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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1225655
審判番号 不服2008-13923  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-03 
確定日 2010-10-20 
事件の表示 特願2004-349954「有機EL素子及びその駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月23日出願公開、特開2005-166672〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年12月2日(パリ条約による優先権主張2003年12月2日、韓国)に出願され、平成18年12月26日付けで拒絶理由が通知され、平成19年5月7日付けで手続補正がなされたところ、平成20年3月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月3日付けで手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成21年9月7日付けで審尋を行い、これに対して平成22年3月8日付けで回答書が提出されている。


第2 補正の却下の決定
[結論]
平成20年7月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲及び明細書の段落【0015】についてするものであり、その内容は、本件補正前(平成19年5月7日付け手続補正書を参照)に、
「【請求項1】
第1陰極を有する第1有機ELパネルと、
第2陰極を有する第2有機ELパネルと、
前記第1陰極および第2陰極間に形成されるバッファー層とを含み、
前記第1陰極は、前記バッファー層によって前記第2陰極に電気的に接続されかつ貼り合わせて結合されることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記バッファー層は、導電性及び粘着性を有する、UV硬化性材料であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
第1基板を有する第1有機ELパネルと、
第2基板を有する第2有機ELパネルと、
前記第1有機ELパネルの基板と前記第2有機ELパネルの基板との間に形成される絶縁層とを含み、
前記第1有機ELパネルの基板は、前記絶縁層によって前記第2有機ELパネルの基板に対して電気的に絶縁されかつ貼り合わせて結合されることを特徴とする有機EL素子。
【請求項4】
前記絶縁層は、電気絶縁性および粘着性を有する、UV硬化性材料であることを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子。
【請求項5】
基板を有する第1有機ELパネルと、
陰極を有する第2有機ELパネルと、
前記第1有機ELパネルの基板と前記第2有機ELパネルの陰極との間に形成される絶縁層とを含み、
前記第1有機ELパネルの基板は、前記絶縁層によって前記第2有機ELパネルの陰極に対して電気的に絶縁されかつ貼り合わせて結合されることを特徴とする有機EL素子。
【請求項6】
前記絶縁層は、電気絶縁性および粘着性を有する、UV硬化性材料であることを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。
【請求項7】
陰極を有する第1有機ELパネルと、
基板を有する第2有機ELパネルと、
前記第1有機ELパネルの陰極と前記第2有機ELパネルの基板との間に形成される絶縁層とを含み、
前記第1有機ELパネルの陰極は、前記絶縁層によって前記第2有機ELパネルの基板に対して電気的に絶縁されかつ貼り合わせて結合されることを特徴とする有機EL素子。
【請求項8】
前記絶縁層は、電気絶縁性および粘着性を有する、UV硬化性材料であることを特徴と
する請求項7に記載の有機EL素子。
【請求項9】
基板を有する第1有機ELパネルと、
陰極を有する第2有機ELパネルと、
前記第1有機ELパネルの基板と前記第2有機ELパネルの陰極との間に形成されるバッファー層とを含み、
前記第1有機ELパネルの陰極は、前記バッファー層によって前記第2有機ELパネルの基板に対して電気的に絶縁されかつ貼り合わせて結合されることを特徴とする有機EL素子。
【請求項10】
陰極を有する第1有機ELパネルと、
基板を有する第2有機ELパネルと、
前記第1有機ELパネルの陰極と前記第2有機ELパネルの基板との間に形成されるバッファー層とを含み、
前記第1有機ELパネルの陰極は、前記バッファー層によって前記第2有機ELパネルの基板に対して電気的に接続されかつ貼り合わせて結合されることを特徴とする有機EL素子。」
及び
「【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る有機EL素子は、第1陰極を有する第1有機ELパネルと、第2陰極を有する第2有機ELパネルと、前記第1陰極および第2陰極間に形成されるバッファー層とを含み、前記第1陰極は、前記バッファー層によって前記第2陰極に電気的に接続されかつ貼り合わせて結合することを特徴とする。」

とあったものを、

「【請求項1】
透明陽極と透明基板を通して単一方向に画面表示が可能な第1有機ELパネルと、
透明陰極を通して単一方向に画面表示が可能な第2有機ELパネルと、
前記第1有機ELパネルの透明基板と前記第2有機ELパネルの透明陰極との間に形成される絶縁層とを含み、
前記第1有機ELパネルの透明基板は、前記絶縁層によって前記第2有機ELパネルの透明陰極に対して電気的に絶縁されかつ貼り合わせて結合されることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記絶縁層は、電気絶縁性および粘着性を有するUV硬化性物質を用いて前記第1有機ELパネルと前記第2有機ELパネルとを結合した層であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
透明陽極と透明基板を通して単一方向に画面表示が可能な第1有機ELパネルと、
透明陰極を通して単一方向に画面表示が可能な第2有機ELパネルと、
前記第1有機ELパネルの透明基板と前記第2有機ELパネルの透明陰極との間に形成されるバッファー層とを含み、
前記第1有機ELパネルの透明基板は、前記バッファー層によって前記第2有機ELパネルの透明陰極に対して電気的に絶縁されかつ貼り合わせて結合されることを特徴とする
有機EL素子。」
及び
「【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る有機EL素子は、透明陽極と透明基板を通して単一方向に画面表示が可能な第1有機ELパネルと、透明陰極を通して単一方向に画面表示が可能な第2有機ELパネルと、前記第1有機ELパネルの透明基板と前記第2有機ELパネルの透明陰極との間に形成される絶縁層とを含み、前記第1有機ELパネルの透明基板は、前記絶縁層によって前記第2有機ELパネルの透明陰極に対して電気的に接続されかつ貼り合わせて結合されることを特徴とする。」

と補正するものである。


2 本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載内容
本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、上記本件補正後の請求項1?3と関連して、以下の記載がなされている。
ア 「【0013】
しかしながら、上述した従来の両方向表示の有機EL素子は、次のような問題点がある。
第一に、一つの発光層により生成された光が上下方向に出力されるため、既存のボトムエミッション方式の素子と同一する輝度を得るためには最小4倍のパワーが必要で電力消耗が大きい。
第二に、一組の電極により駆動されるので、上下方向に同一の映像を表示することができるが、上部スクリーンと下部スクリーン上に異なる映像を表示することができない。
【0014】
本発明は、上記の問題点を解決するためのもので、その目的は、両方向表示は勿論で両方向に対して異なる画面表示が可能な低電力/高性能の有機EL素子及びその駆動装置を提供することにある。」

イ 「【発明の効果】
【0020】
本発明の有機EL素子及びその駆動装置には次のような効果がある。
即ち、本発明によると、第1及び第2有機ELパネルの映像表示動作を独立的に制御することができる。
このため、両方向に互いに異なる映像を表示することもあり、また両方向に同一する映像を表示したり、両方向のうち何れか1つの方向にだけ映像を表示することもできる。」

ウ 「(第4実施形態)
【0037】
本発明の第4実施形態に係る両方向画面表示の有機EL素子は、図4に示したように、第1有機ELパネル30と第2有機ELパネル40´とを貼り合わせてなる。
この時、第1有機ELパネル30は、透明陽極32及び透明基板31を通して単一方向に画面表示される構造で、図1の第1有機ELパネル30と同一する構造である。
また、第2有機ELパネル40´は、透明陰極48´を通して単一方向に画面表示される構造で、図2の第2有機ELパネル40´と同一する構造である。
したがって、有機EL素子は、第1有機ELパネル30の陰極38と第2有機ELパネル40´の基板41'部分とを貼り合わせて両方向に画面表示が可能になるように構成したものである。
【0038】
上述した第1有機ELパネル30と第2有機ELパネル40´との製造方法の説明は、本発明の第1実施形態及び第2実施形態に既に記述しているため省略する。
この時、貼り合わせ材料としては、UV硬化性材料が用いられ、例えばエポキシ系接着剤を用いることができる。
【0039】
一方、図面に示してはいないが、第1有機ELパネル30と第2有機ELパネル40´間に両パネルの電気的な接続のために、バッファー層を形成することもある。
また図面に示してはいないが、第1有機ELパネル40と第2有機ELパネル40´間に両パネルの電気的な遮断のために、絶縁層を形成することもある。
上述した本発明の第4実施形態によると、透明基板と透明陰極を通して表示する方式で、各々発光層を具備して両方向表示に充分な輝度を発生させるため、低電力動作が可能である。」

3 補正の適否について
ア 請求項1について
本件補正により、第1有機ELパネルは「透明基板を通して単一方向に画面表示が可能」であり、第2有機ELパネルは「透明陰極を通して単一方向に画面表示が可能」なものに限定された。
その上で、本件補正後の請求項1の「前記第1有機ELパネルの透明基板は、前記絶縁層によって前記第2有機ELパネルの透明陰極に対して電気的に絶縁されかつ貼り合わせて結合される」点について検討すると、当該記載から、請求項1の有機EL素子は、第1有機ELパネルの透明基板と第2有機ELパネルの透明陰極とを貼り合わせて結合したものとなっているが、当初明細書等には、第1、第2有機ELパネルの「単一方向に画面表示が可能」な側に配置された透明部材同士を貼り合わせて結合する点は、一切記載されていないし、本願の発明が解決しようとする課題及び効果(上記記載事項ア?イを参照)と矛盾する技術となっていることからも、当業者にとって自明な事項ではない。
したがって、「前記第1有機ELパネルの透明基板は」、「前記第2有機ELパネルの透明陰極に対して」「貼り合わせて結合される」点は、当初明細書等に記載されていないし、当業者にとって自明な事項でもない。

イ 請求項3について
本件補正後の請求項3の有機EL素子は、本件補正後の請求項1の「絶縁層」を「バッファー層」に置換したものにすぎない。
よって、上記アと同様の理由により、本件補正後の請求項3の、「前記第1有機ELパネルの透明基板は」、「前記第2有機ELパネルの透明陰極に対して」「貼り合わせて結合される」点は、当初明細書等に記載されていないし、当業者にとって自明な事項でもない。

ウ 段落【0015】について
本件補正により、段落【0015】は「前記絶縁層によって前記第2有機ELパネルの透明陰極に対して電気的に接続され」との記載を含むものとなったが、絶縁層で「電気的に接続」する点は、当初明細書等に記載されていないし、当業者にとって自明な事項でもない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものといえ、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年5月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。(上記「第2」の「1 本件補正の内容」を参照)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願2002-166656号(特開2004-14316号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
a 「【請求項1】
透明基板上に少なくとも透明電極と、有機エレクトロルミネセンス層と、金属電極とが形成されてなる有機エレクトロルミネセンスディスプレイ素子の2つが、前記金属電極の側で接合された両面表示有機エレクトロルミネセンスディスプレイモジュール。」

b 「【0003】
従来の両面表示のための有機EL素子ディスプレイモジュールの構成を図7に示す。図7において、31はガラス基板、32は透明電極、33は有機EL層、34は金属電極である。金属電極34は低仕事関数で電子注入の容易な金属をカソードとして使用するため、透明にすることが困難である。その一方、アノードとして使用する金属電極には高仕事関数で正孔注入の容易な金属が適するため、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明化の容易な金属が使用できる。そのため、透明電極32と金属電極34の交点にある有機EL層でEL発光した光は、ガラス基板31の側から取り出される。金属電極34の側からのEL光の取り出しは困難なため、情報端末の両面で表示をさせるには、図7のごとく金属電極34の側を背面として、2つの有機ELディスプレイモジュールを個々に使用する構成であった。」

c 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
以上説明したように、従来の有機ELディスプレイモジュールの構造では、情報端末の両面で表示するために、有機ELディスプレイモジュールが2つ必要であった。本発明は、このような問題を解決するために、1つの有機ELディスプレイモジュールで両面表示を可能にするものである。併せて、当該有機ELディスプレイモジュールを備える情報端末を提供することを目的とする。」

d 「【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の実施の形態について、添付の図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
本発明は、2つの有機ELディスプレイモジュールの金属電極の側を張り合わせることにより、両面表示を可能とするものである。本発明である両面表示有機ELディスプレイモジュールの基本構造の断面を図1に示す。図1において、11-1、11-2は透明基板としてのガラス基板である。基板としては、ガラス基板の他に、フレキシブル基板、カラーフィルタや色変換材料が形成された基板を含む。12-1、12-2は透明電極である。透明電極材料としては、ITO、インディウム亜鉛酸化物、酸化スズなどが適用できる。13-1、13-2は有機EL層であり、電子輸送層、有機EL発光層、正孔輸送層からなる。14-1、14-2は金属電極である。金属電極材料としては、Al、Li、Mg又はこれらの合金を用いることができる。
【0010】
金属電極14-1と14-2は双方の電極が重なり合うように、接合されている。金属電極14-1と透明電極12-1の間で電圧を印加すると、有機EL層13-1のうち金属電極14-1と透明電極12-1の交点でEL発光し、ガラス基板11-1の方向からEL光が出射する。同様に、金属電極14-2と透明電極12-2の間で電圧を印加すると、有機EL層13-2のうち金属電極14-2と透明電極12-2の交点でEL発光し、ガラス基板11-2の方向からEL光が出射する。このようにして、有機ELディスプレイモジュールの両面で情報を表示できることになる。
【0011】
本発明である両面表示有機ELディスプレイモジュールの構成を図2に示す。図2において、11-1、11-2は透明基板としてのガラス基板、12-1、12-2は透明電極、13-1、13-2は有機EL層、14-1、14-2は金属電極である。
【0012】
図2(a)に示すように、ガラス基板11-1の上面に少なくとも透明電極12-1、有機EL層13-1、金属電極14-1が順次形成されて一方の有機ELディスプレイ素子が構成されている。他方の有機ELディスプレイ素子も同様に、ガラス基板11-2の上面に少なくとも透明電極12-2、有機EL層13-2、金属電極14-2が順次形成されている。2つの有機ELディスプレイ素子の金属電極同士が重なりあうように、両者を張り合わせる。張り合わせには、金属電極14-1と14-2の端子部分(図2(a)において、紙面上部の金属電極)に導電性粒子を混入した接着剤で接着する。金属電極の端子部分が導電性粒子により接触すると、金属電極は共通端子から駆動できるようになる。2つの有機ELディスプレイ素子の精密な位置合わせを不要とするために、金属電極の端子部分以外の部分が接触しないように2つの有機ELディスプレイ素子の間に絶縁層あるいは絶縁膜を設けてもよい。電極の抵抗を小さく、又は、2つの有機ELディスプレイ素子の接着を強固にするために、金属電極の端子部分以外も接触するように導電性粒子を混入した接着剤で接着してもよい。また、両有機EL層から発光したEL光がそれぞれガラス基板側からのみ出射するように、2つの有機ELディスプレイ素子の間に不透明な膜、又は反射膜を設けてもよい。」


3 先願発明の認定
上記記載事項から、先願明細書には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「透明基板上に少なくとも透明電極と、有機EL層と、金属電極とが形成されてなる有機ELディスプレイ素子の2つが、前記金属電極の側で接合された両面表示有機ELディスプレイモジュールであって、
透明電極材料としては、ITO、インディウム亜鉛酸化物、酸化スズなどが適用でき、
金属電極材料としては、Al、Li、Mg又はこれらの合金を用いることができ、
2つの前記有機ELディスプレイ素子は、金属電極同士が重なりあうように、両者を金属電極の端子部分に導電性粒子を混入した接着剤で接着して張り合わせるとともに、電極の抵抗を小さく、又は、2つの有機ELディスプレイ素子の接着を強固にするために、金属電極の端子部分以外も接触するように導電性粒子を混入した接着剤で接着してもよい両面表示有機ELディスプレイモジュール。」


4 対比・判断
本願発明と先願発明とを対比する。
先願発明の「有機ELディスプレイ素子の2つ」は、本願発明の「第1有機ELパネル」及び「第2有機ELパネル」に相当し、先願発明の「両面表示有機ELディスプレイモジュール」は、本願発明の「有機EL素子」に相当する。

また、本願の明細書の段落【0002】に「一般的に有機EL素子は、電子注入電極(陰極)と正孔注入電極(陽極)間に形成された有機物質の発光層に電荷を注入すると電子と正孔が対をなした後、消滅しながら光を出す素子である。」と記載されているように、有機ELと呼ばれる発光素子が、陰極/発光層/陽極の積層構造体であることは、当業者に自明な事項である。
そして、先願明細書の【0003】(上記記載事項bを参照)の「金属電極34は低仕事関数で電子注入の容易な金属をカソードとして使用する・・・。その一方、アノードとして使用する金属電極には高仕事関数で正孔注入の容易な金属が適するため、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明化の容易な金属が使用できる。」との記載、及びLiやMgが、低仕事関数の金属であって、かつ有機ELの分野では当業者にとって周知慣用の陰極材料であること、を総合勘案すると、先願発明における「透明電極と、有機EL層と、金属電極とが形成されてなる有機ELディスプレイ素子」は、「透明電極材料としては、ITO、インディウム亜鉛酸化物、酸化スズなどが適用でき、金属電極材料としては、Al、Li、Mg又はこれらの合金を用いることができ」るのであるから、先願発明の2つの有機ELディスプレイ素子の「金属電極」が、それぞれ本願発明の「第1陰極」及び「第2陰極」に相当することは当業者にとって自明な事項である。

先願発明の「導電性粒子を混入した接着剤」は、2つの前記有機ELディスプレイ素子の金属電極同士を接着しているのであるから、本願発明の「前記第1陰極および第2陰極間に形成されるバッファー層」に相当する。
よって、先願発明の「2つの前記有機ELディスプレイ素子は、金属電極同士が重なりあうように、両者を金属電極の端子部分に導電性粒子を混入した接着剤で接着して張り合わせるとともに、電極の抵抗を小さく、又は、2つの有機ELディスプレイ素子の接着を強固にするために、金属電極の端子部分以外も接触するように導電性粒子を混入した接着剤で接着してもよい」点は、本願発明の「前記第1陰極および第2陰極間に形成されるバッファー層とを含み、前記第1陰極は、前記バッファー層によって前記第2陰極に電気的に接続されかつ貼り合わせて結合される」点に相当する。

したがって、本願発明と先願発明とは、以下の点で一致する。
「第1陰極を有する第1有機ELパネルと、
第2陰極を有する第2有機ELパネルと、
前記第1陰極および第2陰極間に形成されるバッファー層とを含み、
前記第1陰極は、前記バッファー層によって前記第2陰極に電気的に接続されかつ貼り合わせて結合されることを特徴とする有機EL素子。」

してみれば、本願発明と先願発明とは相違点がなく、本願発明は、先願発明と同一である。


5 むすび
以上のとおり、本願発明は、先願発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-17 
結審通知日 2010-05-18 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願2004-349954(P2004-349954)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (H05B)
P 1 8・ 561- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松田 憲之  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 村田 尚英
今関 雅子
発明の名称 有機EL素子及びその駆動装置  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  
代理人 古川 秀利  
代理人 大宅 一宏  
代理人 鈴木 憲七  

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