ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B |
---|---|
管理番号 | 1225362 |
審判番号 | 不服2006-19352 |
総通号数 | 132 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-08-31 |
確定日 | 2010-10-14 |
事件の表示 | 特願2003-386303「電子部品、誘電体磁器組成物およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日出願公開、特開2005-145761〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成15年11月17日に出願されたものであって、平成18年4月12日付けで拒絶理由が通知され、同年6月14日に意見書と特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出され、同年7月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月31日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年9月28日付けで特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出されたものであり、平成20年11月21日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、平成21年1月22日に請求人から回答書が提出されたものであって、その後、同年12月25日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成22年3月4日付けで意見書及び発明の詳細な説明の記載に係る手続補正書が提出されたものである。 そして、本願の請求項1?3に係る発明は、平成22年3月4日付けで補正された発明の詳細な説明の記載からみて、平成18年9月28日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層と、内部電極層とが交互に積層してあるコンデンサ素子本体を有する積層セラミックコンデンサを製造する方法であって、 前記誘電体層を構成する前記誘電体磁器組成物は、主成分原料粉末と、副成分原料粉末とを混合し、誘電体磁器組成物原料粉末とし、前記誘電体磁器組成物原料粉末を焼成することにより得られ、 前記主成分原料粉末の平均粒子径(D1)が1.0μm以下、前記副成分原料粉末の平均粒子径(D2)が0.05?0.5μm、前記主成分原料粉末の平均粒子径(D1)と前記副成分原料粉末の平均粒子径(D2)との比(D2/D1)が、0.1≦D2/D1≦0.5であり、 前記誘電体層の厚みが3μm以下、 前記誘電体層の厚みを、前記誘電体層を構成する誘電体粒子の平均粒径で除すことによって求められる誘電体層の1層あたりの平均粒子数が、2以上、6以下であり、かつ、 前記副成分原料粉末が、Mnの酸化物および/または焼成後にMnの酸化物になる化合物と、Siの酸化物および/または焼成後にSiの酸化物になる化合物と、Vの酸化物および/または焼成後にVの酸化物になる化合物と、Mgの酸化物および/または焼成後にMgの酸化物になる化合物と、Caの酸化物および/または焼成後にCaの酸化物になる化合物と、Yの酸化物および/または焼成後にYの酸化物になる化合物と、を含有し、 これらの含有量が、前記主成分原料粉末100モルに対して、 Mnの酸化物および/または焼成後にMnの酸化物になる化合物:MnO換算で、1モル以下、 Siの酸化物および/または焼成後にSiの酸化物になる化合物:SiO_(2)換算で、12モル以下、 Vの酸化物および/または焼成後にVの酸化物になる化合物:V_(2)O_(5)換算で、0.5モル以下、 Mgの酸化物および/または焼成後にMgの酸化物になる化合物:MgO換算で、5モル以下、 Caの酸化物および/または焼成後にCaの酸化物になる化合物:CaO換算で、12モル以下、 Yの酸化物および/または焼成後にYの酸化物になる化合物:Y_(2)O_(3)換算で、5モル以下である積層セラミックコンデンサの製造方法。 【請求項2】 前記主成分原料粉末が、チタン酸バリウムを含有する請求項1に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。 【請求項3】 請求項1または2に記載の方法で製造される積層セラミックコンデンサ。 2.当審からの拒絶理由について 平成22年12月25日付け拒絶理由は、次の(1)及び(2)を含むものであり、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないし、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない、から、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号の規定を満たしていないというものである。 (1)「誘電体層の1層あたりの平均粒子数」について 、請求項1には、「誘電体層の1層あたりの平均粒子数が、2以上、6以下」と特定されているものの、この平均粒子数の上限値、下限値の技術的意義が客観的なデータによって裏付けられておらず、その技術的意義が判然としない。また、下限値については明細書の【0042】に下限値未満となると「耐電圧不良率が悪化する」との説明がなされているが、上限値については何ら説明がされていない。 (2)誘電体層の「平均粒子径」の算出につき、説明がされておらず、主成分の平均粒子径と副成分の平均粒子径を基にしてどのようにして処理しているのかが不明である。 (なお、上記拒絶理由通知では、「特許法第36条第4項」と記載したが、同通知の末には「当業者が請求項1?3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」と記載しているから、上記条文は「特許法第36条第4項第1項」の誤記であることは明らかである。) 3.判断 3-1.誘電体層の1層あたりの平均粒子数の上・下限値について (1)上限値について 平成22年3月4日付け意見書(以下、「意見書2」という。)において、請求人も認めるように、上限値を規定する技術的意義については、明細書には明記はされていない。請求人は、意見書2において、「たとえば同一の平均粒子径の誘電体粒子である場合には、誘電体層一層あたりの平均粒子数が増大すると、誘電体層の厚みも増大します。この結果、電子部品(積層セラミックコンデンサ)自体のサイズが増大することになり、機器の小型化の要請に反することになります。本願発明において誘電体層一層あたりの平均粒子数の上限値を「6」と規定した理由もまさにこの点にあります。そして、誘電体層の厚みが増大すると機器の小型化が困難になることは明記するまでもなく、当業者には容易に理解できるところであります。したがって、誘電体層一層あたりの平均粒子数の上限値を規定する技術的意義が明細書に明記されていないとしても、当業者が本願発明を理解し、実施する上では何ら不都合は無いものと思料致します。」と主張しているから、この主張について検討する。 請求項1には、原料粉末の平均粒子径及び誘電体層の厚みについて、 「前記主成分原料粉末の平均粒子径(D1)が1.0μm以下、前記副成分原料粉末の平均粒子径(D2)が0.05?0.5μm、前記主成分原料粉末の平均粒子径(D1)と前記副成分原料粉末の平均粒子径(D2)との比(D2/D1)が、0.1≦D2/D1≦0.5であり、 前記誘電体層の厚みが3μm以下、」 と特定され、主成分原料粉末に100モルに対して副成分原料粉末は最大で35.5(=1+12+0.5+5+12+5)モル加えることも特定されている。 ここで、D1とD2に係る上記特定事項より計算すると、(D1,D2)=(0.1μm,0.05μm)?(1μm,0.5μm)となる。 さらに、平均粒径は、モル比を基に計算すると、下記計算により、0.09μm?0.9μmの範囲になる。 (100×0.1+35.5×0.05)/(100+35.5)=0.09μm (100×1+35.5×0.5)/(100+35.5)=0.9μm そうすると、誘電粒子の径は原料粉末の径に近似できるとみると、誘電体層を構成する誘電体粒子の平均粒径で除すことによって求められる誘電体層の1層あたりの平均粒子数は、3(=3/0.9)?30(=3/0.09)となる。 すなわち、請求項1の特定事項や発明の詳細な説明の記載からは、誘電体の1層あたりの平均粒子数は約30以下とすることは導き出されるが、6以下とすることは導き出されず、むしろ6を超えていてもよいととれ、しかも、発明の詳細な説明の記載には6を超えた場合に不都合が生じることは何ら示されていない。 確かに、請求人が主張するように、同一の平均粒子径の誘電体粒子である場合には、誘電体層の1層あたりの平均粒子数が増大すると、誘電体層の厚みは増大することは明らかであるが、請求項1の特定をみると、原料粉末の粒子径は所定の範囲にあるから、誘電体粒子の径も所定の範囲にあり、しかも、誘電体層の厚さの上限値が特定されているから、粒子数が6を超えていても、誘電体層の厚みはこの厚さの上限値以下とされて、誘電体層の厚みは増大することはないから、平均粒子数が増大すると誘電体層の厚みが増大するという、請求人の主張を直ちに採用することはできない。 (2)下限値について 請求人は意見書2において、追加実験A?Cを示し、誘電体層の1層あたりの平均粒子数が2未満となると耐電圧不良率が悪化することを示している。 追加実験A?Cの結果をみると、確かに、誘電体層の1層あたりの平均粒子数が1.5では耐電圧不良率が悪化するといえるが、誘電体層の1層あたりの平均粒子数が2の場合では耐電圧不良率が悪化しないことは示されておらず(発明の詳細な説明の【0095】の表2をみると、平均粒子数が3では耐電圧不良率が悪化しないことが見て取れる。)、誘電体層の1層あたりの平均粒子数が2が下限値であると直ちにはいえない。さらに、上記(1)で触れたように、計算上の誘電体1層あたりの平均粒子数の下限値は3となるから、請求項1?3に係る発明において、誘電体1層あたりの平均粒子数の2の場合があり得るのかどうか疑問であり、平均粒子径の下限値として2を導き出すことはできないと解するのが自然である。 よって、誘電体層の1層あたりの平均粒子数の6という上限値及び2という下限値の技術的意義は不明であり、この上限値・下限値相互の関係も不明であって、しかもこれらが出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため、当業者が請求項に係る発明の実施を行うに当たり過度の試行錯誤を行わざるを得ないから、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1項の規定を満たしていないし、請求項1?3に特定される誘電体層の1層あたりの平均粒子数の6という上限値及び2という下限値が、発明の詳細な説明に実質的に記載も示唆もされていないといえ、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。 3-2.誘電体粒子の平均粒子径の算出について 発明の詳細な説明には、コード法により誘電体粒子の平均粒径を測定した旨の記載(【0087】)はあるものの、コード法自体について説明する記載は何ら見当たらない。 そこで、コード法について言及のある公知文献の記載をみてみると、コード法(インタセプト法)による粒径を求める式には、 (i)D=1.5×n/L L:測定長さ、n:長さL当たりの結晶の数(特開平6-15191号公報の【0014】) (n/LはL/nの誤記と推定される。)、 (ii)単位長さ/単位長さを結晶粒界が横切る数に1.56を乗じる(特開平5-196770号公報の【0031】)、 (iii)線分長(μm)÷粒界数÷(0.79)^(2)(特開平4-89359号公報の4頁右上欄15?19行)、 (iv)粒子形状を球形と近似し、任意の直線が粒子によって切り取られる切片の平均長さの1.5倍(特開平1-119559号公報の6頁右下欄4?10行) (v)地域規格(BS EN 623-3:2001)によるグレインサイズ測定方法 a)75mm以上の直線を5本以上引く。 b)全直線長さを測定l(t)(375mm以上・100個以上のグレインを横切ること)。 c)大きな気孔を横切った場合には、その長さを測定l(p)。 d)グレインバンダリーと直線との交点の数を数えるn(i)。 直線が3重点を横切った場合は交点数1.5。直線が大きな気孔を横切った場合は交点数1。 直線がグレインバンダリーに沿っている場合は交点数1。 平均直線2点間距離[・・・・・・]は以下に示す式(1)によって算出する。単位はμmである。 [l(t)-l(p)]×10^(3) g(mli)=------------------- n(i)×m ここで、mは写真の撮影倍率である。 (JIS R 1670:2006 5頁から転載) と種々のものがあり、しかも、(i)?(iv)では、「測定長さ」、「線分長」、「任意の直線」に係る直線の引き方(長さ、引く方向、その本数)について何ら規定がされておらず、また、本願出願前にこの規定に言及する文献は未見であり、(v)においても直線の引き方の最低の要件が決められているだけであるから、コード法を用いるに当たり、直線の引き方は任意であるといえる。 また、主成分と副成分との間に存在する空隙や三重点等を扱いについて、発明の詳細な説明にも言及はなく、この空隙の大きさを主成分と副成分の平均粒径に対してどのように扱って、コード法により平均粒径を求めているのかも説明されていない。 そうすると、コード法によって平均粒径を求め方には、上記(i)?(v)に記載されているように種々のものがあり、一義的なものとは直ちにいえず、本願の請求項1?3に係る発明が、空隙や三重点等の大きさやを何らかの方法で処理し、ある特定のコード法によって、誘電体層粒子の平均粒子径を求めていても、他のコード法によって求めた誘電体層粒子の平均粒子径についてまで記載されていると同視できる程度の発明の詳細な説明の記載はないから、他のコード法によって求めた誘電体層粒子の平均粒子径においても、本願の発明の詳細な説明に記載された発明が解決しようとする課題を解決できるか否かを過度の試行錯誤なくして当業者が確認できるとはいえないし、請求項1?3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張できない。 よって、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないし、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。 4.むすび よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-08-12 |
結審通知日 | 2010-08-17 |
審決日 | 2010-08-30 |
出願番号 | 特願2003-386303(P2003-386303) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(C04B)
P 1 8・ 537- WZ (C04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三崎 仁 |
特許庁審判長 |
松本 貢 |
特許庁審判官 |
吉川 潤 木村 孔一 |
発明の名称 | 電子部品、誘電体磁器組成物およびその製造方法 |
代理人 | 前田 均 |