• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1225381
審判番号 不服2008-3511  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-14 
確定日 2010-10-14 
事件の表示 特願2002-270240「変圧器と配電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月 8日出願公開,特開2004-111537〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年9月17日の出願であって,平成20年1月4日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年2月14日に審判請求がなされるとともに,同年3月17日付けで手続補正がなされ,その後,当審において平成22年4月13日付けで審尋がなされ,同年6月21日に回答書が提出されるとともに,同年7月1日に上申書が提出されたものである。

第2 平成20年3月17日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年3月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成20年3月17日付けの手続補正 (以下「本件補正」という。)
(1)本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を補正する補正内容を含むものであるところ,補正前後の請求項1の記載は,次のとおりである。

[本件補正前の請求項1]
「【請求項1】鉄心に巻き付けられて系統からの電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて前記系統より低圧の低圧回路に接続される二次巻線とを備え,前記一次巻線は,前記鉄心の軸方向に沿って複数の領域に分巻されてなり,前記各領域に分巻された一次巻線は,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に絶縁物が設けられてなり,前記各領域に分巻された一次巻線を,直列に接続してなることを特徴とする変圧器。」

[本件補正後の請求項1]
「【請求項1】鉄心に巻き付けられて系統からの電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて前記系統より低圧の低圧回路に接続される二次巻線とが絶縁油とともにタンク内に収納されてなり,前記一次巻線は,前記鉄心の軸方向に沿って2つの領域に分巻されてなり,前記各領域に分巻された一次巻線は,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に絶縁物が設けられてなり,前記2つの領域にそれぞれ分巻された一次巻線の巻き始め端子と巻き終わり端子は,それぞれ前記鉄心の軸方向の両端側に位置させて巻回され,一方の一次巻線の巻き終わり端子を他方の一次巻線の巻き始め端子にケーブルを介して接続して,前記2つの一次巻線を直列に接続してなることを特徴とする変圧器。」

(2)本件補正の内容の整理
本件補正によって,補正前の請求項1に「絶縁油とともにタンク内に収納されてなり」との構成を追加し(以下「補正事項1」という。),補正前の請求項1の「複数の領域」を「2つの領域」と限定し(以下「補正事項2」という。),補正前の請求項1に「巻き始め端子と巻き終わり端子は,それぞれ前記鉄心の軸方向の両端側に位置させて巻回され,一方の一次巻線の巻き終わり端子を他方の一次巻線の巻き始め端子にケーブルを介して接続して」との構成を追加して(以下「補正事項3」という。),補正後の請求項1とする補正がなされた。

2 特許法第17条の2第3項について
(1)補正事項1
補正事項1に「絶縁油とともにタンク内に収納されてなり」とあるが,本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)の【0011】には,「各コイル26,28,30は,鉄心24に巻き付けられた状態で,シリコン油とともにタンク32内に収納されている。」と記載されているだけである。
したがって,「シリコン油」を上位概念の「絶縁油」と補正する補正事項1は,本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載がなく,また当初明細書等の記載から自明な事項でもないので,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。

(2)補正事項3
補正事項3に「巻き始め端子と巻き終わり端子は,それぞれ前記鉄心の軸方向の両端側に位置させて巻回され」とあるが,当初明細書には,端子の位置について記載はなく,図3を根拠にして補正しているので,この点について検討する。
図3は,「一次巻線の巻線方法を説明するための図である」(図面の簡単な説明の図3)から,端子の位置をも表す場合もあるかもしれないが,100%必ずしもそうであるとは限らないので,図3が端子の位置をも表す場合であるとは断定できない。
したがって,「巻き始め端子と巻き終わり端子は,それぞれ前記鉄心の軸方向の両端側に位置させて巻回され」と,端子の位置を特定する補正事項3は,当初明細書等に記載がなく,また当初明細書等の記載から自明な事項でもないので,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。
また,仮に,「巻き始め端子と巻き終わり端子は,それぞれ前記鉄心の軸方向の両端側に位置させて巻回され」ることが,図3の記載から自明な事項であるとしても,補正事項3には,コイルが両端側で巻き始め巻き終わることが記載なく,中央で巻き始め巻き終わる場合も含まれることになるが,そのような態様は,当初明細書等に記載がなく,また当初明細書等の記載から自明な事項でもないので,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。

(3)特許法第17条の2第3項についてのまとめ
以上のとおり,上記補正事項1,3を含む本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 特許法第17条の2第4項について
(1)補正事項1
補正事項1は,補正前の請求項1に「絶縁油とともにタンク内に収納されてなり」という新たな事項を付加する補正を含む補正であって,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項のいずれの限定とも認められない。
さらに,補正前は,層間電圧を低減し絶縁物を薄く,その分線径を太くし負荷損失の低減を図ることが課題であったが,「絶縁油とともにタンク内に収納されてなり」という新たな事項については,特に課題について明細書に記載がないが,少なくとも,補正前の上記課題を解決するものでないことは明らかである。
したがって,補正事項1は,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同様。)第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当せず,さらに,特許法第17条の2第4項第1号,第3号,及び第4号に掲げる請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれの事項をも目的とするものではないので,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(2)補正事項3
補正事項3は,補正前の請求項1に「巻き始め端子と巻き終わり端子は,それぞれ前記鉄心の軸方向の両端側に位置させて巻回され,一方の一次巻線の巻き終わり端子を他方の一次巻線の巻き始め端子にケーブルを介して接続して」という新たな事項を付加する補正を含む補正であって,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項のいずれの限定とも認められない。
さらに,補正前は,層間電圧を低減し絶縁物を薄く,その分線径を太くし負荷損失の低減を図ることが課題であったが,「巻き始め端子と巻き終わり端子は,それぞれ前記鉄心の軸方向の両端側に位置させて巻回され,一方の一次巻線の巻き終わり端子を他方の一次巻線の巻き始め端子にケーブルを介して接続して」という新たな事項については,特に課題について明細書に記載がないが,あえて請求人の主張の課題としても,製作が容易,ケーブルの配設径路を任意に選択できるという課題であり,少なくとも,補正前の上記課題を解決するものでないことは明らかである。
したがって,補正事項3は,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当せず,さらに,特許法第17条の2第4項第1号,第3号,及び第4号に掲げる請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれの事項をも目的とするものではないので,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(3)特許法第17条の2第4項についてのまとめ
以上のとおり,上記補正事項1,3を含む本件補正は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4 独立特許要件について
上記したとおり,本件補正は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないが,仮に,補正事項1,3が,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合について,念のため補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)刊行物1の記載と引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された実願昭54-156385号(実開昭56-78326号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)には,「樹脂モールドコイル」(考案の名称)に関して,第1図及び第2図とともに,以下の事項が記載されている。(なお,下線は,引用箇所のうち特に強調する部分に付加したものである。以下同様。)
「第1図は従来の一般的な樹脂モールドコイルを使用した変圧器の断面を示したもので,鉄心1に樹脂でモールドした高圧コイル2および低圧コイル3が同心的に配置され,クッション4,コイル押え5を介してクランプ6で固定され,変圧器を構成している。
一般的に樹脂モールド変圧器コイル,とくに高圧コイル2は,注型樹脂のコイル内への含浸性を向上させるとともに,モールドコイルの耐クラック性を向上させるために,連続的に巻回してなる分割コイル2aを積み重ね,直列に接続することによって,1相分のコイルを形成した後,樹脂7で一体にモールドされている。
第1図に示す高圧コイルでは,4個の分割コイル2aを組立て接続し,口出し線を端子8に導出して,樹脂7で一体にモールドし,高圧コイル2を形成したものである。第2図は上記高圧コイル2を形成する分割コイル2aのコイル断面を拡大して示したもので,コイル導体9を段間紙10を介して,連続的に巻回して分割コイル2aを形成している。
しかし,電流容量の大きいモールド変圧器コイルにおいては,コイル導体9が太くなり,例えば単相200KVA-3KV/210Vの変圧器の高圧コイル導体9は,アルミ平角線を使用すれば,電流密度から考えて3.0×16.0mm程度のサイズの線が使われる。」(1頁16行?3頁4行)
さらに,上記記載も考慮すれば,第1図及び第2図には,「鉄心1に巻き付けられた高圧コイル2と,前記鉄心に巻き付けられた低圧コイル3とが設けられ,前記高圧コイル2は,前記鉄心の軸方向に沿って4つの分割コイル2aに分巻されてなり,前記各分割コイル2aは,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に段間紙10が設けられてなり,一つの分割コイル2aの巻き終わりを次の分割コイル2aの巻き始めに接続して,前記4つの分割コイル2aを直列に接続してなる樹脂モールド変圧器。」が記載されている。

以上によれば,刊行物1には,「鉄心1に巻き付けられた高圧コイル2と,前記鉄心に巻き付けられた低圧コイル3とが設けられ,前記高圧コイル2は,前記鉄心の軸方向に沿って4つの分割コイル2aに分巻されてなり,前記各分割コイル2aは,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に段間紙10が設けられてなり,一つの分割コイル2aの巻き終わりを次の分割コイル2aの巻き始めに接続して,前記4つの分割コイル2aを直列に接続してなる樹脂モールド変圧器。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)本願補正発明と引用発明との対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「高圧コイル2」,「低圧コイル3」,「段間紙10」は,それぞれ,本願補正発明の「一次巻線」,「低圧の低圧回路に接続される二次巻線」,「絶縁物」に相当する。
(b)引用発明の「高圧コイル2」と,本願補正発明の「系統からの電圧を受電する一次巻線」とは,「高電圧を受電する一次巻線」である点で共通する。
(c)引用発明の「鉄心1に巻き付けられた高圧コイル2と,前記鉄心に巻き付けられた低圧コイル3とが設けられ」と,本願補正発明の「鉄心に巻き付けられて系統からの電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて前記系統より低圧の低圧回路に接続される二次巻線とが絶縁油とともにタンク内に収納されてなり」とは,「鉄心に巻き付けられて高電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて低圧の低圧回路に接続される二次巻線とが設けられ」ている点で共通する。
(d)引用発明の「前記高圧コイル2は,前記鉄心の軸方向に沿って4つの分割コイル2aに分巻されて」と,本願補正発明の「前記一次巻線は,前記鉄心の軸方向に沿って2つの領域に分巻されて」とは,「前記一次巻線は,前記鉄心の軸方向に沿って複数の領域に分巻されて」いる点で共通する。
(e)引用発明の「前記各分割コイル2aは,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に段間紙10が設けられてなり」は,本願補正発明の「前記各領域に分巻された一次巻線は,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に絶縁物が設けられてなり」に相当する。
(f)引用発明の「一つの分割コイル2aの巻き終わりを次の分割コイル2aの巻き始めに接続して,前記4つの分割コイル2aを直列に接続してなる」と,本願補正発明の「一方の一次巻線の巻き終わり端子を他方の一次巻線の巻き始め端子にケーブルを介して接続して,前記2つの一次巻線を直列に接続してなる」とは,「一次巻線の巻き終わりを他の一次巻線の巻き始めに接続して,前記複数の一次巻線を直列に接続してなる」点で共通する。

そうすると,両者は,
「鉄心に巻き付けられて高電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて低圧の低圧回路に接続される二次巻線とが設けられ,前記一次巻線は,前記鉄心の軸方向に沿って複数の領域に分巻されてなり,前記各領域に分巻された一次巻線は,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に絶縁物が設けられてなり,一次巻線の巻き終わりを他の一次巻線の巻き始めに接続して,前記複数の一次巻線を直列に接続してなることを特徴とする変圧器。」である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]本願補正発明は,「鉄心に巻き付けられて系統からの電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて前記系統より低圧の低圧回路に接続される二次巻線とが絶縁油とともにタンク内に収納されてな」る油絶縁変圧器であるのに対して,引用発明は,「鉄心1に巻き付けられた高圧コイル2と,前記鉄心に巻き付けられた低圧コイル3とが設けられ」た「樹脂モールド変圧器」である点。
[相違点2]本願補正発明は,「一次巻線は,前記鉄心の軸方向に沿って2つの領域に分巻されて」いるのに対して,引用発明は,「高圧コイル2は,前記鉄心の軸方向に沿って4つの分割コイル2aに分巻されて」いる点。
[相違点3]本願補正発明は,「前記2つの領域にそれぞれ分巻された一次巻線の巻き始め端子と巻き終わり端子は,それぞれ前記鉄心の軸方向の両端側に位置させて巻回され」ているのに対して,引用発明は,そのような構成を備えていない点。
[相違点4]本願補正発明は,「一方の一次巻線の巻き終わり端子を他方の一次巻線の巻き始め端子にケーブルを介して接続して」いるのに対して,引用発明は,「一つの分割コイル2aの巻き終わりを次の分割コイル2aの巻き始めに接続して」いる点。

そこで,上記相違点について検討する。
[相違点1について]
(a)引用発明では,高圧コイル2を4つの分割コイル2aに分割しているが,高圧コイルを分割することにより層間電圧を低減できることは,以下の周知例1?3にも示されるようにかなり以前から周知技術(技術常識)である。
周知例1:特開昭52-50522号公報(「従来から,変圧器の製造において高圧コイルを分割し,高圧コイルの層間電圧を低下させることはすでに行なわれている。すなわち,第1図に示す如く口出し線2を有する高圧コイル1の断面は,通常第2図に示す如く一体となった巻線3と絶縁層4とよりなっている。この一体となった巻線3を第3図の如く巻線31,32,33に分割し,それぞれ絶縁層4を設けて分割コイル11,12,13とし,わたり線5によって電気的に一体となす方法である。このように高圧コイルを分割することにより電圧が分担され,高圧コイルの層間にかかる電圧を低下させることにより,電気的に優れたものにしてきた。乾式変圧器においても高圧コイルを分割する方法は行なわれている。例えば第3図において,導線を巻回し巻線31とした後,適当な金型に巻線を入れ樹脂を真空含浸し硬化させ樹脂包埋コイル11を得る。同様に樹脂包埋コイル12,13を得た後わたり線5を接続し電気的に一体となった高圧コイルを得ている。」(1頁左下欄16行?同頁右下欄14行)及び第1?3図参照。)
周知例2:特開昭52-88726号公報(「第5図において,鉄心1と低圧コイル2と本発明の樹脂モールドコイル群3’,3”で構成した高圧コイル3とで変圧器器体を構成する(図面では内鉄型変圧器で高圧コイルを6分割する方式について示している。)樹脂モールドコイル間は亘り線7’で各々接続されている。ケース4に変圧器器体を収納し高圧外部引出線5がブッシング等6に接続されている。 高圧コイルを6分割することにより第1図に示した従来構造に比べレヤー間電圧を商用周波電圧を印加の場合で1/3にすることができる。そのため樹脂モールドコイル3”のレヤー間絶縁が容易になりレヤー紙を設けなくて第6図に示すように銅やアルミニウムの上にポリエステルあるいはエステルイミド等のエナメル皮膜付のマグネットワイヤー8を従来のようにレヤー絶縁紙を用いなくて巻回してコイルを構成できる。」(2頁右下欄12行?3頁左上欄8行)及び第5図参照。)
周知例3:実願昭62-119117号(実開昭64-24811号)のマイクロフィルム(「その場合,2次巻線8に中?高電圧(例えば数百V?数KV)を発生するものにおいては,耐圧を確保するために,2次巻線8をこの例のように分割巻するのが一般的である。」(2頁2?5行)及び第5図参照。)
(b)そして,油絶縁変圧器は周知であり,この周知の油絶縁変圧器においても,高圧コイルの層間電圧を低減した方が好ましいことは明らかであるから,引用発明の高圧コイルを分割する技術を周知の油絶縁変圧器に適用し,本願補正発明のように,「鉄心に巻き付けられて系統からの電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて前記系統より低圧の低圧回路に接続される二次巻線とが絶縁油とともにタンク内に収納されてな」る油絶縁変圧器とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

[相違点2について]
(a)引用発明は,「高圧コイル2は,前記鉄心の軸方向に沿って4つの分割コイル2aに分巻されて」いるが,これを本願補正発明のように「一次巻線は,前記鉄心の軸方向に沿って2つの領域に分巻」することは,必要な層間電圧の低減程度などに応じて,当業者が適宜なし得たことである。

[相違点3,4について]
(a)引用発明の高圧コイルを分割する技術を周知の油絶縁変圧器に適用するに際して,そのコイルなどの具体的構造に合わせて,分割したコイルをどのように接続するか,端子を設けるか,端子を設ける場合にどこに設けるか,端子間をどのように接続するかといった変更を行うことは,当業者であれば,当然に考慮することであり,適用における設計事項ともいえるものであるから,本願補正発明のように,「前記2つの領域にそれぞれ分巻された一次巻線の巻き始め端子と巻き終わり端子は,それぞれ前記鉄心の軸方向の両端側に位置させて巻回され」,「一方の一次巻線の巻き終わり端子を他方の一次巻線の巻き始め端子にケーブルを介して接続して」いるように構成することに,格別の困難性は認められない。
(b)さらに,相違点3,4の構成による請求人が主張している「製作が容易,ケーブルの配設径路を任意に選択できるという」効果は,明細書には記載されていない。
(c)仮に,請求人が主張している効果は,明細書及び図面から推論できるとしても,明細書及び図面から推論できる程度の効果にすぎず,格別の効果とは認められない。
(d)よって,引用発明の高圧コイルを分割する技術を周知の油絶縁変圧器に適用するに際して,本願補正発明のように,「前記2つの領域にそれぞれ分巻された一次巻線の巻き始め端子と巻き終わり端子は,それぞれ前記鉄心の軸方向の両端側に位置させて巻回され」,「一方の一次巻線の巻き終わり端子を他方の一次巻線の巻き始め端子にケーブルを介して接続して」いるように構成することは,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,本願補正発明は,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)独立特許要件についてのむすび
以上のとおり,請求項1についての補正を含む本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成20年3月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成19年5月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】 鉄心に巻き付けられて系統からの電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて前記系統より低圧の低圧回路に接続される二次巻線とを備え,前記一次巻線は,前記鉄心の軸方向に沿って複数の領域に分巻されてなり,前記各領域に分巻された一次巻線は,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に絶縁物が設けられてなり,前記各領域に分巻された一次巻線を,直列に接続してなることを特徴とする変圧器。」

第4 刊行物1の記載と引用発明
刊行物1の記載と引用発明は,上記「第2 4(1)」で認定したとおりである。

第5 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「高圧コイル2」,「低圧コイル3」,「段間紙10」は,それぞれ,本願発明の「一次巻線」,「低圧の低圧回路に接続される二次巻線」,「絶縁物」に相当する。
(b)引用発明の「高圧コイル2」と,本願発明の「系統からの電圧を受電する一次巻線」とは,「高電圧を受電する一次巻線」である点で共通する。
(c)引用発明の「鉄心1に巻き付けられた高圧コイル2と,前記鉄心に巻き付けられた低圧コイル3とが設けられ」と,本願発明の「鉄心に巻き付けられて系統からの電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて前記系統より低圧の低圧回路に接続される二次巻線とを備え」とは,「鉄心に巻き付けられて高電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて低圧の低圧回路に接続される二次巻線とを備え」ている点で共通する。
(d)引用発明の「前記高圧コイル2は,前記鉄心の軸方向に沿って4つの分割コイル2aに分巻されてなり」は,本願発明の「前記一次巻線は,前記鉄心の軸方向に沿って複数の領域に分巻されてなり」に相当する。
(e)引用発明の「前記各分割コイル2aは,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に段間紙10が設けられてなり」は,本願発明の「前記各領域に分巻された一次巻線は,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に絶縁物が設けられてなり」に相当する。
(f)引用発明の「一つの分割コイル2aの巻き終わりを次の分割コイル2aの巻き始めに接続して,前記4つの分割コイル2aを直列に接続してなる」は,本願発明の「前記各領域に分巻された一次巻線を,直列に接続してなる」に相当する。

そうすると,両者は,
「鉄心に巻き付けられて高電圧を受電する一次巻線と,前記鉄心に巻き付けられて低圧の低圧回路に接続される二次巻線とを備え,前記一次巻線は,前記鉄心の軸方向に沿って複数の領域に分巻されてなり,前記各領域に分巻された一次巻線は,それぞれ前記鉄心に複数積層して巻回され,各層間に絶縁物が設けられてなり,前記各領域に分巻された一次巻線を,直列に接続してなることを特徴とする変圧器。」である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]本願発明は,「系統からの電圧を受電する一次巻線」と「前記系統より低圧の低圧回路に接続される二次巻線とを備え」ているのに対して,引用発明は,「高圧コイル2」と「低圧コイル3とが設けられ」ているが,高圧コイル2が系統からの電圧を受電するとは,明記されていない点。

そこで,上記相違点1について検討する。
(a)刊行物1には,「単相200KVA-3KV/210Vの変圧器」(3頁1行)と記載されているので,引用発明の高圧コイル2は,系統からの電圧を受電する一次巻線と言えるので,相違点1については,本願発明と引用発明は,実質的には相違していない。
(b)仮に,相違しているとしても,以下のとおりである。
(c)引用発明では,高圧コイル2を4つの分割コイル2aに分割しているが,高圧コイルを分割することにより層間電圧を低減できることは,上記周知例1?3にも示されるようにかなり以前から周知技術(技術常識)である。
(d)そして,系統からの電圧を受電する一次巻線を備えた変圧器は周知であり,この周知の変圧器においても,高圧コイルの層間電圧を低減した方が好ましいことは明らかであるから,引用発明の高圧コイルを分割する技術を周知の変圧器に適用し,本願発明のように,「系統からの電圧を受電する一次巻線」と「前記系統より低圧の低圧回路に接続される二次巻線とを備え」た変圧器とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,本願発明は,刊行物1に記載された発明であり,又は,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し,又は,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-16 
結審通知日 2010-08-17 
審決日 2010-08-30 
出願番号 特願2002-270240(P2002-270240)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 57- Z (H01F)
P 1 8・ 55- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 113- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴小池 秀介  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 西脇 博志
高橋 宣博
発明の名称 変圧器と配電装置  
代理人 吉岡 宏嗣  
代理人 吉岡 宏嗣  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ