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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1225956
審判番号 不服2007-8443  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-22 
確定日 2010-10-28 
事件の表示 特願2003-122359「電力調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月18日出願公開、特開2004-328498〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年4月25日の出願であって、平成19年1月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年3月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成19年4月20日付けで手続補正がなされたものである。その後、当審において、この補正に対する却下の決定が平成22年3月30日付けでなされるとともに、同日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、平成22年6月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年6月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】 応答信号としてNACKが返信されてきた場合に再送される上りデータを送信するために利用されるエンハンス個別データチャネルを含む複数のチャネルを使い端末から基地局に向けて行う無線送信の電力を調整する電力調整方法であって、
前記複数のチャネルにおける送信電力を合計した合計電力が、前記端末の送信可能な最大電力を超えるかどうかを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて、前記合計電力が前記最大電力を超えると判定された場合に、前記合計電力が前記最大電力を超えないように、前記複数のチャネルのうち前記エンハンス個別データチャネルについて、電力を調整するためのゲインファクタの値を下げると共に、前記エンハンス個別データチャネル以外のチャンネルについて、電力を調整するためのゲインファクタの値を維持する電力調整ステップと、
前記端末からのデータに関するACKまたはNACKをACK/NACK通知用のチャネルを利用して、前記基地局から前記端末に通知する通知ステップと、
前記通知ステップにおいてNACKが通知された場合に、前記端末から前記基地局にデータの再送を行う再送ステップとを含むことを特徴とする電力調整方法。」

3.刊行物
当審における、平成22年3月30日日付けで通知した拒絶の理由で引用した刊行物は次のとおりである。

刊行物1.Motorola, “Design Considerations for Enhanced Uplink Dedicated Channel”, 3GPP RAN1#29 R1-02-1350, November 8th, 2002

刊行物2.特開2002-190774号公報

刊行物3.立川敬二監修「W-CDMA移動通信方式」丸善, 平成13年6月25日, pp.119-120

刊行物4.3GPP TS 25.213 V3.8.0 (2002-06), pp.7-9

3-1.刊行物1の記載
刊行物1には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(ア)第1頁第5行から第13行
Several enhancements for packet data services for uplink using dedicated transport channels so that the system could support higher peak rates while maximizing the capacity and coverage of the system using a new uplink channel called Enhanced Uplink Dedicated Transport Channel (EUDTC) were discussed in [1]. The following enhancements were proposed :

1. Adaptive modulation and coding (BPSK, QPSK and possibly 8-PSK )
2. Hybrid ARQ (both IR and Chase)
3. Node-B based scheduling
4. Efficient associated control channels
5. Fast DCH setup and lower end-to-end delay

〈和訳〉
エンハンスト・アップリンク・デディケイテッド・トランスポート・チャネル(EUDTC)と呼ばれる新しい上りリンクチャネルを用い、システムの容量とカバレッジを最大化しつつ、システムがより速いピーク速度をサポートできるようにしたデディケイテッド・トランスポート・チャネルを用いる上りリンク用のパケットデータサービスは、[1]で議論された。以下の機能強化が提案された。
1.適応変調符号化(BPSK、QPSK及び場合によっては8-PSK)
2.ハイブリッドARQ(IR及びChaseの双方)
3.Node-Bベースのスケジューリング
4.関連する効率的な制御チャネル
5.高速なDCHセットアップ及び少ない末端間の遅延

(イ)第1頁第35行から第2頁第1行
The scheduling assignment may consist of the maximum allowed 'power margin' target (note: this is equivalent to specifying a maximum data transmission rate), a map of the allowed EUDCH sub-frame (2ms e.g.) transmission intervals for the next 10ms transmission interval .

〈和訳〉
スケジュール割当は、最大許容「電力マージン」目標(注:これは最大データ伝送速度を規定することと同等である)、次の10ms伝送期間で許容されたEUDCHサブフレーム(例、2ms)伝送期間のマッピングからなり得る。

(ウ)第2頁第13行から第18行
A EUDCH sub-frame of data for a given H-ARQ channel is demodulated and decoded. The resulting EUDCH soft decision information is combined and stored in the serving NodeB's HARQ buffer along with previous and subsequent transmissions until the sub-frame successfully decodes at which time an ACK is signaled to the UE on the downlink Ack/Nack control channel. Otherwise a NACK is signaled to the UE on a downlink Ack/Nack control channel.

〈和訳〉
所与のH-ARQチャネルに対するデータのEUDCHサブフレームは、復調され復号される。結果として生じるEUDCH軟判定情報は、サービングNodeBのHARQバッファにて、そのサブフレームの復号に成功してACKが下りリンクACK/NACK制御チャネルでUEに送られるときまで、前後の伝送と共に結合され蓄積される。さもなければNACKが下りリンクACK/NACK制御チャネルでUEに送られる。

(エ)Figure 1では、UEからNode-BにEUDCHが伝送された後、Node-BからUEにACK又はNACKが伝送されることが見てとれる。

(オ)Figure 2では、DPDCH_(1)にC_(d,1)及びβ_(d)が乗算され、DPDCH_(3)にC_(d,3)及びβ_(d)が乗算され、Sch Inf CCHにC_(d,5)及びβ_(d)が乗算され、EUDCHにC_(eudch)及びβ_(eudch)が乗算され、TFRI CCHにC_(d,4)及びβ_(d)が乗算され、DPCCHにC_(c)及びβ_(c)が乗算され、HS-DPCCHにC_(HS)及びPower setting for HS-DPCCHが乗算され、それらが加算されて多重化されることが見てとれる。

上記刊行物1において、EUDTC、EUDTCH及びEUDCHが同一のチャネルすなわちエンハンスト・アップリンク・デディケイテッド・チャネル(Enhanced Uplink Dedicated Transport Channe)のことを指すのは、明らかである。

以上の刊行物1の記載によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載発明」という。)が記載されていると認められる。

「エンハンスト・アップリンク・デディケイテッド・トランスポート・チャネル(以下「EUDTCH」という。)と呼ばれる新しい上りリンクチャネルを用い、デディケイテッド・トランスポート・チャネルを用いる上りリンク用のパケットデータサービスであって、
最大許容「電力マージン」目標(注:これは最大データ伝送速度を規定することと同等である)が設定され、
UEからNode-BにEUDTCHが伝送された後、Node-BからUEにACK又はNACKが伝送され、
所与のH-ARQチャネルに対するデータのEUDTCHサブフレームが復調され復号され、結果として生じるEUDTCH軟判定情報が、サービングNodeBのHARQバッファにて、前後の伝送と共に結合され蓄積され、そのサブフレームの復号に成功するとACKが下りリンクACK/NACK制御チャネルでUEに送られ、さもなければNACKが下りリンクACK/NACK制御チャネルでUEに送られ、
DPDCH_(1)にβ_(d)が乗算され、DPDCH_(3)にβ_(d)が乗算され、Sch Inf CCHにβ_(d)が乗算され、EUDTCHにβ_(eudch)が乗算され、TFRI CCHにβ_(d)が乗算され、DPCCHにβ_(c)が乗算され、HS-DPCCHにPower setting for HS-DPCCHが乗算され、それらが加算されて多重化される、
上りリンク用のパケットデータサービス。」

3-2.刊行物2の記載
刊行物2には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(カ)第0005段落
【0005】特に、無線アクセスにCDMA(Code Division Multiple Access)方式が用いられる無線基地局では、トラヒックに応じて複数の無線チャネルが束ねられるので、電力増幅装置への入力が過入力になりやすい。そのため、CDMA方式を用いた無線基地局では、この過入力に対する電力増幅装置の保護を目的とした入力保護策として、当該電力増幅装置に入力される電力の圧縮が行われる。

(キ)第0009段落から第0010段落
【0009】このように、共通制御チャネルが圧縮されていない状態では、無線基地局に在圏する移動局Bはサービスエリア内となるが、共通制御チャネルの電力が圧縮された状態ではセル端にいる移動局A及び移動局Cは、サービスエリア外となってしまう恐れがある。この場合、移動局Aおよび移動局Cのようにサービスエリア端に存在する移動局では、所定のサービスを満足に受けることができないという問題が生じていた(図7参照)。
【0010】そこで、本発明の第一の課題は、無線基地局からの総送信電力が当該無線基地局にて許容されなくなった場合であっても、呼制御などに用いられる重要なチャネルの送信電力を劣化させることなく、当該無線基地局の破損を防ぐことが可能になる送信電力制御方法を提供することである。

(ク)第0048段落から第0051段落
【0048】第一の方法の場合、可変出力送信部211は、入力された両クラスの全無線チャネルの電力Pに比例した電力を許容入力監視部213へ送出する。許容入力監視部213は、電力増幅装置212へ送られる可変出力送信部211からの出力信号P(=電力増幅装置212への入力電力の総和P)を監視し(図4のS1)、その監視結果を比較判定部214に送出する。ここで、許容入力監視部213にて監視される可変出力送信部211からの出力電力Pは、次式のように表される。
【0049】
【数1】
P = ΣP_(CHi) + ΣP_(CHj) (全チャネル数=m+n)
上記式(4)で、P_(CHi)は、圧縮の対象となる無線チャネル、P_(CHj)は、圧縮の対象とならない無線チャネル(例:共通制御チャネル)である。従って、可変出力送信部211の出力電力のPは全無線チャネルの総和がとられる。
【0050】比較判定部214は、参照電力発生部215で発生する参照電力と許容入力監視部213からの出力Pとを比較判定する。この参照電力発生部215が発生する参照電力は、電力増幅装置212を常に正常に動作させるための基準となる電力であり、換言すれば、電力増幅装置212の入力として加える電力量を一定値(閾値)P_(th1)以内に保持するための基準となる電力である。すなわち、比較判定部214では、許容入力監視部213からの出力Pと上述の閾値P_(th1)(=参照電力)との比較が行われ、該出力Pが閾値P_(th1)を超えた場合(S2でYES)、圧縮すべき無線チャネルの圧縮を行うために必要な電力圧縮量β(上記式(3))が計算される(S3)。
【0051】このようにして計算された電力圧縮量(β)は、可変出力送信部211で受信され、電力を圧縮すべきチャネル(P_(CHi))と乗算され(P_(CHi)=β_(PCHi))、その乗算された信号が新たに可変送信出力部211からの信号出力として再設定される(S4)。

(ケ)第0071段落
【0071】以上、電力増幅装置212へ入力される電力の電力制御方法として2つの方法を例にとり説明を行った。本発明に適用されるこれら2つの方法によれば、無線チャネルを複数のクラスに分類し、総送信電力が装置(この場合、電力増幅装置212)の能力を上回った場合には、図5のに示すように、特定のクラスに分類されるチャネル、P_(CHm+1)、P、_(CHm+2)・・・、P_(CHm+n)までは、全く圧縮制御を受けさせずに当該無線チャネルの電力が一定に保たれるよう送信電力の圧縮制御が行われる。また、図5のに示すように、他方のクラスに分類されるチャネルでは、無線チャネルA_(1)P_(CH1)、A_(2)P_(CH2)、・・・、A_(m)P_(CHm)までが圧縮対象の無線チャネルとなり、圧縮が施される(図5中のA_(1)?A_(m)はチャネルごとに定められた圧縮率で圧縮されることを表す)。

(コ)第0073段落
【0073】これまでの説明は、本発明をセルラ移動通信システムの無線基地局200の無線信号送信部210に適用した場合について説明を行ってきたが、本発明の適用は無線基地局200ばかりでなく、無線基地局200と対向して通信を行う移動局A300?移動局C300にも適用することが可能である。

4.対比
本願発明と刊行物1記載発明とを以下で対比する。

刊行物1記載発明の「Node-B」及び「NodeB」は、本願発明の「基地局」に相当し、刊行物1記載発明の「UE」は、本願発明の「端末」に相当する。

刊行物1記載発明の「エンハンスト・アップリンク・デディケイテッド・トランスポート・チャネル」(EUDTCH)は、本願発明の「エンハンス個別データチャネル」に相当する。
刊行物1記載発明の「DPDCH_(1)」、「DPDCH_(3)」、「Sch Inf CCH」、「TFRI CCH」、「DPCCH」及び「HS-DPCCH」は、第3世代移動通信システムにおける上りチャネルであることは明らかである。
刊行物1記載発明の「β_(d)」、「β_(eudch)」、「β_(c)」及び「Power setting for HS-DPCCH」が第3世代移動通信システムでの「ゲインファクタ」であることは、例えば刊行物3の図3-27及び第120頁第4行から第6行の「図中のβは,gain factorであり,各DPDCHとDPCCHの送信電力比に対応する重み係数である.β=1.0は,設定されたDPCCHおよび単数もしくは複数のDPDCHの内,瞬間的にみて最大となる送信電力に対応する.」との記載並びに刊行物4のFigure 1及び第8頁の“After channelization, the real-valued spread signals are weighted by gain factors, β_(c) for DPCCH and β_(d) for all DPDCHs. At every instant in time, at least one of the values β_(c) and β_(d) has the amplitude 1.0. The β-values are quantiszed into 4 bit words.”との記載から明らかである。つまり、刊行物1記載発明においては、ゲインファクタによって複数のチャネルの送信電力を調整できることが明らかである。
してみると、刊行物1記載発明と本願発明とは、「上りデータを送信するために利用されるエンハンス個別データチャネルを含む複数のチャネルを使い端末から基地局に向けて行う無線送信の電力を調整する電力調整方法」である点で一致する。

刊行物1記載発明は「UEからNode-BにEUDTCHが伝送された後、Node-BからUEにACK又はNACKが伝送され、所与のH-ARQチャネルに対するデータのEUDTCHサブフレームが復調され復号され、結果として生じるEUDTCH軟判定情報が、サービングNodeBのHARQバッファにて、前後の伝送と共に結合され蓄積され、そのサブフレームの復号に成功するとACKが下りリンクACK/NACK制御チャネルでUEに送られ、さもなければNACKが下りリンクACK/NACK制御チャネルでUEに送られ」るものであるから、刊行物1記載発明と本願発明とは、「前記端末からのデータに関するACKまたはNACKをACK/NACK通知用のチャネルを利用して、前記基地局から前記端末に通知する通知ステップ」を含む点で一致する。

すると、本願発明と刊行物1記載発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
上りデータを送信するために利用されるエンハンス個別データチャネルを含む複数のチャネルを使い端末から基地局に向けて行う無線送信の電力を調整する電力調整方法であって、
前記端末からのデータに関するACKまたはNACKをACK/NACK通知用のチャネルを利用して、前記基地局から前記端末に通知する通知ステップを含むことを特徴とする電力調整方法。

〈相違点1〉
本願発明が「通知ステップにおいてNACKが通知された場合に、前記端末から前記基地局にデータの再送を行う再送ステップ」を含み、「エンハンス個別データチャネル」によって伝送された「上りデータ」が「応答信号としてNACKが返信されてきた場合に再送される」のに対し、刊行物1記載発明はNACKが通知された場合にデータの再送を行うか否かが明確でない点。

〈相違点2〉
本願発明が「前記複数のチャネルにおける送信電力を合計した合計電力が、前記端末の送信可能な最大電力を超えるかどうかを判定する判定ステップ」及び「前記判定ステップにおいて、前記合計電力が前記最大電力を超えると判定された場合に、前記合計電力が前記最大電力を超えないように、前記複数のチャネルのうち前記エンハンス個別データチャネルについて、電力を調整するためのゲインファクタの値を下げると共に、前記エンハンス個別データチャネル以外のチャンネルについて、電力を調整するためのゲインファクタの値を維持する電力調整ステップ」を備えているのに対し、刊行物1記載発明は、前記「判定ステップ」及び「電力調整ステップ」を有していない点。

5.判断

5-1.相違点1について
刊行物1記載発明のEUDTCHは、H-ARQ(ハイブリッドARQ)を適用することが想定されているので、EUDTCHに対して基地局から端末にNACKが返送された場合には、端末から基地局に対してデータの再送が行われることは、技術常識から明らかである。
してみると、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

5-2.相違点2について
刊行物2には、送信電力の制御方法について開示しており、CDMA方式を用いた無線基地局では電力増幅装置に入力される電力の圧縮が行われることを指摘した上で(上記摘記事項(カ)を参照)、「共通制御チャネルの電力が圧縮された状態ではセル端にいる移動局A及び移動局Cは、サービスエリア外となってしまう恐れがある。この場合、移動局Aおよび移動局Cのようにサービスエリア端に存在する移動局では、所定のサービスを満足に受けることができないという問題が生じていた」という問題点を明らかにし(上記摘記事項(キ)を参照)、「呼制御などに用いられる重要なチャネルの送信電力を劣化させることなく、当該無線基地局の破損を防ぐことが可能になる送信電力制御方法を提供する」ことを目的として(上記摘記事項(キ)を参照)、全チャネルの総電力Pと閾値とを比較して、総電力Pが閾値を越えた場合には、圧縮すべき無線チャネルの圧縮を行うこと(上記摘記事項(ク)を参照)、及び、特定のクラスに分類されるチャネルは全く圧縮制御を受けさせずに当該無線チャネルの電力が一定に保たれるよう送信電力の圧縮制御が行われること(上記摘記事項(ケ)を参照)が記載されている。
そして、刊行物2には、「本発明の適用は無線基地局200ばかりでなく、無線基地局200と対向して通信を行う移動局A300?移動局C300にも適用することが可能である。」(上記摘記事項(コ)を参照)と記載されている。
一方、刊行物1記載発明は第3世代移動通信システムでありCDMA方式を用いていることが明らかであるとともに、ゲインファクタによって各チャネルの送信電力を制御することができるものである。
してみると、刊行物1記載発明に対して刊行物2に記載された技術を適用することは当業者が容易に想到し得ることであり、その際に、制御チャネル(「Sch Inf CCH」、「TFRI CCH」、「DPCCH」及び「HS-DPCCH」)は呼制御などに用いられる重要なチャネルであるから圧縮を行わないチャネルとすべきであることは明らかである。
すると、圧縮すべきチャネルは「DPDCH」又は「EUDTCH」となるが、EUDTCHが「より速いピーク速度をサポートできるようにした」ものであること(上記摘記事項(ア)を参照)に鑑みれば、EUDTCHがDPDCHよりも伝送速度の速いチャネルであることは明らかであり、かつ、「最大許容「電力マージン」目標」が「最大データ伝送速度を規定することと同等である」こと(上記摘記事項(イ)を参照)に鑑みれば、EUDTCHの電力量はDPDCHの電力量よりも大きいことが理解できる。
してみると、電力圧縮を行うのであれば、DPDCHよりもEUDTCHの方が効果が高いことは自明であるから、EUDTCHのみを電力圧縮し、その他のチャネルは電力圧縮をしない構成とすることは、設計的事項に過ぎない。
この点について、審判請求人は平成22年6月7日付け意見書にて「圧縮率が高い場合、もともと大きい電力を必要とするところに高い圧縮率で電力を下げるので、受信側で充分な電力で受信できず、元のデータを復元できないことから、通信エリアが狭くなったり、データの再送が多発しトラフィックが増大したりする等の問題が発生してしまいます。このため、けっして効果が高いことが自明とは言えなくなります。
しかも、本願発明においては、合計電力が最大電力を超えないように電力を調整するため、EUDTCHでもそれ以外でも電力の圧縮率に差は生まれません。つまり、EUDTCHだからといって効果が高いことが自明とは言えません。
以上のように、EUDTCHだからといって効果が高いことが自明とは言えないのであるから、設計的事項に過ぎないとの認定には、とうてい承伏できません。」と反論している。
しかしながら、
(a)どのチャネルもそれぞれに重要である中で敢えてどのチャネルを犠牲にするかという問題は、多分に設計の問題であって、リスクの評価方法によって結論が変わるものであること、
(b)明細書第0147段落に「第2のチャネル間の電力の調整方法においてどのチャネルの電力を下げるかは任意であるが、」との記載があること、
(c)合計電力が最大電力を遙かに超えるような場合では、送信電力を最大電力に収めるために最も大きい電力を必要とするチャネルを圧縮せざるを得ない場合があること、
等を考慮すると、どのチャネルを圧縮してもリスクがある中でEUDTCHを圧縮すると決めることは、設計の範疇を越えていないと認められる。
よって、刊行物1記載発明に刊行物2に記載された技術を適用して、「前記複数のチャネルにおける送信電力を合計した合計電力が、前記端末の送信可能な最大電力を超えるかどうかを判定する判定ステップ」及び「前記判定ステップにおいて、前記合計電力が前記最大電力を超えると判定された場合に、前記合計電力が前記最大電力を超えないように、前記複数のチャネルのうち前記エンハンス個別データチャネルについて、電力を調整するためのゲインファクタの値を下げると共に、前記エンハンス個別データチャネル以外のチャンネルについて、電力を調整するためのゲインファクタの値を維持する電力調整ステップ」を設けるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-30 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-14 
出願番号 特願2003-122359(P2003-122359)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉本 敦史  
特許庁審判長 江嶋 清仁
特許庁審判官 丸山 高政
清水 稔
発明の名称 電力調整方法  
代理人 濱田 初音  
代理人 田澤 英昭  

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