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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1225585
審判番号 不服2009-5867  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-18 
確定日 2010-10-21 
事件の表示 平成11年特許願第227197号「インクジェット記録ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月20日出願公開、特開2001- 47622〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成11年8月11日の出願であって、平成19年9月21日及び同年同月28日に手続補正がなされ、平成21年2月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年3月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

(2)本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成19年9月28日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は次のものである。

「n個(2以上の整数)のノズル孔をノズルピッチP_(O)で列状に配置し、このノズル列と直角方向の幅がtのリニア記録ヘッドモジュールを複数列配置し、記録用紙上に走査ピッチP_(S)の走査線を記録するインクジェット記録ヘッドにおいて、前記リニア記録ヘッドモジュールの幅tを(n-1)A/2<t≦nAとし、かつ前記リニア記録ヘッドモジュールのノズル列を記録ヘッドと記録用紙の相対移動方向となる主走査方向に対してθ=Sin^(-1)(P_(S)/P_(O))に傾けて配置すると共に、このリニア記録ヘッドモジュールを前記主走査方向と垂直な方向に間隔nP_(S)で複数個配置することを特徴とするインクジェット記録ヘッド。但し、A=Ps/Po(Po^(2)-Ps^(2))^(1/2)とする。」(以下「本願発明」という。)

2 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-300645号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている(下線は審決で付した。)。
(1)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、記録液を小滴としてノズルより吐出して記録するインクジェット記録方式に用いられるインクジェット記録ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、微細なノズル孔よりインクを吐出して紙などの記録媒体上に付着させて記録する方法は、インクジェット記録法として知られている。その原理の一つとして、オンデマンド型インクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドと略称する)がある。」

(2)「【0007】一方、サイドシュータ型の記録ヘッドは、ノズル板20と振動板8が平行な構成となっており、圧電素子9の大きさに対応した面積を必要とするため、エッジシュータ型の記録ヘッドに比べて、ヘッド全体を薄型化し難く、紙送り精度の確保が困難で、複数ヘッドを必要とするカラー印字装置においては、その構成をコンパクト化し難い、という欠点をもっている。
【0008】この発明は、上記の両型の記録ヘッドの欠点を解決し、小型化やマルチノズル化が容易であり、インクの吐出特性が優れている記録ヘッドを得ることを目的とする。」

(3)「【0010】更に、インク加圧・供給部材とノズル板とが互いに接着あるいは接合される側の両部材の流路の開口部形状をほぼ同じにする。そして更に、ノズル板のインクノズルの配置を、1つのインク加圧・供給部材に相当するインクノズル列の中心軸がヘッド送り方向に対して傾むくように配置し、紙送り方向での実質的なピッチを1ドット分の整数倍(1を含む)とし、更に、隣り合うインク加圧・供給部材のインクノズルの位置関係を、前段相当のインク加圧・供給部材の最終のインクノズルと、後段相当のインク加圧・供給部材の最初のインクノズルとの紙送り方向での実質的な距離が、前記と同じ1ドット分の整数倍(1を含む)相当として配置し…略…ている。」

(4)「【0012】…略…1つのノズル板に複数(nとする)のインク加圧・供給部材を接着あるいは接合するので、1つのノズル板でn倍のインクノズルをもつことになる。」

(5)「【0018】次に、1つのノズル板20に複数のインク加圧・供給部材100 を搭載してより多くのマルチノズル化をする場合の実施例について、図3を用いて説明する。図2に示した隣り合う流路のピッチは、採用する圧電素子9の大きさによって決まるが、通常2mm程度である。解像度300dpiの場合では、ドットの間隔は85μm弱であり、解像度200dpiの場合でも、ドットの間隔は 127μmである。この実施例では、要求される解像度を実現するために、記録ヘッドのインクノズルの配置をヘッド送り方向に僅かに傾けて(傾け角をθ°とする)配置し、紙送り方向での実質的なピッチcを1ドット分の整数n倍(1を含む)としている。
【0019】すなわち、ノズル板20でのインクノズル21の間隔dと実質的なインクノズルのピッチcと1ドット分の間隔c0とは、次の関係になるよう、傾け角θ°を設定している。
c=nc_(0)=dsinθ
更に、隣り合うインク加圧・供給部材のインクノズルの位置関係においても、前段相当のインク加圧・供給部材100-2 の最終のインクノズル21-2-last と、後段相当のインク加圧・供給部材100-3 の最初のインクノズル21-3-1stとの距離も、c(=nc_(0))としている。」

(6)「【0021】…略…1つのノズル板に複数(nとする)のインク加圧・供給部材を接着あるいは接合するので、1つのノズル板でn倍のインクノズルをもつことになり、コンパクトな記録ヘッドで、より多くのマルチノズル化やカラー化に対応できる。」

(7)図1及び図2の記載も参照すれば、複数のインク加圧・供給部材を接着したノズル板のインクノズルの位置関係を示す概念図である図3の記載から、次のア及びイのことが見て取れる。
ア インクノズル21の間隔がdである、8(以下「m」という。)個のインクノズル21を一列に配置したインクノズル列を有し、該インクノズル列の方向に長く、該インクノズル列に直交する方向に短いほぼ長方形の断面形状を有するインク加圧・供給部材100を、1つのノズル板20にn個(図3では5個見えている。)搭載し、紙送り方向での実質的なインクノズルのピッチcがdsinθ°=cとなるような傾け角θ°に設定して、ヘッド送り方向にθ°傾けて配置し、かつ隣り合うインク加圧・供給部材100-2、100-3のインクノズルの位置が、前段相当のインク加圧・供給部材100-2 の最終のインクノズル21-2-last と、後段相当のインク加圧・供給部材100-3 の最初のインクノズル21-3-1stとの距離もcなる関係にあるように、すなわち、1つのノズル板にn個のインク加圧・供給部材100を紙送り方向でのピッチがm・c(mm)になるように配置していること。
イ インク加圧・供給部材100は、ノズル板20からみたとき、互いに重なることなく配列していること。

(8)上記(4)及び(7)の「n」と上記(5)の「n」を区別するため、上記(4)及び(7)の「n」を「a」とし、上記(5)の「n」を「x」として、x=1の場合に注目すると、上記(1)ないし(7)からみて、引用例には、
「インクを小滴としてノズルより吐出して記録媒体上に付着させて記録するインクジェット記録方式に用いられるインクジェット記録ヘッドにおいて、
サイドシュータ型の記録ヘッドは、ヘッド全体を薄型化し難く、紙送り精度の確保が困難で、複数ヘッドを必要とするカラー印字装置においては、その構成をコンパクト化し難い、という欠点をもっているので、小型化やマルチノズル化が容易である記録ヘッドを得ることを目的として、
m(8を含む)個のインクノズルを間隔dで一列に配置したインクノズル列を有し、該インクノズル列の方向に長く、該インクノズル列に直交する方向に短いほぼ長方形の断面形状を有するインク加圧・供給部材を、1つのノズル板にa個搭載し、ノズル板からみたとき互いに重なることがないように、紙送り方向での実質的なインクノズルのピッチcが紙送り方向での1ドットピッチ分c_(0)の整数x倍(整数x=1)となるような傾け角θ°に設定して、換言するとdsinθ°=c=x・c_(0)として、ヘッド送り方向にθ°傾け、かつ隣り合うインク加圧・供給部材のインクノズルの位置が、前段相当のインク加圧・供給部材の最終のインクノズルと、後段相当のインク加圧・供給部材の最初のインクノズルとの距離もcとなる関係になるように配置し、a個のインク加圧・供給部材の紙送り方向でのピッチがm・cになるようにして、a倍のインクノズルをもつことにより、コンパクトな記録ヘッドで、より多くのマルチノズル化やカラー化に対応できるようにしたインクジェット記録ヘッド。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「m(8を含む)個」、「インクノズル」、「『インクノズル』の『間隔d』」、「一列に配置」、「インクノズル列」、「インクノズル列に直交する方向」、「『インク加圧・供給部材』の『インクノズル列の方向に長く、インクノズル列に直交する方向に短いほぼ長方形の断面形状』の幅」、「『ノズル板』に搭載した『インク加圧・供給部材』及び『ノズル板』のこれに対応する部分」、「a個搭載」、「紙送り方向での1ドットピッチ分c_(0)」、「インクを小滴としてノズルより吐出して記録媒体上に付着させて記録する」、「インクジェット記録ヘッド」、「ヘッド送り方向」、「θ°」、「紙送り方向での実質的なインクノズルのピッチcが紙送り方向での1ドットピッチ分c_(0)の整数x倍(整数x=1)となるような傾け角θ°に設定して、換言するとdsinθ°=c=x・c_(0)として、ヘッド送り方向にθ°傾け」及び「1つのノズル板に『a個』の『インク加圧・供給部材』を『紙送り方向でのピッチ』が『m・c』になるように『配置』」は、それぞれ、本願発明の「n個(2以上の整数)」、「ノズル孔」、「ノズルピッチP_(O)」、「列状に配置」、「ノズル列」、「ノズル列と直角方向」、「リニア記録ヘッドモジュールの幅t」、「リニア記録ヘッドモジュール」、「複数列配置」、「『走査線』の『走査ピッチP_(S)』」、「『記録用紙上』に『記録する』」、「インクジェット記録ヘッド」、「記録ヘッドと記録用紙の相対移動方向となる主走査方向」、「θ」、「θ=Sin^(-1)(P_(S)/P_(O))に傾け」及び「リニア記録ヘッドモジュールを前記主走査方向と垂直な方向に間隔nP_(S)で複数個配置」に相当する。

(2)引用発明の「リニア記録ヘッドモジュール(インク加圧・供給部材及び対応するノズル板部分)」の断面形状は、「ノズル列(インクノズル列)」の方向に長い長方形であるから、引用発明の「インク加圧・供給部材を、1つのノズル板にa個搭載し、ノズル板からみたとき互いに重なることがないように、紙送り方向での実質的なインクノズルのピッチcが紙送り方向での1ドットピッチ分c_(0)の整数x倍(整数x=1)となるような傾け角θ°に設定して、換言するとdsinθ°=c=x・c_(0)として、ヘッド送り方向にθ°傾け、かつ隣り合うインク加圧・供給部材のインクノズルの位置が、前段相当のインク加圧・供給部材の最終のインクノズルと、後段相当のインク加圧・供給部材の最初のインクノズルとの距離もcとなる関係になるように配置し」た点は、本願発明の「リニア記録ヘッドモジュールのノズル列を記録ヘッドと記録用紙の相対移動方向となる主走査方向に対してθ=Sin^(-1)(P_(S)/P_(O))に傾けて配置する」点に相当する。

(3)引用発明において、「リニア記録ヘッドモジュールの幅t(インク加圧・供給部材のインクノズル列の方向に長く、インクノズル列に直交する方向に短いほぼ長方形の断面形状の幅)」及び「複数のインク加圧・供給部材のインクノズル列に直交する方向の配置ピッチ」をそれぞれ「h」及び「g」とすると、引用発明の「h」、「m」、「『c』、『x・c_(0)』及び『c_(0)』」及び「d」は、それぞれ、本願発明の「t」、「n」、「Ps」及び「Po」に相当し、g=m・c/cosθ=(m・c/d)・(d^(2)-c^(2))^(1/2)といえる。ここで、右辺を本願発明の表記に書き換えると、g=(n・Ps/Po)・(Po^(2)-Ps^(2))^(1/2)=nAとなる。
引用発明において、「リニア記録ヘッドモジュール(インク加圧・供給部材及び対応するノズル板部分)」は、ノズル板からみたとき、互いに重なることがないように配列しているから、引用発明のhは、g以下であり、h<g=nAといえる。
したがって、引用発明のh、すなわち引用発明の「リニア記録ヘッドモジュールの幅t」が「t<nA」である点と本願発明の「リニア記録ヘッドモジュールの幅t」が「t≦nA」である点とは「t<nA」である点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明と引用発明とは、
「n個(2以上の整数)のノズル孔をノズルピッチP_(O)で列状に配置し、このノズル列と直角方向の幅がtのリニア記録ヘッドモジュールを複数列配置し、記録用紙上に走査ピッチP_(S)の走査線を記録するインクジェット記録ヘッドにおいて、前記リニア記録ヘッドモジュールの幅tをt<nAとし、かつ前記リニア記録ヘッドモジュールのノズル列を記録ヘッドと記録用紙の相対移動方向となる主走査方向に対してθ=Sin^(-1)(P_(S)/P_(O))に傾けて配置すると共に、このリニア記録ヘッドモジュールを前記主走査方向と垂直な方向に間隔nP_(S)で複数個配置するインクジェット記録ヘッド。但し、A=Ps/Po(Po^(2)-Ps^(2))^(1/2)とする。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
前記リニア記録ヘッドモジュールの幅tが、本願発明では「(n-1)A/2<t」とされているのに対して、引用発明ではそのようになっているかどうか明らかでない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)引用発明は、インクジェット記録ヘッドを容易にマルチノズル化、小型化することを目的とするものであって、1つのノズル板に複数(a個)のインク加圧・供給部材を搭載して、a倍のインクノズルをもつことにより、コンパクトな記録ヘッドで、より多くのマルチノズル化やカラー化に対応できるようにしたものであるから、引用発明において、「前記主走査方向と垂直な方向に間隔nP_(S)で複数個配置」した「リニア記録ヘッドモジュール」は、コストなどを考慮して製造上許容される範囲内で、その断面形状の長辺も短辺もできるだけ短くされ、配置もできるだけ詰めて配置されるように設計すべきものであるところ、その断面形状の長辺は、ノズル列に配列するノズル孔の個数「n」を少なくするほど短くできることは当業者に自明である。

(2)引用発明のノズル列に配列されたノズル孔の個数「n(m)」は、引用例の図3に示されているように8を含むものであるが、引用例の図3に示されている引用発明の「リニア記録ヘッドモジュールの幅t(h)」はほぼ「複数のインク加圧・供給部材のインクノズル列に直交する方向の配置ピッチg」程度あるので、引用例の図3示されている「リニア記録ヘッドモジュール」において、ノズル孔の個数「n(m)」を8から7に変更すると、前段相当のインク加圧・供給部材100-2の最終のインクノズル21-2-lastと、後段相当のインク加圧・供給部材100-3の最初のインクノズル21-3-1stとの距離がcよりも大きくなり、
「隣り合うインク加圧・供給部材のインクノズルの位置が、前段相当のインク加圧・供給部材の最終のインクノズルと、後段相当のインク加圧・供給部材の最初のインクノズルとの距離もcとなる関係になるように配置し、a個のインク加圧・供給部材の紙送り方向でのピッチがm・cになるように」すことができなくなってしまうことは当業者に自明である。

(3)反対に、引用発明において、「ノズル列に配列されたノズル孔の個数n」を1以上減らしても、「リニア記録ヘッドモジュールの幅t(h)」が、「複数のリニア記録ヘッドモジュール」の「ノズル列と直角方向」の配置ピッチg以下にでき、t<g=nAの関係を満足できるもの(引用例の図3に示されているインク加圧・供給部材100の幅が図示のものよりも大幅に狭いもの)であれば、そのリニア記録ヘッドモジュールの配置は、できるだけ詰めて配置されるように設計されたものではないといわざるを得ないから、引用発明を好適に実施したものとはいえない。

(4)上記(1)ないし(3)からして、引用発明において、「t≦(n-1)A」の関係を満足できるようにした場合は、好適でないのであるから、引用発明において、「t>(n-1)A」の関係を満足するようになすことは、当業者が容易に想到し得た程度のことである。
この場合、引用発明の「前記リニア記録ヘッドモジュールの幅t」は、「(n-1)A/2<t」の関係を満足することになるから、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得た程度のことである。

(5)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

(6)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-20 
結審通知日 2010-08-24 
審決日 2010-09-07 
出願番号 特願平11-227197
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 尚桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 鈴木 秀幹
野村 伸雄
発明の名称 インクジェット記録ヘッド  
代理人 武 顕次郎  

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