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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1225238
審判番号 不服2008-18021  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-14 
確定日 2010-10-12 
事件の表示 特願2006-109813「通信装置および方法、並びにプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 1日出願公開、特開2007-288254〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年4月12日の出願であって、平成20年3月3日付けで拒絶理由が通知され、同年5月7日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが、同年6月6日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年7月14日に審判請求がなされ、同年8月12日付けで手続補正がなされて前置審査に付され、同年11月17日に審査官より前置報告がなされ、平成22年4月22日付けで当審より審尋がなされ、平成22年6月24日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成20年8月12日付け手続補正の補正却下の決定
(補正却下の決定の結論)
平成20年8月12日付け手続補正を却下する。

(理由)
1.本件補正後発明
平成20年8月12日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を次のとおりに補正することを含むものと認められる。

「【請求項1】
他の通信装置と無線通信を行う通信装置において、
前記他の通信装置との無線通信が開始されるごとに、外部に秘密の第1の秘密値を新たに発生する秘密値発生手段と、
前記第1の秘密値、および既知の2つの既定値を用いて所定の演算を行い、前記他の通信装置に送信する第1の公開値を求める演算手段と、
前記第1の秘密値、前記他の通信装置から送信されてくる、外部に秘密の第2の秘密値および前記2つの既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより求められた第2の公開値、並びに前記2つの既定値のうちの一方の既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより、前記他の通信装置との間の暗号通信に用いる暗号鍵を生成する暗号鍵生成手段と、
PIDを記憶しているPID記憶手段と、
前記他の通信装置から無線通信により送信されてくる、ユーザが入力したPIDを暗号化した暗号化PIDを、生成された前記暗号鍵を用いて、PIDに復号する復号手段と、
前記記憶手段に記憶されているPIDと、前記復号手段が復号したPIDとが一致するかどうかを判定する判定手段と
を備え、
前記記憶手段に記憶されているPIDと、前記復号手段が復号したPIDとが一致する場合、
前記他の通信装置との無線通信を続行し、前記記憶手段に記憶されているPIDと、前記復号手段が復号したPIDとが一致しない場合、前記他の通信装置との無線通信を切断する
通信装置。

【請求項2】
通信可能な範囲における前記他の通信装置の存在を検知する検知手段をさらに備え、
前記検知手段により前記他の通信装置の存在が検知された場合、前記他の通信装置との通信を開始する
請求項1に記載の通信装置。

【請求項3】
PIDを入力するときに操作される操作手段と、
前記操作手段が操作されることにより入力されたPIDを、前記暗号鍵を用いて、暗号化PIDに暗号化する暗号化手段と
をさらに備え、
前記暗号化PIDを、前記他の通信装置に送信する
請求項1に記載の通信装置。

【請求項4】
他の通信装置と無線通信を行う通信装置の通信方法において、
前記他の通信装置との無線通信が開始されるごとに、外部に秘密の第1の秘密値を新たに発生し、
前記第1の秘密値、および既知の2つの既定値を用いて所定の演算を行い、前記他の通信装置に送信する第1の公開値を求め、
前記第1の秘密値、前記他の通信装置から送信されてくる、外部に秘密の第2の秘密値および前記2つの既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより求められた第2の公開値、並びに前記2つの既定値のうちの一方の既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより、前記他の通信装置との間の暗号通信に用いる暗号鍵を生成し、
前記他の通信装置から無線通信により送信されてくる、ユーザが入力したPIDを暗号化した暗号化PIDを、生成された前記暗号鍵を用いて、PIDに復号し、
記憶手段にあらかじめ記憶されているPIDと、復号したPIDとが一致するかどうかを判定し、
前記記憶手段に記憶されているPIDと、復号したPIDとが一致する場合、前記他の通信装置との無線通信を続行し、前記記憶手段に記憶されているPIDと、復号したPIDとが一致し
ない場合、前記他の通信装置との無線通信を切断する
ステップを含む通信方法。

【請求項5】
他の通信装置と無線通信を行う通信装置を制御するコンピュータに実行させるプログラムにおいて、
前記他の通信装置との無線通信が開始されるごとに、外部に秘密の第1の秘密値を新たに発生し、
前記第1の秘密値、および既知の2つの既定値を用いて所定の演算を行い、前記他の通信装置に送信する第1の公開値を求め、
前記第1の秘密値、前記他の通信装置から送信されてくる、外部に秘密の第2の秘密値および前記2つの既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより求められた第2の公開値、並びに前記2つの既定値のうちの一方の既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより、前記他の通信装置との間の暗号通信に用いる暗号鍵を生成し、
前記他の通信装置から無線通信により送信されてくる、ユーザが入力したPIDを暗号化した暗号化PIDを、生成された前記暗号鍵を用いて、PIDに復号し、
記憶手段にあらかじめ記憶されているPIDと、復号したPIDとが一致するかどうかを判定し、
前記記憶手段に記憶されているPIDと、復号したPIDとが一致する場合、前記他の通信装置との無線通信を続行し、前記記憶手段に記憶されているPIDと、復号したPIDとが一致しない場合、前記他の通信装置との無線通信を切断する
ステップを含むプログラム。」

2.本件補正の適否について
拒絶査定において「本願発明」として記載されている本件補正前の請求項8に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲に記載された発明のうち請求項4に対応するものと認められるので、本件補正によって補正された請求項4が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合するものであるのか否かについて検討する。

本件補正は、平成20年5月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に請求項8として記載された以下の発明(以下、「本願発明」という。)
「他の通信装置と無線通信を行う通信装置の通信方法において、
前記他の通信装置との通信が開始されるごとに、外部に秘密の第1の秘密値を新たに発生し、
前記第1の秘密値、および既知の2つの既定値を用いて所定の演算を行い、前記他の通信装置に送信する第1の公開値を求め、
前記第1の秘密値、前記他の通信装置から送信されてくる、外部に秘密の第2の秘密値および前記2つの既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより求められた第2の公開値、並びに前記2つの既定値のうちの一方の既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより、前記他の通信装置との間の暗号通信に用いる暗号鍵を生成する
ステップを含む通信方法。」

に対して、「他の通信装置との通信が開始されるごとに」における「通信が開始」を「無線通信が開始」と改め、「暗号鍵を生成する」を「暗号鍵を生成し」と改めると共に、
「前記他の通信装置から無線通信により送信されてくる、ユーザが入力したPIDを暗号化した暗号化PIDを、生成された前記暗号鍵を用いて、PIDに復号し、
記憶手段にあらかじめ記憶されているPIDと、復号したPIDとが一致するかどうかを判定し、
前記記憶手段に記憶されているPIDと、復号したPIDとが一致する場合、前記他の通信装置との無線通信を続行し、前記記憶手段に記憶されているPIDと、復号したPIDとが一致しない場合、前記他の通信装置との無線通信を切断する」
という事項(以下、「付加事項」という。)を付加した上で、請求項4に係る発明とすることを含むものである。

しかしながら、当該付加事項は、本願発明が発明を特定するために必要な事項として含んでいた事項ではない「記憶手段」、「ユーザが入力したPID」及び「暗号化PID」という事項を新たに導入するものであるから、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものとはいえないこと、及び、当該付加事項によって、通信装置が記憶手段に記憶されているPIDと、他の通信装置から送信されてきた暗号化PIDを復号したPIDとが一致するか否かで通信を続行するか切断するかを実行するという新たな課題が解決されるものとなることからみて、同法第17条の2第4項第2号でいう特許請求の範囲の減縮(特許請求の範囲の限定的減縮)に該当するものとはいえない。
また、本件補正において、当該付加事項を付加する補正は、請求項の削除、誤記の訂正あるいは明りようでない記載の釈明のいずれかを目的としてなされたものでないことは明らかである。

以上のとおりであるから、本件補正が含む、上記付加事項を付加する補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項のいずれをも目的としたものではない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、補正却下の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
「第2.平成20年8月12日付け手続補正の補正却下の決定」の項に記載したとおり、平成20年8月12日付け手続補正は補正却下されたので、本願の請求項8に係る発明(「本願発明)は、平成20年5月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲に請求項8として記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。

「他の通信装置と無線通信を行う通信装置の通信方法において、
前記他の通信装置との通信が開始されるごとに、外部に秘密の第1の秘密値を新たに発生し、
前記第1の秘密値、および既知の2つの既定値を用いて所定の演算を行い、前記他の通信装置に送信する第1の公開値を求め、
前記第1の秘密値、前記他の通信装置から送信されてくる、外部に秘密の第2の秘密値および前記2つの既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより求められた第2の公開値、並びに前記2つの既定値のうちの一方の既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより、前記他の通信装置との間の暗号通信に用いる暗号鍵を生成する
ステップを含む通信方法。」

第4.引用発明
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された文献である、池野信一,小山謙二,“現代暗号理論”,日本,社団法人電子通信学会,1987年 6月10日,2版,p.175-177(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「公開鍵配送法(public key distribution system:PKDS)は,通信網の利用者が公開鍵を用いて秘密鍵を共有する方法である.秘密鍵暗号を適用する場合,秘密鍵自体を安全でない通信路を介して配送するわけにはいかず,まえもって何らかの安全な手段(例えば,密使や書留郵便など)で通信相手と秘密鍵を共有する必要がある.ところが,公開鍵配送法を用いると,安全でない(盗聴されてもかまわない)通信路を介して共有の秘密鍵を生成できる.」(同文献第175頁第1行乃至同第6行)

(イ)「9.1 ディフィ-ヘルマン(DH)型公開鍵配送法
公開鍵配送法の概念と具体的なアルゴリズムはディフィ(Diffie)とヘルマン(Hellman)が1976年に提案した[DIFF76].彼らの方法はDH型公開鍵配送法,またはDH型PKDSと呼ばれている.
(中略)
次に、利用者Aと利用者Bの間でDH型公開鍵配送法を適用する手順を説明しよう.素数pと原子根αの値は公開鍵としてまえもって全員に知らせておく.まずAは[0,p-1]の間の整数X_(A)をランダムに選び,秘密に保持しておく.Bも[0,p-1]の間の整数X_(B)をランダムに選び,秘密に保持しておく.そして,Aは
Y_(A)=α^X_(A)modp, 1<=Y_(A)<=p-1
(当審注:「α^X_(A)」は原文ではαの右上にX_(A),「<=」は原文では一つの記号、以下X_(B)やX_(A)X_(B)に関しても同様に記載する。)
を計算し,Y_(A)をBを送る.Bは
Y_(B)=α^X_(B)modp, 1<=Y_(B)<=p-1
を計算し,Y_(B)をAに送る.このようにY_(A)とY_(B)を交換してから,Aは共有鍵Kを次のように計算する.
K=(Y_(B))^X_(A)modp
=(α^X_(B)modp)^X_(A)modp
=α^(X_(A)X_(B))modp, 1<=K<=p-1
Bも同様にして共有鍵Kを次のように計算する.
K=(Y_(A))^X_(B)modp
=(α^X_(A)modp)^X_(B)modp
=α^(X_(A)X_(B))modp, 1<=K<=p-1
以上の方法でAとBは鍵K=α^(X_(A)X_(B))modpを秘密に共有できた.」
(同文献第175頁下から6行-同第176頁下から1行)

(a)上記(ア)の記載から、引用文献1には、通信相手と通信路を介して共有の秘密鍵を生成して共有する公開鍵配送法が記載されたものと認められる。
そして、上記(イ)においてAがBに情報を送り、BがAに情報を送っていることからみて、ここでいう「通信相手」とは、AからみてBを意味することは明らかである。
(b)上記(イ)の記載から、引用文献1には、
Aがまず[0,p-1]の間の整数X_(A)をランダムに選んで秘密に保持すると共に、
Y_(A)=α^X_(A)modpを計算し、Y_(A)をBに送り、
整数X_(A)と、Bから送られたY_(B)と、pから計算される式である
K=(Y_(B))^X_(A)modp
によって、Bと共有する鍵Kを計算すること、及び、
Y_(B)は、Bがランダムに選んで秘密に保持する整数X_(B)からY_(B)=α^X_(B )modpによって計算される値であることが記載されたものと認められる。

したがって、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

AがBと通信路を介して共有の秘密鍵を生成して共有する公開鍵配送法において、
Aが、
まず[0,p-1]の間の整数X_(A)をランダムに選んで秘密に保持すると共に、
Y_(A)=α^X_(A)modpを計算し、Y_(A)をBに送り、
整数X_(A)と、Bから送られたY_(B)すなわち、Bがランダムに選んで秘密に保持する整数X_(B)からY_(B)=α^X_(B )modpによって計算される値Y_(B)と、pから計算される式である
K=(Y_(B))^X_(A)modp
によって、Bと共有する鍵Kを計算する方法。

第5.対比
本願発明と、引用発明とを対比する。
引用発明の「A」と、本願発明の「通信装置」とは、”通信主体”である点で一致すると共に、引用発明の「B」と、本願発明の「通信装置」とは、“通信の相手”である点で一致する。
そして、引用発明における「AがBと通信路を介して共有の秘密鍵を生成して共有する公開鍵配送法」とは、AがBと通信を行う通信方法に他ならないから、引用発明の「AがBと通信路を介して共有の秘密鍵を生成して共有する公開鍵配送法」と、本願発明の「他の通信装置と無線通信を行う通信装置の通信方法」とは
”通信の相手と通信を行う通信主体の通信方法”である点で一致する。

引用発明において、秘密に保持される「整数X_(A)」は、本願発明の「外部に秘密の第1の秘密値」に相当するものであり、引用発明の「まず[0,p-1]の間の整数X_(A)をランダムに選」ぶことは、当該「整数X_(A)」をBとの通信が開始される際に新たに発生することに他ならないから、引用発明の「まず[0,p-1]の間の整数X_(A)をランダムに選んで秘密に保持する」と、本願発明の「前記他の通信装置との無線通信が開始されるごとに、外部に秘密の第1の秘密値を新たに発生し」とは
”前記通信の相手との通信が開始される際に、外部に秘密の第1の秘密値を新たに発生”する点で一致する。

引用発明の「α」及び「p」は、本願発明における「既知の2つの既定値」に相当し、引用発明の「Y_(A)」は、Bに送信される公開値であるから、本願発明における「第1の公開値」に相当し、引用発明の「Y_(A)=α^X_(A)modpを計算」することは、「整数X_(A)」、「α」、「p」を用いて所定の演算を行うものに他ならないから、引用発明の「Y_(A)=α^X_(A)modpを計算し、Y_(A)をBに送り」と、本願発明の「前記第1の秘密値、および既知の2つの既定値を用いて所定の演算を行い、前記他の通信装置に送信する第1の公開値を求め」とは
”前記第1の秘密値、および既知の2つの既定値を用いて所定の演算を行い、前記通信の相手に送信する第1の公開値を求め”る点で一致する。

引用発明の「整数X_(B)」は、Bにおいて「秘密に保持され」る値であるから本願発明の「外部に秘密の第2の秘密値」に相当するものであり、引用発明の「Y_(B)」は、Aに送信される公開値であって本願発明の「第2の公開値」に相当し、引用発明の「Y_(B)=α^X_(B)modpによって計算」することは、「整数X_(B)」、「α」及び「p」を用いて所定の演算を行うものに他ならない。
そして、引用発明の「K=(Y_(B))^X_(A)modp」は、「整数X_(A)」、「Y_(B)」及び、「α」及び「p」のうちの「p」を用いて所定の演算を行うことにより、Bと共有する鍵Kを生成することを意味するものである。
さらに、本願発明の「他の通信装置との間の暗号通信に用いる暗号鍵」も、通信装置及び他の通信装置の双方で共有する鍵であるから、引用発明の「Bと共有する鍵K」と、”通信主体及び通信の相手の双方で共有する鍵”である点で共通する。
したがって、引用発明の「整数X_(A)と、Bから送られたY_(B)すなわち、Bがランダムに選んで秘密に保持する整数X_(B)からY_(B)=α^X_(B)modpによって計算される値Y_(B)と、pから計算される式である
K=(Y_(B))^X_(A)modp
によって、Bと共有する鍵Kを計算する」ことと、本願発明の「前記第1の秘密値、前記他の通信装置から送信されてくる、外部に秘密の第2の秘密値および前記2つの既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより求められた第2の公開値、並びに前記2つの既定値のうちの一方の既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより、前記他の通信装置との間の暗号通信に用いる暗号鍵を生成する」こととは
”前記第1の秘密鍵、前記通信の相手から送信されてくる、外部に秘密の第2の秘密値および前記2つの既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより求められた第2の公開値、並びに前記2つの既定値のうちの一方の既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより、前記通信主体及び通信の相手の双方で共有する鍵を生成する”点で一致する。

以上のことから、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
通信の相手と通信を行う通信主体の通信方法において、
前記通信の相手との通信が開始される際に、外部に秘密の第1の秘密値を新たに発生し、
前記第1の秘密値、および既知の2つの既定値を用いて所定の演算を行い、前記通信の相手に送信する第1の公開値を求め、
前記第1の秘密鍵、前記通信の相手から送信されてくる、外部に秘密の第2の秘密値および前記2つの既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより求められた第2の公開値、並びに前記2つの既定値のうちの一方の既定値を用いて前記所定の演算を行うことにより、前記通信主体及び通信の相手の双方で共有する鍵を生成する
ステップを含む通信方法。

(相違点)
(相違点1)
通信主体、通信の相手、及びその間の通信に関し、本願発明は、通信主体が「通信装置」であり、通信の相手が「他の通信装置」であって、その間の通信が「無線通信」によりなされるものであるのに対して、引用発明には、通信主体であるA、通信の相手であるBがそれぞれ通信装置として構成されるものである旨の明示はなく、また、AとBとの間の通信が無線通信によりなされる旨の明示もない点。

(相違点2)
第1の秘密値の発生等の処理に関し、本願発明は、「他の通信装置との通信が開始されるごと」に第1の秘密値の発生等の処理が行われるものであるのに対して、引用発明には、「まず[0,p-1]の間の整数X_(A)をランダムに選んで」等の動作が、Bとの通信が開始される「ごと」に行われるものであることの明示はない点。

(相違点3)
通信主体及び通信の相手の双方で共有する鍵に関し、本願発明の「暗号鍵」は、「他の通信装置との暗号通信に用いる」ものであるのに対して、引用発明には、「鍵K」が、Bとの暗号通信に用いるものである旨の明示はない点。

第6.判断
上記相違点について判断する。
(相違点1)について;
公開鍵配送方法は、暗号技術の分野において無線通信を行う通信装置間での鍵の交換に使用される方法として周知である。
(例、特開2003-202978号公報の【0016】段落及び【0017】段落に記載の、パーソナル電子機器102とプリント装置106との間で、DH法(Diffie-Hellman鍵交換)等の共通鍵交換を利用して無線通信リンク104を介したセキュアチャネルを確立する旨の記載、特表2005-515701号公報の【要約】に記載の、移動通信システムの移動端末とのサーバとの間の安全な通信リンクをDiffie-Hellmanの鍵交換プロトコルに従って確立する旨の記載。)
そうしてみれば、公開鍵配送方法である引用発明を無線通信を行う通信装置間での鍵交換に使用すること、すなわち、引用発明において通信主体であるA、通信の相手であるBそれぞれを互いに無線通信を行う通信装置とすることは当業者が容易に想到し得た事項といえる。
よって、相違点1は格別のものではない。

(相違点2)及び(相違点3)について;
鍵を生成するための処理を通信が開始されるごとに実行すること、及び、生成した鍵を装置間の暗号通信に用いることは、いずれも暗号技術の分野において周知の技術事項である。
(例、特開平4-205693号公報の第2頁右上欄第11行-同頁左下欄第17行の、第1の電子装置と第2の電子装置の間で、キーデータをデータの暗号化及び復号に用いる旨の記載及び当該キーデータを第1の電子装置と第2の電子装置の間でデータのセッションが行われる毎に発生する旨の記載、特開平5-56037号公報の【0002】段落-同【0007】段落の【従来の技術】における、端末に入力されたPINを暗号化してICカードに送信する際に固有鍵データを用いる旨の記載及び当該固有鍵データを生成するための標準鍵データを各セッション(端末とICカードとの間のデータ通信)毎にランダムに生成する旨の記載。)
そうしてみれば、暗号技術の分野に属する引用発明においても、通信の相手との通信が開始されるときにAにおいて行われる処理である「[0,p-1]の間の整数X_(A)をランダムに選んで」等の鍵を生成するための処理を、Bとの通信が開始されるごとに行うよう構成すること、及び、生成した鍵をBとの暗号通信に用いるよう構成することは、いずれも当業者が容易に想到し得た事項である。
よって、相違点2及び相違点3は、いずれも格別のものではない。

そして、本願発明の奏する効果も、引用発明及び周知の技術事項から当業者が容易に予測し得た程度のものである。
したがって、本願発明は、引用発明及び及び周知の技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第7.本件補正に対する付記
「第2.平成20年8月12日付け手続補正の補正却下の決定」の項に記載したとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合しない補正を含むものであるから補正却下されるべきものであるが、これに加えて、本件補正により補正された請求項2及び3は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でない事項を含むものであって、同法第17条の2第3項の規定に適合するものではなく、また、同請求項2、3及び5は、同法第17条の2第4項の規定に適合するものでもなく、さらに、同請求項1は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでもないから、本件補正は、これらの点からみても却下すべきものであることを参考までに付記する。

1.【請求項1】について
本件補正により補正された請求項1は、平成20年5月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲に請求項4の記載を引用する形式で記載されていた請求項6を独立形式の請求項とすると共に、発明特定事項を限定的に減縮したものであるから、同法第17条の2第4項第2号でいう特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
しかし、同請求項1に係る発明は、引用発明、特開平5-56037号公報及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。
すなわち、特開平5-56037号公報には、【0002】段落-同【0007】段落には、【従来の技術】として、
ICカード32(本願でいう「通信装置」)にPIN1(本願でいう「PID」)が格納されており、
ICカード32の復号化手段322(本願でいう「復号手段」)において、端末(送信側)31(本願でいう「他の通信装置」)から送信されてくる、ICカード保持者が入力したPIN1を暗号化した暗号暗証コードAV1(本願でいう「暗号化PIN」)を、セッション毎に生成される固有鍵データR2(本願でいう「暗号鍵」)を鍵として復号化されて暗証コードPIN2が生成され、
ICカード32の比較手段323(本願でいう「判定手段」)が、ICカード32に格納されていたPIN1と、復号化手段が復号した暗証コードPIN2とが一致するかどうかを判定し、一致する場合には次の処理を続いて行う一方、一致しない場合には、セッションを中断する発明が記載されており、通信主体と通信の相手との間で鍵を生成する技術である点で共通する当該【従来の技術】と引用発明を組み合わせることにより本件補正後の請求項1に係る発明とすることは当業者が容易に想到し得たものといえる。

したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2.【請求項2】及び【請求項3】について
本件補正により補正された請求項2に係る発明は、その記載からみて、「PID記憶手段」、「復号手段」、「判定手段」に加え、「検知手段」を備えた通信装置であると認められ、また、本件補正により補正された請求項3に係る発明は、その記載からみて、「PID記憶手段」、「復号手段」、「判定手段」に加え、「操作手段」及び「暗号化手段」を備えた通信装置であると認められる。
しかしながら、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面においては、「PID記憶手段」、「復号手段」及び「判定手段」に対応する手段を「ICカード」に備える一方、「検知手段」、「操作手段」及び「暗号化手段」は、「ICカード」とは別の装置である「PED」が備えるもののみが記載されており、同請求項2に係る発明のように、「PID記憶手段」、「復号手段」、「判定手段」及び「検知手段」のすべてを備えた通信装置、あるいは、同請求項3に係る発明のように、「PID記憶手段」、「復号手段」、「判定手段」、「操作手段」及び「暗号化手段」のすべてを備えた通信装置は、いずれも本願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されてはいない。
また、同請求項2に係る発明のように、「PID記憶手段」、「復号手段」、「判定手段」及び「検知手段」のすべてを備えた通信装置、あるいは、同請求項3に係る発明のように、「PID記憶手段」、「復号手段」、「判定手段」、「操作手段」及び「暗号化手段」のすべてを備えた通信装置は、いずれも本願の願書に最初に添付された明細書又は図面の記載から自明な事項ともいえない。
(例えば、同請求項3に係る発明は、PIDの入力と、PIDの判定とが同一の装置内で行われる構成となるため、PIDを無線伝送する意義やPIDを暗号化する意義が失われるものである。)

したがって、本件補正は、請求項2及び3の記載を本願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内でないものに補正することを含むものである。

また、本件補正後の請求項2及び3は、平成20年5月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲を限定的に減縮したものとはいえない。
(例えば、本件補正後の請求項2に係る発明は、本件補正前の請求項5に対しては「PID記憶手段」等を新たに追加したものであり、また、本件補正前の請求項6に対しては「検知手段」を新たに追加したものである。)
そして、本件補正後の請求項2及び3は、平成20年5月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲に対して、請求項の削除、誤記の訂正あるいは明りようでない記載の釈明を目的とする補正がなされたものでもない。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反すると共に、同条第4項の規定にも違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.請求項5について
本件補正後の請求項5は、本件補正後の請求項4を「プログラム」に係る発明として特定したものであるから、本件補正後の請求項4と同様にして、同法第17条の2第4項の規定に違反するものといえる。

なお、平成22年6月24日付けで提出された回答書には、本件補正により補正された請求項2を請求項1に繰り上げると共に、
「前記検知手段により前記他の通信装置の存在が検知された場合、前記他の通信装置とのRFID(radio frequency identification)による無線通信を開始して」
と、無線通信を「RFID(radio frequency identification)による」ものと限定することを含む補正案が記載されている。
しかし、本件補正を却下すべき理由は当該補正案によっても解消されないことに加えて、当該補正案は、RFIDによる通信を格別記載あるいは示唆してはいない本願の明細書【0039】段落の記載をはじめ本願の明細書及び図面の記載からは自明な事項とはいえない、無線通信が「RFID(radio frequency identification)による」ことを新たに追加するものであるから、当該補正案は採用することができないものである。

第8.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項8に係る発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-10 
結審通知日 2010-08-12 
審決日 2010-08-30 
出願番号 特願2006-109813(P2006-109813)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
P 1 8・ 57- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 重徳  
特許庁審判長 吉岡 浩
特許庁審判官 宮司 卓佳
石井 茂和
発明の名称 通信装置および方法、並びにプログラム  
代理人 稲本 義雄  

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