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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1225376
審判番号 不服2007-32814  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-05 
確定日 2010-10-14 
事件の表示 特願2001-385337「透明ハードコート層、透明ハードコート材、およびディスプレイ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月3日出願公開、特開2003-183586〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成13年12月19日の出願であって、以降の手続の経緯は、以下のとおりのものである。

平成19年 3月 2日付け 拒絶理由通知書
平成19年 5月 7日 意見書・手続補正書
平成19年11月 1日付け 拒絶査定
平成19年12月 5日 審判請求書
平成19年12月26日 手続補正書(方式)

第2 本願発明
この出願の発明は、平成19年5月7日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する合成樹脂微粒子が、架橋した合成樹脂からなるバインダ中に分散した分散膜からなることを特徴とする透明ハードコート層。」

第3 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成19年 3月 2日付け拒絶理由通知書に記載した理由1?3によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、その理由1は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、その「下記の請求項に係る発明」のうちの一つは、「請求項1に係る発明」であるところ、上記「請求項1に係る発明」は、「本願発明」に相当し、「下記の刊行物」には、特開2001-323206号公報(以下、「刊行物A」という。原査定における「引用例2」と同じ。)と特開平7-92306号公報(以下、「刊行物B」という。原査定における「引用例3」と同じ。)が含まれるから、原査定の理由は、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である刊行物A、Bに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。

第4 当審の判断
本願発明は、原査定の理由のとおり、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である刊行物A、Bに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
その理由は、以下のとおりである。

1.刊行物の記載事項
(1)刊行物A
(A-1)「【請求項1】 (メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)と、4級アンモニウム塩基及び(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(B)と、トリシクロデカン骨格及び(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(C)と、平均粒径1?20μmの球状粒子(D)とを含み、
前記化合物(A)50?90重量部に対して、前記化合物(B)の配合量が5?25重量部、前記化合物(C)の配合量が5?25重量部、前記球状粒子(D)の配合量が1?50重量部であることを特徴とする防眩性帯電防止ハードコート樹脂組成物。
【請求項2】 前記球状粒子(D)の屈折率が1.51?1.55であることを特徴とする請求項1に記載の防眩性帯電防止ハードコート樹脂組成物。
(…中略…)
【請求項7】 前記化合物(A)が、分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有することを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の防眩性帯電防止ハードコート樹脂組成物。
【請求項8】 請求項1?7のいずれか一項に記載の防眩性帯電防止ハードコート樹脂組成物からなることを特徴とするハードコート膜。」(特許請求の範囲)

(A-2)「本発明は、帯電防止性能と防眩性とを兼ね備え、かつ表面硬度、密着性、透明性、耐擦傷性、耐候性などが優れたハードコート膜を得ることができる防眩性帯電防止ハードコート樹脂組成物に関する。」(段落【0001】)

(A-3)「本発明は、前記課題を鑑てなされたもので、帯電防止性と防眩性の両方を兼ね備えたハードコート膜を形成できる防眩性帯電防止ハードコート樹脂組成物を提供することを課題とする。さらに、表面硬度が高く、耐擦傷性、基材との密着性などに優れたハードコート膜を形成できる防眩性帯電防止ハードコート樹脂組成物を提供することを課題とする。さらに、良好な透明性を備えたハードコート膜を形成できる防眩性帯電防止ハードコート樹脂組成物を提供することを課題とする。」(段落【0005】)

(A-4)「化合物(A)は、ハードコート膜の製造課程で重合して(メタ)アクリル系樹脂となり、ハードコート膜のベースを形成するものである。化合物(A)としては(メタ)アクリロイル基を1個以上、好ましくは3個以上、実質的には3?20有するものが好適である。好ましい具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。」(段落【0007】)

(A-5)「平均粒径1?20μmの球状粒子(D)は、ハードコート膜の表面に、防眩性と帯電防止性能に寄与する適度な凹凸を形成するものである。球状粒子(D)としては、例えばアクリル樹脂、スチレン樹脂、ベンゾグアニン樹脂、メラミン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂などの架橋重合体を材料とする球状粒子などを使用することができる。また、これらの樹脂の共重合体を材料とするものも使用することができる。」(段落【0011】)

(A-6)「また、球状粒子(D)を配合すると、特に擦傷性が向上するという特徴的な効果が得られる。」(段落【0012】)

(A-7)「また、球状粒子(D)として、屈折率が1.51?1.55、好ましくは1.515?1.535のものを用いると、ハードコート膜内で光の散乱が発生しにくく、防眩性を維持しつつ、同時に特に透明性の優れたハードコート膜を得ることができる。」(段落【0013】)

(2)刊行物B
(B-1)「【請求項2】 (1)屈折率が1.5以上の有機超微粒子を含有し、
(2)該有機超微粒子は多層構造をなし、その最外層が反応性の架橋可能な官能基を有するか若しくは熱可塑性樹脂であり、且つその中心部は架橋が進んだ高架橋体であり、
(3)該有機超微粒子の最外層の架橋又は融着作用と、該有機超微粒子に添加されたバインダー樹脂とにより、成膜されることを特徴とするハード性を有する高屈折率膜。」(特許請求の範囲)

(B-2)「本発明は、カーブミラー、バックミラー、ゴーグル、窓ガラス、及びパソコン・ワープロ等のディスプレイ、その他商業用ディスプレイ等の各種表面における光の反射防止技術に関し、反射防止が必要とされる基材に積層される高屈折率反射防止膜自体、その高屈折率反射防止膜を基材フィルム上に形成した反射防止フィルム、及びその製造方法に関する。」(段落【0001】)

(B-3)「有機超微粒子とバインダーとの量比は、有機超微粒子/バインダー=10/0?2/1(特に好ましくは4/1?2/1)とする。また、このような量比でバインダーと有機超微粒子を混合することにより、有機超微粒子のバインダー中の分散性が向上するので、有機超微粒子が均一分布した塗膜の形成が可能となる。」(段落【0012】)

(B-4)「このような有機超微粒子には、水中又は有機溶剤中に分散しているポリマーラテックスと呼ばれている有機超微粒子が好ましい。図2は、ポリマーラテックスの1種であるアクリル系ポリマーの反応性ミクロゲルを模式的に示している。この有機超微粒子サイズのミクロゲル粒子の内部は適度な架橋が形成されたコア部となっており、その外部は内部に比べて架橋が進んでいないシェル部となっている。」(段落【0015】)

(B-5)「このような有機超微粒子を用いて形成された塗膜は、コア部の架橋度を高くして剛性を持たせることにより、得られる塗膜はハードコートとなる。」(段落【0016】)

(B-6)「【図1】本発明の高屈折率膜を使用した反射防止フィルムの断面を示す。」(【図面の簡単な説明】)

(B-7)「1 透明基材フィルム
2 高屈折率膜
3 低屈折率膜」(【符号の説明】)

(B-8)「

」(【図1】)

2.刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、「(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)と、4級アンモニウム塩基及び(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(B)と、トリシクロデカン骨格及び(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(C)と、平均粒径1?20μmの球状粒子(D)とを含み、前記化合物(A)50?90重量部に対して、前記化合物(B)の配合量が5?25重量部、前記化合物(C)の配合量が5?25重量部、前記球状粒子(D)の配合量が1?50重量部であることを特徴とする防眩性帯電防止ハードコート樹脂組成物」、及び、該樹脂組成物からなる「ハードコート膜」が記載され(摘記(A-1)の請求項1、請求項8)、上記「ハードコート膜」は「透明性」に優れたものであることが記載されている(摘記(A-2))。
そして、上記「化合物(A)」は、「ハードコート膜のベースを形成するもの」であって(摘記(A-4))、「分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する」ものが記載されている(摘記(A-1)の請求項7)。
また、上記「球状粒子(D)」は、「架橋重合体を材料とする球状粒子」を使用することができ(摘記(A-5))、「屈折率が1.51?1.55である」と「特に透明性の優れたハードコート膜を得ることができる」と記載されている(摘記(A-1)の請求項2、摘記(A-7))。
そうすると、刊行物Aには、
「ハードコート膜のベースを形成するものである、分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する化合物(A)と、4級アンモニウム塩基及び(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(B)と、トリシクロデカン骨格及び(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(C)と、平均粒径1?20μmで屈折率が1.51?1.55である架橋重合体を材料とする球状粒子(D)とを含み、前記化合物(A)50?90重量部に対して、前記化合物(B)の配合量が5?25重量部、前記化合物(C)の配合量が5?25重量部、前記球状粒子(D)の配合量が1?50重量部であることを特徴とする防眩性帯電防止ハードコート樹脂組成物からなる透明性に優れたハードコート膜」
の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。

3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「ハードコート膜のベースを形成するものである、分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する化合物(A)」は、「分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する」から、「架橋した合成樹脂」を形成するものであり、上記「架橋した合成樹脂」は、「ハードコート膜のベース」、すなわち、「バインダ」となるから、引用発明の「分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する化合物(A)」によって形成される「ハードコート膜のベース」は、本願発明の「架橋した合成樹脂からなるバインダ」に相当する。
また、引用発明の「平均粒径1?20μmで屈折率が1.51?1.55である架橋重合体を材料とする球状粒子(D)」における、「架橋重合体」は「合成樹脂」であり、「平均粒径1?20μm」の粒子は、通常「微粒子」といえるから、引用発明の「平均粒径1?20μmで屈折率が1.51?1.55である架橋重合体を材料とする球状粒子(D)」は、本願発明の「合成樹脂微粒子」に相当する。
さらに、引用発明の「ハードコート膜」は、「合成樹脂微粒子」である球状粒子(D)が、「架橋した合成樹脂からなるバインダ」であるハードコート膜のベース中に分散した分散膜であるから、引用発明の「ハードコート膜」は、本願発明の「合成樹脂粒子が、架橋した合成樹脂からなるバインダ中に分散した分散膜」に相当する。
そして、引用発明において「ハードコート膜」は、「ハードコート層」を形成しているといえるから、引用発明の「透明性に優れたハードコート膜」は、本願発明の「透明ハードコート層」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は、
「合成樹脂微粒子が、架橋した合成樹脂からなるバインダ中に分散した分散膜からなることを特徴とする透明ハードコート層」
である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点」という。)。
合成樹脂微粒子が、本願発明は、「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する」ものであるのに対して、引用発明は、そのようなものではない点

4.相違点についての判断
刊行物Bには、「(1)屈折率が1.5以上の有機超微粒子を含有し、
(2)該有機超微粒子は多層構造をなし、その最外層が反応性の架橋可能な官能基を有するか若しくは熱可塑性樹脂であり、且つその中心部は架橋が進んだ高架橋体であり、
(3)該有機超微粒子の最外層の架橋又は融着作用と、該有機超微粒子に添加されたバインダー樹脂とにより、成膜されることを特徴とするハード性を有する高屈折率膜」、すなわち、「屈折率が1.5以上の有機超微粒子とバインダー樹脂を含むハード性を有する膜」が記載されており(摘記(B-1))、上記「ハード性を有する膜」は、ディスプレイ上に形成する膜であるから(摘記(B-2))、当然「透明性に優れた膜」であり、また、上記有機超微粒子は、図面(摘記(B-6)?(B-8))からみて、膜の表面に凸凹を形成するための粒子であるといえる。
そして、刊行物Bには、上記有機超微粒子は、「内部は適度な架橋が形成されたコア部となっており、その外部は内部に比べて架橋が進んでいないシェル部となっている」こと(摘記(B-4))、「コア部の架橋度を高くして剛性を持たせることにより、得られる塗膜はハードコートとなる」ことが記載されているところ(摘記(B-5))、架橋度が高いとガラス転移温度は高くなるから、刊行物Bには、「膜の表面に凸凹を形成するための屈折率が1.5以上の有機超微粒子とバインダー樹脂を含む透明性に優れたハード性を有する膜」において、有機超微粒子を、「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する」ものとすることにより、得られる塗膜がハードコートとなることが記載されているといえる。
一方、引用発明の球状粒子(D)も膜の表面に凸凹を形成するためのものであるから(摘記(A-5))、引用発明と刊行物B記載の膜は、「膜の表面に凸凹を形成するための屈折率が1.5以上の合成樹脂微粒子とバインダー樹脂を含む透明性に優れたハード性を有する膜」という点で技術分野が一致するものである。
そして、引用発明も、表面硬度を高くすること、すなわち、よりハードコートとすることを課題とするものである(摘記(A-3))。
以上によれば、刊行物Bに、有機超微粒子を、「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する」ものとすることにより、得られる塗膜がハードコートとなることが記載されていれば、同じく「膜の表面に凸凹を形成するための屈折率が1.5以上の合成樹脂微粒子とバインダー樹脂を含む透明性に優れたハード性を有する膜」である引用発明においても、よりハードコートとするために、合成樹脂微粒子を「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する」ものとすることは、当業者が容易に行うことである。

5.効果について
この出願の発明の詳細な説明の段落【0074】には、「請求項1の発明(審決注:「本願発明」に相当。)によれば、硬度を増すための充填剤としてコアシェル構造を有し、コア部とシェル部のガラス転移温度の関係を規定したものを使用するので、高硬度を有しながらも、透明性が高いハードコート層を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら、引用発明も、「透明性に優れた」ものであり、また、上記4.で述べたように、刊行物Bには、合成樹脂微粒子を「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する」ものとすることにより、得られる塗膜がハードコートとなる、すなわち、「高硬度となる」ことが記載されているから、引用発明において、合成樹脂微粒子を「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する」ものとすると、「高硬度を有しながらも、透明性が高いハードコート層」となることは、刊行物A、Bの記載から、当業者が予測し得るものである。

なお、審判請求人は、平成19年5月7日の意見書及び平成19年12月26日に補正された審判請求書の請求の理由において、この出願の発明の詳細な説明に記載された実施例で使用された樹脂微粒子は、明記されていなくとも、実施例である以上、「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する合成樹脂微粒子」であると主張している(意見書の(7)、請求の理由の【本願発明が特許されるべき理由】の(2))。
仮に、審判請求人の主張するように、実施例において使用された樹脂微粒子が、「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する合成樹脂微粒子」であるとすれば、同じく樹脂微粒子を配合したものである比較例3、4も「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する合成樹脂微粒子」を配合した例、すなわち、本願発明の具体例であるといえるところ、比較例3、4は、透視性(透明性)や引掻強度(硬度)の点で、その他の比較例よりもさらに効果の劣るものであるから、本願発明が、高硬度で透明性が高いものであって、刊行物A、Bの記載からは予測し得ないような優れた効果を奏するものということはできない。

よって、本願発明が、刊行物A、Bの記載からは予測し得ないような優れた効果を奏するものということはできない。

6.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物A、Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

7.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成19年5月7日の意見書において、
「(4)出願当初の明細書に記載したとおり、本願発明(請求項1)において微粒子の添加は、透明性を維持したままで高硬度を得るために行われるものであります。
すなわち、塗膜の光学的特性に影響を与えることなく物理的性質を改善することを主たる目的とするものであります。本願発明(請求項1)は、このような目的を達成するためにコア部により高いTgを有する樹脂粒子を使用するものであります。
これに対して、引用例1においては、防眩性を得るために樹脂粒子が添加されているものであります(引用例1の[0014]参照)。すなわち、ここでの樹脂粒子は表面の凹凸を形成するために添加されているものであり、光学的特性をコントロールするために添加しているものです。
これに対して、本願発明においては光学的特性に対して与える影響を低く保ったままで物理的性質を改善するものですから、引用例とは粒子の添加目的が根本的に相違するものであります。
引用例2(審決注:刊行物Aに相当。)の記載もこのような引用例1の記載と実質的に同一であり、ハードコート層の光学的性質に変化を生じることなく物理的性質を改善することは記載されておりません。
(5)更に、引用例3(審決注:刊行物Bに相当。)及び引用例4におけるコア-シェル型の粒子も同様に、表面の凹凸を形成させることを目的として使用されるものであり、更に高屈折率の層とすることを目的としております。
すなわち、特定の屈折率特性を得るために、ハード性を有するコア-シェル型粒子を使用するものであります。更に、得られたコート層を凹凸形状を有するものとすることによって、反射防止性能を得ることが主たる目的であります。このため、バインダーの使用は少量にとどめることが原則であり、本願の請求項1に記載したような
「合成樹脂微粒子が・・・バインダ中に分散した分散膜からなる」
という状態を満たすものではなく、この点で発明の目的が引用例1とも本願発明とも根本的に相違しております。
(6)すなわち、引用例1,2に記載された発明と引用例3,4に記載された発明とでは発明の構成、目的が根本的に相違しております。引用例3,4において高屈折率膜上に低屈折率膜が形成された構造を得るための高屈折率層のための粒子と記載された粒子を、引用例1,2の防眩性を得るための表面凹凸形成用の粒子にかえて使用することは当業者に容易な事項とは考えられないものであります。
更に、本願発明は上述した引用例1?4のいずれとも異なる目的を達成するためのものですから、この点を考慮すれば、引用例1,2と引用例3,4を組み合わせたとしても本願発明(請求項1)を完成できないことは、明らかであります。
以上より、本願発明は引用例1?4に基づいて当業者が容易にすることができる発明には該当しませんから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明には該当しません。」
と主張している。

そこで、上記主張について検討する。
審判請求人は、上記(4)において、本願発明の合成樹脂微粒子の添加は、透明性を維持したままで高硬度を得るために行われているから、刊行物A記載の合成樹脂微粒子とは添加の目的が異なると主張しているが、刊行物Aには、合成樹脂微粒子を配合すると「擦傷性が向上」し、「透明性の優れたハードコート膜を得ることができる」と記載されているから(摘記(A-6)、(A-7))、刊行物Aに記載された合成樹脂微粒子も、添加することによって、透明性を維持したままで高硬度を得ることができるものということができ、よって、この点において、本願発明と刊行物Aに記載された発明の合成樹脂微粒子の添加の目的が異なるとはいえない。
さらに、審判請求人は、上記(5)において、刊行物B記載の膜は、その表面に凸凹を形成させるものであるから、バインダの使用は少量にとどめることが原則であり、本願発明のように、「合成樹脂微粒子が・・・バインダ中に分散した分散膜からなる」という状態となるものではなく、この点で発明の目的が本願発明とも刊行物Aに記載された発明とも根本的に相違していると主張しているが、刊行物Bには、合成樹脂微粒子はバインダ中に分散し、塗膜中に均一分布していることが記載されているから(摘記(B-3))、刊行物B記載の膜も「合成樹脂微粒子がバインダ中に分散した分散膜からなる」ものということができ、よって、この点において、刊行物B記載の膜と、本願発明や刊行物A記載の発明が異なるものということはできない。
また、審判請求人は、上記(6)において、刊行物Bに記載された高屈折率層のための粒子を、引用発明における防眩性を得るための表面凸凹形成用の粒子にかえて使用することは当業者が容易に行うことではないと主張している。
しかしながら、刊行物Bに記載された粒子が高屈折率層のための粒子であったとしても、引用発明の粒子とは、「透明性に優れたハード性を有する膜」のための粒子であって、「膜の表面に凸凹を形成するための屈折率が1.5以上の合成樹脂微粒子」である点で一致したものであることは、上記4.で述べたとおりである。
したがって、当業者であれば、刊行物Bに、有機超微粒子を「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する」ものとすることにより、得られる塗膜がハードコートとなることが記載されていれば、同じく「膜の表面に凸凹を形成するための屈折率が1.5以上の合成樹脂微粒子とバインダー樹脂を含む透明性に優れたハード性を有する膜」である引用発明においても、合成樹脂微粒子を「コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高いコアシェル構造を有する」ものとして、塗膜をよりハードコートにすることが容易であることは、上記4.で述べたとおりである。
さらに、審判請求人は、上記(6)において、本願発明が刊行物A、Bのいずれとも異なる目的を達成するものであると主張しているが、本願発明の効果が、刊行物A、Bの記載から当業者が予測し得るものであることは、上記5.で述べたとおりであるから、本願発明が刊行物A、Bのいずれとも異なる目的を達成するものであるということはできない。

したがって、審判請求人の主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-09 
結審通知日 2010-08-17 
審決日 2010-08-30 
出願番号 特願2001-385337(P2001-385337)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
井上 千弥子
発明の名称 透明ハードコート層、透明ハードコート材、およびディスプレイ装置  
代理人 安富 康男  

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