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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1225368
審判番号 不服2007-20543  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-25 
確定日 2010-10-14 
事件の表示 特願2003-371395「ポリマーセメント組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月26日出願公開、特開2005-132682〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年10月31日の出願であって、平成19年2月21日付けで拒絶理由が通知され、同年6月20日付けで拒絶査定がなされ、同年7月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年8月23日付けで審判請求書に係る手続補正がなされるとともに、同日付けで明細書の記載に係る手続補正がなされたものである。その後、平成22年3月2日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋が通知され、期間を指定して回答書の提出を求めたが、請求人からは回答書が提出されなかったものである。

第2.平成19年8月23日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年8月23日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正により、出願当初の特許請求の範囲、すなわち、
「【請求項1】
カルシウムアルミネート類、ポゾラン及び塩素を含むポリマーを含有してなるポリマーセメント組成物。
【請求項2】
カルシウムアルミネート類がアルミナセメントを含有してなる請求項1に記載されたポリマーセメント組成物。
【請求項3】
ポゾランが高炉水砕スラグを含有してなる請求項1又は請求項2に記載されたポリマーセメント組成物。
【請求項4】
塩素を含むポリマーがクロロプレンゴムラテックスを含有してなる請求項1?3のいずれか1項に記載されたポリマーセメント組成物。
【請求項5】
さらに、充填材を含有してなる請求項1?4のいずれか1項に記載されたポリマーセメント組成物。
【請求項6】
充填材が高炉徐冷スラグを含有してなる請求項1?5のいずれか1項に記載されたポリマーセメント組成物。」
が、次のように補正された。
「【請求項1】
アルミナセメントとポゾランの合計100質量部と、固形分換算で0.1?20質量部のクロロプレンゴムラテックスとを含有し、カルシウムアルミネート類とポゾランの使用量が90:10?50:50であるポリマーセメント組成物。
【請求項2】
ポゾランが高炉水砕スラグを含有してなる請求項1に記載したポリマーセメント組成物。
【請求項3】
さらに、高炉徐冷スラグを含有してなる請求項1または請求項2に記載したポリマーセメント組成物。」

2.本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1において、「カルシウムアルミネート類」及び「塩素を含むポリマー」を、それぞれ「アルミナセメント」及び「クロロプレンゴムラテックス」とするとともに、「アルミナセメントとポゾランの合計100質量部と、固形分換算で0.1?20質量部のクロロプレンゴムラテックス」であること及び「カルシウムアルミネート類とポゾランの使用量が90:10?50:50」であることを特定して、新たな請求項1とする補正事項を含むものといえる。

上記補正事項のうち、「アルミナセメントとポゾランの合計100質量部と、固形分換算で0.1?20質量部のクロロプレンゴムラテックス」であること及び「カルシウムアルミネート類とポゾランの使用量が90:10?50:50」であることを特定する補正事項(以下、「補正事項A」という。)について検討すると、補正前の請求項1には「質量部」及び「使用量」に関する事項は記載されていないから、補正事項Aは、「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」に該当せず、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する事項を目的としたものではない。また、補正事項Aは、同法第17条の2第4項第1、3、4号に規定のいずれかの事項を目的としたものでもない。
よって、補正事項Aを含む本件補正は同法第17条の2第4項の規定に違反する。

以上のとおりであるから、その余の補正事項について論及するまでもなく、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.上記2.で検討したとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので却下すべきものであるが、仮に、本件補正の目的が同項第2号に規定する事項を目的とするものとした場合に、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて、以下に検討する。

(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平4-132648号公報(以下、「引用例」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「アルミナセメントと、スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれた一種又は二種以上の無機粉と、骨材並びにポリマーを必須成分とするポリマーセメントモルタル組成物。」(特許請求の範囲(1))
(イ)「本発明者らは、種々検討の結果、特定の材料を使用することによって、前記従来の技術のもつ課題を解消し、ポリマーの硬化速度とセメントの水和反応速度のバランスを操作して硬化体の結合力を高めるとともに、急硬性、弾性及び付着力に優れるポリマーセメントモルタル組成物が得られることを知見し本発明を完成するに至った。」(2頁左上欄12?18行)
(ウ)「アルミナセメントは、CaO・A1_(2)O_(3)を主鉱物成分として含み、その他、12CaO・7A1_(2)O_(3)、CaO・2A1_(2)O_(3)、3CaO・5A1_(2)O_(3).5CaO・3A1_(2)O_(3)及び2CaO・A1_(2)O_(3)・SiO_(2)等の鉱物成分を含有する」(2頁左下欄7?10行)
(エ)「本発明に係る無機粉とは、スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれた一種又は二種以上である。
スラグとしては、高炉スラグや製鋼スラグが使用できる。
・・・
水砕スラグは非晶質であり、化学的活性度が高く、・・・。
・・・
また、JIS A 6201に規定されたフライアッシュも使用することが可能である。SiO_(2)やAl_(2)O_(3)は、セメントの水和生成物と結合するポゾラン活性を呈し、アルミナセメントの長期強度を著しく増進させる作用をもっている。」(2頁右下欄10行?3頁右上欄8行)
(オ)「無機粉末の使用量は、アルミナセメント100重量部に対して、10?1,000重量部が好ましい。この範囲外では、ポリマーの硬化速度とセメントの水和反応速度のバランスが上手に取れず、十分な、急硬性、強度、弾性及び付着力が得られにくく、収縮、クラック及びヒビ割れ等を防止することが困難になる傾向がある。」(4頁右上欄2?8行)
(カ)「ポリマーの具体例としては、天然ゴムラテックス(NR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、メタクリル酸メチルブタンジエンゴム(MBR)及びブタジエンゴム(BR)等の合成ゴムラテックス、ポリアクリル酸エステル(PAE)、ポリ酢酸ビニル(PVAC)、塩化ビニリデン塩化ビニル(PVDC)、ポリプロピオン酸ビニル(PVP)、エチレン酢酸ビニル(EVA)及びポリプロピレン(PP)等の熱可塑性樹脂エマルジョン、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂エマルジョン、アスファルト、ゴムアスファルト及びパラフィンなどの歴青質エマルジョン、混合ラテックスや混合エマルジョンなどの混合ディスパージョン、エチレン酢酸ビニル(EVA)、酢酸ビニルビニルバーサテート(VAVeoVA)などの再乳化形粉末樹脂、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール(PVA、ポバール)、ポリアクリル酸塩、フルフリルアルコールなどの水溶性ポリマー、不飽和ポリエステル、エポキシなどの液状ポリマー等が使用可能である。
ポリマーの使用量は、アルミナセメント、無機粉末及び骨材の合計100重量部に対して、1?200重量部が好ましい。1重量部未満では、十分な弾性や付着力が得られず、耐水性が劣り、逆に200重量部を越えると、弾性は向上するものの、硬化が遅れ、強度や耐久性が悪くなる傾向がある。」(4頁右下欄4行?5頁左上欄9行)
(キ)「本発明によれば、モルタルの収縮、クラック及びヒビ割れ等の発生が著しく少なく、急硬性、弾性、付着力及び強度等に優れたモルタルが得られる。」(5頁左上欄20行?同頁右上欄3行)
(ク)「[発明の効果]
本発明のポリマーセメントモルタル組成物を使用すると、従来のものに比較して急硬性、作業性、強度及び弾性に優れ、収縮、ソリ及びクラック等の発生が著しく少なく、付着力のある特性が挙げられる。
従って、土木、建材分野を中心に床材、防水材、接着材、化粧仕上げ材、補修材、防食材、舗装材、止水材及びポリマーセメント製品等へ使用することが可能となる。」(9頁左上欄8?17行)

(2)対比・判断
引用例には、記載事項(ア)に、「アルミナセメントと、スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれた一種又は二種以上の無機粉と、骨材並びにポリマーを必須成分とするポリマーセメントモルタル組成物。」と記載され、記載事項(ウ)に「アルミナセメントは、CaO・A1_(2)O_(3)を主鉱物成分として含」むことが記載されているから、引用例には、「CaO・A1_(2)O_(3)を主鉱物成分として含むアルミナセメント」と、「スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームより選ばれた一種又は二種以上の無機粉」と、「ポリマー」とを含有する「組成物」が記載されており、この組成物は、「ポリマー」と「セメント」を主成分とする「ポリマーセメント組成物」とみることができる。
よって、引用例の記載事項を、本願補正発明の記載ぶりに則して表現すると、引用例には、
「CaO・A1_(2)O_(3)を主鉱物成分として含むアルミナセメントと、スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームより選ばれた一種又は二種以上の無機粉と、ポリマーとを含有するポリマーセメント組成物。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願補正発明と引用発明を対比する。
(a)引用発明の「CaO・A1_(2)O_(3)を主鉱物成分として含むアルミナセメント」が、本願補正発明の「アルミナセメント」及び「カルシウムアルミネート類」に相当することは明らかである。
(b)引用発明の「スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームより選ばれた一種又は二種以上の無機粉」についてみると、記載事項(エ)に、「フライアッシュ」について「ポゾラン活性」を呈することが記載されているから、引用発明の「フライアッシュ」は「ポゾラン」といえる。また、本願明細書の【0011】には、「ポゾラン」として、「フライアッシュ」と共に、「高炉スラグ」、「シリカヒューム」が挙げられ、「高炉水砕スラグ」が好ましいことが記載されており、引用例には、記載事項(エ)に、「スラグ」として、「高炉スラグ」が記載され、「水砕スラグ」にも言及されていることから、引用発明の「スラグ」、「シリカヒューム」も、「フライアッシュ」と同じく「ポゾラン」ということができる。よって、引用発明の「スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームより選ばれた一種又は二種以上の無機粉」は、本願補正発明の「ポゾラン」に相当する。
(c)引用発明の「ポリマー」と、本願補正発明の「クロロプレンゴムラテックス」とは、「ポリマー」である点で共通する。
(d)引用発明が、「CaO・A1_(2)O_(3)を主鉱物成分として含むアルミナセメントと、スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームより選ばれた一種又は二種以上の無機粉を含有する」ことは、「CaO・A1_(2)O_(3)を主鉱物成分として含むアルミナセメントと、スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームより選ばれた一種又は二種以上の無機粉を使用する」とみることができる。そうすると、上記(a)、(b)の検討を踏まえると、引用発明が、「CaO・A1_(2)O_(3)を主鉱物成分として含むアルミナセメントと、スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームより選ばれた一種又は二種以上の無機粉を含有する」ことは、本願補正発明が「カルシウムアルミネート類とポゾランの使用量が90:10?50:50である」ことと、「カルシウムアルミネート類とポゾランを使用する」点で共通する。

以上の(a)?(d)の検討を踏まえると、本願補正発明と引用発明とは、
「アルミナセメントとポゾランと、ポリマーとを含有し、カルシウムアルミネート類とポゾランを使用するポリマーセメント組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点a)本願補正発明は、ポリマーが「クロロプレンゴムラテックス」であるのに対して、引用発明はポリマーが特定されていない点。
(相違点b)本願補正発明は、「アルミナセメントとポゾランの合計100質量部と、固形分換算で0.1?20質量部のクロロプレンゴムラテックス」を含有するのに対して、引用発明には、かかる質量部について特定されていない点。
(相違点c)本願補正発明は、「カルシウムアルミネート類とポゾランの使用量が90:10?50:50」であるのに対して、引用発明は、かかる使用量について特定されていない点。

そこで、上記(相違点a)?(相違点c)について順次検討する。

(相違点a)について
引用例には、記載事項(カ)に、「ポリマーの具体例」として、「クロロプレンゴム(CR)」等の「合成ゴムラテックス」が記載されている。そうすると、引用例には、ポリマーを「クロロプレンゴムラテックス」とすることが記載されているといえるから、(相違点a)は、実質的な相違点とはならない。
仮に、本願補正発明において、「ポリマー」を「クロロプレンゴムラテックス」に特定することにより引用発明と相違があるとしても、引用例には、「ポリマー」の具体例として「クロロプレンゴムラテックス」が記載され、ポリマーセメント組成物におけるポリマーとして「クロロプレンゴムラテックス」を用いることが周知であり、「クロロプレンゴムラテックス」がポリマーセメントとして耐候性、耐薬品性、中性化防止や鉄筋の腐食防止等の優れた性質を備えることもよく知られているから(社団法人日本コンクリート工学協会編、コンクリート便覧(第二版)、1996年7月10日2版2刷発行、第485?489頁(特に図7.4、表7-5);特開平10-259048号公報の請求項1、【0009】?【0011】;特開2003-212630号公報の【0019】;以下、これらの文献を「周知例1?3」という。)、引用発明において、「ポリマー」を「クロロプレンゴムラテックス」に特定することは当業者が適宜なし得ることである。

(相違点b)について
引用例には、記載事項(カ)に、「ポリマーの使用量は、アルミナセメント、無機粉末及び骨材の合計100重量部に対して、1?200重量部が好ましい。1重量部未満では、十分な弾性や付着力が得られず、耐水性が劣り、逆に200重量部を越えると、弾性は向上するものの、硬化が遅れ、強度や耐久性が悪くなる傾向がある。」と記載されており、この記載の「重量部」は、「質量部」に概ね一致する。そうすると、引用例には、配合されるポリマーの質量部が少ないと、十分な弾性や付着力か得られず、耐水性が劣り、すなわち、ポリマーの優れた性質を十分に発揮できず、逆に、配合されるポリマーの質量部が多すぎると、硬化が遅れ、強度や耐久性が悪くなることが示されている。
また、引用例には、記載事項(イ)に「ポリマーの硬化速度とセメントの水和反応速度のバランスを操作して硬化体の結合力を高める」ことが記載され、記載事項(オ)に、無機粉末の使用量は、「ポリマーの硬化速度とセメントの水和反応速度のバランス」の兼ね合いで定めることが記載されているから、引用発明の「無機粉末」は、「ポリマーの硬化速度とセメントの水和反応速度のバランス」を制御するための成分といえる。
そうすると、引用発明において、ポリマーが(相違点a)で検討したように「クロロプレンゴムラテックス」である場合に、「ポリマーの硬化速度とセメントの水和反応速度のバランス」をとるために、該「クロロプレンゴムラテックス」の量を、セメントの水和反応速度に関わる「アルミナセメント」及び「無機粉体」を合計した質量部に対して特定することは当業者が格別困難なくなし得ることといえ、「アルミナセメントとポゾランの合計100質量部」と、「固形分換算で0.1?20質量部のクロロプレンゴムラテックス」という数値範囲についても、ゴムラテックス等の分散液の量を固形分換算で定めることが一般的であり、本願明細書の記載をみても、本願補正発明の数値範囲に格別の臨界的意義も見出せないことから、ポリマーセメントにおいてポリマーの優れた性質を十分に発揮することと、セメントの硬化速度や強度、耐久性との兼ね合いから、当業者が適宜定め得る範囲のものといえる。

(相違点c)について
引用例には、記載事項(オ)に、「無機粉末の使用量は、アルミナセメント100重量部に対して、10?1,000重量部が好ましい。この範囲外では、ポリマーの硬化速度とセメントの水和反応速度のバランスが上手に取れず、十分な、急硬性、強度、弾性及び付着力が得られにくく、収縮、クラック及びヒビ割れ等を防止することが困難になる傾向がある。」と記載されており、この記載の「重量部」は「質量部」に概ね一致する。
また、引用例には、記載事項(エ)に、無機粉末であるフライアッシュの「ポゾラン活性」が「アルミナセメントの長期強度を著しく増進させる」ことが記載されている。
そうすると、引用発明において、ポリマーが(相違点a)で検討したようにクロロプレンゴムラテックスである場合に、引用例に記載された重量部についての数値範囲を参照し、ポリマーの硬化速度とセメントの水和反応速度のバランスをとり、急硬性、強度、弾性及び付着力を得ることや、長期強度を得ることに配慮して、カルシウムアルミネート類であるアルミナセメントとポゾランの使用量を90:10?50:50程度とすることは、当業者が適宜なし得る事項といえ、本願明細書の記載をみても、本願補正発明の使用量の数値範囲に格別の臨界的意義は見出せない。

さらに、本願補正発明が、上記(相違点a?c)に係る特定事項を採ることによって奏する明細書記載の効果についても、引用例の記載事項及び周知の事項(周知例1?3参照)から予測し得る範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。そうすると、仮に、本件補正の目的が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する事項を目的とするものであったとしても、本件補正は、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
平成19年8月23日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「カルシウムアルミネート類、ポゾラン及び塩素を含むポリマーを含有してなるポリマーセメント組成物。」

第4.引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である引用例(特開平4-132648号公報)及びその記載事項は、上記「第2 3.(1)」に記載したとおりである。

第5.対比・判断
本願発明は、上記「第2 3.(2)」で検討した本願補正発明において、「アルミナセメント」及び「クロロプレンゴムラテックス」を、それぞれ「カルシウムアルミネート類」及び「塩素を含むポリマー」に拡張するとともに、本願補正発明の「アルミナセメントとポゾランの合計100質量部と、固形分換算で0.1?20質量部のクロロプレンゴムラテックス」であること及び「カルシウムアルミネート類とポゾランの使用量が90:10?50:50」であることを削除したものといえる。
一方、引用発明は、上記「第2 3.(2)」に記載したとおりのものである。
そうすると、上記「第2 3.(2)」の(a)?(c)の検討を踏まえると、引用発明と本願発明とは、
「カルシウムアルミネート類、ポゾラン及びポリマーを含有してなるポリマーセメント組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点d)本願発明は、ポリマーが「塩素を含む」のに対して、引用発明ではポリマーが特定されていない点。

(相違点d)について検討する。上記「第2 3.(2)」の(相違点a)で述べたとおり、引用例には、記載事項(カ)に、「ポリマーの具体例」として、「クロロプレンゴム(CR)」等の「合成ゴムラテックス」が記載されており、この「クロロプレンゴム(CR)の合成ゴムラテックス」が、「塩素を含むポリマー」であることは明らかである。そうすると、引用例には、ポリマーを「塩素を含むポリマー」とすることが記載されているといえるから、(相違点d)は、実質的な相違点とはならない。
仮に、本願補正発明において、「ポリマー」を「塩素を含むポリマー」に特定することにより引用発明と相違があるとしても、(相違点a)で検討した理由と同様の理由により、引用発明の「ポリマー」を「塩素を含むポリマー」に特定することは、引用例の記載事項及び周知の事項(周知例1?3)から当業者が適宜なし得るものである。

したがって、本願発明は、引用発明であるか、引用発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得るものである。

第6.審判請求書の主張
請求人は、平成19年8月23日付けで補正した審判請求書において、本願補正発明について、以下のとおり主張する。
「従来のポリマーセメント組成物の特性は、既設構造物との付着性がよいこと、ひび割れ抵抗性が大きいこと、外部因子である炭酸ガスや塩化物イオンなどの物質の透過を困難にすること、耐薬品性に優れるという特徴を有するものです。これは、引用文献1(注:引用例を指す)・・・にも記載した特性です。
本願のポリマーセメント組成物は、これらの特性に加えてさらに、強度低下が起こらず寸法安定性にも優れ、鉄筋の腐食を生じさせないという特有の効果を有するものであります。
この効果を達成するために、出願人は、種々検討を重ね、ポリマーセメント組成物に配合するポリマーとして、その固形分を特定したクロロプレンゴムラテックスを限定的に使用したのです。
・・・本願では、このクロロプレンゴムラテックスの固形分を特定の範囲にすることにより、ポリマーを添加することによる接着強さや曲げ強さの向上、ひび割れ抵抗性及び耐薬品性の向上、ポリマーセメント組成物の凝結遅延や硬化不良を安定的に防止できるという効果を有しています。
引用文献1・・・にもポリマーの例としてクロロプレンゴムラテックスが記載されていますが、その固形分濃度や、配合量の特定がありません。また、実施例でもクロロプレンゴムラテックスを用いた例はありません。
・・・本願は、アルミナセメントとポゾランの使用量を特定の範囲に限定するとともに、これに含有させるポリマーを、その固形分を特定したポリクロロプレンゴムラテックスに限定したものです。」(2頁15行?3頁1行)。

そこで、上記主張について検討する。
引用例には、請求人も認めるとおり、ポリマーの例としてクロロプレンゴムラテックスが記載されており、引用例のポリマーは、実施例で用いたポリマーに限定されるものではない。
また、本願明細書には、ポリクロロプレンゴムラテックス以外のポリマーの実験例の記載はなく、実施例は、全てポリクロロプレンゴムラテックスが10質量部のものであり、一方、比較例は、CA類(カルシウムアルミネート類)を添加しないものであるから、これら実施例と比較例とを対比しても、「ポリマーセメント組成物に配合するポリマーとして、その固形分を特定したクロロプレンゴムラテックスを限定的に使用」することによる格別の効果まで見いだすことはできない。
さらに、「強度低下が起こらず寸法安定性にも優れ、鉄筋の腐食を生じさせない」という請求人の主張する本願補正発明の効果についても、引用例には、ポゾラン活性がアルミナセメントの「長期強度」を著しく増進させる作用をもち(記載事項(エ))、また、引用発明のポリマーセメント組成物は、「強度」に優れ、「収縮、ソリ」等の発生が著しく少ないこと(記載事項(キ)、(ク))が記載され、「防食材」という用途(同(ク))にも言及されている。そして、(相違点a)で検討したとおり、「クロロプレンゴムラテックス」がポリマーセメントとして耐候性、耐薬品性、中性化防止や鉄筋の腐食防止等の優れた性質を備えることもよく知られている(周知例1?3)。そうすると、請求人の主張する効果は、引用例の記載事項及び周知の事項から当業者が予測し得るものといえる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

第7.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に記載された発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、仮にそうでないとしても、引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-13 
結審通知日 2010-08-17 
審決日 2010-08-31 
出願番号 特願2003-371395(P2003-371395)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 113- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 57- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 安齋 美佐子
中澤 登
発明の名称 ポリマーセメント組成物  

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