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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F28D |
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管理番号 | 1224728 |
審判番号 | 不服2009-3143 |
総通号数 | 131 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-11-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-02-12 |
確定日 | 2010-10-08 |
事件の表示 | 平成11年特許願第 61609号「プレート型熱交換器」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月18日出願公開、特開2000- 18848号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.本願の経緯 本件出願(以下,「本願」という。)は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成11年3月9日(優先日:平成10年4月29日)の出願であって,平成20年12月25日付け(発送日:平成21年1月13日)で拒絶査定がなされ,これに対し,平成21年2月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は,平成20年12月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下,「本願発明」という。)。 「互いに外周が整合し,少なくとも一方が皿状に形成された一対のプレート1,2を有し,それらの外周が互いに密に重ね合わされて,両プレート1,2の内部に断面偏平な偏平流路3が形成され, その偏平流路3の長手方向両端部位置で,前記プレート1,2に一対の流体出入口4が開口され, そのプレート1,2の平面内周形状に整合する外周を有するインナーフィン5が,前記偏平流路3に内装され, そのインナーフィン5の長手方向両端部に,前記流体出入口4に整合する主開口部6と,その開口縁から幅方向にさらに延在された流体拡散用の副開口部7とが配置され, 前記インナーフィン5は,金属板を矩形波または台形波状に曲折して,その波が幅方向に進行し,その波の稜線方向に隣り合う波形a,b間の位相がずれてなり,略そのずれ分だけ波の立ち上がり部および立ち下がり部に切り起こし開口cが長手方向に向けて形成されてなり,前記稜線方向がインナーフィン5の長手方向となるプレート型熱交換器。」 3.引用文献記載の発明 (1)引用文献1 これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,実願昭61-118007号(実開昭63-23583号)のマイクロフィルム(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。 a.「〔考案が解決しようとする問題点〕 上記のように上下プレート3,4の両開口1,2の方向すなわち水平方向に並行するフィン列13を設けた熱交換フィン5はたて方向にフィン列を有するものに比し流路抵抗が小さいという利点を有している反面,熱交換フィン5の全面が有効利用されず,所期の熱交換性能が得難いとう欠点がある。すなわち,プレート3,4の開口1からの流体は,フィン列13にそって他方の開口2へ流れ易いが,フィン列13と直交する方向へ流れ難く,その結果,熱交換フィン5の外周側へ流体が流出しないためである。」(第2ページ第18-第3頁第9行) b.「第1図は,本考案の熱交換チューブ20であり,ほぼ矩形状で,両端部に,環状フランジ21を有する開口22,23が設けられ,さらに外周に立上りフランジ24を有する上下プレート25,26で形成されるチューブ27内に,ろう箔を介して熱交換フィン28を配設し,これらを一体的にろう着,固着して成る。熱交換フィン28は,上下プレート25,26とほぼ同様な外形形状のものであり,上記開口22,23に対応する開口22a,23aを有し,両開口の方向つまり水平方向にそって並行するフィン列29が設けられている。少なくとも,熱交換フィン28の開口22a,23bの周囲には,貫通孔30が穿設され,貫通孔30のいくつかはフィン列29上に設けられる。 熱交換チューブ20は,第4図と同様に積重され使用される。 熱交換チューブ20の一方の開口22から流入する流体は,熱交換チューブ20内をフィン列29にそって流通し,他方の開口23へ流出する。同時に,開口22から流入する流体の一部は,フィン列29と直交する方向に,貫通孔30を経て外周部に配給され,その後フィン列29にそって流通し,開口23へ向けて流れる。」(第4ページ第3行-第5ページ第5行) c.「〔考案の効果〕 本考案の熱交換チューブは,平行方向に並行するフィン列を設けた熱交換フィンの開口の周囲のフィン列の部分に貫通孔を設けて成るから,熱交換チューブの開口から流入する流体を外周部に向け配給でき,熱交換フィンの全面にわたり有効利用することが可能となる。」(第5ページ第6-12行) d.第2図には,互いに外周が整合し,立上りフランジを有する上下のプレートの外周が重ね合わされて,両プレートの内部に断面偏平な偏平流路が形成された熱交換チューブが図示されており,上下のプレートの外周が互いに密に重ね合わされていることは,上下のプレートによって流路が形成されていることからみて,明らかである。 そこで,これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されている。 「互いに外周が整合し,立ち上がりフランジを有する上下のプレートを有し,それらの外周が互いに密に重ね合わされて,両プレートの内部に断面偏平な偏平流路が形成され, その偏平流路の長手方向両端部位置で,前記プレートに一対の開口22,23が設けられ, そのプレートとほぼ同様な外形形状の熱交換フィンが,上下のプレートで形成されるチューブ内に配設され, その熱交換フィンの上記開口22,23に対応する位置に,前記開口22,23に対応する開口22a,23aと,その開口22a,23aの周囲に形成した貫通孔とが設けられ, 前記熱交換フィンは,両開口22a,23aの方向にそって並行するフィン列が設けられてる熱交換チューブ。」 (2)引用文献2 また,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,実願平5-2513号(実開平6-65774号)のCD-ROM(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。 a.「すなわち,第5図(第11図の誤記と認める。)に示すように熱交換単体5内に流入したオイルは,前記導入用開口6と排出用開口7とを結ぶ中心線c上が最も流れ易くなり,フィン2の性質上オイルはこの線上に沿って流れ易く,これと直交する方向には流れ難い構造となっているため,中心線c上から離れるに従って流れが悪くなる。従って,この場合オイルの流れが充分に行われる領域は,導入用開口6を中心とし,該導入用開口6と排出用開口7とを結ぶ中心線上cから一定の角度を持った領域Aとなる。 このため,この角度から離れた領域Bはオイルが澱み,フィン2が十分に活用されないことになり,全体としての熱交換効率つまり冷却能力が著しく悪化されるという問題点があった。」(段落【0006】-【0007】) b.「【課題を解決するための手段】 かかる目的を達成するために,本考案は,液密構造に接合された一対のメールプレート間にフィンが挟持され,該メールプレートの一端部に形成された導入用開口から導入されたオイルが,前記フィンを通過する間に熱交換されて冷却され,この冷却されたオイルが前記メールプレートの他端部に形成された排出用開口から排出されるようになったオイルクーラにおいて,前記メールプレート間には前記導入用開口の近傍にフィンが介在しない空間領域を設けたことを特徴とする。 【作用】 以上の構成により,本考案にあっては,導入用開口から導入されたオイルは,フィンが介在されていない空間領域でメールプレート幅全体にオイルが広がってからフィン内にオイルが流れるので,導入用開口と排出用開口とを結ぶ線上から離れた部分にも多量に流れる。従って。澱み部分にもオイルの流れが生じ,フィン全体が有効利用されることになる。」(段落【0009】-【0010】) c.「すなわち,第1図は本考案の一実施例に係るオイルクーラの1つの熱交換単体5の内部を示している。3,4はメールプレートで,このメールプレート3,4の中心線c上の両端部には導入用開口6および排出用開口7が形成されている。 2はメールプレート3,4間に挟持されるフィンで,このフィン2は,第2図に示すように金属プレート10に多数の凸条11を形成するとともに,この凸条11には側壁11aを部分的に切裂いて内方に貫入する吸熱片12が多数形成されてなっている。そして,前記導入用開口6から排出用開口7へとオイルが流れる際に,該オイルは前記フィン2の側壁11aおよび吸熱片12で熱交換され冷却される。 そして,本考案にあっては,導入用開口6から前記排出用開口7に向けた導入用開口6の近傍にフィンが介在しない空間領域Dが設けられている。 以上の構成により,本実施例のオイルクーラにあっては,導入用メールプレート3,4の開口6から熱交換単体5に導入されたオイルは,第3図に示す空間部Dで熱交換単体5の幅方向全体に広がってからフィン2内全体に平均して流れるようになる。」(段落【0012】-【0014】) d.「また,フィン2の導入用開口6側端部を,幅方向の中央部で多く両端部で少なく切り欠いて段状の空間領域Dとしたり(図4(a)),開口6に内接するよう直線状に切り欠いて矩形状の空間領域Dとしたり(同図(b)),斜めの直線状に切り欠いて三角形状の空間領域Dとしたり(図5),円弧状に切り欠いて扇状の空間領域Dとすることもできる(図6)。この構成によれば,中心線cからの距離に拘らず開口6からフィン2の端部までの間にフィン2が介在されることがないので,オイルの流れがフィンに阻害されることなく開口6から流出するオイルが幅方向に一様に流れる。」(段落【0018】) e.上記記載aの「熱交換単体5内に流入したオイルは,前記導入用開口6と排出用開口7とを結ぶ中心線c上が最も流れ易くなり,フィン2の性質上オイルはこの線上に沿って流れ易く,これと直交する方向には流れ難い構造となっているため,中心線c上から離れるに従って流れが悪くなる。」と記載,及び,上記記載cの「このフィン2は,第2図に示すように金属プレート10に多数の凸条11を形成するとともに,この凸条11には側壁11aを部分的に切裂いて内方に貫入する吸熱片12が多数形成されてなっている。そして,前記導入用開口6から排出用開口7へとオイルが流れる際に,該オイルは前記フィン2の側壁11aおよび吸熱片12で熱交換され冷却される。」との記載からみて,第2図には,金属プレートの幅方向に多数の凸条を形成し,その凸条の稜線方向に隣り合う凸条間の位相がずれてなり,そのずれ分だけ凸条の側壁に開口が長手方向に向けて形成されてなり,稜線方向がフィンの長手方向となるフィンが図示されている。 そこで,これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用文献2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されている。 「一対のメールプレートを有し,両メールプレートの内部に流路が形成され,そのメールプレートの一端部に導入用開口,他端部に排出用開口が設けられ,フィンが,1対のメールプレート間に狭持され,フィンの導入用開口側端部に,幅方向の中央部で多く両端部で少なく切り欠いた段状の空間領域を形成し,フィンは,金属プレートの幅方向に多数の凸条を形成し,その凸条の稜線方向に隣り合う凸条間の位相がずれてなり,そのずれ分だけ凸条の側壁に開口が長手方向に向けて形成されてなり,稜線方向がフィンの長手方向となるオイルクーラ。」 4.対比 本願発明と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「立ち上がりフランジを有する上下のプレート」は,本願発明の「少なくとも一方が皿状に形成された一対のプレート」に相当し,以下同様に,「一対の開口22,23」は「一対の流体出入口」に,「設けられ」は「開口され」に,「プレートとほぼ同様な外形形状」は「プレートの平面内周形状に整合する外周を有する」に,「熱交換フィン」は「インナーフィン」に,「上下のプレートで形成されるチューブ内に配設され」は「偏平流路に内装され」に,「熱交換フィンの上記開口22,23に対応する位置」は「インナーフィンの長手方向両端部」に,「開口22,23に対応する」は「流体出入口に整合する」に,「開口22a,23a」は「主開口部」に,「熱交換チューブ」は「プレート型熱交換器」にそれぞれ相当する。 そして,本願発明の「その(主開口部)開口縁から幅方向にさらに延在された流体拡散用の副開口部」と引用発明1の「その開口22a,23aの周囲に形成された貫通孔」は,ともに,「主開口部近傍に形成された流体拡散部」である点で共通している。 そうしてみると,両者の一致点,相違点は,次のとおりである。 [一致点] 「互いに外周が整合し,少なくとも一方が皿状に形成された一対のプレートを有し,それらの外周が互いに密に重ね合わされて,両プレートの内部に断面偏平な偏平流路が形成され,その偏平流路の長手方向両端部位置で,前記プレートに一対の流体出入口が開口され,そのプレートの平面内周形状に整合する外周を有するインナーフィンが,前記偏平流路に内装され,そのインナーフィンの長手方向両端部に,前記流体出入口に整合する主開口部と,主開口部近傍に形成された流体拡散部とを配置したプレート型熱交換器。」 [相違点] 1.主開口部近傍に形成された流体拡散部が,本願発明は「その(主開口部)開口縁から幅方向にさらに延在された流体拡散用の副開口部」であるのに対して,引用発明1は「その開口22a,23aの周囲に形成された貫通孔」である点。 2.インナーフィンは,本願発明は「金属板を矩形波または台形波状に曲折して,その波が幅方向に進行し,その波の稜線方向に隣り合う波形間の位相がずれてなり,略そのずれ分だけ波の立ち上がり部および立ち下がり部に切り起こし開口が長手方向に向けて形成されてなり,前記稜線方向がインナーフィンの長手方向となる」のに対して,引用発明1は,このような構成を有していない点。 5.判断 上記相違点について検討する。 (1)上記相違点1について 引用発明2の「メールプレート」は,本願発明の「プレート」に相当し,以下同様に,「流路」は「断面偏平な偏平流路」に,「メールプレートの一端部に導入用開口,他端部に排出用開口が形成され」は「偏平流路の長手方向両端部位置で,プレートに一対の流体出入口が開口され」に,「フィン」は「インナーフィン」に,「1対のメールプレート間に狭持され」は「偏平流路内に内装され」に,「金属プレート」は「金属板」に,「凸条」は金属板を「矩形波または台形波状に曲折」した「波」に,「幅方向に多数の凸条を形成」は「その波が幅方向に進行」に,「凸状の側壁」は「波の立ち上がり部および立ち下がり部」に,「開口」は「切り起こし開口」に,「オイルクーラ」は「プレート型熱交換器」に,それぞれ相当する。 そして,引用発明2の「空間領域」のうち,フィンの「幅方向の中央部で多く」「切り欠いた」部分は,本願発明の「主開口部」に相当し,「少なく切り欠いた」部分は,「その(主開口部)開口縁から幅方にさらに延在された流体拡散用の副開口部」に相当する。 してみれば,引用発明2は「一対のプレートを有し,両プレートの内部に断面偏平な偏平流路が形成され,その偏平流路の長手方向両端部位置で,プレートに一対の流体出入口が開口され,インナーフィンが偏平流路に内層され,フィンの導入用開口側端部に,主開口部と,その開口縁から幅方向にさらに延在された流体拡散用の副開口部とが配置され, 前記インナーフィンは,金属板を矩形波または台形波状に曲折して,その波が幅方向に進行し,その波の稜線方向に隣り合う波形間の位相がずれてなり,略そのずれ分だけ波の立ち上がり部および立ち下がり部に切り起こし開口が長手方向に向けて形成されてなり,稜線方向がインナーフィンの長手方向となるプレート型熱交換器。」と言い換えることができる。 そして,引用発明1と引用発明2は,ともに,熱交換器のインナーフィンに関する同一の技術分野に属するものであって,さらに,両者は,熱交換器の内部に流入した流体を幅方向に導くことでインナーフィンの各部に均一に流体を流通させ,熱交換性能を高めるという同一の課題を解決するものである。 そうしてみると,主開口部近傍に形成された流体拡散部として,引用発明1の「その開口22a,23aの周囲に形成された貫通孔」に,引用発明2の「空間領域」のうち,「少なく切り欠いた」部分を適用して,「その(主開口部)開口縁から幅方向にさらに延在された流体拡散用の副開口部」とすることは,当業者であれば,容易に想到し得たことである。 (2)上記相違点2について 熱交換器のインナーフィンを「金属板を矩形波または台形波状に曲折して,その波が幅方向に進行し,その波の稜線方向に隣り合う波形間の位相がずれてなり,略そのずれ分だけ波の立ち上がり部および立ち下がり部に切り起こし開口が長手方向に向けて形成されてなり,稜線方向がインナーフィンの長手方向となる」ようにすることは,本願の優先日前周知の技術である(例えば,上記引用文献2,実願昭60-20229号(実開昭61-141586号)のマイクロフィルム参照。)。 そうしてみると,インナーフィンとして,引用発明1の「熱交換フィン」を,「金属板を矩形波または台形波状に曲折して,その波が幅方向に進行し,その波の稜線方向に隣り合う波形間の位相がずれてなり,略そのずれ分だけ波の立ち上がり部および立ち下がり部に切り起こし開口が長手方向に向けて形成されてなり,稜線方向がインナーフィンの長手方向となる」ようにすることは,上記周知の技術に倣って,当業者が容易に想到し得たことである。 そして,本願発明の効果も,引用発明1,引用発明2及び周知の技術から当業者が予測し得た程度のものであって,格別のものとはいえない。 したがって,本願発明は,引用発明1,引用発明2及び周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明1,引用発明2及び周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-07-29 |
結審通知日 | 2010-08-03 |
審決日 | 2010-08-18 |
出願番号 | 特願平11-61609 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F28D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柿沼 善一 |
特許庁審判長 |
岡本 昌直 |
特許庁審判官 |
豊島 唯 長浜 義憲 |
発明の名称 | プレート型熱交換器 |
代理人 | 窪田 卓美 |