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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1225660
審判番号 不服2008-29729  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-20 
確定日 2010-10-20 
事件の表示 特願2006-151693「両面印刷サーマルプリンタ及びサーマルヘッド保持方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日出願公開、特開2007-320121〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯
本願は、平成18年5月31日の出願であって、平成20年8月4日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされ、同年10月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月20日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月22日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされたものである。
さらに、審査官により作成された前置報告書について審尋がなされたところ、審判請求人から平成22年4月2日付けで請求の理由に特段付け加えるべき事項はない旨の回答書が提出されたものである。


第2.平成20年12月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年12月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「 感熱紙を用紙搬送路に沿って供給する感熱紙供給機構と、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第1面側に対向配置された第1サーマルヘッドと、
この第1サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第1プラテンローラと、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第2面側に対向配置された第2サーマルヘッドと、
この第2サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第2プラテンローラと、
上記第1サーマルヘッド及び第2サーマルヘッドの少なくとも一方を上記用紙搬送路に対して接離させるアクチュエータとを備えていることを特徴とする両面印刷サーマルプリンタ。」
から
「 感熱紙を用紙搬送路に沿って供給する感熱紙供給機構と、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第1面側に対向配置された第1サーマルヘッドと、
この第1サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第1プラテンローラと、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第2面側に対向配置された第2サーマルヘッドと、
この第2サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第2プラテンローラと、
上記第1サーマルヘッド及び第2サーマルヘッドの少なくとも一方を上記用紙搬送路から接離させるアクチュエータとを備えていると共に、
上記用紙搬送路は上記第2プラテンローラが上記感熱紙の第2面側に下側から接すると共に上記感熱紙の第1面が上記第1プラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している
ことを特徴とする両面印刷サーマルプリンタ。」
に補正された。
上記補正後の請求項1の「上記用紙搬送路は上記第2プラテンローラが上記感熱紙の第2面側に下側から接すると共に上記感熱紙の第1面が上記第1プラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している」に関して、本願の図面の記載を参照すれば、「第2プラテンローラ」が接するのは「上記感熱紙の第2面側」ではなく、「第1面側」(P1)であり、また、「上記感熱紙の第1面」ではなく、「上記感熱紙の第2面」(P2)が「上記第1プラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している」から、該構成が「上記用紙搬送路は上記第2プラテンローラが上記感熱紙の第1面側に下側から接すると共に上記感熱紙の第2面が上記第1プラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している」の誤記であることは明らかである。
そして、上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「用紙搬送路」に関して、「上記第2プラテンローラが上記感熱紙の第2面側(第1面側の誤記)に下側から接すると共に上記感熱紙の第1面(第2面の誤記)が上記第1プラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している」点を限定したものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、下記のとおり誤記を修正した、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(本願補正発明)
「 感熱紙を用紙搬送路に沿って供給する感熱紙供給機構と、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第1面側に対向配置された第1サーマルヘッドと、
この第1サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第1プラテンローラと、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第2面側に対向配置された第2サーマルヘッドと、
この第2サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第2プラテンローラと、
上記第1サーマルヘッド及び第2サーマルヘッドの少なくとも一方を上記用紙搬送路から接離させるアクチュエータとを備えていると共に、
上記用紙搬送路は上記第2プラテンローラが上記感熱紙の第1面側に下側から接すると共に上記感熱紙の第2面が上記第1プラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している
ことを特徴とする両面印刷サーマルプリンタ。」

2.独立特許要件について
(1)刊行物に記載された発明
(1-1)刊行物1について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-286147号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の記載がある。(下線は当審にて付した。以下同じ。)

(a)「【請求項1】 用紙搬送路を挟み第1のラインサーマルヘッドと第1のプラテンローラを有する第1の印字部と、用紙搬送路を挟み第2のラインサーマルヘッドと第2のプラテンローラを有する第2の印字部とを互いに対称に配置し、感熱紙の表裏両面に同時に印刷を行なうことを特徴とする両面印刷機構。」

(b)「【0016】図1(a)?(c)に示す両面印刷機構は、用紙搬送路を挟み第1のラインサーマルヘッド12と第1のプラテンローラ13を有する第1の印字部10と、用紙搬送路を挟み第2のラインサーマルヘッド22と第2のプラテンローラ23を有する第2の印字部20とを互いに対称に配置し、感熱紙1の表裏両面に同時に印刷を行なう。
【0017】本発明の両面印刷機構は、感熱紙1を搬送するためにフレーム2に固定されたLFモータ3駆動源からフイードローラ11,21およびプラテンローラ13,23に回転を伝達するためのギヤ(11)6,ギァ(12)7と、フイードローラ11,21に固定されたギヤ(F)5と、プラテンローラ13,23に固定されたギヤ(P)4を備える。
【0018】印字部10,20は、ラインサーマルヘッド12,22と、プラテンローラ13,23が対向し、感熱紙1の表面側に印刷する印字部10のラインサーマルヘッド12とプラテンローラ13の配置に対し、感熱紙1の裏面側に印刷する印字部20のラインサーマルヘッド22とプラテンローラ23が互いに対称に配置されている。
【0019】またプラテンローラ13,23の手前に感熱紙1を検出し印字可能な位置に搬送するためのセンサー14,24が備えられている。
【0020】次に動作について説明する。用紙搬送系の駆動指令によって、LFモーター3が一定方向に回転する。LFモーター3の駆動によって各ギヤを連結しフイードローラ11,21およびプラテンローラ13,23に回転が伝達される。
【0021】LFモーター3の駆動によって搬送される感熱紙1は、フイードローラ11,21によって印字可能な印字部10,20に送られ、それぞれ感熱紙1の表裏両面に印刷される。」

(c)図1として、





上記の事項を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。

(刊行物1発明)
「用紙搬送路を挟み第1のラインサーマルヘッドと第1のプラテンローラを有する第1の印字部と、用紙搬送路を挟み第2のラインサーマルヘッドと第2のプラテンローラを有する第2の印字部とを互いに対称に配置し、
感熱紙は、フイードローラによって前記第1の印字部及び前記第2の印字部に送られ、
感熱紙の表裏両面に同時に印刷を行なう、両面印刷機構。」

(1-2)刊行物2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された、特開平4-83675号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「2.特許請求の範囲
装置本体に形成した搬送路を搬送される紙葉類に対し、前記搬送路に臨ませた印刷手段により情報の印刷を行う紙葉類印刷装置において、
前記印刷手段とは別の位置に配置された条体駆動手段と、
一端が前記印刷手段に連結され、他端が前記条体駆動手段に連結された条体とを具備し、
所定のタイミングで条体駆動手段を動作することにより、前記条体を介して印刷手段を搬送路から離脱させるようにしたことを特徴とする紙葉類印刷装置。」(第1頁左下欄第4?15行)

(b)「 [発明の目的]
(産業上の利用分野)
本発明は、紙葉類印刷装置に関し、より詳しくは、印刷手段の摩耗防止と印刷処理効率の向上を図った紙葉類印刷装置を提供することを目的とするものである。
(従来の技術)
従来、印刷手段として例えば感熱印刷ヘッドを具備した紙葉類印刷装置においては、紙葉類としての用紙が常に感熱印刷ヘッドに接触して搬送されるため、その搬送速度が、仮に印刷処理を行わない場合でも遅くなるとともに、感熱印刷ヘッドのヘッド面が摩耗し易くなる。
さらに、感熱印刷ヘッドとプラテンローラ間への逆方向からの用紙突入が難しいこと等の理由から、感熱印刷ヘッドに対し用紙を一方通行とし、印刷しない場合のためのバイパス路を設けた構成が一般的である。
(発明が解決しようとする課題)
上述したように従来装置においては、印刷しないときに用紙を通過させるバイパス路を必要とするため、構造が複雑となり装置コストが高くなるという問題がある。
また、印刷行程で印刷しない場合にも印刷ヘッド部を通過させることがあるためヘッド面の摩耗が早いという問題がある。」(第1頁左下欄第17行?第2頁左上欄第2行)

(c)「 この紙葉類印刷装置1は、前記搬送路22に沿った第1,第2のガイド部2A,2Bと、両ガイド部2A,2B間に外周面を搬送路22に臨ませた状態で配置したプラテンローラ3と、このプラテンローラ3にプリントヘッド面を当接させる状態に配置されるとともに、支軸4によりα_(1),α_(2)方向に回動可能に支持された印刷手段としての感熱印刷ヘッド5と、この感熱印刷ヘッド5とは別の位置、即ち、上方位置に配置した電磁ソレノイドを用いた条体駆動手段6と、前記感熱印刷ヘッド5に一端が連結され、条体駆動手段6の作動子6Aに他端が連結された条体(例えばワイヤ)7と、この条体7用のガイドローラ8とを具備している。
さらに、紙葉類印刷装置1は、前記感熱印刷ヘッド5から斜め上方に突設した板ばね9と、この板ばね9に当接し、感熱印刷ヘッド5をα_(2)方向に押圧する押圧部材10と、この押圧部材10による押圧状態の有無により動作する固定配置の押圧セットスイッチ11とを具備している。」(第2頁右下欄第8行?第3頁左上欄第7行)

(d)「 カードCに対し印刷処理を行う場合には、ホッパー駆動部31の動作によりホッパー24内のカードCが一枚ずつ送りローラ32,第4の搬送ローラ対23Dを経て感熱印刷ヘッド5に送られる。そして、カードCは感熱印刷ヘッド5とプラテンローラ3との間を通過し、このときCPU12の制御の基に感熱印刷ヘッド5が動作して所定の文字,数字等の情報をカードCの面に印刷する。
一方、カードCの発行に際して印刷処理を行わない場合には、CPU12はホッパー駆動部31の動作制御と同期したタイミングで前記駆動手段6を駆動制御する。
これにより、前記作動子6Aが第3図に示す矢印方向に吸引され、条体7が引張られて感熱印刷ヘッド5はα_(1)方向に回動し、そのプリントヘッド面が搬送路22から離脱する。
このように感熱印刷ヘッド5を回動させることにより、搬送路22は解放され、カードCの高速搬送が可能となり、かつ、プリントヘッド面の摩耗が回避することができ、さらに、従来例の如きカードC用のバイパス路を設けることが不要となり、搬送路の構成を簡略化できる。」(第3頁左上欄第16行?同頁右上欄第17行)

(e)第3図として、




したがって、上記の事項を総合すると、刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が開示されていると認められる。

(刊行物2発明)
「装置本体に形成した搬送路を搬送される紙葉類に対し、前記搬送路に臨ませた感熱印刷ヘッドにより情報の印刷を行う紙葉類印刷装置において、
前記感熱印刷ヘッドは別の位置に配置された条体駆動手段と、
一端が前記印刷手段に連結され、他端が前記条体駆動手段に連結された条体と、
感熱印刷ヘッドを前記搬送路側に押圧する押圧部材とを具備し、
所定のタイミングで条体駆動手段を動作することにより、前記条体を介して印刷手段を搬送路から離脱させるようにした、紙葉類印刷装置。」

(2)対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。

ア 本願補正発明において、本願明細書及び図面の記載から、「サーマルヘッド」は、「シリアルサーマルヘッド」ではなく「ラインサーマルヘッド」であることは明らかであるから、刊行物1発明における「第1のラインサーマルヘッド」及び「第2のラインサーマルヘッド」は、それぞれ、本願補正発明における「第1サーマルヘッド」及び「第2サーマルヘッド」に相当する。

イ 刊行物1発明における「第1のプラテンローラ」及び「第2のプラテンローラ」は、それぞれ、本願補正発明における「第1プラテンローラ」及び「第2プラテンローラ」に相当する。

ウ 本願補正発明において、「第1の印字部」及び「第2の印字部」との特定はないものの、実質的にその構成を備えているといえる。

エ 刊行物1発明における「用紙搬送路を挟み第1のラインサーマルヘッド(第1サーマルヘッド)と第1のプラテンローラ(第1プラテンローラ)を有する第1の印字部と、用紙搬送路を挟み第2のラインサーマルヘッド(第2サーマルヘッド)と第2のプラテンローラ(第2プラテンローラ)を有する第2の印字部とを互いに対称に配置し」た構成は、すなわち、「第1サーマルヘッドと第1プラテンローラ、及び、第2サーマルヘッドと第2プラテンローラの組み合わせが、互いに用紙搬送路を挟んで反対側の面に配置されている」構成といえる。

オ 上記ア?エから、
刊行物1発明における
「用紙搬送路を挟み第1のラインサーマルヘッド(第1サーマルヘッド)と第1のプラテンローラ(第1プラテンローラ)を有する第1の印字部と、用紙搬送路を挟み第2のラインサーマルヘッド(第2サーマルヘッド)と第2のプラテンローラ(第2プラテンローラ)を有する第2の印字部とを互いに対称に配置し」た構成は、
本願補正発明における
「上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第1面側に対向配置された第1サーマルヘッドと、
この第1サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第1プラテンローラと、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第2面側に対向配置された第2サーマルヘッドと、
この第2サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第2プラテンローラと」を備えた構成に相当する。

カ 刊行物1発明における「感熱紙は、フイードローラによって前記第1の印字部及び前記第2の印字部に送られ」の「フイードローラ」は、本願補正発明における「感熱紙を用紙搬送路に沿って供給する感熱紙供給機構」に相当し、刊行物1発明における「(感熱紙の表裏両面に同時に印刷を行なう、)両面印刷機構」は、本願補正発明における「両面印刷サーマルプリンタ」に相当する。

キ 上記オ及びカから、本願補正発明と刊行物1発明とは、
「 感熱紙を用紙搬送路に沿って供給する感熱紙供給機構と、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第1面側に対向配置された第1サーマルヘッドと、
この第1サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第1プラテンローラと、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第2面側に対向配置された第2サーマルヘッドと、
この第2サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第2プラテンローラとを備えた、両面印刷サーマルプリンタ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]:
本願補正発明は、「上記第1サーマルヘッド及び第2サーマルヘッドの少なくとも一方を上記用紙搬送路から接離させるアクチュエータ」を備えているのに対し、
刊行物1発明には、そのような特定がない点。

[相違点2]:
「用紙搬送路」に関して、
本願補正発明は、「上記第2プラテンローラが上記感熱紙の第1面側に下側から接すると共に上記感熱紙の第2面が上記第1プラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している」のに対し、
刊行物1発明には、そのような特定がない点。


(3)判断
上記相違点について検討する。
(3-1)相違点1について
ア 刊行物2には、紙葉類印刷装置の感熱印刷ヘッドの摩耗防止を目的とした、
「装置本体に形成した搬送路を搬送される紙葉類に対し、前記搬送路に臨ませた感熱印刷ヘッドにより情報の印刷を行う紙葉類印刷装置において、
前記感熱印刷ヘッドは別の位置に配置された条体駆動手段と、
一端が前記印刷手段に連結され、他端が前記条体駆動手段に連結された条体と、
感熱印刷ヘッドを前記搬送路側に押圧する押圧部材とを具備し、
所定のタイミングで条体駆動手段を動作することにより、前記条体を介して印刷手段を搬送路から離脱させるようにした、紙葉類印刷装置。」
という発明が記載されている(上記「2.(1-2)」参照)。

イ 刊行物1発明と、刊行物2発明とは、サーマルヘッド(感熱印刷ヘッド)を備えた印刷装置という共通の技術分野に属するものであり、装置の耐久性の向上は当業者にとって当然目指すべき課題であるから、刊行物1発明において、サーマルヘッドの摩耗防止を目的として、印刷を行わない際に、サーマルヘッド(感熱印刷ヘッド)を搬送路から離脱させる構成を採用することは、当業者が刊行物2発明に基づいて容易になし得たことである。

ウ 刊行物2発明の「前記感熱印刷ヘッドは別の位置に配置された条体駆動手段と、一端が前記印刷手段に連結され、他端が前記条体駆動手段に連結された条体と、感熱印刷ヘッドを前記搬送路側に押圧する押圧部材とを具備し、所定のタイミングで条体駆動手段を動作することにより、前記条体を介して印刷手段を搬送路から離脱させる」構成は、サーマルヘッドが用紙搬送路から離脱した状態と、サーマルヘッドが用紙搬送路に接した状態とを切り換えるものであるから、該構成は、「用紙搬送路から接離させるアクチュエータ」に相当するといえる。
してみると、刊行物1発明において、サーマルヘッドを搬送路から離脱させる構成を採用すれば、「上記第1サーマルヘッド及び第2サーマルヘッドの少なくとも一方を上記用紙搬送路から接離させるアクチュエータ」を備えることとなる。

エ したがって、刊行物1発明において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が刊行物2発明に基づいて容易になし得たことである。

(3-2)相違点2について
ア 「用紙搬送路」に関して、刊行物1の図面(上記「(1-1)(c)」図1)を参照すると、刊行物1発明は、直線状の用紙搬送路を有し、「第1プラテンローラ(第1のプラテンローラ13)が感熱紙の第2面側に下側から接し、第2プラテンローラ(第2のプラテンローラ23)が感熱紙の第1面側に上側から接する」構成を有しているものの、「上記第2プラテンローラが上記感熱紙の第1面側に下側から接すると共に上記感熱紙の第2面が上記第1プラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している」との構成を有するものではない。

イ しかしながら、サーマルプリンタにおいて、感熱紙がプラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している構成は周知技術である(例.特開2001-341371号公報、図6(b)、特開2004-90255号公報、図1参照)。

ウ また、感熱紙のどちら側を第1面とするか(感熱紙の上面側及び下面側の配置)は当業者が適宜決定すべき事項であるから、「第2プラテンローラが感熱紙の第1面側に上側から接する」か、それとも、「第2プラテンローラが感熱紙の第1面側に下側から接する」かは、設計上の微差に過ぎない。

エ さらに、プリンタにおいて、プラテンローラの前後で搬送方向を変えるなど、用紙搬送路を適宜に屈曲させることも周知技術である(例.実願平1-68917号(実開平3-8552号)のマイクロフィルム、第1図、実願昭63-3245号(実開平1-108743号)のマイクロフィルム、第1図参照)。

オ 請求人は、請求の理由において「本願(補正)発明のテンション付与機構は・・・感熱紙が屈曲するようにプラテンローラを配置するだけの簡易な機構で感熱紙にテンションを付与することができ」(「3.本願発明が特許されるべき理由 (3)本願発明と刊行物等との対比」参照)と主張するが、用紙搬送路を適宜に屈曲させることは、上記エのとおり周知技術であり、かつ、「感熱紙にテンションを与える」ことは、印刷を適切に行うために当業者が採用すべき自明の事項である。

カ したがって、刊行物1発明において、「上記第2プラテンローラが上記感熱紙の第1面側に下側から接すると共に上記感熱紙の第2面が上記第1プラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している」構成を採用することは、当業者が上記イ及びエの周知技術に基づいて適宜なし得たことである。

(3-3)本願補正発明が奏する効果について
上記相違点1及び2によって、本願補正発明が奏する効果は、刊行物1?2に記載された事項及び周知技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

(4)まとめ
以上のように、本願補正発明は、当業者が刊行物1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.補正却下の決定についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成20年12月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明は、平成20年8月4日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものであり、特に、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

(本願発明)
「 感熱紙を用紙搬送路に沿って供給する感熱紙供給機構と、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第1面側に対向配置された第1サーマルヘッドと、
この第1サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第1プラテンローラと、
上記用紙搬送路に沿って設けられ、上記用紙搬送路の第2面側に対向配置された第2サーマルヘッドと、
この第2サーマルヘッドに対して上記用紙搬送路を挟んで配置された第2プラテンローラと、
上記第1サーマルヘッド及び第2サーマルヘッドの少なくとも一方を上記用紙搬送路に対して接離させるアクチュエータとを備えていることを特徴とする両面印刷サーマルプリンタ。」

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用された刊行物1?2、及び、その記載事項は、前記「第2.2.(1-1)(1-2)」で示したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2.2.」で検討した本願補正発明から、「用紙搬送路」に関して、「上記第2プラテンローラが上記感熱紙の第2面側(第1面側の誤記)に下側から接すると共に上記感熱紙の第1面(第2面の誤記)が上記第1プラテンローラの下面から上方に向う面に渡って接している」との限定を削除したものであるから、本願発明と刊行物1発明とは、上記「第2.2.(2)」の相違点1のみで相違する。

したがって、本願発明は、上記「第2.2.」で検討したとおり、当業者が刊行物1?2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、当業者が刊行物1?2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-20 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願2006-151693(P2006-151693)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 数井 賢治名取 乾治  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 菅野 芳男
野村 伸雄
発明の名称 両面印刷サーマルプリンタ及びサーマルヘッド保持方法  
代理人 風間 鉄也  
代理人 白根 俊郎  
代理人 砂川 克  
代理人 佐藤 立志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 市原 卓三  
代理人 村松 貞男  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 哲  
代理人 河井 将次  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 福原 淑弘  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 山下 元  
代理人 野河 信久  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 哲  
代理人 村松 貞男  
代理人 岡田 貴志  
代理人 竹内 将訓  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 峰 隆司  
代理人 福原 淑弘  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 直樹  
代理人 中村 誠  
代理人 勝村 紘  

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