• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1225648
審判番号 不服2007-26110  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-25 
確定日 2010-10-20 
事件の表示 特願2002-537808「発泡性が向上した、高速加工が可能な気泡絶縁材料」拒絶査定不服審判事件〔平成14年5月2日国際公開、WO02/34828、平成16年4月22日国内公表、特表2004-512409〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年10月24日を国際出願日とする出願であって、平成18年5月26日付けで拒絶理由通知がなされ、同年12月6日に意見書が提出されたが、平成19年6月18日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成19年9月25日に審判請求書が提出され、同年12月12日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2.本願発明
本願請求項1?11に係る発明は、願書に最初に添付した明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「(A)60?98重量パーセントの、ポリオレフィンもしくはポリオレフィン類の混合物であり、前記ポリオレフィンもしくは混合物は、η0が9.0キロパスカル.秒(kPa.秒)より小さく、Jrが50×10^(-5)/パスカル(Pa)より大きく、および、Eaが約6.7キロカロリー/モル(kcal/mol)より大きい;ならびに、
(B)2?40重量パーセントの、nRSIが4.5より大きく19以下である、ポリオレフィンもしくはポリオレフィン類の混合物;または、
(C)ポリオレフィンもしくはポリオレフィン類の混合物であり、前記ポリマーもしくは混合物は、η0が9.0キロパスカル.秒より小さく、Jrが50×10^(-5)/パスカル(Pa)より大きく、Eaが約6.7キロカロリー/モルより大きく、およびnRSIが9より大きい、
を含む、発泡性組成物。」

第3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由とされた、平成18年5月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由は、次のとおりである。
「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

発明の詳細な説明には、請求項に記載の数値範囲内のη0、Jr、Ea、nRSIを有するポリオレフィン及びポリオレフィン類の混合物の具体的な態様が、実施例において記載されているが、上記実施例以外の態様については、一般的なポリオレフィンの製造方法等が記載されているに過ぎない。
したがって、上記実施例以外のポリオレフィン及びポリオレフィン類の混合物については、従来のポリオレフィン及びポリオレフィン混合物の中から上記のパラメータを満足するものを選択するに際し、技術常識を考慮しても、当業者に期待しうる程度を超えた試行錯誤を必要とする。
そのため、本願発明は、実施例以外の物については、当業者が技術常識を考慮してもどのように作るのか理解できない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?11に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」

そして、平成19年6月18日付け拒絶査定の備考には、以下のとおり記載されている。
「出願人は、意見書において、当該ポリオレフィン又はポリオレフィン混合物を選択又は製造する方法は、当業者が技術常識を考慮し、本願明細書の記載をみれば容易になし得る旨主張する。
以下、検討する。
出願人は、実施例以外の態様について、当該ポリオレフィン又はポリオレフィン混合物を製造又は入手する方法が技術常識及び明細書の記載から明らかであることの根拠を客観的に示しておらず、上記主張は採用できない。」

第4.原査定の拒絶の理由の妥当性についての検討
1.本願発明は、「発泡性組成物」という物の発明であるところ、物の発明について実施することができるとは、当業者がその物を製造することができ、かつ使用できることである。
したがって、発明の詳細な説明においては、当業者が、かかる発明について、その物を製造することができるように、かつその物を使用できるように記載されていなければならない。
そして、本願発明に係る「発泡性組成物」(以下、「本願発泡性組成物」という。)は、上記第2.のとおり、「(A)60?98重量パーセントの、ポリオレフィンもしくはポリオレフィン類の混合物であり、前記ポリオレフィンもしくは混合物は、η0が9.0キロパスカル.秒(kPa.秒)より小さく、Jrが50×10^(-5)/パスカル(Pa)より大きく、および、Eaが約6.7キロカロリー/モル(kcal/mol)より大きい;ならびに、
(B)2?40重量パーセントの、nRSIが4.5より大きく19以下である、ポリオレフィンもしくはポリオレフィン類の混合物」との事項および「(C)ポリオレフィンもしくはポリオレフィン類の混合物であり、前記ポリマーもしくは混合物は、η0が9.0キロパスカル.秒より小さく、Jrが50×10^(-5)/パスカル(Pa)より大きく、Eaが約6.7キロカロリー/モルより大きく、およびnRSIが9より大きい」との事項を、その発明を特定するために必要な事項として備えているものである(以下、上記(A)?(C)のポリオレフィンもしくはポリオレフィン類の混合物をそれぞれ、「成分(A)」?「成分(C)」という。)。
そうであるから、「本願発泡性組成物」を製造するためには、本願明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)において、当業者が、「成分(A)」?「成分(C)」について製造あるいは入手することができるように記載されていなければならない。

2.そこで、発明の詳細な説明の記載を検討する。
まず、成分(A)?成分(C)は、それぞれ、「η0が9.0キロパスカル.秒(kPa.秒)より小さく、Jrが50×10^(-5)/パスカル(Pa)より大きく、および、Eaが約6.7キロカロリー/モル(kcal/mol)より大きい」との要件(以下、「要件A」という。)、「nRSIが4.5より大きく19以下である」との要件(以下、「要件B」という。)、「η0が9.0キロパスカル.秒より小さく、Jrが50×10^(-5)/パスカル(Pa)より大きく、Eaが約6.7キロカロリー/モルより大きく、およびnRSIが9より大きい」との要件(以下、「要件C」という。)を満たすものである。
これについて、発明の詳細な説明の段落(以下、単に「段落」という。)【0022】には、「ポリマー性材料のη0,Jr、nRSI、および、Eaは、最初に材料を剪断変形に供し、次にレオメータを用いその変形に対する反応を測定することにより、同時にもしくは個別に決定される。」ことが記載され、さらにそれに続く段落【0023】?【0035】には、ポリマー性材料のη0、Jr、Ea、nRSIの算出方法が記載されている。
これらの記載は、ある「ポリオレフィンあるいはポリオレフィン類の混合物」(以下、単に「ポリオレフィン」という。)が選択された場合に、そのポリオレフィンについてη0,Jr、nRSI、および、Eaを算出し、要件A?Cを満たすか否かを決定する方法の記載といえる。
また、段落【0021】には、「ポリマー性材料が、単一もしくは複数の反応器プロセスのどちらで製造されたか、1つもしくはそれより多数の触媒または触媒システムのどれを用いたか、反応器内もしくは後反応器プロセスのどちらにおいて、または、気相もしくは液相もしくは溶液のような他の重合プロセスのどれを用いて製造されたかには関わりない。」と記載されており、どのようなポリオレフィンでも使用し得ることが示唆されているといえる。
しかしながら、ポリオレフィンには、段落【0036】?【0048】に記載されているように、そのモノマー成分の種類、成分比、各モノマー成分の配列状態、そのポリオレフィンの密度、MI、分子量及び分子量分布、分岐構造等を異にする膨大な数のものが存在しているが、発明の詳細な説明には、その各々のポリオレフィンのη0、Jr、Ea、nRSIの具体的な値は記載されていない。
そうであるから、膨大な数のポリオレフィンの中から、具体的にどのポリオレフィンを選択すれば、必然的に要件A?Cを満たすものが得られるのかについては、何ら明らかではない。
また、段落【0022】に記載されているように、ポリマー性材料のη0、Jr、Ea、nRSIは、最初に材料を剪断変形に供し、次にレオメータを用いその変形に対する反応を測定することにより決定するものである、すなわち、測定して初めて決定できるものであるから、本願出願時に、各ポリオレフィンのη0、Jr、Ea、nRSIが、周知の値であったと認めることもできない。
したがって、特定のポリオレフィンが要件A?Cを満たすか否かを知るためには、候補ポリオレフィンを製造あるいは入手し、それを剪断変形に供し、次にレオメータを用いその変形に対する反応を測定し、段落【0022】?段落【0053】に記載された算出方法を用いて、η0、Jr、Ea、nRSIを逐一決定する以外はないところ、候補ポリオレフィンのモノマー成分の種類、成分比、モノマー成分の配列状態、そのポリオレフィンの密度、MI、分子量及び分子量分布、分岐構造等の差異によって、η0、Jr、Ea、nRSIがどのように変化するのかの関係も不明であるから、種々の候補ポリオレフィンについて、何らの指針もなしに、上記の測定、算出方法を逐一繰り返さなければならないことになり、このような操作は当業者に過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。

3.ここで、発明の詳細な説明に記載された実施例(段落【0059】?【0104】、特に段落【0095】及び【0096】の【表9】及び【表10】)について検討する。
実施例は、成分(A)としては、ポリマーA及びポリマーBの組成比を種々に変えた混合物の例のみであるが、そのポリマーAについては段落【0060】にユニオンカーバイドコーポレーション製のDGDA-6944NT(MI8.0、密度0.965)と記載されているものの、ポリマーBについては段落【0067】に「高圧フリーラジカル重合により製造されたポリエチレンである。これらの低密度ポリエチレンは、複数の有機開始剤を用い、最高3000気圧の圧力および最高320℃の温度で、高圧、管型反応器中で製造される。これらの高圧、低密度ポリエチレンを製造するプロセスは、Zabisky et al,Polymer, 33,No.11,2243,1992に記載のものと同様である。ポリマーBはMI2.0および密度0.918を有し」と記載されているものの、その具体的な製造条件は記載されていないし、商品名も記載されていないから、これを製造又は入手するには過度の試行錯誤を要するものと認められる。
そのうえ、同実施例において、成分(B)としては、ポリマーC?G、X、Yが用いられているが、ポリマーCは、段落【0063】に「ポリマーCは、チーグラー・ナッタ触媒を用いる段階的反応器構成の気相法、流動床反応により製造されるポリエチレンである。ポリマーCは、MI0.9および密度0.922を有する。」と記載され、ポリマーD?Gは、段落【0066】に「ポリマーDおよびFは、プロピレンホモポリマーであり、ポリマーEおよびGは、エチレンとのプロピレンランダムコポリマーであり、チーグラー・ナッタ触媒を用い、気相法、流動床反応器を用いるUNIPOL^(TM)プロセス(ユニオンカーバイドコーポレーション)により製造される。ポリマーDおよびFは、それぞれMIが1.2および3.9であり、密度が典型的には0.900から0.910であり、ポリマーEおよびGは、それぞれMIが0.8および3.3であり、密度が典型的には0.890から0.905である。」と記載されているものの、その具体的な製造条件又は商品名等は記載されていない。
そして、段落【0035】には「RSIおよびnRSIはポリマーの分子量分布、分子量、および長鎖分枝のようなパラメータに敏感なため、剪断減粘性挙動と同様、ポリマーの応力緩和の指標としては敏感で信頼性が高い。」と記載されているように、nRSIは、ポリマーの分子量分布、分子量、および長鎖分枝のようなパラメータに大きく影響を受けるものと認められるし、さらに、ポリマーEを成分(B)として用いた3例の実施例は、それぞれ、その成分(B)のnRSIの値が異なっているから、特定のnSRIを有するポリマーC?Gを製造又は入手するには、やはり過度の試行錯誤を要するものと認められる。
したがって、実施例の発泡性組成物ですら、これを製造又は入手するには、当業者に過度の試行錯誤を強いるものと認められる。

4.仮に、実施例の発泡性組成物については、これを製造又は入手することができるとしても、実施例の成分(A)は、要件Aを満たすものではあるが、実施例のデータをみてもポリマーAとポリマーBとの混合物の組成比をどのように変化させれば、η0、Jr、Eaがどのように変化するのかの相関関係をうかがい知ることはできない。また、ポリマーC?G、X、Yの種類と要件Bとがどのような相関関係にあるのかも読み取ることはできない。
したがって、成分(A)として、ポリマーAとポリマーBとの混合物を用いたとしても、混合物の組成比をどのように調整すれば、実施例以外の要件Aを満たす混合物を得られるのかは不明であるので、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。ましてや、成分(A)として、ポリマーAあるいはポリマーB以外のポリオレフィンを用いる場合には、上記2.に記載したように膨大な数のポリオレフィンの中から、要件Aを満たすものをどのようにして得るのかは全く不明であるので、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。

5.さらに、本願発明においては、成分(B)の配合比は2?40重量パーセントと規定されているにもかかわらず、段落【0072】には「表IおよびIIはポリマー成分及びブレンドの例を開示する。・・・。このブレンドに、適切な剪断減粘性剤を成形範囲内のレベルで添加すること、例えば、6から22重量パーセントのポリマーC、D、E、FまたはGを添加することは、最終ポリマー性材料が、許容可能な、好適な、または最も好適な範囲の押出性を有するように、配合物の押出性を本質的に改良する。代わりに、2重量パーセントのポリマーE、または、10から18重量パーセントのポリマーH、I、J、KもしくはLを添加することでは、ポリマーAおよびBの70/30ブレンドと比べて、押出性を適切に向上させることができなかった。」と記載され、段落【0079】には「代替の実施例として、例えば、A/Bブレンドにおける、22重量パーセントの剪断減粘性剤ポリマーEの追加、ポリマーBと27から28重量パーセントのLLDPEポリマーM、T、CまたはUとの置き換え、30から40重量パーセントのポリマーD、E、FまたはGの使用、または、ポリマーAの85重量パーセントのポリマーVとの置き換えは、発泡の程度が低い、および/または、全体的評価が中程度(-)以下と低い、粗悪な発泡または気泡絶縁体を製造する。A/Bブレンドに対するこれらの変更は、許容可能、好適、または最も好適な、発泡または気泡絶縁体に必要なレオロジー特性を有することができないポリマー性材料を製造する。」と記載され、さらに段落【0086】には「例えば、68重量パーセントのポリマーAおよび28重量パーセントのポリマーBを含む成分(A)、ならびに、2重量パーセントのポリマーDまたはEを含む成分(B)を、2重量パーセントの添加剤Aと共に含む、ポリオレフィンまたはポリオレフィンの混合物は、許容可能な、好適な、または最も好適な範囲内に入ることができない高速押出性を有する。さらに、52から70重量パーセントのポリマーAおよび15から28重量パーセントのポリマーBを含む成分(A)、ならびに、2から18重量パーセントのポリマーE、H、I、J、またはKを含む成分(B)を、2から5重量パーセントの添加剤AまたはCと共に含む、ポリオレフィンまたはポリオレフィンの混合物は、許容可能な、好適な、または最も好適な範囲内に入ることができない、少なくとも1つの特定のレオロジー特性に加え高速押出性および/または発泡性を有する。」と記載されている。
そうであるから、たとえ成分(B)として実施例で用いられているポリマーD、E、FおよびGを、特許請求の範囲に記載された配合量で用いても、所望の性質を奏さない場合があることが記載されている。
したがって、成分(B)として、何を、どのような重量パーセントで用いれば所望の性質が得られるのかは不明であるから、成分(B)の候補ポリオレフィンの重量%を変えて、発泡性組成物を製造し、それぞれについて、所望の性質が得られるか否かを確認しなければならない。
よって、実施例以外の発泡性組成物を得るには、やはり、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。

6.また、実施例における成分(C)としては、ポリマーA及びポリマーB並びにポリマーC、E、G、Hのいずれかの混合物の例のみであるところ(段落【0097】及び【0098】の【表11】及び【表12】)、そのうち「65%ポリマーA/28%ポリマーB/5%ポリマーEの組成物」、「58%ポリマーA/28%ポリマーB/12%ポリマーEの組成物」、「58%ポリマーA/28%ポリマーB/5%ポリマーCの組成物」は、段落【0095】の【表9】に記載された同一の組成物とその各η0、Jr、Ea、nRSIの各値は異なっているから、成分(A)と成分(B)を混合した場合には、その混合物のη0、Jr、Ea、nRSIは、混合前の値から変化することが認められるものの、その変化に特定の傾向は認められないから、上記2.に記載したように膨大な数のポリオレフィンの中からどのようなポリオレフィンを選択し、これを混合することにより要件Cを満たすことができるのかは不明である。
したがって、成分(C)についても、実施例以外のものを製造又は入手するには、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。

7.以上のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載では、出願時の技術常識を参酌しても、成分(A)?成分(C)を製造又は入手することは、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるから、発明の詳細な説明は、本願発泡性組成物を製造し、かつ使用することができるように記載されているものとは認められない。
したがって、発明の詳細な説明が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
よって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第5.審判請求人の主張についての検討
審判請求人は、平成18年12月6日に提出した意見書において、以下の主張をしている。
「本件発明は、ポリオレフィン類の組成物を対象としている。本件発明は、組成物に使用するポリオレフィン類の製造方法を対象とするものではない。したがって、本件明細書は、当業者であれば、市販のポリオレフィン類から適切なパラメータを有するポリオレフィン類を選択することができ、かつ/あるいは、本件明細書の記載を参照しながら、ポリオレフィンの製造に関する技術常識を用いて適切なパラメータを有するポリオレフィン類を、過度の試行錯誤を必要とすることなく製造できるとの認識に基づいて、組成物の開示に重点を置いたものである。繰り返しになるが、本件発明は、構成成分であるポリマー類の製造方法に関するものではなく、望ましいアプリケーションに適した要求特性及びポリマー類の組成物の特定に関するものなのである。したがって、本件明細書は、当業者のポリオレフィン類の製造に関する技術常識を考慮して読まれるべきである。技術常識を考慮して本件明細書を読むことによって、本件明細書に、いかにしてポリオレフィン類を選択するか、あるいは、製造するかということを適切に示していることが、当業者に理解できるものと信ずる。
尚、本件明細書には、η0、Jr、Ea、nRSIの測定方法やポリオレフィン材料の説明が詳しく記載され(段落0023?0025、0029、0030、0034、0035など)、また、発明の詳細な説明の表I、IIには、良好な高速押出特性を示すポリオレフィンまたはポリオレフィン類の混合物が記載され、表III、IVには、良好な発泡特性を示すポリオレフィンまたはポリオレフィン類の混合物が記載されている。高速押出特性と発泡特性の両方を満たすポリオレフィンまたはポリオレフィン類の混合物をこれらの表から任意に選択することが不可能であるが、その代わりに、そのようなポリオレフィンまたはポリオレフィン類の混合物は、特定のレオロジー特性、すなわち、η0、Jr、Ea、nRSIを有することを知見したことが記載されている(段落0084など)。そして、実施例には、上記特定のレオロジー特性を備える各種ポリマーを用いた多くの実施例、ならびにその比較例が記載されている(表VI、表VII)。
したがって、当業者であれば、パラメータの測定方法の記載、ならびに、実施例及び比較例における評価結果に基づいて、技術常識を考慮し、本件請求項に規定する範囲のη0、Jr、Ea、nRSIを有するポリオレフィン成分を選択することは、容易になし得ることである。」

また、審判請求人は、平成19年12月12日に提出した審判請求書の手続補正書(方式)において、以下の主張をしている。
「本願明細書の段落0036?0048には、本願発明の組成物を製造する際に用いることのできる触媒系、モノマー類及びポリオレフィンもしくはポリオレフィン類の混合物の製造方法について具体的に記載されています。
そして、実施例には、市販品を含む、本願発明の組成物に有用なポリマー及びその組み合わせが例示されています(表VIなど)。
また、本願明細書の段落0022?0035には、当業者がどのように、ポリマー性材料のゼロ剪断粘度(η0)、回復性コンプライアンス(Jr)、高フロー活性化エネルギー(Ea)、正規化緩和スペクトル指数(nRSI)を決定することができるかについて、具体的に説明されています。
これらの記載を参考にすれば、ポリオレフィン類の製造に関する技術常識を有する当業者が、本願請求項1に係る発泡性組成物を製造することは、特別な試行錯誤を要するものではなく、容易に行えることです。
重要なことは、本願発明が、所望の高速押出性能と発泡性能とを両立させることができる発泡性組成物のポリマー成分を選択する際の指標を示したということです。この指標が示されれば、本願明細書の記載に基づいて目的のポリマー組成物を設計変更する程度のことは、ポリオレフィン類の製造に関する技術常識を有する当業者が通常の創作能力の範囲内で行なえることであり、格別の試行錯誤を要するものではありません。」

審判請求人の上記主張について検討する。
段落【0036】?【0048】の記載は、一般的なポリオレフィン類の製造方法について記載されているのみで、それぞれのポリオレフィンと要件A?Cとの関係については何ら記載されていない。
また、段落【0022】?【0035】の記載は、上記第4の2.で述べたように、あるポリオレフィンが選択された場合には、そのポリオレフィンが要件A?Cを満たすか否かを決定する方法が記載されていると言えるだけで、どのようにしたら要件A?Cを満たす組成物を製造又は入手することができるのかを明らかにするものではない。
さらに、上記第4の3.において述べたように、実施例には、審判請求人の主張するような「市販品を含む、本願発明の組成物に有用なポリマー及びその組み合わせの例示がある」とまではいえないし、仮に例示があるとしても、実施例以外の要件A?Cを満たす組成物をどのように製造又は入手するかについては、上記第4の4.?6.において述べたように、本願明細書において明らかにされていない。
また、要件A?Cを満たすポリオレフィン又はポリオレフィン混合物についての技術常識が存在するものとも認められない。
そうであるから、たとえ、ポリマー成分を選択する際の指標(本願発明で規定する範囲のη0、Jr、Ea、nRSI)が示されているとしても、どのようなポリオレフィンがその指標を満たすものであるのかが不明であるから、その指標を満たす成分を選択することはできない。
したがって、上記審判請求人の主張は、採用できない。

第6.むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由とされた、平成18年5月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由は妥当なものであるから、本願は、原査定の拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-20 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願2002-537808(P2002-537808)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
小野寺 務
発明の名称 発泡性が向上した、高速加工が可能な気泡絶縁材料  
代理人 片山 英二  
代理人 小林 浩  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 田村 恭子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ