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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1225958
審判番号 不服2007-15325  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-31 
確定日 2010-10-28 
事件の表示 特願2001-379855「利得等化器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月27日出願公開、特開2003-179558〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年12月13日の出願であって、平成19年4月20日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年5月31日に拒絶査定不服審判が請求され、当審により平成22年5月19日付けで拒絶理由を通知し、同年7月21日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明について
本願請求項1?6に係る発明は、平成22年7月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
使用環境温度内において、温度特性に基づく大きな利得変動を生じる特定の伝送帯域である約1530nm?約1535nmの帯域を光増幅器の伝送帯域である約1530nm?約1610nmの帯域内に有し、前記光増幅器の伝送帯域における利得特性を等化する下記の構成要素を備えたことを特徴とする利得等化器。
(a)前記光増幅器の前記伝送帯域内における、前記特定の伝送帯域が含まれる所定の波長帯域である約1530nm?約1540nmの帯域の利得波長依存性を補償する光透過特性を有するフィルタ手段と、
(b)前記使用環境温度内において、前記伝送帯域外に光透過損失ピーク波長特性を有することにより、前記フィルタ手段の光透過特性の温度変化に応じた波長シフトの量と前記光増幅器の前記所定の波長帯域における特定の波長帯域での温度変化に応じた利得変動とをそれぞれ補償する光透過特性を有する互いに縦列接続された3つまたは4つの長周期グレーティング部品であって、
前記互いに縦列接続された3つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失は、1つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失の3倍超、前記互いに縦列接続された4つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失は、1つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失の4倍超である長周期グレーティング部品。」

3.引用文献
(1)引用文献1
当審において、平成22年5月19日付けで通知した拒絶理由に引用した特開2001-124941号公報(以下、「引用文献1」と言う。)には、図面と共に、次のような記載がある。

(a)段落番号【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、例えばEDFA(エルビウム添加光ファイバ型光増幅器)等の光増幅器の利得温度特性(利得温度依存性)を補償するために用いられる、長周期グレーティング(LPG;Long Period Grating)を有するグレーティング型光部品に関するものである。」

(b)段落番号【0005】-【0006】
「EDFAを波長多重伝送用として用いるためには、伝送帯域において利得波長依存性が少ないこと、すなわち、伝送帯域における利得が均一性を有することが要求されるが、例えば図11の特性線a?cに示すように、EDFAの利得は波長依存性を有しており、特に波長1530nm?1540nm付近の利得は均一でない。すなわち、EDFAの利得は、波長1533nm付近に利得の最大値を有し、波長約1533nmから波長1530nmに近づくにつれて利得が小さくなり、また、波長約1533nmから波長約1540nmに近づくにつれて利得が小さくなる。
なお、同図の特性線aには65℃におけるEDFAの利得波長依存性が、特性線bには0℃におけるEDFAの利得波長依存性が、特性線cには25℃におけるEDFAの利得波長依存性がそれぞれ示されている。」

(c)図11の特性線a?cを参照すると、図11には、EDFAの利得が波長約1530nm?約1535nmにおいて、温度が0℃から65℃に変化すると温度特性に基づいて大きく増大する利得変動を生じることが記載されている。

(d)段落番号【0008】
「上記EDFAデバイスに適用されるエタロンフィルタは、例えば25℃における波長1530nm?1540nm付近の光透過特性がEDFAの利得の波長依存性と逆の特性となるように形成されるものである。すなわち、図12に示すように、上記EDFAデバイスに適用されるエタロンフィルタの光透過特性は、波長1533nm付近に光透過率の最小値(光透過損失の最大値)を有し、波長約1533nmから波長1530nmに近づくにつれて光透過率が大きく(光透過損失が小さく)なり、また、波長約1533nmから波長約1540nmに近づくにつれて光透過率が大きく(光透過損失が小さく)なるように形成される。」

(e)段落番号【0010】-【0017】
「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記EDFAの利得は温度依存性を有しており、図11の特性線a?cに示したように、温度によって利得特性が異なる。すなわち、例えば同図の特性線cに示した25℃における利得特性と同図の特性線aに示した65℃における利得特性を比較してみると明らかなように、温度が高くなると波長1530nm?1540nm付近の利得が大きくなる。
一方、上記エタロンフィルタは、光透過特性が、例えば0.005nm/℃程度の温度依存シフト特性を有しており、使用環境温度が高くなると光透過特性が長波長側にシフトし、使用環境温度が低くなると光透過特性が短波長側にシフトする。
したがって、図12に示した特性を有するエタロンフィルタの25℃における光透過特性を基準(0)として、波長多重伝送システムの使用環境温度上限値と言われている65℃における光透過特性を求めると、図10の特性線aに示すようになり、同様に、エタロンフィルタの25℃における光透過特性を基準として、波長多重伝送システムの使用環境温度下限値と言われている0℃における光透過特性を求めると、図10の特性線bに示すようになる。
ここで、図10に示されているエタロンフィルタの波長1530nm付近の光透過特性と、図11に示されているEDFAの波長1530nm付近の利得とを比較してみれば明らかなように、25℃を基準としたときに、65℃においては、波長1530nm付近におけるEDFAの利得とエタロンフィルタの光透過特性がいずれもプラスとなり、0℃においては、波長1530nm付近のEDFAの利得とエタロンフィルタの光透過特性がいずれもマイナスになっている。
したがって、上記EDFAとエタロンフィルタとを組み合わせたEDFAデバイスの25℃における利得波長依存性を基準として、このEDFAデバイスの65℃における利得波長依存性と0℃における利得波長依存性とをそれぞれ求めると、図9の特性線a(65℃)、特性線b(0℃)に示すようになり、同図の特性線aに示すように、25℃における利得を基準としたときの65℃における利得は、波長1535nm以下になると徐々に大きくなって、波長1530nmにおいて0.6dBにもなってしまう。
波長多重伝送システムにEDFAデバイスを適用するためには、25℃における利得を基準とした利得が、0℃?65℃の温度範囲内で約±0.2dB以下であることが求められているために、上記EDFAデバイスは、この要求に応じることができなかった。
なお、図9には、波長1530nm?1560nmまでの特性しか示されていないが、波長1560nm?1610nmの範囲においても、25℃における利得を基準とした利得は、0℃?65℃の温度範囲内で、約±0.2dB以下となり、図9に示したEDFAデバイスは、上記伝送帯域の長波長側においては、上記利得偏差の補償要求が満足されていた。
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、例えば波長1530nm?1540nmといった設定した利得補償帯域において光増幅器の利得温度特性を使用温度範囲内で補償することができるグレーティング型光部品を提供することにある。」

(f)段落番号【0032】
「したがって、例えば従来例で示したような、EDFA等の光増幅器とエタロンフィルタとを組み合わせたデバイスに本発明のグレーティング型光部品を組み合わせると、光増幅器の利得の温度特性を例えば伝送帯域において補償することが可能となり、使用環境温度全域において品質の高い波長多重伝送を実現することが可能となる。」

(g)段落番号【0034】
「本実施形態例のグレーティング型光部品は、例えば波長約1530nm?約1610nmの伝送帯域の波長多重伝送システムに適用されるものであり、図9に示した利得波長依存特性を有する従来のEDFAデバイス(EDFAとエタロンフィルタを組み合わせたデバイス)に本実施形態例のグレーティング型光部品を組み合わせることにより、前記伝送帯域における光増幅利得の等化を使用環境温度範囲内で実現するものである。」

(h)段落番号【0042】-【0044】
「本実施形態例のグレーティング型光部品の特徴的なことは、上記長周期グレーティングの形成によって以下の特性を有することである。
すなわち、前記の如く、光透過損失ピーク波長(Pa等)を、伝送帯域である波長1530nm?1610nmよりも短波長側とし、この光透過損失ピーク波長を含む光透過損失波形の正方向の温度依存シフト特性により前記補償帯域における光透過損失値が温度に依存して増加し、それにより、前記光増幅器の利得温度特性を±0.2dB以下に補償するようにしたことと、図1の(b)に示すように、前記伝送帯域のうち光増幅器の利得温度特性を補償する補償帯域(約1530nm?約1540nm)よりも長波長側の帯域において、使用温度範囲内における光透過損失の最大値と最小値との差を0.5dB以下としたことである。
本実施形態例では、上記の特性を有していることから、本実施形態例のグレーティング型光部品を図9に示した利得特性を有する従来のEDFAデバイス(EDFAとエタロンフィルタを組み合わせたデバイス)と組み合わせたときに、図8に示すように、(EDFAデバイス+グレーティング型光部品)の利得温度依存性を伝送帯域全域において±0.2dB以下にしている。」

(i)段落番号【0087】
「さらに、本発明のグレーティング型光部品によって利得温度特性を補償する光増幅器の特性によっては、光透過損失ピーク波長の温度依存シフト特性を負の値とし、光透過損失特性の波形のピーク波長が温度に依存して短波長側にシフトし、前記光透過損失特性の波形も温度に依存して前記ピーク波長と同じ側にシフトするグレーティング型光部品を形成してもよい。この場合、前記光透過損失特性の波形が温度に依存して短波長側にシフトすることにより光増幅器の利得温度特性を補償する帯域における光透過損失値が温度に依存して減少して、この光透過損失値の増減によって前記光増幅器の利得温度特性を補償する構成とすればよい。」

したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「温度が0℃から65℃に変化すると温度特性に基づいて波長約1530nm?約1535nmにおいて大きく増大する利得変動を生じるEDFAと、
波長1530nm?1540nm付近の光透過特性がEDFAの利得の波長依存性と逆の特性となるように形成され、光透過特性が0.005nm/℃程度の温度依存シフト特性を有しており、使用環境温度が高くなると光透過特性が長波長側にシフトし、使用環境温度が低くなると光透過特性が短波長側にシフトするエタロンフィルタと、を有するEDFAデバイスと、
光透過損失ピーク波長を、伝送帯域である波長1530nm?1610nmよりも短波長側とし、この光透過損失ピーク波長を含む光透過損失波形の正方向の温度依存シフト特性により波長約1530nm?約1540nmの補償帯域における光透過損失値が温度に依存して増加するグレーティング型光部品とを備え、
25℃における利得を基準としたときの65℃における利得は、波長1535nm以下になると徐々に大くなって、波長1530nmにおいて0.6dBにもなってしまうEDFAデバイスの利得温度依存性を、伝送帯域全域において±0.2dB以下に補償した前記EDFAデバイス及び前記グレーティング型光部品の組み合わせ。」

4.対比
本願発明と引用発明の一致点・相違点

引用発明の「EDFA」は、0℃から65℃に使用環境温度が上昇すると、波長約1530nm?約1535nmにおいて、大きく増大する利得変動を生じている。また、伝送帯域として波長約1530nm?約1610nmに適用することから、引用発明のEDFAは、本願発明の「使用環境温度内において、温度特性に基づく利得変動を生じる特定の伝送帯域である約1530nm?約1535nmの帯域を光増幅器の伝送帯域である約1530nm?約1610nmの帯域内に有する」に相当する。

引用発明の「エタロンフィルタ」は、波長1530nm?1540nm付近の光透過特性がEDFAの利得の波長依存性と逆の特性となるように形成されているから、本願発明の「光増幅器の伝送帯域内における、特定の伝送帯域が含まれる所定の波長帯域である約1530nm?約1540nmの帯域の利得波長依存性を補償する光透過特性を有するフィルタ手段」に相当する。

引用発明の「グレーティング型光部品」は、光透過損失ピーク波長を、伝送帯域である波長1530nm?1610nmよりも短波長側とし、この光透過損失ピーク波長を含む光透過損失波形の正方向の温度依存シフト特性により補償帯域における光透過損失値が温度に依存して増加し、それにより、温度低下により光透過特性がマイナスになるエタロンフィルタ及び温度低下により利得が低下する光増幅器の利得温度特性を±0.2dB以下に補償していることから、本願発明の「伝送帯域外に光透過損失ピーク波長特性を有することにより、フィルタ手段の光透過特性の温度変化に応じた波長シフトの量と光増幅器の所定の波長帯域における特定の波長帯域での温度変化に応じた利得変動とをそれぞれ補償する光透過特性を有する長周期グレーティング部品」に相当する。

引用発明のEDFAとエタロンフィルタを有するEDFAデバイス及びグレーティング型光部品の組み合わせが、本願発明の光増幅器と、フィルタ手段と、長周期グレーティング部品からなる構成要素を備える「利得等化器」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明の一致点・相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「使用環境温度内において、温度特性に基づく大きな利得変動を生じる特定の伝送帯域である約1530nm?約1535nmの帯域を光増幅器の伝送帯域である約1530nm?約1610nmの帯域内に有し、前記光増幅器の伝送帯域における利得特性を等化する下記の構成要素を備えたことを特徴とする利得等化器。
(a)前記光増幅器の前記伝送帯域内における、前記特定の伝送帯域が含まれる所定の波長帯域である約1530nm?約1540nmの帯域の利得波長依存性を補償する光透過特性を有するフィルタ手段と、
(b)前記使用環境温度内において、前記伝送帯域外に光透過損失ピーク波長特性を有することにより、前記フィルタ手段の光透過特性の温度変化に応じた波長シフトの量と前記光増幅器の前記所定の波長帯域における特定の波長帯域での温度変化に応じた利得変動とをそれぞれ補償する光透過特性を有する長周期グレーティング部品。」

[相違点]
本願発明では、長周期グレーティング部品が互いに縦列接続された3つまたは4つから構成され、互いに縦列接続された3つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失は、1つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失の3倍超、互いに縦列接続された4つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失は、1つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失の4倍超であるのに対して、引用発明にはそのような記載がない点。

5.判断
上記相違点について検討する。
EDFAの利得特性として、温度が増加した場合や、励起エネルギーが増大した場合に1533nm付近で利得が増大することは周知事項(例えば、特開2000-164955号公報第4図に記載されたEDFA利得特性参照)である。
そして、光増幅器の利得特性を等化する長周期グレーティングを縦列接続した際に、透過減衰量を対数(dB)で表せば、縦列接続するそれぞれの透過減衰量の和になることは周知技術(例えば、特開平11-326668号公報の段落0037及び第4図、特開2000-341213号公報の段落0024及び第4図、及び、特開2001-091759号公報の段落0034及び第4図等参照)である。また、上記特開2000-341213号公報の段落0035乃至0039及び段落0053には、長周期グレーティングを3つまたは4つ以上縦列接続することも記載されている。そして、長周期グレーティングを縦続接続した際に、接続損失が生じて3つ接続した場合は3倍超、4つ接続した場合は4倍超の光透過損失になることは自明(例えば、特開平06-003551号公報の段落0010の記載参照)である。
したがって、引用発明においても、EDFAの利得が大きい場合に、必要な透過減衰量を得るために、長周期グレーティングを3つまたは4つ縦列接続し、互いに縦列接続された3つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失は、1つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失の3倍超、互いに縦列接続された4つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失は、1つの長周期グレーティング部品の25℃?65℃間における1530nmのdB単位の光透過損失の4倍超になる構成とすることは上記周知技術から当業者が容易に想到できたことである。
そして、利得特性が増大してもEDFAの利得を等化する効果も引用文献1及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2010-08-24 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-14 
出願番号 特願2001-379855(P2001-379855)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 尊士前田 典之  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 鈴木 重幸
近藤 聡
発明の名称 利得等化器  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  
代理人 星 公弘  
代理人 杉本 博司  
代理人 宮城 康史  
代理人 江村 美彦  
代理人 住吉 秀一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 大久保 恵  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 川和 高穂  
代理人 山崎 利臣  

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