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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1225866
審判番号 不服2009-19606  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-14 
確定日 2010-10-28 
事件の表示 特願2003- 92147「定着ユニット、熱定着ローラ及びそれを有する記録装置、並びに、その製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日出願公開、特開2004-301930〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年3月28日の出願であって、平成21年7月9日になされた拒絶査定に対して同年10月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年同日付で手続補正がなされ、その後、当審において平成22年5月19日付けで通知した拒絶理由に対して、同年7月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

本願の請求項1?4に係る発明は、平成22年7月20日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
トナーを記録紙に定着するための定着ユニットであって、
中空円筒形状を有し、厚さが0.6mm以下の金属材料からなる熱定着ローラと、
前記熱定着ローラを加熱するための加熱部と、
前記熱定着ローラに加圧力を加える加圧部と、
前記熱定着ローラを回転駆動するために前記熱定着ローラに装着された駆動ギアとを有し、
前記熱定着ローラには単一の切り欠き部が設けられ、前記駆動ギアには前記切り欠き部に嵌合する突起部が設けられており、
前記加熱部により前記熱定着ローラが加熱された状態では、前記熱定着ローラの外径が前記駆動ギアの内径以上になるように設定され、前記熱定着ローラの外径をaとし、前記駆動ギアの内径をbとすると、a及びbは0≦a-b≦0.2mmの条件を満足することを特徴とする定着ユニット。」


2.引用刊行物の記載
これに対して、当審で通知した上記拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された、特開平10-198210号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は、一端部に切欠き溝を備えた円筒状素管と、該円筒状素管の外周面に嵌合するとともに、前記切欠き溝と係合する突起部を内周面に備えた環状ギヤとを有する定着ローラに関する。」

(b)「【0002】
【従来の技術】レーザプリンタや複写機などの電子写真装置において、トナー像を用紙などの記録材上に定着させる手段として、例えば、加熱ローラと、該加熱ローラに圧接する加圧ローラからなる定着ローラ方式の定着装置を搭載したものが知られている。そして、この種の定着装置においては、加熱ローラと加圧ローラの間を記録材が通過する際に、一定の荷重を受けることによりトナー像が定着される。
【0003】加熱ローラは、通常、アルミニウムや鉄などの円筒状素管(以下、「芯金」とも記載する。)の上にPFAやPTFE等の離型性樹脂層を設けた構造になっており、芯金の内部に配置したヒータによって加熱を行うようになっている。また、加熱ローラの一端部には、加熱ローラを回転させるためにモータ等の駆動装置からの動力を伝達するためのギヤが設けられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、加熱ローラに対するギヤの取り付け手段としては、ねじによる締結、キーとキー溝による固定、あるいは溶接などの手段が用いられている。先にも述べた様に加熱ローラは高温になるため、加熱ローラとギヤとの間あるいは締結部材の間に熱による膨張が発生し、加熱ローラ、ギヤ、締結部材との間に膨張率の差が生じ、ねじの緩み、キーのはずれ、溶接部の剥離などの加熱ローラとギヤの接続不良が発生する。
【0005】加熱ローラとギヤに接続不良があるにもかかわらず、該加熱ローラを定着装置に実装すると、駆動力の伝達不足が生じ、駆動効率が低下し、消費電力が大きくなるという問題が生じる。また、加熱ローラとギヤの接続不良により加熱ローラの回転むらが生じ、記録材が加圧ローラと加熱ローラの間を通過する際に記録材と加熱ローラ間にせん断力が生じ、記録材上の画像を乱してしまうという問題を招いてしまう。
【0006】従って、ギヤの接続不良に起因する問題点を解決するためには、加熱ローラとギヤの嵌め合いを厳しく管理したり、加熱ローラとギヤを複数のボルトで固定する際のボルトの締め付けトルクを大きくするなどの対策がとられていたが、これらの対策によると加熱ローラとギヤ以外の接続部材が必要になったり、作業工程が増加するとともに価格が増大するという問題点があった。
【0007】また、ギヤはヒータの近くに配置され、通常150℃?220℃程度の高温に加熱されているため、耐熱性を確保できる金属製ギヤを用いるが、金属製ギヤを使用した場合、加工が難しく、重量も大きくなり、価格も高くなるという問題点があった。
【0008】さらに、金属製ギヤが高温になり熱膨張し、加熱ローラとの締結力が大きくなると加熱ローラとギヤ間のストレスが大きくなり、加熱ローラ寿命およびギヤの寿命を短くし、接続不良を発生させる原因ともなっていた。
【0009】本発明の目的は、記録材上のトナー像を乱すことなく、消費電力を小さくするのに適当な定着ローラを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的は、一端部に切欠き溝を備えた円筒状素管と、該円筒状素管の外周面に嵌合するとともに、前記切欠き溝と係合する突起部を内周面に備えた環状ギヤとを有する定着ローラにおいて、前記円筒状素管の前記切欠き溝を設けた同一周面上に応力緩和溝を設けることにより達成される。」

(c)「【0011】
【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例を示す定着装置の構成図である。図1において、1は加熱ローラ、1aは切欠き溝、2はギヤ、2aは切欠き溝1aと係合する突起部(以下、「リブ」と称する。)、3はヒータランプ、4は加圧ローラ、5はアーム、6はスプリング、8は記録材である。記録材8は本実施例の場合、紙である。図2は加熱ローラの外観図である。図2において、1は加熱ローラ、1aは切欠き溝である。図3は環状ギヤの外観図である。図3において、2はギヤ、2aはリブである。図4は加熱ローラとギヤの締結状態の外観図である。図4において、1は加熱ローラ、1aは切欠き溝、2はギヤ、2aはリブである。図5はギヤ2の正面からの模式図である。図6は切欠き溝1aの一例を示す図である。
【0012】以上の構成に基づき定着装置の動作について説明する。なお、図1においてギヤ2の駆動はメインモータ(図示せず)で与えられる。先ず、図1において、未定着トナー像を保持した記録材8は図1中矢印Bの方向に搬送される。このとき加熱ローラ1は中央部にヒータランプ3が配置されておりヒータランプ3に通電することにより加熱ローラ1表面の温度を所望の値に設定している。加熱ローラ1の表面温度の制御は図示しない温度制御装置にて行われる。本実施例の場合、定着装置動作時には加熱ローラ1の表面温度を170℃に設定している。
【0013】加熱ローラ1の端部にはギヤ2が装着されている。その外観は図4に示している。加熱ローラ1の端部外周には切欠き溝1aが4箇所設置されている。切欠き溝1aの外観は図2に示す。切欠き溝1aに接合する状態でリブ2aが配置されている(リブ2aの外観を図3に示す)。
【0014】本実施例では、常温25℃環境下において加熱ローラ1の軸端部の外形を30-0.022mm?30-0.053mmの範囲に設定している。・・・(略)・・・さらに、リブ2aは図5の形状であり、図5中Eの寸法は4+0mm?4-0.1mm、図7中Fの寸法を29.9±0.04mmにしている。そして、4箇所の切欠き溝1aの内、いずれか1つの切欠き溝1aとリブ2aとが接合される。
【0015】加熱ローラ1とギヤ2との締結は常温環境下にて実施する。常温環境下において前述の寸法の加熱ローラ1とギヤ2を締結するためには図示しない圧入ジグにて圧入する必要がある。・・・(略)・・・ここで用いている加熱ローラ1の芯金材質はアルミニウム、ギヤ2の材質は耐熱性を有するポリイミドである。本実施例のギヤ2は樹脂部材であるので従来の金属性ギヤと比較すると安価に製造が可能である。
【0016】図1において、加熱ローラ1がヒータランプ3により加熱されると加熱ローラ1は熱膨張し、加熱ローラ1の外径が大きく、内径が小さくなろうとする。このとき加熱ローラ1に締結されているギヤ2は加熱ローラ1に接触している領域を中心に熱膨張し、内径が小さくなる様に力が作用する。しかし、ギヤ2は樹脂材料であるため、加熱ローラ1の芯金材料であるアルミニウムとは膨張率が異なり、加熱ローラ1の膨張と比較すると無視できる程度である。従って、加熱ローラ1が加熱された際、加熱ローラ1の外径が大きくなろうとし、さらにリブ2aと切欠き溝1aとの接合部においてはリブ2aと切欠き溝1aの接合力が高まる様に力が作用し、ギヤ2との密着性が高まる。
【0017】この際、リブ2aと接合されていない3箇所の切欠き溝1aは締結力を逃がす様に作用し、ギヤ2に過剰な応力が作用することを防止する応力緩和溝として機能する。従って加熱ローラ1とギヤ2はがたつきのない様に締結され、さらに加熱ローラ1およびギヤ2に過剰な負荷が発生することがない。」

(d)「【0019】なお、本実施例では加熱ローラ1とギヤ2の締結の例を挙げたが、軸と駆動用の歯車が別部材である例えば搬送ローラなどにおいても本実施例の構成が適応可能なことは言うまでもない。膨張率が異なる部材の締結にはすべて適応可能である。また、本実施例では加熱ローラ1の切欠き溝1aが4箇所、ギヤ2のリブ2aが1箇所の例を示したが、本発明はこれらの数に限定されるものではなく、切欠き溝1aの数がリブ2aの数よりも多い関係にあれば同等の効果が得られる。」

(e)図面は次のとおり。


これら記載によれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「一端部に切欠き溝を備え、内部にヒータランプを有する加熱ローラと、加熱ローラの外周面に嵌合するとともに、前記切欠き溝と係合する突起部を内周面に備えた環状ギヤと、加熱ローラと対向して配置される加圧ローラを備える定着装置であって、
加熱ローラは円筒状素管で、その芯金の材質がアルミニウムであり、環状ギヤは、材質がポリイミドであり、
加熱ローラの端部外周には、環状ギヤの突起部に係合する前記切欠き溝とは別に、環状ギヤの突起部に係合しない切欠き溝を少なくとも1つ設け、
軸端部の外形が常温下で30-0.022mm?30-0.053mm(即ち、29.947?29.978mm)の加熱ローラは、内径寸法が常温下で29.9±0.04mm(即ち、29.86?29.94mm)の環状ギヤに圧入されており、
加熱時には、加熱ローラは外径が大きくなるよう熱膨張するが、環状ギヤの熱膨張は加熱ローラの膨張に比較すると無視できる程度であり、
加熱ローラが加熱された際、加熱ローラの外径が大きくなろうとし、さらに突起部と切欠き溝との接合部においては突起部と切欠き溝の接合力が高まる様に力が作用し、環状ギヤとの密着性が高まり、この際、突起部と接合されていない切欠き溝は締結力を逃がす様に作用し、環状ギヤに過剰な応力が作用することを防止する応力緩和溝として機能する、
定着装置。」


3.対比、判断
そこで、本願発明1と引用例1発明とを比較すると、
引用例1発明の、
円筒状素管である「加熱ローラ」、
「ヒータランプ」、
「環状ギヤ」、
「突起部」、
「加圧ローラ」、
「定着装置」、
「環状ギヤの突起部に係合する前記切欠き溝」は、
それぞれ、本願発明1の、
中空円筒形状を有する「熱定着ローラ」、
「前記熱定着ローラを加熱するための加熱部」、
「前記熱定着ローラを回転駆動するために前記熱定着ローラに装着された 駆動ギア」、
駆動ギアに設けられた「突起部」、
「前記熱定着ローラに加圧力を加える加圧部」、
「トナーを記録紙に定着するための定着ユニット」、
前記突起部が嵌合する「切り欠き部」、
に相当する。

また、引用例1発明は、常温下で環状ギヤが圧入された加熱ローラが加熱され、更に加熱ローラの外径が膨張しているので、ヒータランプにより加熱ローラが加熱された状態では、加熱ローラの外径は環状ギヤの内径以上であることは明らかであるから、
引用例1発明の当該事項は、本願発明1の「前記加熱部により前記熱定着ローラが加熱された状態では、前記熱定着ローラの外径が前記駆動ギアの内径以上になるように設定され」に相当する。

そうすると、両発明の一致点、相違点は、次のとおりと認められる。

[一致点]
「トナーを記録紙に定着するための定着ユニットであって、
中空円筒形状を有する、熱定着ローラと、
前記熱定着ローラを加熱するための加熱部と、
前記熱定着ローラに加圧力を加える加圧部と、
前記熱定着ローラを回転駆動するために前記熱定着ローラに装着された駆動ギアとを有し、
前記熱定着ローラには切り欠き部が設けられ、前記駆動ギアには前記切り欠き部に嵌合する突起部が設けられており、
前記加熱部により前記熱定着ローラが加熱された状態では、前記熱定着ローラの外径が前記駆動ギアの内径以上になるように設定される、
定着ユニット。」

[相違点]
本願発明1は、
熱定着ローラが、厚さが0.6mm以下の金属材料からなるものであり、
「前記熱定着ローラには単一の切り欠き部が設けられ、前記駆動ギアには前記切り欠き部に嵌合する突起部が設けられており」と規定されるように、駆動ギア突起部が嵌合する「切り欠き部」のみであり、駆動ギア突起部が嵌合しない「切り欠き部」は存在せず、
また、加熱部により熱定着ローラが加熱された状態では、「熱定着ローラの外径をaとし、駆動ギアの内径をbとすると、a及びbは0≦a-b≦0.2mmの条件を満足する」のに対して、
引用例1発明は、
加熱ローラ(熱定着ローラ)は、厚さの特定がなく、芯金がアルミニウムであり、
加熱ローラには、環状ギヤの突起部に係合する切欠き溝とは別に、環状ギヤの突起部に係合しない切欠き溝が少なくとも1つ設られており、この突起部と接合(係合)されていない切欠き溝は、締結力を逃がす様に作用し、環状ギヤに過剰な応力が作用することを防止する応力緩和溝として機能するものであり、
また、加熱部により熱定着ローラが加熱された状態において、熱定着ローラの外径が駆動ギアの内径以上であるが、その差の上限が0.2mm、下限が0mmとは明記されていない点。

そこで、相違点について検討する。

ウォームアップ時間の短縮を実現するために、熱定着ローラの厚さを0.6mm以下の程度にすることは、本願出願前に周知の技術である。例えば、特開平7-13450号公報(【0012】)、特開平8-22212号公報(【0002】)、特開2002-258664号公報(【0010】)を参照。したがって、引用例1発明において、熱定着ローラの厚さを0.6mm以下にすることに困難性はない。

また、本願発明1は、熱定着ローラが「金属材料からなるもの」と規定するが、本願明細書【0041】には、熱定着ローラの表面にはトナーが付着することを防止するためのコーティングを施す旨の記載があるから、本願発明1は、そのようなコーティングを施したものを排除していないと理解される。そうすると、引用例1発明における、芯金がアルミニウムである加熱ローラ(1)も、本願発明1の「金属材料からなるもの」といえるから、この点は、実質的に相違点でない。

次に、加熱部により熱定着ローラが加熱された状態における、熱定着ローラの外径aと環状ギヤの内径bの関係について検討する。
引用例1発明では、加熱部により熱定着ローラが加熱された状態において、熱定着ローラの外径aが環状ギヤの内径b以上であるところ、熱定着ローラには応力緩和溝が設けられており、熱定着ローラに駆動ギアが嵌合して応力緩和溝の作用を受ける部分では、熱定着ローラの実質的な外径(以下、これを「外径a’」と表現する。)は、熱定着ローラの外径a(すなわち、応力緩和溝の作用を受けない部分での外径)よりも、小さくすることができる(応力緩和溝の作用を受ける部分では、外径が小さくなるように変形できるため)ので、熱定着ローラの実質的な外径a’は、環状ギヤの内径bに追従して、環状ギヤの内径bとほぼ同じ大きさに留まると理解される。
また、応力緩和溝の作用を受ける部分では、応力緩和溝が締結力を逃がす様に作用する結果、熱定着ローラと駆動ギアの間の締結力が小さくなっているが、それでも、締結力がゼロになることはなく、かつ、「環状ギヤに過剰な応力が作用する」こともないから、いわば「適度な締結力」が働いている状態にあるということができる。
この「適度な締結力」は、本願明細書【0046】の「切り欠き部214が広がりを外部から物理的に拘束するために、図4(b)に示すように、圧縮応力が分布する。この圧縮応力は引張応力を低減又は相殺する力であるために疲労亀裂の発生を防止することができる。」でいう「圧縮応力」をもたらすもの(引張応力を完全に相殺しないまでも、低減することは明らかである。)ということができる。
また、本願明細書【0048】では、「a-bが0.2mm以上では、特に、熱定着ローラ210がアルミニウム又は鉄製である場合に塑性変形が顕著になる」と説明されているが、この観点では、引用例1発明の「適度な締結力」は、アルミニウムの芯金に塑性変形を与えないような緩和された「圧縮応力」をもたらすものということができる。
ところで、本願発明1は、「a-b」の上限を0.2mmと規定するが、熱定着ローラの塑性変形の発生は、当然のことながら、熱定着ローラの金属材料の種類や熱定着ローラの寸法(a-bのような差分ではなく、例えば外径aの絶対値)にも依存するところ、本願発明1では、熱定着ローラの金属材料の種類や、熱定着ローラの外径aは特定されていないので、「a-b」の上限0.2mmに係る臨界的意義は明確でない。

これらのことを勘案すると、引用例1発明において、周知である「厚さが0.6mm以下の金属材料からなる薄肉の熱定着ローラ」を採用するとともに、応力緩和溝の作用を受ける部分での熱定着ローラの実質的な外径a’と、環状ギヤの内径bとの関係を、「0≦a’-b≦0.2mmの条件を満足する」ものにすることは、当業者が適宜なしうることである。なお、引用例1は、熱膨張による熱定着ローラと環状ギアの間のストレス増大を問題にしている(【0008】参照)から、「厚さが0.6mm以下の金属材料からなる薄肉の熱定着ローラ」を採用したときに、薄肉の熱定着ローラの強度に応じた「適度な締結力」に設定することは当然である。

そして、引用例1発明は、環状ギヤの突起部に係合しない切欠き溝(応力緩和溝)を少なくとも1つ設けることを構成要件としているけれども、応力緩和溝がなくても、「適度な締結力」を調整することは、常温における熱定着ローラの外径と環状ギヤの内径の差を熱膨張を踏まえて適切に設定すれば可能であるので、応力緩和溝がない状態で、0≦a-b≦0.2mmを満たすようになすことは、当業者が容易になし得る程度の変更である。

(請求人の主張について)
請求人は意見書で次のように主張する。
『引用文献1には、加熱ローラ1の端部外周に切欠き溝1aが4箇所設置されていることが開示されている(段落0013、図2)。また、この4つの切欠き溝1aがギア2に過剰な応力が作用することを防止する応力緩和溝として機能することが開示されている(段落0017)。
しかしながら、引用文献1には、熱定着ローラの厚さについて何ら開示がなく、上記特徴Aを何ら開示も示唆もしていない。また熱定着ローラを薄肉にして駆動した際に疲労亀裂が発生することについても何ら開示がない。
この点について、審判長殿は、「引用例1発明イの定着装置において、熱定着ローラの厚さを本願発明2,3のように規定することは、当業者が適宜なし得ることに過ぎない。」と指摘している。
しかし、引用文献1の熱定着ローラが、本願明細書段落0008に記載されるような従来の1.8mmの肉厚を有している場合は、応力緩和溝としての切欠き溝1aを4箇所設けたとしても疲労亀裂の問題が顕著にならなかったかもしれないが、引用文献1の熱定着ローラの厚さを0.6mm以下にした場合は本願明細書段落0008に記載の疲労亀裂の問題がより顕著になる。
つまり、引用文献1には、熱定着ローラの肉厚について記載されていないが、これを0.6mm以下にした場合には本発明と同様の課題が発生する。
補正後の請求項1及び4に係る発明では、加熱時に駆動ギアから受ける拘束により単一の切り欠き部に集中した圧縮応力が、駆動ギアの回転に伴う引張応力を相殺している。
一方、引用文献1でも加熱時に駆動ギアから受ける拘束により切欠き溝1aに圧縮応力が発生していると考えられるが、加熱ローラ1の端部外周には応力緩和溝として機能する切欠き溝1a(段落0017)が4箇所設けられているために圧縮応力が分散してしまい、駆動ギアの回転時に熱定着ローラに発生する疲労亀裂を効果的に防止することはできない。
したがって、引用文献1において、熱定着ローラに発生する疲労亀裂を効果的に防止するためには、より強い圧縮応力を発生させる必要がある。
しかしながら、その場合は、加熱時において熱定着ローラの外径をより大きく(又は駆動ギアの内径をより小さく)する必要があり、そのように構成した場合は本願明細書段落0048に記載のように塑性変形が顕著となる。』

そこで検討すると、請求人は、「引用文献1でも加熱時に駆動ギアから受ける拘束により切欠き溝1aに圧縮応力が発生していると考えられるが、加熱ローラ1の端部外周には応力緩和溝として機能する切欠き溝1a(段落0017)が4箇所設けられているために圧縮応力が分散してしまい、駆動ギアの回転時に熱定着ローラに発生する疲労亀裂を効果的に防止することはできない。」と主張するが、
本願明細書【0046】で説明されているのは、「切り欠き部214が広がりを外部から物理的に拘束するために、図4(b)に示すように、圧縮応力が分布する。この圧縮応力は引張応力を低減又は相殺する力であるために疲労亀裂の発生を防止することができる。」というものであって、本願発明1では、圧縮応力は、引張応力を完全に相殺しないまでも、低減することでよいのである。このことは、本願発明1における「a-b」の下限「0mm」の状態では、引張応力を充分に相殺できるような「圧縮応力」が生じるかどうか疑わしいことからも明らかである。
そして、引用例1発明は、上記で検討したとおり、「適度な締結力」を作用しており、これが、引張応力を完全に相殺しないまでも低減する「圧縮応力」をもたらすことは明らかである。
また、引用例1発明において、熱定着ローラの厚さを0.6mm以下にした場合の「適度な締結力」については、上記で検討したとおり、引用例1は、熱膨張による熱定着ローラと環状ギアの間のストレス増大を問題にしている(【0008】参照)から、「厚さが0.6mm以下の金属材料からなる薄肉の熱定着ローラ」を採用したときに、薄肉の熱定着ローラの強度に応じた「適度な締結力」に設定することは当然である。
よって、請求人の主張を採用することができない。

(まとめ)
したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-26 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-14 
出願番号 特願2003-92147(P2003-92147)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩田 裕介  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 一宮 誠
伏見 隆夫
発明の名称 定着ユニット、熱定着ローラ及びそれを有する記録装置、並びに、その製造方法  
代理人 藤元 亮輔  

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