5により形成される所定距離以上に、離間された位置に配置されると共に、前記ボールレンズの直径より小さい値の径」のレンズ穴がキャップ4に形成されていることも明らかである。
してみれば、ボールレンズのレンズ抜けを防止するために、レンズの固定強度を向上させるという課題は当然の課題であるから、引用発明1のボールレンズを安定保持させるために、引用発明2のような挟み込み構造による固定構造を採用して、上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(4)効果について
本願補正発明の奏する効果は、引用発明1の奏する効果、引用発明2の奏する効果及び周知技術の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

(5)まとめ
以上の検討によれば、本願補正発明は、当業者が引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、本件出願の出願当初の特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)」で本件補正前の請求項1として記載したものである。

2 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「第2〔理由〕3(1)及び(2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「LED素子3?5」及び「光学露光方式のプリントヘッド」は、本願補正発明の「複数の発光部」及び「光印写ヘッド」に相当する。

(2)引用発明1の「R,G,BのLED素子3?5のパターン」は、本願補正発明の「複数の発光部を有する発光素子アレイ」に相当する。

(3)引用発明1は、「テーパ状のスルーホール1a」が、「LED素子3,4,5の配列パターンに合わせて」、「貫通」されているものであり、「シールドプレート6によって各スルーホール1aの中に下端側が入り込む球状の集光レンズ7を保持し」ていることから、引用発明1の「集光レンズ7」は、「発光部(LED素子3?5)に対応した」位置に配置されていることはあきらかである。
したがって、引用発明1の「集光レンズ7」は、本願補正発明の「ボールレンズ」と、「各発光部に対応した位置に複数配置されたボールレンズ」として一致する。

(4)引用発明1の「シールドプレート6」は、「球状の集光レンズ7を保持」し、「各LED素子3?5が発光し、それぞれの発光面に対峙して配置した集光レンズ7を通して記録紙P上の画素に焦点を結び、その記録紙P上の放射照度により、この記録紙P上のマイクロカプセルを露光して感光」していることから、穴が設けられ、ボールレンズ間に配置されていることは、明らかである。

(5)上記(1)ないし(4)からみて、本願発明と引用発明1とは、
「複数の発光部を有する発光素子アレイと、
前記各発光部に対応した位置に複数配置されたボールレンズとを備え、
前記ボールレンズの間に穴を設けた遮光部材が配置されている光印写ヘッド。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明は、「前記発光素子アレイの光射出側に配置された透明部材を備え」と特定されているのに対し、引用発明1は、そのような部材を備えていない点。

<相違点2>
「ボールレンズの配置された位置」について、本願補正発明は、「前記透明部材の光射出側の位置」であると特定されているのに対し、引用発明1は、そのようになっていない点。

(6)判断
上記相違点1及び2については、前記「第2〔理由〕5」で検討したとおり、引用発明1に、周知技術を採用することは、当業者であれば、容易に想到し得るものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-10 
結審通知日 2010-08-11 
審決日 2010-08-24 
出願番号 特願2002-65045(P2002-65045)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藏田 敦之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 湯本 照基
星野 浩一
発明の名称 光印写ヘッド、その作製方法及びそれを用いた画像形成装置  
代理人 内田 亘彦  
代理人 青木 健二  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 韮澤 弘  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 米澤 明  
代理人 菅井 英雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ