• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1225617
審判番号 不服2007-21879  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-08 
確定日 2010-10-22 
事件の表示 平成8年特許願第150416号「冷凍機油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成9年12月2日出願公開、特開平9-310086〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成8年5月23日の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成17年 6月 3日付け 拒絶理由通知書
平成17年 8月11日 意見書・手続補正書
平成19年 6月27日付け 拒絶査定
平成19年 8月 8日 審判請求書
平成19年 8月28日 手続補正書
平成19年 8月28日 手続補正書(方式)
平成20年 2月18日付け 前置報告書
平成22年 3月19日付け 審尋
平成22年 5月24日 回答書

第2 平成19年8月28日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年8月28日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.平成19年8月28日付け手続補正の内容
平成19年8月28日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲である
「【請求項1】水分100ppm以下のポリオールエステルを基油とし、基油に対して、a.アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネートを0.1?5.0質量%、及びb.エポキシ化合物(但し塩素濃度が1.0質量%以下の芳香族カルボン酸グリシジルエステルを除く)を0.2?3.0質量%配合して、高い耐摩耗性及び熱・化学的安定性並びにスラッジの生成を抑制した構成であることを特徴とする、ハイドロフルオロカーボンを冷媒とする圧縮機用の冷凍機油組成物(但しリン酸エステルを1.0質量%以上含む場合を除く)。」

「【請求項1】水分100ppm以下のポリオールエステルを基油とし、基油に対して、a.アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネートを0.1?5.0質量%、及びb.エポキシ化合物(但し塩素濃度が1.0質量%以下の芳香族カルボン酸グリシジルエステルを除く)を0.2?3.0質量%配合して、高い耐摩耗性及び熱・化学的安定性並びにスラッジの生成を抑制した構成であることを特徴とする、ハイドロフルオロカーボンを冷媒とする圧縮機用の冷凍機油組成物(但しリン酸エステルを0.5質量%以上含む場合、及びリン酸エステルを含まずにアリールホスフォロチオネートとしてトリフェニルホスフォロチオネートを用い且つHFC-134aを冷媒とする冷凍機に用いられる場合を除く)。」
とする補正を含むものである。

2.補正の目的の適否
上記請求項1についての補正は、(i)「リン酸エステルを1.0質量%以上含む場合を除く」ものであったのを「リン酸エステルを0.5質量%以上含む場合を除く」ものとし、(ii)新たに、「リン酸エステルを含まずにアリールホスフォロチオネートとしてトリフェニルホスフォロチオネートを用い且つHFC-134aを冷媒とする冷凍機に用いられる場合を除く」ものとする補正であって、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討すると、以下のとおり、本願補正発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(1)刊行物及び記載事項
この出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記刊行物A?Fには、次の事項が記載されている。

刊行物A:特開平6-330061号公報
(原査定で引用された「引用例1」と同じ。)
刊行物B:特開平6-128577号公報
(原査定で引用された「引用例3」と同じ。)
刊行物C:特開平7-139486号公報
刊行物D:特開平4-225095号公報
刊行物E:特開平6-9978号公報

ア.刊行物A

(A-1)「【請求項1】 ペンタエリスリトールとカルボン酸とのエステルを主成分とする冷凍機油であって、該カルボン酸が3,5,5-トリメチルヘキサン酸とC_(6) ?C_(8)の直鎖又は分枝脂肪酸との混合カルボン酸であり、該混合カルボン酸中の3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合割合が60モル%以上であることを特徴とする冷凍機油。」(特許請求の範囲)

(A-2)「本発明は、非塩素系弗素含有冷媒を使用する冷凍機に使用される冷凍機油に関し、特に大型空調設備、ルームエアコン用の冷凍機油に関する。」(段落【0001】)

(A-3)「本発明は、R134a等の非塩素系弗素含有冷媒を使用する冷凍機油であって、特に非塩素系弗素含有冷媒との相溶性、電気絶縁性を維持しつつ、低温で結晶化せず、取り扱い性のよい冷凍機油の提供を課題とする。」(段落【0004】)

(A-4)「次に、本発明の冷凍機油には、酸化防止剤、腐食防止剤、摩耗防止剤、消泡剤、金属不活性化剤、防錆剤、安定剤等が添加されるとよい。」(段落【0012】)

(A-5)「摩耗防止剤としては、一般式(RO)_(3)P=S(式中Rはアルキル基、アリル基、フェニル基であり、同一又は異種でもよい。)で示され、具体的にはトリアルキルフォスフォロチオネート、トリフェニルフォスフォロチオネート、アルキルジアリルフォスフォロチオネート等の硫黄系摩耗防止剤、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ジn-ブチルスルフィド、ジ-n-ブチルジスルフィド、ジ-tert-ドデシルジスルフィド、ジ-tert-ドデシルトリスルフィド等のスルフィド類、スルファライズドスパームオイル、スルファライズドジペンテン等の硫化油脂類、キサンチックジサルファイド等のチオカーボネート類、一級アルキルチオ燐酸亜鉛、二級アルキルチオ燐酸亜鉛、アルキル-アリルチオ燐酸亜鉛、アリルチオ燐酸亜鉛等のチオ燐酸亜鉛系摩耗防止剤等を使用することができる。」(段落【0014】)

(A-6)「上記の摩耗防止剤の使用割合は、エステル油に対して0.01?5重量%、好ましくは0.1?3重量%使用するとよい。」(段落【0015】)

(A-7)「安定剤としては、フェニルグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル、またはアルカノール、ビスフェノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリアルキレングリコール、グリセリン等のアルコールやポリオールとエピクロロヒドリンとの縮合物であるグリシジルエーテル、芳香族カルボン酸グリシジルエステル、脂肪酸とエピクロロヒドリンとの縮合物であるグリシジルエステル、スチレンオキシド等の二重結合に酸素を付加して形成されるエポキシ化合物等が例示でき、基油に対して0.05重量%?20重量%の割合で使用される。」(段落【0019】)

(A-8)「【実施例2】
(試料油5)ペンタエリスリトール1モルと、3,5,5-トリメルヘキサン酸60重量%、2-エチルヘキサン酸40重量%からなる混合酸6モルとを、通常のエステル化反応〔触媒Ti(OC_(4)H_(9))_(4)〕をさせ、得られた生成物に水酸化カリウムを56gを添加して触媒を中和した後、蒸留水により水洗して精製し、エステル油を調製した。このエステル油に、添加剤として安息香酸グリシジルエステルを3重量%、2,6-ジ-t-ブチルフェノールを0.5重量%、トリクレジルフォスフェートを1.3重量%の含有量となるように添加し、試料油5を調製した。」(段落【0033】)

(A-9)「この試料油5、比較油8について上記同様に40℃、100℃での粘度、R134a冷媒との相溶性、体積抵抗率(Ω・cm)、低温流動性を測定した。」(段落【0034】)

(A-10)「(酸化安定性)内容積350mlの鉄製容器に、上述の試料油5または比較油1、8を250ml、触媒として銅線、アルミニウム線、鉄線(いずれも内径8mm、長さ30mm)を各1本、更に水1000ppm、冷媒としてフロン134aを40g、空気100mlをそれぞれ入れ、175℃で20日間加熱した後、油を取り出し、JIS K 2501の中和価試験法により全酸価(mgKOH/g)を測定した。その結果を表4に示す。
【表4】

」(段落【0046】?【0047】)

イ.刊行物B

(B-1)「【請求項1】 ナトリウム及び/又はカリウム濃度が0.1ppm以下のエステル油からなる冷凍機油組成物。」(特許請求の範囲)

(B-2)「他方、近年の冷凍機の高効率化に伴って、冷凍機油の熱安定性が求められ、その面でも熱安定性に優れるエステル油が用いられるようになっている。しかしながら、エステル油は系中に水分があると加水分解を受けやすいという問題がある。」(段落【0003】)

(B-3)「本発明は、R134a等の非塩素系弗素含有冷媒を使用する冷凍機油組成物であって、特に加水分解安定性、絶縁性に優れる冷凍機油組成物の提供を課題とする。」(段落【0004】)

(B-4)「本発明におけるエステル油としては、ポリオールエステル類、多価カルボン酸エステル類、フマル酸エステルオリゴマー、炭酸エステル類、ヒドロキシビバリン酸エステル類及びそれらの組合せのエステル油が挙げられる。」(段落【0006】)

(B-5)「まず、上述したポリオールポリエステル類は、一般にアルコール類と脂肪酸類とを酸触媒、例えば燐酸の存在下エステル化反応させて得られるが、このような調製法によると全酸価が0.1?0.5mgKOH/g、灰分(ナトリウム分、カリウム分、鉄分、チタン分、硅素分等)が5?50ppm、水分が300?1000ppmのものが得られる。」(段落【0047】)

(B-6)「冷凍機油において酸価が高いと金属部分に腐食等の問題を生じ、更に冷凍機油自体が加水分解されることにより、冷凍機油としての機能が低下し、また絶縁性が低下する。そのため、冷凍機油として全酸価を0.1mgKOH/g未満とするとよく、また水分量は500ppm以下、好ましくは100ppm以下とするとよい。」(段落【0059】)

ウ.刊行物C

(C-1)「そして、本発明者らは冷媒としてR134aと冷凍機油としてポリオールエステル系油とを組合わせて冷媒圧縮機に使用すべく研究を重ねた結果、上記問題の他に、ポリオールエステル系油は、水分の影響により加水分解を起こして全酸化が上昇し、金属石鹸が生成されてスラッジとなり、冷凍サイクルに悪影響を与えたり、酸素や塩素の影響により、分解、酸化劣化、重合反応が起こり、金属石鹸や高分子スラッジが生成されて冷凍サイクルに悪影響を与えることをつきとめた。」(段落【0005】)

エ.刊行物D

(D-1)「【請求項1】 1,1,1,2-テトラフルオロエタン冷媒を用いた冷媒回路を有する圧縮機,蒸発器,凝縮器を配置し、前記圧縮機の潤滑に粘度が2?8cst(at100℃)を有する炭素数8以下、2価以上の多価アルコール1種類以上と、炭素数5?8の直鎖又は分岐の1価脂肪酸1種類以上とを反応主成させたエステルを主成分とする潤滑油を用いたことを特徴とする冷蔵庫用冷凍装置。」(特許請求の範囲)

(D-2)「図2に見られるとおり、潤滑油中の水分量が潤滑油の飽和溶解水分量以下では、全酸価および体積抵抗値共にあまり変化がなく(劣化していないことがわかった。これは潤滑油中の水分が飽和溶解量をこえると、加速度的に潤滑油成分であるエステルと水分が反応(加水分解)するので、冷凍サイクル内では全水分量の飽和が、潤滑油の飽和溶解水分量以下にこなければならいないことである。
(…中略…)
そこで本発明による前記潤滑油10の飽和溶解水分量以下による実施手段として、圧縮機5を含む冷凍装置内部の水分量を560ppm以下に真空強制脱気し、なお、前記潤滑油10中の溶解水分量と80ppm以下に乾燥脱気して冷蔵庫実機運転を行った結果、1ヶ月経過後も何ら異常がなく、実用上長期間にわたって十分供することができるといえる。」(段落【0022】?【0023】)

オ.刊行物E

(E-1)「【請求項1】
A)(a) 炭素数2?10の脂肪族2価アルコールと、(b) 炭素数4?9の分岐鎖の飽和脂肪族モノカルボン酸又はその誘導体(c) 炭素数4?6の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体とから得られるエステル、及び
B)(a) 炭素数2?10の脂肪族2価アルコールと、(d) 炭素数3?10の分岐鎖の飽和脂肪族1価アルコールと、(c) 炭素数4?6の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体とから得られるエステルからなる群より選ばれた一種以上のエステルを基油とする冷凍機油及びジフルオロメタンを含有する冷凍機作動流体用組成物。」(特許請求の範囲)

(E-2)「実施例2
表3に示した本発明品○1(審決注:○の中に1。)?○9(審決注:○の中に9。)について熱安定性を調べるために以下に示す条件でシールドチューブ試験を行った。すなわち、予め水分濃度を10ppm以下、酸価を0.01mgKOH/g以下に調製した本発明に用いられるエステル10g、及びジフルオロメタン(HFC32)あるいはジフルオロメタンと1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)の混合冷媒5gをガラス管に取り、触媒として鉄、銅、アルミニウムを加えて封管した。175℃で14日間試験した後、本発明品の外観及び析出物の有無を調べた。その結果を表5に示す。表5から明らかなように、本発明品はいづれも外観は良好で析出物も無く、熱安定性は良好である。」(段落【0035】)

(2)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、「ペンタエリスリトールとカルボン酸とのエステルを主成分とする冷凍機油であって、該カルボン酸が3,5,5-トリメチルヘキサン酸とC_(6) ?C_(8)の直鎖又は分枝脂肪酸との混合カルボン酸であり、該混合カルボン酸中の3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合割合が60モル%以上であることを特徴とする冷凍機油」が記載され(摘記(A-1))、該冷凍機油は、冷媒として「非塩素系弗素含有冷媒を使用する」ものであり(摘記(A-2))、添加剤として「安息香酸グリシジルエステル」を配合した例が記載されている(摘記(A-8)の試験油5)。
そうすると、刊行物Aには、
「ペンタエリスリトールとカルボン酸とのエステルを主成分とする冷凍機油であって、該カルボン酸が3,5,5-トリメチルヘキサン酸とC_(6) ?C_(8)の直鎖又は分枝脂肪酸との混合カルボン酸であり、該混合カルボン酸中の3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合割合が60モル%以上であり、安息香酸グリシジルエステルを配合した、非塩素系弗素含有冷媒を使用する冷凍機油」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)本願補正発明と引用発明の対比
本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「カルボン酸が3,5,5-トリメチルヘキサン酸とC_(6) ?C_(8)の直鎖又は分枝脂肪酸との混合カルボン酸であり、該混合カルボン酸中の3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合割合が60モル%以上」である「ペンタエリスリトールとカルボン酸とのエステル」は、ペンタエリスリトールがポリオールであるから、ポリオールエステルであって、本願補正発明の「ポリオールエステル」に相当する。
そして、引用発明は、上記エステルを主成分とする冷凍機油であるところ、主成分のエステルは基油であることが明らかであるから、引用発明における、「エステルを主成分とする冷凍機油」は、本願補正発明における、「ポリオールエステルを基油とし」た冷凍機油組成物に相当する。
さらに、引用発明の「安息香酸グリシジルエステル」は「エポキシ化合物」であり、また、塩素濃度を低減するための操作を特に行っているものではないから、「塩素濃度が1.0質量%以下の芳香族カルボン酸グリシジルエステル」とは異なるものである。
そうすると、引用発明の「安息香酸グリシジルエステル」は、本願補正発明の「b.エポキシ化合物(但し塩素濃度が1.0質量%以下の芳香族カルボン酸グリシジルエステルを除く)」に相当する。
そして、引用発明の「非塩素系弗素含有冷媒」は、本願補正発明の「ハイドロフルオロカーボン」冷媒に相当し、「冷凍機油」とは通常「圧縮機用の冷凍機油」であるから、引用発明の「非塩素系弗素含有冷媒を使用する冷凍機油」は、本願補正発明の「ハイドロフルオロカーボンを冷媒とする圧縮機用の冷凍機油組成物」に相当する。
また、引用発明は、本願補正発明の「リン酸エステルを0.5質量%以上含む場合」、及び、「リン酸エステルを含まずにアリールホスフォロチオネートとしてトリフェニルホスフォロチオネートを用い且つHFC-134aを冷媒とする冷凍機に用いられる場合」のいずれにも該当するものではない。
以上によれば、本願補正発明と引用発明は、
「ポリオールエステルを基油とし、b.エポキシ化合物(但し塩素濃度が1.0質量%以下の芳香族カルボン酸グリシジルエステルを除く)を配合したことを特徴とする、ハイドロフルオロカーボンを冷媒とする圧縮機用の冷凍機油組成物(但しリン酸エステルを0.5質量%以上含む場合、及びリン酸エステルを含まずにアリールホスフォロチオネートとしてトリフェニルホスフォロチオネートを用い且つHFC-134aを冷媒とする冷凍機に用いられる場合を除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点1」?「相違点4」という。)。

(相違点1)ポリオールエステルの水分量が、本願補正発明では100ppm以下であるのに対し、引用発明では明らかでない点

(相違点2)本願補正発明は、「基油に対して、a.アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネートを0.1?5.0質量%」配合したものであるのに対し、引用発明は、そのようなものではない点

(相違点3)エポキシ化合物の配合量が、本願補正発明では、「基油に対して、0.2?3.0質量%」であるのに対し、引用発明では明らかでない点

(相違点4)本願補正発明は、「高い耐摩耗性及び熱・化学的安定性並びにスラッジの生成を抑制した構成」であるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか明らかでない点

(4)相違点1についての判断
刊行物Bには、「エステル油からなる冷凍機油組成物」が記載され(摘記(B-1))、エステル油としては、「ポリオールエステル類」が挙げられること(摘記(B-4))、使用する冷媒は「非塩素系弗素含有冷媒」であること(摘記(B-3))が記載されているから、刊行物Bには、「ポリオールエステルを基油とし非塩素系弗素含有冷媒を使用する冷凍機油」が記載されているといえる。
そして、刊行物Bには、エステル油は、「系中に水分があると加水分解を受けやすいという問題がある」こと(摘記(B-2))、一般的なエステル化反応により調製すると、水分300?1000ppmのポリオールエステル油が得られるが(摘記(B-5))、「冷凍機油自体が加水分解されることにより、冷凍機油としての機能が低下し、また絶縁性が低下する」ことを防ぐために、冷凍機油の水分量は100ppm以下とするとよいことが記載されている(摘記(B-6))。
一方、引用発明は、「ポリオールエステルを基油とし非塩素系弗素含有冷媒を使用する冷凍機油」である点で、上記刊行物Bに記載された冷凍機油とは技術分野が一致するものであるところ、引用発明においても電気絶縁性の維持は課題とされており(摘記(A-3))、冷凍機油としての機能が低下するのを防ぐことも当然要求される課題である。
そうすると、引用発明において、ポリオールエステルが加水分解することにより、冷凍機油としての機能が低下し、絶縁性が低下するのを防ぐことを目的として、ポリオールエステルの水分量を100ppm以下とすることは、当業者が容易に行うことである。

(5)相違点2についての判断
刊行物Aには、冷凍機油には、摩耗防止剤が添加されるとよいこと(摘記(A-4))、摩耗防止剤としては、「一般式(RO)_(3)P=S(式中Rはアルキル基、アリル基、フェニル基であり、同一又は異種でもよい。)で示され、具体的にはトリアルキルフォスフォロチオネート、トリフェニルフォスフォロチオネート、アルキルジアリルフォスフォロチオネート等の硫黄系摩耗防止剤」(摘記(A-5))、すなわち、「アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネート」が使用できること、その配合量は、「エステル油に対して0.01?5重量%、好ましくは0.1?3重量%」(摘記(A-6))、すなわち、「基油に対して、0.1?5.0質量%」であることが記載されているから、引用発明において、摩耗防止剤として、「アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネート」を、「基油に対して0.1?5.0質量%」配合することは、当業者が容易に行うことである。

(6)相違点3についての判断
刊行物Aには、エポキシ化合物は安定剤であること、その配合量は「基油に対して0.05重量%?20重量%」であることが記載されている(摘記(A-7))。
そうすると、引用発明において、エポキシ化合物の配合量を、安定剤としての効果を奏するのに必要十分な量とすることは、当業者が通常行うことであるから、「基油に対して0.05重量%?20重量%」をより最適化し、「基油に対して、0.2?3.0質量%」程度とすることは、当業者が容易に行うことである。

(7)相違点4についての判断
上記(5)で述べたように、「アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネート」は摩耗防止剤であるから、これを配合すると「高い耐摩耗性」が得られることは当業者に自明である。
そうすると、引用発明において、「アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネート」を「基油に対して、0.1?5.0質量%」配合したものは、「高い耐摩耗性」が得られる構成であるといえる。
また、刊行物Aには、引用発明が175℃で20日間加熱した後も酸化安定性に優れたものであることが記載されているから(摘記(A-10))、引用発明は、「熱・化学的安定性」に優れた構成であるといえる。
さらに、上記(4)で述べたように、ポリオールエステルの水分量を100ppm以下とすることにより、ポリオールエステルの加水分解が抑制されるものであるところ、ポリオールエステルの加水分解が抑制されると、スラッジの生成が抑制されることは、当業者に自明であるから(摘記(C-1)参照。)、引用発明において、ポリオールエステルの水分量を100ppm以下としたものは、加水分解が抑制されることにより、「スラッジの生成を抑制した」構成であるといえる。
以上によれば、引用発明において、アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネートを基油に対して0.1?5.0質量%配合し、ポリオールエステルの水分量を100ppm以下としたものは、「高い耐摩耗性及び熱・化学的安定性並びにスラッジの生成を抑制した構成」であるといえる。

(8)効果について
この出願の発明の詳細な説明の段落【0053】には、本願補正発明の効果について、「ポリオールエステル(エステル系合成油)の長所である電気絶縁性、HFC系冷媒との相溶性、低吸湿性などの特長を生かしつつ、アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネート、及びエポキシ化合物をそれぞれ最適割合で配合することによって、ポリオールエステルの欠点である潤滑性不足とスラッジの生成を解決した。
本発明は、優れた耐摩耗性、熱・化学的安定性を示すため、圧縮機のタイプがレシプロ型、スクロール型、ロータリ型その他のいずれのタイプであっても使用できる。」と記載されている。
しかしながら、上記(7)で述べたように、引用発明において、アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネートを基油に対して0.1?5.0質量%配合し、ポリオールエステルの水分量を100ppm以下としたものは、「高い耐摩耗性及び熱・化学的安定性並びにスラッジの生成を抑制した構成」であるといえるから、上記本願補正発明の効果は、いずれも、刊行物A、Bの記載及び当業者の技術常識から予測し得る程度のものである。

(9)審判請求人の主張
審判請求人は、平成17年8月11日の意見書の「2.3拒絶理由Bについて」において、以下の主張をしている。
「即ち、貴指摘の通り、確かに[0059](審決注:摘記(B-6)に相当。)には「冷凍機油として、・・水分100質量ppm以下とするとよい。」と記載がありますが、[0047](審決注:摘記(B-5)に相当。)のポリオールエステルの項では、水分が300?1000ppmのものが得られるとの記載であり、実施例でもエステルを水洗して精製しており、水分を除去する記載はされていませんので、残存水分は無視できないレベルにあると推認できます。
これは、引用文献8の実施例のように、脱水処理をしていても、多くは100ppmを超えるものであることからも、首肯できることです。
このように引用文献3(審決注:「刊行物B」に相当。)においては、ポリオールエステルの水分は実質的に300?1000ppmのものしか開示されていないものと認められます。
特に注目すべき点は、本願課題ないし機能が、前述の通り、高い耐摩耗性及び熱・化学的安定性並びにスラッジの生成を抑制する点であるのに対し、引用文献3のそれは、[0059]の記載
『[作用及び発明の効果]
冷凍機油において酸価が高いと金属部分に腐食等の問題を生じ、更に冷凍機油自体が加水分解されることにより、冷凍機油としての機能が低下し、また絶縁性が低下する。そのため、冷凍機油として全酸価を0.1mg KOH/g未満とするとよく、また水分量は500ppm以下、好ましくは100ppm以下とするとよい。』
という記載から、絶縁性の低下を抑制する点である、という相違点から、引用文献3には本願課題解決のために水分を100ppm以下とすることは開示も示唆もされていない、ということです。」

さらに、平成19年8月28日に補正された審判請求書の請求の理由「2-3-1(A)理由2-Bについて」において、比較実験例を挙げて、ポリオールエステルの水分量を90ppmとしたものは、200ppmである比較例よりも、熱・化学的安定性試験において優れた効果を奏するから、本願補正発明の効果は、熱・化学的安定性の点で格別優れたものであると主張している。

そこで、上記主張について検討する。
審判請求人の主張するように、刊行物Bの摘記(B-5)には、ポリオールエステルを一般のエステル化反応により調製すると、水分300?1000ppmとなることが記載され、実施例においても水分100ppm以下としたことは記載されていないものの、上記(4)で述べたように、摘記(B-6)に、「冷凍機油自体が加水分解されることにより、冷凍機油としての機能が低下し、また絶縁性が低下する」こと、そのため、冷凍機油の水分量は100ppm以下とするとよいことが記載されていれば、一般のエステル化反応により調製された水分300?1000ppmのポリオールエステルについて、その水分量を100ppm以下とすることは、当業者が容易に行うことである。
そして、審判請求人は、脱水処理をしても、多くは100ppmを超えると主張しているが、例えば、刊行物Dには、水分量を80ppm以下として実機試験を行ったことが記載され(摘記(D-2))、刊行物Eには、水分量を10ppm以下としてシールドチューブ試験を行ったことが記載されているから(摘記(E-2))、当業者であれば、脱水処理等の手段により、ポリオールエステルの水分量を100ppm以下にすることができるというべきである。
さらに、審判請求人は、刊行物Bには、ポリオールエステルの水分量を100ppm以下とする目的は、絶縁性の低下を抑制することであると記載されているから、本願補正発明とは課題が異なると主張しているが、刊行物Bには、加水分解によって、絶縁性の低下のみならず、冷凍機油としての機能が低下することについても記載されている(摘記(B-6))。
そして、引用発明の課題として、電気絶縁性の低下、及び、冷凍機油としての機能の低下を防ぐことが挙げられること、そのため、引用発明において、ポリオールエステルの水分量を100ppm以下とすることは、当業者が容易に行うことであることは、上記(4)で述べたとおりである。
また、上記(7)で述べたように、ポリオールエステルの水分量を100ppm以下とすることにより、加水分解が抑制され、スラッジの生成が抑制される、すなわち、熱・化学的に安定なものとなることは、当業者に自明であるから、上記比較実験例により示される効果は、当業者の技術常識から予測し得るものである。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張はいずれも採用できない。

(10)独立特許要件についてのまとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物A、Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4.まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものである。
したがって、その余のことを検討するまでもなく、この補正を含む本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明

1.本願発明
平成19年8月28日付け手続補正(本件補正)は上記のとおり却下されたから、この出願の発明は、平成17年8月11日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。
「水分100ppm以下のポリオールエステルを基油とし、基油に対して、a.アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネートを0.1?5.0質量%、及びb.エポキシ化合物(但し塩素濃度が1.0質量%以下の芳香族カルボン酸グリシジルエステルを除く)を0.2?3.0質量%配合して、高い耐摩耗性及び熱・化学的安定性並びにスラッジの生成を抑制した構成であることを特徴とする、ハイドロフルオロカーボンを冷媒とする圧縮機用の冷凍機油組成物(但しリン酸エステルを1.0質量%以上含む場合を除く)。」

2.原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成17年6月3日付け拒絶理由通知書に記載した理由 2-B,2-C,3 によって、拒絶をすべきものである。」というものであって、その「理由2-B」は、「理由2」、すなわち、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、拒絶査定の備考には、「理由2-B」について、「補正後の請求項1-5に係る発明も、依然として、先の引用例(1)-(3)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」と記載されている。
そして、上記「補正後の請求項1に係る発明」は、「本願発明」であり、「引用例(1)、(3)」は、それぞれ、「刊行物A、B」に相当するから、原査定の理由は、「本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である刊行物A、Bに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。

3.当審の判断
本願発明は、原査定の理由のとおり、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である刊行物A、Bに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
その理由は、以下のとおりである。

(1)本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、上記第2 3.(3)で述べたのと同様のことがいえるから、本願発明と引用発明は、
「ポリオールエステルを基油とし、b.エポキシ化合物(但し塩素濃度が1.0質量%以下の芳香族カルボン酸グリシジルエステルを除く)を配合したことを特徴とする、ハイドロフルオロカーボンを冷媒とする圧縮機用の冷凍機油組成物(但しリン酸エステルを1.0質量%以上含む場合を除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点1’」?「相違点4’」という。)。

(相違点1’)ポリオールエステルの水分量が、本願発明では100ppm以下であるのに対し、引用発明では明らかでない点

(相違点2’)本願発明は、「基油に対して、a.アルキルホスフォロチオネート及び/又はアリールホスフォロチオネートを0.1?5.0質量%」配合したものであるのに対して、引用発明は、そのようなものではない点

(相違点3’)エポキシ化合物の配合量が、本願発明では「基油に対して、0.2?3.0質量%」であるのに対して、引用発明では明らかでない点

(相違点4’)本願発明は、「高い耐摩耗性及び熱・化学的安定性並びにスラッジの生成を抑制した構成」であるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか明らかでない点

(2)判断
相違点1’?4’は、上記第2 3.(3)で示した相違点1?4と全く同じであるから、これらについての判断は、上記第2 3.(4)?(7)で述べたとおりであり、本願発明の効果が、刊行物A、Bの記載及び当業者の技術常識から予測し得る程度のものであることは、上記第2 3.(8)で述べたとおりである。

(3)まとめ
したがって、本願発明は、刊行物A、Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(4)補正案について
審判請求人は、平成22年5月24日の回答書において補正案を提示しているが、上記補正案の請求項1に係る発明は、本願補正発明が、「リン酸エステルを0.5質量%以上含む場合」を除くとしているのを、「リン酸エステルを1.0質量%以上含む場合」を除くとするものである。
そうすると、補正案の請求項1に係る発明と引用発明を対比判断すると、上記第2 3.(3)?(10)で述べたのと同様のことがいえるから、補正案の請求項1に係る発明は、刊行物A、Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、仮にこの補正案を採用したとしても、本件審決の結論は変わるものではない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-09 
結審通知日 2010-08-17 
審決日 2010-09-01 
出願番号 特願平8-150416
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C10M)
P 1 8・ 121- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 昌広木村 敏康  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 橋本 栄和
井上 千弥子
発明の名称 冷凍機油組成物  
代理人 坂口 信昭  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ