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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1225651
審判番号 不服2008-3193  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-12 
確定日 2010-10-20 
事件の表示 特願2001-558709「流体サンプルの凝固を分析するシステム、方法およびコンピュータ実施プロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月16日国際公開、WO01/59425、平成15年 7月29日国内公表、特表2003-522944〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年2月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成12年2月10日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年11月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年2月12日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正されたものである。そして、平成21年10月23日付けにて当審より拒絶理由を通知したところ、平成22年1月19日付けで3ヶ月の期間延長請求がなされ、同年4月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について

1.本願発明
本願の請求項1?106に係る発明は、平成22年4月27日付けの手続補正書で補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?106に記載された事項により特定されるものと認められ、その内の請求項70に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項70】サンプルを保持するサンプル保持領域及び該サンプル保持領域内に少なくとも部分的に配設され、電極間の導電率又は電気抵抗を測定する検出表面を有する少なくとも1つのセンサを有し、該センサは、前記サンプルが前記検出表面と接触している場合にサンプル有りを、かつ前記サンプルが前記検出表面と接触していない場合にサンプル無しを検出可能であるサンプル分析装置を使用するための命令を記憶するコンピュータ可読媒体であって、
前記命令が、
コンピュータによって実行可能であり、
(a)サンプルを前記サンプル保持領域に導入するステップと、
(b)試薬が前記サンプルの空気液体境界の近くで少なくとも実質的に溶解されて前記サンプルの試薬の濃い部分を形成するまで、前記サンプルの空気液体境界を、前記サンプル保持領域の試薬混合領域を通し往復運動移動させることによって、前記試薬を混合するステップと、
(c)サンプル分析の完了まで前記検出表面の上で前記サンプルの空気液体境界を往復運動移動させることによって、前記検出表面上への物質の蓄積を防止するステップと、
を含み、
前記往復運動移動が、前記センサが前記サンプルの有りを検出するまで前記サンプルを前記検出表面の方へ移動させ、且つ前記センサが前記サンプルの無しを検出するまで前記サンプルを前記検出表面から離れる方へ移動させることを含むことを特徴とするコンピュータ可読媒体。」

そして、請求項70は、補正前の請求項72に記載された発明特定事項である「センサ」が有する「検出表面を」を「電極間の導電率または電気抵抗を測定する検出表面」と限定したものであり、同項に対しては、特表平9-504372号公報に記載された発明であるとして、平成21年10月23日付けで特許法第29条第1項第3号の拒絶通知が通知された。

2.引用例記載の発明
本願の優先日前において頒布された刊行物であり、当審における拒絶理由に引用した特表平9-504372号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「 図1Aは、本発明のカートリッジのある特定の態様を示す図である。特に1は、直行して配置した導電率センサーを示している。試料流路を2で示し、試薬チャンバーを3で示した。また、試薬はセンサ一部位1の中にあってもよい。空気部分4も、試薬チャンバーにあってもよい。5は試料蓄積チャンバーを示し、6は封のできる試料口を示す。試料を流路を通って移動させるために圧力をかける膜は、7で示した。廃液チャンバーは9であり、8は廃液チャンバーの出口を示している。
図1Bは、図1Aのカートリッジを位相的に示す図である。上記の図1Aで示したのと同様に、カリブレーション流体を10で示した。
図2Aおよび2Bは、(a)膜を加圧すると流体試料が導電率センサーに流れ(センサーは高導電率を測定する)、(b)膜を減圧すると流体試料が撤退し(センサーは低導電率を測定する)、そして(c)流体試料の動きのサイクルが繰り返され、試料がセンサー上を振動する、という一連の流れを示す図である。
図3Aは、血液試料の凝固を引き起こす試薬の存在下における典型的な直行型センサー出力を示す図である。図3Bは、血液試料の凝固を引き起こす試薬の存在下における典型的な平行型センサー出力を図示している。
図4Aおよび4Bは、凝固促進薬の非存在下における、直交型導電率センサーおよび平行型導電率センサーのそれぞれの代表的な出力信号を示している。」(第21頁8?25行)
(2)「従って、本発明のカートリッジは、好ましくは外部計測機器に信号を送り、次に膜を加圧および減圧するプランジャー(plunger)を発動するセンサーを備えている。より好ましくは、センサーは導電率センサーであり、信号はセンサーの出力に関連していて、出力が一次予備選択値を下回る場合は、計測機器がプランジャーを発動して膜を加圧し、出力信号が二次予備選択値を上回る場合は、計測機器がプランジャーを発動して膜を減圧する。もちろん、一次および二次予備選択値は、同じであってもよいし、特定の適用の必要に応じて大きく異なってもよい。好ましくは、フィードバック機構は、例えば、凝固検査中に、プランジャーを抑制するのに必要な電気的な力があるあらかじめ設定された値を越えるだけ十分に試料が凝固したときに、発動手段が自動的に停止するようなものである。」(第26頁第21行?第27頁第3行)、

(3)「アナライザ(つまり、外部計測機器)のプランジャー要素によって膜の加圧および減圧を制御する導電率センサー出力を使用し、血液を導電率センサー上で振動させる。血液が両方の導電率電極を覆うと、低インピーダンスが観察され、プランジャーの撤退、膜の減圧を引き起こす。血液が後方に下がるか、または電極から撤退されると、高インピーダンスが観察され、プランジャーを下方に動かし、膜を加圧する。この方法では、血液は導電率センサー上を実質的に往復運動する。」(第31頁第26行?第32頁第4行)

(4)「本発明は、同様に、以下の過程を含む流体試料の粘性変化を分析する方法に関する。(a)それを通る流体試料の置き換えを感知するセンサー、および流体試料の粘性変化を促進することができる試薬に接していない状態に流体試料を保持するための試料容器に流体試料を入れ、(b)試薬が流体試料に接触しその粘性変化を促進するように、好ましくは実質的に往復運動をしてセンサーを通る流体試料の少なくとも一部を置き換えるために、試料容器内の流体試料に対して可逆的に圧力を与え、(c)流体試料の粘性変化を示すために、センサーを通る流体試料の置き換えを検知すること。解析の段階のほとんど、好ましくは試料の保持および置き換え段階は、試料容器、センサー、および試料またはカリブレーション流体に可逆性の圧力をかけるポンプ手段を含むカートリッジで行われる。」
(第28頁第23行?第29頁第4行)

上記摘記事項(1)及び図1からみて、導電率センサー1は、試料流路2内に配設されていることが、読み取れる。

上記摘記事項(2)及び(3)からみて、カートリッジは外部計測機器に接続されており、外部計測機器は、センサーの出力に応じて血液の移動を制御することが読み取れる。

これらの記載事項によると、引用例には、以下の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。

「血液試料が流路を通って移動する試料流路2と前記試料流路2内に配設されている導電率センサー1を有し、前記センサーの出力を使用し、血液試料が両方の導電率電極を覆うと、低インピーダンスが観察され、膜の減圧を引き起こし、血液試料が後方に下がるか、または、電極から撤退されると、高インピーダンスが観察されるカートリッジに接続された外部計測機器における、前記センサーの出力に応じて血液の移動を制御する方法であって、
前記制御が、
(a)血液試料の粘性変化を促進することができる試薬に接していない状態に血液試料を保持するための試料容器に流体試料を入れ、
(b)試薬が血液試料に接触しその粘性変化を促進するように、往復運動をしてセンサーを通る血液試料の少なくとも一部を置き換えるために、試料容器内の血液試料に対して可逆的に圧力を与え、
(c)血液試料の動きのサイクルが繰り返され、血液試料がセンサー上を振動し、プランジャーを抑制するのに必要な電気的な力があるあらかじめ設定された値を越えるだけ十分に血液試料が凝固したときに、発動手段が自動的に停止するものであり、
膜を加圧すると血液試料が導電率センサーに流れ、膜を減圧すると血液試料が撤退し、そして血液試料の動きのサイクルが繰り返され、血液試料がセンサー上を振動する制御方法。」

3.対比・判断
本願発明と引用例発明とを対比する。

(1)引用例発明の「血液」は、機能からみて、本願発明の「サンプル」に相当し、引用例発明の「試料が流路を通って移動する試料流路」は、機能・構成からみて、本願発明の「サンプルを保持するサンプル保持領域」に相当する。

(2)引用例発明の「前記試料流路2内に配設されている導電率センサー1」は、機能・構成からみて、本願発明の「該サンプル保持領域内に少なくとも部分的に配設され、電極間の導電率又は電気抵抗を測定する検出表面を有する少なくとも1つのセンサ」に相当する。

(3)引用例発明の「前記センサーの出力を使用し、血液試料が両方の導電率電極を覆うと、低インピーダンスが観察され、膜の減圧を引き起こし、血液試料が後方に下がるか、または、電極から撤退されると、高インピーダンスが観察される」は、血液試料が両方の電極を覆う状態は、血液試料がセンサに接触している状態といえ、血液が電極から撤退される状態が、血液試料がセンサと接触していない状態といえるから、本願発明の「センサは、前記サンプルが前記検出表面と接触している場合にサンプル有りを、かつ前記サンプルが前記検出表面と接触していない場合にサンプル無しを検出可能である」ことに相当する。

(4)引用例発明の「(a)血液試料の粘性変化を促進することができる試薬に接していない状態に血液試料を保持するための試料容器に流体試料を入れ、(b)試薬が血液試料に接触しその粘性変化を促進するように、往復運動をしてセンサーを通る血液試料の少なくとも一部を置き換えるために、試料容器内の血液試料に対して可逆的に圧力を与え」ることは、
該(a)?(b)の工程が、その動作からみて、血液試料が試料容器から試料流路に導入することは必須の工程であるといえるから、本願発明の「(a)サンプルを前記サンプル保持領域に導入するステップ」に相当するステップを含むものといえ、
前記(b)の工程が、往復運動の目的が粘性変化の促進であることから、往復運動中に血液試料の往復運動中に試薬に接触し、溶解される事象が発生するといえるから、本願発明の「(b)試薬が前記サンプルの空気液体境界の近くで少なくとも実質的に溶解されて前記サンプルの試薬の濃い部分を形成するまで、前記サンプルの空気液体境界を、前記サンプル保持領域の試薬混合領域を通し往復運動移動させることによって、前記試薬を混合するステップ」と実質的に同様の工程であるといえるので、
本願発明の前記(a)及び(b)に相当する。

(5)引用例発明の「(c)血液試料の動きのサイクルが繰り返され、血液試料がセンサー上を振動し、プランジャーを抑制するのに必要な電気的な力があるあらかじめ設定された値を越えるだけ十分に血液試料が凝固したときに、発動手段が自動的に停止するもの」は、発動手段が自動的に停止することにより分析が完了するといえることから、本願発明の「(c)サンプル分析の完了まで前記検出表面の上で前記サンプルの空気液体境界を往復運動移動させることによって、前記検出表面上への物質の蓄積を防止するステップ」との間で、「(c)サンプル分析の完了まで前記検出表面の上で前記サンプルの空気液体境界を往復運動移動させるステップ」という点で共通する。

(6)引用例発明の「膜を加圧すると血液試料が導電率センサーに流れ、膜を減圧すると血液試料が撤退し、そして血液試料の動きのサイクルが繰り返され、血液試料がセンサー上を振動する」ことは、その動作からみて、本願発明の「前記往復運動移動が、前記センサが前記サンプルの有りを検出するまで前記サンプルを前記検出表面の方へ移動させ、且つ前記センサが前記サンプルの無しを検出するまで前記サンプルを前記検出表面から離れる方へ移動させることを含む」ことに相当する。

(7)引用例発明の「カートリッジに接続された外部計測機器による前記センサーの出力に応じて血液の移動を制御する方法」と、「サンプル分析装置を使用するための命令を記憶するコンピュータ可読媒体」とは、「サンプル分析装置の制御」という点で共通する。

(8)引用例発明の「前記制御が」と、本願発明の「前記命令が、コンピュータによって実行可能であり」とは、「制御」する点で共通する。

そうすると、引用文献1に記載された発明と、本願発明は、
「サンプルを保持するサンプル保持領域及び該サンプル保持領域内に少なくとも部分的に配設され、電極間の導電率又は電気抵抗を測定する検出表面を有する少なくとも1つのセンサを有し、該センサは、前記サンプルが前記検出表面と接触している場合にサンプル有りを、かつ前記サンプルが前記検出表面と接触していない場合にサンプル無しを検出可能であるサンプル分析装置の制御であって、
制御が、
(a)サンプルを前記サンプル保持領域に導入するステップと、
(b)試薬が前記サンプルの空気液体境界の近くで少なくとも実質的に溶解されて前記サンプルの試薬の濃い部分を形成するまで、前記サンプルの空気液体境界を、前記サンプル保持領域の試薬混合領域を通し往復運動移動させることによって、前記試薬を混合するステップと、
(c)サンプル分析の完了まで前記検出表面の上で前記サンプルの空気液体境界を往復運動移動させるステップと、
を含み、
前記往復運動移動が、前記センサが前記サンプルの有りを検出するまで前記サンプルを前記検出表面の方へ移動させ、且つ前記センサが前記サンプルの無しを検出するまで前記サンプルを前記検出表面から離れる方へ移動させることを含むことを特徴とするサンプル分析装置の制御部。」である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)サンプル分析装置の制御が、本願発明では、「サンプル分析装置を使用するための命令を記憶するコンピュータ可読媒体」であるのに対し、「カートリッジに接続された外部計測機器による前記センサーの出力に応じて血液の移動を制御する方法」であり、(a)?(c)の各ステップが、本願発明では「コンピュータによって実行可能な」「命令」をなすのに対し、引用発明では、「制御」である点。

(相違点2) 「(c)サンプル分析の完了まで前記検出表面の上で前記サンプルの空気液体境界を往復運動移動させるステップ」が、本願発明では、「検出表面上への物質の蓄積を防止する」機能・作用を有するに対し、引用例発明では、そのような特定がない点。

上記(相違点1)について検討する。
各種計測機器において、測定値の処理や各種制御を行うためのコンピュータを有することは、優先権主張の日前における例示するまでもなく常套のことであり、その処理や制御のプログラムを、コンピュータによって実行可能な命令で記述し、ハードディスクや、電子媒体等のプログラム可読媒体に記憶することも、コンピュータを用いた装置の技術分野では、優先権主張の日前における例示するまでもなく常套の技術といえ、前記媒体に保存された制御プログラムは、命令コードとして表現されることも、技術常識の範囲である。

したがって、引用例発明の「前記センサーの出力に応じて血液の移動を制御する外部計測機器」において、常套技術の範囲からみて、制御部分をプログラム化し、プログラム可読媒体に保存するものも内包しているものといえる。

よって、上記(相違点1)は、制御に係る「方法」か、制御をプログラム化して記憶した「コンピュータ可読媒体」かという単なるカテゴリーの相違にすぎず、実質的な相違点ではない。

上記(相違点2)について検討する。
上記相違点1の検討のとおりであることから、本願請求項70に係る発明と、引用文献1に記載された発明とは、実質的に同一の構成を有し、また、流体のサンプル特に血液分析という同一技術分野に属するものである。
また、同一技術分野の同一構成のものにおいて、それらの効果が異なることは客観的におよそあり得ないことであり、既存の構成についての効果の発見は、新たな構成によるものでない限り、単なる効果の発見にとどまり、特許性の根拠となり得ない(平成14年(行ケ)第155号審決取消請求事件の判決文において、「二つの発明の構成が同一であるとき,それらの効果が異なるということは,客観的にはおよそあり得ないことである。また,既存の構成についての効果の発見は,それが新たな構成に結び付かない限り,単なる効果の発見にとどまり,特許性の根拠とはなり得ない。」と判示されている。)。
したがって、上記(相違点2)の「検出表面上への物質の蓄積を防止する」ということは、既存の構成について新たな効果を単に発見したのみであり、引用例発明において内在されていたものである。よって、上記【相違点2】は、実質的な相違点ではない。

したがって、本願請求項70に係る発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-21 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願2001-558709(P2001-558709)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順森 竜介  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 信田 昌男
居島 一仁
発明の名称 流体サンプルの凝固を分析するシステム、方法およびコンピュータ実施プロセス  
代理人 小川 護晃  
代理人 西山 春之  
代理人 笹島 富二雄  

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