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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1225545
審判番号 不服2007-31053  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-15 
確定日 2010-10-21 
事件の表示 特願2001-262486「半導体装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月14日出願公開、特開2003- 77832〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年8月30日の出願であって、平成19年4月5日付けの拒絶理由通知に対して、同年6月4日に手続補正書及び意見書が提出されたが、同年10月12日に拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年12月17日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成19年12月17日付けの手続補正について

[補正却下の決定の結論]
平成19年12月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成19年12月17日付けの手続補正のうち、特許請求の範囲に対する補正(以下「本件補正」という)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?36を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?36と補正するものであり、補正前後の請求項1は以下のとおりである。

1-1 補正前の請求項1
「【請求項1】 絶縁性を有する基板上に、結晶性を有するケイ素膜が活性領域として形成された半導体装置であって、
該活性領域は、能動領域と高濃度不純物領域とを有し、
該活性領域は、非晶質ケイ素膜の結晶化を促進する触媒元素を含んでおり、該触媒元素は、該能動領域内における端部近傍では、シリサイド状態として析出することなく、固溶した状態になっており、
前記能動領域内において、前記触媒元素がシリサイド状態として析出することなく、固溶した状態になっている領域の長さが、該能動領域の端部から2μm以上になっていることを特徴とする半導体装置。」

1-2 補正後の請求項1
「【請求項1】 絶縁性を有する基板上に、結晶性を有するケイ素膜が活性領域として形成された半導体装置であって、
該活性領域は、前記ケイ素膜上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極に重なる能動領域と、5族Bから選択された元素が導入された高濃度不純物領域とを有し、
前記活性領域の前記能動領域および前記高濃度不純物領域は、非晶質ケイ素膜の結晶化を促進する触媒元素を含んでおり、該触媒元素は、該能動領域内における端部近傍では、シリサイド状態として析出することなく、固溶した状態になっており、
前記能動領域内において、前記触媒元素がシリサイド状態として析出することなく、固溶した状態になっている領域の長さが、該能動領域の端部から2μm以上になっていることを特徴とする半導体装置。」

2 補正事項の整理
本件補正における補正事項を整理すると、以下のとおりである。

・補正事項1-1
補正前の請求項1の「該活性領域は、能動領域と高濃度不純物領域とを有し」との記載における「能動領域」を、補正後の請求項1の「前記ケイ素膜上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極に重なる能動領域」と補正すること。

・補正事項1-2
補正前の請求項1の「該活性領域は、能動領域と高濃度不純物領域とを有し」との記載における「高濃度不純物領域」を、補正後の請求項1の「5族Bから選択された元素が導入された高濃度不純物領域」と補正すること。

・補正事項1-3
補正前の請求項1の「該活性領域は、非晶質ケイ素膜の結晶化を促進する触媒元素を含んでおり」を、補正後の請求項1の「前記活性領域の前記能動領域および前記高濃度不純物領域は、非晶質ケイ素膜の結晶化を促進する触媒元素を含んでおり」と補正すること。

・補正事項2-1
補正前の請求項16の「該結晶性のケイ素膜の一部の領域に選択的に5族Bから選択された元素を導入し」を、「該結晶性のケイ素膜の一部の領域に選択的に5族Bから選択された元素を、該結晶性のケイ素膜上にゲート電極を介して形成されたゲート電極をマスクとして導入し」と補正すること。

・補正事項2-2
補正前の請求項16の「該結晶性のケイ素膜に含まれる該触媒元素を該5族B元素が導入された領域に移動させるための第2の加熱処理」を、「該結晶性のケイ素膜に含まれる該触媒元素を該5族B元素が導入された高濃度不純物領域に移動させるための第2の加熱処理」と補正すること。

・補正事項2-3
補正前の請求項16の「該結晶性のケイ素膜の5族B元素が導入されていない能動領域となる領域」を、「該結晶性のケイ素膜の5族B元素が導入されず、かつ、前記ゲート電極が形成された領域と重なった能動領域となる領域」と補正すること。

・補正事項3-1
補正前の請求項17の「該結晶性のケイ素膜の一部の領域に選択的に5族Bから選択された元素を導入し」を、「該結晶性のケイ素膜の一部の領域に選択的に5族Bから選択された元素を、該結晶性のケイ素膜上にゲート電極を介して形成されたゲート電極をマスクとして導入し」と補正すること。

・補正事項3-2
補正前の請求項17の「該結晶性のケイ素膜に含まれる該触媒元素を該5族B元素が導入された領域に移動させるための第2の加熱処理」を、「該結晶性のケイ素膜に含まれる該触媒元素を該5族B元素が導入された高濃度不純物領域に移動させるための第2の加熱処理」と補正すること。

・補正事項3-3
補正前の請求項17の「該結晶性のケイ素膜の5族B元素が導入されていない能動領域となる領域」を、「該結晶性のケイ素膜の5族B元素が導入されず、かつ、前記ゲート電極が形成された領域と重なった能動領域となる領域」と補正すること。

・補正事項4
補正前の請求項22の「該基板の基板面を該炉心管方向に向けて配置される」を、「該基板の基板面が該炉心管の管軸方向と直交するように配置される」と補正すること。

3 補正目的の適否、及び新規事項の追加の有無について
(1)補正事項1-1について
補正事項1-1は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「能動領域」に対して、「ケイ素膜上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極に重なる」との技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、「能動領域」が「ケイ素膜上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極に重なる」ことは、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「当初明細書等」という。)の段落【0068】、【0072】、【0144】?【0145】及び図1に記載されているものと認められるから、補正事項1-1は特許法第17条の2第3項(平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。

(2)補正事項1-2について
補正事項1-2は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「高濃度不純物領域」に対して、「5族Bから選択された元素が導入された」との技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、「高濃度不純物領域」が「5族Bから選択された元素が導入された」ものであることは、当初明細書等の段落【0068】、【0072】に記載されているものと認められるから、補正事項1-2は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(3)補正事項1-3について
補正事項1-3は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「該活性領域は、非晶質ケイ素膜の結晶化を促進する触媒元素を含んでおり」に対して、「前記活性領域の前記能動領域および前記高濃度不純物領域は」との技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、活性領域の能動領域及び高濃度不純物領域が非晶質ケイ素膜の結晶化を促進する触媒元素を含んでいることは、当初明細書等の段落【0076】、【0144】?【0148】及び図1、6に記載されているものと認められるから、補正事項1-3は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(4)補正事項2-1について
補正事項2-1は、補正前の請求項16に係る発明の発明特定事項である「該結晶性のケイ素膜の一部の領域に選択的に5族Bから選択された元素を導入し」との工程に対して、「該結晶性のケイ素膜上にゲート電極を介して形成されたゲート電極をマスクとして」(ここで、「ゲート電極を介して」は「ゲート絶縁膜を介して」の誤記であることが明らかであるから、以下ではそのように読み替える。)との技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、前記の工程を「該結晶性のケイ素膜上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極をマスクとして」行うことは、当初明細書等の段落【0141】?【0145】及び図1に記載されているものと認められるから、補正事項2-1は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(5)補正事項2-2について
補正事項2-2は、補正前の請求項16に係る発明の発明特定事項である「5族B元素が導入された領域」に対して、「高濃度不純物領域」との技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、「第2の加熱処理」により「触媒元素」を移動させる領域が「高濃度不純物領域」であることは、当初明細書等の段落【0072】、【0074】?【0078】、【0146】?【0148】及び図1、6に記載されているものと認められるから、補正事項2-2は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(6)補正事項2-3について
補正事項2-3は、補正前の請求項16に係る発明の発明特定事項である「該結晶性のケイ素膜の5族B元素が導入されていない能動領域となる領域」に対して、「ゲート電極が形成された領域と重なった」との技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、「ゲート電極が形成された領域と重なった」領域が「能動領域」であることは、当初明細書等の段落【0068】、【0072】、【0144】?【0145】及び図1に記載されているものと認められるから、補正事項2-3は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(7)補正事項3-1?3-3について
補正事項3-1?3-3の補正内容は、実質的に補正事項2-1?2-3の補正内容と同じである。よって、補正事項3-1?3-3は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、かつ、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(8)補正事項4について
補正事項4は、補正前の請求項22に係る発明の発明特定事項である「基板面を該炉心管方向に向けて」に対し、基板面を向ける方向を「該炉心管の管軸方向と直交するように」と更に限定したものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、基板面の方向が「該炉心管の管軸方向と直交するように」することは、当初明細書等の段落【0112】?【0118】、【0150】及び図8に記載されているものと認められるから、補正事項1-2は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(9)補正目的の適否、及び新規事項の追加の有無についてまとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下で更に検討する。

4 独立特許要件の検討
4-1 本件補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1?36に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?36に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記1-2に記載したとおりのものである。

4-2 引用例に記載された事項と引用発明
本願の出願日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である、特開2000-196095号公報(以下「引用例」という。)には、図1?10とともに、以下の記載がある(下線は当審で付加。以下同じ。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、薄膜トランジスタ(TFT)及びその製造方法に関し、特に活性領域に多結晶シリコンを用いた薄膜トランジスタ及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】活性領域に多結晶シリコンを用いたTFTは、液晶表示装置の各画素のスイッチングのみならず、その周辺駆動回路にも適用することができる。このため、表示部と駆動部とを1枚のガラス基板上に配置することが可能になる。TFTを周辺駆動回路に適用するには、比較的高いキャリア移動度が要求される。また、表示部のTFTには、画素電極の電圧を保持するために、オフ電流の低減が要求される。」

「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の一観点によると、主表面を有する基板と、前記基板の主表面の一部の領域上に形成された多結晶シリコン膜であって、該多結晶シリコン膜に、その面内の第1の方向に沿ってドレイン高濃度領域、ドレイン低濃度領域、チャネル領域、ソース低濃度領域、及びソース高濃度領域がこの順番に画定され、該多結晶シリコン膜中にニッケルが添加され、該ドレイン高濃度領域、ドレイン低濃度領域、ソース低濃度領域、及びソース高濃度領域に、導電性を付与する不純物が添加され、前記ドレイン低濃度領域の前記不純物の濃度が、前記ドレイン高濃度領域のそれよりも低く、前記ソース低濃度領域の前記不純物の濃度が、前記ソース高濃度領域のそれよりも低く、前記ドレイン低濃度領域及びソース低濃度領域のニッケル濃度が、前記チャネル領域、ドレイン高濃度領域、及びソース高濃度領域のそれよりも低い前記多結晶シリコン膜と、前記多結晶シリコン膜の前記チャネル領域上に形成されたゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極とを有する薄膜トランジスタが提供される。
【0012】ソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域内のニッケル濃度が低いため、多結晶シリコン膜中のニッケルに起因するオフ電流の増加を抑制することができる。」

「【0034】光誘起電流の小さかった領域104を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、EDXにより元素分析を行った。その結果、領域104は、結晶性のニッケルシリサイド(NiSi)であることがわかった。低濃度領域100a内にNiSiが形成されると、その部分が電流リークパスになり、オフ電流が増加するものと考えられる。TFTがオフ状態のときには、チャネル領域と低濃度領域100aとの境界領域に大きな電界が発生する。この大きな電界が発生する領域にNiSiの結晶粒が形成されると、特に、オフ電流が大きくなると考えられる。
【0035】次に、図7?図9を参照して、NiSi結晶粒の形成を抑制するための評価実験の結果について説明する。
【0036】図7(A)に示すように、ガラス基板110の表面上に厚さ200nmのSiO_(2) 膜111を形成する。SiO_(2) 膜111の表面上に、厚さ50nmのアモルファスシリコン膜112をプラズマ励起型化学気相成長(PE-CVD)により形成する。シリコン膜112の表面上に、濃度10ppmの酢酸ニッケル水溶液を、スピンコーティングする。温度550℃で4時間の熱処理を行い、シリコン膜112を多結晶化する。結晶化されずアモルファスのまま残された部分を結晶化するために、XeClエキシマレーザを照射する。レーザビームのパルス幅は20nsであり、エネルギ密度は330mJ/cm^(2) である。
【0037】多結晶化したシリコン膜112の上に、厚さ100nmのSiO_(2) パターン113を形成する。SiO_(2) 膜の堆積は、PE-CVDにより行い、エッチングは、CHF_(3) とO_(2) との混合ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)により行う。
【0038】SiO_(2) パターン113をマスクとして、シリコン膜112にリン(P)を注入する。Pの注入は、イオンドーピング法を用いて行う。ドーピングガスはH_(2)で10%に希釈されたPH_(3) 、加速電圧は10kV、ドーズ量はリンイオン換算で1×10^(15)cm^(-2)である。SiO_(2) パターン113で覆われていない領域に、リン添加領域114が形成される。
【0039】図7(B)に示す工程において、窒素雰囲気中で熱処理を行う。シリコン膜112内のNi原子が、Pのゲッタリング作用によりリン添加領域114内に移動する。
【0040】図7(C)に示す工程において、5%に希釈した弗酸水溶液で10分間のエッチングを行う。SiO_(2) パターン113が除去されるとともに、露出したシリコン膜112の表面のうちNiSi結晶粒の形成されている部分にエッチピットが現れる。
【0041】図8は、エッチピットの分布の様子を示す平面図である。リン添加領域114の表面に、多数のエッチピット120が現れている。Pの添加されていない領域のうち、当該領域とリン添加領域114との境界115の近傍領域116の表面には、ほとんどエッチピットが現れない。境界115から遠ざかると、リンの添加されていない領域の表面にもエッチピットが現れる。
【0042】領域116内にエッチピットが現れないのは、PがNiをゲッタリングしたことにより、領域116内のNi濃度が低下し、NiSi結晶粒の形成が抑制されたためと考えられる。領域116の幅LGを、ゲッタリング長と呼ぶこととする。
【0043】図9は、ゲッタリング長LGと、ゲッタリング時の熱処理温度との関係を示す。横軸は、ゲッタリング熱処理の絶対温度をTとしたとき、1000/Tを表し、縦軸は、ゲッタリング長LGを単位「μm」で表す。図中の記号△及び○は、1枚の基板上の異なる場所で測定したゲッタリング長LGを示す。なお、熱処理時間は、2時間とした。ゲッタリング工程の熱処理の温度を高くすると、ゲッタリング長LGが長くなることがわかる。」

「【0044】次に、図1及び図2を参照して、本発明の第1の実施例によるTFTの製造方法を説明する。
【0045】図1(A)に示すように、ガラス基板1の表面上に、CVDにより厚さ200nmのSiO_(2) 膜2を形成する。SiO_(2) 膜2の表面上に、PE-CVDにより厚さ50nmのアモルファスシリコン膜3を形成する。アモルファスシリコン膜3の表面上に、濃度10ppmの酢酸ニッケル水溶液をスピンコートする。温度550℃で4時間の熱処理を行い、アモルファスシリコン膜3を多結晶化する。結晶化されずアモルファスのまま残された部分を結晶化するために、XeClエキシマレーザを照射する。レーザビームのパルス幅は10nsであり、エネルギ密度は330mJ/cm^(2) である。
【0046】図1(B)に示すように、シリコン膜3をパターニングして、ポリシリコン薄膜の活性領域3aを残す。ポリシリコン膜のエッチングは、CF_(4) とO_(2) との混合ガスを用いたRIEにより行う。活性領域3aを覆うように、SiO_(2) 膜2の上にSiO_(2) からなる厚さ120nmのゲート絶縁膜4を形成する。ゲート絶縁膜4の形成は、SiH_(4) とN_(2) Oを用いたPE-CVDにより行う。
【0047】ゲート絶縁膜4の表面のうち、活性領域3aの上方の一部の領域上に、AlSi合金からなる厚さ300nmのゲート電極5を形成する。ゲート電極5のSi濃度は0.2重量%である。AlSi合金膜の堆積は、スパッタリングにより行い、AlSi合金膜のエッチングは、リン酸系のエッチャントを用いて行う。
【0048】図2(A)に示すように、ゲート絶縁膜4をパターニングし、ゲート絶縁膜4aを残す。ゲート絶縁膜4のエッチングは、CHF_(3) とO_(2) との混合ガスを用いたRIEにより行う。ゲート絶縁膜4aは、ゲート電極5の両側に約1μm程度張り出している。ゲート絶縁膜4aの両側には、活性領域3aが張り出している。
【0049】本実施例では、ゲート電極5とゲート絶縁膜4aとの位置合わせを、通常のフォトリソグラフィ技術を用いて行うが、自己整合的に両者の位置合わせを行ってもよい。例えば、特開平8-332602号公報に開示されているAlゲート電極の陽極酸化を利用して、ゲート絶縁膜4aの張り出し部分を自己整合的に形成することができる。
【0050】イオンドーピング法により、活性領域3aのうちゲート絶縁膜4aの両側に張り出した部分にリンイオンを注入する。注入条件は、図7(A)のリン添加領域114へのリンの注入条件と同一である。この条件では、ゲート絶縁膜4aに覆われている部分には、リンイオンが注入されない。
【0051】温度400℃で2時間の熱処理を行う。図9からわかるように、この条件で、約2μmのゲッタリング長LGが得られる。このため、ゲート絶縁膜4aがゲート電極5の両側に張り出している部分の下方の活性領域3a内において、NiSi結晶粒の形成を抑制することができる。また、この熱処理により、注入されているPが活性化し、ゲート絶縁膜4aの両側に、ソース高濃度領域10S及びドレイン高濃度領域10Dが形成される。
【0052】図2(B)に示すように、イオンドーピング法により2回目のリンイオンの注入を行う。このときの加速電圧は70kV、ドーズ量は2×10^(14)cm^(-2)とする。この条件では、ゲート絶縁膜4aのうちゲート電極5の両側に張り出した部分の下方までリンイオンが到達する。エキシマレーザアニールを行い、注入されたPを活性化する。照射レーザビームのパルス幅は20ns、そのエネルギ密度は230mJ/cm^(2) である。ゲート絶縁膜4aのうちゲート電極5の両側に張り出した部分の下方に、ソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11Dが形成される。
【0053】上記第1の実施例では、図2(A)に示すソース高濃度領域10S及びドレイン高濃度領域10Dを形成するためのPの注入を行った後、図2(B)に示すソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11Dを形成するためのPの注入を行う前に、Niのゲッタリングを行う。このとき、ソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11D内のNiが、ソース高濃度領域10S及びドレイン高濃度領域10D内のPによってゲッタリングされる。このため、ソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11D内におけるNiSi結晶粒の形成を抑制することができる。
【0054】オフ電流の増加を抑制するためには、少なくともソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11D内のNiをゲッタリングすることが好ましい。基板内の場所によるゲッタリング長LGのばらつきを考慮すると、ゲッタリング長LGが、ソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11Dの長さの2倍以上となる条件でゲッタリングを行うことが好ましい。
【0055】第1の実施例の場合には、ソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11Dの長さを約1μmとしている。この2倍のゲッタリング長2μmを得るためには、図9から、ゲッタリング条件を、400℃、2時間とすればよいことがわかる。」

(2)以上を整理すると、引用例には以下の事項が記載されている。
(2-1)段落【0011】?【0012】の記載から、引用例には「多結晶シリコン膜中のニッケルに起因するオフ電流の増加を抑制する」との課題を解決する「薄膜トランジスタ」が開示されている。また、段落【0044】?【0055】には、「第1の実施例」として「TFTの製造方法」が記載されているから、引用例には当該製造方法で形成された「TFT」すなわち薄膜トランジスタが開示されているものと認められる。

(2-2)段落【0011】の「主表面を有する基板と、前記基板の主表面の一部の領域上に形成された多結晶シリコン膜であって」との記載、段落【0045】の「図1(A)に示すように、ガラス基板1の表面上に、CVDにより厚さ200nmのSiO_(2) 膜2を形成する。SiO_(2) 膜2の表面上に、PE-CVDにより厚さ50nmのアモルファスシリコン膜3を形成する。アモルファスシリコン膜3の表面上に、濃度10ppmの酢酸ニッケル水溶液をスピンコートする。温度550℃で4時間の熱処理を行い、アモルファスシリコン膜3を多結晶化する。」との記載、及び段落【0046】の「シリコン膜3をパターニングして、ポリシリコン薄膜の活性領域3aを残す。」との記載から、引用例には「ガラス基板上に、アモルファスシリコン膜の表面上に酢酸ニッケル水溶液をスピンコートして熱処理を行い前記アモルファスシリコン膜を多結晶化した多結晶シリコン膜が活性領域として形成された」ことが記載されている。

(2-3)段落【0011】の「該多結晶シリコン膜に、その面内の第1の方向に沿ってドレイン高濃度領域、ドレイン低濃度領域、チャネル領域、ソース低濃度領域、及びソース高濃度領域がこの順番に画定され、該多結晶シリコン膜中にニッケルが添加され、」との記載から、引用例には、「多結晶シリコン膜」が「チャネル領域」と、「ソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域」と「ソース高濃度領域及びドレイン高濃度領域」を有し、前記多結晶シリコン膜の各領域に「ニッケルが添加され」ていることが記載されている。
また、上記(2-2)から、引用例の「多結晶シリコン」は「活性領域として形成されたもの」であるから、引用例には、「活性領域」は「チャネル領域」と、「ソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域」と「ソース高濃度領域及びドレイン高濃度領域」を有し、前記多結晶シリコン膜の各領域に「ニッケルが添加され」ていることが開示されている。

(2-4)段落【0011】の「前記多結晶シリコン膜の前記チャネル領域上に形成されたゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極」との記載から、引用例には「多結晶シリコン膜にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極」が記載されている。

(2-5)段落【0051】の「ゲート絶縁膜4aの両側に、ソース高濃度領域10S及びドレイン高濃度領域10Dが形成される。」との記載、段落【0052】の「ゲート絶縁膜4aのうちゲート電極5の両側に張り出した部分の下方に、ソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11Dが形成される。」との記載、及び、段落【0011】の「該多結晶シリコン膜に、その面内の第1の方向に沿ってドレイン高濃度領域、ドレイン低濃度領域、チャネル領域、ソース低濃度領域、及びソース高濃度領域がこの順番に画定され」との記載から、引用例には「チャネル領域」が「ゲート絶縁膜4aのうちゲート電極の下方」に形成されることが開示されている。

(2-6)段落【0050】?【0051】の「イオンドーピング法により、活性領域3aのうちゲート絶縁膜4aの両側に張り出した部分にリンイオンを注入する。(中略)この熱処理により、注入されているPが活性化し、ゲート絶縁膜4aの両側に、ソース高濃度領域10S及びドレイン高濃度領域10Dが形成される。」との記載から、引用例における「ソース高濃度領域」及び「ドレイン高濃度領域」は、リンが注入された領域であることが記載されている。

(2-7)段落【0034】の「領域104は、結晶性のニッケルシリサイド(NiSi)であることがわかった。低濃度領域100a内にNiSiが形成されると、その部分が電流リークパスになり、オフ電流が増加するものと考えられる」との記載、段落【0041】?【0042】の「Pの添加されていない領域のうち、当該領域とリン添加領域114との境界115の近傍領域116の表面には、ほとんどエッチピットが現れない。領域116内にエッチピットが現れないのは、PがNiをゲッタリングしたことにより、領域116内のNi濃度が低下し、NiSi結晶粒の形成が抑制されたためと考えられる。領域116の幅LGを、ゲッタリング長と呼ぶこととする。」との記載、及び、段落【0054】の「オフ電流の増加を抑制するためには、少なくともソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11D内のNiをゲッタリングすることが好ましい。基板内の場所によるゲッタリング長LGのばらつきを考慮すると、ゲッタリング長LGが、ソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11Dの長さの2倍以上となる条件でゲッタリングを行うことが好ましい。」との記載から、引用例には、「ソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域の2倍以上の長さ」の「ニッケル濃度が低下しニッケルシリサイドの形成が抑制された領域」を形成することが記載されている。
また、段落【0053】の「ソース低濃度領域11S及びドレイン低濃度領域11D内のNiが、ソース高濃度領域10S及びドレイン高濃度領域10D内のPによってゲッタリングされる。」との記載から、前記「ニッケル濃度が低下しニッケルシリサイドの形成が抑制された領域」は、「ソース高濃度領域及びドレイン高濃度領域」の端部から「チャネル領域」方向に「ソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域の2倍以上の長さ」延在していると理解できるから、引用例には、前記「ニッケル濃度が低下しニッケルシリサイドの形成が抑制された領域」が、チャネル領域内において、チャネル領域の端部からソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域の長さ以上の長さになっていることが開示されているといえる。

(3)上記(2)によれば、引用例には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ガラス基板上に、アモルファスシリコン膜の表面上に酢酸ニッケル水溶液をスピンコートして熱処理を行い前記アモルファスシリコン膜を多結晶化した多結晶シリコン膜が活性領域として形成された薄膜トランジスタであって、
該活性領域は、前記多結晶シリコン膜上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極の下方に形成されたチャネル領域と、ソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域と、リンが注入されたソース高濃度領域及びドレイン高濃度領域とを有し、
前記活性領域のチャネル領域と、ソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域と、ソース高濃度領域及びドレイン高濃度領域は、ニッケルが添加されており、該ニッケルは、該チャネル領域内における端部近傍では、ニッケル濃度が低下しニッケルシリサイドの形成が抑制された状態となっており、
前記チャネル領域内において、前記ニッケル濃度が低下しニッケルシリサイドの形成が抑制された状態となっている領域の長さが、該チャネル領域の端部から前記ソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域の長さ以上の長さになっていることを特徴とする薄膜トランジスタ。」

4-3 補正発明と引用発明との対比
補正発明と、引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「ガラス基板」及び「薄膜トランジスタ」は、補正発明における「絶縁性を有する基板」及び「半導体装置」に相当する。

(2)引用発明の「多結晶シリコン膜」は、「アモルファスシリコン膜の表面上に酢酸ニッケル水溶液をスピンコートして熱処理を行い前記アモルファスシリコン膜を多結晶化した」ものであるところ、本願明細書の段落【0009】には、「具体的には、非晶質ケイ素膜の表面に微量のニッケル等の金属元素を導入した後に加熱処理することによって結晶性のケイ素膜とする。」と記載されていることから、引用発明における「多結晶シリコン膜」は、補正発明における「結晶性を有するケイ素膜」に相当するものといえる。

(3)引用発明の「前記多結晶シリコン膜上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極の下方に形成されたチャネル領域」は、補正発明の「前記ケイ素膜上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極に重なる能動領域」に相当する。また、引用発明の「ソース高濃度領域及びドレイン高濃度領域」は、補正発明の「高濃度不純物領域」に相当し、引用発明における「リンが注入された」ことは、補正発明における「5族Bから選択された元素が導入された」ことに相当する。

(4)非晶質シリコンにニッケルを添加し熱処理することで非晶質シリコンを多結晶化する工程において、ニッケルが結晶化を促進する触媒として作用することは、当業者の技術常識であるから、引用発明における「ニッケル」は、補正発明における「非晶質ケイ素の結晶化を促進する触媒元素」に相当する。また、引用発明における「ニッケル濃度が低下しニッケルシリサイドの形成が抑制された状態」は、補正発明における「シリサイド状態として析出することなく、固溶した状態」に相当する。

そうすると、補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「絶縁性を有する基板上に、結晶性を有するケイ素膜が活性領域として形成された半導体装置であって、
該活性領域は、前記ケイ素膜上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極に重なる能動領域と、5族Bから選択された元素が導入された高濃度不純物領域とを有し、
前記活性領域の前記能動領域および前記高濃度不純物領域は、非晶質ケイ素膜の結晶化を促進する触媒元素を含んでおり、該触媒元素は、該能動領域内における端部近傍では、シリサイド状態として析出することなく、固溶した状態になっている、
ことを特徴とする半導体装置」である点。

<相違点>
補正発明では、「前記能動領域内において、前記触媒元素がシリサイド状態として析出することなく、固溶した状態になっている領域の長さが、該能動領域の端部から2μm以上になっている」のに対し、
引用発明では、「前記チャネル領域内において、前記ニッケル濃度が低下しニッケルシリサイドの形成が抑制された状態となっている領域の長さが、該チャネル領域の端部から前記ソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域の長さ以上の長さになっている」が、当該長さが2μm以上となることは特定されていない点。

4-4 相違点についての判断
薄膜トランジスタのソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域の長さを2μm以上とすることは、例えば、以下の周知例にも記載されているように、必要とされる薄膜トランジスタの特性に応じて当業者が普通に行う事項である。

・周知例1:特開平10-163499号公報
本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-163499号公報(以下「周知例1」という。)には、以下の記載がある。
「【0006】この様なオフ電流の問題を解決するために、LDD構造の採用が検討されており、高不純物濃度のソース・ドレイン領域とチャネル領域との間に低不純物濃度のLDD領域を設けることによって、TFTのオフ状態の時のチャネル-ドレイン領域(ソース領域)間の電界を緩和して、リーク電流を低減しようというものである。」
「【0025】この様に、多結晶シリコン膜3に形成するTFTのLDD領域をレジストプロセスを利用して形成しているので、大画面表示の液晶表示装置パネルの場合にも、サイズの大きなLDD領域、例えば、2μm以上の幅のLDD領域を制御性良く形成することができる。」
「【0044】なお、この場合、フォトレジスト29のゲート電極25の側壁における厚さ、即ち、LDD長さは、必要とするLDD領域の長さを考慮して、0.5?5.0μm、例えば、2.0μmになるように設定する。」

・周知例2:特開平11-121757号公報
本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-163499号公報(以下「周知例2」という。)には、以下の記載がある。
「【0025】その結果、図3(h)に示すように、マスク下部領域のゲート電極9直下以外の部分に不純物濃度1×10^(18)/cm^(3) 、幅0.5μm程度のn型LDD層6、7が、マスク下部領域以外の部分に不純物濃度1×10^(20)/cm^(3) 程度のn型ソース層4、n型ドレイン層5がそれぞれ形成される。これらの不純物濃度となるのはドーズ量3×10^(15)/cm^(2) の場合である。またn型LDD層6、7の幅は0.5?10μm程度であれば良い。(以下略)」
「【0033】本実施の形態のMOSFETが図1のMOSFETと異なる点は、n型LDD層6、7の幅を3μm程度と広くした点である。これにより50V程度の耐圧が得られる。」

・周知例3:特開平9-246558号公報
本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-246558号公報(以下「周知例3」という。)には、以下の記載がある。
「【0021】
【発明の実施の形態】前記本発明の薄膜トランジスタによれば、多結晶シリコン薄膜を活性層に有し、チャネル領域とソースおよびドレイン領域との間に低濃度不純物注入量域を有する薄膜トランジスタにおいて、前記薄膜トランジスタ表面の全体を被覆するゲート絶縁膜を備え、かつゲート電極の一部を被覆するように形成され前記ゲート絶縁膜とは異なる材料からなる絶縁膜を低濃度不純物注入領域の不純物注入マスクとして備えたことにより、リーク電流を低減し得るLDD構造を有する薄膜トランジスタを低コストで実現できる。特に、前記低濃度不純物領域がゲート電極の両側に0.5μm以上5μm以下の長さに形成されていると、Off電流を低減する効果が高い。」

したがって、引用発明において、必要とするトランジスタの特性に応じてソース低濃度領域及びドレイン低濃度領域の長さを2μm以上とすることで、引用発明における「チャネル領域内における、前記ニッケル濃度が低下しニッケルシリサイドの形成が抑制された状態となっている領域」(補正発明の「シリサイド状態として析出することなく、固溶した状態になっている領域」に相当。)が、「チャネル領域の端部」(補正発明の「能動領域の端部」に相当。)から2μm以上となるようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。
よって、補正発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4-5 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本件補正は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項をいう。以下同じ。)の規定に適合しない。

5 補正却下の決定のまとめ
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成19年12月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?36に係る発明は、平成19年6月4日付けの手続補正により補正された願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?36に記載された事項により特定されるものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2、1-1に摘記したとおりのものである。
一方、本願の出願日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開2000-196095号公報(引用例)には、上記第2、4-2(3)で認定したとおりの発明(引用発明)が記載されているものと認められる。
そして、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである補正発明が、上記第2、4において検討したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結言
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-24 
結審通知日 2010-08-25 
審決日 2010-09-08 
出願番号 特願2001-262486(P2001-262486)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 小川 将之
近藤 幸浩
発明の名称 半導体装置及びその製造方法  
代理人 安村 高明  
代理人 大塩 竹志  
代理人 山本 秀策  

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